半導体装置
【課題】複数の半導体素子を有して構成される回路を樹脂により一体化するに際し、樹脂の膨張収縮に応じて半導体素子に作用する応力の影響を抑制する。
【解決手段】半導体素子4を載置し、ベースプレート9の基準面Rに接着される複数の素子基板7と、基準面Rに沿って複数の素子基板7の周囲を囲むケース部材2とを備え、ケース内空間に素子基板7と半導体素子4とを覆う高さまでモールド樹脂3が充填される半導体装置100であって、ケース内空間を区画壁12によって複数のモールド空間11に区画する区画部材1を備える。区画壁12は、基準面に当接すると共に基準面Rからの高さH6がモールド樹脂3の充填高さH5よりも高くなるように構成される。複数のモールド空間11のそれぞれに少なくとも1つの素子基板7が収容されている。
【解決手段】半導体素子4を載置し、ベースプレート9の基準面Rに接着される複数の素子基板7と、基準面Rに沿って複数の素子基板7の周囲を囲むケース部材2とを備え、ケース内空間に素子基板7と半導体素子4とを覆う高さまでモールド樹脂3が充填される半導体装置100であって、ケース内空間を区画壁12によって複数のモールド空間11に区画する区画部材1を備える。区画壁12は、基準面に当接すると共に基準面Rからの高さH6がモールド樹脂3の充填高さH5よりも高くなるように構成される。複数のモールド空間11のそれぞれに少なくとも1つの素子基板7が収容されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を実装した複数の素子基板をヒートシンク上に搭載し、これらの素子基板を囲むケース部材の内側にモールド樹脂が充填される半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に利用される交流モータや交流発電機など、直流電源との間で電力をやりとりして動作する回転電機は、直流と交流との間で電力変換するインバータを介して当該直流電源と接続される場合が多い。このようなインバータは、パワースイッチング素子(電力系スイッチング素子)やパワー整流素子(電力系整流素子)と称される半導体素子を用いて構成される。このような半導体素子は、比較的大容量の電流を流すことが可能であり、半導体素子の内部抵抗と電流との積に応じた発熱量も多くなる。このため、このようなインバータでは、半導体素子はヒートシンクを備えて実装されることが多い。また、一般的な構成のインバータは、上段アームのスイッチング素子と下段アームのスイッチング素子とのペアを1レッグとして、3レッグのブリッジ回路により構成される。これら6つのスイッチング素子は、互いに近傍に配置されることが好ましく、上述したヒートシンクと合わせて1つのユニットとして構成されることも多い。そのようなユニットにおいて、スイッチング素子を良好に固定し、使用中における異物の混入等からも保護するためにしばしば、特開2010−267685号公報(特許文献1)に例示されるように、半導体素子を収容する外装ケース内に樹脂が充填される(第3段落、図1(b)等。)。そして、半導体素子が外装ケース内に封入された半導体装置が構成される。
【0003】
外装ケース内に充填される樹脂は、高い温度で溶融した状態で充填され、冷えて固まることによって半導体素子を固定する。樹脂が固まる速度は、外装ケース内の場所によって異なるため、樹脂の状態に応じた粘性の違いにより、半導体素子や半導体素子が搭載された基板に応力が印加される。また、硬化後においても、温度変化によって樹脂が膨張や収縮することによって応力が生じることもある。このような応力によって、半導体素子と基板との接合力や接着力、あるいは基板とヒートシンクとの接合力や接着力を弱めてしまう可能性がある。基板とヒートシンクとは、特開2005−268514号公報(特許文献2)に記載されているように、シートを介して接着される場合がある(図1等)。この場合、シートの接着界面に作用する応力によって接着力が低下してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−267685号公報
【特許文献2】特開2005−268514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景に鑑みて、複数の半導体素子を有して構成される回路を樹脂により一体化するに際し、樹脂の膨張収縮に応じて半導体素子に作用する応力の影響を抑制することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた本発明に係る半導体装置の特徴構成は、
ヒートシンクとなるベースプレートと、
一方の面が半導体素子を載置する載置面であり、他方の面が前記ベースプレートの基準面に接着される接着面である複数の素子基板と、
前記基準面に当接すると共に前記基準面に沿って複数の前記素子基板の周囲を囲むケース部材と、を備え、
前記基準面を底部とし前記ケース部材を周壁部として形成されるケース内空間に、前記素子基板と前記半導体素子とを覆う高さまでモールド樹脂が充填される半導体装置であって、
前記ケース内空間を区画壁によって複数のモールド空間に区画する区画部材を備え、
前記区画壁は、前記基準面に当接すると共に前記基準面からの高さが前記モールド樹脂の充填高さよりも高くなるように構成され、
前記複数のモールド空間のそれぞれに少なくとも1つの前記素子基板が収容されている点にある。
【0007】
区画部材を用いて、ケース内空間が複数のモールド空間に分割して区画されることにより、各モールド空間の体積や、基準面に直交する方向に見た基準面視における平面形状の面積が、ケース内空間に比べて小さくなる。溶融した状態でモールド空間に充填されたモールド樹脂が固まる際に、応力が作用する範囲は区画部材によって分断され、応力の及ぶ範囲は各モールド空間内に留まることになる。従って、モールド樹脂の粘性の違いによって生じる応力が抑制される。同様に、硬化後に、温度変化によってモールド樹脂が膨張や収縮することによって生じる応力も、各モールド空間内に限定されるから、区画部材を用いてケース内空間を分割しない場合に比べて、応力は抑制される。その結果、複数の半導体素子を有して構成される回路をモールド樹脂により一体化するに際し、モールド樹脂の膨張収縮に応じて半導体素子に作用する応力の影響を抑制することが可能となる。
【0008】
ここで、前記区画部材は、複数の前記モールド空間のそれぞれに1つの前記素子基板を収容するように形成されていると好適である。基準面視における平面形状が各素子基板に応じた大きさとなり、モールド空間の体積も各素子基板に応じた大きさとなるので、半導体素子に影響する応力を最大限に抑制することが可能となる。
【0009】
モールド空間に充填されたモールド樹脂は、区画部材と接する周辺部から硬化し、モールド空間の重心近くが最も遅く硬化する。従って、基準面視での平面形状における素子基板の重心と、モールド空間との重心とが近くになるように、モールド空間内に素子基板が配置されるとよい。本発明に係る半導体装置は、1つの好適な態様として、前記基準面に直交する方向に見た基準面視における前記素子基板と前記モールド空間との平面形状が、同方向且つ前記モールド空間の方が大きい相似形状であり、それぞれの前記素子基板が、それぞれの前記モールド空間の中央に配置されている構成とすることができる。
【0010】
特許文献2を例として提示したように、ヒートシンクとなるベースプレートと、素子基板の接着面とは、絶縁を兼ねたシート状部材によって接着される場合がある。この場合、半導体素子を搭載した素子基板と区画部材とは、ベースプレートに対してほぼ同時に押圧されることによって、ベースプレートに接着される。この際、ベースプレートの基準面に対して直交する方向からの押圧力によって、シート状部材には基準面に沿った力も働くことになる。この力によって、素子基板の端部や区画部材の端部において、シート状部材にボイドと称される空隙が生じる可能性がある。素子基板の端部においてボイドが生じると、熱伝導性のよい銅などの金属によって構成されることの多いベースプレートと、素子基板との間の絶縁性が低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明に係る半導体装置は、1つの態様として、前記基準面と前記素子基板との間に、熱と押圧力とによって両者を接着するシート状部材を備え、前記区画部材は、前記区画壁と前記素子基板との隙間が前記シート状部材の厚さ以下となるように形成されていると好適である。区画壁と素子基板との隙間がシート状部材の厚さ以下であると、素子基板の端部においては、シート状部材にボイドが生じにくくなる。区画壁の端部においては、ボイドが生じる可能性があるが、このボイドと素子基板との間には、シート状部材よりも遙かに厚みのある区画壁が存在するので、ボイドによる絶縁性の低下は抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】半導体装置により構成されるインバータの一例を示す模式的回路図
【図2】IGBTモジュールの構成例を模式的に示す斜視図
【図3】半導体装置の構成例を模式的に示す分解斜視図
【図4】半導体装置の模式的な上面図及び断面図
【図5】区画部材を用いない半導体装置のモールド樹脂による応力を模式的に示す図
【図6】区画部材の端部において樹脂シートに生じるボイドを模式的に示す図
【図7】素子基板の端部において樹脂シートに生じるボイドを模式的に示す図
【図8】区画部材の模式的な上面図
【図9】区画部材の他の構成例を模式的に示す上面図
【図10】ケース部材と区画部材とによりモールド空間を形成する例を模式的に示す上面図
【図11】複数の素子基板を収めるモールド空間の一例を模式的に示す上面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を利用して本発明に係る半導体装置の実施形態を説明する。このような半導体装置は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動力源となる回転電機を駆動する駆動装置に利用されるインバータに適用される。図1に示すように、回転電機30は、3相交流により動作する交流電動機であり、必要に応じて電動機としても発電機としても動作する。インバータ31は、正極P及び負極Nの直流電力と交流電力との間で電力変換を行う。
【0014】
インバータ31は、上段アーム33及び下段アーム34からなる一対のスイッチング素子41の直列回路により構成される1回線のレッグ32を、U,V,Wの各相に対応して3回線有したブリッジ回路として構成され、直流電力と3相交流との間で電力変換を行う。本実施形態では、スイッチング素子として、IGBT(insulated gate bipolar transistor)41を用いる例を示している。スイッチング素子としては、IGBT41の他に、バイポーラ型、電界効果型、MOS型など種々の構造のパワートランジスタを用いることができる。また、各スイッチング素子41には、それぞれフリーホイールダイオード42が並列接続されている(以下、適宜単にダイオード42と称する。)。
【0015】
本実施形態においては、各アーム33,34が1つのIGBTモジュール10として構成されている。図2に示すように、IGBTモジュール10は、セラミックや導電性のある金属を素子基板7とした素子基板アッセンブリとして構成されている。本実施形態では、素子基板7は、銅により構成されており、大電流により発熱するIGBT41やダイオード42のヒートスプレッダとしても機能する。素子基板7の図示上面側は、IGBT41やダイオード42が載置される載置面Aであり、図示下面側は、後述するように放熱フィンなどを有するヒートシンクに接着される接着面Bである。載置面Aには、不図示の素子配置領域が形成され、この素子配置領域にIGBT41やダイオード42が例えば半田付けにより実装される。尚、図2における符号5は、電極部材6を接続するためのパッドである。
【0016】
本実施形態において、IGBT41は、図示上面側にエミッタ電極及びゲート電極を備え、図示下面側にコレクタ電極を備えている。また、ダイオード42は、図示上面側にアノード電極を備え、図示下面側にカソード電極を備えている。半田付けにより素子基板7に実装されたIGBT41の下面のコレクタ電極は、銅製の素子基板7と導通する。同様に、素子基板7に実装されたダイオード42のカソード電極も、銅製の素子基板7と導通する。つまり、IGBT41のコレクタ電極とダイオード42のカソード電極とは、素子基板7を介して図1の回路図に示すように電気的に接続される。
【0017】
また、IGBT41の上面側に形成されたエミッタ電極とダイオード42の上面側に形成されたアノード電極とは、図2に示すように第1電極部材61(電極部材6)を介して導通する。即ち、IGBT41のエミッタ電極とダイオード42のアノード電極とは、図1の回路図に示すように電気的に接続される。素子基板7に設けられたパッド5に接続された第2電極部材62(電極部材6)は、素子基板7と導通する。即ち、第2電極部材62は、IGBT41のコレクタ電極及びダイオード42のカソード電極と導通する。
【0018】
そして、各IGBTモジュール10の電極部材6を不図示のバスバーなどの電流容量の大きい導体で接続することによって、図1に示すようなインバータ31の回路が構成される。上述したように、各アーム33,34のエミッタ側には第1電極部材61が設けられ、コレクタ側には第2電極部材62が設けられる。複数のアームの電極部材6(61,62)をバスバーによって接続することによって、各レッグが構成される。また、各アーム33,34(各レッグ32)は、直流の正極P及び負極Nとも、電極部材6及び不図示のバスバーを介して接続される。同様に、各レッグと回転電機30の各ステータコイルとも、電極部材6及び不図示のバスバーを介して接続される。バスバーについては図示を省略するが、このようにして、図1の回路図に例示したインバータ31が、図3及び図4に示すようなインバータユニット100(半導体装置)として構成される。尚、IGBT41及びダイオード42は、本発明の半導体素子4に相当する。
【0019】
一方、図2に示すように、IGBT41には、信号端子45が設けられている。この信号端子45にはIGBT41のゲート端子も含まれる。ゲート端子に入力されるゲート駆動信号の電流は、コレクタ−エミッタ間を流れる電流に比べて非常に小さいため、端子もコレクタやエミッタに比べて小規模に形成されている。また、信号の伝送にも大きな電流容量は必要ないため、バスバーなどではなく、不図示の金属細線等によるワイヤーボンディングによってゲート駆動信号を生成する制御回路と接続される。尚、IGBT41には、過電流や温度上昇などを検出する診断回路を備えているものもあり、そのような診断回路の結果も信号端子45を介して伝送される。図2において複数の信号端子45を例示しているのは、このためである。
【0020】
インバータユニット100は、図3及び図4に示すように、放熱フィン91を有してヒートシンクとして機能するベースプレート9と、樹脂シート(接着性のシート状部材)8と、素子基板アッセンブリとしての複数のIGBTモジュール10と、素子基板7(素子基板アッセンブリ)を囲うケース部材2と、ケース部材2により形成されるケース内空間を複数のモールド空間11に区画する区画部材1と、を備えて構成される。モールド樹脂3は、素子基板アッセンブリ(IGBTモジュール10)、つまり、素子基板7と半導体素子4とを覆う高さまで充填される。モールド樹脂3は、例えばエポキシ樹脂である。また、区画部材1及びケース部材2は、各種プラスチックなどの樹脂材料により形成されている。ベースプレート9は、例えばアルミニウムにより形成されている。
【0021】
放熱フィン91は、ベースプレート9の一方の面(図示下面側)に対してほぼ垂直に設けられた、所定の厚さの複数の板状部によって形成されている。ベースプレート9の他方の面(図示上面側)には、絶縁性の樹脂シート8が貼り付けられる。樹脂シート8は、電気的絶縁性、熱伝導性、接着性を備える樹脂素材により形成されている。樹脂シート8は、例えば、エポキシとアルミナフィラーとの混合材料に形成されており、その厚みは150〜200μm程度である。樹脂シート8の上に、IGBTモジュール10と区画部材1とが配置され、半導体素子4に応力が掛からないように、素子基板7と区画部材1とがほぼ均等な圧力でほぼ同時にベースプレート9に押しつけられる。例えば、素子基板7の載置面Aと、区画部材1の上面Cとに接触する治具によりベースプレート9に押しつけられ、押圧力により素子基板7の接着面Bと区画部材1の接着面Dとが、ベースプレート9に接着される。
【0022】
ベースプレート9の基準面Rに当接したケース部材2は、基準面Rに沿って複数の素子基板7(素子基板アッセンブリ)の周囲を囲んでいる。つまり、ベースプレート9の基準面Rを底部とし、基準面Rに当接するケース部材2を周壁部として、ケース内空間が形成される。本実施形態では、このケース内空間の中に区画部材1が備えられ、区画部材1によって、ケース内空間が複数のモールド空間11に分割される。図3及び図4に示すように、区画部材1は、区画壁12を有して構成されており、この区画壁12によってケース内空間が複数のモールド空間11に区画される。
【0023】
各モールド空間11は、ベースプレート9の基準面Rあるいは基準面R上に貼られた樹脂シート8を底部とし、区画壁12を周壁部として形成される。そして、各モールド空間11には、少なくとも1つのIGBTモジュール10が収容されている。モールド樹脂3は、各モールド空間11において、それぞれのモールド空間11に収容された素子基板7及び当該素子基板7に搭載された半導体素子4を覆う高さまで充填される。この際、電極部材6は、不図示のバスバーとの接続を確保するために、完全に覆われることなく、電極上面を露出する形態で封入される。また、充填されるモールド樹脂3が各モールド空間11から溢れ出ることがないように、区画壁12はモールド樹脂3の充填高さよりも高くなるように構成されている。
【0024】
図4(b)に示すように、樹脂シート8の厚みを樹脂シート厚H1とし、素子基板7の厚みを基板厚H2とし、半導体素子4の厚みをチップ厚H3とする。モールド樹脂3の充填高さH5は、樹脂シート厚H1と基板厚H2とチップ厚H3との和H4よりも大きい値となるように設定されている。一方、基準面Rから電極部材6の上面までの高さである電極上面高さH6は、モールド樹脂3が充填された後も、電極上面を露出させるために、充填高さH5よりも大きい。また、区画壁12の基準面Rからの高さである区画壁高さH7は、上述したように、モールド樹脂3が各モールド空間11から溢れ出ることがないように、充填高さH5よりも高く設定されている。尚、区画壁高さH7と電極上面高さH6とは何れの方が高くてもよいが、不図示のバスバーによる配線を容易にする上では、区画壁高さH7よりも電極上面高さH6の方が大きいほうが好ましい。
【0025】
尚、本実施形態では、図4(a)に示すように、1つのモールド空間11に1つの素子基板7(素子基板アッセンブリ、IGBTモジュール10)が収容されている。換言すれば、区画部材1は、複数のモールド空間11のそれぞれに1つの素子基板7を収容するように形成されている。区画部材1を用いて、ケース内空間が複数のモールド空間11に分割して区画されることにより、各モールド空間11の体積や、基準面Rに直交する方向に見た基準面視における平面形状の面積は、ケース内空間に比べて小さくなる。さらに、1つのモールド空間11に1つの素子基板7が収容されていると、基準面視における平面形状が各素子基板7に応じた大きさとなり、モールド空間11の体積も各素子基板7に応じた大きさとなる。このように構成すれば、溶融した状態でモールド空間11に充填されたモールド樹脂3が固まる際に、粘性の違いによって生じる応力が作用する範囲は区画部材1によって分断された各モールド空間11の中に留まる。従って、モールド樹脂3の粘性の違いによって生じる応力が抑制される。
【0026】
図5は、区画部材1を用いて複数のモールド空間11に区画することなく、ケース内空間にモールド樹脂3を充填した場合の模式的な応力F2を破線で示している。図4には、1つのモールド空間11における模式的な応力F1を破線で示している。図4及び図5の比較により明らかなように、モールド樹脂3が流動可能な範囲が、ケース内空間に比べて狭いモールド空間11では、モールド樹脂3の膨張や収縮に伴う応力F1が、ケース内空間全体において生じる応力F2に比べて小さくなる。その結果、複数の半導体素子4を有して構成される回路をモールド樹脂3により一体化するに際し、モールド樹脂3の膨張収縮に応じて半導体素子4に作用する応力の影響を抑制することが可能となる。
【0027】
さらに本実施形態においては、素子基板7の外形がほぼ矩形であり、区画部材1によって区画されるモールド空間11の基準面視の平面形状も矩形である。具体的には、基準面視における素子基板7とモールド空間11との平面形状は、同方向且つモールド空間11の平面形状の方が大きい相似形状である。図2に示すように、素子基板7の外形は、角部は面取りされているが、ほぼX7:Y7の比率の長方形である。また、図4に示すように、モールド空間11の平面形状は、ほぼX1:Y1の比率の長方形である。素子基板7の外形と、モールド空間11の平面形状は、「X7:Y7≒X1:Y1」を満たす相似形状である。また、それぞれ、「X7<X1,Y7<Y1」を満たし、素子基板7の外形に比べて、モールド空間11の平面形状の方が大きい。そして、それぞれの素子基板7は、それぞれのモールド空間11の中央に配置されている。モールド空間11に充填されたモールド樹脂3は、区画部材1と接する周辺部から硬化し、モールド空間11の重心近くが最も遅く硬化する。従って、基準面視における素子基板7の重心と、モールド空間11との重心とが近くになるように、モールド空間11のほぼ中央に素子基板7が配置されるとよい。
【0028】
また、本実施形態においては、区画部材1の区画壁12と素子基板7との隙間G1が、樹脂シート8の厚さ(樹脂シート厚H1)以下となるように、モールド空間11が形成されると共にその中に素子基板7が配置される。上述したように、半導体素子4を搭載した素子基板7と区画部材1とは、樹脂シート8を介してベースプレート9に対して押圧されることによって基準面Rに接着される。この際、図6及び図7に中抜き矢印で示すような基準面Rに対して直交する方向からの押圧力によって、樹脂シート8には基準面Rに沿った力も働くことになる。この力によって、素子基板7の端部や区画部材1の端部において、樹脂シート8にボイド(空隙)80が生じる可能性がある。図7に示すように、素子基板7の端部においてボイド80が生じると、その部分において樹脂シート8が薄くなる。よって、多くの場合熱伝導性のよい金属によって構成されるベースプレート9と、素子基板7との間の絶縁性が低下してしまう。
【0029】
一方、区画壁12と素子基板7との隙間G1が樹脂シート厚H1以下であると、図6に示すように、素子基板7の端部においては、樹脂シート8にボイド80が生じにくくなる。ボイド80は、基準面Rに沿った力が開放される区画壁12の端部において生じることになる。上述したように、樹脂シート厚は150〜200μmであり、極薄である。このため、モールド空間11の外側において区画壁12の端部に生じるボイド80と素子基板7との間には、樹脂シート8よりも遙かに厚みのある区画壁12が存在することになる。従って、区画壁12と素子基板7との隙間G1を樹脂シート厚H1以下とすると、ボイド80による絶縁性の低下が抑制される。あるいは、樹脂シート8の材料特性と押圧力とからボイド80の大きさを想定し、ボイド80を形成できない、あるいはボイド80を維持できない程度の隙間G1を設定してもよい。
【0030】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態においては、図8に代表されるように、基準面Rに沿って素子基板7を囲む外周壁15と、外周壁15の間を結ぶ仕切り壁17とによって区画壁12が構成される例を用いて説明した。しかし、区画壁12の形状は、この形態に限定されるものではない。例えば、図9に示すように、ケース部材2を外周壁15として利用し、区画部材1は、仕切り壁17のみを区画壁12として構成されていてもよい。
【0031】
(2)上記実施形態においては、ケース内空間の中に区画部材1が備えられ、区画部材1によって、ケース内空間が複数のモールド空間11に分割される例を示した。つまり、ベースプレート9の基準面Rに沿って複数の素子基板7の周囲を周壁部として囲み、基準面Rを底部としてケース内空間を形成するケース部材2と、ケース内空間を区画する区画部材1との2つの部材を有するインバータユニット(半導体装置)100を例示した。しかし、区画部材1の外周壁15は、別実施形態(1)において例示したように、ケース部材2を利用することも可能である。従って、図10に示すように、ケース部材2と区画部材1とが一体化して形成されて、1つの部材によってケース内空間及びモールド空間11が形成されてもよい。
【0032】
(3)上記、各実施形態においては、1つのモールド空間11に1つの素子基板7が収容される場合を例示した。しかし、モールド空間11は、少なくとも1つの素子基板7を収容し、且つケース内空間よりも狭い空間であればよい。ケース内空間よりも狭い空間に対してモールド樹脂3を充填することによって、モールド樹脂3の硬化や、硬化後の膨張収縮による応力は抑制される。従って、例えば、図11に示すように、1つのモールド空間11に2つの素子基板7が収容されるように、区画部材1が形成されていてもよい。尚、図視は省略するが、当然ながら、1つのモールド空間11に3つ以上の素子基板7が収容されていてもよい。また。各モールド空間11に同じ数の素子基板7が収容される必要もなく、モールド空間11ごとに異なる数の素子基板7が収容されていてもよい。
【0033】
(4)上記、各実施形態においては、素子基板7が接着性及び絶縁性を有する樹脂シート8を介してベースプレート9に接着される例を用いて説明した。しかし、素子基板7は、必ずしも樹脂シート8を介して接着される必要はない。素子基板7が電気的絶縁性を有するセラミック基板などの絶縁基板で構成されている場合には、接着剤によりベースプレート9に接着されてもよい。また、そのような絶縁基板により構成された素子基板7の裏面(ベースプレート9の側)に銅箔等のランドを設け、当該ランドとベースプレート9とを半田付け等によって接着(接合・溶接)してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ヒートシンク上に半導体素子を実装した複数の素子基板を搭載し、これらの素子基板を囲むケース部材の内側にモールド樹脂が充填される半導体装置に適用することができる。例えば、本発明は、半導体としてスイッチング素子や整流素子を備えたインバータやコンバータ、整流回路に適用することができる。また、半導体として、各種コンピュータシステムの中核となるプロセッサを備えた大規模高速演算回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 :区画部材
2 :ケース部材
3 :モールド樹脂
4 :半導体素子
7 :素子基板
8 :樹脂シート(シート状部材)
9 :ベースプレート
10 :IGBTモジュール、素子基板アッセンブリ
11 :モールド空間
12 :区画壁
15 :外周壁(区画壁)
17 :仕切り壁(区画壁)
41 :スイッチング素子(半導体素子)
42 :フリーホイールダイオード(半導体素子)
100 :インバータユニット(半導体装置)
G1 :隙間
H1 :樹脂シート厚
R :基準面
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を実装した複数の素子基板をヒートシンク上に搭載し、これらの素子基板を囲むケース部材の内側にモールド樹脂が充填される半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に利用される交流モータや交流発電機など、直流電源との間で電力をやりとりして動作する回転電機は、直流と交流との間で電力変換するインバータを介して当該直流電源と接続される場合が多い。このようなインバータは、パワースイッチング素子(電力系スイッチング素子)やパワー整流素子(電力系整流素子)と称される半導体素子を用いて構成される。このような半導体素子は、比較的大容量の電流を流すことが可能であり、半導体素子の内部抵抗と電流との積に応じた発熱量も多くなる。このため、このようなインバータでは、半導体素子はヒートシンクを備えて実装されることが多い。また、一般的な構成のインバータは、上段アームのスイッチング素子と下段アームのスイッチング素子とのペアを1レッグとして、3レッグのブリッジ回路により構成される。これら6つのスイッチング素子は、互いに近傍に配置されることが好ましく、上述したヒートシンクと合わせて1つのユニットとして構成されることも多い。そのようなユニットにおいて、スイッチング素子を良好に固定し、使用中における異物の混入等からも保護するためにしばしば、特開2010−267685号公報(特許文献1)に例示されるように、半導体素子を収容する外装ケース内に樹脂が充填される(第3段落、図1(b)等。)。そして、半導体素子が外装ケース内に封入された半導体装置が構成される。
【0003】
外装ケース内に充填される樹脂は、高い温度で溶融した状態で充填され、冷えて固まることによって半導体素子を固定する。樹脂が固まる速度は、外装ケース内の場所によって異なるため、樹脂の状態に応じた粘性の違いにより、半導体素子や半導体素子が搭載された基板に応力が印加される。また、硬化後においても、温度変化によって樹脂が膨張や収縮することによって応力が生じることもある。このような応力によって、半導体素子と基板との接合力や接着力、あるいは基板とヒートシンクとの接合力や接着力を弱めてしまう可能性がある。基板とヒートシンクとは、特開2005−268514号公報(特許文献2)に記載されているように、シートを介して接着される場合がある(図1等)。この場合、シートの接着界面に作用する応力によって接着力が低下してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−267685号公報
【特許文献2】特開2005−268514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景に鑑みて、複数の半導体素子を有して構成される回路を樹脂により一体化するに際し、樹脂の膨張収縮に応じて半導体素子に作用する応力の影響を抑制することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた本発明に係る半導体装置の特徴構成は、
ヒートシンクとなるベースプレートと、
一方の面が半導体素子を載置する載置面であり、他方の面が前記ベースプレートの基準面に接着される接着面である複数の素子基板と、
前記基準面に当接すると共に前記基準面に沿って複数の前記素子基板の周囲を囲むケース部材と、を備え、
前記基準面を底部とし前記ケース部材を周壁部として形成されるケース内空間に、前記素子基板と前記半導体素子とを覆う高さまでモールド樹脂が充填される半導体装置であって、
前記ケース内空間を区画壁によって複数のモールド空間に区画する区画部材を備え、
前記区画壁は、前記基準面に当接すると共に前記基準面からの高さが前記モールド樹脂の充填高さよりも高くなるように構成され、
前記複数のモールド空間のそれぞれに少なくとも1つの前記素子基板が収容されている点にある。
【0007】
区画部材を用いて、ケース内空間が複数のモールド空間に分割して区画されることにより、各モールド空間の体積や、基準面に直交する方向に見た基準面視における平面形状の面積が、ケース内空間に比べて小さくなる。溶融した状態でモールド空間に充填されたモールド樹脂が固まる際に、応力が作用する範囲は区画部材によって分断され、応力の及ぶ範囲は各モールド空間内に留まることになる。従って、モールド樹脂の粘性の違いによって生じる応力が抑制される。同様に、硬化後に、温度変化によってモールド樹脂が膨張や収縮することによって生じる応力も、各モールド空間内に限定されるから、区画部材を用いてケース内空間を分割しない場合に比べて、応力は抑制される。その結果、複数の半導体素子を有して構成される回路をモールド樹脂により一体化するに際し、モールド樹脂の膨張収縮に応じて半導体素子に作用する応力の影響を抑制することが可能となる。
【0008】
ここで、前記区画部材は、複数の前記モールド空間のそれぞれに1つの前記素子基板を収容するように形成されていると好適である。基準面視における平面形状が各素子基板に応じた大きさとなり、モールド空間の体積も各素子基板に応じた大きさとなるので、半導体素子に影響する応力を最大限に抑制することが可能となる。
【0009】
モールド空間に充填されたモールド樹脂は、区画部材と接する周辺部から硬化し、モールド空間の重心近くが最も遅く硬化する。従って、基準面視での平面形状における素子基板の重心と、モールド空間との重心とが近くになるように、モールド空間内に素子基板が配置されるとよい。本発明に係る半導体装置は、1つの好適な態様として、前記基準面に直交する方向に見た基準面視における前記素子基板と前記モールド空間との平面形状が、同方向且つ前記モールド空間の方が大きい相似形状であり、それぞれの前記素子基板が、それぞれの前記モールド空間の中央に配置されている構成とすることができる。
【0010】
特許文献2を例として提示したように、ヒートシンクとなるベースプレートと、素子基板の接着面とは、絶縁を兼ねたシート状部材によって接着される場合がある。この場合、半導体素子を搭載した素子基板と区画部材とは、ベースプレートに対してほぼ同時に押圧されることによって、ベースプレートに接着される。この際、ベースプレートの基準面に対して直交する方向からの押圧力によって、シート状部材には基準面に沿った力も働くことになる。この力によって、素子基板の端部や区画部材の端部において、シート状部材にボイドと称される空隙が生じる可能性がある。素子基板の端部においてボイドが生じると、熱伝導性のよい銅などの金属によって構成されることの多いベースプレートと、素子基板との間の絶縁性が低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明に係る半導体装置は、1つの態様として、前記基準面と前記素子基板との間に、熱と押圧力とによって両者を接着するシート状部材を備え、前記区画部材は、前記区画壁と前記素子基板との隙間が前記シート状部材の厚さ以下となるように形成されていると好適である。区画壁と素子基板との隙間がシート状部材の厚さ以下であると、素子基板の端部においては、シート状部材にボイドが生じにくくなる。区画壁の端部においては、ボイドが生じる可能性があるが、このボイドと素子基板との間には、シート状部材よりも遙かに厚みのある区画壁が存在するので、ボイドによる絶縁性の低下は抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】半導体装置により構成されるインバータの一例を示す模式的回路図
【図2】IGBTモジュールの構成例を模式的に示す斜視図
【図3】半導体装置の構成例を模式的に示す分解斜視図
【図4】半導体装置の模式的な上面図及び断面図
【図5】区画部材を用いない半導体装置のモールド樹脂による応力を模式的に示す図
【図6】区画部材の端部において樹脂シートに生じるボイドを模式的に示す図
【図7】素子基板の端部において樹脂シートに生じるボイドを模式的に示す図
【図8】区画部材の模式的な上面図
【図9】区画部材の他の構成例を模式的に示す上面図
【図10】ケース部材と区画部材とによりモールド空間を形成する例を模式的に示す上面図
【図11】複数の素子基板を収めるモールド空間の一例を模式的に示す上面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を利用して本発明に係る半導体装置の実施形態を説明する。このような半導体装置は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動力源となる回転電機を駆動する駆動装置に利用されるインバータに適用される。図1に示すように、回転電機30は、3相交流により動作する交流電動機であり、必要に応じて電動機としても発電機としても動作する。インバータ31は、正極P及び負極Nの直流電力と交流電力との間で電力変換を行う。
【0014】
インバータ31は、上段アーム33及び下段アーム34からなる一対のスイッチング素子41の直列回路により構成される1回線のレッグ32を、U,V,Wの各相に対応して3回線有したブリッジ回路として構成され、直流電力と3相交流との間で電力変換を行う。本実施形態では、スイッチング素子として、IGBT(insulated gate bipolar transistor)41を用いる例を示している。スイッチング素子としては、IGBT41の他に、バイポーラ型、電界効果型、MOS型など種々の構造のパワートランジスタを用いることができる。また、各スイッチング素子41には、それぞれフリーホイールダイオード42が並列接続されている(以下、適宜単にダイオード42と称する。)。
【0015】
本実施形態においては、各アーム33,34が1つのIGBTモジュール10として構成されている。図2に示すように、IGBTモジュール10は、セラミックや導電性のある金属を素子基板7とした素子基板アッセンブリとして構成されている。本実施形態では、素子基板7は、銅により構成されており、大電流により発熱するIGBT41やダイオード42のヒートスプレッダとしても機能する。素子基板7の図示上面側は、IGBT41やダイオード42が載置される載置面Aであり、図示下面側は、後述するように放熱フィンなどを有するヒートシンクに接着される接着面Bである。載置面Aには、不図示の素子配置領域が形成され、この素子配置領域にIGBT41やダイオード42が例えば半田付けにより実装される。尚、図2における符号5は、電極部材6を接続するためのパッドである。
【0016】
本実施形態において、IGBT41は、図示上面側にエミッタ電極及びゲート電極を備え、図示下面側にコレクタ電極を備えている。また、ダイオード42は、図示上面側にアノード電極を備え、図示下面側にカソード電極を備えている。半田付けにより素子基板7に実装されたIGBT41の下面のコレクタ電極は、銅製の素子基板7と導通する。同様に、素子基板7に実装されたダイオード42のカソード電極も、銅製の素子基板7と導通する。つまり、IGBT41のコレクタ電極とダイオード42のカソード電極とは、素子基板7を介して図1の回路図に示すように電気的に接続される。
【0017】
また、IGBT41の上面側に形成されたエミッタ電極とダイオード42の上面側に形成されたアノード電極とは、図2に示すように第1電極部材61(電極部材6)を介して導通する。即ち、IGBT41のエミッタ電極とダイオード42のアノード電極とは、図1の回路図に示すように電気的に接続される。素子基板7に設けられたパッド5に接続された第2電極部材62(電極部材6)は、素子基板7と導通する。即ち、第2電極部材62は、IGBT41のコレクタ電極及びダイオード42のカソード電極と導通する。
【0018】
そして、各IGBTモジュール10の電極部材6を不図示のバスバーなどの電流容量の大きい導体で接続することによって、図1に示すようなインバータ31の回路が構成される。上述したように、各アーム33,34のエミッタ側には第1電極部材61が設けられ、コレクタ側には第2電極部材62が設けられる。複数のアームの電極部材6(61,62)をバスバーによって接続することによって、各レッグが構成される。また、各アーム33,34(各レッグ32)は、直流の正極P及び負極Nとも、電極部材6及び不図示のバスバーを介して接続される。同様に、各レッグと回転電機30の各ステータコイルとも、電極部材6及び不図示のバスバーを介して接続される。バスバーについては図示を省略するが、このようにして、図1の回路図に例示したインバータ31が、図3及び図4に示すようなインバータユニット100(半導体装置)として構成される。尚、IGBT41及びダイオード42は、本発明の半導体素子4に相当する。
【0019】
一方、図2に示すように、IGBT41には、信号端子45が設けられている。この信号端子45にはIGBT41のゲート端子も含まれる。ゲート端子に入力されるゲート駆動信号の電流は、コレクタ−エミッタ間を流れる電流に比べて非常に小さいため、端子もコレクタやエミッタに比べて小規模に形成されている。また、信号の伝送にも大きな電流容量は必要ないため、バスバーなどではなく、不図示の金属細線等によるワイヤーボンディングによってゲート駆動信号を生成する制御回路と接続される。尚、IGBT41には、過電流や温度上昇などを検出する診断回路を備えているものもあり、そのような診断回路の結果も信号端子45を介して伝送される。図2において複数の信号端子45を例示しているのは、このためである。
【0020】
インバータユニット100は、図3及び図4に示すように、放熱フィン91を有してヒートシンクとして機能するベースプレート9と、樹脂シート(接着性のシート状部材)8と、素子基板アッセンブリとしての複数のIGBTモジュール10と、素子基板7(素子基板アッセンブリ)を囲うケース部材2と、ケース部材2により形成されるケース内空間を複数のモールド空間11に区画する区画部材1と、を備えて構成される。モールド樹脂3は、素子基板アッセンブリ(IGBTモジュール10)、つまり、素子基板7と半導体素子4とを覆う高さまで充填される。モールド樹脂3は、例えばエポキシ樹脂である。また、区画部材1及びケース部材2は、各種プラスチックなどの樹脂材料により形成されている。ベースプレート9は、例えばアルミニウムにより形成されている。
【0021】
放熱フィン91は、ベースプレート9の一方の面(図示下面側)に対してほぼ垂直に設けられた、所定の厚さの複数の板状部によって形成されている。ベースプレート9の他方の面(図示上面側)には、絶縁性の樹脂シート8が貼り付けられる。樹脂シート8は、電気的絶縁性、熱伝導性、接着性を備える樹脂素材により形成されている。樹脂シート8は、例えば、エポキシとアルミナフィラーとの混合材料に形成されており、その厚みは150〜200μm程度である。樹脂シート8の上に、IGBTモジュール10と区画部材1とが配置され、半導体素子4に応力が掛からないように、素子基板7と区画部材1とがほぼ均等な圧力でほぼ同時にベースプレート9に押しつけられる。例えば、素子基板7の載置面Aと、区画部材1の上面Cとに接触する治具によりベースプレート9に押しつけられ、押圧力により素子基板7の接着面Bと区画部材1の接着面Dとが、ベースプレート9に接着される。
【0022】
ベースプレート9の基準面Rに当接したケース部材2は、基準面Rに沿って複数の素子基板7(素子基板アッセンブリ)の周囲を囲んでいる。つまり、ベースプレート9の基準面Rを底部とし、基準面Rに当接するケース部材2を周壁部として、ケース内空間が形成される。本実施形態では、このケース内空間の中に区画部材1が備えられ、区画部材1によって、ケース内空間が複数のモールド空間11に分割される。図3及び図4に示すように、区画部材1は、区画壁12を有して構成されており、この区画壁12によってケース内空間が複数のモールド空間11に区画される。
【0023】
各モールド空間11は、ベースプレート9の基準面Rあるいは基準面R上に貼られた樹脂シート8を底部とし、区画壁12を周壁部として形成される。そして、各モールド空間11には、少なくとも1つのIGBTモジュール10が収容されている。モールド樹脂3は、各モールド空間11において、それぞれのモールド空間11に収容された素子基板7及び当該素子基板7に搭載された半導体素子4を覆う高さまで充填される。この際、電極部材6は、不図示のバスバーとの接続を確保するために、完全に覆われることなく、電極上面を露出する形態で封入される。また、充填されるモールド樹脂3が各モールド空間11から溢れ出ることがないように、区画壁12はモールド樹脂3の充填高さよりも高くなるように構成されている。
【0024】
図4(b)に示すように、樹脂シート8の厚みを樹脂シート厚H1とし、素子基板7の厚みを基板厚H2とし、半導体素子4の厚みをチップ厚H3とする。モールド樹脂3の充填高さH5は、樹脂シート厚H1と基板厚H2とチップ厚H3との和H4よりも大きい値となるように設定されている。一方、基準面Rから電極部材6の上面までの高さである電極上面高さH6は、モールド樹脂3が充填された後も、電極上面を露出させるために、充填高さH5よりも大きい。また、区画壁12の基準面Rからの高さである区画壁高さH7は、上述したように、モールド樹脂3が各モールド空間11から溢れ出ることがないように、充填高さH5よりも高く設定されている。尚、区画壁高さH7と電極上面高さH6とは何れの方が高くてもよいが、不図示のバスバーによる配線を容易にする上では、区画壁高さH7よりも電極上面高さH6の方が大きいほうが好ましい。
【0025】
尚、本実施形態では、図4(a)に示すように、1つのモールド空間11に1つの素子基板7(素子基板アッセンブリ、IGBTモジュール10)が収容されている。換言すれば、区画部材1は、複数のモールド空間11のそれぞれに1つの素子基板7を収容するように形成されている。区画部材1を用いて、ケース内空間が複数のモールド空間11に分割して区画されることにより、各モールド空間11の体積や、基準面Rに直交する方向に見た基準面視における平面形状の面積は、ケース内空間に比べて小さくなる。さらに、1つのモールド空間11に1つの素子基板7が収容されていると、基準面視における平面形状が各素子基板7に応じた大きさとなり、モールド空間11の体積も各素子基板7に応じた大きさとなる。このように構成すれば、溶融した状態でモールド空間11に充填されたモールド樹脂3が固まる際に、粘性の違いによって生じる応力が作用する範囲は区画部材1によって分断された各モールド空間11の中に留まる。従って、モールド樹脂3の粘性の違いによって生じる応力が抑制される。
【0026】
図5は、区画部材1を用いて複数のモールド空間11に区画することなく、ケース内空間にモールド樹脂3を充填した場合の模式的な応力F2を破線で示している。図4には、1つのモールド空間11における模式的な応力F1を破線で示している。図4及び図5の比較により明らかなように、モールド樹脂3が流動可能な範囲が、ケース内空間に比べて狭いモールド空間11では、モールド樹脂3の膨張や収縮に伴う応力F1が、ケース内空間全体において生じる応力F2に比べて小さくなる。その結果、複数の半導体素子4を有して構成される回路をモールド樹脂3により一体化するに際し、モールド樹脂3の膨張収縮に応じて半導体素子4に作用する応力の影響を抑制することが可能となる。
【0027】
さらに本実施形態においては、素子基板7の外形がほぼ矩形であり、区画部材1によって区画されるモールド空間11の基準面視の平面形状も矩形である。具体的には、基準面視における素子基板7とモールド空間11との平面形状は、同方向且つモールド空間11の平面形状の方が大きい相似形状である。図2に示すように、素子基板7の外形は、角部は面取りされているが、ほぼX7:Y7の比率の長方形である。また、図4に示すように、モールド空間11の平面形状は、ほぼX1:Y1の比率の長方形である。素子基板7の外形と、モールド空間11の平面形状は、「X7:Y7≒X1:Y1」を満たす相似形状である。また、それぞれ、「X7<X1,Y7<Y1」を満たし、素子基板7の外形に比べて、モールド空間11の平面形状の方が大きい。そして、それぞれの素子基板7は、それぞれのモールド空間11の中央に配置されている。モールド空間11に充填されたモールド樹脂3は、区画部材1と接する周辺部から硬化し、モールド空間11の重心近くが最も遅く硬化する。従って、基準面視における素子基板7の重心と、モールド空間11との重心とが近くになるように、モールド空間11のほぼ中央に素子基板7が配置されるとよい。
【0028】
また、本実施形態においては、区画部材1の区画壁12と素子基板7との隙間G1が、樹脂シート8の厚さ(樹脂シート厚H1)以下となるように、モールド空間11が形成されると共にその中に素子基板7が配置される。上述したように、半導体素子4を搭載した素子基板7と区画部材1とは、樹脂シート8を介してベースプレート9に対して押圧されることによって基準面Rに接着される。この際、図6及び図7に中抜き矢印で示すような基準面Rに対して直交する方向からの押圧力によって、樹脂シート8には基準面Rに沿った力も働くことになる。この力によって、素子基板7の端部や区画部材1の端部において、樹脂シート8にボイド(空隙)80が生じる可能性がある。図7に示すように、素子基板7の端部においてボイド80が生じると、その部分において樹脂シート8が薄くなる。よって、多くの場合熱伝導性のよい金属によって構成されるベースプレート9と、素子基板7との間の絶縁性が低下してしまう。
【0029】
一方、区画壁12と素子基板7との隙間G1が樹脂シート厚H1以下であると、図6に示すように、素子基板7の端部においては、樹脂シート8にボイド80が生じにくくなる。ボイド80は、基準面Rに沿った力が開放される区画壁12の端部において生じることになる。上述したように、樹脂シート厚は150〜200μmであり、極薄である。このため、モールド空間11の外側において区画壁12の端部に生じるボイド80と素子基板7との間には、樹脂シート8よりも遙かに厚みのある区画壁12が存在することになる。従って、区画壁12と素子基板7との隙間G1を樹脂シート厚H1以下とすると、ボイド80による絶縁性の低下が抑制される。あるいは、樹脂シート8の材料特性と押圧力とからボイド80の大きさを想定し、ボイド80を形成できない、あるいはボイド80を維持できない程度の隙間G1を設定してもよい。
【0030】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態においては、図8に代表されるように、基準面Rに沿って素子基板7を囲む外周壁15と、外周壁15の間を結ぶ仕切り壁17とによって区画壁12が構成される例を用いて説明した。しかし、区画壁12の形状は、この形態に限定されるものではない。例えば、図9に示すように、ケース部材2を外周壁15として利用し、区画部材1は、仕切り壁17のみを区画壁12として構成されていてもよい。
【0031】
(2)上記実施形態においては、ケース内空間の中に区画部材1が備えられ、区画部材1によって、ケース内空間が複数のモールド空間11に分割される例を示した。つまり、ベースプレート9の基準面Rに沿って複数の素子基板7の周囲を周壁部として囲み、基準面Rを底部としてケース内空間を形成するケース部材2と、ケース内空間を区画する区画部材1との2つの部材を有するインバータユニット(半導体装置)100を例示した。しかし、区画部材1の外周壁15は、別実施形態(1)において例示したように、ケース部材2を利用することも可能である。従って、図10に示すように、ケース部材2と区画部材1とが一体化して形成されて、1つの部材によってケース内空間及びモールド空間11が形成されてもよい。
【0032】
(3)上記、各実施形態においては、1つのモールド空間11に1つの素子基板7が収容される場合を例示した。しかし、モールド空間11は、少なくとも1つの素子基板7を収容し、且つケース内空間よりも狭い空間であればよい。ケース内空間よりも狭い空間に対してモールド樹脂3を充填することによって、モールド樹脂3の硬化や、硬化後の膨張収縮による応力は抑制される。従って、例えば、図11に示すように、1つのモールド空間11に2つの素子基板7が収容されるように、区画部材1が形成されていてもよい。尚、図視は省略するが、当然ながら、1つのモールド空間11に3つ以上の素子基板7が収容されていてもよい。また。各モールド空間11に同じ数の素子基板7が収容される必要もなく、モールド空間11ごとに異なる数の素子基板7が収容されていてもよい。
【0033】
(4)上記、各実施形態においては、素子基板7が接着性及び絶縁性を有する樹脂シート8を介してベースプレート9に接着される例を用いて説明した。しかし、素子基板7は、必ずしも樹脂シート8を介して接着される必要はない。素子基板7が電気的絶縁性を有するセラミック基板などの絶縁基板で構成されている場合には、接着剤によりベースプレート9に接着されてもよい。また、そのような絶縁基板により構成された素子基板7の裏面(ベースプレート9の側)に銅箔等のランドを設け、当該ランドとベースプレート9とを半田付け等によって接着(接合・溶接)してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ヒートシンク上に半導体素子を実装した複数の素子基板を搭載し、これらの素子基板を囲むケース部材の内側にモールド樹脂が充填される半導体装置に適用することができる。例えば、本発明は、半導体としてスイッチング素子や整流素子を備えたインバータやコンバータ、整流回路に適用することができる。また、半導体として、各種コンピュータシステムの中核となるプロセッサを備えた大規模高速演算回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 :区画部材
2 :ケース部材
3 :モールド樹脂
4 :半導体素子
7 :素子基板
8 :樹脂シート(シート状部材)
9 :ベースプレート
10 :IGBTモジュール、素子基板アッセンブリ
11 :モールド空間
12 :区画壁
15 :外周壁(区画壁)
17 :仕切り壁(区画壁)
41 :スイッチング素子(半導体素子)
42 :フリーホイールダイオード(半導体素子)
100 :インバータユニット(半導体装置)
G1 :隙間
H1 :樹脂シート厚
R :基準面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシンクとなるベースプレートと、
一方の面が半導体素子を載置する載置面であり、他方の面が前記ベースプレートの基準面に接着される接着面である複数の素子基板と、
前記基準面に当接すると共に前記基準面に沿って複数の前記素子基板の周囲を囲むケース部材と、を備え、
前記基準面を底部とし前記ケース部材を周壁部として形成されるケース内空間に、前記素子基板と前記半導体素子とを覆う高さまでモールド樹脂が充填される半導体装置であって、
前記ケース内空間を区画壁によって複数のモールド空間に区画する区画部材を備え、
前記区画壁は、前記基準面に当接すると共に前記基準面からの高さが前記モールド樹脂の充填高さよりも高くなるように構成され、
前記複数のモールド空間のそれぞれに少なくとも1つの前記素子基板が収容されている半導体装置。
【請求項2】
前記区画部材は、複数の前記モールド空間のそれぞれに1つの前記素子基板を収容するように形成されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記基準面に直交する方向に見た基準面視における前記素子基板と前記モールド空間との平面形状は、同方向且つ前記モールド空間の方が大きい相似形状であり、それぞれの前記素子基板は、それぞれの前記モールド空間の中央に配置されている請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基準面と前記素子基板との間に、熱と押圧力とによって両者を接着するシート状部材を備え、前記区画部材は、前記区画壁と前記素子基板との隙間が前記シート状部材の厚さ以下となるように形成されている請求項2又は3に記載の半導体装置。
【請求項1】
ヒートシンクとなるベースプレートと、
一方の面が半導体素子を載置する載置面であり、他方の面が前記ベースプレートの基準面に接着される接着面である複数の素子基板と、
前記基準面に当接すると共に前記基準面に沿って複数の前記素子基板の周囲を囲むケース部材と、を備え、
前記基準面を底部とし前記ケース部材を周壁部として形成されるケース内空間に、前記素子基板と前記半導体素子とを覆う高さまでモールド樹脂が充填される半導体装置であって、
前記ケース内空間を区画壁によって複数のモールド空間に区画する区画部材を備え、
前記区画壁は、前記基準面に当接すると共に前記基準面からの高さが前記モールド樹脂の充填高さよりも高くなるように構成され、
前記複数のモールド空間のそれぞれに少なくとも1つの前記素子基板が収容されている半導体装置。
【請求項2】
前記区画部材は、複数の前記モールド空間のそれぞれに1つの前記素子基板を収容するように形成されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記基準面に直交する方向に見た基準面視における前記素子基板と前記モールド空間との平面形状は、同方向且つ前記モールド空間の方が大きい相似形状であり、それぞれの前記素子基板は、それぞれの前記モールド空間の中央に配置されている請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基準面と前記素子基板との間に、熱と押圧力とによって両者を接着するシート状部材を備え、前記区画部材は、前記区画壁と前記素子基板との隙間が前記シート状部材の厚さ以下となるように形成されている請求項2又は3に記載の半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−151342(P2012−151342A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9760(P2011−9760)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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