説明

医療用処置具およびこれを備えるマニピュレータ

【課題】医療用処置具およびこれを備えるマニピュレータにおいて、操作中に処置部を見ながら、処置部の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができるようにする。
【解決手段】少なくとも一方がカバー部材32に対して回動可能に支持された一対の処置具片を有する処置部10と、カバー部材32に対して自身の軸線方向に進退することにより一対の処置具片を回動させて開閉させる操作部材と、回動可能な処置具片に第一の端部が連結され、第二の端部が操作部材に連結されたリンク部材と、第二の端部において、リンク部材と操作部材とを連結する接続回動軸19Aと、操作部材の進退方向における接続回動軸19Aの移動と連動して移動し、カバー部材に対する移動量がカバー部材の外側から視認できるように設けられた移動表示部19Cと、カバー部材32に設けられ、カバー部材32に対する移動表示部19Cの相対移動量を参照する目盛線34と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用処置具およびこれを備えるマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療の分野において、生体組織や手術器具等を把持したり、押圧したりして手技を行なう医療用処置具が使用されている。これらの医療用処置具は、例えばマスタースレーブ方式の医療用マニピュレータシステムを構成するマニピュレータに取り付けられたり、内視鏡の鉗子用チャンネルに挿通されたりして、患者等の体腔内に導入され、各種の手技に使用される。
このような医療用処置具では、先端の処置部に対して、例えばワイヤやロッド等の操作部材に連結されたリンクを介して操作力を伝達し、例えば、処置部の開閉等の操作がなされる場合が多い。この場合、操作者は、処置部の開閉量等の動作量や、被処置体の変形や被処置体に対する把持部のめりこみ方などを目視観察することで処置部からの被処置体に対する力のかかり具合を把握し、操作力を加減して操作を行っていく。
しかしながら、被処置体が小さく、処置部の動作量や被処置体の変形量が小さい場合、被処置体に対する力のかかり具合を把握しにくくなっていた。例えば、処置部が把持部であって、被処置体が手術用針や手術用糸などの小さなものを把持するような場合、把持部を目視しても把持力のかかり具合が把握しにかった。
このため、従来の医療用処置具では、操作者の手元側に、処置部からの力のかかり具合に対応して移動する操作部材等の部材の移動量を視認するための目盛等を設けることが知られている。
このような従来の医療用処置具として、例えば、特許文献1には、医療用処置具の一つとして、対向ジョー部材をリンクで開閉することで血管を把持し、血管に閉鎖圧力を与えてシールする血管のシール機であって、ユーザー(操作者)が操作を行うハンドルに、目盛や視覚目印を備えたウィンドウを設け、把持力に対応するコイルバネの圧縮量を観察できるようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4350379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の医療用処置具には以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、操作者が閉鎖圧力(把持力)を把握するには、手元のハンドルに設けられたウィンドウを覗く必要があるため、被把持体が見えている視野領域、例えば内視鏡の表示画面、から手元位置のハンドルに視線を移動させなければならない。このため、操作者は、内視鏡の表示画面とハンドルとを交互に見て操作を行わなければならず、円滑に操作を行うことができないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、操作中に処置部を見ながら、処置部の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができる医療用処置具およびこれを備えるマニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の医療用処置具は、少なくとも一方が基体に対して回動可能に支持された一対の処置具片を有する処置部と、前記基体に対して自身の軸線方向に進退することにより前記一対の処置具片を回動させて開閉させる操作部材と、回動可能な前記処置具片に第一の端部が連結され、第二の端部が前記操作部材に連結されたリンク部材と、前記第二の端部において、前記リンク部材と前記操作部材とを連結する連結部材と、前記操作部材の進退方向における前記連結部材の移動と連動して移動し、前記基体に対する移動量が該基体の外側から視認できるように設けられた移動表示部と、前記基体に設けられ、前記基体に対する前記移動表示部の相対移動量を参照する参照指標部と、を備える構成とする。
【0007】
また、本発明の医療用処置具では、前記移動表示部は、前記基体に設けられた貫通孔部内に移動可能に挿通された前記連結部材に設けられ、前記参照指標部は、前記貫通孔部の周囲または前記貫通孔部上に設けられた参照スケールであることが好ましい。
【0008】
また、本発明の医療用処置具では、前記参照指標部は、前記基体の表面の一部を覆う遮蔽部を有し、前記移動表示部は、前記連結部材の移動に連動して、前記遮蔽部の内部から外部に進退する表示部材を有し、前記遮蔽部からの前記表示部材の進退量によって、前記移動表示部の移動量を表示できるようにしたことが好ましい。
【0009】
また、本発明の医療用処置具では、前記参照指標部は、前記一対の処置具片が閉じられた状態が開始される前記移動表示部の位置を参照する閉状態開始位置参照指標と、前記一対の処置具片が閉じられた状態で、前記一対の処置具片間の閉じ力の増大に対応する前記移動表示部の位置変化を参照する閉じ力参照指標と、を備えることが好ましい。
【0010】
また、本発明の医療用処置具では、前記第二の端部の進退軸は、前記操作部材の軸線と平行であり、前記第二の端部の進退軸と第一の端部との距離は、前記リンク部材の長さより短く、前記第二の端部と前記一対の処置具片の回動中心とを結んだ線分を前記進退軸に射影した長さは、前記第一の端部と前記回動中心を結んだ線分を前記進退軸に射影した長さよりも短いことが好ましい。
【0011】
本発明のマニピュレータは、本発明の医療用処置具を備える構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用処置具およびこれを備えるマニピュレータによれば、処置部に移動表示部と参照指標部とが設けられているため、操作中に処置部を見ながら、処置部の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の医療用処置具が適用される医療用マニピュレータシステムの構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の医療用処置具の先端側を示す模式的な正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の医療用処置具の先端側の内部を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の医療用処置具の処置部が開いた状態を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の医療用処置具の処置部が開いた状態、および処置部が閉じて把持力を増大させた状態を示す模式的な正面図である。
【図6】トグル機構における把持力増大の作用について説明するための模式図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の第1変形例の医療用処置具の処置部が閉じた状態、および開いた状態を示す模式的な正面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の第2変形例の医療用処置具の処置部が開いた状態、および閉じた状態を示す模式的な正面図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の第3変形例の医療用処置具の処置部を示す模式的な正面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の第4変形例の医療用処置具の処置部を示す模式的な正面図、およびそのA視の側面図である。
【図11】本発明の第1の実施形態の第5変形例の医療用処置具の処置部を示す模式的な正面図である。
【図12】本発明の第2の実施形態の医療用処置具の処置部が開いた状態、閉じた状態、および閉じて把持力を増大させた状態を示す模式的な部分断面図である。
【図13】本発明の第3の実施形態の医療用処置具の処置部の模式的な正面図、および模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態について説明するが、その前に本実施形態の医療用処置具(以下、単に「処置具」と称する。)およびマニピュレータが適用される医療用マニピュレータシステムの一例について説明する。
図1は、本発明の医療用処置具が適用される医療用マニピュレータシステムの構成の一例を示す模式図である。
【0016】
図1には、マスタースレーブ方式の医療用マニピュレータシステムの一例を示している。マスタースレーブ方式の医療用マニピュレータシステムとは、マスターアームとスレーブアームとからなる2種のアームを有し、マスターアームの動作に追従させるようにしてスレーブアームを遠隔制御するシステムである。このスレーブアームとして本発明のマニピュレータを適用することができる。
【0017】
図1に示す医療用マニピュレータシステムは、手術台100と、スレーブアーム200a、200b、200c、200d(マニピュレータ)と、スレーブ制御回路400と、マスターアーム500a、500bと、操作部600と、入力処理回路700と、画像処理回路800と、操作者用ディスプレイ900aと、助手用ディスプレイ900bと、を有している。
以下、記載を簡潔にするため、アルファベット順の符号「Xa、Xb、…、Xz」を、「Xa〜Xz」のように表す場合がある。例えば、「スレーブアーム200a、200b、200c、200d」を「スレーブアーム200a〜200d」と表す場合がある。
【0018】
手術台100は、観察・処置の対象となる患者Pが載置される台である。手術台100の近傍には、複数のスレーブアーム200a〜200dが設置されている。なお、スレーブアーム200a〜200dを手術台100に設置するようにしてもよい。
【0019】
各スレーブアーム200a〜200dは、それぞれ複数の多自由度関節を有して構成されており、各多自由度関節を湾曲させることによって、手術台100に載置された患者Pに対してスレーブアーム200a〜200dの先端側(患者Pの体腔に向かう側とする)に装着される処置具等を位置決めする。各多自由度関節は、図示しない動力部によって個別に駆動される。動力部としては、例えばインクリメンタルエンコーダや減速器等を備えたサーボ機構を有するモータ(サーボモータ)が用いることができ、その動作制御は、スレーブ制御回路400によって行われる。
スレーブアーム200a〜200dは、装着された処置具240a〜240dを駆動するための複数の動力部も有している(不図示)。この動力部も、例えばサーボモータを用いることができ、その動作制御はスレーブ制御回路400によって行われる。
【0020】
スレーブアーム200a〜200dの動力部が駆動された場合には、動力部の駆動量が位置検出器によって検出される。位置検出器からの検出信号はスレーブ制御回路400に入力され、この検出信号により、スレーブアーム200a〜200dの駆動量がスレーブ制御回路400において検出される。
【0021】
手術用動力伝達アダプタ(以下、単に「アダプタ」と称する。)220a、220b、220c、220dは、スレーブアーム200a〜200dと処置具240a〜240dとの間に介在されてスレーブアーム200a〜200dと処置具240a〜240dとをそれぞれ接続する。アダプタ220a〜220dは、それぞれが直動機構を有し、対応するスレーブアームの動力部において発生した動力を、直動運動によって対応する処置具に伝達するように構成されている。
【0022】
スレーブ制御回路400は、例えばCPUやメモリ等を有して構成されている。スレーブ制御回路400は、スレーブアーム200a〜200dの制御を行うための所定のプログラムを記憶しており、入力処理回路700からの制御信号に従って、スレーブアーム200a〜200d又は処置具240a〜240dの動作を制御する。すなわち、スレーブ制御回路400は、入力処理回路700からの制御信号に基づいて、操作者Opによって操作されたマスターアームの操作対象のスレーブアーム(または処置具)を特定し、特定したスレーブアーム等に操作者Opのマスターアームの操作量に対応した動きをさせるために必要な駆動量を演算する。
【0023】
そして、スレーブ制御回路400は、算出した駆動量に応じてマスターアームの操作対象のスレーブアーム等の動作を制御する。この際、スレーブ制御回路400は、対応したスレーブアームに駆動信号を入力するとともに、対応したスレーブアームの動作に応じて動力部の位置検出器から入力されてくる検出信号に応じて、操作対象のスレーブアームの駆動量が目標の駆動量となるように駆動信号の大きさや極性を制御する。
【0024】
マスターアーム500a、500bは複数のリンク機構で構成されている。リンク機構を構成する各リンクには例えばインクリメンタルエンコーダ等の位置検出器が設けられている。この位置検出器によって各リンクの動作を検知することで、マスターアーム500a、500bの操作量が入力処理回路700において検出される。
【0025】
図1の医療用マニピュレータシステムは、2本のマスターアーム500a、500bを用いて4本のスレーブアームを操作するものであり、マスターアームの操作対象のスレーブアームを適宜切り替える必要が生じる。このような切り替えは、例えば操作者Opの操作部600の操作によって行われる。勿論、マスターアームの本数とスレーブアームの本数とを同数とすることで操作対象を1対1の対応とすれば、このような切り替えは不要である。
【0026】
操作部600は、マスターアーム500a、500bの操作対象のスレーブアームを切り替えるための切替ボタンや、マスターとスレーブの動作比率を変更するスケーリング変更スイッチ、システムを緊急停止させたりするためのフットスイッチ等の各種の操作部材を有している。操作者Opによって操作部600を構成する何れかの操作部材が操作された場合には、対応する操作部材の操作に応じた操作信号が操作部600から入力処理回路700に入力される。
【0027】
入力処理回路700は、マスターアーム500a、500bからの操作信号及び操作部600からの操作信号を解析し、操作信号の解析結果に従って本医療用マニピュレータシステムを制御するための制御信号を生成してスレーブ制御回路400に入力する。
【0028】
画像処理回路800は、スレーブ制御回路400から入力された画像信号を表示させるための各種の画像処理を施して、操作者用ディスプレイ900a、助手用ディスプレイ900bにおける表示用の画像データを生成する。操作者用ディスプレイ900a及び助手用ディスプレイ900bは、例えば液晶ディスプレイで構成され、観察器具を介して取得された画像信号に従って画像処理回路800において生成された画像データに基づく画像を表示する。
【0029】
以上のように構成された医療用マニピュレータシステムでは、操作者Opがマスターアーム500a、500bを操作すると、対応するスレーブアームおよび当該スレーブアームに取り付けられた処置具がマスターアーム500a、500bの動きに対応して動作する。これにより、患者Pに対して所望の手技を行うことができる。
【0030】
次に、本実施形態の医療用処置具について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態の医療用処置具の先端側を示す模式的な正面図である。図3は、本発明の第1の実施形態の医療用処置具の先端側の内部を示す模式的な断面図である。図4は、本発明の第1の実施形態の医療用処置具の処置部が開いた状態を示す模式的な断面図である。
【0031】
処置具1(医療用処置具)は、上述の処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着することができるものであり、図2および図3に示すように、各種処置を行なうための処置部10と、処置部10を操作するための操作部材20と、操作部材20が挿通されたシース部30とを備えている。
【0032】
処置部10は、図3に示すように、第1鉗子片11および第2鉗子片12からなる一対の鉗子片(処置具片)を備えている。第1鉗子片11および第2鉗子片12は、鉗子回動軸13で互いに回動可能に連結されており、鉗子回動軸13よりも先端側の領域が、開閉して体内組織や手術器具等の対象物を把持する把持部14となっている。
【0033】
第1鉗子片11の基端側(把持部14と反対側)には、リンク部材15の先端部15A(第一の端部)が、リンク回動軸16を介して第1鉗子片11に対し回動可能に連結されている。同様に、第2鉗子片12の基端側には、リンク部材17の先端部17A(第一の端部)が、リンク回動軸18を介して第2鉗子片12に対し回動可能に連結されている。
リンク回動軸16、18の中心軸線は、いずれも鉗子回動軸13の中心軸線と平行である。また、各リンク部材15、17の各先端部15A、17Aは、鉗子回動軸13より操作部材20側で連結されている。
本明細書では、リンク部材の端部である先端部15A、17Aの位置という場合、特に断らない限りは、先端部15A、17Aの回動中心の位置であるリンク回動軸16、18の回動中心の位置を表すものとする。
また、以下に説明する他のリンク部材の端部の位置についても、同様に、端部に連結された回動軸の回動中心の位置を表すものとする。
【0034】
リンク部材15および17の基端部15B、17B(第二の端部)は、接続回動軸19Aを介して接続部材19(連結部材)に回動可能に接続されている。接続回動軸19Aの中心軸線は、鉗子回動軸13、およびリンク回動軸16、18の各中心軸線と平行であり、各リンク部材15、17は、接続部材19に対して相対回動可能である。
【0035】
接続部材19は、金属等で形成され、先端側に基端部15B、17Bを回動支持する接続回動軸19Aを有する。接続部材19の基端側は略円筒状に形成された操作部材接続部19Bとなっており、操作部材接続部19B内に操作部材20の先端部が挿入されて溶接や接着、あるいはかしめ等により一体に接続されている。
【0036】
操作部材20は、長尺の部材であり、図示略の基端部における進退操作を先端部に伝達できる程度の剛性を有する。操作部材20は、先端部が接続部材19の操作部材接続部19Bに挿入されることにより、処置部10基端側の接続部材19と一体に接続されている。
【0037】
シース部30は、筒状に形成されたシース31を備えており、シース31内に操作部材20が進退可能に挿通されている。本実施形態では、シース31として可撓性を有する公知のコイルシースが用いられている。
シース31の先端部には、金属等で形成されたカバー部材32(基体)が取り付けられている。カバー部材32には、鉗子回動軸13が固定されている。すなわち、第1鉗子片11および第2鉗子片12は、カバー部材32に対して回動可能に支持されており、鉗子回動軸13は、シース部30に対して移動しないように固定されている。
【0038】
また、カバー部材32には、操作部材20の軸線X1に沿う方向に延びる長穴33(貫通孔)が形成されている。長穴33には、接続回動軸19Aが、がたつくことなく挿通されており、操作部材20を軸線X1方向に進退させると、操作部材20の動きに連動して長穴33の長手方向に沿う方向に接続回動軸19Aが滑らかに移動できるようになっている。これにより、接続回動軸19Aと連結された各リンク部材の基端部15B、17Bも長穴33に沿って移動する。
以下、操作部材20の進退時における接続回動軸19Aの中心軸線上の点の移動軌跡が形成する直線を「基端部の進退軸」と称する。すなわち、本実施形態では、長穴33の長手方向に沿う対称軸と、基端部15B、17Bの進退軸とは、互いに平行になっている。
長穴33は、カバー部材32の片側のみに設けられていてもよいが、本実施形態では、図3の奥行き方向に貫通する位置関係に2箇所に設けられている。このため、接続回動軸19Aは、これら2箇所の長穴33に挿通されている。
【0039】
各長穴33の周囲には、各長穴33よりも一回り大きな長穴状とされ、カバー部材32の外面から内側に陥没した段穴部33aが形成されている。
各段穴部33aは、接続回動軸19Aの両端部に接続回動軸19Aと同軸に形成された円板状の移動表示部19Cを収容できる大きさに設けられている。本実施形態では、一例として、移動表示部19Cの外径よりもわずかに大きな幅で、移動表示部19Cの厚さと略同じ深さを有している。
なお、移動表示部19Cは、接続回動軸19Aと別部材で製作して接続回動軸19Aに固定してもよい。固定方法は、特に限定されず、例えば、螺設、ねじ締結、溶接、かしめ等を適宜採用することができる。
【0040】
また、移動表示部19Cにおいて、カバー部材32の外側から見える側の表面には、接続回動軸19Aの移動方向と直交する方向に延びる直線状の表示マーク19aが形成されている。
表示マーク19aの形成方法は、適宜の形成方法を採用することができ、例えば、印刷、刻印、レーザ加工、エッチング、象嵌などの例を挙げることができる。
また、表示マーク19aは、移動表示部19Cに直線状の凹溝部や突起部を設けることで形成してもよい。また、表示マーク19aは、後述する目盛線34との対応が容易に視認できる形状であれば直線には限定されず、矢印マーク、三角マーク、十字マークなどを適宜の図形を採用することができる。また、移動表示部19Cの外形自体が表示マーク19aを兼ねる構成としてもよい。
また、表示マーク19aとしては、例えば移動表示部19Cを接続回動軸19Aにねじ固定する場合など、ねじ頭に形成されたマイナス穴や十字穴などの形状が見えるようにして、これらの図形が表示マーク19aを兼ねるようにしてもよい。
また、移動表示部19Cの外形に突起部、切欠き部、鋭角部を設けることで、移動表示部19Cの外形自体が位置を指し示すことができる構成を採用してもよい。
【0041】
各段穴部33aの周囲におけるカバー部材32上には、図2に示すように、目盛線34(参照指標部)が形成されている。
目盛線34は、カバー部材32に対する移動表示部19Cの相対移動量を参照するため参照スケールである。
目盛線34は、本実施形態では、一例として、段穴部33aの長手方向に直交する方向に延ばされ、長手方向に等ピッチで形成された平行線群が、段穴部33aの短手方向に対向する位置に対をなして設けられている。
また、それぞれの目盛線34は、一例として、最大開き位置目盛34a、基準閉じ位置目盛34b(閉状態開始位置参照指標)、開き位置補助目盛34c、および把持力参照補助目盛34d(閉じ力参照指標)から構成されている。
【0042】
最大開き位置目盛34aは、接続回動軸19Aが長穴33内で最も先端側(把持部14側)に移動した際の表示マーク19aの位置を示す目盛である。
基準閉じ位置目盛34bは、把持部14がちょうど閉じられた際の表示マーク19aの位置に対応する目盛であり、本実施形態では、最大開き位置目盛34aと平行で同じ長さを有する線分からなる。
開き位置補助目盛34cは、最大開き位置目盛34aおよび基準閉じ位置目盛34bの間の位置を参照できるように、最大開き位置目盛34aおよび基準閉じ位置目盛34bを等分した補助目盛である。本実施形態では、最大開き位置目盛34aおよび基準閉じ位置目盛34bを等分し、最大開き位置目盛34aおよび基準閉じ位置目盛34bよりも短い互いに平行の線分からなる。
把持力参照補助目盛34dは、表示マーク19aが、基準閉じ位置目盛34bよりも基端側に移動した際の表示マーク19aの位置を参照するもので、開き位置補助目盛34cと同様、基準閉じ位置目盛34bよりも短い平行な線分からなる。本実施形態では、一例として、接続回動軸19Aが長穴33内で最も基端側(把持部14と反対側)に移動した際の位置を表示する線分から構成されている。
目盛線34の形成方法は、表示マーク19aと同様の形成方法を採用することができる。
【0043】
上記のように構成された処置具1の使用時の動作について、上述のスレーブアーム200a〜200dの一つに取り付けた場合を例にとり説明する。
図5(a)は、本発明の第1の実施形態の医療用処置具の処置部が開いた状態を示す模式的な正面図である。図5(b)は、本発明の第1の実施形態の医療用処置具の処置部が閉じて把持力を増大させた状態を示す模式的な正面図である。図6は、トグル機構における把持力増大の作用について説明するための模式図である。
【0044】
まず操作者Opは、所望のスレーブアームに処置具1を装着し、操作部材20の基端部を当該スレーブアームのアダプタに接続する。
操作者Opは、操作者用ディスプレイ900aに表示される画像を見て、処置具1の処置部10と、処置部10の把持部14が把持すべき対象との位置関係を把握し、処置具1が接続されたスレーブアームを操作するマスターアームを操作する。
操作者Opが対応するマスターアームに所定の操作を行うと、スレーブ制御回路400aを介して当該スレーブアームの動力部が駆動される。当該動力部で発生した動力は、アダプタを介して直動運動に変換され、当該直動運動により操作部材20が軸線X1方向に進退される。
【0045】
操作部材20が前進されると、操作部材20に接続された接続部材19がシース部30に対して前進するが、鉗子回動軸13はカバー部材32に固定されているので、シース部30に対して前進しない。これにより、接続回動軸19Aが鉗子回動軸13に接近し、リンク部材15、17が第1鉗子片11、第2鉗子片12、および接続部材19に対して回動する。その結果、第1鉗子片11および第2鉗子片12が、鉗子回動軸13を中心に回動して図4に示すように把持部14が開く。
【0046】
このとき、接続回動軸19Aの移動量に応じて、図5(a)に実線で示すように、段穴部33a内で移動表示部19Cが移動する。この様子は、操作対象および処置部10を視野領域に収めている操作者用ディスプレイ900aに表示される。
このため、操作者Opは、操作者用ディスプレイ900aを見て、目盛線34を参照することによって移動表示部19Cの表示マーク19aの相対移動量や移動位置を把握することができる。
例えば、図5(a)では、表示マーク19aが、最大開き位置目盛34aに最も近い開き位置補助目盛34cの位置に位置しているため、把持部14の最大開き角度の約3/4だけ、把持部14が開かれていることが容易に分かる。
これにより、操作者Opは、例えば、把持操作を続けるため把持部14をさらに大きく開くべきかどうか、また、すでに把持している対象物をより確実に把持するために把持部14の開き角を低減すべきかどうか、といった判断を行うことができる。
その際、操作者Opは、操作対象および把持部14が表示されている操作者用ディスプレイ900aから目を離すことなく把持部14の開き角を把握することができるため、微妙な操作であっても、操作対象を監視しつつ円滑に操作を続けることができる。
【0047】
また、例えば、操作者Opが操作部材20を後退させる操作を行うと、接続回動軸19Aが鉗子回動軸13から離間し、上述したのと逆の動作で把持部14が閉じる。したがって、操作部材20をカバー部材32に対して軸線X1方向に進退させることで、把持部14を開閉し、対象組織を把持したり、曲針や縫合糸等の処置に必要な用具等を把持したりする等の所望の手技を行うことができる。
【0048】
本実施形態では、図3に示すように、鉗子回動軸13よりも先端側で第1鉗子片11と第2鉗子片12とが接触し、把持部14が閉じられた状態において、接続回動軸19Aは、各リンク回動軸16、18よりも先端側に位置している。すなわち、各リンク部材15、17の基端部15B、17Bは、先端部15A、17Aよりも先端側に位置している。
また、各リンク部材15、17の基端部15B、17Bの進退軸とリンク回動軸16との距離は,リンク部材15の長さより短い。同様に、基端部の進退軸とリンク回動軸18との距離は,リンク部材17の長さより短い。
さらに、図6に示すように、一対の処置具片の回動中心(鉗子回動軸13の中心軸線)とリンク部材の基端部の位置(接続回動軸19Aの回動中心の位置)とを結んだ線分を基端部の進退軸に射影した長さL1は、当該回動中心とリンク部材の先端部の位置(リンク回動軸16の回動中心の位置)とを結ぶ線分を基端部の進退軸上に射影した長さL2よりも短くなるように設定されている。なお、図6の詳細については後述する。
【0049】
このような構成により、接続部材19と各リンク部材15、17、および第1鉗子片11および第2鉗子片12は、いわゆるトグル機構として機能する。したがって、把持部14が閉じられた状態から、さらに操作部材20に対して後退させる方向に操作入力を行うことで、各リンク部材15、17と、第1鉗子片11および第2鉗子片12とが弾性変形し、接続部材19と連結された各リンク部材の基端部15B、17Bは、操作部材20の軸線X1に沿って移動する。すなわち、基端部の進退軸は、軸線X1と平行(略平行を含む。)である。このとき、把持部14が閉じた外見はほとんど変化しないが、把持部14に生じる把持力が増大される。
【0050】
上述した把持力増大の詳細について説明する。図6には、第1鉗子片11、鉗子回動軸13、リンク部材15、リンク回動軸16、接続回動軸19A、および操作部材20を模式的に示している。図6に示すように、操作部材20に操作入力Fiを作用させて後退させると、接続回動軸19Aが後退して基端部の進退軸とリンク部材15とが基端側でなす角度αが大きくなり、リンク回動軸16を操作部材20の軸線から離間させる方向に移動させる力Fbが生じる。力Fbは第1鉗子片11および第2鉗子片12を鉗子回動軸13回りに回動させるように作用し、最終的に把持部において出力Foが発生する。
なお、図6に示すlaおよびlbは、各鉗子片において、鉗子回動軸13より基端側の領域の長さおよび鉗子回動軸13より先端側の領域の長さを、角度βは、接続回動軸19Aの進退軸と、鉗子回動軸13とリンク回動軸16とを結ぶ直線とがなす角度を指す。また、第2鉗子片12等は図示していないが、同様に出力Foが発生する。
【0051】
第1鉗子片11および第2鉗子片12において把持部14に発生する作用する出力Foの大きさは、下記式(1)で表される。ここで、α、βは、度(°)単位で表した角度である。
【0052】
【数1】

【0053】
したがって、角度αが90度に近づくほど、出力Foは指数関数的に大きくなる。理論上は、出力Foを無限大にすることができるが、実際には、出力Foが所定の大きさ以上になると、各リンク部材15、17や第1鉗子片11および第2鉗子片12が塑性変形するため、これらの部材の降伏応力によって把持力の上限が規定される。
【0054】
カバー部材32に形成された長穴33の、形状や操作部材20の進退方向における寸法は、把持する対象物の形状と上記降伏応力を考慮して設定されている。そのため、対象物を把持した状態で、長穴33の基端に接続回動軸19Aが接触するまで操作部材20が後退されても各リンク部材15、17と第1鉗子片11および第2鉗子片12とは塑性変形を生じない。すなわち、長穴33は、接続回動軸19Aに連結された各リンク部材の基端部を操作部材20の軸線X1方向に沿って移動させるガイドとして機能するとともに、接続回動軸19Aと接触して操作部材20の最大後退量を規制するストッパとしても機能する。
【0055】
このような閉じ操作では、操作部材20の後退量によって、把持力の大きさが顕著に変化するため、操作部材20の後退量を正確に把握することが重要である。
また、閉じ操作では、把持部14に把持対象が把持されているため、例えば、手術用針や術具等の変形しにくい把持対象の場合、閉じ操作を行っても把持部14の閉じ量がほとんど変化しない。このため、把持部14の開き角を観察しているのみでは、把持対象への力のかかり具合を把握しにくい。
これに対して本実施形態では、操作者Opは操作者用ディスプレイ900aを見ながら、操作中に目盛線34を参照して表示マーク19aの移動量を把握できるため、閉じ操作時における把持力の増大の程度を容易に把握することができる。
【0056】
例えば、把持部14がちょうど閉じた状態では、移動表示部19Cの表示マーク19aは、図5(b)に二点鎖線で示すように、基準閉じ位置目盛34bの位置にあり、このとき、把持部14の把持力は0になっている。
この状態から、操作者Opが操作部材20を後退させると、把持部14の把持力は急峻に増大し、図5(b)に実線で示すように、移動表示部19Cが最大限後退して、表示マーク19aが把持力参照補助目盛34dに一致すると、把持力が最大となる。
【0057】
このように、把持部14が把持対象を把持していない場合には、基準閉じ位置目盛34bの位置が把持力の基準となるが、把持対象を把持している場合には、把持を開始して、把持部14の移動が止まった把持状態の表示マーク19aの位置が、把持力が0の基準位置となる。
例えば、手術用針のような高硬度の把持対象を把持したとき、表示マーク19aが基準閉じ位置目盛34bから1目盛ずれた開き位置補助目盛34cを指しているとすると、この開き位置補助目盛34cから目盛線34上で1目盛移動する間に、上記式(1)で示されるような把持力が増大していく。
したがって、把持対象に好適な把持力が、例えば1/2目盛であることが分かっている場合、操作者Opは、操作を行いながら表示マーク19aの位置を観察することで、好適な把持力が得られる位置まで操作部材20を容易に後退させることができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の処置具1によれば、処置部10の第1鉗子片11、第2鉗子片12、各リンク部材15、17、および接続部材19でトグル機構が構成されるため、把持部14が閉じた状態からさらに操作部材20を後退させる操作入力を行うことで、比較的小さな操作入力であっても、把持部に生じる把持力を効率よく増大させることができる。
また、処置部10に移動表示部19Cと目盛線34とが設けられているため、操作中に移動表示部19Cと目盛線34とを見ながら、処置部10の把持部14の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができる。
その際、移動表示部19Cは、操作部材20で操作してトグル機構を駆動する接続回動軸19Aに固定している。このため、把持部14が閉じた状態または把持部14の閉じ方向の移動が停止した状態からの移動表示部19Cの移動量が、例えば、パンタグラフ機構を操作する操作部材の先端に移動表示部を設ける場合に比べて大きくなる。このため、移動表示部19Cの移動量によって、把持力の変化をより細かく把握することができる。
【0059】
また、操作入力Fiが作用する接続回動軸19Aには、操作部材20の軸線から離間させるように出力Foの反力が作用するが、本実施形態の各リンク部材15、17は、接続回動軸19Aの移動方向に対して略左右対称に配置されている。上記のような略対称な配置のため、接続回動軸19Aは、把持部14の開閉方向においてリンク回動軸16、18のほぼ中間に位置し、各リンク回動軸に作用する出力Foの反力は、概ね正反対の方向に作用する結果、打ち消しあってほぼゼロとなる。
したがって、長穴33に挿通された接続回動軸19Aが長穴33の内面に強く押し付けられることはなく、大きな摩擦が発生することが抑制される。
【0060】
[第1変形例]
次に、本実施形態の第1変形例について説明する。
図7(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の第1変形例の医療用処置具の処置部が閉じた状態、および開いた状態を示す模式的な正面図である。
【0061】
本変形例の処置具1A(医療用処置具)は、図7(a)に示すように、上記第1の実施形態の処置具1の処置部10に代えて、処置部10Aを備え、上記第1の実施形態と同様に、図1に示す医療用マニピュレータシステムの処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着して用いることができるものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0062】
処置部10Aは、上記第1の実施形態の処置部10の移動表示部19C、目盛線34に代えて、移動表示部36(表示部材)、遮蔽部35(参照指標部)を備える。
移動表示部36は、移動表示部19Cから表示マーク19aを削除したものである。ただし、移動表示部36の厚さは、移動表示部36の表面がカバー部材32の外側に出ない寸法となっている。
遮蔽部35は、カバー部材32の表面において、各段穴部33aおよび長穴33の基端側(把持部14と反対側)の開口を覆うものであり、段穴部33aおよび長穴33上の先端側に、移動表示部36の移動方向に直交する直線状の遮蔽端35aが形成されている。
遮蔽部35の材質は、移動表示部36が透けて見えない程度に不透明な適宜材質からなる。本実施形態では、金属製の薄板をカバー部材32上に接着または溶接している。
【0063】
遮蔽端35aの位置は、把持部14がちょうど閉じられた際の移動表示部36(図7(a)、(b)の二点鎖線参照)の最も先端側の外縁部に一致させる。
このため、図7(b)に示すように、把持部14が開いている間のみ、移動表示部36の一部が遮蔽端35aから先端側に突出して見える。その際、遮蔽端35aからの移動表示部36の突出量が、把持部14の開き角の大きさを表すことになる。
また、把持部14が閉じられている間は、移動表示部36の全体が遮蔽部35に覆われて隠される。
このため、移動表示部36は、連結部材である接続部材19の接続回動軸19Aの移動に連動して、遮蔽部35の内部から外部に進退する表示部材を構成している。
【0064】
このように、本変形例の処置部10Aによれば、操作者Opは、遮蔽部35の遮蔽端35aからの移動表示部36の突出量を見て、把持部14の開き角を把握することができる。移動表示部36の最大の突出量は、移動表示部36が、先端側の段穴部33aに略接する状態である。このため、操作者Opは、段穴部33aおよび遮蔽部35で形成された開口部に占める移動表示部36の比率をアナログ的に観察することで、把持部14の開き角や最大開き角までの余裕を把握することができる。
また、移動表示部36が見えない場合には、把持部14が閉じられていることを把握することができる。
また、本変形例では、把持部14を閉じた状態から把持力が増大する様子は、移動表示部の動きが見えなくなるため、把握できないが、把持部14が把持対象を把持してから把持力を増大させる場合には、遮蔽端35aからの突出量の減少を観察することで、把持力の増大を把握することができる。
このようにして、本変形例では、操作中に処置部10Aを見ながら、処置部10Aの把持部14の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができる。
【0065】
[第2変形例]
次に、本実施形態の第2変形例について説明する。
図8(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の第2変形例の医療用処置具の処置部が開いた状態、および閉じた状態を示す模式的な正面図である。
【0066】
本変形例の処置具1B(医療用処置具)は、図8(a)に示すように、上記第1変形例の処置部10Aに代えて、処置部10Bを備え、上記第1変形例と同様に、図1に示す医療用マニピュレータシステムの処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着して用いることができるものである。
以下、上記第1変形例と異なる点を中心に説明する。
【0067】
処置部10Bは、上記第1変形例の処置部10Aの遮蔽部35の配置位置を、各段穴部33aにおいて最も先端側に移動した移動表示部36をちょうど覆って隠す先端側の位置に変えたものである。
すなわち、本変形例における遮蔽部35は、把持部14が最大限開かれた際の移動表示部36(図8(a)の破線参照)の全体を覆っており、遮蔽端35aは、この位置の移動表示部36の最も基端側の外縁部の位置に一致されている。
このため、図8(b)に示すように、把持部14が最大開き角よりも小さい角度で開かれている場合に、開き角に応じて、移動表示部36の一部が遮蔽端35aから基端側に突出して見える。その際、遮蔽端35aからの移動表示部36の突出量が、把持部14の開き角の大きさを表すことになる。
また、本変形例では、把持部14が閉じられてから、移動表示部36が、段穴部33aの基端側まで移動するため、この移動量を遮蔽端35aからの突出量の変化として把握することも可能である。
【0068】
このように、本変形例の処置部10Bによれば、操作者Opは、遮蔽部35の遮蔽端35aからの移動表示部36の突出量を見て、把持部14の把持力の増大を把握することができる。移動表示部36の最大の突出量は、移動表示部36が、先端側の段穴部33aに略接する状態である。このため、操作者Opは、段穴部33aおよび遮蔽部35で形成された開口部に占める移動表示部36の比率をアナログ的に観察することで、アナログ的に把持部14の開き角や把持力の増大限度までの余裕を把握することができる。
また、移動表示部36が見えない場合には、把持部14の開き角が最大であることを把握することができる。
このようにして、本変形例では、操作中に処置部10Bを見ながら、処置部10Bの把持部14の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができる。
尚、本変形例では、遮蔽部35の配置位置を、各段穴部33aにおいて最も先端側に移動した移動表示部36をちょうど覆って隠す位置としているが、把持部14が把持を開始した位置(例えば針を把持した位置)に移動した移動表示部36をちょうど覆って隠す位置とし、突出量によりどれくらい負荷がかかっているかわかるようにしても良い。
【0069】
[第3変形例]
次に、本実施形態の第3変形例について説明する。
図9は、本発明の第1の実施形態の第3変形例の医療用処置具の処置部を示す模式的な正面図である。
【0070】
本変形例の処置具1C(医療用処置具)は、図9に示すように、上記第1の実施形態の処置具1の処置部10に代えて、処置部10Cを備え、上記第1の実施形態と同様に、図1に示す医療用マニピュレータシステムの処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着して用いることができるものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0071】
処置部10Cは、上記第1の実施形態の処置部10の目盛線34に代えて、スケールマーク37(参照指標部、参照スケール)を備える。
スケールマーク37は、カバー部材32に対する移動表示部19Cの相対移動量を参照するため参照スケールである。
スケールマーク37は、カバー部材32の表面において、段穴部33aの短手方向に対向する位置に対をなして形成された三角マーク37A、37Bからなる。
三角マーク37Aは、頂点aを有する直角と頂点bを有する一つの鋭角とで挟まれた辺が段穴部33aの長手方向に配置された直角三角形である。頂点aは上記第1の実施形態における最大開き位置目盛34aの位置、頂点bは基準閉じ位置目盛34bの位置となるように、それぞれ配置されている。
三角マーク37Bは、頂点dを有する直角と頂点cを有する一つの鋭角とで挟まれた辺が段穴部33aの長手方向に配置された直角三角形である。頂点cは上記第1の実施形態における基準閉じ位置目盛34bの位置、頂点dは把持力参照補助目盛34dの位置となるように、それぞれ配置されている。このため、頂点cは、三角マーク37Aの頂点bと一致されている。
【0072】
このような構成により、表示マーク19aが三角マーク37Aの領域に位置することは、上記第1の実施形態において、表示マーク19aが最大開き位置目盛34aと基準閉じ位置目盛34bとの間に位置することと同じである。
また、表示マーク19aが三角マーク37Bの領域に位置することは、上記第1の実施形態において、表示マーク19aが基準閉じ位置目盛34bと把持力参照補助目盛34dとの間に位置することと同じである。
また、三角マーク37Aでは、頂点bから頂点aに向かうにつれて、斜辺が段穴部33aから離れる方向に傾斜しているため、表示マーク19aが示す位置における斜辺の高さの変化が、把持部14の開き角の増大傾向に対応している。
また、三角マーク37Bでは、頂点cから頂点dに向かうにつれて、斜辺が段穴部33aから離れる方向に傾斜しているため、表示マーク19aが示す位置における斜辺の高さが、把持部14の把持力増大傾向に対応している。
【0073】
したがって、操作者Opは、操作者用ディスプレイ900aを見て、移動表示部19Cの表示マーク19aの相対移動量や移動位置を、スケールマーク37の頂点や斜辺の高さの変化を参照することによって、視覚的に把握することができる。
したがって、上記第1の実施形態と同様に操作者Opは、操作を行いながら、操作対象および把持部14が表示されている操作者用ディスプレイ900aから目を離すことなく把持部14の開き角を正確に把握することができるため、微妙な操作であっても、操作対象を監視しつつ円滑に操作を続けることができる。
上記第1の実施形態の目盛線34が、相対移動量を段階的に把握しやすい離散的なスケールの場合の例であるのに対して、本変形例のスケールマーク37は、相対移動量を視覚的に把握しやすいアナログ的なスケールの例になっている。
【0074】
[第4変形例]
次に、本実施形態の第4変形例について説明する。
図10(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の第4変形例の医療用処置具の処置部を示す模式的な正面図、およびそのA視の側面図である。
【0075】
本変形例の処置具1D(医療用処置具)は、図10(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の処置具1の処置部10に代えて、処置部10Dを備え、上記第1の実施形態と同様に、図1に示す医療用マニピュレータシステムの処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着して用いることができるものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0076】
処置部10Dは、上記第1の実施形態の処置部10のカバー部材32、目盛線34、移動表示部19Cに代えて、カバー部材32A(基体)、目盛線39(参照指標部、参照スケール)、移動表示部38を備えたものである。
【0077】
カバー部材32Aは、上記第1の実施形態のカバー部材32の先端側(把持部14が設けられた側)を、トグル機構を挟んで平行に対向する平板状の先端カバー部32bによって形成し、基端側をシース部30が接続可能な円筒状の基端カバー部32aによって形成したものである。
先端カバー部32bの正面視の形状は、図10(a)に示すように、基端側から基端カバー部32aと同幅の板状部が、先端側に向かって長穴33の長手方向の直線部分と略同程度の位置まで延ばされ、より先端に向かうにつれて縮幅され、鉗子回動軸13の近傍で一定幅とされている。
このため、各先端カバー部32bの基端側の側面には、長穴33の長手方向に平行な平面からなる平面側面部32cが形成されている。
【0078】
目盛線39は、図10(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の目盛線34における最大開き位置目盛34a、基準閉じ位置目盛34b、開き位置補助目盛34c、および把持力参照補助目盛34dをそれぞれ平面側面部32cまで延長した平行線群である、最大開き位置目盛39a、基準閉じ位置目盛39b(閉状態開始位置参照指標)、開き位置補助目盛39c、および把持力参照補助目盛39d(閉じ力参照指標)を備える。
ただし、開き位置補助目盛39cおよび把持力参照補助目盛39dは、最大開き位置目盛39a、基準閉じ位置目盛39bと視覚的に区別できるように、線幅が細くなっている。より視覚的に区別しやすいように、色を変えたり、互いの線種を変えたりしてもよい。目盛線39の形成方法は、目盛線34と同様の方法を採用することができる。
【0079】
各移動表示部38は、上記第1の実施形態の移動表示部19Cの厚さを変更して、先端面38aと、側面38cの一部とが先端カバー部32bから側方に突出する形状とされ、先端面38aの稜線が面取りされた円板状に形成されている。
各移動表示部38の先端面38aには、表示マーク19aと同様な直線状の表示マーク38bが形成されている。表示マーク38bの両端部には、側面38cの母線方向に延ばされた直線状の表示マーク38dが形成されている。このため、表示マーク38b、38dは、同一平面に整列されている。
【0080】
このような構成により処置部10Dによれば、先端カバー部32bを見ると、接続回動軸19Aの移動に伴って各移動表示部38の先端面38aの表示マーク38bが移動するのが見える。このため、これら表示マーク38bの相対移動量や移動位置を、先端カバー部32b上の目盛線39を参照することによって把握することができる。
また、平面側面部32cを見ると、接続回動軸19Aの移動に伴って各移動表示部38の側面38cの表示マーク38dが移動するのが見える。このため、これら表示マーク38dの相対移動量や移動位置を、目盛線39を参照することによって把握することができる。
このように、本変形例では、処置部10Dの周囲を構成する各先端カバー部32b、および各平面側面部32cのいずれかが、操作者用ディスプレイ900aに表示されていれば、操作者Opは、移動表示部39の相対移動量や移動位置を把握することができる。
この結果、処置部10Dが操作によって姿勢を変えても、操作者用ディスプレイ900a上に、移動表示部38の表示マーク38b、38dのいずれかの部分と、目盛線39のいずれかが表示される可能性がきわめて高くなる。したがって、操作者用ディスプレイ900aに視野領域を変更することなく把持部14の開き角や力のかかり具合を把握することができるため、操作対象を見易い位置で監視しつつ円滑に操作を続けることができる。
【0081】
[第5変形例]
次に、本実施形態の第5変形例について説明する。
図11は、本発明の第1の実施形態の第5変形例の医療用処置具の処置部を示す模式的な正面図である。
【0082】
本変形例の処置具1Eは、図11に示すように、上記第1の実施形態の処置具1の処置部10に代えて、処置部10Eと、処置部10Eを回動駆動するロボット関節51とを備え、上記第1の実施形態と同様に、図1に示す医療用マニピュレータシステムの処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着して用いることができるものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0083】
処置部10Eは、上記第1の実施形態の処置部10のシース部30を削除し、カバー部材32に代えて、ロボット関節51の関節部52に連結する関節連結部50aを有するカバー部材50を備えたものである。
ロボット関節51は、図示略の基端部にスレーブアーム200a〜200dと連結する連結部を有し、図11に示す先端部に、処置部10Eの関節連結部50aと連結する関節部52が設けられている。
関節部52は、本変形例では、図示略のワイヤ操作などによって、処置部10Eを図11の紙面内で回動させることができるようになっている。
【0084】
本変形例の処置具10Eは、処置具がロボット関節51等の関節部を備えた場合の例になっており、移動表示部19Cと目盛線34との作用による効果は上記第1の実施形態と同様である。
【0085】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図12(a)、(b)、(c)は、本発明の第2の実施形態の医療用処置具の処置部が開いた状態、閉じた状態、および閉じて把持力を増大させた状態を示す模式的な部分断面図である。
【0086】
本実施形態の処置具1F(医療用処置具)は、図12(a)に示すように、上記第1の実施形態の処置部1の処置部10に代えて、処置部10Fを備え、上記第1の実施形態と同様に、図1に示す医療用マニピュレータシステムの処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着して用いることができるものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0087】
処置部10Fは、上記第1の実施形態の処置部10の把持部14の開閉を、トグル機構に代えてパンタグラフ機構によって行うとともに移動表示部を変形したものである。
このため、処置部10Fは、上記第1の実施形態の処置部10の第1鉗子片11、第2鉗子片12、カバー部材32に代えて、第1鉗子片61(処置具片)、第2鉗子片62(処置具片)、カバー部材63(基体)を備え、移動表示部19Cを削除したものである。
【0088】
第1鉗子片61および第2鉗子片62は、把持部14を構成する一対の鉗子片(処置具片)であり、それぞれ第1鉗子片11、第2鉗子片12と同様の先端部を有し、基端側が第1鉗子片11、第2鉗子片12と反対方向に屈曲され、中心部で互いにX字状に交差した状態で、鉗子回動軸13により互いに回動可能に連結されている。
また、第1鉗子片61の基端側の端部は、リンク部材17の先端部17Aとリンク回動軸18を介して回動可能に連結されている。
また、第2鉗子片62の基端側の端部は、リンク部材15の先端部15Aとリンク回動軸16を介して回動可能に連結されている。
【0089】
リンク部材15、17の基端部15B、17Bは、上記第1の実施形態と同様に図示略の接続部材19によって操作部材20と連結されている。
ただし、本実施形態では、パンタグラフ機構を構成するため、基端部15B、17Bの進退軸において、接続回動軸19Aの位置は、リンク回動軸16、18よりも基端側(鉗子回動軸13の反対側)に位置している。
【0090】
カバー部材63は、上記第1の実施形態のカバー部材32を本実施形態のパンタグラフ機構を収容できる形状に変えるとともに、段穴部33aを削除したものである。
このため、本実施形態の目盛線34は、長穴33の長手方向に沿って、長穴33の短手方向に対向する位置に対をなして設けられている。
また、目盛線34は、上記第1の実施形態と同様に、最大開き位置目盛34a、基準閉じ位置目盛34b、開き位置補助目盛34c、把持力参照補助目盛34dを備えるが、各目盛の位置、目盛間隔、目盛本数は、本実施形態の接続回動軸19Aの移動範囲に基づいて、適宜変更している。
また、本実施形態では、接続回動軸19Aが長穴33内に延在されるとともに、接続回動軸19Aの端部に、カバー部材63に対する移動量がカバー部材63の外部から視認できるように表示マーク19aを形成されている。すなわち、本実施形態では、接続回動軸19Aの端部は移動表示部を構成している。
また、カバー部材63の基端部には、図示を省略しているが、上記第1の実施形態の処置具1と同様にシース部30が接続されている。
【0091】
このような構成により、処置部10Fでは、図12(a)に示すように、操作部材20を先端側に進出させることにより、カバー部材63の先端側から突出された把持部14が開かれる。このとき、接続回動軸19Aが長穴33内で最大限先端側に移動すると、接続回動軸19Aの表示マーク19aは、目盛線34における最大開き位置目盛34aと整列する位置に移動する。
また、操作部材20を基端側に後退させることにより、把持部14が閉じられる。図12(b)に示すように、把持部14がちょうど閉じられて把持部14間に把持力が発生しない状態では、表示マーク19aは、目盛線34における基準閉じ位置目盛34bと整列する位置に移動する。
表示マーク19aが、最大開き位置目盛34aおよび基準閉じ位置目盛34bの間に位置している状態では、基準閉じ位置目盛34bからの表示マーク19aの距離に応じて、把持部14の開き角が変化する。操作者Opは、開き位置補助目盛34cを参照して表示マーク19aの位置を把握することにより、把持部14の開き角を把握することができる。
さらに基端側に、操作部材20を後退させると、第1鉗子片61および第2鉗子片62が弾性変形して、把持部14同士が互いに加圧される結果、把持力が増大する。その際、操作者Opは、把持力参照補助目盛34dを参照して表示マーク19aの位置を把握することにより、把持部14に加わる把持力を把握することができる。
【0092】
このように、把持部14の開閉機構がパンタグラフ機構に変更されても、処置具1Fの処置部10Fによれば、処置部10Fのカバー部材63に移動表示部である接続回動軸19Aと目盛線34とが外部から見えるように設けられているため、操作中に処置部10Fを見ながら、処置部10Fの把持部14の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができる。
【0093】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図13(a)、(b)は、本発明の第3の実施形態の医療用処置具の処置部の模式的な正面図、および模式的な断面図である。
【0094】
本実施形態の処置具41は、図13(a)、(b)に示すように、一対の鉗子片のうち一方だけが回動可能である点が、上記第1の実施形態の処置具1と異なる。処置部41は、上記第1の実施形態と同様に、図1に示す医療用マニピュレータシステムの処置具240a〜240dとしてスレーブアーム200a〜200dに装着して用いることができるものである。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0095】
処置具41では、図13(b)に示すように、一対の鉗子片のうち、第1鉗子片に相当する鉗子片部43Aを有するカバー部材43(基体)を備えており、第2鉗子片12のみが鉗子回動軸13回りに回動可能とされている。そのため、リンク部材15およびリンク回動軸16を備えていない。
鉗子片部43Aおよび第2鉗子片12において、鉗子回動軸13より先端側でカバー部材43の先端側に突出された部分は、第2鉗子片12の回動によって開閉する把持部45を構成している。
【0096】
操作部材44は、所定の剛性を有するロッドであり、先端部が接続回動軸19Aを介してリンク部材17と連結されている。鉗子片部43Aと第2鉗子片12とが接触して閉じられた状態におけるリンク部材17の先端部17Aと基端部17Bの位置関係や、リンク部材17の連結長等は、処置具1と概ね同様に設定されている。
【0097】
カバー部材43には、上記第1の実施形態と同様に、接続回動軸19Aの進退方向に沿って長穴33および段穴部33aが設けられている。操作部材44の最大後退量は、第2鉗子片12やリンク部材17が塑性変形したり、接続回動軸19Aがリンク回動軸18よりも基端側に移動したりしない値に設定されている。
また、カバー部材43の表面において、段穴部33aの短手方向の側方には、上記第1の実施形態と同様に、最大開き位置目盛34a、基準閉じ位置目盛34b、開き位置補助目盛34c、把持力参照補助目盛34dを備える目盛線34が形成されている。
ただし、本実施形態の目盛線34は、各目盛の位置、目盛間隔、目盛本数は、本実施形態のトグル機構における移動表示部19Cの移動範囲に基づいて適宜変更している。
【0098】
このように構成された処置具41は、処置具1同様、操作部材44を前進させると、図7に示すように把持部45が開く。そして、把持部45が閉じた後、さらに操作部材44を後退させる操作入力を行うことで、把持部45に生じる把持力を増大させることができる。
ここで、操作部材44には、リンク回動軸18に作用する出力Foの反力Pが、接続回動軸19Aを操作部材44の軸線X2から離間させようとする方向に作用する。操作部材44の所定の剛性は、操作部材44の操作範囲内における最大の反力に対して変形しない程度に設定されているため、把持力を増大させるときにおいても、接続回動軸19Aは、当該反力に抗して操作部材44の軸線X2に沿って移動する。
【0099】
このように、本実施形態の処置具41においても、上記第1の実施形態の処置具1同様、操作部材を後退させる操作入力を行うことで、比較的小さな操作入力であっても、把持部に生じる把持力を効率よく増大させることができる。
また、移動表示部19C、目盛線34は、上記第1の実施形態の処置具1と同様に作用する。すなわち、操作者Opは操作者用ディスプレイ900aを見て、目盛線34を参照して表示マーク19aの移動量を把握できるため、操作対象および把持部45が表示されている操作者用ディスプレイ900aから目を離すことなく把持部45の開き角を把握したり、閉じ操作時における把持力の増大の程度を容易に把握したりすることができる。このため、微妙な操作であっても、操作対象を監視しつつ円滑に操作を続けることができる。
【0100】
以上、本発明の各実施形態および変形例について説明したが、本発明の技術範囲は上記各実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したり、各実施形態の構成を組み合わせたりすることが可能である。
【0101】
例えば、上記の各実施形態および各変形例の説明では、一対の処置具片が共通の回動軸に支持された例を説明したが、一対の鉗子片が、それぞれ異なる回動軸に支持されてもよい。この場合、一対の処置具片の回動中心を分けることにより、図5に示す角度βをより小さくすることができ、把持部に発生する出力Foを向上させることができる。
【0102】
また、本発明の処置具における処置部は、一対の処置具片が閉じる方向への力量が増大されるものに限られない。
例えば、以下のような構成例を挙げることができる。
一対の処置具片の一端部を鉗子回動軸13によって回動可能に連結して、他端部が開閉動作可能な構造を形成する。各処置具片の一端部と他端部との間の中間部にリンク回動軸16、18を設け、これらリンク回動軸16、18に、上記第1の実施形態と同様にして、リンク部材15、17の先端部15A、17Aを接続する。また、接続回動軸19Aを介してリンク部材15、17の基端部15B、17Bを接続部材19に接続し、さらに接続部材19に操作部材20を固定する。その際、接続回動軸19Aをリンク回動軸16、18と、鉗子回動軸13との間に位置させ、操作部材20を鉗子回動軸13側に向かって延ばしておく。
このような構成によれば、操作部材20を進退させるによって、一対の処置具片が開閉され、操作部材20をリンク回動軸16、18側に進出させたときに、各処置具片の先端(他端部)が外側に開き、トグル機構の作用によって、開く方向への力量を増大させることができる。
このような構成は、例えば、処置部を生体組織の隙間等に挿入し、操作部材20を前進させることで、一対の処置具片を開き、生体組織を押し広げる、といった処置具として好適に用いることができる。
【0103】
また、上記の各実施形態および各変形例の説明では、長穴や段穴部に収容された移動表示部が少なくとも一部が基体の外側に露出することで、移動表示部の移動量が外部から見える場合の例で説明したが、移動表示部の移動する様子が外部から見えれば、例えば透明カバーなどによって、移動表示部を覆った構成としてもよい。
【0104】
また、上記の各実施形態および各変形例の説明では、基準閉じ位置目盛34bが、把持部が被把持体を把持していないとき、把持力0で把持部が閉じられている位置に設けられた場合の例で説明したが、所定の開き角となる位置を基準位置とし、この基準位置が分かるように目盛を設けておくことができる。
このような構成によれば、被把持体の大きさや形状が決まっていたり、把持部の把持開始時の開き角が決まっていたりする場合に、操作が容易となり好都合である。
【0105】
また、上記の各実施形態および各変形例の説明では、長穴33が接続回動軸19Aの移動ガイドと、接続回動軸19Aの移動範囲を規制するストッパとの機能を兼ねている場合の例で説明したが、接続回動軸19Aの移動軌跡と移動範囲とが他の手段によって規制することができれば、長穴33は、接続回動軸19Aと接触することなく挿通させる穴部として設けてもよい。
例えば、操作部材の剛性を適宜に設定し、例えば、シース部等によって操作ガイドの移動ガイドを兼ねる構成とすれば、接続回動軸19Aの移動ガイドやストッパは省略することができ、長穴33と接続回動軸19Aが接触しない構成することができる。
この場合、接続回動軸19Aと長穴33との間が摺動しないため、進退時の操作力を低減することができ、摺動摩耗も低減することができる。
【0106】
また、上記の各実施形態および各変形例の説明では、処置具が医療用マニピュレータシステムにおけるマニピュレータに設けられる場合の例で説明したが、本発明の処置具は、処置具はマニピュレータに接続する態様には限定されず、マニピュレータに接続しない処置具としても用いることが可能である。
【0107】
また、上記の各実施形態および各変形例の説明では、移動表示部および参照指標部が2箇所以上に設けられた場合の例で説明したが、操作者が操作中に視認することができれば、それぞれ1箇所のみに設けられていてもよい。
また、上記の各実施形態および各変形例において、移動表示部および参照指標部を拡大表示できる機構、例えばレンズをそれらの部分に設けてもよい。これにより、視認性が向上し、細径の処置具であっても処置部の開閉量や力のかかり具合を容易に把握することができる。
【0108】
また、上記の第1の実施形態の第3変形例の説明では、参照スケールがアナログ的なスケールである場合の例として、三角マーク37A、37Bのように形状がアナログ的に変化する例を説明したが、他のアナログ的なスケールとして、色や色の濃度が一定方向に変化するカラーバーを採用してもよい。
【0109】
また、上記の第2の実施形態の説明では、接続回動軸19Aの端部に表示マーク19aが形成され、接続回動軸19Aが移動表示部を兼ねる場合の例で説明したが、この変形は、リンク部材がトグル機構を構成するかパンタグラフ機構を構成するかによらず適用可能である。したがって、上記第1の実施形態において、移動表示部19Cに代えて接続回動軸19Aの端部に表示マーク19aを設けた構成を採用してもよい。また、上記第2の実施形態において、移動表示部19Cを用いた構成としてもよい。
【0110】
以下、上記の各実施形態および各変形例の構成要素を組み合わせて得られる他の変形例について説明する。
例えば、上記第 1の実施形態における目盛線34を、上記第1、第2変形例のカバー部材および遮蔽部35の上に追加した構成とすることができる。この場合、移動表示部36の突出量をより正確に把握することが可能である。
【0111】
また、例えば、上記第1変形例と第2変形例とを組合せることで、以下のような変形例を構成することができる。
この変形例では、遮蔽部35の幅を移動表示部19Cの幅に合わせておき、移動表示部19Cが適宜の基準位置、例えば、第1の実施形態において表示マーク19aが基準閉じ位置目盛34bに整列する位置、に移動したとき、ちょうど移動表示部19Cが覆われる位置に設置する。
このような変形例によれば、移動表示部19Cが先端側に突出して見えれば、突出量が把持部14の開き角に対応している。また、移動表示部19Cが基端側に突出して見えれば、突出量が把持部14の把持力の増大に対応している。
【符号の説明】
【0112】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F、41、240a、240b、240c、240d 処置具(医療用処置具)
10、10A、10B、10C、10D、10E、10F 処置部
11、61 第1鉗子片(処置具片)
12、62 第2鉗子片(処置具片)
14、45 把持部
15、17 リンク部材
15A、17A 先端部(第一の端部)
15B、17B 基端部(第二の端部)
19 接続部材(連結部材)
19A 接続回動軸
19C、36、38 移動表示部
19a、38b、38d 表示マーク
20、44 操作部材
32、32A、43、63 カバー部材(基体)
33 長穴(貫通孔)
33a 段穴部
34、39 目盛線(参照指標部、参照スケール)
34a、39a 最大開き位置目盛
34b、39b 基準閉じ位置目盛(閉状態開始位置参照指標)
34c、39c 開き位置補助目盛
34d、39d 把持力参照補助目盛(閉じ力参照指標)
35 遮蔽部(参照指標部)
35a 遮蔽端
36 移動表示部(表示部材)
37 スケールマーク(参照指標部、参照スケール)
200a、200b、200c、200d スレーブアーム(マニピュレータ)
900a 操作者用ディスプレイ
900b 助手用ディスプレイ
X1、X2 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が基体に対して回動可能に支持された一対の処置具片を有する処置部と、
前記基体に対して自身の軸線方向に進退することにより前記一対の処置具片を回動させて開閉させる操作部材と、
回動可能な前記処置具片に第一の端部が連結され、第二の端部が前記操作部材に連結されたリンク部材と、
前記第二の端部において、前記リンク部材と前記操作部材とを連結する連結部材と、
前記操作部材の進退方向における前記連結部材の移動と連動して移動し、前記基体に対する移動量が該基体の外側から視認できるように設けられた移動表示部と、
前記基体に設けられ、前記基体に対する前記移動表示部の相対移動量を参照する参照指標部と、
を備えることを特徴とする医療用処置具。
【請求項2】
前記移動表示部は、
前記基体に設けられた貫通孔部内に移動可能に挿通された前記連結部材に設けられ、
前記参照指標部は、
前記貫通孔部の周囲または前記貫通孔部上に設けられた参照スケールであることを特徴とする請求項1に記載の医療用処置具。
【請求項3】
前記参照指標部は、
前記基体の表面の一部を覆う遮蔽部を有し、
前記移動表示部は、
前記連結部材の移動に連動して、前記遮蔽部の内部から外部に進退する表示部材を有し、
前記遮蔽部からの前記表示部材の進退量によって、前記移動表示部の移動量を表示できるようにした
ことを特徴とする請求項1または2に記載の医療用処置具。
【請求項4】
前記参照指標部は、
前記一対の処置具片が閉じられた状態が開始される前記移動表示部の位置を参照する閉状態開始位置参照指標と、
前記一対の処置具片が閉じられた状態で、前記一対の処置具片間の閉じ力の増大に対応する前記移動表示部の位置変化を参照する閉じ力参照指標と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用処置具。
【請求項5】
前記第二の端部の進退軸は、前記操作部材の軸線と平行であり、
前記第二の端部の進退軸と第一の端部との距離は、前記リンク部材の長さより短く、
前記第二の端部と前記一対の処置具片の回動中心とを結んだ線分を前記進退軸に射影した長さは、前記第一の端部と前記回動中心を結んだ線分を前記進退軸に射影した長さよりも短い
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用処置具。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用処置具を備える
ことを特徴とするマニピュレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−99409(P2013−99409A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244385(P2011−244385)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超低侵襲治療機器システムの研究開発/内視鏡下手術支援システムの研究開発プロジェクト」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】