説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】流れる電流の大きさのバラツキを抑制するとともに、効率よく製造することが可能な半導体装置を提供すること。
【解決手段】アノード1およびカソード2と、アノード2に導通するドレイン領域およびカソード2に導通するソース領域を有するn型半導体層3と、カソード2に導通するゲート領域を有するp型半導体層4と、を備える定電流ダイオードA1であって、n型半導体層3には、その表面にカソード2が接続され、その裏面にアノード1が接続されており、p型半導体層4は、それぞれがn型半導体層3の表面から裏面に向かって延びる1対の壁部からなる複数の壁部対41aが、n型半導体層3の厚さ方向と直角である方向に配列された構成とされており、n型半導体層3の表面側部分のうち、複数の壁部対41aに挟まれた部分が、上記ソース領域となるn+型半導体層32とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流れる電流の大きさを一定とすることが可能な定電流ダイオードとして構成された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば発光ダイオードに供給する電流の大きさを、この発光ダイオードの仕様に応じた大きさに制御する手段として、定電流ダイオードと呼ばれる半導体装置が用いられている。定電流ダイオードの構造は、ソース領域とゲート領域とを短絡させた電界効果トランジスタ(FET)に相当する(たとえば、特許文献1参照)。図6は、従来の定電流ダイオードの一例である定電流ダイオードXを示している。アノード91は、金属層97を介してn+型半導体層93aに導通している。カソード92は、基板として構成されたp型半導体層94aに接続されている。p型半導体層94aには、n-型半導体層93cがエピタキシャル成長されている。2つのアイソレーション部94bは、n-型半導体層93cを分離するためのものである。2つのアイソレーション部94b間には、p型半導体層94cおよびn+型半導体層93a,93bが形成されている。定電流ダイオードXにおいては、n+型半導体層93aがドレイン領域として、n+型半導体層93bがソース領域として、p型半導体層94cがゲート領域として、それぞれ機能する。n+型半導体層93bとp型半導体層94cとは、金属層96によって互いに導通している。絶縁層95は、金属層96,97が不当な部位と導通することを防止するためのものである。このような構成により、定電流ダイオードXは、アノード91とカソード92間の電圧によらず、一定の大きさの電流を流すことが可能に構成されている。
【0003】
しかしながら、定電流ダイオードXに流れる電流の大きさは、p型半導体層94aのアクセプタ濃度、n-型半導体層93cの厚さ、およびp型半導体層94cの深さによって決定される。このため、基板としてのp型半導体層94aを製造する際に添加するアクセプタの濃度に誤差があったり、n-型半導体層93cを成長させる厚さが不正確であったり、p型半導体層94cを形成するためにアクセプタを拡散させる深さの精度が十分でなかったりすると、定電流ダイオードXを流れる電流の大きさがばらつきやすいという問題があった。
【0004】
また、定電流ダイオードXを製造するには、n-型半導体層93cをエピタキシャル成長させた後に、アイソレーション部94b、p型半導体層94c、およびn+型半導体層93a,93bを形成するためにアクセプタまたはドナーの拡散処理を3回程度行う必要がある。各拡散処理においては、アクセプタまたはドナーを拡散させる領域を露出させるマスクを配置することと、ドナーまたはアクセプタを打ち込むこととが行われる。このように、拡散処理を繰り返し行う必要があるため、定電流ダイオードXの製造効率の向上が阻害されていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−21865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、流れる電流の大きさのバラツキを抑制するとともに、効率よく製造することが可能な半導体装置およびその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される半導体装置は、アノードおよびカソードと、上記アノードに導通するドレイン領域および上記カソードに導通するソース領域を有するn型半導体層と、上記カソードに導通するゲート領域を有するp型半導体層と、を備える半導体装置であって、上記n型半導体層には、その表面に上記カソードが接続され、その裏面に上記アノードが接続されており、上記p型半導体層は、それぞれが上記n型半導体層の表面から裏面に向かって延びる1対の壁部からなる複数の壁部対が、上記n型半導体層の厚さ方向と直角である方向に配列された構成とされており、上記n型半導体層の表面側部分のうち、上記複数の壁部対に挟まれた部分が、上記ソース領域とされていることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、上記半導体装置に流れる電流の大きさは、上記n型半導体層のうち隣り合う上記壁部対に挟まれた部分の幅によって決定される。上記壁部対は、たとえば、上記n型半導体層にエッチングによって複数のトレンチを設けた後に、これらのトレンチの内面にアクセプタを拡散させることによって形成することができる。これらのトレンチどうしの間隔は、比較的正確に仕上げることが可能である。したがって、上記半導体装置に流れる電流の大きさのバラツキを抑制することができる。また、上記半導体装置を製造する際にマスクを用いた拡散処理が必須となるのは上記p型半導体層を形成するときのみである。したがって、上記半導体装置の製造効率を向上させることができる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記p型半導体層は、それぞれが上記壁部対のうち上記n型半導体層の裏面寄りにある部分どうしが連結された複数のU字状部からなる。このような構成によれば、上記n型半導体層のうち上記ドレイン領域となる部分と上記カソードとが不当に導通することを防止することができる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記壁部対を構成する上記1対の壁部の間には、絶縁部材が介在する。このような構成によれば、上記n型半導体層のうち上記ドレイン領域となる部分と上記カソードとが不当に導通することを防止するのに、より好ましい。
【0011】
本発明の第2の側面によって提供される半導体装置の製造方法は、表面側に位置するソース領域および裏面側に位置するドレイン領域となるべき部分を有するn型半導体層に対して、エッチングにより表面に開口する複数の凹部を形成する工程と、上記凹部の内面からアクセプタを添加することにより、それぞれが上記n型半導体層の厚さ方向に延びる1対の壁部からなる複数の壁部対を有するp型半導体層を形成する工程と、上記ドレイン領域となるべき部分にアノードを導通させる工程と、上記ソース領域となるべき部分およびゲート領域としての上記p型半導体層にカソードを導通させる工程と、を有することを特徴としている。
【0012】
このような構成によれば、上記n型半導体層のうち上記複数の壁部対に挟まれた部分の幅を正確に仕上げることが可能である。これにより、上記半導体装置にながれる電流の大きさを所望の値とすることができる。また、上記製造方法においては、たとえばマスクを用いた拡散処理の回数を削減することが可能であり、製造効率の向上を図ることができる。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る半導体装置の一例を示している。本実施形態の定電流ダイオードA1は、アノード1、カソード2、n型半導体層3、p型半導体層4、絶縁部材5、絶縁層6、および金属層7を備えており、アノード1とカソード2との間の電圧の大きさによらず、一定の大きさの電流を流すことが可能に構成されている。定電流ダイオードA1は、平面視寸法が、0.4mm角程度となるように仕上げられている。
【0016】
アノード1は、電流が流れ込んでくる側の電極であり、いわゆる陽極と呼ばれるものである。アノード1は、n型半導体層3裏面側部分であるn-型半導体層31に接続されている。
【0017】
カソード2は、定電流ダイオードA1から電流が流れ出る側の電極であり、いわゆる陰極と呼ばれるものである。カソード2は、金属層7に接続されている。
【0018】
n型半導体層3は、たとえばSiにドナーとしてのPが添加された材質からなり、n-型半導体層31およびn+型半導体層32を備えている。n-型半導体層31は、定電流ダイオードA1を製造するときの土台となる部分であり、たとえばSiにPが添加された材質からなる基板である。これとは異なり、別の基板(図示略)にn-型半導体層31をエピタキシャル成長させた後に、上記基板を除去することにより定電流ダイオードA1を製造してもよい。n-型半導体層31のうち、アノード1と接続された部分は、ドレイン領域として機能する。
【0019】
+型半導体層32は、n型半導体層3の表面側部分であり、n-型半導体層31の材質よりもドナーであるPの添加濃度が高い材質からなる。n+型半導体層32は、金属層7を介してカソード2と導通しており、ソース領域として機能する。n+型半導体層32の形成は、n-型半導体層31の表面側部分にPを添加することによって行われる。本実施形態においては、n型半導体層3は、625μm程度の厚さの基板を定電流ダイオードA1の製造完了段階において150μm程度の厚さに研削したものである。
【0020】
p型半導体層4は、たとえばSiにアクセプタであるBが添加された材質からなり、ゲート領域として機能する。p型半導体層4は、金属層7を介してカソード2と導通しており、またn+型半導体層32と接している。このように、ゲート領域としてのp型半導体層4に専用のゲート電極が接続されておらず、カソード2と導通していることにより、定電流ダイオードA1はアノード1およびカソード2間の電圧によらず一定の大きさの電流を流すことが可能となっている。
【0021】
p型半導体層4は、複数のU字状部41からなる。複数のU字状部41は、n型半導体層3の厚さ方向と直角である方向において一定のピッチで配列されており、n+型半導体層32を挟んでいる。U字状部41は、断面U字状とされており、n型半導体層3の表側からn型半導体層3の裏面に向かって進入している。U字状部41は、壁部対41aを有している。壁部対41aは、n型半導体層3の厚さ方向に延びる1対の壁部からなる。壁部対41aのうちn型半導体層3の裏面側方向にある部分どうしは、互いに連結されている。U字状部41の内側は、絶縁部材5によって埋められている。絶縁部材5は、たとえばSiO2からなる。
【0022】
本実施形態においては、p型半導体層4は、n型半導体層3の厚さ方向における寸法が5μm程度とされている。また、壁部対41aは、これに含まれる壁部の厚さが1μm程度、1対の壁部の間隔が0.5〜2.0μm程度とされている。隣り合うU字状部41どうしの間隔は、2〜3μm程度である。
【0023】
絶縁層6は、たとえばSiO2からなり、n型半導体層3およびp型半導体層4の一部ずつを露出させている。
【0024】
金属層7は、たとえばAlからなり、n型半導体層3およびp型半導体層4のうち絶縁層6から露出した部分と接している。金属層7とn型半導体層3およびp型半導体層4とは、互いの接合状態がオーミックコンタクトとされている。
【0025】
次に、定電流ダイオードA1の製造方法の一例について、以下に説明する。
【0026】
まず、図2に示すように、n-型半導体層31となる基板を用意する。この基板の表面側部分に対してドナーとしてのPを添加することにより、n+型半導体層32を形成する。次に、たとえばエッチングを用いてn型半導体層3に複数の細長状のトレンチ3aを形成する。これらのトレンチ3aは、n+型半導体層32を貫通し、その先端がn-型半導体層31に達する形状およびサイズとする。
【0027】
次に、マスクを用いてトレンチ3aの内面からn型半導体層3に対してアクセプタであるBを拡散させる。これにより、図3に示すように、複数のU字状部41からなるp型半導体層4が得られる。この後は、トレンチ3aの内部をSiO2で埋めることにより、絶縁部材5を形成する。また、たとえばスパッタ法を用いて絶縁層6および金属層7を形成する。そして、アノード1およびカソード2を接続することにより、定電流ダイオードA1が完成する。
【0028】
次に、定電流ダイオードA1の作用について説明する。
【0029】
本実施形態によれば、定電流ダイオードA1に流れる電流の大きさは、n-型半導体層31のうち隣り合うU字状部41どうしに挟まれた部分の幅によって決定される。隣り合うU字状部41どうしの間隔は、複数のトレンチ3aのピッチから壁部対41aの厚さを除いたものとなる。これらのトレンチ3aは、エッチングによって正確なピッチで形成することが可能である。また、壁部対41aの厚さを制御することは、たとえば図4に示すp型半導体層94cの拡散深さを制御することに比べて容易である。したがって、定電流ダイオードA1に流れる電流の大きさを所望の値とするのに適している。
【0030】
p型半導体層4を複数のU字状部41からなる構成とすれば、n-型半導体層31の表面は、p型半導体層4およびn+型半導体層32によって完全に覆われることとなる。これにより、金属層7とn-型半導体層31とが不当に導通することを防止することができる。さらに、U字状部41の内部を絶縁部材5によって埋めておくことは、金属層7とn-型半導体層31との導通を防止するのに好適である。
【0031】
定電流ダイオードA1の製造工程においては、ドナーおよびアクセプタの拡散処理をそれぞれ1回ずつ行えばよい。また、拡散処理においてマスクを用いることが必須となるのは、p型半導体層4を形成するときだけである。したがって、たとえば図4に示された定電流ダイオードXを製造する場合と比べて、マスクを用いた拡散処理の回数を削減することが可能であり、製造効率を向上させることができる。
【0032】
図4および図5は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0033】
図4は、本発明に係る半導体装置の第2実施形態を示している。本実施形態の定電流ダイオードA2は、導通部材71を備える点が上述した実施形態と異なっている。導通部材71は、たとえばAlからなり、U字状部41の内部を埋めている。このような構成によれば、U字状部41の両端面だけでなくその内面を利用してp型半導体層4とカソード2との導通を図ることが可能である。
【0034】
図5は、本発明に係る半導体装置の第3実施形態を示している。本実施形態の定電流ダイオードA3は、p型半導体層4が複数の壁部対41aによってのみ構成されており、U字状部41は形成されていない。壁部対41aを構成する1対の壁部の間は、絶縁部材5によって埋められている。このような構成によっても、定電流ダイオードA3に流れる電流の大きさを所望の値とするとともに、製造効率を向上させることができる。絶縁部材5を設けておけば、n-型半導体層31と金属層7とが不当に導通するおそれがない。
【0035】
本発明に係る半導体装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る半導体装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0036】
本発明で言う凹部は、溝状のトレンチに限定されず、たとえば断面円形状の開孔であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る半導体装置の第1実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1に示す半導体装置の製造方法の一例において、トレンチを形成する工程を示す要部断面図である。
【図3】図1に示す半導体装置の製造方法の一例において、アクセプタを拡散させる工程を示す要部断面図である。
【図4】本発明に係る半導体装置の第2実施形態を示す要部断面図である。
【図5】本発明に係る半導体装置の第3実施形態を示す要部断面図である。
【図6】従来の半導体装置の一例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0038】
A1,A2,A3 半導体装置
1 アノード
2 カソード
3 n型半導体層
3a トレンチ(凹部)
4 p型半導体層(ゲート領域)
5 絶縁部材
6 絶縁層
7 金属層
31 n-型半導体層(ドレイン領域)
32 n+型半導体層(ソース領域)
41 U字状部
41a 壁部対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードおよびカソードと、
上記アノードに導通するドレイン領域および上記カソードに導通するソース領域を有するn型半導体層と、
上記カソードに導通するゲート領域を有するp型半導体層と、
を備える半導体装置であって、
上記n型半導体層には、その表面に上記カソードが接続され、その裏面に上記アノードが接続されており、
上記p型半導体層は、それぞれが上記n型半導体層の表面から裏面に向かって延びる1対の壁部からなる複数の壁部対が、上記n型半導体層の厚さ方向と直角である方向に配列された構成とされており、
上記n型半導体層の表面側部分のうち、上記複数の壁部対に挟まれた部分が、上記ソース領域とされていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項2】
上記p型半導体層は、それぞれが上記壁部対のうち上記n型半導体層の裏面寄りにある部分どうしが連結された複数のU字状部からなる、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
上記壁部対を構成する上記1対の壁部の間には、絶縁部材が介在する、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
表面側に位置するソース領域および裏面側に位置するドレイン領域となるべき部分を有するn型半導体層に対して、エッチングにより表面に開口する複数の凹部を形成する工程と、
上記凹部の内面からアクセプタを添加することにより、それぞれが上記n型半導体層の厚さ方向に延びる1対の壁部からなる複数の壁部対を有するp型半導体層を形成する工程と、
上記ドレイン領域となるべき部分にアノードを導通させる工程と、
上記ソース領域となるべき部分およびゲート領域としての上記p型半導体層にカソードを導通させる工程と、
を有することを特徴とする、半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−130913(P2008−130913A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315760(P2006−315760)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】