説明

医薬組成物

【課題】本発明は、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを有効成分として含有する医薬組成物であって、該有効成分の安定性が改善され、及び、希釈時の白濁が防止された、新規な医薬組成物を提供する。
【解決手段】(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及び緩衝液を含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを有効成分として含有する医薬組成物であって、該有効成分の安定性が改善され、及び、希釈時の白濁が防止された、新規な医薬組成物、その製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドがカンナビノイド受容体調節作用を有し、脳血管障害、頭部外傷等の治療及び予防に有用であることが開示されている。
特許文献2には、インスリン抵抗性改善薬、インスリン分泌促進薬、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含む固形製剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/000829号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/041962号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド、即ち、下式:
【0005】
【化1】

【0006】
で表される化合物は、カンナビノイド受容体調節作用、特にCB1アゴニスト作用を有しており、脳血管障害、頭部外傷等に有効であると考えられている。しかし、該化合物を含む溶液製剤の提供に際しては、該化合物の高濃度水溶液を得ることが容易でなく、また、酸性水溶液中では該化合物の分解物が増加する等の問題があった。また、該化合物を含有する製剤を使用時に生理食塩水等に希釈して用いる場合、希釈時に白濁が生じる問題もあった。そこで、バイアル等の保存容器中で有効成分が安定に存在し、希釈使用時の白濁を防止し得る製剤の開発が望まれていた。
本発明は、該化合物を有効成分として含有する医薬組成物であって、該有効成分の安定性が改善され、及び、希釈時の白濁が防止された、新規な医薬組成物、その製造方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(特に、ポリソルベート80)が(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの溶解性を改善すること、及び、後述の特定の範囲のpHに調整し得る緩衝液を用いることにより該化合物の安定性が改善されること、並びにポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び上記緩衝液を用いることにより希釈時の白濁が防止できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の通りである。
[1](+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及び緩衝液を含有する医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物ともいう。)。
[2]ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65又はポリソルベート80である上記[1]記載の医薬組成物。
[3]ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80である上記[1]記載の医薬組成物。
[4]緩衝液が、医薬組成物のpHを6.0以上10.0以下とする緩衝液であることを特徴とする上記[1]記載の医薬組成物。
[5]緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液であることを特徴とする上記[1]記載の医薬組成物。
[6]緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、クエン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸1カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、グリシン、クエン酸、及び酢酸から選択される1又は2以上の緩衝剤を含有する緩衝液であることを特徴とする上記[1]記載の医薬組成物。
[7]緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である上記[1]記載の医薬組成物。
[8]ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80であり、緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液である上記[1]記載の医薬組成物。
[9]ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80であり、緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である上記[1]記載の医薬組成物。
[10]ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの含有量が、医薬組成物に対して、0.05〜40重量%である上記[1]記載の医薬組成物。
[11]製薬学的に許容される有機溶剤を含む上記[1]記載の医薬組成物。
[12]有機溶剤が、エタノール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールから選択される有機溶剤である上記[11]記載の医薬組成物。
[13]有機溶剤が、エタノールである上記[11]記載の医薬組成物。
[14](+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドに、ポリソルベート80、及び緩衝液を添加することを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの安定化方法(以下、本発明の安定化方法ともいう。)。
[15]緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液であることを特徴とする上記[14]記載の安定化方法。
[16]緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、クエン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸1カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、グリシン、クエン酸、及び酢酸から選択される1又は2以上の緩衝剤を含有する緩衝液であることを特徴とする上記[14]記載の安定化方法。
[17]緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である上記[14]記載の安定化方法。
[18](+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドに、ポリソルベート80、及び緩衝液を添加することを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド含有医薬組成物の希釈時白濁防止方法(以下、本発明の希釈時白濁防止方法ともいう。)。
[19]緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液であることを特徴とする上記[18]記載の希釈時白濁防止方法。
[20]緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、クエン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸1カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、グリシン、クエン酸、及び酢酸から選択される1又は2以上の緩衝剤を含有する緩衝液であることを特徴とする上記[18]記載の希釈時白濁防止方法。
[21]緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である上記[18]記載の希釈時白濁防止方法。
[22]ポリソルベート80と緩衝液を含む混合液に(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを溶解する工程を含むことを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド含有医薬組成物の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)。
[23]緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である上記[22]記載の製造方法。
[24]酸素透過を抑制した包装、窒素ガス置換包装、真空包装、及び脱酸素剤封入包装から選択される包装形態にすることを特徴とする上記[1]記載の医薬組成物。
[25]酸素透過を抑制した包装、窒素ガス置換包装、真空包装、及び脱酸素剤封入包装から選択される包装形態にすることを特徴とする上記[14]記載の安定化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(特に、ポリソルベート80)、及び緩衝液を含有させることにより、有効成分である(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの安定性が改善され、及び、希釈時の白濁が防止された、新規な医薬組成物を提供することができる。また、本発明の安定化方法によれば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(特に、ポリソルベート80)、及び緩衝液を添加することにより、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの安定性を改善することができる。さらに、本発明の希釈時白濁防止方法によれば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(特に、ポリソルベート80)、及び緩衝液を添加することにより、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを含有する医薬組成物の希釈時の白濁を防止することができる。また、本発明の製造方法によれば、上記の効果を有する本発明の医薬組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドは、例えば、国際公開第2005/000829号パンフレットに記載の方法に従って製造することができる。
【0011】
本発明の医薬組成物における、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの含有量は、医薬組成物に対して、通常0.0001〜60重量%、好ましくは0.001〜15重量%、さらに好ましくは0.01〜5重量%である。
【0012】
本発明の医薬組成物は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する。
本発明に用いられるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80等が挙げられる。中でも、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80が好ましく、ポリソルベート80がさらに好ましい。
本発明の医薬組成物における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの含有量は、医薬組成物に対して、0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がさらに好ましく、0.05重量%以上がより好ましい。また、本発明の医薬組成物における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの含有量は、医薬組成物に対して、50重量%以下が好ましく、45重量%以下がさらに好ましく、40重量%以下がより好ましい。さらに、本発明の医薬組成物における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの含有量は、医薬組成物に対して、0.001〜50重量%が好ましく、0.01〜45重量%がさらに好ましく、0.05〜40重量%がより好ましい。
【0013】
本発明においては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いることで、輸液バッグ(生理食塩水等)中に希釈した場合、有効成分が輸液バッグに吸着しにくい点でも有利である。
【0014】
本発明の医薬組成物は、緩衝液を含有する。本発明において、緩衝液とは緩衝作用をもつ溶液(特に水溶液)をいい、緩衝剤を含有することにより構成される。本発明で緩衝剤とは、水溶液のpHの安定剤を意味し、医薬製造の分野で一般的に使用されているものを選択することができる。
本発明においては、緩衝液を使用することが、医薬組成物中における(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの分解物の増加を防ぐことができるという点で好ましい。
本発明に用いられる緩衝液としては、医薬組成物のpHを6.0以上10.0以下とする緩衝液が挙げられ、中でも、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液が好ましい。
【0015】
本発明に用いられる緩衝剤としては、具体的には、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、クエン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸1カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、グリシン、クエン酸、及び酢酸から選択される1又は2以上の緩衝剤が挙げられる。中でも、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸が好ましい。
【0016】
本発明の医薬組成物における、緩衝液の使用量は、医薬組成物中の緩衝剤の含有量が下記の範囲となるように適宜決定すればよい。すなわち、本発明の医薬組成物における、緩衝剤の含有量は、医薬組成物に対して、通常0.0001〜40重量%、好ましくは0.0005〜20重量%、さらに好ましくは0.001〜10重量%である。
【0017】
本発明の医薬組成物としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80であり、緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液である医薬組成物が好ましい。また、本発明の医薬組成物としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80であり、緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である医薬組成物も好ましい。
【0018】
本発明の医薬組成物は、さらに溶剤を含有していてもよい。溶剤としては、例えば、製薬学的に許容される有機溶剤(例えば、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等)、水(特に、注射用水)、生理食塩水、ブドウ糖液等が挙げられる。溶剤は1種または2種以上を組合せて用いてもよい。
本発明においては、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを予め有機溶剤に溶解した後に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液と混合することが、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを短時間で溶解できるという点で好ましい。有機溶剤としては、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
本発明において、溶剤の含有量は、総量として、医薬組成物に対して、通常0.0001重量%以上100重量%未満、好ましくは0.001重量%以上100重量%未満、さらに好ましくは0.005重量%以上100重量%未満である。溶剤の含有量の上限は特に限定されず、医薬組成物中のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの含有量が前記した好ましい範囲となるように適宜選択すればよい。
【0019】
本発明の医薬組成物は、公知の方法で、例えば、注射剤、液剤等に製剤化して、非経口投与(例えば、静脈投与、点滴投与、筋肉内投与、皮下投与等)により投与することができる。また、適当な剤形(例えばカプセル剤等)や投与方法(例えば経カテーテル投与等)により経口的に投与することができる。
【0020】
本発明の医薬組成物は、上記の成分の他にも、必要に応じて、医薬上許容され得る添加剤を含有していてもよく、本発明の医薬組成物が注射剤である場合、添加剤としては、例えば、等張化剤(例、ブドウ糖、D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等)、無痛化剤(例、ベンジルアルコール等)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール等)等が挙げられる。
【0021】
本発明の医薬組成物は、公知の方法で、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、緩衝液及び任意の添加剤を混合することにより得ることができるが、本発明の医薬組成物の製造又は製剤化においては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)と緩衝液を含む混合液に(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを溶解する工程を含むことが溶解性を向上させるとともに有効成分を安定に維持する観点から好ましい。
【0022】
本発明の医薬組成物を注射剤に製剤化する場合は、例えば、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドをエタノール等の溶剤に溶解して得られた溶液と、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)水溶液に、緩衝剤(例、リン酸水素ナトリウム、クエン酸)を加えた水溶液とを混合し、混合液を除菌ろ過し、得られた薬液をバイアル、アンプル等の密封容器に充填して注射剤を製造することができる。また、例えば、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)と緩衝剤(例、リン酸水素ナトリウム、クエン酸)を含む水溶液と混合し、超音波処理等により溶解し、除菌ろ過し、得られた薬液をバイアル、アンプル等の密封容器に充填して注射剤を製造することもできる。通常、使用する密封容器としては、無色透明の硼珪酸ガラス製容器であるが、ガラス内面面の接液部分が石英のような表面特性を有する容器(例えば、Schott社製のタイプワンプラスバイアル)を使用することもできる。
【0023】
本発明の医薬組成物は、酸素透過を抑制した包装、窒素ガス置換包装、真空包装、及び脱酸素剤封入包装から選択される包装形態にすることが好ましい。包装としてはバイアル、アンプル等が挙げられる。上記包装形態にする方法は特に限定されず公知の方法に従って行えばよい。
【0024】
本発明の医薬組成物は、そのまま用いることもでき、使用時に前記した溶剤等で希釈して用いることもできる。
希釈する場合の溶剤の使用量は、希釈後の溶液中のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの濃度が医薬組成物中の含有量として前記した好ましい範囲となるように適宜選択すればよい。
【0025】
本発明の医薬組成物は、有効成分である(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドがカンナビノイド受容体調節作用(特にCB1アゴニスト作用)を有し、Clin. Pharmacokinet., 2003 42(4)327-360 に記載されているような種々の疾患の治療及び予防に有用である。具体的には、脳梗塞、脳出血等の脳血管障害;頭部外傷;脊髄損傷;神経ガス損傷による酸欠及び虚血;抗癌剤による悪心、吐き気、嘔吐;癌、AIDSにおける拒食、悪液質等の食欲不振;催吐剤による吐き気;多発性硬化症による痙攣;神経因性疼痛;慢性疼痛;ツレット症候群、失調症;レボドパ惹起運動障害等の運動機能障害;喘息;緑内障;アレルギー;炎症;癲癇;難治性のしゃっくり;鬱病;躁鬱病;不安症;麻薬及びアルコール依存症、禁断症状;腎不全等の腎疾患;アルツハイマー病の諸症状;多発性硬化症、関節炎、リウマチ、クローン病等の自己免疫疾患;高血圧;癌;下痢;気道閉塞;睡眠時無呼吸症、等に有用であると考えられるが、これらに限定されるものではない。特に、脳血管障害急性期、脊髄損傷、頭部外傷、多発性硬化症、緑内障、鬱病、嘔吐、関節炎又は喘息の予防又は治療剤あるいは鎮痛剤として有用である。
【0026】
本発明の医薬組成物は、低毒性であるので、哺乳動物(例、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル)、特にヒトに対し、安全に投与することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与対象、投与ルート、疾患等によっても異なる。例えば頭部外傷治療剤として、成人に対し、注射剤として投与する場合、有効成分である(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの投与量が、約0.001ないし約20mg/kg体重、好ましくは約0.005ないし約5mg/kg体重、更に好ましくは約0.01ないし約0.2mg/kg体重であって、1日1ないし数回に分けて投与することができる。
【0028】
また、本発明の医薬組成物の有効成分である(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドは、さらに他の有効成分(例えば、1ないし3種の有効成分)と併用してもよい。
「他の有効成分」としては、例えば、血栓溶解剤(例、ティシュープラスミノーゲンアクチベーター、ウロキナーゼ等)、抗凝固剤(例、アルガトロバン、ワーファリン等)、第10因子阻害剤、トロンボキサン合成酵素阻害剤(例、オザグレル等)、抗酸化剤(例、エダラボン等)、抗浮腫剤(例、グリセロール、マンニトール等)、神経新生・再生促進薬(例、Akt/PKB活性化剤、GSK-3β阻害剤等)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、ザナペジル等)、βアミロイド蛋白産生、分泌、蓄積、凝集および/または沈着抑制剤[βセクレターゼ阻害剤(例、WO 98/38156記載の化合物、WO 02/2505、WO 02/2506、WO 02/2512記載の化合物、OM99−2(WO 01/00663))、γセクレターゼ阻害作用剤、βアミロイド蛋白凝集阻害作用剤(例、PTI−00703、ALZHEMED(NC−531)、PPI−368(特表平11−514333)、PPI−558(特表2001−500852)、SKF−74652(Biochem. J.(1999),340(1),283−289))、βアミロイドワクチン、βアミロイド分解酵素等]、脳機能賦活薬(例、アニラセタム、ニセルゴリン等)、他のパーキンソン病治療薬(例、ドーパミン受容体作動薬(L−ドーパ、ブロモクリプテン、パーゴライド、タリペキソール、プラシペキソール、カベルゴリン、アダマンタジン等)、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬(デプレニル、セルジリン(セレギリン)、レマセミド(remacemide)、リルゾール(riluzole)等)、抗コリン剤(例、トリヘキシフェニジル、ビペリデン等)、COMT阻害剤(例、エンタカポン等))、筋萎縮性側索硬化症治療薬(例、リルゾール等、神経栄養因子等)、コレステロール低下薬等の高脂血症治療薬(スタチン系(例、プラバスタチンナトリウム、アトロバスタチン、シンバスタチン、ロスバスタチン等)、フィブラート(例、クロフィブラート等)、スクワレン合成酵素阻害剤)、痴呆の進行に伴う異常行動、徘徊等の治療薬(例、鎮静剤、抗不安剤等)、アポトーシス阻害薬(例、CPI-1189、IDN-6556、CEP-1347等)、神経分化・再生促進剤(レテプリニム(Leteprinim)、キサリプローデン(Xaliproden;SR-57746-A)、 SB-216763等)、降圧剤、糖尿病治療薬、抗うつ剤、抗不安薬、非ステロイド性抗炎症薬(例、メロキシカム、テオキシカム、インドメタシン、イブプロフェン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、アスピリン、インドメタシン等)、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、抗サイトカイン薬(TNF阻害薬、MAPキナーゼ阻害薬等)、ステロイド薬(例、デキサメサゾン、ヘキセストロール、酢酸コルチゾン等)、性ホルモンまたはその誘導体(例、プロゲステロン、エストラジオール、安息香酸エストラジオール等)、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシウム受容体拮抗薬、インターフェロン(例、インターフェロンα、インターフェロンβ)等が挙げられる。
【0029】
本発明は、また、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドに、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)、及び緩衝液を添加することを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの安定化方法にも関する。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、緩衝液としては、前記の本発明の医薬組成物について例示したものと同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
本発明の安定化方法における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がさらに好ましく、0.05重量%以上がより好ましい。また、本発明の安定化方法における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、50重量%以下が好ましく、45重量%以下がさらに好ましく、40重量%以下がより好ましい。さらに、本発明の安定化方法における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、0.001〜50重量%が好ましく、0.01〜45重量%がさらに好ましく、0.05〜40重量%がより好ましい。
本発明の安定化方法における、緩衝液の添加量は、緩衝剤の添加量が下記の範囲となるように適宜決定すればよい。すなわち、本発明の安定化方法における、緩衝剤の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、通常0.0001〜40重量%、好ましくは0.0005〜20重量%、さらに好ましくは0.001〜10重量%である。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液の添加方法は、特に限定されず、公知の方法で添加すればよい。
【0030】
本発明の安定化方法においては、酸素透過を抑制した包装、窒素ガス置換包装、真空包装、及び脱酸素剤封入包装から選択される包装形態にすることが好ましい。包装としてはバイアル、アンプル等が挙げられる。上記包装形態にする方法は特に限定されず公知の方法に従って行えばよい。
【0031】
本発明は、さらに、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドに、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)、及び緩衝液を添加することを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド含有医薬組成物の希釈時白濁防止方法にも関する。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、緩衝液としては、前記の本発明の医薬組成物について例示したものと同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
本発明の希釈時白濁防止方法における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がさらに好ましく、0.05重量%以上がより好ましい。また、本発明の希釈時白濁防止方法における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、50重量%以下が好ましく、45重量%以下がさらに好ましく、40重量%以下がより好ましい。さらに、本発明の希釈時白濁防止方法における、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリソルベート80)の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、0.001〜50重量%が好ましく、0.01〜45重量%がさらに好ましく、0.05〜40重量%がより好ましい。
本発明の希釈時白濁防止方法における、緩衝液の添加量は、緩衝剤の添加量が下記の範囲となるように適宜決定すればよい。すなわち、本発明の希釈時白濁防止方法における、緩衝剤の添加量は、上記有効成分、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液を含有する医薬組成物に対して、通常0.0001〜40重量%、好ましくは0.0005〜20重量%、さらに好ましくは0.001〜10重量%である。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び緩衝液の添加方法は、特に限定されず、公知の方法で添加すればよい。
【0032】
さらに、本発明の医薬組成物を注射剤に製剤化する場合の製造法の一例を説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。本発明で注射剤を製造する工程においては、難溶性である(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを溶解し、分解を抑制する必要がある。
(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを秤量し、適当な溶剤、例えばエタノールで溶解する。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えば、ポリソルベート80を注射用水により室温下で溶解した水溶液を、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドとエタノールの混液に添加し室温下で溶解する。さらに緩衝剤として、例えば、リン酸水素ナトリウムやクエン酸を添加後、緩衝剤を溶解させ、最終的に注射用水を加えて容量調整を行って、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及び緩衝液を含有する医薬組成物を調製する。
本発明の医薬組成物はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリソルベート80)と緩衝液を含む混合液に(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを添加し、室温下で溶解することによっても得ることができる。
本発明の医薬組成物は窒素気流下で調製することが好ましい。
本発明の医薬製剤を得るためには、上記工程により調製した本発明の医薬組成物をフィルターろ過滅菌に供する。フィルター濾過後の溶液は、充填容器、例えば無色のガラスバイアルに所定量充填後、ゴムセンで施栓する。該施栓前における充填容器中の空間部は窒素ガスで満たすことが好ましい。さらに、キャップにより巻き締めて、密封状態とし、本発明の医薬製剤を得ることができる。ろ過滅菌以降の工程は、無菌環境下(例えば、WHO GMPのクラス呼称 グレードA)で、滅菌された設備、機器、容器を使用して製造することが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。なお、実施例で用いられるポリソルベート80としては、第十五改正日本薬局方、欧州薬局方、およびUSP適合品を用いた。以下の実施例及び比較例において、(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを化合物Aと称する。
【0034】
比較例1
ガラスバイアルに化合物Aを3mg充填し、調査対象添加剤(蒸留水、生理食塩水及び5%ブドウ糖液(表1中では5%Gluと示す。))を2mLずつ添加した。軽く振り混ぜ速やかに室内散乱光下で溶解有無について肉眼観察で確認した。溶け残りがある場合には、さらに調査対象添加剤を2mL追加し、最終的に添加剤容量が20mLに達する迄、同様の調査を繰り返した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1
3mgの化合物Aを0.1mLエタノールで速やかに溶解し、一方でポリソルベート80水溶液にリン酸水素ナトリウム、クエン酸を加えた水溶液と混合した。孔径0.22μmのフィルター(日本ミリポア(株)製、デュラポア)を用いて濾過することにより得られた薬液をバイアル(大和特殊(株)製、バイアル3.5P)に分注した。窒素ノズルを用いてバイアル空間部を窒素置換後、ゴム栓(大協精工製、ゴムセンラミネズミ13CBR)を施栓し、さらにキャップ(久金属製、キャップフリップ12.5)で巻締することにより表2に示す処方Aの組成の製剤(窒素置換有り)を調製した。バイアル空間部の窒素置換をしない以外は上記と同様の方法により、表2に示す処方Aの組成の製剤(窒素置換なし)を調製した。
上記で調製した製剤を60℃で2週間保存したあと、その外観、pH、不溶性異物、化合物A含量を検討した。外観は目視により、pHはpHメーター(堀場製作所、F−16型)により検討した。また、不溶性異物は検査灯下で肉眼観察することにより検討した。さらに、化合物A含量は以下のように検討した。すなわち、化合物A標準品を秤量(Ws mg)したあと、アセトニトリル(高速液体クロマトグラフ用)で溶解することにより約40μg/mLの標準溶液を調製した。試料溶液として、上記で調製した製剤又は60℃で2週間保存した製剤から試料2mLを受け用ホールピペットで正確に量り、希釈液(10mmol/L 酢酸アンモニウム緩衝液)を用いて内液を洗い出し、希釈液を使用して、約40μg/mLの試料溶液を調製した。標準溶液と試料溶液を、紫外吸光光度計を用いて下記に示す[試験条件1]で測定し、下記に示す[計算式]に基づいて化合物A含量を算出した。外観、pH、不溶性異物、化合物A含量の調査結果を表3に示す。含量はInitial(安定性保存試験前標品)を100%として残存率で表した。60℃で2週間保存後、本製剤はpH7.6又はpH7.7を示し、澄明であった。また、不溶性異物は第十五改正日本薬局方の注射剤の規定に適合し、化合物A残存率にも問題は認められなかった。これにより、本発明により注射剤として安定で、品質が良好な製剤を提供できることが判明した。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
[試験条件1]
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)
カラム:CAPCELL PAK C18 MGII 4.6×150mm、5μm
カラム温度:25℃
移動層:アセトニトリル/0.02mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0)(65:35)
流量:化合物Aの保持時間が約8分になるように調整(通常1.0mL/mim)
[計算式]
液体クロマトグラフ法で得られたピーク面積を使用して含量を算出した。
【0040】
【数1】

【0041】
実施例2
3mgの化合物Aを79mgエタノールで速やかに溶解し、一方でポリソルベート80水溶液にリン酸水素ナトリウム、クエン酸を加えた水溶液と混合した。孔径0.22μmのフィルター(日本ミリポア(株)製、デュラポア)を用いて濾過することにより得られた薬液をバイアル(ショット社製バイアル2P)に分注した。窒素ノズルを用いてバイアル空間部を窒素置換後、ゴム栓(大協精工製、ゴムセンラミネズミ13CBR)を施栓し、さらにキャップ(久金属製、キャップフリップ12.5)で巻締することにより表4に示す処方Bの組成の製剤を調製した。
上記で調製した製剤を500mL生理食塩水に溶解したときの外観を肉眼で観察した結果、溶液は澄明であった。本結果から、本発明により希釈時にも不溶物を生じない製剤を提供できること、ならびに化合物A濃度が低い製剤の提供も可能となることが判明した。
【0042】
【表4】

【0043】
実施例3
3mgの化合物Aを79mgエタノールで速やかに溶解し、一方でポリソルベート80水溶液にリン酸水素ナトリウム、クエン酸を加えた水溶液と混合した。孔径0.22μmのフィルター(日本ミリポア(株)製、デュラポア)を用いて濾過することにより得られた液をバイアル(ショット社製バイアル2P)に分注した。窒素ノズルを用いてバイアル空間部を窒素置換後、ゴム栓(大協精工製、ゴムセンラミネズミ13CBR)を施栓し、さらにキャップ(久金属製、キャップフリップ12.5)で巻締することにより表5に示す処方Cの組成の製剤を調製した。
上記で調製した製剤を、3つの条件下((1)40℃、湿度75%、(2)25℃、湿度60%、(3)5℃)で6ヶ月保存した。保存後の製剤について、その外観、pH、不溶性異物、化合物A含量を実施例1と同様に検討した。含量はInitial(安定性保存試験前標品)を100%として残存率で表した。その検討結果を表6に示す(表6中、RHは湿度を意味する)。本製剤はpH7.6、pH7.8又はpH7.9を示し、澄明であった。また、不溶性異物は第十五改正日本薬局方の注射剤の規定に適合し、化合物A残存率にも問題は認められなかった。これにより、本発明により注射剤として品質が良好な製剤を提供できることが判明した。
【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
実施例4
3mgの化合物Aをポリソルベート80、リン酸水素ナトリウム及びクエン酸を含む2mLの混液と混合し、超音波処理を施すことにより溶解した。製造スケールは10mLで行った。孔径0.22μmのフィルター(日本ミリポア(株)製、デュラポア)を用いて濾過することにより得られた液をバイアル(ショット社製バイアル2P)に分注した。窒素ノズルを用いてバイアル空間部を窒素置換後、ゴム栓(大協精工製、ゴムセンラミネズミ13CBR)を施栓し、さらにキャップ(久金属製、キャップフリップ12.5)で巻き締めし、表7に示す処方Dの製剤を調製した。
上記で調製した製剤について、その外観、pH、不溶性異物、化合物A含量(対表示量)を実施例1の試験条件により検討した。その検討結果を表8に示す。本製剤はpH7.8を示し、澄明であり、不溶性異物は第十五改正日本薬局方の注射剤の規定に適合し、化合物Aの含量にも問題は認められなかった。
【0047】
【表7】

【0048】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(特に、ポリソルベート80)、及び緩衝液を含有させることにより、有効成分である(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの安定性が改善され、及び、希釈時の白濁が防止された、新規な医薬組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及び緩衝液を含有する医薬組成物。
【請求項2】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65又はポリソルベート80である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
緩衝液が、医薬組成物のpHを6.0以上10.0以下とする緩衝液であることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液であることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、クエン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸1カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、グリシン、クエン酸、及び酢酸から選択される1又は2以上の緩衝剤を含有する緩衝液であることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80であり、緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート80であり、緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項10】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの含有量が、医薬組成物に対して、0.05〜40重量%である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項11】
製薬学的に許容される有機溶剤を含む請求項1記載の医薬組成物。
【請求項12】
有機溶剤が、エタノール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールから選択される有機溶剤である請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
有機溶剤が、エタノールである請求項11記載の医薬組成物。
【請求項14】
(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドに、ポリソルベート80、及び緩衝液を添加することを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドの安定化方法。
【請求項15】
緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液であることを特徴とする請求項14記載の安定化方法。
【請求項16】
緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、クエン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸1カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、グリシン、クエン酸、及び酢酸から選択される1又は2以上の緩衝剤を含有する緩衝液であることを特徴とする請求項14記載の安定化方法。
【請求項17】
緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である請求項14記載の安定化方法。
【請求項18】
(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドに、ポリソルベート80、及び緩衝液を添加することを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド含有医薬組成物の希釈時白濁防止方法。
【請求項19】
緩衝液が、医薬組成物のpHを7.0以上9.0以下とする緩衝液であることを特徴とする請求項18記載の希釈時白濁防止方法。
【請求項20】
緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩酸アルギニン、クエン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸1カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、グリシン、クエン酸、及び酢酸から選択される1又は2以上の緩衝剤を含有する緩衝液であることを特徴とする請求項18記載の希釈時白濁防止方法。
【請求項21】
緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である請求項18記載の希釈時白濁防止方法。
【請求項22】
ポリソルベート80と緩衝液を含む混合液に(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミドを溶解する工程を含むことを特徴とする(+)−N−((3R)−7−(1−ヒドロキシエチル)−3−(4−イソプロピルフェニル)−4,6−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1−ベンゾフラン−5−イル)−3,3−ジメチルブタンアミド含有医薬組成物の製造方法。
【請求項23】
緩衝液が、リン酸水素ナトリウム、及びクエン酸を含有する緩衝液である請求項22記載の製造方法。
【請求項24】
酸素透過を抑制した包装、窒素ガス置換包装、真空包装、及び脱酸素剤封入包装から選択される包装形態にすることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項25】
酸素透過を抑制した包装、窒素ガス置換包装、真空包装、及び脱酸素剤封入包装から選択される包装形態にすることを特徴とする請求項14記載の安定化方法。

【公開番号】特開2011−6335(P2011−6335A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149207(P2009−149207)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】