説明

医療廃液固化シート

【課題】
縦長の廃棄容器において廃棄される医療廃液を容器内の場所によらず短時間で均一に吸収して固化することができる医療廃液固化シートを提供する。
【解決手段】
体液を含有する医療廃液を吸収して固化するためのシートであって、シートの剛軟度が90mm以上であること、熱圧着性を有する吸水性繊維が35重量%以上含有されていること、及びシートの形態が熱圧着加工により得られていることを特徴とする。本発明の医療廃液固化シートは、吸水性繊維以外にシート加工時に熱融着材料を含まず、しかも物理的交絡処理を実質的に施されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液を含有する医療廃液を吸収して固化するためのシートに関するものであり、特に縦長の容器に廃棄される医療廃液を均一にかつ短時間に吸収・固化することができる医療廃液固化シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療機関での手術や治療の際に排出される血液などの体液を含有する医療廃液は、医療従事者や廃棄物取扱い業者に対する感染症を防止するために、廃液容器に回収した後、焼却処理されるか、または不活化処理されるのが一般的である。
【0003】
しかし、これらの医療廃液を液状のままで取扱うと、廃液容器からの漏出や飛散によって二次感染のおそれがあるため、医療廃液を固化した後に処理することが行われている。具体的には、廃液中に処理剤を投入することによって廃液をゲル状に固化させる方法が採られている。
【0004】
従来の医療廃液を固化するための処理剤は、血液などの体液に含まれている電解質によって吸水性能を低下させる問題があり、この問題を防ぐための方法として特許文献1、2が提案されている。特許文献1は、イオン型吸水性樹脂とノニオン型吸水性樹脂をブレンドしたものを提案し、特許文献2は、吸水性樹脂に、廃液中に含まれる電解質のイオン強度を低下させる物質、例えばキレート剤、イオン交換性樹脂、イオン感応物質等を配合したものを提案する。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、ノニオン型吸水性樹脂の吸水速度が遅いため、廃液を固化するためには、多量の時間または多量の処理剤が必要であった。また、特許文献1、2では、複数の成分を必要とし、配合の不均一性や高コストの問題があった。さらに、特許文献1、2の方法では、縦長の廃液容器に処理剤(吸水性樹脂)を一括で投入した場合、縦長容器内の上部と下部で固化の不均一性が生じ、全体を固化するためには、やはり多量の時間または多量の処理剤が必要であった。
【0006】
このような問題に対処する方法として、吸水性樹脂の重合後にメタノール指数が20以上である疎水性物質を混合することで、0.9重量%NaCl水溶液に一括で流下投入した際、20〜95重量%が浮遊し、かつ80〜5重量%が沈降する均一固化方法が提案されている(特許文献3参照)。しかし、医療廃液は混合液であることが多く、従って廃液の比重も様々であり、吸水性樹脂の比重制御で均一化を行うことは実質的には困難であった。また、粒子形状の吸水性樹脂は、投入時の飛散等の取扱いの問題があった。
【0007】
一方、液体透過性または水崩壊性シートの間に高吸水性シートを配置させてなる体液の処理剤が提案されている(特許文献4参照)。この処理材は、下層および上層に配置された液体透過性シートまたは水崩壊性シートの中層に高吸水性シートを配置して三層とした後、上層および下層のシートの淵を熱融着、両面粘着、ミシンがけ等で接着するため、液体に浸漬するまでのシート強度は十分あるが、液体に浸漬した際に高吸水性シートの膨潤する力が上層および下層のシートの束縛によって抑制され、十分な吸水性能が発揮されない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−119853号公報
【特許文献2】特開平11−169451号公報
【特許文献3】特表2007−538110号公報
【特許文献4】特開平8−155298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、血液などの体液を含有する医療廃液を簡単に、均一に、かつ短時間に吸収して固化することができる医療廃液固化シートを提供することにある。特に、縦長の廃棄容器において廃棄される医療廃液を容器内の場所によらず短時間で均一に吸収して固化することができる医療廃液固化シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、熱圧着性を有する吸水性繊維を使用して熱圧着加工で90mm以上の剛軟度を有するシートを形成することにより、縦長容器の廃液中に投入してもシートが折れ曲がることがなく容器の底部まで到達するとともに、吸水性繊維がすぐに形態変化して容器内の隅々まで自由に移動可能となり、その結果、医療廃液を短時間で容器内で均一に吸収・固化できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の(1)〜(4)の構成を有するものである。
(1)体液を含有する医療廃液を吸収して固化するためのシートであって、シートの剛軟度が90mm以上であること、熱圧着性を有する吸水性繊維が35重量%以上含有されていること、及びシートの形態が熱圧着加工により得られていることを特徴とする医療廃液固化シート。
(2)吸水性繊維の0.9重量%NaCl水溶液の吸水倍率が30倍以上であることを特徴とする(1)に記載の医療廃液固化シート。
(3)吸水性繊維以外にシート加工時に熱融着する材料が含有されていないことを特徴とする(1)又は(2)に記載の医療廃液固化シート。
(4)物理的交絡処理が実質的に施されていないことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の医療廃液固化シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療廃液固化シートは、90mm以上の剛軟度を有するシート形状を有するため、廃液容器に投入しても折れ曲がらずに容器の上部から底部まで均一に分布させることができ、しかも吸水性繊維が物理的交絡を受けずに熱圧着されているので、吸水性繊維が廃液を吸収し始めるとすぐにばらけて容器の隅々まで吸収性繊維を分散させることができる。従って、本発明の医療廃液固化シートは、廃液容器に投入すると容器全体に均一に分布して短時間に廃液を吸収・固化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の医療廃液固化シートについて詳細に説明する。
本発明の医療廃液固化シートは、体液を含有する医療廃液を吸収して固化するためのシートである。本発明のシートが対象とする医療廃液は、患者からの血液、分泌液、羊液、排泄物などの体液を含有する限り、特に限定されず、医療行為中に使用される薬液、消毒液、生理食塩水、検査液、水などが混入されているものも当然含まれる。
【0014】
本発明の医療廃液固化シートは、シートの形態をとり、シートの剛軟度が90mm以上であることが必要である。本発明のシートの形態とは、厚み8mm以下の平面状のものを指す。従来の医療廃液固化剤が粉末状であったものをこのようにシート状にすることにより、廃液投入時の飛散や吸引等の問題がなくなるとともに、縦長の廃液容器を使用した場合でも容器の底部まで到達させることが可能である。また、シートの剛軟度を90mm以上とすることにより、シートの投入時に折れ曲がることなく、シート末端を縦長容器の底部まで到達させることが可能である。シートの剛軟度は好ましくは100mm以上である。なお、本発明では、シートの剛軟度は、JIS−L−1096−8.21.1A法(45°カンチレバー法)に基づいて測定される。
【0015】
本発明の医療廃液固化シートの形状としては、長方形、短冊状、正方形、楕円形、台形状等のいずれでも良い。シートの大きさは、廃液容器に合わせれば良いが、縦・横の長さが各々20〜400mmが好ましい。本発明の医療廃液固化シートは、一つの容器に対して二枚以上のシートを使用しても良いが、その場合には長方形や短冊状のシートが好ましく、作業上さらに短冊状が好ましい。
【0016】
また、本発明の医療廃液固化シートの目付は、100g/m〜800g/mの範囲にあることが好ましい。目付が100g/m未満であれば、剛軟度90mm以上を達成することが困難となり、挿入時の水圧に対して折れ曲がるため実用レベルにあるとは言えない。また、目付が800g/mよりも高ければ、解繊ウェブの中心部まで熱圧着が浸透しないため、シート形状を得ることが難しくなる。
【0017】
また、本発明の医療廃液固化シートは、熱圧着性を有する吸水性繊維を35重量%以上含有することが必要である。含有量が35重量%未満では、吸水性繊維を熱圧着する部位が少なくなり、必要な剛軟度を達成するのが困難となるだけでなく、シートの吸水能力が低下する。
【0018】
吸水性繊維は、必要な熱圧着性と吸水性を有する限り、特に限定されず、従来公知のものから適宜選択して使用されることができる。吸水性繊維としては、例えば、アクリロニトリル系繊維の表面を加水分解することによって表面に塩型カルボキシル基を有する吸水層、中心部にアクリロニトリル繊維部を残した芯鞘構造を有する吸水性繊維、ポリアクリル酸系架橋体繊維、アルギン酸系架橋体繊維等を挙げることができる。吸水性繊維の熱圧着性は、吸水性繊維を用いてシート形態に熱圧着加工したときに所望の剛軟度を達成するために要求されるものである。
【0019】
また、吸水性繊維は、0.9重量%NaCl水溶液の吸水倍率が30倍以上、好ましくは33倍以上の吸水性を有することが好ましい。吸水倍率が高いことは、膨潤時の繊維体積の増加が大きいことを意味し、熱圧着で接着している接着力を容易に消失させることが可能となり、不定形ゲルへの形態変化が容易になる。一方、吸水倍率が低い場合、シートの吸水性能が不足するだけでなく、膨潤時の繊維の体積変化が少なく、熱圧着による接着力を上回ることが困難となり、不定形ゲルへの形態変化が十分に発揮できないおそれがある。また、吸水倍率が低いと、所望の性能を達成するためにシートサイズが大きくなってコストが増加するだけでなく、固化できない医療廃液が発生するおそれがある。本発明の医療廃液固化シートは、同様の理由から、シート全体としても0.9重量%NaCl水溶液の吸水倍率が25倍以上、好ましくは30倍以上の吸水性を有することが好ましい。
【0020】
なお、吸水性繊維の0.9重量%NaCl水溶液の吸水倍率の測定方法は、吸収性繊維を約0.5g取り出して重量(Y(g))を測定し、その後25℃の0.9重量%NaCl水溶液300ml中に30分間浸漬した後、16メッシュの金網の上に移して10分間余剰水の水切りを行ってから、重量(Y(g))を測定し、次式によって算出したものである。
吸水性繊維の0.9重量%NaCl水溶液の吸水倍率(倍)=(Y−Y)/Y
【0021】
また、医療廃液固化シートの0.9重量%NaCl水溶液の吸水倍率は、シートを3cm×6cmサイズの長方形にカットして重量(A(g))を測定し、その後25℃の0.9%NaCl水溶液300ml中に30分間浸漬した後、16メッシュの金網の上に移して10分間余剰水の水切りを行ってから、重量(A(g))を測定し、次式によって算出したものである。
シートの0.9重量%NaCl水溶液の吸水倍率(倍)=(A−A)/A
【0022】
本発明の医療廃液固化シートにおける吸水性繊維以外の材料としては、シートの加工工程で加えられる温度で熱融着しないものであれば特に限定されないが、コスト面から考えて、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、綿、レーヨン、羊毛、ガラス繊維等の汎用繊維を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の医療廃液固化シートは、シートの形態が熱圧着加工により得られていることが必要である。また、シートの形態を得るために、吸水性繊維以外の熱融着性材料を利用して繊維同士を接着したり、繊維同士を物理的に交絡させたりする方法を採用しないことが好ましい。本発明の方法でシートの形態が得られていると、熱圧着された吸収性繊維の繊維間の接着力が医療廃液固化シートを廃液中に浸漬すると短時間に失われる。これは、吸水性繊維が廃液を吸水して膨潤する際に吸水性繊維の体積変化を発生させる力が吸収性繊維間の接着力を上回るためである。この場合、シート化する際に利用した接着力が廃液吸水時にはほぼ消失するため、ゲル化する過程で吸水性繊維は自由に移動可能となり、短時間で容器形状への追従性の良好な不定形のゲルに形態変化する。これによって容器断面方向への固化均一性が高くなる。
【0024】
シート形態に加工する場合にニードルパンチに代表される物理的な繊維交絡を利用したり、サーマルボンド法やケミカルボンド法に代表される繊維間接着を利用すると、医療廃液固化シートが廃液を吸水して膨潤する場合に膨潤する力よりも繊維間拘束力が勝るために吸水性繊維がゲル化してもシート形状を維持してしまう可能性がある。従って、シートの吸水性能が低下するだけでなく容器形状への追従性が悪く、容器断面方向への固化均一性が低くなる。
【0025】
本発明の医療廃液固化シートをシートの形態にするための熱圧着加工は、熱プレス加工あるいはエンボス加工等の加熱状態で材料に圧力を加える工程によって行うことが好ましい。熱プレス加工としては、加熱した平板で吸収性繊維を含む解繊ウェブを挟み加圧する平板熱プレス加工、あるいは加熱した熱ローラーに解繊ウェブを通過させるカレンダーロール加工等の従来公知の方法を採用することができる。エンボス加工としては、模様を彫刻したローラーあるいは平板で解繊ウェブを加熱加圧して凹凸模様を与える従来公知の方法を採用することができる。加工条件は、熱圧着性が発現できる条件であれば、温度・圧力に関して特に限定するものではない。例えばエンボス加工であれば、温度:150℃、圧力:10kgf/cm、ラインスピード:20m/分に設定することにより、十分熱圧着された医療廃液固化シートを得ることができる。
【0026】
上記のような本発明の医療廃液固化シートは、血液などの体液を含有する医療廃液を、安価に、均一に、短時間に固化させることができるだけでなく、従来の粉末状の吸水性樹脂の飛散や吸引などの取扱い上の問題を解決することができる。特に、本発明の医療廃液固化シートは、縦長の廃液容器において効果を発揮する。縦長の容器とは、開口部直径よりも胴部の長さの方が長い形状を有する容器である。具体的な容器としては、ボトル状の容器やバッグ状の容器がある。ボトル状の容器は透明で硬質なプラスチック材料を成型したもので容器に目盛を付けて医療廃液の正確な計量が可能である。一方、バッグ状の容器は透明で軟質なプラスチック材料を成型したもので、使用するまで平たく重ね置きできるため保管時の省スペース化が可能である。いずれの容器もサイズとしては、例えば1L容器であれば直径140mm×高さ290mm寸法の円筒形状、2L容器であれば直径155mm×高さ345mm寸法の円筒形状のものを使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明の医療廃液固化シートの効果を示すが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例の特性値の評価方法は以下の通りである。
【0028】
(シートの剛軟度)
JIS−L1096−8.21.1A法(45°カンチレバー法)に基づいて評価した。
【0029】
(吸水性繊維の吸水倍率)
吸水性繊維の試料を約0.5g取り出して重量(Y(g))を測定し、その後25℃の0.9重量%NaCl水溶液300ml中に30分間浸漬した後、16メッシュの金網の上に移して10分間余剰水の水切りを行ってから、重量(Y(g))を測定し、次式によって算出する。
吸水性繊維の吸水倍率(倍)=(Y−Y)/Y
【0030】
(廃液固化シートの吸水倍率)
シートを3cm×6cmサイズの長方形にカットし、重量(A(g))を測定し、その後25℃の0.9重量%NaCl水溶液300ml中に30分間浸漬した後、16メッシュの金網の上に移して10分間余剰水の水切りを行ってから、重量(A(g))を測定し、次式によって算出する。
シートの吸水倍率(倍)=(A−A)/A
【0031】
(均一固化状態の評価)
内径36mm、有効高さ246mmの有効容量250mlのメスシリンダー内に25℃の0.9重量%NaCl水溶液250mlを入れ、その後に高さ250mmにカットした医療廃液固化シート10gを挿入し、1分後にシートがメスシリンダー内に均一に分布できているかを目視で確認した。均一に分布できている場合は○で表示し、均一に分布できていない場合はその方向とともに×で表示した。
【0032】
(熱圧着性を有する吸水性繊維A)
アクリロニトリル90重量%及びアクリル酸メチル10重量%のアクリロニトリル系重合体を48重量%のチオシアン酸ナトリウム水溶液で溶解した紡糸原液を作成し、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、3.3dtex、51mmの原料アクリル繊維を得た。該原料アクリル繊維表面に35重量%の水酸化ナトリウム水溶液をアクリル繊維重量と等量付着させ、108℃で15分間加水分解することで表面に塩型カルボキシル基を有する吸水層、中心部にアクリロニトリル系繊維部を残した芯鞘構造を有するアクリロニトリル系吸水性繊維Aを作成した。このアクリロニトリル系吸水性繊維Aの0.9重量%NaCl水溶液吸水倍率は52倍であった。
【0033】
(熱圧着性を有する吸水性繊維B)
アクリロニトリル90重量%及びアクリル酸メチル10重量%のアクリロニトリル系重合体を48重量%のチオシアン酸ナトリウム水溶液で溶解した紡糸原液を作成し、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、3.3dtex、51mmの原料アクリル繊維を得た。該原料アクリル繊維表面に35重量%の水酸化ナトリウム水溶液をアクリル繊維重量と等量付着させ、108℃で5分間加水分解することで表面に塩型カルボキシル基を有する吸水層、中心部にアクリロニトリル系繊維部を残した芯鞘構造を有するアクリロニトリル系吸水性繊維Bを作成した。このアクリロニトリル系吸水性繊維Bの0.9重量%NaCl水溶液吸水倍率は35倍であった。
【0034】
(アクリル繊維)
アクリロニトリル90重量%及びアクリル酸メチル10重量%のアクリロニトリル系重合体を48重量%のチオシアン酸ナトリウム水溶液で溶解した紡糸原液を作成し、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、3.3dtex、51mmのアクリル繊維を得た。得られたアクリル繊維は、熱融着性を示さない繊維であった。
【0035】
(熱圧着性を有する吸水性繊維C)
熱圧着性を有する吸水性繊維Cとして(株)クラレ製のビニロンF−13を使用した。この吸水性繊維Cの0.9重量%NaCl水溶液吸水倍率は12倍であった。
【0036】
(熱融着性バインダー繊維)
熱融着性バインダー繊維としてユニチカ(株)製のメルティ3300を使用した。この熱融着性バインダー繊維はポリエステル単一成分のバインダー繊維であり、その融点は130℃であった。
【0037】
実施例1
吸水性繊維Aを単独でカード解繊機に通して解繊ウェブを作成し、該ウェブを150℃×10kgf/cm、クリアランス2.5mm、ラインスピード20m/分の条件で両面ローラーエンボス機に通し、目付440g/m、シート厚み3.2mmの医療廃液固化シートを作成した。実施例1の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0038】
実施例2
実施例1の吸水性繊維Aを吸水性繊維Bに変更した以外は実施例1と同じ加工方法で医療廃液固化シートを作成した。実施例2の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0039】
実施例3
実施例1の吸水性繊維A単独のウェブ構成を吸水性繊維Aとアクリル繊維の重量比40/60の混合物に変更した以外は実施例1と同じ加工方法で医療廃液固化シートを作成した。実施例3の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0040】
実施例4
実施例1の吸水性繊維A単独のウェブ構成を吸水性繊維Bとアクリル繊維の重量比で70/30の混合物に変更した以外は実施例1と同じ加工方法で医療廃液固化シートを作成した。実施例4の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0041】
実施例5
実施例1の加工方法をカレンダーロール加工(150℃×10kgf/cm、クリアランス2.5mm、ラインスピード20m/分)に変更した以外は実施例1と同じようにして医療廃液固化シートを作成した。実施例5の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0042】
実施例6
実施例1の加工方法を平板熱プレス加工(150℃×15kgf/cm×30秒、クリアランス3.0mm)に変更した以外は実施例1と同じようにして医療廃液固化シートを作成した。実施例6の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0043】
比較例1
実施例1の吸水性繊維A単独のウェブ構成を吸水性繊維Aと熱融着性バインダー繊維の重量比80/20の混合物に変更し、さらに加工方法を150℃のサーマルボンド加工に変更した以外は実施例1と同じようにして医療廃液固化シートを作成した。比較例1の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0044】
比較例2
実施例1の加工方法をニードルパンチ加工(針深度12mm、パンチ数200回/秒)に変更した以外は実施例1と同じようにして医療廃液固化シートを作成した。比較例2の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0045】
比較例3
実施例1の吸水性繊維A単独のウェブ構成を吸水性繊維Aとアクリル繊維の重量比60/40の混合物に変更し、さらにエンボス加工条件を150℃×1kgf/cmに変更した以外は実施例1と同じ加工方法で医療廃液固化シートを作成した。比較例3の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0046】
比較例4
実施例1の吸水性繊維A単独のウェブ構成を吸水性繊維Bとアクリル繊維の重量比30/70で混合物に変更した以外は実施例1と同じ加工方法で医療廃液固化シートを作成した。比較例4の医療廃液固化シートの詳細と評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1〜6の医療廃液固化シートは、均一固化評価用のメスシリンダーに挿入したときにシート末端がシリンダー底部まで到達し、かつ0.9重量%NaCl水溶液に対する膨潤が始まると熱圧着点の接着が消失し、短時間でシートはシリンダーと同じ円筒状に変形し、短時間で均一固化が達成されている。
【0049】
比較例1の医療廃液固化シートは、熱融着バインダー繊維による化学的接着力を導入しているため、吸水性繊維が膨潤する力を熱融着バインダー繊維の接着力で抑え込んでいる。そのため、シートの0.9重量%NaCl水溶液吸収倍率は低下し、均一固化状態の評価においても膨潤に伴うシートの不定形化は確認されない。すなわち、シリンダー断面方向に対する均一固化が不足し、シリンダー断面外側には0.9重量%NaCl水溶液がシートに吸収されることなく残存している。
【0050】
比較例2の医療廃液固化シートは、ニードルパンチによる繊維同士の物理的交絡を作り出しているため、吸水性繊維が膨潤する力を繊維間の絡みで抑え込んでいる。そのため、シートの0.9重量%NaCl水溶液吸収倍率は低下し、均一固化状態の評価においても膨潤に伴うシートの不定形化は確認されない。すなわち、シリンダー断面方向に対する均一固化が不足し、シリンダー断面外側には0.9重量%NaCl水溶液がシートに吸収されることなく残存している。
【0051】
比較例3の医療廃液固化シートは、エンボス加工条件のプレス圧力が低いために剛軟度が低いシートとなっている。そのため、均一固化状態の評価においてシリンダー底部にシート末端が到達する前にシートが折れ曲がり、0.9重量%NaCl水溶液吸水によるゲルの不定形化が発生してもシリンダー底部にはゲルは分布しなかった。すなわち、シリンダー垂直方向に対する均一固化が達成されず、シリンダー底部には吸収されなかった0.9重量%NaCl水溶液が残存している。
【0052】
比較例4の医療廃液固化シートは、ウェブ構成の吸水性繊維の含有量が少ないためにシートの剛軟度が低く、均一固化評価においてシリンダー底部にシート末端が到達する前にシートが折れ曲がった。その後の0.9重量%NaCl水溶液吸水においても吸水性繊維の含有量が少なく明確な不定形化が確認されない。すなわち、シリンダーの垂直方向においても、シリンダー断面方向においても均一固化は達成させず、シリンダー底部にも、シリンダー断面外側にも吸収されなかった0.9重量%NaCl水溶液が残存している。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の医療廃液固化シートは、体液を含む医療廃液を短時間で均一に吸収固化できるので、医療従事者や廃棄物取扱い業者の二次感染を効果的に防止することができ、医療現場において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液を含有する医療廃液を吸収して固化するためのシートであって、シートの剛軟度が90mm以上であること、熱圧着性を有する吸水性繊維が35重量%以上含有されていること、及びシートの形態が熱圧着加工により得られていることを特徴とする医療廃液固化シート。
【請求項2】
吸水性繊維の0.9%重量Nacl水溶液の吸水倍率が30倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の医療廃液固化シート。
【請求項3】
吸水性繊維以外にシート加工時に熱融着する材料が含有されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載の医療廃液固化シート。
【請求項4】
物理的交絡処理が実質的に施されていないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療廃液固化シート。

【公開番号】特開2012−76037(P2012−76037A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224768(P2010−224768)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】