説明

半導体素子の連続的製造装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、大面積の半導体素子、殊に光起電力素子等の積層半導体薄膜素子を基体上に連続的に製造できる装置及びそれを用いる製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、基体上に光起電力素子等の半導体素子を連続的に製造する方法として、半導体素子の層形成用の独立した成膜室を設け、該成膜室にて各々の半導体層の形成を行なう方法が提案されている。
【0003】例えば、米国特許第4,400,409 号明細書には、ロール・ツー・ロ−ル(Roll to Roll)方式を採用した連続プラズマCVD法が開示されている。この方法によれば、複数のグロー放電領域を設け所望の幅の十分に長い帯状の基板を、該基板が前記各グロー放電領域を順次貫通する経路に沿って配置し、前記各グロー放電領域において必要とされる導電型の半導体層を堆積しつつ、前記基体をその長手方向に連続的に搬送せしめることによって、半導体接合を有する素子を連続的に製造する事ができるとされている。
【0004】尚、該明細書においては、各半導体層形成時に用いる成膜ガス、ドーパントガスが他のグロー放電領域へ拡散、混入するのを防止するにはガスゲートが用いられている。
【0005】具体的には、前記各グロー放電領域を、スリット状の分離通路によって分離し、さらに該分離通路に例えばAr、H2 等の掃気用ガスの流れを形成させる、または分離通路に排気手段を設けて隣り合う成膜室から流れ込むガスを排気する手段が採用されている。
【0006】更に、米国特許第4,462,332 号明細書には、磁力によって磁性体の帯状基板をガスゲートの一方の壁面に圧接させ、該帯状基板を滑らせながら接触させて搬送する方法が開示されている。この方法によれば、ガスゲート中で基板位置が安定するので基板表面とガスゲートの壁面との間隔を十分狭くする事が可能になるとともに基板裏面はガスゲート壁に密着しているので隣接する放電領域のガスの分離性能が優れている。
【0007】図8に該特許明細書で開示されたガスゲートの模式図、図9にガスゲート壁面に基板が接触しないガスゲートの模式図を示す。図中801,901はスリット状分離通路、803,903はガスゲート壁、804,904は帯状基板、805,905は掃気用ガス導入管、806は磁石である。
【0008】ところが、この方法では、帯状基板がガスゲートの壁面にこすられながら搬送されるため、ガスゲート壁面と隙間を保って搬送する方法に比較してガスゲートでの摩擦力が増大しやすい。摩擦力が増大すると、帯状基板裏面に擦傷がつき基板側から堆積膜に圧力が加わる、また帯状基板搬送時の張力が増大して膜堆積後の帯状基板を巻き取る際に堆積膜に表面側から圧力が加わり半導体素子の欠陥の発生が多くなる。
【0009】また、帯状基板に薄い、或は伸びやすい材料を使用する場合にはガスゲートでの摩擦力が増加すると帯状基板搬送時の張力の増加により基板に伸びやしわが発生し、堆積膜の剥離、ひび割れ等が起こり半導体素子に欠陥を生じやすくなる。そこで従来、米国特許第4,462,332 号明細書にあるようにガスゲートの接触部に低摩擦材料を用いたり、米国特許第4,438,724 号明細書にあるようにガスゲートの接触部に帯状基板の進行方向に長い溝を設けて帯状基板とガスゲート壁面との接触面積を少なくするなどして摩擦力を減少させていた。
【0010】しかし、このような従来の方法では帯状基板とガスゲート壁面との密着状態を保持しつつ摩擦力を十分に減少させることはできず、どうしても堆積膜に強い圧力が加わり、半導体素子に欠陥を生じることが多かった。また、帯状基板を搬送するためにどうしても強い張力が必要になり、堆積膜の剥離、ひび割れを生じやすく、基板材料として薄い、或は伸びやすい材料は使用することができず基板として用いる材料に制限を受けていた。
【0011】特に、タンデム型太陽電池のように堆積する層数が多い場合には半導体素子の製造過程で帯状基板が通過するガスゲートの数が多くなり、摩擦力もそれだけ増加して欠陥の発生による生産性の低下や基板材料の制限などの影響が大きかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来のロール・ツー・ロール方式の半導体素子の連続的製造装置の問題点を解決し、隣り合う成膜室のガスの相互混入を効果的に防ぎながらガスゲートでの帯状基板の摩擦力を大幅に減少させ、堆積膜に加わる圧力による半導体素子の欠陥の発生のない半導体素子の連続的製造装置を提供する事にある。
【0013】本発明の他の目的は、隣り合う成膜室のガスの相互混入を効果的に防ぎながら基板搬送時の張力を減少させ、薄い、或は伸びやすい材料でも基板材料として用いることができるような基板材料の適用範囲の広い半導体薄膜の連続的製造装置を提供する事にある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明による半導体素子の製造装置は、ガスゲートを有するロール・ツー・ロール方式の半導体素子の連続的製造装置において、前記ガスゲートのスリット状の分離通路内に搬送される帯状基板の搬送方向に1メートル当たり5〜50列の複数の回転自在のローラーを該スリット状の分離通路の壁面から該ローラーの表面が0.1〜5mm出るように配置するとともに、搬送される帯状基板の裏面を該ローラーに圧接するように磁石を配置し、該帯状基板の搬送時にローラーと該帯状基板間に作用する磁力の変動幅を該磁力の最大値の1/2未満として、該帯状基板を該ローラーにより回転しつつ支持することを特徴とする半導体素子の連続的製造装置である。上記において、複数のグロー放電領域をガスゲートによって接続し、所望の幅で十分に長い帯状基板を前記各グロー放電領域を順次貫通する経路にそって配置し、各グロー放電領域において必要とされる導電型の半導体層を堆積しつつ前記帯状基板をその長手方向に連続的に搬送せしめることによって半導体接合を有する素子を連続的に製造する装置において、前記ガスゲートのスリット状の分離通路内に複数の回転自在のローラーを前記帯状基板裏面(半導体層の堆積していない面)を回転しつつ支持するように配置した事を特徴としている。
【0015】すなわち、本発明による半導体素子の製造装置は、複数のグロー放電領域をガスゲートによって接続し、帯状基板を前記各グロー放電領域を順次貫通する経路にそって配置し、各グロー放電領域において所望の半導体層を堆積形成しつつ前記帯状基板をその長手方向に連続的に搬送せしめることによって半導体接合を有する素子を連続的に製造する所謂ロール・ツー・ロール方式の半導体素子の連続的製造装置において、ガスゲートのスリット状の分離通路内に複数の回転自在のローラーを配置することにより、帯状基板を裏面から安定に接触支持し、基板表面とガスゲート壁面との間隔を十分に狭く一定に保ちガスの相互混入を防ぐとともに、基板裏面とローラーとの接触面が密着状態を保ちつつ基板の搬送に伴って回転して、帯状基板に加わる摩擦力、張力を減少させるものである。
【0016】図1は、本発明による半導体素子の連続的製造装置の一例を示す模式図である。図1において、101,102,103は高周波プラズマCVD法による成膜室、104,105は帯状基板の供給室、巻き取り室である。それぞれの成膜室はガスゲート106によって接続されている。107は帯状基板で、供給室から巻き出され、巻き取り室に搬送されるまでに3つの成膜室を通過して、その表面に三層の堆積膜、例えば、PIN構造の太陽電池用半導体層が形成される。
【0017】101〜103の各成膜室には基板を加熱する加熱ヒーター108、不図示のガス供給手段から供給される成膜ガスを成膜室に導入するガス導入管109、不図示の排気手段により成膜室を排気する排気管110、成膜室内の成膜ガスにエネルギーを与えて放電を生起する高周波電力を供給する放電電極111が設けられ高周波プラズマCVD法による膜堆積がそれぞれ行なわれる。
【0018】ガスゲート106には回転自在のローラー112が設けられ帯状基板を裏面から接触支持し、上下の掃気用ガス導入管113から掃気ガスが導入され、ガスゲートのスリット状の分離通路に掃気ガスの流れを作り、隣り合う成膜室の成膜ガスの混入を阻止する。114は圧力計、115,116は供給室及び巻き取り室の排気を行なう排気管である。
【0019】本発明による半導体素子の連続的製造装置の別の例を図2に示す。図2に示した装置は、基本的には図1に示した装置に直列に更に6個の成膜室と6個のガスゲートを加えたものであり、図中201〜206で示したものは図1における101〜106に対応している。
【0020】本装置では、自重により垂れ下がる帯状基板の形状に合わせてそれぞれの成膜室が配置されており、成膜室内で帯状基板が水平になるように成膜室の出入り口付近に帯状基板を裏面から支持する回転自在の支持ローラー207を設けている。
【0021】208〜210,211〜213は201〜203と同様の高周波プラズマCVD法による成膜室である。
【0022】本装置によれば、高周波プラズマCVD法により基板上に9層からなる堆積膜、例えば、PIN/PIN/PIN構造のタンデム型太陽電池用の半導体層が形成されうる。
【0023】以下、ガスゲートについて説明を加える。本発明におけるローラーは円筒形状が好ましく、ガスゲートのスリット状の分離通路の帯状基板の裏面側に、その回転軸が帯状基板の搬送方向と垂直かつガスゲート壁面とほぼ水平になる向きに、ローラー表面がガスゲート壁面から0.1〜5mm出る位置に配置するとよい。スリット状の分離通路の間隙(スリット幅)は通常1〜10mm程度である。
【0024】ローラーは、帯状基板を支持し、搬送を円滑にしうる数だけ備えることが好ましい。従って、基板の大きさ、重量、材質、及びガスゲートの構造等により適宜設定するが、搬送方向に5〜50列/mの範囲で配置すればよい。ローラーの径は特に規定されないが、通常、5〜50mm程度でよい。
【0025】図3は本発明の製造装置のガスゲートの一例を示す模式図である。スリット状の分離通路301内に回転自在のローラー302がその円筒の表面がガスゲート壁面303から0.1〜5mm出るように配置され、帯状基板304の裏面を支持している。305は掃気用ガス導入管である。
【0026】本発明におけるローラーの材料としては、成膜に適した温度に加熱された帯状基板と長時間接触しても熱変形や摩耗が少ないものとしてステンレス鋼等の金属、アルミナ等のセラミクス、石英等のガラス、或はこれらの複合材等が挙げられる。また、ローラーの形状としては表面は基本的には円筒形状であるが、基板裏面のガスの流れを安定化するために周方向に溝を設けてもよい。
【0027】基板とローラーとの密着性を高め、少々の基板の波打ちや反りがあっても基板がローラーから浮き上がりにくくするにはSUS430BA製鋼等の強磁性体の帯状基板を使用し、ローラー内部或はローラーの裏側に磁石を配し、磁力によって基板をローラーに圧接するのが効果的である。磁石の磁力は基板の種類、重量等により適宜設定すればよいが、例えば基板位置における磁力で100〜1000ガウスで目的を達成しうる。
【0028】図4は図3に示す本発明の装置のガスゲートの磁石を用いない場合の断面図、図5は図3に示す本発明の装置のガスゲートのローラー内部に磁石を設けた場合の断面図、図6はローラーの裏側に磁石を設けた場合の本発明の装置のガスゲートの一例を示す模式側面図、図7は図6のガスゲートの断面図を示す。
【0029】図中、401,501,601,701はガス分離通路、402,502,602,702はローラー、403,503,603,703はガスゲート壁面、404,504,604,704は帯状基板、405,505,605,705は掃気用ガス導入管、506,606,706は磁石である。
【0030】図6に示す本発明の装置のガスゲートと図8R>8に示す従来のガスゲートは、回転自在のローラーの有無以外はほぼ同じ構造であり、基板に作用する磁力もほぼ等しい。
【0031】図11は図6と図8のガスゲートで磁石の数を変えて基板に作用する磁力を変化させ、基板搬送に要する張力を測定した結果の一例である。尚、基板に作用する磁力と基板搬送に要する張力は図10に示すようにガスゲートの上半分でローラー1004に基板1001をつけて磁石1002の数により磁力を変化させ、ばねばかり1003によって測定した。図11より、基板接触面をローラーにすることで基板の摩擦力を約1/10に大幅に減少させられることが確認できるが、この場合に限らず本発明ではローラーを用いることで、一般的に1/5〜 1/50程度に摩擦力を低減しうる。
【0032】図12は同様にして基板に作用する磁力を変化させて図6と図8のガスゲートを用いてロール・ツー・ロール法によりPIN型のアモルファスシリコン太陽電池を製造し、太陽電池100cm2 当たりのショートによる欠陥発生数を調べた結果の一例である。これから、基板接触面をローラーにすることでガスの混入防止のために磁力により基板をガスゲートに密着させても、製造した半導体素子に欠陥を生じにくいことが確認できた。
【0033】磁石をローラー内部にローラーに固定して設けた場合などには基板搬送時にローラーの回転に伴ってローラー内部の磁石が回転し、基板との間に作用する磁力が変化してローラーの回転が滑らかでなくなり、磁力の強いところでローラーと基板とが離れにくく、擦れるようになり摩擦力が増加する場合がある。
【0034】図13は図3のガスゲートにおいてローラーと帯状基板間に作用する磁力の最大値を磁力の変動が0のときに擦れによる欠陥の発生する直前値に揃えた時の基板に作用する磁力の変動幅と基板搬送に要する張力の関係を調べた結果の一例である。ここで磁力の最大値とはローラーを1回転させたときローラーと帯状基板間に作用する磁力の最大の値をいい、変動幅とはローラーを1回転させたときローラーと帯状基板間に作用する磁力の最大値と最小値の差をいう。磁力の変動幅が最大磁力の約1/2以上になるとローラーと基板とでひきずるような摩擦が起こり、基板搬送に要する張力が急増している。図3に示したガスゲートに限らず、一般に磁力の変動幅が最大磁力の1/2以上になると有意に摩擦による負荷がかかることがわかっている。
【0035】また、この磁力の変動幅を変えたガスゲートを用いてPIN型のアモルファスシリコン太陽電池を製造し太陽電池の100cm2 当たりのショートによる欠陥発生数を調べたところ図14のようになり、磁力の変動幅が最大磁力の1/2未満であれば基板をかなり強くローラーに密着させても欠陥を生じることがなかった。これは、本発明の構成において一般性のある一つの特性である。
【0036】磁力の変動幅を制御する手段としては、磁石をローラーの固定軸に固定する、固定した磁石を小径のローラーの背面に配置する等をあげることができ、これにより変動幅を最大磁力の0〜1/4程度の範囲に常に抑えることができる。
【0037】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1図1に示した本発明の製造装置により、以下に示すようにして帯状基板上にPIN型アモルファスシリコン太陽電池を形成した。
【0038】先ず、幅30cm、長さ50m、厚さ0.2 mmのSUS430BA製基板107を、供給室104から巻き出され、101〜103の3つの成膜室を通過して巻き取り室105で巻き取られるようにセットした。なお、各成膜室間を接続するガスゲートのスリット幅は5mm、スリットの長さは40cm、磁石を内蔵するSUS304製ローラー112の直径は3cmとした(磁力2000ガウス)。
【0039】また4つあるローラーはスリットの壁面から1mm出ており、基板に作用する磁力はローラーが回転しても変化しないように磁石は図5に示すようにローラーの軸に固定した。
【0040】次に各成膜室内をそれぞれの排気管110で十分排気した後、引き続き排気しながら各成膜室へガス導入管109からそれぞれの成膜ガスを導入し、圧力計114を確認しながら排気量を調節して各成膜室を所定の圧力に調整した。ガスゲート106には掃気ガスとしてArを上下のガス導入管113から各200sccm導入した。
【0041】ヒーター108で帯状基板107の裏面から所定の温度で加熱し、放電電極111から13.56 MHz の高周波電力を導入して各成膜室内にグロー放電を生起し、帯状基板を一定速度で搬送して帯状基板上にN,I,P型のアモルファスシリコン膜を連続的に形成した。各成膜室での作製条件を表1に示す。
【0042】
【表1】


本発明の装置を用い上記方法で得られたアモルファスシリコン膜を堆積した帯状基板をロール・ツー・ロール装置から取り出し、10cm×10cmの大きさに切り離し、シングルチャンバーの真空蒸着装置に入れ、真空蒸着法により表2に示す条件でITO透明導電膜を積層し、図1515の模式断面図に示す太陽電池を作製した。図15において、1501は基板、1502はN型層、1503はI型層、1504はP型層、1505はITO透明導電膜である。
【0043】
【表2】


得られた太陽電池は、各成膜室をゲートで完全に分離する三室分離型の堆積膜形成装置で作製した太陽電池と同等の、良好な光電変換効率を示し、膜厚方向の不純物分布を二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて測定したところ、N層のP原子、P層のB原子のI層への混入はSi量の1/105 以下であり、ガスゲートにより隣合う成膜室の成膜ガスが良好に分離されていることが確認できた。
【0044】また、ロール・ツー・ロール装置から取り出した時、帯状基板の膜堆積面及び裏面には擦れ傷は全くなく、作製した太陽電池に擦れ傷による欠陥は全く認められなかった。
【0045】さらに50mの帯状基体の成膜の間、一度も基体の搬送系の調整は行なわなかったが、帯状基板に伸びやしわは発生せず、堆積膜の剥離による素子の欠陥は認められなかった。
比較例1ガスゲートを図8に示す従来型のものに変更した以外は実施例1と同様にして帯状基板上にPIN型アモルファスシリコン太陽電池を形成した。尚、ガスゲートのスリット幅は4mmで実施例1と帯状基板表面〜表面側ガスゲート壁面間距離が変わらないようにし、帯状基板と接触するガスゲート壁803には低摩擦材料のアルミナ系セラミックを用いた。また、基板に作用する磁力も実施例1と同じになるように調整した。
【0046】得られた太陽電池は、欠陥のない箇所では各成膜室をゲートで完全に分離する三室分離型の堆積膜形成装置で作製した太陽電池と同等の、良好な光電変換効率を示し、膜厚方向の不純物分布を二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて測定したところ、N層のP原子、P層のB原子のI層への混入はSi量の1/105 以下であり、ガスゲートにより隣合う成膜室の成膜ガスが良好に分離されていることが確認できた。
【0047】しかしながら、ロール・ツー・ロール装置から取り出した時、帯状基板の膜表面には傷はなかったものの、基板裏面に多くの擦れ傷がついており、作製した太陽電池には上下の電極のショートによる欠陥が100cm2当たり平均2か所あり、光電変換効率が良品の80%に満たない太陽電池が全数の約30%に達していた。
実施例2図2に示した本発明による装置を用い、以下のようにして帯状基板上にN,I,Pのアモルファスシリコン層を連続的に形成した。
【0048】まず、幅30cm、長さ100m、厚さ0.15 mm の表面を鏡面研磨した帯状ステンレス基板を、供給室204から巻き出され、ガスゲート206で接続された201,202,203,208,209,210,211,212,213の9つの成膜室を通過して、巻き取り室205で巻き取られるようにセットした。尚、各成膜室間を接続するガスゲートのスリット幅はすべて5mm、スリット部分の長さは40cmであり、4本の直径3cmのステンレス製のローラー内部に磁石は入れず、ガスゲート壁からローラー表面が1mm出るようにした。ガスゲートには掃気ガスとしてArを上下のガス導入管206から各200sccm導入した。
【0049】成膜室201〜203,208〜210,211〜213と3組のPIN用成膜室を通過させることにより表3に示す条件で帯状基板上に3組のN,I,P型のアモルファスシリコン膜を連続的に形成し、最後に巻き取り室205にて帯状基板をロール状に巻き取った。
【0050】
【表3】


以上のようにして9層の堆積膜を積層した帯状基板をロール・ツー・ロール装置から取り出し、実施例1と同様にしてITO透明導電膜を蒸着した。10cm×10cmの大きさに切り離し、図16の模式断面図に示す層構成の太陽電池を作製した。図16において、1601は基体、1602,1605,1608はN型層、1603,1606,1609はI型層、1604,1607,1610はP型層、1611はITO透明導電膜である。
【0051】得られた太陽電池は、9室の成膜室をゲートで完全に分離する装置を用いそれぞれの成膜室内で本実施例と同じ作製条件で別々に堆積して作製した太陽電池と同等の、良好な光電変換効率を示し、膜厚方向の不純物分布をSIMSを用いて測定したところ、N層のP原子のI層、P層への、P層のB原子のI層、N層への混入はSi量の1/105 以下であり、ガスゲートにより隣合う成膜室の成膜ガスが良好に分離されていることが確認できた。
【0052】また、ロール・ツー・ロール装置から取り出した時、帯状基板の膜堆積面及び裏面には擦れ傷は全くなく、作製した太陽電池に擦れ傷による欠陥は全く認められなかった。
【0053】さらに100mの帯状基板の成膜の間、一度も基体の搬送系の調整を行なわなかったが、帯状基板に伸びやしわは発生せず、堆積膜の剥離による素子の欠陥は認められなかった。
実施例3帯状基板を厚さ0.1mm のポリイミドフィルムにした以外は実施例1と同様にして図1の製造装置により、図15に示すような太陽電池を作製した。
【0054】得られた太陽電池は、各成膜室をゲートで完全に分離する三室分離型の堆積膜形成装置で作製した太陽電池と同等の、良好な光電変換効率を示し、膜厚方向の不純物分布をSIMSを用いて測定したところ、N層のP原子、P層のB原子のI層への混入は認められず、ガスゲートにより隣合う成膜室の成膜ガスが完全に分離されていることが確認できた。
【0055】また、ロール・ツー・ロール装置から取り出した時、帯状基板の膜堆積面及び裏面には擦れ傷は全くなく、作製した太陽電池に傷による欠陥は全く認められなかった。
【0056】さらに50mの帯状基板の成膜の間、一度も基板の搬送系の調整を行なわなかったが、帯状基板に伸びやしわは発生せず、堆積膜の剥離による素子の不良は認められなかった。
【0057】
【発明の効果】以上説明したように、ロール・ツー・ロール方式の製造装置において、ガスゲートのスリット状の分離通路内に複数のローラーを備えた本発明の連続的製造装置によれば、隣り合う成膜室のガスの相互混入を効果的に防ぎながらガスゲートでの帯状基板の摩擦力を大幅に減少させ、堆積膜に加わる圧力による半導体素子の欠陥の発生のない半導体素子の連続的製造を実現することができる。
【0058】また、本発明の装置によれば、隣り合う成膜室のガスの相互混入を効果的に防ぎながら基板搬送時の張力を減少させ、薄い、或は伸びやすい材料でも基板材料として用いることができるような基板材料の適用範囲の広い半導体薄膜の連続的製造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の半導体素子の連続的製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の半導体素子の連続的製造装置の別の例を示す概略図である。
【図3】本発明におけるガスゲートの構造の一例を示す概略図である。
【図4】図3に示すガスゲートの断面図の一例を示し、(a) はA−A′断面図、(b) はB−B断面図、(c) はC−C′断面図である。
【図5】図3に示すガスゲートの断面図の別の例を示し、(a) はA−A′断面図、(b)はB−B′断面図、(c) はC−C′断面図である。
【図6】本発明におけるガスゲートの構造の別の例を示す概略図である。
【図7】図6に示すガスゲートの断面図の一例を示し、(a) はA−A′断面図、(b) はB−B′断面図、(c) はC−C′断面図である。
【図8】従来のガスゲートの構造を示す概略図である。
【図9】従来のガスゲートの別の構造を示す概略図である。
【図10】ガスゲートにおける基板に作用する磁力及び摩擦力の測定方法(それぞれ(b)及び(a) )を示す概略図である。
【図11】本発明におけるガスゲート及び従来のガスゲートの性能を測定した結果を示すグラフであり、基板に作用する磁力と基板搬送に要する張力との関係を示す。
【図12】本発明におけるガスゲート及び従来のガスゲートの性能を測定した結果を示すグラフであり、基板に作用する磁力と欠陥発生数との関係を示す。
【図13】本発明におけるガスゲート及び従来のガスゲートの性能を測定した結果を示すグラフであり、(基板に作用する磁力の変動幅)/(基板に作用する磁力の最大値)と基板搬送に要する張力との関係を示す。
【図14】本発明におけるガスゲートと従来のガスゲートの性能を測定した結果を示すグラフであり、(基板に作用する磁力の変動幅)/(基板に作用する磁力の最大値)と欠陥発生数との関係を示す。
【図15】本発明の実施例1で作製した太陽電池の層構成を示す概略断面図である。
【図16】本発明の実施例2で作製した太陽電池の層構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
101, 102, 103, 201, 202, 203, 208, 209, 210, 211, 212, 213 成膜室
104, 204 基板供給室
105, 205 基板巻き取り室
106, 206 ガスゲート
107, 304, 404, 504, 604, 704, 804, 904, 1001 基板
108 加熱ヒーター
109 成膜ガス導入管
110, 115 排気管
111 放電電極
112, 302, 402, 502, 602, 702, 1004ローラー
113, 305, 405, 505, 605, 705, 805, 905 掃気用ガス導入管
114 圧力計
301, 401, 501, 601, 701, 801, 901 スリット状分離通路
303, 403, 503, 603, 703, 803, 903 ガスゲート壁
506, 606, 706, 806, 1002 磁石
207 支持ローラー
1003 ばねばかり
1501, 1601 基板
1502, 1602, 1605, 1608 N型層
1503, 1603, 1606, 1609 I型層
1504, 1604, 1607, 1610 P型層
1505, 1611 ITO透明導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガスゲートを有するロール・ツー・ロール方式の半導体素子の連続的製造装置において、前記ガスゲートのスリット状の分離通路内に搬送される帯状基板の搬送方向に1メートル当たり5〜50列の複数の回転自在のローラーを該スリット状の分離通路の壁面から該ローラーの表面が0.1〜5mm出るように配置するとともに、搬送される帯状基板の裏面を該ローラーに圧接するように磁石を配置し、該帯状基板の搬送時にローラーと該帯状基板間に作用する磁力の変動幅を該磁力の最大値の1/2未満として、該帯状基板を該ローラーにより回転しつつ支持することを特徴とする半導体素子の連続的製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【図15】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【特許番号】第2975151号
【登録日】平成11年(1999)9月3日
【発行日】平成11年(1999)11月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−87420
【出願日】平成3年(1991)3月28日
【公開番号】特開平4−299823
【公開日】平成4年(1992)10月23日
【審査請求日】平成8年(1996)6月13日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【参考文献】
【文献】特開 昭58−199571(JP,A)
【文献】特開 昭59−23573(JP,A)