説明

半導体ウエハの処理方法

【課題】 半導体ウエハの搬送や裏面研削等の加工を施す際に、半導体ウエハを安定して保持でき、しかも所要の処理が終了した後には、半導体ウエハを破損することなく剥離することができ、厚み精度の高い半導体ウエハの処理方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る半導体ウエハの処理方法は、
厚みが300〜1000μmであり、NaイオンおよびKイオンから選ばれる1種以上のイオンによりイオン交換処理して化学強化された圧縮応力層を有し、最大曲げ角度が30度以上である可撓性ガラス基板上に、半導体ウエハを再剥離可能に固定する工程、
前記半導体ウエハに処理を行う工程、
前記半導体ウエハ側を支持手段により固定する工程、および
前記可撓性ガラス基板を湾曲させて半導体ウエハから剥離する工程を含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハの搬送や裏面研削等の加工を施す際の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のICカードの普及にともない、その構成部材であるICチップを製造するための半導体ウエハの薄型化が進められている。従来350μm程度の厚みであったウエハを、50〜100μmあるいはそれ以下まで薄くすることが求められるようになった。
【0003】
脆質部材であるウエハは、薄くなるにつれて、加工や運搬の際、破損する危険性が高くなる。このため、ウエハを極薄まで研削したり、極薄のウエハを運搬したりする場合は、ウエハをガラス板やアクリル板のような硬質板上に両面粘着シートなどにより固定・保護して作業を進めるのが望ましい。
【0004】
しかしながら、両面粘着シートでウエハと硬質板とを貼り合わせる方法では、一連の工程を終えた後、両者を剥離する際、ウエハが割れてしまうことがあった。2枚の薄層品が貼り合わされてなる積層物を剥離する際には、薄層品の何れか一方、または両者を湾曲させて剥離する必要がある。しかし、硬質板を湾曲することは不可能ないし困難であるため、ウエハ側を湾曲せざるをえない。このため、脆弱なウエハにひずみがかかって割れてしまうことになる。
【0005】
このような問題を解決するための手段として、ウエハの変形をできる限り低減して剥離を行う方法や、ウエハに保護フィルムを積層するなどしてウエハを補強した上で剥離を行う方法、さらにはウエハを硬質板に固定する手段として、接着力を制御可能な粘着剤や両面粘着テープを用い、剥離時に粘着剤の発泡などの適宜な手段により接着力を低下させた後に剥離を行う方法などが種々提案されている(特許文献1〜5)。
【0006】
特許文献6では、硬質板を使用せずに、比較的剛性の高い樹脂フィルムを用いた脆質部材の保護方法が開示されている。
【0007】
特許文献7には、0.5〜3mmの肉厚を有し、かつ肉厚のバラツキが2μm以内である合成樹脂製の半導体ウエハ用の支持プレートが開示されている。半導体ウエハの固定手段としては、紫外線照射によりガスを発生する粘着テープが例示されている。
【特許文献1】特開2004-153227号公報
【特許文献2】特開2005-116678号公報
【特許文献3】特開2003-324142号公報
【特許文献4】特開2005-277037号公報
【特許文献5】国際特許公開WO2003/049164
【特許文献6】特開2004-63678号公報
【特許文献7】特開2005-333100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ウエハを硬質板上に保持した場合には、ウエハを剥離する際にウエハ側を変形することとなる。このため、ウエハの破損を完全に防止することは難しい。また、発泡などにより接着力を低減するように設計された特殊な粘着剤や両面粘着テープを使用した場合には、ウエハに接着剤が残着し、ウエハを汚染してしまう可能性もある。特許文献6、特許文献7に提案されている方法では、剛性の樹脂フィルムあるいは樹脂プレート側を変形してウエハからの剥離を行うため、剥離工程におけるウエハの破損という問題は解消できる。しかし、支持体が樹脂からなるため、形状保持性が必ずしも十分ではなく、ウエハの搬送時にウエハが破損するおそれがある。また、樹脂フィルムあるいは樹脂プレートは、耐熱性が低く熱変形が起こりやすく、常温でも塑性変形するため繰り返し使用できない。さらに、厚さの誤差を小さくすることが難しく、その厚さの誤差が処理後のウエハの厚さ精度に影響を及ぼすことがある。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものである。すなわち、本発明は、半導体ウエハの搬送や裏面研削等の加工などの所定の処理を施す際に、半導体ウエハを安定して保持でき、しかも所要の処理が終了した後には、半導体ウエハを破損することなく剥離することができる、厚み精度の高い半導体ウエハの処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)厚みが300〜1000μmであり、NaイオンおよびKイオンから選ばれる1種以上のイオンによりイオン交換処理して化学強化された圧縮応力層を有し、最大曲げ角度が30度以上である可撓性ガラス基板上に、半導体ウエハを再剥離可能に固定する工程、
前記半導体ウエハに処理を行う工程、
前記半導体ウエハ側を支持手段により固定する工程、および
前記可撓性ガラス基板を湾曲させて半導体ウエハから剥離する工程を含む、半導体ウエハの処理方法。
(2)前記可撓性ガラス基板の圧縮応力層が、少なくともKイオンとのイオン交換による化学強化処理により形成されてなる、(1)に記載の処理方法。
(3)前記可撓性ガラス基板の圧縮応力層の厚さが、約100μmである、(1)または(2)に記載の処理方法。
(4)前記可撓性ガラス基板の外径が、前記半導体ウエハの外径と同一またはこれよりも大である(1)〜(3)のいずれかに記載の処理方法。
(5)前記剥離工程が、可撓性ガラス基板の端部を把持し、端部を半導体ウエハから引き上げつつ、可撓性ガラス基板の折り返し方向に移動して剥離する(1)〜(4)のいずれかに記載の処理方法。
(6)半導体ウエハに施される処理が、半導体ウエハの裏面研削である(1)〜(5)のいずれかに記載の処理方法。
(7)前記可撓性ガラス基板が、NaOまたはLiOを含む(1)〜(6)のいずれかに記載の処理方法。
(8)前記可撓性ガラス基板の圧縮応力層が、NaイオンおよびKイオンによりイオン交換処理して形成されてなる、(1)に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、可撓性ガラス基板に半導体ウエハを固定して保護しているため、半導体ウエハの搬送・保管・加工時において脆質部材を変形することなく保持でき、厚み精度の高い半導体ウエハの処理を施すことができる。また、従来用いられていた硬質ガラス板と異なり、本発明で使用する可撓性ガラス基板は湾曲可能であるため、半導体ウエハから可撓性ガラス基板を剥離する際に、半導体ウエハを変形することなく、可撓性ガラス基板側を変形して剥離できるため、半導体ウエハの破損が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の半導体ウエハの処理方法の一工程を示す。
【図2】剥離手段の一態様を示す。
【図3】剥離手段を用いて可撓性ガラス基板を剥離する工程を示す。
【図4】他の態様に係る剥離手段を用いて可撓性ガラス基板を剥離する工程を示す。
【図5】図4のA−A線断面図を示す。
【図6】図4の側面図を示す。
【図7】他の態様に係る剥離手段を用いて可撓性ガラス基板を剥離する工程を示す。
【図8】可撓性ガラス基板の曲げ角度の測定方法を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について図面を参照しながら、さらに具体的に説明する。なお、以下の説明では、半導体ウエハという用語に代えて、「脆質部材」という用語を用いることがあるが、脆質部材は、半導体ウエハを指すものと解釈される。
【0015】
本発明の処理方法では、図1に示すように、可撓性ガラス基板1上に仮着手段2を介して脆質部材3が再剥離可能に固定して、脆質部材3を保護する構造体10を形成する。
【0016】
保護対象である脆質部材3としては、シリコンウエハ、ガリウム・ヒ素ウエハ等の各種半導体ウエハ、光学ガラス、セラミックプレート等の精密加工が要求される、壊れやすい材質からなる被加工物が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、特に半導体ウエハに好適であり、具体的には、表面に回路が形成された半導体ウエハに適用することが特に好ましい。さらに、本発明の処理方法は、裏面研削を施されて厚みが極めて薄くなり、強度が極端に低下した半導体ウエハに好ましく適用できる。
【0017】
可撓性ガラス基板1は、上記脆質部材3の搬送・保管・加工時において、これを支持し保護する機能を果たす。また、脆質部材3から可撓性ガラス基板1を剥離する際には、可撓性ガラス基板1側を変形、湾曲して剥離を行う。このため、可撓性ガラス基板1は、適度な曲げ物性を有することが特に好ましい。
【0018】
具体的には、可撓性ガラス基板1は、湾曲した際に30度以上、好ましくは40度以上、さらに好ましくは50度以上曲がることが好ましい。すなわち、本発明で使用する可撓性ガラス基板1の最大曲げ角度は30度以上である。最大曲げ角度は、可撓性ガラス基板1の一端を保持し、他端を基板の折り返し方向に折り曲げた際の破壊直前の最大曲げの接線角度で定義される。最大曲げ角度が小さすぎる場合には、可撓性ガラス基板1が湾曲途中に降伏点を迎えてしまい、可撓性ガラス基板1の破損や、脆質部材3の破損を招くおそれがある。
【0019】
可撓性ガラス基板1は、その材質は特に限定はされないが、上記の好ましい曲げ物性を満たしうる材料としては、たとえば特開平5−32431号公報に記載の化学強化ガラスが挙げられる。このような化学強化ガラスは、具体的には、62〜75重量%のSiO2 、5〜15重量%のAl2 3 、4〜10重量%のLi2 O、4〜12重量%のNa2 O、および5.5〜15重量%のZrO2 を含有し、かつNa2 O/ZrO2 の重量比が0.5〜2.0、Al2 3 /ZrO2 の重量比が0.4〜2.5であるガラス(以下、「原料ガラス」と記載する)を、Naイオンおよび/またはKイオンを含有する処理浴でイオン交換処理して化学強化して得られる。
【0020】
Naイオンおよび/またはKイオンを含有する処理浴としては、硝酸ナトリウムおよび/または硝酸カリウムを含有する処理浴を用いるのが好ましいが、硝酸塩に限定されるものではなく、硫酸塩、重硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、ハロゲン化物を用いても良い。処理浴がNaイオンを含む場合には、このNaイオンがガラス中のLiイオンとイオン交換し、また処理浴がKイオンを含む場合には、このKイオンがガラス中のNaイオンとイオン交換し、さらに処理浴がNaイオンおよびKイオンを含む場合には、これらNaイオンおよびKイオンが、ガラス中のLiイオンおよびNaイオンとそれぞれイオン交換する。このイオン交換により、ガラス表層部のアルカリ金属イオンが、より大きなイオン半径のアルカリ金属イオンに置き換わり、ガラス表層部に圧縮応力層が形成されてガラスが化学強化される。原料ガラスは、優れたイオン交換性能を有するので、イオン交換によって形成された圧縮応力層は深く、抗折強度が高いので、得られる化学強化ガラスは優れた耐破壊性を有する。圧縮応力層の深さは、適度な抗折強度が得られる程度であり、圧縮応力層の深さは、たとえばガラス断面の偏光顕微鏡観察などの手法により測定される。
【0021】
かかる化学強化ガラスは、上述した曲げ物性を有し、湾曲しても破壊されない可撓性を示す。また湾曲後に応力を除去すると、速やかに形状を復元する。
【0022】
可撓性ガラス基板1の厚みは、特に限定はされないが、300〜1500μm程度が適当である。可撓性ガラス基板1の厚みが薄すぎる場合には、脆性部材を支持するための十分な強度が得られないことがあり、また厚すぎる場合には、剥離工程において可撓性ガラス基板を湾曲できない場合がある。
【0023】
また、可撓性ガラス基板1の径は、保護対象である脆質部材3の径と同一またはこれよりも若干大きめのものが採用される。より具体的には、可撓性ガラス基板1は、保護対象である脆質部材3の外径よりも、好ましくは0.1〜5mm、さらに好ましくは0.5〜2mm程度大きな外径を有する。さらに、後述するように、仮着手段2を、紫外線硬化型粘着剤を用いて構成する場合は、可撓性ガラス基板1は、紫外線透過性を有することが好ましい。
【0024】
可撓性ガラス基板1の最大曲げ角度は、同一の材料であれば、厚みが小さいほど大きくなる。
【0025】
構造体10では、上記可撓性ガラス基板1上に、仮着手段2を介して脆質部材3が再剥離可能に固定されてなる。仮着手段2は、脆質部材3を可撓性ガラス基板1上に安定して保持でき、かつ簡便に剥離できる機能を有する。仮着手段2はかかる機能を有する限り特に限定はされず、単層の粘着フィルムであってもよく、また図1に示したように両面粘着テープであってもよい。たとえば仮着手段2は、弱粘着剤からなる単層の粘着フィルムであってもよい。また、紫外線硬化型粘着剤からなる単層フィルムであってもよい。紫外線硬化型粘着剤は、紫外線照射により粘着力が消失または激減するため、紫外線照射前には脆質部材3を可撓性ガラス基板1上に安定して保持し、紫外線照射後には容易に剥離できる。本発明で使用する可撓性ガラス基板1は、樹脂板とは異なり、透明であり紫外線透過性を有することから、紫外線硬化型粘着剤を使用しても何ら支障はない。
【0026】
また、取り扱いの容易性などの観点から、仮着手段2は、図1に示したように両面粘着テープからなることが特に好ましい。
【0027】
両面粘着テープ2は、図1に示したように、中心に基材21と、その両側の面に粘着剤層22、23が設けられた構成からなる。この場合、中心に配置する基材21としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のフィルムよりなる。また、基材21の両側の面に設けられる粘着剤層22,23としては、再剥離可能であれば、従来公知の粘着剤が使用できる。たとえば通常の弱粘着剤であってもよく、また、剥離力を紫外線照射により制御できる紫外線硬化型粘着剤であってもよい。
【0028】
この基材21の両側の面に設けられる粘着剤層22,23は、どちらも同じものであってもよいが、両側が異なる材質のものでもよい。たとえば、粘着剤層22,23の何れか一方を紫外線硬化型粘着剤で構成し、他方を紫外線非硬化性の粘着剤で構成してもよい。剥離時に、脆質部材3に貼着される側の粘着剤層22が、可撓性ガラス基板1の側に設けられる粘着剤層23よりも剥離力が小さくなるように選択されるような構成であれば、可撓性ガラス基板1を脆質部材3から剥離する際に、両面粘着テープ2が可撓性ガラス基板1側に残着し、脆質部材3の側に残らず剥離されるため、脆質部材3から両面粘着テープ2を再度剥離するという工程が不要となる。一方、可撓性ガラス基板1に貼着される側の粘着剤層22が、脆質部材3の側に設けられる粘着剤層23よりも剥離力が小さくなるように選択されるような構成であれば、可撓性ガラス基板1を脆質部材3から剥離する際に、両面粘着テープ2が脆質部材3の表面に残着し、可撓性ガラス基板1の側に残らず剥離されるため、脆質部材3の保護膜として使用することができる。
【0029】
構造体10においては、脆質部材3上に、さらに保護テープなどを貼り合わせ、脆質部材3を補強してもよい。
【0030】
上記構造体10の実現手段は特に限定はされず、予め仮着手段2が貼着された可撓性ガラス基板1に脆質部材3を貼着してもよく、この逆でもよい。脆質部材3が、表面に回路が形成された半導体ウエハの場合には、回路面側を仮着手段2に貼り合わせて、回路面の保護を行う。
【0031】
次いで、脆質部材3に任意の処理を行う。この処理は、脆質部材3の用途に応じて様々であり、種々の加工処理、あるいは搬送や保管等をも含む。たとえば脆質部材3が表面に回路が形成された半導体ウエハの場合には、加工処理としては、ウエハ裏面に対するエッチング処理、ポリッシング処理、スパッタ処理、蒸着処理、研削処理等である。なお、脆質部材3に施される処理が、保管、搬送である場合には、かかる処理に先立ち、脆質部材3上に、さらに保護テープなどを貼り合わせ、脆質部材3を補強してもよい。
【0032】
その後、前記可撓性ガラス基板1を脆質部材3から剥離する。剥離工程に先立ち、図1に示すように、脆質部材3の変形を防止するため、脆質部材3側を支持手段11により固定する。支持手段11は、脆質部材3を変形することなく保持できるものであれば特に限定はされないが、たとえば吸着テーブル、粘着テープであり、また脆質部材の材質にもよるが電磁石などの磁性材料であってもよい。
【0033】
このような支持手段11で脆質部材3を固定しつつ、図3、図7に示すように、可撓性ガラス基板1側を剥離する。この結果、脆質部材3の変形が防止されるため、脆質部材3の破損が低減される。
【0034】
本発明では、脆質部材3を支持するために、可撓性ガラス基板1を使用しているため、脆質部材3を可撓性ガラス基板1から剥離する際に、可撓性ガラス基板1を湾曲させて剥離することができる。
【0035】
可撓性ガラス基板1を湾曲させて剥離するためには、たとえば可撓性ガラス基板1の端部を把持し、端部を脆質部材3から引き上げつつ、可撓性ガラス基板の折り返し方向に移動する。可撓性ガラス基板1の端部を把持する手段は如何なるものであってもよいが、たとえば図2(A)に斜視図、図2(B)に側面図に示すように、エアシリンダ31などによって上下動可能に保持された上部可動板32と、下部挿入板33と、これらを支持する軸34とからなる剥離治具30が好ましく用いられる。この剥離治具30を使用する場合には、図3に示すように、下部挿入板33を脆質部材3と仮着手段2との間に挿入し、上部可動板32を下降して、下部挿入板33と上部可動板32とで可撓性ガラス基板1の端部を把持する。その後、図3に示すように、端部を脆質部材3から引き上げつつ、可撓性ガラス基板1の折り返し方向に移動し、可撓性ガラス基板1を湾曲させながら剥離する。この方法によれば、仮着手段2が可撓性ガラス基板1とともに剥離されるため、脆質部材3から仮着手段2を再度剥離するという工程が不要となる。また、下部挿入板を可撓性ガラス基板1と仮着手段2との間に挿入して可撓性ガラス基板1の剥離を行っても良い。この場合には、仮着手段2は、脆質部材3上に残着するが、仮着手段は柔軟であるので、脆質部材3からの剥離は容易である。
【0036】
可撓性ガラス基板1の剥離後、支持手段11の保持力を解くことで、破損や汚染のない脆質部材が回収される。なお、支持手段11の保持力を解くには、たとえば支持手段が吸着テーブルである場合には、吸引力を解けばよく、また、粘着テープの場合には、これを剥離すればよい。磁性材料の場合には、電磁石などを使用し、所要の工程が終了後に通電を停止することで支持手段の保持力は解かれる。
【0037】
また、脆質部材3が半導体ウエハである場合には、支持手段11としてダイシングシートを使用してもよい。ダイシングシート上に半導体ウエハを固定しつつ、可撓性ガラス基板1を剥離することで、ダイシングシート上に半導体ウエハが転着される。したがって、裏面研削工程に続くダイシング工程への移行が簡便に行われる。
【0038】
特にダイシングシート上に半導体ウエハを転着する場合には、二組のリングフレーム、二枚の剥離用の粘着シートおよび剥離手段としての転着装置40を用いた次の方法を採用することが好ましい。
【0039】
まず、リングフレーム(RF)に張設された粘着シート(AS)からなる固定治具を二組用意する。次いで、この二組の固定治具で、可撓性ガラス基板1と半導体ウエハ3との積層体を挟み込む。以下、半導体ウエハ3側の固定治具を、第1の固定治具と呼び、この治具を構成するリングフレームを第1のリングフレームRF1、粘着シートを第1の粘着シートAS1と呼ぶ。同様に、可撓性ガラス基板1側の固定治具を、第2の固定治具と呼び、この治具を構成するリングフレームを第2のリングフレームRF2、粘着シートを第2の粘着シートAS2と呼ぶ。
【0040】
転着装置40は、図4に示すように、回転軸41、該回転軸に取り付けられた一対の薄板状アーム42、および被処理物を一時的に固定する支持手段としての吸着テーブル43からなる。上記二組の固定治具に挟持された可撓性ガラス基板1と半導体ウエハ3との積層体を、上記転着装置40に装着する。この際、第1の固定治具側を吸着テーブル43上に固定する。次いで、薄板状アーム42をリングフレームRF1、RF2の間に挿入する。図4におけるA−A線断面図を図5に示し、また図4の側面図を図6に示す。
【0041】
その後、薄板状アーム42が連結されている回転軸41を回転させ、リングフレームRF1とリングフレームRF2との間隔を離間させる(図7)。この結果、可撓性ガラス基板1は、第2の固定治具の移動に伴って変形し、湾曲しつつ半導体ウエハ3の表面から剥離される。
【0042】
その後、半導体ウエハ3表面に仮着手段2が残着している場合には、これを剥離除去して、半導体ウエハ3が第1の粘着シートAS1上に転着される。
【0043】
リングフレームRF1に張設された粘着シートAS1上に転着された半導体ウエハ3は、ウエハカセット(図示せず)に収納され、次工程であるダイシング工程等に移送される。この場合、粘着シートAS1はそのままダイシングシートとして使用できる。一方、第2の固定治具に保持された可撓性ガラス基板1は、粘着シートAS2から剥離され、必要に応じ洗浄、除歪処理の後、再度使用される。
【0044】
なお、本発明に係る脆質部材の処理方法について、半導体ウエハに適用した例を主として説明したが、本発明の構造および方法は、半導体ウエハのみならず、ガラス、セラミックスなどの各種の脆質部材に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明においては、可撓性ガラス基板に脆質部材を固定して保護しているため、脆質部材の搬送・保管・加工時において脆質部材を変形することなく保持できる。また、従来の硬質ガラスと異なり、本発明で使用する可撓性ガラス基板は湾曲可能であるため、脆質部材から可撓性ガラス基板を剥離する際に、脆質部材を変形することなく、可撓性ガラス基板側を変形して剥離できるため、脆質部材の破損が防止される。
【0046】
(実施例)
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
なお、可撓性ガラス基板1の最大曲げ角度は、以下のように測定した。
【0048】
図8は、可撓性ガラス基板の曲げ角度の測定方法を示した図である。図8(a)において、厚み25mm×幅200mm×奥行き250mmの木板や鉄板などの硬質板61Aの上に、厚み3mm×幅200mm×奥行き250mmのゴムシートやビニールシートなどの軟質シート62Aを貼り付けた。同じ大きさの軟質シート62Bを貼り付けた同じ大きさの硬質板61Bを用意し、28mm×250mmの面同士を合わせた。当接面の上端をA地点とし、A地点を基点に折り曲げの動きができるようにA地点付近に蝶番を取り付けてある。軟質シート62A付き硬質板61Aは動かないように固定し、軟質シート62B付き硬質板61BはA地点で折り曲げることができる。
【0049】
そして、厚み25mm×幅150mm×奥行き250mmの半円柱状硬質板65は、奥行き250mmの半径12.5mmの半円柱に仕上げてある。この半円柱硬質板65に、厚み3mm×幅290mm×奥行き250mmの第2軟質シート66を図8に示すように貼り付けてある。
【0050】
可撓性ガラス基板の曲げ角度の測定の際には、A地点が可撓性ガラス基板の円中心線と一致するように配置される。そして、可撓性ガラス基板が動かないように上記第2粘着シート66付き半円柱硬質板65が可撓性ガラス基板上に押し付けられる。半円柱硬質板65が可撓性ガラス基板を押し付ける位置は、第2軟質シート66の半円柱最外部と可撓性ガラス基板の円中心線とが一致する位置である。
【0051】
次に図8(b)に示すように軟質シート62B付き硬質板61Bが矢印67の方向に、A地点を支点としてゆっくり回転する。可撓性ガラス基板は第2軟質シート66付き半円柱硬質板65の下部半円柱の円弧に沿って曲がる。矢印67の方向に回転する角度は、曲げ角度で約1°/秒で行う。曲げ角度とは、軟質62Aの上面と軟質シート62Bとの上面との角度69で表した。そして、最大曲げ角度とは、可撓性ガラス基板が矢印67の方向にどんどん押し上げられて、可撓性ガラス基板が割れてしまった時の角度とした。軟質シート62Aの上面と軟質シート62Bの上面との角度69は、分度器を使って1°単位で計測した。
【0052】
また、支持性、剥離性の評価は、下記のとおり行った。
【0053】
(1)支持性
両面粘着テープを介して所定の可撓性ガラス基板と脆質部材としての8インチシリコンウエハ(厚さ720μm)とを積層した。続いて、ウエハ裏面研削機(株式会社ディスコ社製DFG−840)を用いてシリコンウエハの厚みが50μmになるまで研削を行い、構造体とした。平滑な板上に高さ50mm、直径50mmの円柱状の台を置き、さらにその台上に研削したシリコンウエハを可撓性ガラス基板側を下にして、ウエハの中心と台の中心とが一致するように置いた。平滑な板から可撓性ガラス基板のエッジ部までの距離を定規で測定し、49mm〜51mmであれば良好とし、それ以外であれば不可と判断した。
【0054】
(2)剥離性
図3または図7に示す剥離手段を用いて可撓性ガラス基板の剥離を行った。半導体ウエハ側を破損、汚染することなく剥離できたものを良好とした。半導体ウエハを剥離できなかったり、ウエハの破損、汚染があったものを不良とした。
【0055】
(実施例1)
(両面粘着テープの製造)
粘着剤AおよびBとして、下記粘着剤を準備した。
【0056】
粘着剤A:2−エチルヘキシルアクリレート85重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15重量部からなる重量平均分子量400,000の共重合体100重量部と、トリレンジイソシアナートとトリメチロールプロパンの付加物からなる架橋剤9.4重量部とを配合した粘着剤。
粘着剤B:ブチルアクリレート80重量部、メチルメタクリレート10重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5重量部からなる重量平均分子量500,000の共重合体100重量部とトリレンジイソシアナートとトリメチロールプロパンの付加物からなる架橋剤0.9重量部を配合した粘着剤。
【0057】
厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにロールコーターを用いて粘着剤Aを乾燥厚み20μmとなるように塗布乾燥し、剥離フィルムとラミネートした。続いて、別の剥離フィルムに粘着剤Bを乾燥厚み20μmとなるように塗布乾燥し、PETの粘着剤Aを塗布した面と逆面にラミネートし両面粘着シートを得た。
【0058】
(可撓性ガラス基板の製造)
63重量%のSiO、14重量%のAl、6重量%のLiO、10重量%のNaO、7重量%のZrOの組成比からなる原料ガラス混合物を1500〜1600℃で5時間加熱溶融した後、鉄板上に流し出しプレスをしてガラス板を得た。次に所望の大きさに加工・研磨し、外径201mm、厚さ0.5mmの円形ガラス板を得た。続いて、ガラス板を360℃のKNO:60%、NaNO:40%の混塩溶融液に3時間浸漬し、ガラス板表面部のイオン交換を行い、圧縮応力層が100μmの化学強化した可撓性ガラス基板Aを得た。このガラスの最大曲げ角度は、約40度であった。
【0059】
(構造体の形成)
両面の剥離フィルムを剥がした両面粘着シートを介して可撓性ガラス基板Aと厚み720μmの8インチシリコンウエハを真空下で積層した。その後、ウエハ裏面研削機(株式会社ディスコ社製DFG−840)を用いてシリコンウエハの厚みが50μmになるまで研削を行い、図3に示す剥離手段を用いて可撓性ガラス基板Aの剥離を行った。この構造体の支持性と剥離性の評価を行った。支持性、剥離性ともに良好であった。
【0060】
(実施例2)
図7に示す剥離手段を用いて可撓性ガラス基板の剥離を行った以外は実施例1と同様の操作を行った。支持性、剥離性ともに良好であった。
【0061】
(実施例3)
(可撓性ガラス基板の製造)
実施例1と同じ組成比からなる原料ガラス混合物を1500〜1600℃で5時間加熱溶融した後、鉄板上に流し出しプレスをしてガラス板を得た。次に所望の大きさに加工・研磨し、外径201mm、厚さ1mmの円形ガラス板を得た。続いて、ガラス板を360℃のKNO:60%、NaNO:40%の混塩溶融液に3時間浸漬し、ガラス板表面部のイオン交換を行い、圧縮応力層が100μmの化学強化した可撓性ガラス基板Bを得た。このガラスの最大曲げ角度は、約32度であった。図7に示す剥離手段を用いて可撓性ガラス基板Bの剥離を行った以外は実施例2と同様の操作を行った。支持性、剥離性ともに良好であった。
【符号の説明】
【0062】
1・・・可撓性ガラス基板
2・・・両面粘着テープ(仮着手段)
21・・・基材
22,23・・・粘着剤層
3・・・脆質部材
10・・・構造体
11・・・支持手段
30・・・剥離手段
31・・・エアシリンダ
32・・・上部可動板
33・・・下部挿入板
34・・・軸
40・・・転着装置(他の剥離手段)
41・・・回転軸
42・・・薄板状アーム
43・・・吸着テーブル
61A、61B・・・硬質板
62A、62B・・・軟質シート
65・・・半円柱硬質板
66・・・第2軟質シート
69・・・角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが300〜1000μmであり、NaイオンおよびKイオンから選ばれる1種以上のイオンによりイオン交換処理して化学強化された圧縮応力層を有し、最大曲げ角度が30度以上である可撓性ガラス基板上に、半導体ウエハを再剥離可能に固定する工程、
前記半導体ウエハに処理を行う工程、
前記半導体ウエハ側を支持手段により固定する工程、および
前記可撓性ガラス基板を湾曲させて半導体ウエハから剥離する工程を含む、半導体ウエハの処理方法。
【請求項2】
前記可撓性ガラス基板の圧縮応力層が、少なくともKイオンとのイオン交換による化学強化処理により形成されてなる、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記可撓性ガラス基板の圧縮応力層の厚さが、約100μmである、請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記可撓性ガラス基板の外径が、前記半導体ウエハの外径と同一またはこれよりも大である請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
前記剥離工程が、可撓性ガラス基板の端部を把持し、端部を半導体ウエハから引き上げつつ、可撓性ガラス基板の折り返し方向に移動して剥離する請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
半導体ウエハに施される処理が、半導体ウエハの裏面研削である請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法。
【請求項7】
前記可撓性ガラス基板が、NaOまたはLiOを含む請求項1〜6のいずれかに記載の処理方法。
【請求項8】
前記可撓性ガラス基板の圧縮応力層が、NaイオンおよびKイオンによりイオン交換処理して形成されてなる、請求項1に記載の処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−34011(P2013−34011A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−243791(P2012−243791)
【出願日】平成24年11月5日(2012.11.5)
【分割の表示】特願2011−91270(P2011−91270)の分割
【原出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】