説明

医療用排液用具

【課題】排液量を正確に把握できる医療用排液用具を提供すること。
【解決手段】医療用排液用具1は、接続用チューブ11と、接続用チューブ11に接続され、中空の弾性体であるポンプ121を含む吸引器12と、吸引器12のポンプ121に接続され、接続用チューブ11およびポンプ121を介して吸引した排液を貯留する貯留バッグ13と、ポンプ121から貯留バッグ13へ流れる気体および排液を通すとともに、前記貯留バッグ13からポンプ121への気体および排液の流れを防止する逆止弁17とを備える。接続用チューブ11には、接続用チューブ11内へ気体を供給する気体供給手段15が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用排液用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体の創腔等から排液を吸引、貯留するための医療用排液用具が利用されている。たとえば、特許文献1に開示された医療用排液具を図4に示す。この特許文献1には、吸引器91と、この吸引器91に接続される収集バッグ92とを含んで構成される医療用排液用具90が開示されている。吸引器91には、チューブ93が接続されている。
【0003】
この医療用排液用具90では、吸引器91を圧搾した後、圧搾を解除すると、吸引器91が戻ろうとする復元力が発生する。この復元力により負圧が発生し、創腔等から排液が吸引されることとなる。吸引された排液は、吸引器91を介して収集バッグ92に貯留される。具体的には、吸引器91内部の排液は、自重により収集バッグ92内部に落下する。
なお、収集バッグ92の排液の流入口には、バルブ部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−115556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された医療用排液用具90には、さらなる改良の余地があることがわかった。この点について以下に説明する。
前述したように、吸引器91を圧搾し、この圧搾を解除すると、吸引器91およびチューブ93内は、負圧となる。収集バッグ92の排液の流入口には、バルブ部材が設けられているため、収集バッグ92が吸引器91に取り付けられた状態で、吸引器91を圧搾しても、収集バッグ92内部の圧力に変動はない。したがって、吸引器91内部は、負圧となる一方、収集バッグ92側は吸引器91内部に比べて陽圧となる。また、特許文献1には、吸引器91を圧搾し、圧搾を解除した後、収集バッグ92を吸引器91に取り付ける使用方法も開示されているが、この使用方法を実施した場合においても、吸引器91内部は、負圧となる一方、収集バッグ92側は吸引器91内部に比べて陽圧となる。
そのため、吸引器91内部の排液が収集バッグ92へ落下しにくくなる。
【0006】
これに加え、吸引器91内部から収集バッグ92へ排液が排出されると、排液の体積分だけ、吸引器91内部の気圧は低下する。一方で、収集バッグ92内部には排液がたまっていくので収集バッグ92の内部の気圧は高くなる。これによっても、排液が吸引器91側から収集バッグ92側に落下しにくくなる。
以上のように、吸引器91内部の排液を、収集バッグ92に排出しにくくなるため、収集バッグ92に貯留された排液量を計測しても、実際に人体等から排出された排液の量を正確に把握することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、排液を吸引および貯留する医療用排液用具であって、カテーテルに接続される接続用チューブと、前記接続用チューブに接続される中空の弾性体を含んで構成される吸引器と、前記吸引器の前記中空の弾性体に接続され、前記接続用チューブおよび前記中空の弾性体を介して吸引した排液を貯留する貯留バッグと、前記吸引器の前記中空の弾性体から前記貯留バッグへ流れる気体および排液を通すとともに、前記貯留バッグから前記吸引器の前記中空の弾性体への気体および排液の流れを防止する逆止弁とを備え、前記接続用チューブには、前記接続用チューブ内へ気体を供給する気体供給手段が接続されている医療用排液用具が提供される。
【0008】
この医療用排液用具では、吸引器の中空の弾性体を圧搾した後、圧搾を解除すると、前記接続チューブ内および前記中空の弾性体内部は負圧となる。これにより、排液が接続用チューブおよび前記中空の弾性体内部に吸引されることとなる。そして、前記弾性体内部に吸引された前記排液は、逆止弁を介して、前記貯留バッグに貯留される。この逆止弁は、中空の弾性体から前記貯留バッグへ流れる気体および排液を通すとともに、前記貯留バッグから前記中空の弾性体への気体および排液の流れを防止するものであるため、中空の弾性体を圧搾することにより、貯留バッグ内の気体が吸引器側に吸引されることはなく、貯留バッグ内の気圧は低下しない。
ここで、本発明では、接続用チューブに気体供給手段が接続されている。接続用チューブは、吸引器の中空の弾性体に接続されているため、気体供給手段により、接続用チューブ内に気体を供給すると、この気体は、吸引器の中空の弾性体まで流れることとなる。弾性体内部に気体が供給されることで、弾性体内部の気圧が高まることとなり、貯留バッグ内部の気圧を弾性体内部の気圧に近づける、あるいは、弾性体内部の気圧を、貯留バッグ内部の気圧よりも高めることができる。
これにより、弾性体内部の排液は、貯留バッグ側に排出されやすくなり、弾性体内部に排液が残存してしまうことが抑制される。そのため、排液量を正確に計測することができ、使い勝手のよい医療用排液用具を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、排液量を正確に把握できる医療用排液用具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる医療用排液用具を示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかる医療用排液用具を示す模式図である。
【図3】本発明の第一実施形態にかかる医療用排液用具を示す模式図である。
【図4】従来の医療用排液用具を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、その詳細な説明は重複しないように適宜省略される。
また、以下の実施形態において、排液は、カテーテル3、接続用チューブ11、逆止弁124、ポンプ121、逆止弁17を介して貯留バッグ13に流れるため、カテーテル3側を上流側、貯留バッグ13側を下流側という。
(第一実施形態)
はじめに、図1を参照して、本実施形態の医療用排液用具1の概要について説明する。
本実施形態の医療用排液用具1は、人体の創腔等から滲出液等の排液を吸引し、貯留するものである。この医療用排液用具1は、カテーテル3に接続される接続用チューブ11と、接続用チューブ11に接続され、中空の弾性体であるポンプ121を含む吸引器12と、吸引器12のポンプ121に接続され、接続用チューブ11およびポンプ121を介して吸引した排液を貯留する貯留バッグ13と、ポンプ121から前記貯留バッグ13へ流れる気体および排液を通すとともに、前記貯留バッグ13から前記ポンプ121への気体および排液の流れを防止する逆止弁17とを備える。接続用チューブ11には、接続用チューブ11内へ気体を供給する気体供給手段15が接続されている。
【0012】
次に、医療用排液用具1について詳細に説明する。
接続用チューブ11は、一方の端部111に、カテーテル3が接続され、他方の端部112に吸引器12が接続される
吸引器12は、中空の弾性体で構成されるポンプ121と、このポンプ121内部に連通した筒状の第一接続部122と、筒状の第二接続部123と、逆止弁124とを備える。
ポンプ121は、たとえば、中空の球体の弾性体である。より具体的には、たとえば、ポンプ121は、外径50mm、内径46mm、肉厚2mmの球体状に形成されており、シリコーンゴムで構成される。
このポンプ121は、弾性変形するものである。使用者等がこのポンプ121を圧搾し、この圧搾を解除すると、ポンプ121は、その弾性力により元の形に戻ろうとする。ポンプ121は圧搾することで駆動する圧搾駆動部に該当する。
ポンプ121の上部には、筒状の第一接続部122が設けられている。この第一接続部122は、両端面が開口しており、一方の開口部はポンプ121内部に連通する。他方の開口部には、接続用チューブ11の他方の端部112が挿入される。
逆止弁124は、接続用チューブ11の他方の端部112に接続されており、第一接続部122内部に位置している。この逆止弁124はダックビル型と呼ばれるものであり、中空円筒状の本体部124Aとこの本体部124Aの先端に設けられた逆円錐形状(すり鉢状)の弁体124Bとを備える。弁体124Bの先端部には、スリットが形成され、このスリットが開くことで、排液や気体が接続用チューブ11からポンプ121に流れることとなる。一方で、ポンプ121側から接続用チューブ11に向かって排液や気体が移動しようとした場合には、弁体124Bの外周に圧力がかかり、スリットが閉鎖されるため、ポンプ121側から接続用チューブ11に向かって排液や気体が移動することが防止される。
【0013】
第二接続部123は、ポンプ121の下部に接続されている。この第二接続部123は、筒状で両端面が開口しており、一方の開口部はポンプ121内部に連通する。他方の開口部には、排液管16が接続され、この排液管16を介して、吸引器12に貯留バッグ13が接続されることとなる。
【0014】
排液管16の一方の端部は、貯留バッグ13内部に挿入される。排液管16の貯留バッグ13側の先端には、逆止弁17が設けられている。
逆止弁17は、2枚のシートを筒状に貼り合わせたものである。筒状の逆止弁17の一方の端部には、排液管16が挿入され、筒状の逆止弁17の一方の端部は、排液管16の周囲を覆っている。逆止弁17の他方の端部は、排液や気体がポンプ121から貯留バッグ13に向かって流れる際に、開口し、ポンプ121から貯留バッグ13へ排液や気体を通す。
一方で、貯留バッグ13側からポンプ121側に向かって排液や気体が移動しようとした場合には、逆止弁17の外周に圧力がかかり、逆止弁17の他方の端部の開口が閉鎖されるため、貯留バッグ13側からポンプ121側に向かって排液や気体が移動することが防止される。
【0015】
貯留バッグ13は、接続用チューブ11およびポンプ121を介して吸引した排液を貯留するものである。貯留バッグ13は、たとえば、500〜1000mlの容量を有する長方形形状の袋であり、その上端側に通気口131が形成されている。通気口131には、疎水性の通気フィルタ132が装着されている。また、図示しないが、貯留バッグ13の外面には、貯留した排液の容量を計測するための目盛が記載されている。
【0016】
なお、符号18は、支持部材であり、吸引器12を下側から支持するとともに、貯留バッグ13の上端を支持している。また、符号10は、貯留バッグ13を懸架する懸架部材である。
【0017】
以上のような医療用排液用具1は、気体供給手段15と、切り替え手段19を有する。
気体供給手段15は、接続用チューブ11に接続され、接続用チューブ11内へ気体を供給するものである。具体的には、本実施形態では、気体供給手段15は、チューブ151と、このチューブ151に設けられた除菌フィルタ152と、気体供給源(本実施形態では大気)とを備える。
チューブ151の一方の端部は、接続用チューブ11に接続されている。チューブ151の他方の端部は、大気に面しており、気体供給源である大気に接続されている。
ここで、チューブ151の一方の端部は、逆止弁124よりも上流側に接続、すなわち、接続用チューブ11に接続されていればよいが、接続用チューブ11のうち、接続用チューブ11の長手方向の中心部から、吸引器12に接続された端部112までの間の領域に、接続されていることが好ましい。なかでも、接続用チューブ11のうち、吸引器12に接続された端部112の先端から、接続用チューブ11の長さの1/4の範囲内の領域に、チューブ151の一方の端部が接続されることが好ましい。
このようにすることで、チューブ151からの気体を、接続用チューブ11を介してポンプ121内部に供給しやすくすることができる。
なお、図3に示すように、チューブ151と接続用チューブ11とがY字となるように、チューブ151と接続用チューブ11とを接続してもよい。換言すると、接続用チューブ11から上向きに延びるように、チューブ151が接続用チューブ11に対し接続されていてもよい。このようにすることで、接続用チューブ11内に存在する排液や組織等の詰まりが、チューブ151に流入してしまうことを防止できる。
【0018】
除菌フィルタ152は、樹脂から構成されたハウジングと、このハウジング内部に配置されたフィルタ本体とを備える。チューブ151は、ハウジングを貫通し、チューブ151内部と、ハウジング内部とは連通している。チューブ151の他方の端部から導入された気体(本実施形態では空気)は、除菌フィルタ152のフィルタ本体を通過し、接続用チューブ11内に導入されることとなる。
フィルタ本体はメンブレンフィルタからなるが、一般的なスクリーンタイプ、デプスタイプ、アニソトロピックタイプ等の一般フィルタ等も使用できる。
【0019】
切り替え手段19は、気体供給手段15から接続用チューブ11への気体の供給、停止を切り替える。本実施形態では、切り替え手段19は、チューブ151に設けられたクリップ(開閉弁)19である。このクリップ19は、除菌フィルタ152と、チューブ151の接続用チューブ11に接続された端部との間に配置されている。この位置にクリップ19を設けることで、かりに接続用チューブ11から排液がチューブ151内部に流入することがあったとしても、クリップ19により、チューブ151内部の流路を閉鎖することで、除菌フィルタ152と排液とが接触してしまうことを防止できる。
【0020】
次に、以上のような医療用排液用具1の使用方法およびその効果について説明する。
はじめに、カテーテル3を接続用チューブ11の端部111に接続する。そして、カテーテル3を人体の創腔等に配置する。また、クリップ19により、チューブ151内の気体の流路をあらかじめ閉鎖しておく。
【0021】
次に、使用者が、ポンプ121を圧搾する。その後、圧搾を解除すると、弾性体であるポンプ121は、もとの形状に復元しようとするが、この復元力により、接続用チューブ11内の気体がポンプ121側に吸引され負圧が発生する。すなわち、接続用チューブ11内およびポンプ121内部は負圧となる。そして、この負圧により、排液を吸引する吸引力が発生する。排液は、接続用チューブ11を通り、逆止弁124を通過し、ポンプ121内部に流れることとなる。ポンプ121内部に流れた排液は、排液管16、逆止弁17を介して貯留バッグ13に自然落下することとなる。
【0022】
ここで、使用者がクリップ19を操作して、チューブ151内の気体の流路を開くと、チューブ151内部には大気が流入することとなる。より詳細に説明すると、前述したように、接続用チューブ11内部は負圧となっているので、接続用チューブ11内の気圧は、大気圧よりも低くなっている。すなわち、チューブ151の端部は、接続用チューブ11内部の気圧(少なくとも、接続用チューブ11内部で発生する負圧の最大値)よりも高い気圧の気体供給源(本実施形態では大気)に接続されているといえる。そのため、チューブ151内の気体の流路を開くと、高圧側から低圧側に向かって気体(大気)が流れる。大気は、除菌フィルタ152を通り、接続用チューブ11に流入する。
【0023】
ポンプ121内部も負圧となっており、気体供給源よりも気圧が低くなっている。接続用チューブ11に流入した大気は、逆止弁124を介して吸引器12のポンプ121内部に流入する。これにより、ポンプ121内部の気圧はあがり、貯留バッグ13内部の気圧と、ポンプ121内部の気圧との差を低減させることができる。とくに、本実施形態では、ポンプ121内部の気圧は、ほぼ大気圧にひとしくなり、貯留バッグ13内部の気圧と、ポンプ121内部の気圧との差を解消することができる。これにより、ポンプ121側から貯留バッグ13へ排液が流れることを促進させることができ、排液量を正確に把握することができる。
【0024】
また、前述したように、使用者がクリップ19を操作して、チューブ151内の気体の流路を開くと、除菌フィルタ152、チューブ151を介して、接続用チューブ11内に気体が流入することとなる。これにより、接続用チューブ11内の気圧が高まることとなるので、カテーテル3が人体の組織に吸着している場合に、この吸着を解除することができる。したがって、人体からカテーテルを抜き去る場合において、チューブ151内の気体の流路を開き、接続用チューブ11内の気圧を高めることで、容易にカテーテルを抜き去ることができる。
【0025】
さらに、本実施形態の医療用排液用具1では、ミルキングアクションを行うことができる。ミルキングアクションとは、接続用チューブ11内部に排液や組織等が詰まった場合に、排液や組織等の詰まりを解消する操作である。
【0026】
具体的には、以下のようにして行なう。なお、ここでは、排液や組織等の詰まりは、接続用チューブ11のチューブ151が接続された部分よりも上流側の部分に存在しているとする。
あらかじめ、クリップ19により、チューブ151内の気体の流路を閉鎖しておく(工程S1)。次に、ポンプ121を圧搾し、圧搾を解除することで、接続用チューブ11内の排液や組織等の詰まりを吸引する(工程S2)。ここでは、接続用チューブ11内部に排液や組織等が詰まっているので、接続用チューブ11内の気体のうち、排液や組織等の詰まりから下流側の気体が主としてポンプ121側に吸引されることとなる。これに伴い、排液や組織等の詰まりがポンプ121側に前進することとなる。排液や組織等の詰まりは、前進するものの、粘性が高く、接続用チューブ11との間で摩擦が生じるので、一定程度前進すると、停止してしまう。
【0027】
次に、クリップ19によるチューブ151の気体の流路の閉鎖を解除し、チューブ151、接続用チューブ11を介して、ポンプ121内部に気体を送り込む(工程S3)。このとき、チューブ151から接続用チューブ11内に気体が導入されるため、気体は、接続用チューブ11とチューブ151の接続点からポンプ121側に向かって流れるだけでなく、接続用チューブ11とチューブ151の接続点から、排液や組織等の詰まりに向かって流れようとする可能性がある。接続用チューブ11とチューブ151の接続点から、排液や組織等の詰まりに向かって気体が流れてしまうと、詰まりが接続用チューブ11の上流側(カテーテル3側)に後退してしまう虞がある。
そこで、接続用チューブ11内をポンプ121側に向かって流れる気体の流速(ml/s)よりも、チューブ151から接続用チューブ11に向かって流れる気体の流速(ml/s)を遅くしておくことが好ましい。接続用チューブ11内をポンプ121側に向かって流れる気体の流速が、チューブ151から接続用チューブ11に導入される気体の流速よりも速ければ、チューブ151から接続用チューブに導入される気体が排液や組織等の詰まりに向かって気体が流れてしまうことを抑制できる。これにより、排液や組織等の詰まりが接続用チューブ11内で後退してしまうことが防止される。
本実施形態では、ポンプ121内部に気体を送り込む工程においては、排液や組織等の詰まりは、接続用チューブ11内で移動せずに、停止した状態となる。
【0028】
たとえば、クリップ19によるチューブ151内の流路の閉鎖を徐々に解消して、チューブ151から接続用チューブ11に向かって流れる気体の流速(ml/s)を、接続用チューブ11内をポンプ121側に向かって流れる気体の流速(ml/s)よりも遅くすることができる。
また、たとえば、チューブ151の流路の径を、接続用チューブ11の流路の径よりも小さくすることで、チューブ151から接続用チューブ11に向かって流れる気体の流速(ml/s)を、接続用チューブ11内をポンプ121側に向かって流れる気体の流速(ml/s)よりも遅くしてもよい。
なお、本実施形態では、ポンプ121内部に気体を送り込む工程においては、排液や組織等の詰まりは、接続用チューブ11内で移動せずに、停止した状態となる。
【0029】
その後、再度クリップ19により、チューブ151内の気体の流路を閉鎖する(工程S4)。次に、工程S2と同様の工程を実施する。すなわち、ポンプ121を圧搾し、その後、この圧搾を解除する。これにより、接続用チューブ11内の排液や組織等を吸引して、ポンプ121側に前進させる。以上の工程を繰り返すことで、接続用チューブ11内部にある排液や組織等をポンプ121側に移動させる。排液や組織等の詰まりが、接続用チューブ11とチューブ151の接続点よりも下流側に移動してしまった後は、チューブ151からの気体が、ポンプ121内部に入りにくくなるため、ポンプ121の圧搾、圧搾の解除を行なっても、排液や組織等の詰まりの前進量が少なくなることが考えられる。しかしながら、本実施形態では、接続用チューブ11とチューブ151の接続点から、ポンプ121までの距離は短いため、排液や組織等の詰まりの前進量が少なくなっても問題ない。また、接続用チューブ11とチューブ151の接続点よりも下流側に移動した排液や組織等の詰まりは、自重によりポンプ121側に自然落下する場合もある。
この点を考慮すると、チューブ151と接続用チューブ11との接続点は、接続用チューブ11の長手方向の中心部から、吸引器12に接続された端部までの間の領域にあることが好ましい。なかでも、前記接続点は、吸引器12に接続された端部から、接続用チューブ11の長さの1/4の範囲内の領域にあることがより好ましい。
【0030】
なお、特許文献1に開示されたような従来の医療用排液用具では、以下のようにミルキングアクションを実施していた。
吸引器91を圧搾し、この圧搾を解除して発生する吸引力により、排液や組織等の詰まりを前進させる。その後、排液や組織等の詰まりは、一定程度前進すると停止する。この段階で、吸引器91器は、元の形状に戻っておらず、ある程度潰れた状態となっている。この潰れた状態の吸引器91を再度圧搾するとともに圧搾を解除する。これにより、吸引力が発生するが、潰れた状態の吸引器91を再度圧搾しているため、2回目の圧搾および圧搾の解除により発生する吸引力は比較的小さいものとなる。従って、排液や組織等の詰まりを十分に前進させることは難しい。そのため、ミルキングアクションに時間を要することとなる。
これに対し、本実施形態の医療用排液用具1は、クリップ19が設けられたチューブ151を備えている。そのため、クリップ19によるチューブ151の閉鎖を解除することで、チューブ151を介して、ポンプ121内に気体を導入することができる。これにより、ポンプ121の形状を圧搾前の元の形状に戻すことができる。従って、2回目にポンプ121を圧搾し、圧搾を解除させる場合においても、1回目と同様の吸引力を発生させることができる。そのため、排液や組織等の詰まりを十分に前進させることができ、迅速に詰まりを解消させることができる。
【0031】
また、本実施形態では、ポンプ121を圧搾し圧搾を解除することで、接続用チューブ11内部は負圧となるが、この負圧よりも、高い気圧の気体供給源(大気)に、チューブ151の端部を接続しているので、チューブ151内の気体の流路を開くことで、高圧側から低圧側に向かって、チューブ151内に気体(大気)が自然に流れることとなる。したがって、気体をチューブ151内部に強制的に導入するための動力が不要であるため、医療用排液用具1の構成を簡略化することができる。
【0032】
(第二実施形態)
図2を参照して、本発明の第二実施形態について説明する。
第一実施形態では、チューブ151は、大気に接続されていた。これに対し、本実施形態の医療用排液用具2においては、チューブ151の端部は、貯留バッグ13に接続されている。また、本実施形態では除菌フィルタは設けられていない。他の点は前記実施形態の医療用排液用具1と同様の構成である。
【0033】
次に、本実施形態について詳細に説明する。
本実施形態では、チューブ151の端部は、貯留バッグ13に接続されている。チューブ151は貯留バッグ13に連通し、貯留バッグ13内の気体がチューブ151内に流入することとなる。貯留バッグ13内部には気体(空気)が存在し、この貯留バッグ13が気体供給源となる。すなわち、本実施形態では、チューブ151と、気体供給源である貯留バッグ13とで気体供給手段25が構成される。ポンプ121を圧搾し圧搾を解除することで、接続用チューブ11内部は負圧となるが、この負圧よりも、貯留バッグ13内部の気圧は、高くなっている。少なくとも、接続用チューブ11内部で発生する負圧の最大値よりも、貯留バッグ13内部の気圧は、高くなっている。なお、本実施形態では、貯留バッグ13には、通気口131が設けられているので、貯留バッグ13内部の気圧は大気圧と等しくなっている。
【0034】
このような本実施形態における医療用排液用具2では、前記実施形態と同様の使用方法で使用することができ、前記実施形態と同様の効果を奏することができる。
より、具体的に説明すると、前記実施形態と同様に、はじめに、カテーテル3を接続用チューブ11の端部111に接続するとともに、カテーテル3を人体の創腔等に配置する。また、クリップ19により、チューブ151内の気体の流路をあらかじめ閉鎖しておく。
【0035】
次に、使用者が、ポンプ121を圧搾した後、圧搾を解除する。これにより、接続用チューブ11内の気体がポンプ121側に吸引され負圧が発生する。排液は、接続用チューブ11を通り、逆止弁124を通過し、ポンプ121内部に流れることとなる。ポンプ121内部に流れた排液は、排液管16、逆止弁17を介して貯留バッグ13に自然落下することとなる。
【0036】
ここで、使用者がクリップ19を操作して、チューブ151内の気体の流路を開くと、チューブ151内部には貯留バッグ13内部の気体(本実施形態では、空気)が流入することとなる。接続用チューブ11内部は負圧となるので、接続用チューブ11内の気圧は、貯留バッグ13内部の気圧よりも低くなっている。すなわち、チューブ151の端部は、接続用チューブ11内部の気圧よりも高い気圧の気体供給源(本実施形態では大気)に接続されているといえる。そのため、チューブ151内の気体の流路を開くと、高圧側から低圧側に向かって気体(大気)が流れる。
【0037】
ポンプ121内部も負圧となっており、気体供給源よりも気圧が低くなっている。接続用チューブ11に流入した大気は、逆止弁124を介して吸引器12のポンプ121内部に流入する。これにより、ポンプ121内部の気圧はあがり、貯留バッグ13内部の気圧と、ポンプ121内部の気圧との差を低減させることができる。とくに、本実施形態では、ポンプ121内部の気圧は、ほぼ大気圧にひとしくなり、貯留バッグ13内部の気圧と、ポンプ121内部の気圧との差を解消することができる。これにより、ポンプ121側から排液を貯留バッグ13へスムーズに排出させることができ、排液量を正確に把握することができる。
【0038】
さらに、前記実施形態と同様に、本実施形態の医療用排液用具2においても、クリップ19によるチューブ151内の気体の流路の閉鎖を解除することで、カテーテル3が人体の組織に吸着している場合に、この吸着を解除することができる。
また、前記実施形態と同様の方法で、ミルキングアクションを行うこともできる。
【0039】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、第一実施形態では、除菌フィルタ152を介して大気をチューブ151および接続用チューブ11内部に導入していたが、除菌フィルタ152はなくてもよい。たとえば、清浄化された空気を容器内部に充填し、チューブ151を前記容器に接続することで、チューブ151および接続用チューブ11内部に清浄化された空気を導入してもよい。ポンプ121を圧搾し、解除したことにより、接続用チューブ11内部は、負圧となるが、清浄化された空気が充填された容器内部の気圧は、接続用チューブ11内部で発生する負圧の最大値よりも、高いことが好ましい。接続用チューブ11内で発生する負圧の最大値よりも、前記容器内部の気圧が高ければ、接続用チューブ11内の負圧が最大値となった際に、クリップ19を取り外し、気圧差を利用して接続用チューブ11内に気体を供給できる。なお、より好ましくは、容器内部の気圧(気体供給源の気圧)は大気圧以上である。
また、清浄化された空気が充填された容器を圧搾して、空気をチューブ151内に強制的に送気してもよい。
【0040】
さらに、前記実施形態では、クリップ19により、チューブ151内の流路の開閉を行なったが、これに限らず、たとえば、チューブ151の端部の開口を閉鎖することで、チューブ151を介した接続用チューブ11への気体の供給、停止を行なってもよい。
また、前記各実施形態では、ポンプ121は、球状の中空の弾性体で構成されていたが、これに限らず、たとえば、蛇腹形状の中空の弾性体で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 医療用排液用具
2 医療用排液用具
3 カテーテル
10 懸架部材
11 接続用チューブ
12 吸引器
13 貯留バッグ
15 気体供給手段
16 排液管
17 逆止弁
18 支持部材
19 クリップ
25 気体供給手段
90 医療用排液用具
91 吸引器
92 収集バッグ
93 チューブ
111 端部
112 端部
121 ポンプ
122 第一接続部
123 第二接続部
124 逆止弁
124A 本体部
124B 弁体
131 通気口
132 通気フィルタ
151 チューブ
152 除菌フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排液を吸引および貯留する医療用排液用具であって、
カテーテルに接続される接続用チューブと、
前記接続用チューブに接続される中空の弾性体を含んで構成される吸引器と、
前記吸引器の前記中空の弾性体に接続され、前記接続用チューブおよび前記中空の弾性体を介して吸引した排液を貯留する貯留バッグと、
前記吸引器の前記中空の弾性体から前記貯留バッグへ流れる気体および排液を通すとともに、前記貯留バッグから前記吸引器の前記中空の弾性体への気体および排液の流れを防止する逆止弁とを備え、
前記接続用チューブには、前記接続用チューブ内へ気体を供給する気体供給手段が接続されている医療用排液用具。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用排液用具において、
前記吸引器は、前記接続用チューブから前記吸引器の中空の弾性体へ流れる気体および排液を通すとともに、前記吸引器の中空の弾性体から前記接続用チューブへの気体および排液の流れを防止する他の逆止弁を有する医療用排液用具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医療用排液用具において、
前記気体供給手段は、前記接続用チューブのうち、前記接続用チューブの長手方向の中央部から前記吸引器に接続された部分までの間の領域に接続される医療用排液用具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の医療用排液用具において、
前記気体供給手段からの気体の供給、停止を切り替える切り替え手段を備える医療用排液用具。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の医療用排液用具において、
前記気体供給手段は、一方の端部が前記接続用チューブに接続されるチューブと、
このチューブの他方の端部に接続された気体供給源とを備え、
前記弾性体を圧搾し、この圧搾を解除することにより、前記接続用チューブ内で発生する負圧の最大値よりも、前記気体供給源の気圧が高い医療用排液用具。
【請求項6】
請求項5に記載の医療用排液用具において、
前記気体供給源の気圧は、大気圧以上である医療用排液用具。
【請求項7】
請求項5または6に記載の医療用排液用具において、
前記気体供給手段のチューブの他方の端部は、前記気体供給源である大気に接続されている医療用排液用具。
【請求項8】
請求項7に記載の医療用排液用具において、
前記チューブには、除菌フィルタが設けられ、
前記除菌フィルタを通過した大気が、前記接続用チューブ内に供給される医療用排液用具。
【請求項9】
請求項5または6に記載の医療用排液用具において、
前記気体供給源は、内部に気体が存在する前記貯留バッグであり、
前記気体供給手段のチューブの他方の端部は、前記気体供給源である貯留バッグに接続されている医療用排液用具。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の医療用排液用具において、
前記吸引器の前記中空の弾性体を圧搾するとともに、この圧搾を解除することで、前記接続用チューブ内および前記中空の弾性体内部を負圧とし、この負圧により前記排液が前記接続用チューブおよび前記中空の弾性体内部に吸引され、
前記弾性体内部に吸引された前記排液は、前記逆止弁を介して、前記貯留バッグに貯留され、
前記気体供給手段からの気体を前記接続用チューブに供給することで、前記接続用チューブを介して、前記気体が前記弾性体の内部に供給され、前記弾性体内の圧力が高められ、
前記弾性体内部に存在する前記排液が、前記貯留バッグに流れることが促進される構成である医療用排液用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−70901(P2013−70901A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213746(P2011−213746)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】