説明

半導体膜の製造方法及びその方法により得られた半導体膜を有する半導体基板

【課題】塗布形成により薄く、かつ深さ方向に焼結が進行した半導体膜を製造することができる半導体膜の製造方法、その方法により得られた半導体膜を有する半導体基板、及び該半導体基板を備えた電子部材を提供する。
【解決手段】基材上に、半導体微粒子分散体を含む塗布液を塗布又はパターン状に印刷して塗布液層を形成した後、この塗布液層を焼成処理して半導体膜を形成する半導体膜の製造方法であって、該半導体微粒子分散体が半導体微粒子とカルボン酸無水物類とを含み、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマに該塗布液層を晒すことにより、該塗布液層の焼成処理を行うことを特徴とする半導体膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜の製造方法、その方法により得られる半導体膜を有する半導体基板、及び該半導体基板を備えた電子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイには、画像駆動素子として、薄膜トランジスタ(TFT)が使用されている。従来、TFTに使用される薄膜としては、アモルファスシリコン、ポリシリコンなどの半導体薄膜を、化学気相成長法(CVD)や、スパッタリングなどの真空成膜法により形成してきた。これらの方法は、高額な設備を要する上に、パターニングのためにはフォトリソグラフィ技術が必要となり、工程数も多く、煩雑であった。また、これらの技術で大面積化に対応するのは容易ではなく、高額な製造コストが必要となる。
【0003】
これに対し、塗布形成可能な半導体として有機半導体が注目されているが、有機半導体は一般に、移動度が小さく、大気中で不安定なため、実用化には至っていない。そのようななか、半導体微粒子を分散させた塗料でパターンを直接基材に印刷する方法が注目されている。このような基材に直接パターンを印刷する方法は、フォトレジストなどを用いる必要がなく、きわめて生産性の高い方法である。
【0004】
特許文献1には、基材上にナノ粒子膜を形成させ、熱処理するステップを含む、ナノ粒子を用いた薄膜半導体の製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、半導体特性が低く、また生産性も低く、実用的な方法ではない。
また、特許文献2には、薄膜形成方法として、ナノ粒子を基材に付与し、基材上に付与されたナノ粒子を大気圧プラズマ処理することにより、薄膜を形成する薄膜形成方法が提案されている。しかしながら、特許文献2に記載の具体的な薄膜の形成方法は、Sn/In複合ナノ粒子に関する実施例で、得られる薄膜もSn/Inの透明導電膜が記載されているのみである。
【0005】
ところで、半導体微粒子を用いて半導体膜を塗布形成で得る場合、その膜厚は、半導体特性を維持しうる最低限以上の膜厚である、通常10〜200nmであることが望ましい。膜厚がこれより厚いと、その後の焼成処理後において、膜中、特に基材との界面付近に未焼結部分が残存してしまい、当該部分が不純物やキャリアの供給源となるため、半導体性能が低下する場合がある。一方、塗布液中の半導体微粒子濃度を下げることで薄くすることは可能であるが、半導体微粒子濃度が低いため、焼成処理後に基材上でナノ粒子どうしが焼結しにくく、緻密な膜になりにくいなどの問題がある。そのため、緻密な膜が作製可能な半導体微粒子濃度を維持しつつ、かつ薄く塗布することにより、膜厚が10〜200nmといった薄い半導体膜を作製することは、従来の半導体微粒子分散液では困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−273949号公報
【特許文献2】特開2007−182605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、塗布形成により薄く、かつ深さ方向に焼結が進行した半導体膜を製造することができる半導体膜の製造方法、その方法により得られた半導体膜を有する半導体基板、及び該半導体基板を備えた電子部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の分散剤を用いて、分散させた半導体微粒子塗布液を用いて、基材上に塗布液層を形成し、これをマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマに晒して焼成処理することにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0009】
1.基材上に、半導体微粒子分散体を含む塗布液を塗布又はパターン状に印刷して塗布液層を形成した後、この塗布液層を焼成処理して半導体膜を形成する半導体膜の製造方法であって、該半導体微粒子分散体が半導体微粒子とカルボン酸無水物類とを含み、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマに該塗布液層を晒すことにより、該塗布液層の焼成処理を行うことを特徴とする半導体膜の製造方法。
2.上記1に記載の製造方法により製造された半導体膜を有する半導体基板。
3.上記2に記載の半導体基板を備えていることを特徴とする電子部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体膜の製造方法によれば、塗布形成により薄く、かつ深さ方向に焼結が進行した半導体膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】半導体微粒子分散体の製造に用いられる装置の一例の概略断面図である。
【図2】実施例で製造された半導体基板の断面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】比較例1で製造された半導体基板の断面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】比較例1で製造された半導体基板の深さ方向について、X線光電子分光装置で分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の半導体膜の製造方法について説明する。
【0013】
[半導体膜の製造方法]
本発明の半導体膜の製造方法は、基材上に、半導体微粒子分散体を含む塗布液を塗布又はパターン状に印刷して塗布液層を形成した後、この塗布液層を焼成処理して半導体膜を形成する半導体膜の製造方法であって、該半導体微粒子分散体が半導体微粒子とカルボン酸無水物類とを含み、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマに該塗布液層を晒すことにより、該塗布液層の焼成処理を行うことを特徴とする。
なお、ここで基材上に塗布液層を形成する態様としては、基材に直接塗布液層を形成する場合と、基材の上にプライマー層、他の機能層、電極などを有する場合には、それらの上に塗布液層を形成する場合のいずれをも含むものである。
【0014】
《基材》
本発明の製造方法において用いる基材としては、半導体膜の用途により適宜選択すればよいが、半導体基板に用いられるものが好ましく、例えば、シリコンウェハ;ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどのガラス基材;アルミナなどのセラミック基材などの無機材料や、フィルム、シート、又は板状の各種プラスチックを用いることができるが、薄膜化の観点からフィルム形態が好適である。
フィルム基材として用い得るプラスチックとしては、焼成処理における耐熱性を考慮して、融点が200℃以上のものを挙げることができ、例えば、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、液晶性高分子化合物などを挙げることができる。
また、基材の表面には、易接着成分を成膜してもよいし、プラスチック基材を用いる場合には、その表面に酸化法や凹凸化法などの表面処理を施してもよい。
【0015】
易接着成分の成膜としては、例えば、Ni、Cr、Ti、Co、Mo、Taなどの金属薄膜あるいはそれらの金属酸化物を成膜する方法、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などからなる接着成分を塗布する方法、その他、有機無機カップリング剤を塗布する方法が採用できる。
また、プラスチック基材に対する酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられる。また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはプラズマ処理法が効果及び不純物による汚染が少ないなどの面から、好ましく用いられる。
【0016】
基材の厚さについては特に制限はないが、基材が無機材料である場合には、通常0.1〜10mm程度、好ましくは0.5〜3mmである。
一方、プラスチック基材の場合には、通常10〜300μmの範囲である。10μm以上であると、半導体膜を形成する際に基材の変形が抑制され、形成される半導体膜の形状安定性の点で好適である。また、300μm以下であると巻き取り加工を連続して行う場合に、柔軟性の点で好適である。
【0017】
また、基材には、半導体基板の用途に合せて、あらかじめ電極、絶縁層などを形成しておくことができる。なお、基材にこのような機能層や電極などが設けられる場合には、該機能層及び電極などの上に塗布液層が形成される。
電極としては、例えば、Au,Ag、Cu、Ni,Al,Pt,Cr,Fe,Sn,Pd,Mo,Mn,In,Co,Pb、Si、Ir,Znなどの金属、スズドープ酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタンなどの金属酸化物、カーボン材料、導電性ポリマーなどが挙げられ、また絶縁層としては、例えば、Si、Al、Ta、Ti、Sn、V、Y、W、Cr、Ni,Mnなどの金属の酸化物や窒化物、チタン酸バリウムなど複合金属酸化物、絶縁性ポリマーなどの材料が用いられる。そのほか、用途に合せて、酸化防止層、ガスバリア層、拡散防止層などを設けることができる。
【0018】
《半導体微粒子分散体》
本発明の製造方法で用いられる半導体微粒子分散体は、半導体微粒子とカルボン酸無水物類とを含むものである。半導体微粒子とカルボン酸無水物類との組合せにより、半導体微粒子の粒径が極めて小さい場合、例えば体積分布メジアン径(D50)が100nm以下のような場合であっても、半導体微粒子分散体は、微粒子の凝集がなく分散安定性に優れたものとなるので、薄い半導体膜を製造することが可能となる。
【0019】
<半導体微粒子分散体の製造>
半導体微粒子とカルボン酸無水物類とを含む半導体微粒子分散体は、好ましくは半導体の気体を、カルボン酸無水物類を溶解させた低蒸気圧液体又はカルボン酸無水物類に接触して得ることができる。
【0020】
(半導体)
本発明の製造方法で用いられる半導体は、については特に制限はなく、従来公知の半導体の中から適宜選択することができる。この半導体としては、例えばシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)などの周期表14族元素、GaAs、InPなどのIII−V化合物、ZnTeなど一部のII−VI化合物等を用いることができる。
なお、前記III−V化合物としては、周期表13族のAl、Ga、In(Tlを含めることもある)と、15族のP、As、Sb(Nを含めることもある)との間に生じる原子比1:1の化合物が挙げられ、II−VI化合物としては、周期表12族元素のZn、Cd、Hgと、16族元素のS、Se、Te(Oを含めることもある)の原子比1:1の化合物が挙げられる。
また、上記した半導体は、純粋なものであっても、不純物元素(例えば12族、14族、16族元素)をドープしたものであってもよい。ドープは、いつ行ってもよく、半導体粒子の形成段階や半導体膜の形成後など、いずれの段階においても行うことができる。
これらの半導体物質の中で、シリコン(Si)及びゲルマニウム(Ge)が好ましく、特にゲルマニウム(Ge)が好適である。
【0021】
(半導体の気体)
本発明で用いられる半導体の気体は、半導体を含む気体であればよく、他の金属や金属化合物を含有する混合気体であってもよい。
【0022】
本発明において好適な半導体であるゲルマニウムの場合、蒸発又は昇華によって気体を生成させるものが好ましく、ゲルマニウム単体、ゲルマニウム合金、ゲルマニウム化合物、ゲルマニウム混合物など(以下、「ゲルマニウム類」と略記する。また、他の半導体も含めて「半導体類」と略記することがある。)が挙げられる。
具体例としては、ゲルマニウム単体;アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉛、鉄、銅、金、白金などの金属とゲルマニウムとの合金であるゲルマニウム合金;酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ゲルマニウム酸塩などのゲルマニウム化合物;アルミニウム、チタン、バナジウム、マンガン、スズ、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、金、鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、ニオブ、モリブデン、白金、パラジウム、アンチモン、インジウム、バリウム、ハフニウム、ビスマス、タンタルなどの元素若しくはそれらの化合物と上記ゲルマニウムとの混合物である「ゲルマニウム混合物」などが好ましく挙げられる。
【0023】
これらの中でも、ゲルマニウム単体又は「ゲルマニウムの含有比率が50質量%を超える合金」が、蒸発又は昇華のしやすさ、ゲルマニウム微粒子の分散の安定性、得られた膜の電導度、コスト、入手しやすさなどの点から特に好ましい。また、半導体の場合も同様に、単体又は「半導体の含有比率が50質量%を超える合金」が特に好ましい。
【0024】
本発明において、半導体の気体を低蒸気圧液体に接触させる際、分散体の生成を阻害しない範囲内であれば、半導体の気体中に、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性気体;分散媒、分散助剤などの有機物気体などを共存させることができる。
【0025】
半導体の気体を、後述する低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させる際の圧力は特に限定はないが、10-1Pa以下であることが好ましく、10-2Pa以下であることが特に好ましい。また、10-4Pa以上であることが好ましく、10-3Pa以上であることが特に好ましい。圧力が大きすぎる、すなわち真空度が悪いと、加熱温度を高くする必要がある点、そこに介在する気体の影響がでて半導体微粒子が変質するなどの問題が生じる場合がある。一方、圧力が小さすぎる、すなわち真空度を不必要に高くすると、低蒸気圧液体が揮発したり、生産性が落ちたり、真空ポンプに負荷がかかりすぎたりする場合がある。
【0026】
本願発明で好ましく採用される半導体分散体の製造方法においては、上記のように半導体の気体の圧力は好ましくは10-1Pa以下である。一方、前記したガス中蒸発法は、0.1〜30Torr(mmHg)(1.3×101Pa〜4×103Pa)の圧力下で、不活性気体との相互作用によって、半導体の蒸気を凝集させて、気体中で半導体微粒子を生成させるものである。すなわち、気体の圧力の点で、本願発明で好ましく採用される半導体分散体の製造方法は、該ガス中蒸発法とは全く異なる技術思想によるものである。
【0027】
(低蒸気圧液体)
本発明で好ましく採用される半導体分散体の製造方法においては、カルボン酸無水物類を溶解させた低蒸気圧液体又はカルボン酸無水物類が用いられる。
低蒸気圧液体は、10-1Paで実質的に揮発しない液体であり、その25℃での蒸気圧は、10-1Pa以下であることを要する。低蒸気圧でないと、蒸発して「半導体の気体」と気体同士で相互作用をして分散性に悪影響を与える場合があるからである。このような観点から、低蒸気圧液体の25℃での蒸気圧は、10-3Pa以下がより好ましく、さらに好ましくは10-10Pa〜10-5Pa、特に好ましくは10-8Pa〜10-6Paである。
低蒸気圧液体の1気圧での沸点は特に限定はないが、上記と同じ理由で、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、220℃以上がさらに好ましく、240℃以上が特に好ましい。
【0028】
低蒸気圧液体としては、アルキルナフタレン、エチレンオレフィン共重合体などの脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類;アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ポリアルキルフェニルエーテルなどの芳香族エーテル類;シリコーン油、ポリアルキルシロキサンなどのシロキサン化合物類;フルオロカーボン油類;多価アルコール類などが好ましく挙げられ、これらを1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、低蒸気圧液体として、市販の拡散ポンプ油などが好ましく挙げられる。ここで、上記アルキル基としては特に限定はないが、炭素数4〜24個のものが好ましく、8〜22個のものがより好ましく、12〜20個のものが特に好ましい。また、低蒸気圧液体が「脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類」である場合には、炭素数の合計が14個以上であることが好ましく、20個以上であることがより好ましく、25個以上であることが特に好ましい。
【0029】
(カルボン酸無水物類)
カルボン酸無水物類は、2分子のカルボン酸類を脱水縮合して得られたものであれば特に限定はないが、環状化合物が好ましい。特に好ましくは、カルボキシ基が分子内で脱水縮合してできる5〜6員環化合物である。具体的には、例えば、無水コハク酸骨格、無水マレイン酸骨格、無水フタル酸骨格、無水グルタル酸骨格などを有する環状化合物が好ましく挙げられる。本発明においてカルボン酸無水物類を用いることにより、体積分布メジアン径(D50)の小さい分散粒子を形成させることができ、また、小粒径でも分散性、分散安定性、高濃度分散性に優れた半導体微粒子分散体を得ることができる。
【0030】
上記カルボン酸無水物類は、その他の低蒸気圧液体に溶解して用いることができる。その場合、その他の低蒸気圧液体に対する相溶性を発揮させる点で、その分子内に置換基を有していることが好ましい。特に、カルボン酸無水物類が環状化合物の場合には、その環に直接置換基が結合していることがより好ましい。置換基は、環を形成する炭素原子に結合していることが好ましい。また、カルボン酸無水物類が有する置換基の数は特に限定はないが、1個又は2個が好ましく、1個が特に好ましい。
【0031】
カルボン酸無水物類が有する置換基としては、鎖状でも環状でもよいが鎖状であることが好ましく、鎖状のなかでもアルキル基、アルケニル基がより好ましく、アルケニル基が特に好ましい。
カルボン酸無水物類が有する1つの置換基の全炭素数は特に限定はないが、炭素数4〜24個のものが好ましく、6〜24個のものがより好ましく、8〜22個のものが、半導体の気体を低蒸気圧液体に接触させて半導体微粒子分散体を形成させる際に蒸発し難い点、低蒸気圧液体への溶解性や溶解安定性が高い点などから好ましい。
【0032】
また、アルケニル基の有する二重結合の数に特に限定はないが、1〜3個が好ましく、1〜2個がより好ましい。具体的なアルケニル基としては特に限定はないが、炭素数12〜24個のポリブテニル基、炭素数6〜24個のポリプロペニル基など;炭素数18個のオレイル基などが上記の理由で好ましい。
【0033】
本発明におけるカルボン酸無水物類の特に好ましい具体例としては、例えば、アルキル又はアルケニル無水コハク酸、アルキル又はアルケニル無水グルタル酸、アルキル又はアルケニル無水マレイン酸、アルキル又はアルケニル無水フタル酸などが挙げられる。
【0034】
(カルボン酸無水物類を溶解する低蒸気圧液体)
本発明で好ましく採用される半導体微粒子分散体の製造方法において、半導体の気体と接触させる液体は、カルボン酸無水物類を溶解する低蒸気圧液体又はカルボン酸無水物類である。該製造方法において、いずれの液体を用いるかについての制限はないが、半導体微粒子分散体の粘度が高くなりすぎ、後記するチャンバー(1)の回転による「新しい低蒸気圧液体の膜」ができ難くなる場合やカルボン酸無水物類が半導体微粒子表面などに多く残留する場合には、カルボン酸無水物類を溶解する低蒸気圧液体を用いることが好ましい。
【0035】
カルボン酸無水物類を溶解する低蒸気圧液体は、カルボン酸無水物類と、カルボン酸無水物類以外の低蒸気圧液体とからなるものである。低蒸気圧液体中のカルボン酸無水物類の濃度は特に限定はなく適宜調節可能であるが、低蒸気圧液体100質量部に対して、カルボン酸無水物類0.3〜50質量部が好ましく、1〜40質量部がより好ましく、3〜30質量部がさらに好ましい。カルボン酸無水物類の濃度が上記範囲内であれば、半導体微粒子の分散性が良好となり、好ましい。
【0036】
また、カルボン酸無水物類を単独で用いる場合には、カルボン酸無水物類の20℃での粘度は150mPa・sを超えないことが好ましい。粘度がこの範囲内であれば、半導体微粒子の分散性が良好となり、半導体微粒子分散体の粘度が高くなりすぎないので、後記するチャンバー(1)の回転による「新しい低蒸気圧液体の膜」ができ難くなることがなく、カルボン酸無水物類が半導体微粒子表面などに多く残留することもない。
【0037】
本発明で好ましく採用される半導体微粒子分散体の製造方法によると、半導体の気体が低蒸気圧液体の界面に蒸着され液中に取り込まれ、半導体微粒子が生成する。そこで使用されるカルボン酸無水物類は、液中への半導体の取り込み、液中での半導体微粒子の生成、半導体微粒子の体積分布メジアン径(D50)の制御、半導体微粒子同士の会合の抑制などに直接関与しているという特異な性質を有していると考えられる。
【0038】
(半導体微粒子)
本発明で好ましく採用される製造方法によれば、体積分布メジアン径(D50)100nm以下の半導体微粒子からなる分散体を、極めて分散性良く安定に製造できる。また、体積分布メジアン径(D50)50nm以下でも安定に分散でき、さらには、10nm以下でも分散できる。従って、半導体微粒子分散体中の半導体微粒子の体積分布メジアン径(D50)は、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは3〜20nm、さらに好ましくは3.5〜15nm、特に好ましくは4〜10nmである。体積分布メジアン径(D50)は小さいほど、半導体膜を薄くすることが可能となるので好ましい。
ここで、体積分布メジアン径(D50)は、日機装株式会社製、nano trac(ナノトラック)UPA−ST150を用い、常法に従い濃度を調整した分散体を用いて測定した値である。
【0039】
このようにして得られた半導体微粒子は、ゲルマニウム類などの半導体類とカルボン酸無水物類とからなるものである。より具体的には、得られる半導体微粒子は、ゲルマニウム類などの半導体類の表面などにカルボン酸無水物類が存在するものである。
【0040】
半導体微粒子の形状は特に限定されず、球状、棒状、板状、不定形などのいずれでもよい。また、半導体微粒子の結晶性や結晶構造も特に限定はないが、非結晶であることが、基材に塗布した後、膜を形成させるときの加熱温度を低くできる点などで好ましい。
【0041】
半導体微粒子分散体中に含まれる半導体微粒子の含有量は特に限定はないが、半導体微粒子分散体100質量部に対して、1〜90質量部が好ましく、10〜80質量部がより好ましく、20〜70質量部が特に好ましい。ここで、半導体微粒子は、上記したように、ゲルマニウム類などの半導体類とカルボン酸無水物類とから実質的になり、その含有量は、ゲルマニウム類などの半導体類とその表面などに存在するカルボン酸無水物類との合計質量を基準にしたものである。
【0042】
(半導体微粒子分散体の製造装置)
本発明で好ましく採用される半導体微粒子分散体の製造方法で用いられる製造装置について、図1を用いて説明する。図1は、当該製造方法で好ましく用いられる具体的装置の一例であり、これに限られるものではない。また、後述する半導体微粒子分散体の製造法方法を、真空蒸着法ということがある。
【0043】
図1において、チャンバー(1)は、固定軸(2)の周りに回転するドラム状であり、固定軸(2)を通してチャンバー(1)の内部が高真空に排気される構造を有している。チャンバー(1)には、カルボン酸無水物類が溶解された低蒸気圧液体又はカルボン酸無水物類(3)(以後、単に低蒸気圧液体(3)ということがある。)が入れてあり、ドラム状のチャンバー(1)の回転によって、チャンバー(1)の内壁に、低蒸気圧液体(3)の膜(4)が形成される。チャンバー(1)の内部には、半導体(5)を入れる加熱容器(6)が固定されている。半導体(5)は、抵抗線に電流を流すなどして所定温度まで加熱され、気体となってチャンバー(1)の中に放出される。
【0044】
チャンバー(1)の外壁は、水流(8)で全体が冷却されている。加熱された「半導体(5)」から真空中に放出された原子(9)は、低蒸気圧液体(3)の膜(4)の表面から取り込まれ、半導体微粒子(10)が形成される。次いで、かかる半導体微粒子(10)が分散された低蒸気圧液体(3)は、チャンバー(1)の回転に伴ってチャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)の中に輸送され、同時に、新しい「低蒸気圧液体(3)の膜(4)」がチャンバー(1)の上部に供給される。この過程を継続することによって、チャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)は、半導体(5)が高濃度に分散した分散体になっていく。
【0045】
半導体を気体にする方法は特に限定はされない。加熱温度も気体状態にできるために充分な温度であれば特に限定はないが、900〜2000℃が好ましく、950〜1800℃がより好ましく、980〜1700℃がさらに好ましく、1000〜1600℃が特に好ましい。
【0046】
この製造方法により体積分布メジアン径(D50)が極めて小さい半導体微粒子からなる分散体を良好な分散性で安定して得られる機構については、十分解明されるには至っていないが、半導体の気体は、気相で凝集せずに直接低蒸気圧液体中に取り込まれ、低蒸気圧液体中で凝集が起こり、ある程度の体積分布メジアン径(D50)を有するようになった時点で、その凝集粒子はカルボン酸無水物類により取り囲まれ、ナノ微粒子として安定化するものと考えられる。その際、カルボン酸無水物類は、凝集粒子をより素早く包み込み、互いの会合をより強く抑制し、ナノ微粒子としてより安定化させるものと考えられる。
【0047】
(低蒸気圧液体ではない分散媒)
本発明で好ましく採用される半導体微粒子分散体の製造方法において分散媒として低蒸気圧液体が用いられているが、これを乾燥又は留去しがたく不都合となるような場合には、半導体微粒子分散体に含まれる低蒸気圧液体を、低蒸気圧液体ではない分散媒(以下、他の分散媒ということがある。)に置換することが好ましい。低蒸気圧液体ではない分散媒としては、上記のような低蒸気圧液体ではなく、非極性の分散媒(例えば、水に任意の割合では相溶しない液体)が好ましく挙げられる。このような分散媒を用いると、得られた半導体微粒子分散体中の半導体微粒子の分散安定性が良好となるからである。
【0048】
低蒸気圧液体ではない分散媒(他の分散媒)は、半導体微粒子分散体の種々の用途に適応したものから適宜選択することができる。他の分散媒としては、IC、半導体、導電膜、フィルターなどの製造用の溶媒又は分散媒をはじめ、一般に、インキ、塗料、触媒材料、医療用などに用いられる汎用の溶媒又は分散媒が挙げられる。
【0049】
他の分散媒の具体例としては、例えば、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルペンタン、ノルマルヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカンなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジフェニルエーテルなどのエーテル類;プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコール系分散媒類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酪酸ブチルなどのエステル類;2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノイソプロパノール、3−ジエチルアミノ−1−プロパノール、2−ジメチルアミノ−2−プロパノール、2−メチルアミノエタノール、4−ジメチルアミノ−1−ブタノールなどのアミノ基含有アルコール類などを好ましく挙げることができる。これらは単独でも、2種以上混合して使用してもよい。
【0050】
(分散媒の置換方法)
低蒸気圧液体を他の分散媒に置換する方法としては、公知の溶媒置換・分散媒置換の方法などが挙げられる。
特に好ましい分散媒置換方法は、(i)半導体微粒子分散体の分散媒である低蒸気圧液体と少なくともある割合では相溶する貧溶媒を、半導体微粒子分散体に加えることによって、半導体微粒子を沈降させ、(ii)上澄みとなる低蒸気圧液体を除去する過程を有する分散媒置換方法である。すなわち、貧溶媒を、半導体微粒子分散体に加えることによって、実質的に上澄みとなる低蒸気圧液体と貧溶媒の混合物だけを、デカンテーションなどで除去する過程を有する分散媒置換方法が好ましい。
【0051】
ここで、貧溶媒は、カルボン酸無水物類と、任意の割合では相溶しないもの、すなわち、カルボン酸無水物類を表面などに有する半導体微粒子に対し、貧分散媒として作用するもの、または、半導体微粒子分散体中の低蒸気圧液体と、ある割合では相溶するものであることが好ましい。さらに、これらの両方の性質を併せ持ったものであることが特に好ましい。このような貧溶媒を用いると、デカンテーションなどが可能になり、低蒸気圧液体から上記した他の分散媒に好適に分散媒置換ができ、分散媒置換前中後での分散維持性にも優れるからである。
【0052】
貧溶媒の沸点や蒸気圧は特に限定はないが、低蒸気圧液体より低沸点、高蒸気圧であることが好ましい。貧溶媒を加えた後、沈降した半導体微粒子を容器中に残し、低蒸気圧液体と貧溶媒の混合液体をデカンテーションで除去し、再度貧溶媒を加えてデカンテーションを繰り返すことが好ましいが、最後のデカンテーションでも残存した貧溶媒を、要すれば加熱せずに減圧留去しやすいからである。該貧溶媒の1気圧における沸点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが特に好ましい。
【0053】
このような貧溶媒としては、例えば、アルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系などの酸素原子を含む液体などが挙げられる。このうち、アルコール系としては炭素数が3〜6個のアルコールが好ましく、炭素数が3〜5個のアルコールが特に好ましい。ケトン系としては炭素数が2〜8個のケトンが好ましく、炭素数が2〜6個のケトンが特に好ましい。エーテル系としては炭素数が4〜8個のエーテルが好ましく、炭素数が4〜6個のエーテルが特に好ましい。エステル系としては炭素数が3〜8個のエステルが好ましく、炭素数が3〜6個のエステルが特に好ましい。
炭素数が少なすぎても、また多すぎても、上記要件を満たす貧溶媒が存在しなくなる場合がある。また、特に、少なすぎる場合は、低蒸気圧液体と相溶しなくなる場合があり、一方、多すぎる場合は、後述する沸点が高くなりすぎる場合がある。
【0054】
このような貧溶媒としては、具体的には、
n−プロパノール、iso−プロパノール(以下、「IPA」と略記する)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルコール系;
アセトン、エチルメチルケトン(以下、「MEK」と略記する)、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系;
エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、フラン、テトラヒドロフランなどのエーテル系;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系;
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(以下、「BDGAc」と略記する)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート系;
γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトンなどのラクトン系;
などが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上の混合溶媒で用いられる。
本発明における貧溶媒は、上記要件を満たしてデカンテーションをしやすい、デカンテーション後「他の分散媒」を加えた時に再分散しやすいなどの観点から、上記のなかでもアルコール系又はエステル系が、特に好ましい。
【0055】
(分散補助剤)
本発明に用いられる半導体微粒子分散体は、真空蒸着法によって製造された半導体微粒子分散体に対し、上記したように(i)前記貧溶媒を加えて該半導体微粒子を沈降させ、(ii)上澄みとなる低蒸気圧液体と貧溶媒の混合物だけをデカンテーションなどで除去し、さらに(iii)そこに他の分散媒を加えて、半導体微粒子分散体の低蒸気圧液体を他の分散媒に分散媒置換して、半導体微粒子分散体が製造されることが好ましい。
そして、これら工程(i)〜(iii)のいずれかの工程において、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類(以下、これらを分散補助剤ということがある。)を加えることが特に好ましい。すなわち、半導体微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換する際に、かかる分散補助剤を加えた後に「他の分散媒」に置換した半導体微粒子分散体が好ましい。
【0056】
分散補助剤は、分散媒置換中のどこかで加えればよいが、低蒸気圧液体と貧溶媒の混合物をデカンテーションなどで除去した後であり、かつ他の分散媒を加える前、すなわち上記工程(ii)と(iii)との間に加えることが好ましい。また、工程(ii)においては、デカンテーションなどで除去後に、加熱下及び/又は減圧下で、低蒸気圧液体及び/又は貧溶媒をさらに除去し、工程(iii)の他の分散媒を加えることが好ましく、この場合には、低蒸気圧液体及び/又は貧溶媒をさらに除去した後、他の分散媒を加える前に、分散補助剤を加えることが特に好ましい。なお、分散補助剤を加えた後は、十分に攪拌し分散補助剤を半導体微粒子の表面に行き渡らせた後に、他の分散媒を加えることが好ましい。
すなわち、本発明で用いられる半導体微粒子分散体としては、半導体微粒子分散体に貧溶媒を加えることによって該半導体微粒子を沈降させ、低蒸気圧液体を実質的に除いた後に、分散補助剤を加え、その後、他の分散媒を加えてなる半導体微粒子分散体が特に好ましい。
【0057】
分散補助剤としての1級若しくは2級アミン類は特に限定はなく、アルキルアミン、アルケニルアミン、アニリン誘導体などが好ましい。とりわけ、アルキルアミン又はアルケニルアミンが、半導体微粒子分散体の分散性や分散安定性を良好にできる点で好ましい。1級アミン類のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は特に限定はないが、分散性や分散安定性を良好にする観点から、好ましくは5〜25個、特に好ましくは8〜18個であり、2級アミン類の場合は、1個の有機基が、上記1級アミン類で記載したアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。もう一方の有機基はメチル基、エチル基、ビニル基などの低級の有機基であってもよい。また、アルキル基やアルケニル基は直鎖構造のものでも側鎖を有するものでもよい。
【0058】
分散補助剤としてのカルボン酸類は特に限定はないが、分散性や分散安定性を良好にする観点から、カルボン酸の炭素数(1個)を含めて炭素数5〜25個の脂肪酸が好ましく、炭素数8〜20個の脂肪酸が特に好ましい。脂肪酸に関しては、常温で液体であるものがより好ましい。
【0059】
分散補助剤としてのアルコール類は特に限定はないが、分散性や分散安定性を良好にする観点から、炭素数5〜25個のアルコール類が好ましく、炭素数8〜20個のアルコール類が特に好ましい。
【0060】
分散補助剤として、1級若しくは2級アミン類、カルボン酸類又はアルコール類を用いると、分散媒置換時及び半導体微粒子分散体の分散性、分散安定性が良好になる作用・原理は明らかではないが、後から加えた、これらの分散補助剤が、カルボン酸無水物類などと化学反応してカルボキシル基を有する化合物が生成したためと考えられる。例えば、分散補助剤が1級アミン類で、カルボン酸無水物類が環状の場合、両者が化学反応して開環しアミド酸が生成し、このアミド酸が分散媒置換時及び半導体微粒子分散体の分散性向上や分散安定性向上に寄与したと考えられる。
【0061】
(半導体膜)
上記のようにして得られた半導体膜は、その厚さが200nm以下と極めて薄い膜であり、半導体微粒子分散体の塗布量などの調製により、例えば120nm以下、100nm以下、さらには10〜50nm程度の薄い半導体膜を製造することも可能である。
また、本発明の製造方法により得られる半導体膜は、薄く製造することができるので、深さ方向(半導体膜表面から基材方向)に還元焼結が進行したものとなる。本発明の製造方法によれば、この還元焼結を基材界面まで進行させることができるので、結果として半導体膜を半導体層として用いる場合には優れた半導体特性を得ることができる。
【0062】
[半導体基板及び電子部材]
本発明は、前述した本発明の製造方法により得られた半導体膜を有する半導体基板、及び該半導体基板を備えてなる電子部材をも提供する。
本発明の半導体基板は、本発明の製造方法により得られた半導体膜を半導体層として有するものである。本発明の半導体膜の製造方法において、基材として半導体基板に用いられる基材を用いれば、基材上に半導体層としての半導体膜を有する本発明の半導体基板が得られ、半導体膜をパターン状に形成することにより、半導体基板の用途としてより有用となる。また、本発明の製造方法により得られる半導体膜は、基材近傍、好ましくは基材界面まで還元焼結されているため、半導体膜としての優れた半導体特性を有するものである。
【0063】
さらに、本発明においては、製造方法として、半導体微粒子分散体を含む塗布液を基材上にパターン状に印刷して印刷層を形成し、この印刷層を、マイクロ波表面波プラズマに晒して焼成処理する方法を採用しているため、比較的低温かつ短時間での焼成処理が可能で、基材に与えるダメージが少ない上、半導体特性に優れる半導体基板を、生産性よく与えることができる。
半導体基板の半導体層となる半導体膜には、用途に応じて、該半導体層の上に、更に、電極、絶縁層、酸化防止層、ガスバリア層、拡散防止層などの機能層を形成することができる。
【0064】
本発明の電子部材は、前述した本発明の半導体基板を備えた電子部材であり、例えば液晶表示装置などのディスプレイ用TFTや、太陽電池、センサー、オプトデバイスなどに有効に利用することができる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
この例で得られた半導体膜を有する半導体基板について、以下の方法によって評価した。
1.体積分布メジアン径(D50)の測定
日機装株式会社製、nano trac(ナノトラック)UPA−ST150を用い、常法に従い濃度を調整した分散体を用いて、常法に従い体積分布メジアン径(D50)、体積平均粒径、粒度分布などを測定した。
2.走査型電子顕微鏡(SEM)観察
(株)日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡(SEM)「S−4800」を用い、加速電圧1kV、エミッション電流10μAで観察を行った。ミクロトームを用いて試料を切断し、5万倍の倍率で断面観察を行った。
3.X線光電子分光装置による観察
(株)島津製作所製のX線光電子分光装置「ESCA−3400」を用いて、半導体基板の深さ方向(ゲルマニウム膜表面からガラス基材への方向)についての元素分析を行った。
【0066】
合成例1.ゲルマニウム微粒子分散体の調製
(ゲルマニウム微粒子の形成)
半導体としてゲルマニウムを採用し、図1に示される装置を用いて、ゲルマニウム微粒子分散体を製造した。まず、加熱容器(6)内に粒状ゲルマニウム塊(フルウチ化学社製,純度:99.999%)を5g入れて、回転ドラム式チャンバー(1)内に、アルキルナフタレン(アルキル基:炭素数16〜20)280gとテトラプロペニル無水コハク酸120gとを攪拌して得た分散媒を入れた。真空ポンプで吸引し、チャンバー(1)内の圧力を10-3Paまで減圧し、チャンバー(1)を水流(7)で冷却しながら回転させて、加熱容器(6)の下部に設けたヒーターに電流を流し、ゲルマニウムが溶融・蒸発するまで、電流値を上昇させた。
次第に粒状ゲルマニウム塊は溶融・蒸発し、ゲルマニウムの気体は分散媒表面に接触することでテトラプロペニル無水コハク酸に取り込まれ、ゲルマニウム微粒子分散体が製造された。
【0067】
(分散媒の置換)
得られたゲルマニウム微粒子分散体100gにメタノール500gを加えて攪拌した。ゲルマニウム微粒子を含む液体が分離・沈降することから、遠心分離機を用いて(10000×g,5分間)、当該液体を完全に分離し、上澄みを除去した。残った沈殿物に酢酸エチルを500g加えて攪拌し、ゲルマニウム微粒子を含む液体を、再度遠心分離機を用いて(10000×g,5分間)完全に分離し、上澄みを除去し、この作業を3回繰り返した。
残った沈殿物をナスフラスコに回収し、ロータリーエバポレーターを用いて、固形物が多少濡れている程度まで溶媒を除去し、得られた固形物10gにトルエン10gを加え、さらにオレイルアミン2.5gを加えて攪拌した。得られた液体は黒褐色を呈し、目視で凝集を確認できないゲルマニウム微粒子分散体を得た。これについて体積分布メジアン径(D50)の測定を行ったところ、ゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)は9.7nmとなった。また、当該分散体の固形分は14.7%であり、粘度は0.9mPa・sとなった。
【0068】
合成例2.ゲルマニウム微粒子分散体の調製
合成例1の(ゲルマニウム微粒子の形成)において、アルキルナフタレンの使用量を280gから360gとし、テトラプロペニル無水コハク酸120gをポリブテニルコハク酸4アミンイミド40gとした以外は、合成例1と同様にして、ゲルマニウム微粒子分散体を得た。
次いで、合成例1の(分散媒の置換)において、メタノール500gを酢酸エチル1000gとした以外は合成例1と同様にして、ゲルマニウム微粒子分散体を得た。得られたゲルマニウム微粒子分散体について体積分布メジアン径(D50)の測定を行ったところ、ゲルマニウム微粒子の体積分布メジアン径(D50)は15.nmとなった。また、当該分散体の固形分は16.2%であり、粘度は10.5mPa・sとなった。
【0069】
実施例1
まず、基材洗浄のため、高周波プラズマ処理装置(キャノンアネルバエンジニアリング株式会社製,PED−350)により、石英ガラス基材(旭硝子社製、合成石英AQ)の表面処理を酸素ガスで10分間実施した。また、合成例1で得られたゲルマニウム微粒子分散体を、固形分が13質量%となるように、トルエンで希釈した後、石英ガラス上にスピンコートした後、オーブンで500℃、30分間大気下にて熱処理を行った。
次いで、ゲルマニウム微粒子がスピンコートされた石英ガラス(以下、単に試料という。)を、マイクロ波表面波プラズマ処理装置(MSP−1500、ミクロ電子社製)のプラズマチャンバー内の試料台にセットし、試料を350℃まで加熱した後、プラズマ処理を行った。プラズマ処理は、水素ガスを用い、水素導入圧力10Pa、水素流量100mL/分、マイクロ波出力1000Wで、2分間処理を実施して、石英ガラス上にゲルマニウム膜を有する半導体基板を得た。該半導体基板のプラズマ処理終了直後の温度は450℃であった。
【0070】
得られた半導体基板について、その断面を走査型電子顕微鏡で、倍率5万倍で観察した。当該電子顕微鏡で撮影した5万倍の写真を図2に示す。図2の写真より、ゲルマニウム膜の厚みは100nmであり、当該膜中に未反応部は確認されなかった。
【0071】
比較例1
実施例1において、合成例2で得られた分散体を用い、固形分が13質量%となるように、トルエンで希釈した以外は、実施例1と同様にして半導体基板を得た。
得られた半導体基板について、その断面を走査型電子顕微鏡で、倍率5万倍で観察した。当該電子顕微鏡で撮影した5万倍の写真を図3に示す。図3の写真より、ゲルマニウム膜の厚みは800nmであった。
また、X線光電子分光装置により半導体基板の深さ方向についての元素分析を行ったところ、図4に示されるように、ゲルマニウム膜は基材が近くなるほど還元焼結されず、内部で酸化物が残存していることが分かった。これは、比較例1で得られた半導体基板は、トルエンで希釈したゲルマニウム微粒子分散体の粘度が高く、これを薄く塗布することができず、ゲルマニウム膜が厚くなり、基材に近づくほど焼結が十分ではなくなってしまったためである、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の半導体膜の製造方法によれば、基材上に、塗布形成により薄く、かつ深さ方向に焼結が進行した半導体膜を製造することができる。当該半導体膜は基材上に設けることで半導体基板として用いることができ、液晶などディスプレイ用TFT半導体や、太陽電池、センサー、オプトデバイスなどに有効に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 チャンバー
2 固定軸
3 カルボン酸無水物類が溶解された低蒸気圧液体又はカルボン酸無水物類
4 カルボン酸無水物類が溶解された低蒸気圧液体又はカルボン酸無水物類の膜
5 半導体
6 加熱容器
7 水流
8 回転方向
9 半導体類の原子
10 半導体微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、半導体微粒子分散体を含む塗布液を塗布又はパターン状に印刷して塗布液層を形成した後、この塗布液層を焼成処理して半導体膜を形成する半導体膜の製造方法であって、該半導体微粒子分散体が半導体微粒子とカルボン酸無水物類とを含み、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマに該塗布液層を晒すことにより、該塗布液層の焼成処理を行うことを特徴とする半導体膜の製造方法。
【請求項2】
半導体膜の厚さが、200nm以下である請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項3】
半導体微粒子分散体が、半導体の気体を、カルボン酸無水物類を溶解させた低蒸気圧液体又はカルボン酸無水物類に接触して得られるものであり、該低蒸気圧液体の25℃での蒸気圧が10-1Pa以下である請求項1又は2に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項4】
カルボン酸無水物類が、置換基として炭素数6〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の半導体膜の製造方法。
【請求項5】
カルボン酸無水物類が、無水コハク酸骨格を有するものである請求項4に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項6】
半導体気体の低蒸気圧液体への接触を10-4〜10-1Paの範囲の圧力下で行う請求項3〜5のいずれかに記載の半導体膜の製造方法。
【請求項7】
半導体微粒子の体積分布メジアン径(D50)が、100nm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の半導体膜の製造方法。
【請求項8】
半導体微粒子分散体が、前記接触の後に、該半導体微粒子分散体中の低蒸気圧液体を、低蒸気圧液体ではない分散媒に置換したものである請求項3〜7のいずれかに記載の半導体膜の製造方法。
【請求項9】
半導体微粒子分散体が、前記分散媒に置換の前に、1級アミン類、2級アミン類、カルボン酸類及びアルコール類から選ばれる少なくとも一種を加えたものである請求項8に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項10】
表面波プラズマが、還元性気体の雰囲気下で発生させるものである請求項1〜9のいずれかに記載の半導体膜の製造方法。
【請求項11】
還元性気体の雰囲気が、水素を含む気相雰囲気である請求項10に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項12】
半導体がゲルマニウムである請求項1〜11のいずれかに記載の半導体膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法により製造された半導体膜を有する半導体基板。
【請求項14】
半導体膜がパターン状に形成されたものである請求項13に記載の半導体基板。
【請求項15】
半導体膜が、基材近傍まで焼結されている請求項13又は14に記載の半導体基板。
【請求項16】
半導体膜の厚さが、200nm以下である請求項13〜15のいずれかに記載の半導体基板。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれかに記載の半導体基板を備えていることを特徴とする電子部材。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−77324(P2011−77324A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227671(P2009−227671)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】