説明

半導体基板表面の不純物の回収方法及び不純物の定量分析方法

【課題】半導体基板の一方の表面のみかつ当該表面の全体をエッチング液に接触でき、半導体基板以外からの不純物の混入(コンタミ)がない半導体基板表面の不純物の回収方法、及び、前記不純物の回収方法を使用する半導体基板表面の不純物の定量分析方法を提供する。
【解決手段】平坦な底面を有する支持容器1にエッチング液2を添加し、その上に分析対象の半導体基板3を載せて、半導体基板3表面のエッチング液2への溶解に要する時間放置後、当該エッチング液2を回収する方法であって、半導体基板3の直径をXcmとしたとき、支持容器1に添加されるエッチング液2の量が、2×(X/5)ml以上、3×(X/2)ml以下であり、かつ支持容器1とエッチング液2の接触角が65°以上であることを特徴とする半導体基板表面の不純物の回収方法及び、前記不純物の回収方法を使用する半導体基板表面の不純物の定量分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の表面近傍に含まれる不純物の定量分析に使用される半導体基板表面の不純物の回収方法、及び、この回収方法を使用する定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の表面近傍に含まれる金属等の不純物は、半導体デバイスの特性を劣化させ、又半導体デバイス製造の歩留まりを低下させる。そこで、半導体基板の不純物による汚染を防ぐ対策が重要な課題となっている。そして、その対策を実施するため、半導体基板の表面近傍に含まれる不純物を超高感度で定量する分析が必要である。
【0003】
半導体基板の表面近傍に含まれる金属等の不純物の分析方法として、原子吸収法(AAS)あるいは、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)等が知られている。これらの分析では、半導体基板表面の所定面積を半導体が可溶な液(エッチング液)と接触させて表面近傍の半導体及び不純物を溶解(エッチング)し、このようにして得た液を洗浄等により回収して、測定対象の試料溶液を得ている。
【0004】
エッチング液と接触する所定面積の表面を、半導体基板の一方の表面(片面)全体とすれば、その面積を明確に把握することができる。そこで、半導体基板の片面全体をエッチング液に接触させて溶解させ、定量分析用の試料溶液を作製する方法が種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、中央部に向って湾曲したくぼみを有し、ウエハ(半導体基板)と同じサイズの耐酸性容器に酸(エッチング液)を入れ、この容器の周囲に形成されたウエハの形状に合った段差の上にウエハを置いて、酸とウエハを接触させる方法が記載されている。又、特許文献2には、シリコンウェーハ(半導体基板の1種)表面を薬液(エッチング液)に接触させる方法として、シリコンウェーハがちょうど収まる大きさのトレーに希王水(薬液)の適容量を入れ、この希王水に表面が接液するようにシリコンウェーハを静かに載せる方法が記載されている。さらに、特許文献3には、半導体基板の表面に濃硫酸等の回収液(エッチング液)を供給し、該回収液を半導体基板との間に挟むように疎水性部材を配置し、該回収液を前記半導体基板に広く接触させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−64966号公報
【特許文献2】特開2001−77158号公報
【特許文献3】特開2011−82338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載の試料溶液の作製方法では、半導体基板と同じサイズ、形状の専用容器が必要である。専用容器は使いまわしが求められるので、使いまわしの際専用容器に不純物が混入(コンタミ)しやすい。そこで、容器を清浄に保つための専用容器の洗浄および管理が必要となり、このための手間を要するとの問題がある。
【0008】
さらに、半導体基板のサイズが専用容器と僅かでも異なると、半導体基板の裏面に酸が回り込み、裏面を溶解する。半導体基板に欠けが生じている場合も、裏面に酸が回り込み裏面を溶解する。正確な定量分析のためには、エッチング液を接触する半導体基板の面積を正確に把握する必要があるが、裏面が溶解されるとその面積の正確な把握ができず、従って正確な測定ができないとの問題もある。
【0009】
又、特許文献3に記載の方法では、疎水性部材の重量とエッチング液量および濃度の範囲を厳しく限定しないと、ウエハ全面を均一にエッチング液に接触できない、エッチング液をこぼして不純物を全て回収できない等の問題が生じ、正確な測定ができないとの問題が生じる。又、特許文献3では、金属不純物の濃硫酸中への溶解を促進するため、100〜290℃程度で加熱することが好ましいと述べられているが、加熱することで、疎水性部材の重量とエッチング液量および濃度のバランスが崩れ、いっそうウエハ片面全体をエッチングすることが困難になる。
【0010】
本発明は、半導体基板の一方の表面(片面)のみかつ当該表面の全体をエッチング液に接触でき、半導体基板以外からの不純物の混入(コンタミ)がない半導体基板表面の不純物の回収方法を提供することを課題とする。本発明は、又、前記不純物の回収方法を使用する半導体基板表面の不純物の定量分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、検討の結果、平坦な底面を有する支持容器に、エッチング液の液滴を滴下し、当該液滴上に半導体基板を載せて浮かせたとき、液滴量を所定の範囲内にすれば、半導体基板の片面の全体でかつ当該片面のみで、エッチング液との接触が生じることを見出した。そして、この方法によれば、半導体基板と同じサイズの専用容器を必要とせず、簡易に半導体基板の片面のみを全体的かつ均一にエッチングすることができ、エッチングによる溶解液を回収・分析することで不純物を定量的に高い精度で分析できることを見出し、本発明と完成した。すなわち、前記の課題は、以下に示す構成により達成される。
【0012】
請求項1に記載の発明は、平坦な底面を有する支持容器にエッチング液を添加し、その上に分析対象の半導体基板を載せて半導体基板表面のエッチング液への溶解に要する時間放置後、当該エッチング液を回収する方法であって、半導体基板の直径をXcmとしたとき、支持容器に添加されるエッチング液の量が、2×(X/5)ml以上、3×(X/2)ml以下であり、かつ支持容器とエッチング液の接触角が65°以上であることを特徴とする半導体基板表面の不純物の回収方法である。
【0013】
支持容器は、平坦な表面を有する半導体基板がエッチング液上に浮かべたとき、支持容器の底面と半導体基板の接触が生じないように、平坦な底面を有するものである。半導体基板を浮かべて広がったエッチング液がその周囲よりこぼれないように、その周囲に鍔(つば)を有するものが好ましい。
【0014】
支持容器は、エッチング液との接触角が65°以上となる材質から形成される。接触角が65°未満となる材質から形成された支持容器を用いると半導体基板の裏面に酸が回り込み裏面の溶解が生じやすくなる。
【0015】
支持容器は、エッチング液により溶解されない耐食性を有し、かつその表面に定量分析の測定結果に影響を与える不純物を有しない清浄なものが使用される。例えば、エッチング液としては王水等の強酸が使用される場合は、耐酸性のあるガラス製やフッ素樹脂製のシャーレ等が用いられる、
【0016】
支持容器の大きさは、その底面が半導体基板含むことができる大きさであればよく、半導体基板と同じサイズとする必要はない。その底面が半導体基板より大きい限りは、半導体基板の種類やサイズが異なっても使用することができるので、特定の半導体基板のエッチング用の専用容器を用いる必要はない。従って、専用容器の使いまわしは不要であり、前回エッチング時からの汚染(コンタミ)を気にすることなく、半導体基板のエッチング(定量分析)に使用することができる。
【0017】
本発明の方法は、半導体基板の直径をXcmとしたとき、支持容器に添加されるエッチング液の量が、2×(X/5)ml以上、3×(X/2)ml以下であることを特徴とする。すなわち、エッチング液の量を前記の範囲とすることにより、半導体基板の片面の全体にわたって、かつ当該片面のみをエッチング液と接触できる。そして、半導体基板に欠けがある場合も、半導体基板の裏面に酸が回り込むことなく、片面のみをエッチング液と接触できる。
【0018】
その結果、エッチング液と接触する半導体基板の面積を正確に把握でき、正確な定量分析を可能にする。エッチング液の量が、2×(X/5)ml未満の場合、半導体基板の片面の全面をエッチング液と接触させることはできず、一部に接触しない部分を生じる。一方、エッチング液の量が、3×(X/5)mlを超える場合、半導体基板の裏面にエッチング液が回り込み、裏面を溶解する。
【0019】
半導体基板とは、半導体素子の製造に使用される半導体でできた薄い基板であり、ウエハ、ウェーハ等と呼ばれているものである。本発明の方法の適用される半導体基板としては、シリコンウェーハ、GaAsウエハ、GaNウエハ、InPウエハ、SiCウエハ、AlNウエハ等を挙げることができる。また、本発明は、原理上、半導体基板以外にも平坦な物質であれば、適用することが出来る。
【0020】
本発明の方法では、半導体基板が支持容器と接触しないように、半導体基板をエッチング液上に浮かす必要があるが、半導体基板の厚みが限界厚み以下であれば、表面張力により、エッチング液上に浮かすことができる。従って、本発明が適用されるのは、限界厚み以下の厚みを有する半導体基板である。限界厚みとは、1/(ρ−ρ0)×(2γρ0/g)0.5で表される厚みであり、ここで、ρは半導体基板の密度、ρ0はエッチング液の密度、γはエッチング液の表面張力、gは重力加速度(0.98m/秒)を表わす。限界厚みは、GaAsは0.93mm、GaNは0.78mm、InPは1.05mm程度であり、通常の半導体ウエハの厚みは0.1〜0.5mm程度であり限界厚みよりはるかに薄く、本発明の方法を充分適用できる。
【0021】
半導体基板の表面は、エッチング液上に浮かしたときに支持容器と接触しない平坦さである限りは、鏡面/非鏡面の違いがあっても、本発明の方法を適用できる。
【0022】
以上述べたように、本発明の半導体基板表面の不純物の回収方法は、底面の平坦な支持容器上に滴下されたエッチング液の液滴上に半導体基板を置き、その平坦さとエッチング液の表面張力を利用することで、半導体基板をエッチング液の液滴上に浮かせることを特徴とし、半導体基板の片面のみを全体的かつ均一にエッチング液に接触させて、片面の近傍にある不純物を全て回収できる方法である。
【0023】
請求項2に記載の発明は、前記エッチング液が、希王水を超純水で希釈してなり、前記希王水:超純水が体積比で、1:1〜49であることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板表面の不純物の回収方法である。エッチング液としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ酸、過酸化水素水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を挙げることができるが、半導体を溶解する強酸の水溶液が好ましく用いられる場合が多い。中でも、半導体基板がGaAsウエハ、GaNウエハ、InPウエハ等の場合は、希王水、塩酸、硝酸を超純水で希釈したものが好ましい。ここで、希王水とは、37質量%塩酸と60質量%硝酸の体積比で3:1の混液を言う。超純水とは、定量分析を阻害する又は分析結果に影響を与える不純物を含まない水を言う。
【0024】
次に、請求項1又は請求項2に半導体基板表面の不純物の回収方法の各工程について説明する。
【0025】
先ず、底面が半導体基板より大きい支持容器を用意する。支持容器は、定量分析の結果に影響を与えるような不純物が付着しないように、又エッチング液との接触角が65°以上となるように、充分清浄にする必要がある。この支持容器の底部上に、前記の所定の範囲内の量のエッチング液を滴下する。エッチング液は、できる限り支持容器底部の中央部近傍に滴下することが好ましい。中央部から離れた位置に滴下すると、半導体基板を載せたときにエッチング液が半導体基板片面の全面に広がらない場合が生じやすくなる。
【0026】
エッチング液を滴下した後、そのエッチング液上に半導体基板を載せる。半導体基板を載せると、半導体基板の重量によりエッチング液は押し広げられ、半導体基板の片面全体がエッチング液と接触し、エッチング液上にその表面張力により半導体基板が浮いた状態になる。エッチング液の量が2×(X/5)ml以上であれば、半導体基板の片面の全体をエッチング液と接触させることができる。又、エッチング液の量が3×(X/5)ml以下であれば、半導体基板の裏面にエッチング液が回り込み裏面を溶解することはない。又、半導体基板の厚みが限界厚み以下であれば、半導体基板をエッチング液上に浮かすことができ、半導体基板と支持容器が接触することはない。
【0027】
エッチング液上に分析対象の半導体基板を載せた後は、半導体基板表面のエッチング液への溶解に要する時間放置する。この放置は、好ましくは、不純物が含まれていると考えられる半導体基板の部分(通常、表面近傍)が全て溶解されるまで行われる。又は、半導体基板の所定の部分(表面からの所定の厚さ)のみを溶解して不純物量の定量により、他の部分における不純物量が推定できる場合は、当該所定の部分が溶解されるまでの時間放置される。
【0028】
放置後、半導体を溶解したエッチング液が回収される。エッチング液は全量回収される方が好ましい。そこで、例えば、半導体基板及び支持容器を超純水により洗浄し、その洗浄液全量を回収して、定量分析用の試料溶液とする。
【0029】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に半導体基板表面の不純物の回収方法を実施した後、回収されたエッチング液を超純水で希釈されてなる試料溶液中の不純物量を測定することを特徴とする半導体基板表面の不純物の定量分析方法である。
【0030】
回収されたエッチング液とは、半導体を溶解したエッチング液及び支持容器及び半導体基板に付着しているエッチング液を超純水で洗浄したときの洗浄液をあわせたものである。この洗浄を充分行うことにより、半導体を溶解したエッチング液の全量を回収することができる。エッチング液の全量を回収した後、好ましくは一定体積に定容して試料溶液とする。定容は、例えば、回収したエッチング液の全量をメスフラスコ等に移した後、超純水で希釈して一定体積とし、震盪して均一にすることにより行われる。
【0031】
定容して得られた試料溶液は、定量分析に供せられ、その測定値から、不純物の含有量が計算される。不純物の含有量は、通常微量であるので、定量分析の方法としては、微量の定量を可能とするAAS、ICP−OES、ICP−MS等を好ましい例として挙げることができる。なお、回収されたエッチング液(洗浄液も含む)の全量が正確に把握できる場合は、定容を行わずに、回収されたエッチング液を超音波等により充分撹拌して均一にした後、前記の分析を行い、その測定値と回収されたエッチング液の量から、不純物の含有量を求めてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の半導体基板表面の不純物の回収方法によれば、半導体基板以外から不純物を混入(コンタミ)させることなく、半導体基板表面の近傍にある不純物を定量分析用の試料溶液中に回収することができる。又、エッチング液に接触するのは、半導体基板の片面全体であり、一方、裏面等、当該片面以外の部分の接触はないので、接触面積を正確に把握できる。従って、本発明の回収方法により得られた試料溶液により、半導体基板表面近傍にある不純物を高い精度で定量分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の半導体基板表面の不純物の回収方法の一例の一工程を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の半導体基板表面の不純物の回収方法の一例の一工程を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の半導体基板表面の不純物の回収方法の一例の一工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図に基づき説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を損ねない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0035】
図1は、本発明の半導体基板表面の不純物の回収方法の一例の一工程を模式的に示す断面図であり、支持容器にエッチング液の液滴が滴下された様子、及び当該液滴の上に載せようとしている半導体基板を表わす。図1中、1は平坦な底面1aと鍔1bを有する支持容器を表わし、2はエッチング液を表わす。又、3は、半導体基板を表わし、4は半導体基板3の保持手段である。保持手段4としては、真空ピペット等を挙げることができるが、粘着テープ等により作製された持ち手等でもよく、半導体基板3を保持できるものであれば特に限定されない。
【0036】
エッチング液2は、ピペット等により、支持容器1の底面の中央部近傍に滴下され、図1に示すような液滴を形成する。半導体基板3は、保持手段4により保持されて、図中の矢印で示すように移動して、エッチング液2の液滴上に載せられる。
【0037】
図2は、半導体基板3がエッチング液2の液滴上に載せられたときの様子を示す。エッチング液2は半導体基板3の重量により広げられ、半導体基板3が、エッチング液2上に浮かんだ状態となっている。図2(a)は、エッチング液2の量が、半導体基板3の直径をXcmとしたとき、2×(X/5)ml以上、3×(X/2)ml以下であり、かつ支持容器1とエッチング液2の接触角が65°以上である場合を示す。図2(a)に示されているように、半導体基板3の片面3b(図中の下面)の全体がエッチング液2と接触しており、一方、他の表面3a(裏面、図中の上面)には、エッチング液2と接触する部分はない。
【0038】
エッチング液2の量が、半導体基板3の直径をXcmとしたとき、3×(X/2)mlを超える場合は、エッチング液2の量が多すぎ、図2(b)に示すように、半導体基板3の裏面3bもエッチング液2と接触し、正確な定量分析を可能とする試料溶液は得られない。又、エッチング液2の接触角が65°未満の場合は、エッチング液2の表面張力により半導体基板3をエッチング液2上に浮かすことができず、その結果、半導体基板3の裏面3aもエッチング液2と接触するようになる、あるいは、半導体基板3bが支持容器1aに接触することになり、正確な定量分析を可能とする試料溶液は得られない。
【0039】
エッチング液2の量が、半導体基板3の直径をXcmとしたとき、2×(X/2)ml未満の場合は、エッチング液2の量が少なすぎ、図2(c)に示すように、半導体基板3の片面3bの全面をエッチング液2と接触させることができず、正確な定量分析を可能とする試料溶液は得られない。
【0040】
図2(a)に示す状態に所定時間放置し、エッチング液2に半導体基板3の表面近傍を溶解させた後、半導体基板3はエッチング液2上から除去される。放置時間は、InPウエハを10倍希釈の希王水により常温で溶解する場合は、数分から数日であるが、溶解を促進するために本発明の趣旨を損ねない範囲で加熱してもよい。
【0041】
エッチング液2上から除去される際、半導体基板3の片面3bにはエッチング液2が付着しているので、当該片面を超純水で洗浄し、洗浄後の洗浄液は、エッチング液2と合体される。図3は、半導体基板3の片面3bを超純水で洗浄する様子及びその洗浄液がエッチング液2と合体され、試料溶液原液5となる様子を模式的に示す断面図である。図中、6は超純水を表わし、図に示すように、超純水6は、半導体基板3の片面3bに付着するエッチング液2を洗浄し、洗浄液7となってエッチング液2と合体し試料溶液原液5を生成する。
【0042】
得られた試料溶液原液5は、メスフラスコ等の定容手段に移され、超純水を加えて所定の体積とし、均一溶液をすることにより、定量分析用の試料溶液が得られる。均一溶液をする方法としては、震盪等により撹拌する方法、超音波を照射する方法等を挙げることができる。このようにして得られた試料溶液を、AASやICP−OES、ICP−MS等により測定することにより、不純物の定量分析を行うことができる。
【0043】
本発明の方法により定量分析される不純物としては、Ca、Cr、Cu、Fe、Ni、Zn等を挙げることができる。
【実施例】
【0044】
[標準試料の作製]
直径2インチ(5cm)、厚み360μmのInPウエハの片面上にCa、Cr、Cu、Fe、Ni、Znをそれぞれ50μg溶解する標準溶液を加え、常温で1日乾燥して、片面がCa、Cr、Cu、Fe、Ni、Znのそれぞれ50μgで汚染されているInPウエハの標準試料を作製した。
【0045】
実施例1
底面が平坦で直径が約10cmのテフロン(登録商標)製シャーレ(支持容器:下記、エッチング液との接触角70°)を充分清浄にし、その中央部に、ピペットを用いて、37質量%塩酸と60質量%硝酸の質量比で3:1の混液を超純水で10倍に希釈したエッチング液を2.5ml滴下した。滴下により形成された液滴上に、前記の標準試料を、汚染された片面が液滴に接するように載せたところ、標準試料はエッチング液上に浮き、当該片面全体がエッチング液と接触した。一方、標準試料の裏面がエッチング液と接触することはなかった。
【0046】
標準試料はエッチング液上に浮かした状態で、常温で1日放置した。その後、図3に示すように、標準試料をエッチング液上から移動し、当該片面を超純水で洗浄し、洗浄液をエッチング液と合体させた。このようにして得られた試料溶液原液の全量をメスフラスコに写し、超純水を加えて定容し、震盪させて均一にして試料溶液を得た。得られた試料溶液をICP−MSで測定し、標準試料の片面を汚染するCa、Cr、Cu、Fe、Ni、Znのそれぞれについて定量値M(μg)を得た。同様な操作を3回(N=3)行い、それぞれ定量値M(μg)を得た。
【0047】
表1に、このようにして得られた定量値M(μg)の実際の汚染量(50μg)に対する割合(回収率):(M/50)×100(%)を、3回の操作及びCa、Cr、Cu、Fe、Ni、Znのそれぞれについて示す。表1に示されているように、3回の操作間のばらつきは小さいこと、いずれの汚染元素についても97%以上の回収率が得られており、本発明の方法の有効性が確認された。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例2
厚みが、それぞれ、300μm、500μm、1000μm、1050μm、1200μmである以外は、前記標準試料と同じInPウエハを作製し、実施例1と同様にしてエッチング液上に載せたところ、厚みが300μm、500μm、1000μmのInPウエハは、エッチング液上に浮いたが、厚みが1050μm、1200μmのInPウエハは、エッチング液上に浮かず、ウエハ底面がシャーレの底面と接触した。又、InPウエハの裏面(上面)もエッチング液と接触した。この結果よりInPウエハの場合、限界厚み(ウエハがエッチング液に浮く最大の厚み)は約1000〜1050μm間にあり、1000μmの厚みであれば本発明の方法が適用できることが示されている。
【0050】
実施例3
シャーレ(支持容器)の材質を、エッチング液(希釈王水)との接触角が40°、60°、90°、110°とした以外は実施例1と同様の標準試料を用い、同様にしてInPウエハ(標準試料)をエッチング液上に載せたところ、接触角が40°の場合及び60°の場合は、InPウエハ(標準試料)がエッチング液上に浮かず、ウエハ底面がシャーレの底面と接触した。一方、90°、110°の場合は、70°(実施例1)の場合と同様に、InPウエハ(標準試料)はエッチング液上に浮んだ。この結果より、本発明の方法を有効に実施するためには、支持容器とエッチング液との接触角は、65°程度以上とする必要があることが示されている。
【0051】
実施例4
エッチング液量を、1.5ml、2.0ml、3.0ml、3.5mlとした以外は実施例1と同様の操作を行い、Cuについての回収率を求めた。その回収率及びエッチング液上にInPウエハ(標準試料)を載せたときの様子を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例5
InPウエハとして直径が4インチ(10cm)のものを用いて実施例1の標準試料と同様にして試験用試料(半導体基板)を作製、直径15cmのシャーレ(支持容器)を用い、エッチング液量を、6ml、8ml、12ml、14mlとした以外は実施例1と同様の操作を行い、Cuについての回収率を求めた。その回収率及びエッチング液上にInPウエハ(標準試料)を載せたときの様子を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表2及び表3の結果より、W/(X/5)が、1.5の場合は、ウエハの片面全体がエッチング液と接触せず、不純物の回収率が低く、正確な定量分析が行えないことが示されている。一方、W/(X/5)が、1.5の場合は、ウエハの裏面もエッチング液と接触し、正確な定量分析が行えないことが示されている。一方、W/(X/5)が2〜3の範囲では、ウエハの片面全体がエッチング液と接触し、一方ウエハの裏面はエッチング液と接触しない。そしてCuの回収率も99%以上又は100%であり、エッチング液量がこの範囲であれば、本発明の方法が充分有効に適用できることが示されている。
【符号の説明】
【0056】
1. 支持容器
2. エッチング液
3. 半導体基板
4. 保持手段
5. 試料溶液原液
6. 超純水
7. 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な底面を有する支持容器にエッチング液を添加し、その上に分析対象の半導体基板を載せて、半導体基板表面のエッチング液への溶解に要する時間放置後、当該エッチング液を回収する方法であって、半導体基板の直径をXcmとしたとき、支持容器に添加されるエッチング液の量が、2×(X/5)ml以上、3×(X/2)ml以下であり、かつ支持容器とエッチング液の接触角が65°以上であることを特徴とする半導体基板表面の不純物の回収方法。
【請求項2】
前記エッチング液が、希王水を超純水で希釈してなり、前記希王水:超純水が体積比で、1:1〜49であることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板表面の不純物の回収方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に半導体基板表面の不純物の回収方法を実施した後、回収されたエッチング液を超純水で希釈されてなる試料溶液中の不純物量を測定することを特徴とする半導体基板表面の不純物の定量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−115261(P2013−115261A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260675(P2011−260675)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】