説明

化粧料

【構成】 平均重合度が200〜1000のポリエチレングリコール、活性化ゼオライト及びポリエチレングリコールに難溶性の親水性高分子化合物を含有し、水と混合したときに発熱する実質的に非水系の化粧料。
【効果】 発熱性及びその持続性に優れるため、皮膚や毛を効果的に温めることができ、また温感による塗布時の感じが良く、血行の促進による肌の活性化、毛穴の拡張や熱による表皮汚れの除去性に優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水分と接触、混合したときに発熱し、肌を効果的に温める作用を有する化粧料に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】化粧料に発熱性を持たせると、温熱効果と総称される種々の効用、例えば温感に基づく塗布時の快感、血行の促進による肌の活性化(疲労回復、新陳代謝の活発化、美観の向上等)、毛穴の拡張や熱による表皮汚れの除去性向上といった効果、さらに化粧料が薬剤を含有する場合には、発熱が薬剤の皮膚浸透性を促進させる効果などを得ることが期待できる。このような効用をもたらすような発熱性を付与する手段として、従来より酸化還元反応、中和反応、水和反応等の化学反応の応用が検討されているが、これらのうち、水和反応は、劇薬を使用しないために安全性が高く、化粧品分野への適用が最も好ましい発熱手段である。
【0003】特開昭51−104043号公報には、水性粘性体からなる第1剤と、酸化カルシウムを油剤中に分散させた第2剤を用時に混合することによって発生する熱を利用して、除毛成分を迅速に毛根部分に作用させる方法が開示されている。この方法においては、酸化カルシウムが水と反応して水酸化カルシウムに変化する際の発熱が利用されている。また特開昭57−114506号公報、特開昭62−30704号公報、特開昭63−54308号公報には、焼き石膏を主成分とした無水の無機塩類が結晶水を吸蔵する際の発熱を利用したパック化粧料が提案されている。このような無機塩類の水和反応は、単位重量当たりの発熱量が比較的大きいという特徴を有するものの、無機塩類が用時以前に水分と接触するのを防ぎ、また化粧料の形状を保持する目的で使用されている非水性媒質の親水性・熱伝導性が不充分であるため、温熱効果は必ずしも満足できるものではなかった。また、非水性媒体が低親水性であるので無機塩類の水和反応が抑制され、期待される熱量のごく一部しか生じない。さらに、水和反応が化粧料中に分散された無機塩類粒子の近傍で生じるため、局所的に多量の熱が発生するが、周囲の媒質の熱伝導性が小さいために無機塩類粒子近傍のみが高温となる。無機塩類が水和する際その一部は水相に溶解するが、媒質の親水性が小さいので発生するイオンの拡散が遅く、無機塩類粒子の近傍の肌が局所的に高温と高濃度のイオンに晒される。このため、温熱効果が、総合的にみて不充分なばかりでなく、皮膚に対して好ましくない刺激を与える結果となっていた。
【0004】一方、一部のアルコール類(エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等)が水和熱を発生することが知られており、それらの水和反応を利用した温感化粧料が知られている(特開昭54−49334号公報、特開昭57−75909号公報)。しかしながら、ポリオールの水和熱は無機塩類の水和反応やその他の化学反応で発生する熱量に比べて一般に非常に小さく、発熱の持続性も不満足であるため、充分な温熱効果をもたらすことはできなかった。
【0005】活性化ゼオライトの水和熱を利用した化粧料は公知である(特開平4−89424号、ヨーロッパ特許第187912号、米国特許第3250680号)。これらの化粧料には、活性化ゼオライトを分散する目的でポリオール類やポリエチレングリコールが使用されているほか、配合安定化の見地から、活性化ゼオライトに対して予めイオン交換処理を行うことも提案されている。しかしながら、これら活性化ゼオライトをポリオール類またはポリエチレングリコールに分散してなる公知の化粧料は、水を混合した瞬間に発熱が終了するので、発熱を5分以上持続させるためには活性化ゼオライトを高濃度で分散させる必要があり、経済性、製造操作の点で不便であった。しかも、活性化ゼオライトを高濃度で配合した化粧料は、水混合と同時に一時的に高温になるため、火傷を起こす等、安全性の面でも問題があった。
【0006】従って、肌を温める効果に優れた化粧料が望まれていた。
【0007】
【課題を解決するための手段】かかる実情において、本発明者らは鋭意研究を行った結果、平均重合度が200〜1000のポリエチレングリコールに活性化ゼオライトを分散させ、さらに、ポリエチレングリコールに難溶性の親水性高分子化合物を配合すれば、水混合時から緩やかな発熱が起こり、しかも発熱が5〜10分間持続する化粧料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】すなわち、本発明は、平均重合度が200〜1000のポリエチレングリコール、活性化ゼオライト及びポリエチレングリコールに難溶性の親水性高分子化合物を含有し、水と混合したときに発熱する実質的に非水系の化粧料を提供するものである。
【0009】本発明に用いられるポリエチレングリコールは、平均重合度が200〜1000であることが必要である。この範囲内であれば、単位重量当たりの水和熱発生量が極めて大きく、しかもゼオライトとの相互作用が弱いので発熱量の低下が少ない。これらのポリエチレングリコールは、全組成中に20〜99.9重量%(以下、単に%で示す)、特に、40〜90%配合するのが好ましい。
【0010】また、活性化ゼオライトとしては、特に制限されないが、入手容易性や経済性などの面から、次式:Na2O・Al23・2SiO2・zH2O(zは任意の数を示す)で表わされるゼオライトA−3、ゼオライトA−4、ゼオライトA−5等が好ましく、さらにイオン交換、中性化処理等の特殊処理を施したゼオライトを使用することもできる。これらの活性化ゼオライトの粒径は、水和速度、使用感などの点から0.1〜200μmであることが好ましい。
【0011】このようなゼオライトは、通常の方法により製造、精製、粉砕、焼成、分級して得ることができる。また、所望の活性のゼオライトを得るには、例えばヨーロッパ特許第187912号記載の如く、約300〜600℃で焼成・脱水を行った後、乾燥空気中で保存すればよい。本発明においては、これらの活性化ゼオライトは全組成中に0.1〜50%、特に0.5〜50%配合するのが好ましい。
【0012】本発明に用いられるポリエチレングリコールに難溶性の親水性高分子化合物としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸塩等の合成高分子化合物、カラギーナン、キサンタンガム、ゼラチン、デキストリン等の天然高分子化合物、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等の半合成高分子化合物等が挙げられる。これらの高分子化合物は、単独または2種以上を組合わせて用いることができるほか、共重合体の形のものを使用することもできる。
【0013】これらの高分子化合物は全組成中に0.001〜20%、特に0.01〜10%になるよう、粉末または微粒子状ビーズの形態で配合することが好ましい。これらの高分子化合物を用いることにより、易溶性の高分子化合物とは異なり、増粘に基づく製造上の困難や好ましくない感触、さらには化粧料の変質を防ぐことができる。
【0014】これら高分子化合物が配合されることにより、持続した温和な発熱が実現される理由は必ずしも明らかでないが、水混合時に高分子化合物の吸水力と活性化ゼオライトの水和が競合する結果、活性化ゼオライトの水和速度が抑制されるものと考えられる。また、当該高分子化合物は、製造中の化粧料において遊離状態にある水分を吸収するため、化粧料を非水系に保つことができるほか、活性化ゼオライトを高濃度で配合した場合でも、ゼオライト粒子の水分による凝集を防ぐことができ、製造が容易になるばかりでなく、化粧料を肌に塗布した際にザラツキを感じることもない。さらに、当該高分子化合物には、本発明の化粧料における後述の皮膜剤としての機能を代用させることもできる。
【0015】本発明の化粧料には、上記必須成分の他、下記の如き界面活性剤、ゼオライト以外の無機塩類、保型剤、潤滑剤、皮膜剤、その他の成分を本発明の効果を妨げない限り、配合することができる。
【0016】これらのうち、界面活性剤は、本発明の化粧料を洗顔料、シェービング剤等として用いる場合に、発泡性及び洗浄力を付与する目的で配合される。界面活性剤は公知のアニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性界面活性剤から任意に選択することができ、その組合わせ及び配合量・比率は本発明で使用されるポリエチレングリコールとの相溶性・配合安定性の他、粘度や流動性等のレオロジー的性質、及び洗浄力、濯ぎ落ち性、感触面その他の性質から総合的に判断して設定できる。本発明の化粧料において、これらの界面活性剤を使用する場合、当該界面活性剤全体が占める割合は、1〜20%であることが望ましい。1%未満では、洗顔料として用いた場合に洗浄力が充分でなく、シェービング剤として用いた場合には剃刀が皮脂や剃りかすで汚染されるのを充分に防止できない。また20%を超えると、水混合の際に過剰に発泡が起こり、シェービング剤としたときにシェービングフォームや石鹸の泡で剃る場合と同様な不都合が生じる。ただし、泡のボリューム感やソフトタッチを感覚的に楽しみながら剃毛を行うことを希望する場合には、好みに応じて水(湯)と本発明の化粧料の混合割合を任意に調節すること、及び掌や塗布面における混練の程度を調節することによって、本発明の化粧料を希望通りに泡立たせることもできる。
【0017】無機塩類は、ポリエチレングリコール及び活性化ゼオライトによって実現される持続した水和熱の放出を、さらに完全なものにする目的で配合される。すなわち、水分や空気との接触によって発熱する、または光エネルギーを熱に変換する。もしくは外気への熱の放散を抑制する(蓄熱性の)もので、皮膚刺激が少ないものが望ましい。具体的には無水または低含水率の塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、りん酸三ナトリウム、ヘキサメタりん酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が好適な例として挙げられる。
【0018】上記に例示した塩類は、水和と殆ど同時に水に溶解するか、一旦吸水したのち徐々に水に溶解する性質を有し、その際多量の熱を発生する。当該無機塩類は本発明の化粧料中0.5〜50%の重量比で分散させながら配合することが望ましい。また、分散性や水溶性・感触面を考慮すると、無機塩類の平均粒径を0.1〜200μmの範囲に設定することが好ましい。
【0019】保型剤は、熱の放散の抑制及び無機塩類の分散安定化の目的で配合される。当該保型剤の例としては、ポリアクリル酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリペプチド、ポリオキシアルキレン等の天然・合成・半合成高分子化合物、セルロースビーズ、キトサンビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリスチレンビーズ、ナイロンビーズ、シリコーンビーズ、テフロンビーズ、チタニア粉、アルミナ粉、シリカ粉、石膏粉、タルク粉、カオリン、鉱物粉、木粉、ケラチン粉、繊維粉、セラミクス粉、ケイソウ土等の動物性・植物性・有機・無機系粉体、及び硫黄粉、鉄粉、炭素粉等の単体粉末を挙げることができる。当該保型剤は必要により、0.1〜10%配合することが好ましい。
【0020】潤滑剤は、シェービング剤として用いた場合、剃刀の操作性を向上させるものである。潤滑剤としては種々の公知の高潤滑性油剤を用いることができるが、保型性を具備するという観点からポリオキシアルキレンが特に好ましい。最適な例は、平均重合度が2,000〜2,000,000のポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン及び両者の共重合体であり、これは0.1〜10%の配合範囲で水混合率が低いときには主として保型性を、水混合率が高いときには主として潤滑性を発揮し、剃刀の操作性の向上に寄与する。
【0021】また、皮膜剤は、本発明化粧料をパック剤としたときに用いられるものであり、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、酢酸ビニル樹脂エマルジョン等が挙げられる。なお粉末状のパック剤とする場合には皮膜剤はなくてもよく、カオリン、タルク、酸化亜鉛等を練ったものが使用される。
【0022】その他の成分としては、高級アルコール、ピロリドンカルボン酸塩、尿素、アミノ酸、公知の湿潤剤、防腐剤、殺菌剤、消炎剤、収斂剤、止血剤、鎮痛剤、ビタミン及びその誘導体、キレート剤、粘度調整剤、起泡剤、清涼剤、冷感剤、金属防錆剤、動植物エキス、色素、抗酸化剤、香料等が挙げられ、使用目的等に応じて配合される。
【0023】本発明の化粧料は、常法により上記成分を混合することにより製造することができ、実質的に非水系のものである。使用に当たっては、ほぼ同重量の水と手早く混合したときに短時間で手軽に最大の温熱効果を発揮させることができ、水和熱の発生量は、混合する水分量を調節することで簡単に制御できる。さらに温和な発熱を、長時間にわたり持続させるには、例えば空気中の湿気や肌表面の水分・発散される水蒸気を自発的に吸収させる等、徐々に成分を供給するようにすればよい。
【0024】本発明の化粧料の形態は特に限定されずローション状、乳液状、クリーム状、ジェル状、ペースト状、パック状、プラスター状、軟膏状、固態状のいずれにも製剤可能である。また、公知のエアゾール用噴射剤との混和性にも優れるので、エアゾール容器からの吐出についても何ら制限を受けない。さらに、本発明の化粧料は、ほぼ同重量の水と混和された際に短時間で大きな温熱効果を発揮するので、エアゾール容器から本発明の化粧料及び水性液を別々に、同時に吐出させることによりその場で手軽に混合(水和)でき、発熱が生じている状態のまま塗布できて便利である。また、本発明の化粧料は肌に単に塗布・接触させる用途ばかりでなく、熱による洗浄力向上の効果を利用して皮膚や毛髪の洗浄料としても使用できる。
【0025】
【発明の効果】本発明の化粧料は、発熱性及びその持続性に優れるため、皮膚や毛を効果的に温めることができ、また温感による塗布時の感じが良く、血行の促進による肌の活性化、毛穴の拡張や熱による表皮汚れの除去性に優れたものである。従って、本発明の化粧料は、例えばシェービング剤として用いた場合、剃毛しようとする部分の毛及び肌に効果的に熱を供給し、剃刀の切れ味を助け、剃刀運びを円滑にし、しかも仕上り感に優れるものである。また、洗顔料、パック剤等として用いたときは、持続的な熱により毛穴を開き、汚れを落し易くすることができる。
【0026】
【実施例】次に、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】実施例1表1に示す成分を混合して温感パックを製造した。これを腕の皮膚に一定量接触させ、30℃、相対湿度75%の条件で皮膚表面の温度を経時的に測定した。結果を表2に示す。
【0028】
【表1】


【0029】
【表2】


【0030】表2の結果から明らかなように、本発明の温感パックを塗布した肌の表面では46〜50℃の温度が塗布開始0.5分後から10分後にわたって持続し、比較品に比べて温和な発熱を長時間持続できた。
【0031】実施例2表3に示す成分を混合して、温感クリームを製造した。室温下、これに同重量の水を手早く混合し、混合物の温度を経時的に測定した。結果を表4に示す。
【0032】
【表3】


【0033】
【表4】


【0034】表4の結果から明らかなように、本発明の温感クリームは、水を混合した後10秒以内に50℃以上の温度に達し、極めて大きな発熱量を有することが確認された。
【0035】実施例3表5に示す組成のエアゾール式温感シェービング剤を製造し、その性能について、男性10名にひげを剃ってもらい、評価した。結果を表6に示す。
【0036】
【表5】


【0037】
【表6】


【0038】表6の結果から明らかなように、本発明のシェービンク剤は、発熱の程度、肌に塗布した時の感じ、ひげの剃り味及び仕上がり感のいずれも良好なものであった。
【0039】実施例4表7に示す組成の温感洗顔料を製造し、発熱性及び毛穴の汚れ落ちについて評価した。結果を表8に示す。
【0040】
【表7】


【0041】
【表8】


【0042】表8の結果から明らかなように、本発明の洗顔料は、発熱性が良く、毛穴の汚れの除去に非常に効果的なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均重合度が200〜1000のポリエチレングリコール、活性化ゼオライト及びポリエチレングリコールに難溶性の親水性高分子化合物を含有し、水と混合したときに発熱する実質的に非水系の化粧料。

【公開番号】特開平6−100411
【公開日】平成6年(1994)4月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−251087
【出願日】平成4年(1992)9月21日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)