説明

半導体モジュール及び半導体モジュールの内部状態検出方法

【課題】圧接により半導体素子の電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールにおいて、半導体モジュールの内部状態を検出する。
【解決手段】IGBT素子2、IGBT素子2の電極層と電気的に接続されるコレクタ電極端子3,エミッタ電極端子4を備えた半導体モジュール1において、IGBT素子2とエミッタ電極端子4との間にばね電極6を設ける。ばね電極6は、導電板部材8を折り返し、導電板部材8を折り返すことで形成される平板部8b,8c間に、板ばね5を挟持して構成される。さらに、IGBT素子2と対向する平板部8cに、検出電極7を設ける。そして、エミッタ電極端子4と検出電極7との間の電気的測定(若しくは、温度差測定)を行い、ばね電極6の破損を検出する。また、エミッタ電極端子4と検出電極7との間の電気抵抗率を測定し、ばね電極6またはIGBT素子2近傍の温度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧接により半導体素子の電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な絶縁形パワー半導体モジュールとして、インバータ等電力変換装置に用いられるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)モジュールがある。また、このIGBTモジュールに代表される「絶緑形パワー半導体モジュール」若しくは「Isolated power semiconductor devices」は、それぞれJEC−2407−2007、IEC60747−15にて規格が制定されている。
【0003】
一般的な絶緑形パワー半導体モジュールにおいて、スイッチング素子であるIGBTやダイオード等の半導体素子は、半導体素子の下面に設けられた電極層がDBC(Direct Bond Copper)基板(或いはDCB基板)の銅回路箔上にはんだ付けされることにより、回路上に設けられる(例えば、非特許文献1)。DBC基板とは、セラミックス等からなる絶縁板に銅回路箔を直接接合したものである。
【0004】
半導体素子の上面に設けられる電極層は、超音波ボンディング等の方法によりアルミワイヤが接続されてDBC基板上の銅回路箔と電気的に結線される。そして、DBC基板の銅回路箔から外部へ電気を接続するための銅端子(リードフレームやブスバー)がはんだ付け等により銅回路箔と接続される。さらに、この周りは(スーパー)エンジニアリングプラスチックのケースで囲まれ、その中を電気絶緑のためのシリコンゲル等が充填される。
【0005】
近年、半導体素子の動作温度の高温化が進んでいる。動作温度が、175℃〜200℃となると、この温度がはんだ材料の融点に近いため、従来のはんだ材料を用いることができない場合がある。そこで、はんだに置換する材料として、例えば、金属系高温はんだ(Bi、Zn、Au)、化合物系高温はんだ(Sn−Cu)、低温焼結金属(Ag粉、nanoAg)等が提案されている。また、次世代の半導体素子であるSiCは、250〜300℃での動作が報告されている。
【0006】
はんだを用いた絶緑形パワー半導体モジュールの課題としては、以下の2つの課題がある。
1.RoHS(Restriction of Hazardous Substances)に対応するため、はんだの鉛フリー化
2.温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性の向上
はんだの鉛フリー化の課題に対しては、鉛フリーはんだを用いることやはんだを用いない半導体モジュール構造が検討されている。鉛フリーはんだ材料としては、例えば、上述のようなSn−Ag系やSn−Cu系のものが検討されている。また、はんだを用いない半導体モジュール構造として平型圧接構造パッケージが提案されている(非特許文献1、2)。
【0007】
一般的な平型圧接構造パッケージでは、半導体素子(例えば、IGBT、ダイオード)の端部に半導体素子及びコンタクト端子の位置決めをするガイドが設けられている。そして、半導体素子の上面電極層がコンタクト端子に接触した状態で半導体素子が基板(Mo基板やDBC基板等)上に設けられる。これらコンタクト端子と基板が半導体素子を押圧するように挟持して半導体モジュール内に備えられる。このように、平型圧接構造パッケージでは、圧接によりコンタクト端子と半導体素子との接続、及び半導体素子と基板との接続が行われる。
【0008】
平型圧接構造パッケージは、平型構造であることから半導体素子を両面から冷却できる。さらに、圧接により半導体素子や電極端子等を接続するので、はんだを用いないで半導体素子が電気的、熱的に外部と接続できる。このため、一般的に平型圧接構造パッケージの両端をヒートシンクで圧接することで、平型圧接構造パッケージの両面を冷却するとともに、そのヒートシンクを導電部材として用いる。
【0009】
平型圧接構造の半導体モジュールでは、圧接力が各半導体素子等に均等に掛かるように半導体モジュールを組み立てる必要がある。例えば、圧接は平型圧接構造パッケージの上下のヒートシンク間とを電気的に絶緑する必要があること、板バネで平型圧接構造パッケージを圧接するがこの設計の圧接力が平型圧接構造パッケージの電極ポストに均等に掛かるようにする必要がある。これらにはノウハウがあり、圧接が不良であった場合は半導体素子の破壊の原因となるおそれがある。なお、ヒートシンクと平型圧接構造パッケージの圧接は、主にユーザが実施する。また、回路を構成するのに、このヒートシンクや圧接のための板バネが小型化の妨げとなる等、使いこなすのには熟練が要求される。このことから平型圧接構造パッケージは限られた装置への適用となり、代わりに使い勝手の良い従来型の絶縁形パワー半導体モジュールが広く使われている。
【0010】
また、温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性を向上させる課題に対しては、半導体モジュールを構成する各部材(半導体、金属、セラミックス等)の熱膨張率の違いより生じる課題を改善する必要がある(例えば、特許文献1、2)。すなわち、基板−銅ベース間、基板−銅端子間において、銅とセラミックスの熱膨張係数の差から間のはんだにせん断応力が働き、はんだに亀裂が生じて熱抵抗が増大したり端子が剥離したりするおそれがある。さらに、半導体素子−基板間のはんだにも亀裂が生じる場合がある。その他、半導体素子上のアルミワイヤの接続部でもアルミニウムと半導体素子の熱膨張の差で応力が発生してアルミワイヤが疲労破断する場合がある。
【0011】
年々電力密度の増加に伴い、半導体素子上の電極とアルミワイヤ間等の接合温度が高くなることで、はんだのせん断応力、アルミワイヤの応力が大きくなってきている。これに対して熱膨張の影響が半導体モジュールの設計寿命に至るまでの期間に亘って顕在化しないように半導体モジュールの構造を設計する必要がある。SiCやGaNのような高温で使用できるワイドバンドキャップ半導体素子の出現により、さらに熱膨張の影響の低減が要求されている。
【0012】
そこで、高信頼性、環境性、利便性を同時に実現するために、圧接のように、はんだ接合、あるいはワイヤーボンドを用いず、かつ使い勝手の良い絶縁形パワー半導体モジュールの実現が求められている。また、SiC、GaNなどの高温で使用可能な半導体素子の性能を活かす半導体モジュールとしても温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性が求められている。
【0013】
つまり、平型圧接構造の半導体モジュールのように、圧接により半導体素子の電極層とこの電極層に接続される電極端子とを接続する半導体モジュールが、再び注目を集めている。平型圧接構造の半導体モジュール、特に、半導体モジュール内に弾性部材を設けて、電極端子と電極層とを圧接する半導体モジュールの場合、半導体モジュールの信頼性を向上させるために、弾性部材の状態(弾性部材近傍の温度や劣化等)を把握し、弾性部材の寿命を評価することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−17087号公報
【特許文献2】特開2004−319991号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】電気学会高性能高機能パワーデバイス・パワーIC調査専門委員会、「パワーデバイス・パワーICハンドブック」、コロナ社、1996年7月、p289、p336
【非特許文献2】森睦宏、関康和、「大容量IGBTの最近の進歩」、電気学会誌、社団法人電気学会、1998年5月、Vol.118(5)、pp.274−277
【非特許文献3】平成21年電気学会全国大会シンポジウム「半導体電力変換装置のパッケージング技術−実装における技術動向」、平成21年電気学会全国大会講演論文集、社団法人電気学会、第4分冊、S20(15)−S20(18),4−S20−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、半導体モジュール内部の温度や半導体モジュールを構成する部品の状態を把握するために、半導体モジュール内部状態を把握するための部品点数を増加させると、半導体モジュールの構成が複雑となり、半導体モジュールの小型化の妨げとなるおそれが生じる。
【0017】
上記事情に鑑みて、本発明は、圧接により半導体素子の電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールにおいて、半導体モジュール内部の状態を把握し、半導体モジュールの信頼性の向上に貢献することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、半導体素子と、前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、前記電極部材に設けられる検出電極と、を備えたことを特徴としている。
【0019】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、上記半導体モジュールにおいて、前記電極部材は、導体平板を折り返し、この折り返した導体平板間に弾性部材を設けてなることを特徴としている。
【0020】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、上記半導体モジュールにおいて、前記検出電極は、前記電極部材を押圧して設けられることを特徴としている。
【0021】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、上記半導体モジュールにおいて、前記検出電極が前記電極部材を押圧する押圧力は、前記電極部材が前記半導体素子を押圧する押圧力の10分の1以下であることを特徴としている。
【0022】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、上記半導体モジュールにおいて、前記検出電極は、前記導体平板を折り返して形成される平板部のうち、前記電極端子が設けられる平板部と対向する平板部に設けられることを特徴としている。
【0023】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールは、半導体素子と、前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、前記電極端子を前記半導体素子方向に押圧する電極部材と、前記電極部材に設けられる検出電極と、を備えたことを特徴としている。
【0024】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールの内部状態検出方法は、半導体素子と、前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、前記電極部材に設けられる検出電極と、を備えた半導体モジュールの内部状態検出方法であって、前記電極部材と接続される電極端子と、前記検出電極との間の電気的性質の変化に基づいて、前記電極部材の異常を検出することを特徴としている。
【0025】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールの内部状態検出方法は、半導体素子と、前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、前記電極部材に設けられる検出電極と、を備えた半導体モジュールの内部状態検出方法であって、前記電極部材と接続される電極端子と、前記検出電極との間の温度差に基づいて、前記電極部材の異常を検出することを特徴としている。
【0026】
また、上記目的を達成する本発明の半導体モジュールの内部状態検出方法は、半導体素子と、前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、前記電極部材に設けられる検出電極と、を備えた半導体モジュールの内部状態検出方法であって、前記電極部材と接続される電極端子と、前記検出電極との間の電気抵抗率に基づいて、前記半導体素子近傍の温度を検出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
以上の発明によれば、圧接により半導体素子の電極層と電極端子とを電気的に接続する半導体モジュールにおいて、半導体モジュール内部の状態を検出することができ、半導体モジュールの信頼性の向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態1に係る半導体モジュールの断面図である。
【図2】実施形態1に係る半導体モジュールの側面図である。
【図3】実施形態1に係る半導体モジュールに設けられるばね電極に作用する力を説明する説明図(断面図)である。
【図4】実施形態2に係る半導体モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る半導体モジュール及び半導体モジュールの内部状態検出方法について、図を参照して詳細に説明する。
【0030】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る半導体モジュール1の断面図である。本発明の実施形態1に係る半導体モジュール1は、IGBT素子2(半導体素子)、IGBT素子2の電極層と電気的に接続されるコレクタ電極端子3、IGBT素子2の電極層と電気的に接続されるエミッタ電極端子4、ばね電極6及び検出電極7より構成される。
【0031】
IGBT素子2は、図1に示すように、コレクタ(カソード)電極端子3上にモリブデン製コンタクト電極9を介して設けられる。IGBT素子2には、図示省略するが、上面にエミッタ、ゲート(制御電極)が形成され、底面にコレクタが形成されている。つまり、コレクタ電極端子3は、コンタクト電極9を介してIGBT素子2のコレクタと電気的に接続される。なお、実施形態の説明では、便宜上、上面及び底面とするが、上下方向は、本発明をなんら限定するものではない。また、ゲート(制御電極)と制御回路との接続については、従来の接続方法を用いればよいので図示省略する。
【0032】
コレクタ電極端子3(及び、エミッタ電極端子4)は、周知の電極材料からなる電極端子を用いる。例えば、コレクタ電極端子3(及び、エミッタ電極端子4)の材料に銅等の熱伝導性の良い金属を用いると、半導体モジュール1(IGBT素子2)の放熱性が向上する。
【0033】
ばね電極6は、コンタクト電極10を介してIGBT素子2のエミッタと接続され、IGBT素子2のエミッタと電気的に接続される。ばね電極6は、導電板部材8を折り返し、導電板部材8を折り返すことで形成される平板部8b,8c間に板ばね5を挟持して構成される。導電板部材8は、銅、アルミニウム等の導電材料より構成される。導電板部材8を折り返すことで、導電板部材8には、折り返し部8a及び、平板部8b,8cが形成される。そして、この平板部8cがコンタクト電極10と接するように、ばね電極6がコンタクト電極10上に設けられる。
【0034】
エミッタ電極端子4は、ばね電極6の平板部8bに設けられ、コンタクト電極10、ばね電極6を介してIGBT素子2のエミッタと電気的に接続される。
【0035】
検出電極7は、ばね電極6のIGBT素子2と対向する平板部8cの面を押圧するように設けられる。検出電極7が平板部8cを押圧する圧力を、ばね電極6がIGBT素子2を押圧する圧力の1/10以下とすると、検出電極7が平板部8cを押圧する押圧力が、ばね電極6によるIGBT素子2の押圧を妨げない。検出電極7は、周知の電極材料からなる電極を用いるとよいが、検出電極7に、銅、アルミニウム等の弾性力のある材料を用いると、検出電極7が弾性変形するので、ばね電極6によるIGBT素子2の押圧を妨げず好ましい。
【0036】
検出電極7と平板部8cとの接触面積は、特に限定するものではなく、検出電極7と平板部8cとの接触が確保できる程度の面積があればよいので、検出電極7は、検出電極7とエミッタ電極端子4間の電気的測定(温度差測定)が行いやすい箇所に設置することができ、半導体モジュール1の小型化や組立て利便性を妨げない。
【0037】
図2に示すように、検出電極7の一部は、IGBT素子2が格納される筺体14から突出した状態で設けられ、筺体14に接着剤等により固定される。このとき、検出電極7は、電気的な導通測定を行うための端子を当てることができる程度筺体14から突出させればよい。さらに、コレクタ電極端子3、エミッタ電極端子4、及び制御用電極端子16(IGBT素子2に設けられたゲート電極層、エミッタ電極層またはソース電極層と接続される電極端子)が筺体14から突出して設けられる。コレクタ電極端子3及びエミッタ電極端子4は、図示省略の駆動回路に接続される。また、制御用電極端子16は、IGBT素子2を制御する図示省略の制御回路と接続される。
【0038】
測定手段15は、検出電極7と、エミッタ電極端子4(ばね電極6を介して検出電極7と対向して設けられる電極端子)との電気的測定(若しくは、温度差測定)を行う。測定手段15が、ばね電極6とエミッタ電極端子4との間の電気抵抗測定を行う場合には、測定手段15は、電圧印加手段と電流検出手段を備える。また、測定手段15が、ばね電極6とエミッタ電極端子4との間の誘電率を測定する時には、測定手段15は、電圧印加手段と電荷測定手段(電位測定手段)とを備える。また、測定手段15が、ばね電極6とエミッタ電極端子4との間の温度差を測定する時には、測定手段15は、熱電対等の温度差測定手段から構成される。
【0039】
図1に示すように、コレクタ電極端子3とエミッタ電極端子4を、IGBT素子2方向に押圧するように、コレクタ電極端子3とエミッタ電極端子4のそれぞれに絶縁板13,13を介して冷却板11,12が設けられる。この冷却板11,12は、コレクタ電極端子3とエミッタ電極端子4をIGBT素子2方向に押圧した状態で固定される。そして、図示省略の筺体14に冷却板11,12に挟持されたIGBT素子2が収納され、筺体14内に窒素が封入される。
【0040】
冷却板11,12は、銅、アルミニウム等の金属板や熱伝導性の高いセラミックス板が用いられる。この冷却板11,12にヒートシンクを接続したり、冷却板11,12に直接冷却媒体(気体または液体)を接触させたりすることで半導体モジュール1を冷却する。また、絶縁板13,13を設けず、冷却板11,12を半導体モジュール1の外部回路と接続される外部接続用電極として用いることも可能である。
【0041】
上記構成からなる半導体モジュール1は、コレクタ電極端子3とエミッタ電極端子4をIGBT素子2方向に押圧するように冷却板11,12が設けられるので、ばね電極6の板ばね5に弾性エネルギーが蓄積される。ばね電極6は、板ばね5の弾性力により、エミッタ電極端子4と絶縁板13とを冷却板12方向に押圧し、コンタクト電極10をIGBT素子2(IGBT素子2のエミッタ)方向に押圧する。また、ばね電極6の押圧により、コレクタ電極端子3及び絶縁板13は冷却板11方向に押圧され、この押圧する力の反力によりコレクタ電極端子3がコンタクト電極9をIGBT素子2(IGBT素子2のコレクタ)方向に押圧する。このように、半導体モジュール1内部で各部材を押圧する力のバランスが保たれ、各部材間に適当な圧接力が働く。
【0042】
図3に示すように、ばね電極6は、上部と下部から加圧する力が作用する。ばね電極6の折り返し部8aは、板ばね5の弾性変形に伴う応力が集中しやすい。この力が、ばね電極6の折り返し部8aに集中すると、折り返し部8aが破損(例えば、U字状の折り返し部8aが塑性変形してV字状に変形する等)するおそれがある。そこで、実施形態に係る半導体モジュール1では、図2に示すように、検出電極7とエミッタ電極端子4間の電気抵抗測定、誘電率測定または温度差測定を行う測定手段15を備え、この測定手段15の測定値の変化に基づいて、半導体モジュール1の内部状態の変化(折り返し部8aの破損またはIGBT素子2近傍の温度変化等)を検出する。
【0043】
本発明の実施形態に係る半導体モジュール1の内部状態検出方法について、具体的な例(1)ばね電極6の破損を検出する例、(2)IGBT素子2近傍の温度を測定する例、を挙げて説明する。
【0044】
(1)ばね電極6の破損検出
図2に示す半導体モジュール1において、半導体モジュール1の内部状態を検出する場合、測定手段15は、エミッタ電極端子4と検出電極7との間の電気的性質(若しくは、温度差)を測定する。
【0045】
図1に示すように、検出電極7は、ばね電極6の平板部8cを押圧した状態で設けられているので、ばね電極6に異常が生じた場合(例えば、折り返し部8aが破損した、若しくはばね電極6の位置がずれた等の理由によりばね電極6がIGBT素子2を予め設計された圧力で押圧できない場合)、検出電極7とばね電極6間の接触強度が変化する。したがって、検出電極7とエミッタ電極端子4間の電気抵抗や誘電率を測定し、この測定値が変化した場合、ばね電極6の異常を検出(折り返し部8aが破損したと判断)することができる。なお、ばね電極6に異常が生じた場合、検出電極7とばね電極6との熱接触が弱くなるので、検出電極6とエミッタ電極端子4間の温度差を測定し、測定された温度差が予め定められたしきい値を超えた場合に、ばね電極6になんらかの異常が生じたと判断することもできる。
【0046】
(2)IGBT素子2近傍の温度測定
図2に示す半導体モジュール1において、半導体モジュール1に備えられるIGBT素子2の近傍の温度を検出する場合、測定手段15は、検出電極7とエミッタ電極端子4との間の電気抵抗率を測定する。ばね電極6を構成する導電板部材8が銅である場合、銅の電気抵抗率は、0℃で1.55×10-8Ω・mであり、300℃で3.6×10-8Ω・mとなる(理科年表(平成22年)、国立天文台編、丸善、2009年11月30日発行)。つまり、0℃から300℃の温度範囲で、導電板部材8の電気抵抗率はほぼ2倍となる。よって、検出電極7とエミッタ電極端子4間の電気抵抗率を測定することで、IGBT素子2の近傍の温度を推定することができる。
【0047】
すなわち、ばね電極6を構成する材料(主に、導電板部材8の材質)の温度による電気抵抗率の変化を予め把握しておくことで、導電板部材8が銅でない場合(アルミニウム等の金属で構成された場合)においても、測定手段15は、検出電極7とエミッタ電極端子4間の電気抵抗率に基づいて、IGBT素子2近傍の温度を推定することができる。
【0048】
また、ばね電極6の寿命は、IGBT素子2からの発熱量に大きく依存する。よって、ばね電極6の温度やIGBT素子2近傍の温度をモニタすることで、ばね電極6の寿命を推定することができる。
【0049】
一般に、1mm3より小型の温度センサとして、半導体温度センサがある。この半導体温度センサを半導体モジュール内に設置すると配線の引き回しをする必要があり、配線が困難となる。一方、本発明の実施形態に係る半導体モジュール1の内部状態検出方法によれば、筺体14から突出する検出電極7を一つ設けるだけで、IGBT素子2近傍の温度を検出することができる。
【0050】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る半導体モジュール及び半導体モジュールの内部状態検出方法について、図4を参照して詳細に説明する。なお、実施形態2に係る半導体モジュール17は、実施形態1に係る半導体モジュール1において、モジュール内に設けられるばね電極6の位置が異なるものである。よって、実施形態2に係る半導体モジュール17において、実施形態1に係る半導体モジュール1と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。また、実施形態2に係る半導体モジュールの内部状態検出方法は、実施形態1に係る半導体モジュール1と同様に、検出電極7と、ばね電極6に接続される電極端子(エミッタ電極端子4)との間の電気的測定(温度差測定)を測定手段15で行うことにより、半導体モジュール17内部の状態を検出するものである。よって、実施形態2に係る半導体モジュール17の内部状態検出方法の詳細な説明は省略する。
【0051】
図4は、本発明の実施形態2に係る半導体モジュール17の断面図である。本発明の実施形態2に係る半導体モジュール17は、IGBT素子2(半導体素子)、IGBT素子2の電極層と電気的に接続されるコレクタ電極端子3、IGBT素子2の電極層と電気的に接続されるエミッタ電極端子4、ばね電極6及び検出電極7より構成される。
【0052】
IGBT素子2は、コレクタ(カソード)電極端子3上にモリブデン製コンタクト電極9を介して設けられ、IGBT素子2のコレクタと電気的に接続される。
【0053】
エミッタ電極端子4は、コンタクト電極10を介してIGBT素子2のエミッタと接続され、IGBT素子2のエミッタと電気的に接続される。
【0054】
ばね電極6は、エミッタ電極端子4上に設けられる。さらに、コレクタ電極端子3とばね電極6を、IGBT素子2方向に押圧するように、コレクタ電極端子3とばね電極6のそれぞれに絶縁板13,13を介して冷却板11,12が設けられる。つまり、冷却板11,12は、コレクタ電極端子3とばね電極6をIGBT素子2方向に押圧した状態で固定される。その結果、ばね電極6が、エミッタ電極端子4をIGBT素子2方向に押圧した状態で半導体モジュール17に設けられる。そして、図示省略の筺体に冷却板11,12に挟持されたIGBT素子2が収納され、筺体内に窒素が封入される。
【0055】
検出電極7は、ばね電極6を構成する導体平板8を折り返して形成される平板部8b,8cのうち、エミッタ電極端子4に接続される平板部8cと対向する平板部8bに設けられる。
【0056】
上記構成からなる実施形態2に係る半導体モジュール17においても、実施形態1に係る半導体モジュール1と同様に、測定手段15で、検出電極7とエミッタ電極端子4間の電気的測定(若しくは、温度差測定)を行うことにより、半導体モジュール17の内部状態(電極部材の異常や電極部材の寿命等)を把握することができる。
【0057】
以上のように、本発明の半導体モジュールによれば、半導体素子が、筺体に格納される等の理由により、目視により半導体モジュール内部の様子を判断できない場合でも、半導体モジュールの内部状態(電極部材の状態や半導体素子近傍の温度等)を検出することができる。そして、半導体モジュールの内部状態(電極部材の異常や電極部材の寿命等)を把握することで、半導体モジュールの信頼性を向上させることができる。
【0058】
また、半導体素子の近傍の温度を検出することにより、半導体素子の制御電極層に接続される制御電極端子の寿命推定を行うことができる。特に、半導体素子(の制御電極層)と接続される制御用電極端子の接続部が弾性体で形成されている場合、制御用電極端子の接続部は、電極部材と同様に、半導体素子から発生する熱による応力歪の影響を受けやすい。ゆえに、半導体素子の近傍の温度を検出することによって、電極部材だけでなく制御用電極端子の状態を把握することも可能となる。
【0059】
また、電極部材に異常が生じた場合、電極部材が半導体素子(または検出電極)を押圧する圧力は減少する傾向にある。そこで、電極部材面を押圧するように検出電極を設けることで、検出電極と電極部材の接触強度の変化を検出電極とエミッタ電極端子間の電気的測定値(温度差測定値)の変化として、より感度良く把握することができる。
【0060】
また、弾性部材を導電板部材で包んで電極部材を構成することで、半導体素子で発生した熱が導電板部材において拡散するので、半導体モジュールの放熱性が向上する。よって、SiC、GaNなどの高温で使用可能な半導体素子の性能を生かす半導体モジュールにおいて、温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性を向上させることができる。
【0061】
その結果、電極部材の弾性力により半導体モジュールに備えられる各部材を圧接する半導体モジュールの温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性が向上する。つまり、はんだ接合あるいはワイヤーボンドを用いず、かつ使い勝手の良い絶縁形パワー半導体モジュールを得ることができ、半導体モジュールの高信頼性、環境性、利便性を同時に実現することができる。
【0062】
なお、本発明の半導体モジュール及び半導体モジュールの内部状態検出方法は、上述した実施形態に限らず、本発明の特徴を損なわない範囲で適宜設計変更が可能であり、そのように変更された形態も本発明に係る半導体モジュール及び半導体モジュールの内部状態検出方法である。
【0063】
例えば、実施形態ではIGBT素子を備えた平型圧接構造の半導体モジュールを例示して説明したが、半導体モジュールに備えられる半導体素子は、IGBT素子に限定されるものでなく、サイリスタ(GTOサイリスタ等)、トランジスタ(MOSFET等)、FWD素子等の半導体素子を適宜選択して用いることができる。
【0064】
また、弾性部材は、板ばね5に限定されるものではなく、皿ばね、波板ばね、凸ばね、メッシュばね等を用いることができる。また、導電板部材8の折り返し部8aはU字状に折り返す形態の他に、導電板部材8の両端を折り返す形態等、板ばね5を挟持できる形態であればどのように折り返してもよい。また、平板部8b,8cと板ばね5との間に、それぞれステンレス板、モリブデン(Mo)板、タングステン(W)板等、既知の硬い金属からなる分散板(図示省略)を設けることで、板ばね5の押圧力を分散させ、ばね電極6の押圧力をより均一にIGBT素子2に作用させることができる。
【0065】
また、電極部材は、半導体モジュール内に設けられ、半導体素子(または、電極端子)を押圧するものであれば、ばね電極の形状に限定されるものではない。
【0066】
また、ばね電極6をIGBT素子2とコレクタ電極端子3との間に(若しくは、コレクタ電極端子3をIGBT素子2に押圧するように)設けた場合には、測定手段15は、検出電極7とコレクタ電極端子3との間の電気的測定(若しくは、温度差測定)を行うことで、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
1,17…半導体モジュール
2…IGBT素子(半導体素子)
3…コレクタ電極端子(電極端子)
4…エミッタ電極端子(電極端子)
5…板ばね(弾性部材)
6…ばね電極(電極部材)
7…検出電極
8…導電板部材(導体平板)
8a…折り返し部
8b,8c…平板部
15…測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、
前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、
前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、
前記電極部材に設けられる検出電極と、
を備えた
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
前記電極部材は、導体平板を折り返し、この折り返した導体平板間に弾性部材を設けてなる
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記検出電極は、前記電極部材を押圧して設けられる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記検出電極が前記電極部材を押圧する押圧力は、前記電極部材が前記半導体素子を押圧する押圧力の10分の1以下である
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記検出電極は、前記導体平板を折り返して形成される平板部のうち、前記電極端子が設けられる平板部と対向する平板部に設けられる
ことを特徴とする請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
半導体素子と、
前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、
前記電極端子を前記半導体素子方向に押圧する電極部材と、
前記電極部材に設けられる検出電極と、
を備えた
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項7】
半導体素子と、
前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、
前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、
前記電極部材に設けられる検出電極と、
を備えた半導体モジュールの内部状態検出方法であって、
前記電極部材と接続される電極端子と、前記検出電極との間の電気的性質の変化に基づいて、前記電極部材の異常を検出する
ことを特徴とする半導体モジュールの内部状態検出方法。
【請求項8】
半導体素子と、
前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、
前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、
前記電極部材に設けられる検出電極と、
を備えた半導体モジュールの内部状態検出方法であって、
前記電極部材と接続される電極端子と、前記検出電極との間の温度差に基づいて、前記電極部材の異常を検出する
ことを特徴とする半導体モジュールの内部状態検出方法。
【請求項9】
半導体素子と、
前記半導体素子の電極層と電気的に接続される電極端子と、
前記半導体素子と前記電極端子間に設けられ、前記半導体素子を押圧する電極部材と、
前記電極部材に設けられる検出電極と、
を備えた半導体モジュールの内部状態検出方法であって、
前記電極部材と接続される電極端子と、前記検出電極との間の電気抵抗率に基づいて、前記半導体素子近傍の温度を検出する
ことを特徴とする半導体モジュールの内部状態検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−4604(P2013−4604A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132187(P2011−132187)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】