説明

半導体基板のエキスパンド装置およびエキスパンド処理方法

【課題】基板劈開およびメタル膜分断が確実に行え、短時間でチップ分割が可能な半導体基板のエキスパンド装置およびエキスパンド処理方法を提供する。
【解決手段】テープ拡張ステージ11の上面側には、拡張保持リング9と、その内側でそれぞれ異なる径の円環をなす複数のリング部材R1〜Rnとが配置されている。リング部材R1〜Rnは同心円の円筒状に分割され、押圧球面11aを構成するものであって、最外環に位置するものリング部材R1とし、リング部材R2,…Rn−1がそれぞれ順次内側に配置され、中心部に位置するn番目のリング部材をRnとする。これらのリング部材R1〜Rnの上下位置をそれぞれ独自に決めることによって、押圧球面11aの曲率が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劈開起点加工処理済の基板をブレーキング(=基板劈開)して、エキスパンド(=チップ分離)処理するための半導体基板のエキスパンド装置およびエキスパンド処理方法に関し、特に炭化ケイ素(Silicon Carbide:以下SiCという。)、サファイヤなどの難切削性硬質材料からなる基板あるいはメタル膜付の半導体基板用ウェハ(以下これらを半導体用ウェハと総称する。)等のエキスパンド装置、およびウェハを一括してチップ分割するためのブレーキング処理を兼ねたエキスパンド処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、従来から、単一の半導体用ウェハを格子状に切断して、多数のパターン形成された半導体デバイスにチップ分割化(ダイシング:dicing)する際、ダイヤモンド等の砥粒が先端に付いた円盤状の切断用ブレード(ダイサー)で格子状に切断するブレードダイシング方式といわれる手法が一般的に用いられている。しかしながら、SiC基板やサファイヤ基板など、硬質で難切削性の基板を使用した半導体デバイスを加工する場合、ブレードダイシング方式の加工装置はその加工性が非常に悪く、処理時間がかかる等の問題があった。また、ブレードダイシング方式ではブレード自体の磨耗度合いが激しいため、工具の消耗頻度も高くなって、SiC基板やサファイヤ基板などの難切削性基板の量産には不向きとされている。
【0003】
そこで、サファイヤ基板などで適用されている従来技術としては、ダイヤモンド罫書き針(scriber)によるダイヤモンド・スクライビング方式や、スクライビング用超硬回転刃によるメカニカル・スクライビング方式、レーザー・スクライビング方式の他に、ステルス・ダイシング方式の加工装置が採用されている。これら各種スクライビング加工装置を用いれば、いずれも基板表面にケガキ(罫書き)線を入れておき、基板を劈開する際に、ケガキ部を劈開起点として劈開が容易になる。しかも、半導体基板を確実にスクライビングラインに沿って劈開できるため、劈開ラインの直線性を保った状態でチップ分割が可能である。
【0004】
また、ステルス・ダイシング方式の装置では、基板内部に透過式レーザーを照射して加工変質層を形成し、この基板内部の加工変質層を劈開起点とすることで劈開を容易としている。この場合も、半導体基板がステルス・ダイシングラインに沿って劈開されるため、その劈開ラインの直線性を保った状態でのチップ分割ができる。
【0005】
このようなスクライビングおよびステルス・ダイシングは、あくまでも劈開する際の起点を半導体基板に形成するためだけに実施されるものである。そのため、いずれの装置でも、基板劈開のための加工処理が別途必要となる。すなわち、スクライビングやステルス・ダイシングされた後の半導体用ウェハのブレーキング処理として、従来から、せん断式のブレーキング方式、3点曲げ式のブレーキング方式、折り曲げ式のブレーキング方式、ローラ押し当て式ブレーキング方式、あるいは平面エキスパンド方式、球面エキスパンド方式などの技術が存在していた。
【0006】
上記ブレーキング方式の各種(せん断式、3点曲げ式、折り曲げ式、ローラ押し当て式)は、いずれも1列毎のブレーキング処理であるため、1方向でのブレーキング処理が完了次第、ウェハ中心で90°回転して直交するもう1方向の劈開ラインについてブレーキング処理を実施する必要がある。これに対して、以下に説明するエキスパンド処理では、半導体用ウェハを一括してチップ分割するためのブレーキング処理を兼ねていることから、このエキスパンド方式に比べると、ブレーキング方式のものは処理時間がかかる。
【0007】
図7は、従来の平面エキスパンド方式の加工装置を示す概念図であって、(A)はダイシングフレームの平面形状、(B)は加工装置の断面構成を示している。
同図(A)に示すように、半導体基板1とダイシングフレーム2は、環状のダイシングフレーム2の中央部分に半導体基板1が位置するように、それぞれダイシングテープ3の上面に貼り付けられて固定されている。半導体基板1には、スクライビング処理、又はステルス・ダイシング処理によって、破線で示す劈開ラインが縦横に形成されている。ダイシングテープ3上の半導体基板1は、同図(B)に示すように、この状態でダイシングフレーム2を保持するダイシングフレーム保持台4に載せられ、保持カバー5で挟まれて固定される。ダイシングテープ3の周縁部分には、ダイシングフレーム2を上下方向から保持するためのOリング6,7が配置されている。
【0008】
ダイシングフレーム保持台4の内側には、平面円盤形状をなすテープ拡張ステージ8が配置されている。このテープ拡張ステージ8の外周に拡張保持リング9が設置され、ダイシングフレーム保持台4の内側で、テープ拡張ステージ8が図示しない駆動機構によって、図の上下方向に昇降する。ダイシングテープ3の裏側にテープ拡張ステージ8が押し付けられて、ダイシングテープ3が引き伸ばされることによって、劈開ラインに沿って半導体基板1が一括してチップ分割される。
【0009】
このように、図8に示す平面エキスパンド方式の加工装置は、他のブレーキング方式とは異なり、スクライビング(又は、ステルス・ダイシング)処理済の半導体基板1はダイシングテープ3に加えられる引張力を利用してウェハ劈開される。
【0010】
図8は、平面エキスパンド処理における半導体用ウェハのチップ状態を示す説明図である。
テープ拡張ステージ8が上昇してダイシングテープ3を押し上げたとき、拡張保持リング9とその上方から昇降するテープクランプリング10が嵌め込まれることで、ダイシングテープ3をテープ拡張ステージ8によって引き伸ばされた状態に保持できる。ダイシングテープ3を引き伸ばす際には、ダイシングフレーム2が滑って外れてしまわないよう、Oリング6,7によって保持される。すなわち、図8に示すようにテープ拡張ステージ8が上昇すると、ダイシングテープ3上の半導体基板1には、ダイシングテープ3をその外縁方向に引き伸ばすような引張力が加えられる。
【0011】
この方式の場合、ダイシングテープ3を拡張しながらウェハ劈開する方式であるため、ウェハ劈開と同時にテープ拡張によりメタル膜を引き剥がすことも可能である。しかしながら、SiC基板やサファイヤ基板などの硬質難切削性基板のように、半導体基板1の硬度が高いと、一般的なシリコン(Si)基板よりも劈開しにくい。そのため、図8に示すようにテープ拡張ステージ8が上昇しても、ウェハ中心部ではダイシングテープ3が伸ばされ難い。すなわち、半導体用ウェハ外周部のチップ1a,1b…のみでブレーキングされて、ウェハ中心部では、チップ1n-1,1n,1n+1がブレーキングされないといった問題がある。
【0012】
さらに、SiC基板やサファイヤ基板などの硬質難切削性基板の裏面にメタル膜が付いたものでは、基板そのものはブレーキングされても、メタル膜が分割されずに繋がった状態のままで残り、チップ分割は不完全なものとなる場合がある。一方、半導体用ウェハ中心部までブレーキングすること、および裏面メタル膜を完全に引き千切ることを狙って、テープ拡張ステージ8の押し付け量を増加させると、半導体用ウェハ外周部のテープ部分が引き伸ばされすぎて破れてしまうといった現象が起こる。そのため、テープ拡張ステージ8の押し付け量だけを無理やりに増加させることも不可能である。
【0013】
そこで、別の劈開技術として、ダイシングテープに貼り付けられた基板を球面円盤部による押圧力によって劈開および分離する球面エキスパンド方式が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0014】
図9は、従来の球面エキスパンド装置におけるチップの未分離状態を示す概念図である。
球面エキスパンド装置は、テープ拡張ステージ11のダイシングテープ3との押圧面に半球体の円盤面をなす押圧球面11aを有している。この球面エキスパンド装置による半導体用ウェハのブレーキング兼エキスパンド処理では、スクライビング(又は、ステルス・ダイシング)処理済の半導体基板1に曲げ力を与えて基板を劈開する際に、半導体用ウェハ外周部と半導体用ウェハ中心部でのテープ伸び量が均等になるような引き伸ばし力を与えることができる。したがって、こうした球面エキスパンド装置を使用することで、SiC基板やサファイヤ基板などの硬質難切削性基板の場合でも、半導体用ウェハの種類などによらず半導体用ウェハを一括して個々のチップに精度良く分割することが可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−177340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、図9のようにテープ拡張ステージ11の押圧球面11aの円盤形状によっては、ダイシングテープ3はそのウェハ中心部だけが引き伸ばされすぎて、ウェハ外周部では殆ど引き伸ばされない場合があり得る。これは、押圧球面11aの曲率が大きすぎて、ダイシングテープ3に対して押圧球面11aが過度に凸状態となる場合である。
【0017】
反対に、テープ拡張ステージ11の押圧球面11aの曲率が小さすぎると、図8に示した平面エキスパンド方式の加工装置と同様に、ウェハ外周部だけで引き伸ばされてウェハ中心部では引き伸ばされない。したがって、球面エキスパンド装置のテープ拡張ステージ11は、その押圧球面11aとして劈開する半導体基板1の基板条件に合った最適な球面曲率のものを選択する必要があった。
【0018】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、SiCやサファイヤ等の難切削性硬質材料からなる半導体基板、あるいはメタル膜付きの半導体基板に対して、基板劈開およびメタル膜分断が確実に行え、短時間でチップ分割が可能な半導体基板のエキスパンド装置およびエキスパンド処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明では、上記問題を解決するために、劈開起点が加工された半導体基板を劈開してチップ分離を行う半導体基板のエキスパンド装置が提供される。この半導体基板のエキスパンド装置は、弾性体のダイシングテープの外周縁部を固定するための環状のダイシングフレームと、前記半導体基板が中央に貼り付けられた前記ダイシングテープとともに前記環状のダイシングフレームを保持するダイシングフレーム保持部と、前記ダイシングテープの中央部に関して同心的に区分され、それぞれが異なる径を有する複数のリング部材により押圧球面を構成する押圧用円盤部と、前記押圧用円盤部を前記ダイシングテープに押圧して前記ダイシングテープを引き伸ばすことにより、前記半導体基板のチップ分離を行うテープ拡張ステージと、前記テープ拡張ステージ内で前記押圧用円盤部を構成する前記複数のリング部材の昇降位置を調整して、前記半導体基板に対する前記押圧球面の曲率を設定するリング昇降機構と、から構成される。
【0020】
また、本発明のエキスパンド処理方法は、押圧用円盤部を備えたテープ拡張ステージを劈開起点が加工された半導体基板に押し付けることで前記半導体基板のチップ分離に必要となる曲げ応力を前記半導体基板の中心部から外周側へ押圧球面に沿って与える際に、前記半導体基板が中央に貼り付けられた弾性体のダイシングテープを、その外周縁部で固定する準備工程と、前記ダイシングテープの中央部に関して同心的に区分され、それぞれが異なる径を有する複数のリング部材の昇降位置を調整して、前記半導体基板の直径、厚さ、硬度に応じて構成された押圧球面の曲率を設定する設定工程と、前記押圧球面で前記ダイシングテープ側から押圧して前記ダイシングテープを引き伸ばすことにより、前記半導体基板のチップ分離を行う分離工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の半導体基板のエキスパンド装置およびエキスパンド処理方法によれば、テープ拡張ステージの押圧球面の形状を変更することによって、対象となる半導体基板の大きさ、厚さ、硬度などの条件が変わっても、球面円盤自体を交換することなしに、ブレーキングおよびエキスパンドを適切に実施することが可能であり、短時間に基板劈開およびメタル膜分断ができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す図であって、(A)はテープ拡張ステージの平面図、(B)は押圧用円盤部の複数のリング部材により構成された押圧球面の断面図、(C)は押圧平面を構成する押圧用円盤部の断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す概念図であって、(A)はエキスパンド前の断面構成、(B)はエキスパンド時における半導体用ウェハのチップ状態を示している。
【図3】第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置において、押圧球面の曲率を異ならせた場合の概念図であって、(A)はエキスパンド前の断面構成、(B)はエキスパンド時における半導体用ウェハのチップ状態を示している。
【図4】第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置で、その押圧球面の直径を異ならせたものであって、(A)はテープ拡張ステージの平面図、(B)は押圧用円盤部の複数のリング部材により構成された押圧球面の断面図である。
【図5】第2の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す図であって、(A)はテープ拡張ステージの平面図、(B)は押圧用円盤部のX−X線に沿って示す断面図、(C)はY−Y線に沿って示す断面図である。
【図6】第2の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す図であって、(A)は縦横比が異なる長さでチップ分離される半導体基板の平面図、(B)はテープ拡張ステージの平面図、(C)は押圧用円盤部のX−X線に沿って示す断面図、(D)はY−Y線に沿って示す断面図である。
【図7】従来の平面エキスパンド方式の加工装置を示す概念図であって、(A)はダイシングフレームの平面形状、(B)は加工装置の断面構成を示している。
【図8】平面エキスパンド処理における半導体用ウェハのチップ状態を示す説明図である。
【図9】従来の球面エキスパンド装置におけるチップの未分離状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す図であって、(A)はテープ拡張ステージの平面図、(B)は押圧用円盤部の複数のリング部材により構成された押圧球面の断面図、(C)は押圧平面を構成する押圧用円盤部の断面図である。なお、図1の球面エキスパンド装置では、テープ拡張ステージ11側の部材だけを示し、図7(B)に示されている半導体基板1、ダイシングフレーム2、およびダイシングテープ3等の図示は省略した。
【0024】
テープ拡張ステージ11の上面側には、拡張保持リング9と、その内側でそれぞれ異なる径の円環をなす複数のリング部材R1〜Rnとが配置されている。リング部材R1〜Rnは同心円の円筒状に分割され、押圧球面11aを構成するものであって、最外環に位置するものをリング部材R1とし、リング部材R2,…Rn−1がそれぞれ順次内側に配置され、中心部に位置するn番目のリング部材をRnと称している。ここでは、後述するようにリング部材R1〜Rnの上下位置をそれぞれ独自に決めることによって、押圧球面11aの曲率が調整される。
【0025】
押圧球面11aを構成するリング部材R1〜Rnのうち、最外周のリング部材R1の外径は押圧球面11aの外径Daに等しく形成され、その内側に順次小さな外径のリング部材R2,…Rn−1が隙間なく配置されている。リング部材R1〜Rnは、いずれもテープ拡張ステージ11の内部空間に収納されるように配置され、例えばエアシリンダ、サーボモータなどのアクチュエータが昇降機構121〜12nとして連結されている。
【0026】
図1(B)では、中心部分のリング部材Rnが最外周のリング部材R1に対して高さhだけ高く位置決めされ、その中間に位置するリング部材R2,…Rn−1は外周のものに対して順次に、少しずつ高く位置決めされている。また、同図(C)には、比較のため押圧球面11aを想像線によって示しているが、実際にはテープ拡張ステージ11の内部空間にすべてのリング部材R1〜Rnが収納されたとき、従来の平面エキスパンド方式のもの(図8)と同じ状態となる。なお、中心部分のリング部材Rnは、リング部材Rn−1の環内を埋める円筒形状をなすものであってよい。
【0027】
ここで、半導体基板1を個々のウェハにブレーキングするエキスパンド処理においては、昇降機構121〜12nによってリング部材R1〜Rnを所定曲率の球面円盤状の押圧球面11aとして構成し、その後にテープ拡張ステージ11を上昇させる。そのため、テープ拡張ステージ11は、図示しないダイシングテープの外周縁部を固定した状態で保持するダイシングフレーム保持部に対して、前述した押圧球面11aがダイシングテープの中央部分を押圧する方向、およびダイシングテープから離れる方向に駆動する駆動機構を備えている。
【0028】
こうして、テープ拡張ステージ11の押圧球面11aをダイシングテープ3に押し付けることで、ウェハ劈開に必要となる曲げ応力が半導体基板1のウェハ中心部からウェハ外周側へ球面に沿う形で与えることができる。また、この実施の形態に係る球面エキスパンド装置では、チップ分割の対象となる半導体基板の大きさ、厚さ、硬度などの条件に応じて、押圧球面11aの円盤形状を変更することができる。
【0029】
つぎに、半導体用ウェハの基板条件と押圧球面の形状との関係について説明する。
一般的には、下記の表1の通り、基板硬度が高くなるか、基板厚さが厚くなるか、又はその両方の場合には、基板劈開に必要な力は上昇する。そのため、テープ拡張ステージ11による劈開力を向上するために、押圧球面11aの曲率を大きく(すなわち、より凸形状の状態に)する必要がある。
【0030】
また、半導体用ウェハの基板硬度が低くなるか、基板厚さが薄くなるか、又はその両方の場合には、基板劈開に必要な力は低下する。その場合、反対に押圧球面11aの曲率を小さく(すなわち、緩やかな凸形状に)する必要がある。
【0031】
【表1】

【0032】
図2は、第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す概念図であって、(A)はエキスパンド前の断面構成、(B)はエキスパンド時における半導体用ウェハのチップ状態を示している。
【0033】
ここでは、準備工程として、半導体基板1が中央に貼り付けられた弾性体のダイシングテープ3を、その外周縁部でダイシングフレーム2により固定する。ダイシングテープ3の周縁部分には、ダイシングフレーム2を上下方向から保持するためのOリング6,7が配置されている。すなわち、ダイシングテープ3上の半導体基板1は、ダイシングフレーム2を保持するダイシングフレーム保持台4に載せられ、保持カバー5で挟まれて固定される。
【0034】
つぎに、ダイシングテープ3の中央部に関して同心的に区分された複数のリング部材R1〜Rnの昇降位置を調整して、半導体基板1の直径、厚さ、硬度に応じて構成された押圧球面11aの曲率を設定する(設定工程)。その後に、押圧球面11aでダイシングテープ3側から押圧してダイシングテープ3を引き伸ばすことにより、半導体基板1のチップ分離を行う(分離工程)。こうして、押圧球面11aを備えたテープ拡張ステージ11を劈開起点が加工された半導体基板1に押し付けることで、半導体基板1のチップ分離に必要となる曲げ応力を半導体基板1の中心部から外周側へ押圧球面11aに沿って与えることができる。
【0035】
いま、図1(B)に示す球面エキスパンド装置の押圧球面11aを標準的な半導体基板1でのブレーキングに適正な標準状態の球体形状(曲率:中程度)であると仮定する。そして、図2において、半導体基板1の厚さが標準的な半導体基板に比較して厚い場合を考える。
【0036】
表1に示す通り、半導体基板が標準状態よりも基板硬度が高くなるか、基板厚さが厚くなるか、又はその両方の場合は、基板劈開に必要な力は上昇することになる。したがって、押圧球面11aによる曲げ力を向上するため、図2では押圧球面11aの曲率を大きくして、より急峻な凸形状に設定する必要がある。すなわち、中央部に位置するリング部材Rnを、少しずつ順次に周辺のリング部材Rn−1より高く昇降機構121〜12nによって調整し、中心部分のリング部材Rnが最外周のリング部材R1に対して高さh1(>h)だけ高く位置決めされることで、押圧球面11aの曲率を大きくできる。こうして、この押圧球面11aの押圧による球面エキスパンド処理によって、半導体基板1は固片化され、複数のチップ1a,1b…1n-1,1n,1n+1に分離される。
【0037】
図3は、第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置において、押圧球面の曲率を異ならせた場合の概念図であって、(A)はエキスパンド前の断面構成、(B)はエキスパンド時における半導体用ウェハのチップ状態を示している。
【0038】
図2の場合とは反対に、ここでは半導体基板1の厚さが標準的な半導体基板に比較して薄い場合である。ここでは、標準状態よりも基板硬度が低くなるか、基板厚さが薄くなるか、又はその両方の場合、基板劈開に必要な力は低下するため、球面円盤の曲率は小さく(すなわち、緩やかな凸状態に)設定されている。すなわち、中央部に位置するリング部材Rnを、少しずつ順次に周辺のリング部材Rn−1より高く昇降機構121〜12nによって調整し、かつ中心部分のリング部材Rnが最外周のリング部材R1に対して高さh2(<h)だけ高く位置決めされることで、押圧球面11aの曲率を小さくできる。
【0039】
このようなテープ拡張ステージ11が上昇して押圧球面11aによる押圧が続けられると、半導体基板1はその中央から周囲に向かって順次劈開されていく。最終的には、この押圧球面11aの押圧による球面エキスパンド処理によって、半導体基板1は固片化され、複数のチップ1a,1b…1n-1,1n,1n+1に分離される。
【0040】
図4は、第1の実施の形態に係る球面エキスパンド装置で、その押圧球面の直径を異ならせたものであって、(A)はテープ拡張ステージの平面図、(B)は押圧用円盤部の複数のリング部材により構成された押圧球面の断面図である。
【0041】
ここで、同図(A)に示すように、弾性体のダイシングテープ3の中央に貼り付けられ、テープ拡張ステージ11により劈介される半導体基板1sは、図1に示す標準的な大きさのものと比較して直径が小さい。そのため、外周側のリング部材R1〜Rbをテープ拡張ステージ11の内部空間に収納して、直径がDb(<Da)のリング部材Rbから内側のリング部材Rb〜Rnだけで押圧球面11aを形成する。このように、ダイシングテープ3の中央部に関して同心的に区分された複数のリング部材R1〜Rnの昇降位置を調整し、半導体基板1の直径が異なる大きさであっても、適切な曲率の押圧球面11aを構成できる。
【0042】
以上に説明した球面エキスパンド装置は、対象となる半導体基板1,1sの大きさ、厚さ、硬さなどに応じて、凸型球面円盤状のテープ拡張ステージ11の形状(すなわち、大きさ及び曲率)を適切に調整するだけで、球面円盤自体を交換しなくても劈開対象となる半導体基板の変更に対処でき、半導体用ウェハのブレーキングおよびエキスパンドが適切に実施される。
(第2の実施の形態)
図5は、第2の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す図であって、(A)はテープ拡張ステージの平面図、(B)は押圧用円盤部のX−X線に沿って示す断面図、(C)はY−Y線に沿って示す断面図である。
【0043】
第2の実施の形態に係る球面エキスパンド装置では、図1のような同心円の円筒状に分割されたリング部材R1〜Rnが、さらに所定の中心角単位で分割された扇型に分割されたリング部材(以下、分割リング部材D1〜Dnという。)に置き換えられている。図5(A)に示す押圧球面11aでは、分割リング部材D1〜Dn−3がいずれも中心角15°で扇型に24分割され、分割リング部材Dn−2では12分割、分割リング部材Dn−1では6分割されている。ただし、中心部分の分割リング部材Dnは非分割とされていて、分割リング部材Dn−1の環内を埋める円筒形状になっている。
【0044】
これらの分割リング部材D1〜Dnは、いずれもテープ拡張ステージ11の内部に収納されるように配置されており、分割リング部材D1〜Dnの昇降機構(不図示)により分割リング部材D1〜Dnの上下位置が任意の高さに調整できる。これにより押圧球面11aの立体形状を縦横で異なる高さを有する楕円球面に設定することが可能になる。
【0045】
すなわち、同じ直径の分割リング部材D1〜Dnを、そのX軸方向とY軸方向とで異なる上下位置に調整したとき、押圧球面11aは縦横方向で異なる傾斜面になって、その立体形状を楕円球面とすることができる。
【0046】
もっとも、同じ直径の分割リング部材D1〜Dnがそれぞれ同じ上下位置に調整されていれば、中心部分の分割リング部材Dnが最外周の分割リング部材D1に対して同一の高さhだけ高く位置決めできる。したがって、その場合には図5(B)のX−X線断面と同図(C)のY−Y線断面とに示されるように、全体が一様の曲率で押圧球面11aが設定され、第1の実施の形態と同じ形状が実現できる。
【0047】
図6は、第2の実施の形態に係る球面エキスパンド装置を示す図であって、(A)は縦横比が異なる長さでチップ分離される半導体基板の平面図、(B)はテープ拡張ステージの平面図、(C)は押圧用円盤部のX−X線に沿って示す断面図、(D)はY−Y線に沿って示す断面図である。
【0048】
同図(A)には、半導体基板1に縦横に形成されている劈開ラインLx1〜LxkおよびLy1〜Lymが破線で示されている。ただし、横方向には劈開ラインLx1〜Lxkがk本形成され、縦方向でのm本の劈開ラインLy1〜Lymより多く(k>m)形成されている。その結果、この半導体基板用ウェハは、縦方向に狭い間隔でチップ分離されることになる。
【0049】
このような半導体基板用ウェハのブレーキングに際しては、図6(C)に示すように、X−X線断面では中心部分の分割リング部材Dnが最外周の分割リング部材D1に対してh2の高さになるように、各分割リング部材D1〜Dnが位置決めされる。そして、Y−Y線断面については同図(D)に示されているように、X−X線断面での高さh2以上に大きな高さh1(h1>h2)に、分割リング部材D1〜Dnがそれぞれ位置決めされる。こうして、同じ直径の分割リング部材D1〜Dnを、そのX軸方向とY軸方向とで異なる上下位置に調整することによって、押圧球面11aには縦横方向で異なる傾斜面が形成される。すなわち、半導体基板1に対する押圧球面11aが楕円形状に変更設定されることによって、基板の大きさ、厚さ、硬さだけでなく、縦横長さの異なる形状にチップ分離されるブレーキングを適切に実施することができる。
【0050】
したがって、ブレーキングの対象となる半導体基板1の大きさや厚さ、硬度などの条件が変わる度に、球面円盤自体を変更しなくてもよく、装置の取り替えが面倒だったり、対象基板の種類が増えるほど球面円盤も増えるといった不都合を解消できるから、治具費が低減でき、装置の管理が容易である。
【0051】
以上、2つの実施の形態についての説明から、本発明では半導体用ウェハ、特に難切削性材料基板やメタル膜付基板等において、ウェハのブレーキングおよびエキスパンド処理を実施する際に、球面円盤を交換することなく球面形状を変更することが可能となり、対象となる基板の大きさ、厚さ、硬さなどの条件が変わっても、ブレーキングおよびエキスパンドを実施することが可能となる。
【0052】
また、こうしたブレーキングおよびエキスパンド処理方式が可能となることにより、従来のブレードダイシングから高速ダイシング処理方法(スクライビング方式、ステルス・ダイシング方式など)の採用が可能となり、生産性向上につながる。
【0053】
さらに、高速ダイシング処理方法の採用が可能となることでダイシング速度が大幅に速い、切削水および冷却水を必要としないドライプロセスが可能となり、かつカーフ幅(ダイシング幅)を狭くすることが可能なため、1枚の半導体基板から多くのチップを取ることも可能となる。しかも、消耗工具費を抑えることが可能なため、低ランニングコスト化が可能となる等の効果も期待できる。
【符号の説明】
【0054】
1,1s 半導体基板
1a,1b…,1n-1,1n,1n+1 チップ
2 ダイシングフレーム
3 ダイシングテープ
4 ダイシングフレーム保持台
5 保持カバー
6,7 Oリング
8,11 テープ拡張ステージ
9 拡張保持リング
10 テープクランプリング
11a 押圧球面
121〜12n 昇降機構
D1〜Dn 分割リング部材
R1〜Rn リング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
劈開起点が加工された半導体基板を劈開してチップ分離を行う半導体基板のエキスパンド装置において、
弾性体のダイシングテープの外周縁部を固定するための環状のダイシングフレームと、
前記半導体基板が中央に貼り付けられた前記ダイシングテープとともに前記環状のダイシングフレームを保持するダイシングフレーム保持部と、
前記ダイシングテープの中央部に関して同心的に区分され、それぞれが異なる径を有する複数のリング部材により押圧球面を構成する押圧用円盤部と、
前記押圧用円盤部を前記ダイシングテープに押圧して前記ダイシングテープを引き伸ばすことにより、前記半導体基板のチップ分離を行うテープ拡張ステージと、
前記テープ拡張ステージ内で前記押圧用円盤部を構成する前記複数のリング部材の昇降位置を調整して、前記半導体基板に対する前記押圧球面の曲率を設定するリング昇降機構と、
を備えたことを特徴とする半導体基板のエキスパンド装置。
【請求項2】
前記ダイシングフレーム保持部は、前記ダイシングテープを前記半導体基板と前記ダイシングフレームとの間で挟持して、前記ダイシングテープが前記押圧用円盤部によって引き伸ばされた状態で保持するテープクランプ部を有することを特徴とする請求項1記載の半導体基板のエキスパンド装置。
【請求項3】
前記テープ拡張ステージは、前記ダイシングテープの外周縁部を固定した状態で保持する前記ダイシングフレーム保持部に対して、前記ダイシングテープの中央部分を押圧する方向および前記ダイシングテープから離れる方向に駆動する駆動機構を備えたことを特徴とする請求項1記載の半導体基板のエキスパンド装置。
【請求項4】
前記押圧用円盤部では、前記複数のリング部材をそれぞれ所定の中心角で分割された扇型の分割リング部材に代えるとともに、
前記リング昇降機構では、前記半導体基板に対する前記押圧球面を楕円状に設定したことを特徴とする請求項1記載の半導体基板のエキスパンド装置。
【請求項5】
押圧用円盤部を備えたテープ拡張ステージを劈開起点が加工された半導体基板に押し付けることで前記半導体基板のチップ分離に必要となる曲げ応力を前記半導体基板の中心部から外周側へ押圧球面に沿って与えるエキスパンド処理方法において、
前記半導体基板が中央に貼り付けられた弾性体のダイシングテープを、その外周縁部で固定する準備工程と、
前記ダイシングテープの中央部に関して同心的に区分され、それぞれが異なる径を有する複数のリング部材の昇降位置を調整して、前記半導体基板の直径、厚さ、硬度に応じて構成された押圧球面の曲率を設定する設定工程と、
前記押圧球面で前記ダイシングテープ側から押圧して前記ダイシングテープを引き伸ばすことにより、前記半導体基板のチップ分離を行う分離工程と、
を備えたことを特徴とするエキスパンド処理方法。
【請求項6】
前記設定工程では、所定の中心角で分割された扇型の分割リング部材の昇降位置をそれぞれ調整し、前記半導体基板に対する前記押圧球面を楕円状に設定し、
前記分離工程では、前記半導体基板から縦横比が異なる長さでチップ分離を行うようにしたことを特徴とする請求項5記載のエキスパンド処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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