説明

医療用チューブ組成物

【課題】本発明の課題は、可塑剤等の有害物質が滲出しないような、そして柔軟かつ耐折曲性に優れた医療用チューブを提供することにある。
【解決手段】スチレン系エラストマー100質量部に、曲げ弾性率1000MPa以下のオレフィン系樹脂30〜100質量部、エチレン−α−オレフィン系樹脂70質量部以下を添加してなる組成物は、柔軟かつ耐折曲性の良好な、そして透明性に優れた医療用チューブを与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば輸液セット用チューブ、エクステンションチューブ、血液回路用チューブ、連結チューブ、カテーテル等の医療用チューブの材料として使用される組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記医療用チューブは柔軟性を要求されるが、更に彎曲させた時、折曲して内部を流れる液体を塞止めることのないよう、耐折曲性を有することが必要とされる。
【0003】
従来は医療用チューブの材料として、軟質塩化ビニル系樹脂が使用されていた。しかし軟質塩化ビニル系樹脂にはジオクチルフタレート等の可塑剤が多量含まれるために、該可塑剤が血液、体液等に溶出して体内に吸収蓄積され、健康を害することが懸念されている。
これに代わるものとして、最近ではスチレン系エラストマーの使用が検討されている(例えば特許文献1〜2)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−11091号公報
【特許文献2】特開平2−31991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記スチレン系エラストマーは可塑剤を添加することなく充分柔軟であるが、剛性に劣るために、上記スチレン系エラストマーを材料としたチューブは、彎曲させた場合に折曲し易い。即ち耐折曲性がない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、スチレン系エラストマー100質量部に、曲げ弾性率1000MPa以下のオレフィン系樹脂30〜100質量部、エチレン−α−オレフィン系樹脂70質量部以下を添加してなる医療用チューブ組成物を提供するものである。
上記スチレン系エラストマーはスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体であることが望ましい。
また上記オレフィン系樹脂の一部または全部は曲げ弾性率500MPa以上1000MPa以下、ヘイズで30%以下のポリプロピレンであり、上記スチレン系エラストマー100質量部に対して少なくとも20質量部が添加されることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
曲げ弾性率1000MPa以下のオレフィン系樹脂は適度な柔軟性と剛性を有する。曲げ弾性率1000MPa以上のオレフィン系樹脂を使用したチューブは輸液セット用チューブ等としての柔軟性が不足したり、血管、尿管等の体内の管の彎曲形状に対応しにくゝなるし、小さな彎曲(歪み)でも大きな応力が作用してチューブが折曲し易くなる。スチレン系エラストマーは応力、特に圧縮応力が作用した場合の歪が小さく、応力緩和が大きく、該スチレン系エラストマーを含有するチューブは曲げ応力が作用した時、該応力を吸収してオレフィン系樹脂の耐折曲性を更に改良する。
上記オレフィン系樹脂は本発明の組成物に剛性ならびに透明性を付与し、スチレン系エラストマーと協同して本発明の組成物を使用したチューブに耐折曲性を付与するが、上記スチレン系エラストマー100質量部に対する添加量が30質量部を下回ると、上記オレフィン系樹脂の剛性付与効果が顕著に発揮されなくなり、透明性も低下する。このような組成物を材料としたチューブは耐折曲性が乏しくなり、かつ不透明ないし半透明になる。また上記スチレン系エラストマー100質量部に対する添加量が100質量部を上回ると、このような組成物を使用したチューブは柔軟性が不足し、体内の管の彎曲形状に対応しにくゝなるし、小さな彎曲(歪)でも大きな応力が作用してチューブは折曲し易くなる。また良好な耐折曲性と透明性とを付与するためには上記オレフィン系樹脂としては、曲げ弾性率500MPa以上1000MPa以下、ヘイズで30%以下のものが望ましい。
エチレン−α−オレフィン系樹脂は上記スチレン系エラストマーと上記オレフィン系樹脂との相溶性を向上させる相溶化剤として作用するが、上記スチレン系エラストマー100質量部に対して100質量部を上回る量で添加すると、組成物の剛性が高くなる。
【0008】
〔効果〕
本発明では適度なバランスのとれた剛性と柔軟性を有し、したがって耐折曲性が大きなチューブが得られる。
該チューブは透明性にも優れ、医療用のチューブとして極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔スチレン系エラストマー〕
スチレン系エラストマーとは、スチレン重合体鎖をハードセグメントとし、オレフィン系重合体鎖をソフトセグメントとするブロック共重合体である。上記オレフィンブロック鎖とはブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物や、イソブテン、ペンテン、4−メチルペンテン−1等の不飽和オレフィンの一種または二種以上の(共)重合体鎖からなる。更に共役ジエンをソフトセグメントを構成する重合体鎖の一部または全部に使用した場合には、上記共役ジエンを水素添加したスチレン系エラストマーも本発明において使用される。
【0010】
上記スチレン系エラストマーを具体的に例示すれば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−(ブタジエン−ブチレン)−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−(エチレン)−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−(ブタジエン−イソプレン)−スチレンブロック共重合体(SBIS)、スチレン−(エチレン−プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−(エチレン−エチレン−プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等である。
本発明の組成物にとって望ましいスチレン系エラストマーとしては、SEBSがある。SEBSは応力が作用した場合の歪が小さく(特に圧縮応力)、応力緩和が大きく、SEBSを材料としたチューブは曲げ応力が作用した時、該応力を吸収して折曲しにくゝなる。
上記スチレン系エラストマーはスチレン含有量が15〜25質量%のものを使用することが好ましい。
【0011】
〔オレフィン系樹脂〕
上記オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブチレン、エチレン−ブチレン共重合体、プロピレン−ブチレン共重合体等のアルケン類の一種または二種以上の(共)重合体が例示されるが、組成物への耐折曲性と透明性の付与の観点から、曲げ弾性率が1000MPa以下望ましくは500MPa以上、ヘイズで30%以下のポリプロピレン樹脂(PP)が望ましいオレフィン系樹脂である。
更に成形性を改良するためには高結晶性であり、曲げ弾性率が1000MPa以上2000MPa以下のPPホモポリマーを添加してもよい。
【0012】
〔エチレン−α−オレフィン系樹脂〕
エチレン−α−オレフィン系樹脂とは、エチレンとα位に重合可能な二重結合を有するオレフィン(α−オレフィン)との共重合体である。上記α−オレフィンとして望ましいものは、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デケン等、炭素数6〜10のアルケンであり、最も望ましいものとしては、エチレン:オクテンの比率が80:20〜55:45質量比のエチレン−オクテン共重合体がある。
【0013】
〔その他の成分〕
その他の成分としては、例えば組成物に柔軟性を与えるためのパラフィンオイル、滑性を与えるために、例えば脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等の脂肪酸系化合物が使用され、具体的にはステアリン酸モノグリセライド、エルカ酸アミド等の滑剤、芳香族アミン類、ハイドロキノン、アルデヒドアミン縮合物等の酸化防止剤が添加されてもよい。
上記パラフィンオイルは上記組成物に対して70質量%以下の量で添加される。70質量%を上回る量では上記組成物の剛性が不足してこれを材料とするチューブが折曲し易くなる。
【0014】
〔組成物の調製〕
上記各成分は通常ミキサーに投入され攪拌した後、160〜200℃に加熱したニーダーによって加熱軟化混練して樹脂塊とした後、ペレタイザーにてペレットとする。
本発明の組成物は好ましくは硬度90以下に設定される。
【0015】
〔チューブの成形〕
チューブは上記ペレットを使用し、単軸押出機を使用して押出し成形を行って製造される。医療用チューブの一般的な寸法は、内径2.0〜14.0mm、外径3.0〜15.0mm、肉厚0.5〜5.0mm程度である。
【0016】
以下に本発明を更に具体的に説明するための実施例を記載する。
〔実施例〕
表1に示す配合をそれぞれミキサーで攪拌した後160〜200℃に加熱したニーダーによって加熱軟化混練して樹脂塊とした後、ペレタイザーにてペレットを作成した。
該ペレットを使用して押出機によって内径2.3mm、外径3.6mm、肉厚0.65mmのチューブを成形した。
上記チューブを使用して(1)耐折曲性 、(2)硬度、(3)ヘーズ を測定した。試験方法は下記の通りである。
【0017】
〔試験方法〕
(1)耐折曲性
(a)チューブの全長は200mmとする。図1に示すようにまずチューブ1の両端を重 ね合わせリング状にする。
(b)合わせた部分からリングの方向にピンセット2にてチューブを重ねていく。
(c)リングの部分にキンクが発生したら試験を終える。
(d)図2に示すように折曲が発生した位置でのリングの長さ(L×2)を測定する。( L×2が短いほど耐折曲性がよいと判断する)
(2)硬度
JIS K 7215に準じて測定を行った。なお測定には、高分子計器株式会社製 、ASKER CL−150を使用した。
(3)ヘーズ
JIS K 7136に準じて測定を行った。なお測定には、株式会社東洋精機製作 所製、HAZE GARDIIを使用した。
【0018】
結果は表1に示される。
【表1】

【0019】
表1を参照すると、本発明の実施例は何れも硬度が90以下であり、良好な耐折曲性を示し、L×2<100mm以下であり、かつヘーズも50%以下で透明性があり、外観良好である。
一方PPが100質量部以上(110質量部)含有する比較例1では、硬度が90以上(93)あって血管等の曲りに対応しにくい。またPPが30質量部を下回る量(10質量部)含まれる比較例2では、ヘーズが50%以上(74.1)となり、白濁が発生して外観も悪化する。PPを含まない比較例3ではチューブが柔軟過ぎてヘーズが50%以上(推測値90)となり、白濁が発生し、かつ耐折曲性が低下する(L×2=108>100mm)。
パラフィンオイルを70質量部を上回る量(80質量部)で含む比較例4ではチューブが柔軟過ぎて耐折曲性が悪化する(L×2=110>100mm)。
更にエチレン−オクテン共重合体が70質量部を上回る量(80質量部)で含まれる比較例5は耐折曲性が悪化する(L×2=110>100mm)。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の組成物は柔軟でかつ耐折曲性の良い、医療用チューブに適したチューブを与えるから、産業上利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1および図2は耐折曲り性試験の説明図である。
【図1】折曲り前の状態の説明図
【図2】折曲り後の状態の説明図
【符号の説明】
【0022】
1 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマー100質量部に、曲げ弾性率1000MPa以下のオレフィン系樹脂30〜100質量部、エチレン−α−オレフィン系樹脂70質量部以下を添加してなることを特徴とする医療用チューブ組成物。
【請求項2】
上記スチレン系エラストマーはスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体である請求項1に記載の医療用チューブ組成物。
【請求項3】
上記オレフィン系樹脂の一部または全部は曲げ弾性率500MPa以上1000MPa以下、ヘイズで30%以下のポリプロピレンであり、上記スチレン系エラストマー100質量部に対して少なくとも20質量部が添加される請求項1または2に記載の医療用チューブ組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−282688(P2007−282688A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110485(P2006−110485)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】