印刷制御装置および印刷装置
【課題】シートの波状の変形に起因する印刷済み画像のムラを抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】仮に、入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、入力画像データを利用する補正処理を実行して補正済画像データを生成する。
【解決手段】仮に、入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、入力画像データを利用する補正処理を実行して補正済画像データを生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷のための画像処理に関し、特に、印刷時にシートが変形された状態で搬送される場合の画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
インクドットを記録媒体(例えば、紙)に形成する印刷が知られている。このような印刷では、記録媒体が、インクドットの形成に起因して、プラテンから記録ヘッド方向へ浮く場合がある。例えば、記録媒体が、丸まってしまい、プラテンから記録ヘッド方向へ浮く場合がある。高品位な印刷結果を得るために、このような記録媒体の浮きを抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、記録媒体を波打ち形状にすることによって、記録媒体を記録ヘッド方向に浮かなくする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−138923号公報
【特許文献2】特開2004−106978号公報
【特許文献3】特開2007−59972号公報
【特許文献4】特開平07−285251号公報
【特許文献5】特開2001−261188号公報
【特許文献6】特開2004−122609号公報
【特許文献7】特開2003−040507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、記録媒体(シートとも呼ぶ)を波状に変形させた状態で搬送する場合には、印刷ヘッドとシートとの間の距離が、シート上の位置に依存して異なり得る。この結果、シートの波状の変形に起因して、印刷済み画像にムラが生じる可能性があった。
【0005】
本発明の主な利点は、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像のムラを抑制することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]第1方向に沿って前記シートを波状に変形させた状態で、前記シートを前記第1方向と交差する第2方向に搬送するシート搬送部と、液滴を吐出する複数のノズルを有する印刷ヘッドと、前記第1方向と平行に前記印刷ヘッドを移動させるヘッド移動部と、前記印刷ヘッドの移動中に前記印刷ヘッドを駆動することによって前記波状に変形したシートに向かって前記液滴を吐出させる印刷ヘッド駆動部と、を含む印刷実行部に、印刷を実行させる印刷制御装置であって、補正処理を実行することによって、入力画像データから補正済画像データを生成する処理を実行する補正済データ生成部と、前記補正済画像データを前記印刷実行部に供給する補正済データ供給部と、を備え、前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、前記シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して前記補正済画像データを生成する処理を含み、前記複数の第1種領域と前記複数の第2種領域とは前記第2方向に沿って延びる領域であり、前記各第1種領域と前記各第2種領域とは前記第1方向に沿って交互に並んでいる、印刷制御装置。
【0008】
この構成によれば、仮に、入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像との間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、入力画像データを利用する補正処理が実行されて補正済画像データが生成される。このため、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができ、この結果、粒状性ムラを抑制することができる。
【0009】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、印刷制御方法および印刷制御装置、印刷方法および印刷装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体(例えば、一時的ではない記録媒体)、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としての印刷装置600のブロック図である。
【図2】印刷装置600の説明図である。
【図3】液滴D1、D2の着弾位置を示す説明図である。
【図4】粒状性ムラの例を示す概略図である。
【図5】印刷処理のフローチャートである。
【図6】ハーフトーン処理の概略図である。
【図7】ハーフトーン処理のフローチャートである。
【図8】乱数値RNDを利用する補正処理の説明図である。
【図9】ドット形成状態の決定例を示す。
【図10】印刷処理における粒状性の変化例を示す概略図である。
【図11】第2実施例におけるハーフトーン処理の概略図である。
【図12】第2実施例におけるハーフトーン処理のフローチャートである。
【図13】第2実施例におけるハーフトーン処理の説明図である。
【図14】ドット形成状態の総数が2である場合のドット形成状態の決定例を示す。
【図15】基準ギャップの別の実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1実施例:
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、本発明の一実施例としての印刷装置600のブロック図である。この印刷装置600は、制御装置100と、印刷実行部200と、を含む。
【0012】
制御装置100は、印刷装置600の動作を制御するコンピュータである。制御装置100は、CPU110と、DRAM等の揮発性メモリ120と、EEPROM等の不揮発性メモリ130と、タッチパネル等の操作部170と、液晶ディスプレイ等の表示部180と、外部装置との通信のためのインタフェースである通信部190と、を備える。通信部190は、例えば、いわゆるUSBインタフェース、または、IEEE802.3に準拠したインタフェースであってよい。
【0013】
不揮発性メモリ130は、プログラム132と、補正用データ134aと、マトリクス136と、を格納している。CPU110は、プログラム132を実行することによって、プリンタドライバM100の機能を含む種々の機能を実現する。プリンタドライバM100は、印刷対象の画像データ(「対象画像データ」とも呼ぶ)を利用して、印刷実行部200に印刷を実行させる。対象画像データは、例えば、外部装置(例えば、コンピュータまたはUSBフラッシュメモリ)から印刷装置600に供給された画像データである。
【0014】
本実施例では、プリンタドライバM100は、補正済データ生成部M104と、補正済データ供給部M106と、を含む。補正済データ生成部M104は、補正用データ134aを利用して補正処理を実行することによって、対象画像データから補正済の印刷データ(「補正済画像データ」とも呼ぶ)を生成する。補正済データ供給部M106は、補正済画像データを印刷実行部200に供給する。印刷実行部200は、受信した補正済画像データに従って、印刷を実行する。
【0015】
印刷実行部200は、インクの液滴をシート(印刷媒体)に向かって吐出することによって、シート上にドットを形成する。印刷済画像は、ドットのパターンによって表される。印刷実行部200は、制御回路210と、印刷ヘッド250と、ヘッド移動部240と、シート搬送部260と、を含む。印刷ヘッド250の底面には、インクの液滴を吐出する複数のノズルが設けられている(図示省略)。本実施例では、印刷ヘッド250は、シアンとマゼンタとイエロとブラックとの4種類のインクを吐出可能である。シート搬送部260は、シートを、所定の搬送方向に搬送する。ヘッド移動部240は、印刷ヘッド250を、搬送方向と直交する方向に移動させる。印刷ヘッド250が、シートと対向する位置を移動しつつインクの液滴をシートに向かって吐出する動作と、シート搬送部260が、シートを搬送する動作と、の繰り返しによって、画像の印刷が進行する。制御回路210は、ヘッド移動部240を制御する移動制御部212と、印刷ヘッド250を制御するヘッド駆動部214と、シート搬送部260を制御する搬送制御部216と、を含む。制御回路210は、制御装置100からの補正済画像データ(印刷データ)に従ってヘッド移動部240と、印刷ヘッド250と、シート搬送部260と、を制御する。
【0016】
図2(A)は、印刷装置600の斜視図を示す。図中には、3つの方向Dx、Dy、Dzが示されている。2つの方向Dx、Dyは、それぞれ、水平な方向であり、Dz方向は、鉛直上方向である。Dy方向は、Dx方向と直交する方向である。Dy方向は、印刷ヘッド250の移動方向と平行である(以下、Dy方向を「第1方向Dy」とも呼ぶ)。Dx方向は、シート300の搬送方向と同じである(以下、Dx方向を「搬送方向Dx」または「第2方向Dx」とも呼ぶ)。以下、Dx方向を「+Dx方向」とも呼び、Dx方向の反対方向を「−Dx方向」とも呼ぶ。+Dy方向、−Dy方向、+Dz方向、−Dz方向についても、同様である。
【0017】
シート搬送部260は、搬送モータ263と、第1ローラ261と、第2ローラ262と、シート台265と、押圧部269と、を含む。シート台265は、シート300を、下面から、おおよそ水平に、支持する。2つのローラ261、262は、シート台265の上面と対向する位置に、配置されている。第1ローラ261は、シート台265の−Dx方向側の部分と対向し、第2ローラ262は、シート台265の+Dx方向側の部分と対向する。各ローラ261、262は、Dy方向と平行なローラであり、搬送モータ263によって、回転駆動される。シート300は、ローラ261、262とシート台265との間に挟持され、回転するローラ261、262によって搬送方向Dxに搬送される。
【0018】
本実施例では、印刷装置600が、特定サイズの長方形シート(例えば、A4サイズの紙)に印刷を行う場合には、長方形シートの短辺が搬送方向Dxと平行であり、長辺が第1方向Dyと平行となるように、シートが配置される。この結果、シートの長辺が搬送方向Dxと平行である場合と比べて、印刷装置600の搬送方向Dxのサイズを小さくすることができる。
【0019】
ヘッド移動部240は、移動モータ242と、支持軸244と、を含む。支持軸244は、第1ローラ261と第2ローラ262との間に配置され、第1方向Dyと平行に延びる。支持軸244は、印刷ヘッド250を、支持軸244に沿ってスライド可能に、支持する。移動モータ242は、図示しないベルトによって印刷ヘッド250に接続されている。移動モータ242は、印刷ヘッド250を、第1方向Dyと平行に、移動させる。本実施例では、ヘッド駆動部214(図1)は、印刷ヘッド250が第1方向Dyに移動する最中と、印刷ヘッド250が第1方向Dyの反対方向(−Dy方向)に移動する最中と、のそれぞれにおいて、印刷ヘッド250を駆動して液滴を吐出させる(双方向印刷)。
【0020】
図2(B)は、ヘッド移動部240とシート搬送部260との拡大斜視図を示す。図中では、シート台265の搬送方向Dxと垂直な断面(2つのローラ261、ローラ262の間の位置の断面)も示されている。図示するように、シート台265は、複数の低支持部265aと、複数の高支持部265bと、を含む。高支持部265bは、低支持部265aと比べて、高い位置でシート300を支持する。低支持部265aと高支持部265bとは、第1方向Dyに沿って交互に並んで配置されている。図2(C)は、高支持部265bの断面図を示し、図2(D)は、低支持部265aの断面図を示す。図2(C)、図2(D)は、いずれも、搬送方向Dxと鉛直上方向Dzとに平行な断面を示す。
【0021】
図2(C)に示すように、高支持部265bは、−Dx方向側から+Dx方向側に並んで配置された5つの部分265b1〜265b5を含む。第1部分265b1は、第1ローラ261と対向する部分であり、第3部分265b3は、印刷ヘッド250(複数のノズル250n)と対向する部分であり、第5部分265b5は、第2ローラ262と対向する部分である。これら3つの部分265b1、265b3、265b5は、それぞれ、同じ高さの上面を有し、シート300を下面から支持する(以下、これらの部分の上面の高さを「基準高さSH」と呼ぶ)。残りの2つの部分265b2、265b4は、基準高さSHよりも下方に凹んでおり、シート300から離れている。なお、図示するように、印刷ヘッド250には、搬送方向Dxの位置が互いに異なる複数のノズル250nが設けられている。本実施例では、CMYKのインク毎に、そのような複数のノズル250nが設けられている。
【0022】
図2(D)に示すように、低支持部265aは、−Dx方向側から+Dx方向側に並んで配置された5つの部分265a1〜265a5を含む。第1部分265a1と第5部分265a5とは、図2(C)の第1部分265b1と第5部分265b5と、それぞれ同じである。第3部分265a3は、図2(C)の第3部分265b3と同様に、印刷ヘッド250(複数のノズル250n)と対向する。ただし、第3部分265a3の上面の高さは、基準高さSHよりも低い。また、第3部分265a3の上面は、−Dx側から+Dx側へ向けて斜め上方向に傾斜している(第2ローラ262に近いほど、高い)。残りの2つの部分265a2、265a4は、基準高さSHよりも下方に凹んでおり、シート300から離れている。
【0023】
第2部分265a2の上方には、押圧部269が配置されている。押圧部269は、第1部分265a1の上面と対向する位置から、搬送方向Dx側に向けて、斜め下方向に傾斜して延びる。押圧部269の搬送方向Dx側の端の高さは、基準高さSHよりも低い。第1ローラ261と第1部分265a1との間から送り出されたシート300は、押圧部269によって曲げられて、基準高さSHよりも下方に送られる。押圧部269の搬送方向Dx側では、シート300は、第3部分265a3に下面を支持されて、徐々に基準高さSHに近づく。ただし、印刷ヘッド250(複数のノズル250n)と対向する位置では、シート300の高さは、基準高さSHよりも低い。第3部分265a3の搬送方向Dx側では、シート300は、第2ローラ262と第5部分265a5とに挟まれる。
【0024】
図2(B)に示すように、本実施例では、押圧部269および低支持部265aと、高支持部265bと、が第1方向Dyに沿って交互に並ぶ。これにより、シート搬送部260は、第1ローラ261と第2ローラ262との間で搬送方向Dxと交差する第1方向Dyに沿って波状に変形させた状態で、シート300を搬送方向Dxに搬送する。シート300を波状に変形させる理由は、シート300が丸まることに起因してシート300がシート台265から印刷ヘッド250側へ浮き上がることを抑制するためである。シート300が変形せずに平らなまま搬送されると仮定すると、ノズル250nからインクの液滴を受けたシートが、図2(C)の符号302で示すように意図せずに変形する可能性がある。このような意図しない変形は、印刷不良を引き起こし得る。特に、本実施例では、長方形シートの短辺が搬送方向Dxと平行であり、長辺が第1方向Dyと平行である。この場合には、長辺が搬送方向Dxと平行である場合と比べて、意図しない変形が生じる可能性が高い。そこで、本実施例の印刷装置600は、搬送方向Dxと交差する第1方向Dyに沿って波状にシート300を変形させることによって、意図しない変形を抑制する。
【0025】
図3は、印刷ヘッド250から吐出された液滴D1、D2の、シート上の着弾位置(第1方向Dyの位置)を示す。第1液滴D1は、+Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴を示し、第2液滴D2は、−Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴を示す。また、図3(A)は、変形せずに平らなシート300f(以下、「基準シート300f」とも呼ぶ)に印刷を行う仮想的な場合を示し、図3(B)は、波状に変形した実施例のシート300に印刷を行う場合を示す。
【0026】
ノズル250nは、鉛直下方に向けて、液滴D1、D2を吐出する。また、ノズル250nは、液滴D1、D2の吐出時に、シート300、300fの上方で、水平に移動する。従って、シート300、300fから見ると、液滴D1、D2は、印刷ヘッド250の移動方向に向かって、斜めに飛ぶ。図3(A)に示すように、同じ目標位置Py1にドットを形成するためには、+Dy方向に移動する印刷ヘッド250は、目標位置Py1よりも−Dy方向側の位置で第1液滴D1を吐出し、−Dy方向に移動する印刷ヘッド250は、目標位置Py1よりも+Dy方向側の位置で第2液滴D2を吐出する。このように、液滴D1、D2の吐出タイミングが調整される。
【0027】
図3(A)中のギャップGPsは、ノズル面npと基準シート300fとの間のギャップを示す。ここで、ノズル面npは、複数のノズル250nの位置を含む平面であり、移動するノズル250nが通過し得る位置を含む平面である。本実施例では、ノズル面npは、おおよそ水平な平面である。ギャップは、ノズル面npと垂直に測定した、ノズル面npとシートとの間の距離である。以下、基準シート300fのギャップGPsを、基準ギャップGPsとも呼ぶ。
【0028】
図3(B)に示すように、実際に利用されるシート300は、第1方向Dyに沿って波状に変形している。本実施例では、シート300における最も高い部分(高支持部265bに支持される部分)のギャップが、基準ギャップGPsと同じである。以下、基準シート300fに相当する平面300sを「基準面300s」と呼ぶ。基準面300sの高さは、図2(C)、図2(D)の基準高さSHと同じである。
【0029】
図示するように、シート300上の領域は、第1方向Dyに沿って交互に並ぶ第1種領域A1と第2種領域A2とに区分される。第1種領域A1は、押圧部269によって押さえられる部分を含む領域である。第2種領域A2は、高支持部265bによって支持される部分を含む領域である。
【0030】
本実施例においても、ノズル250nから基準ギャップGPsだけ離れた平らな基準面300sに印刷することを想定して、液滴D1、D2の吐出タイミングが調整される。図3(B)には、図3(A)と同じ目標位置Py1にドットを形成するために吐出された液滴D1、D2が示されている。基準面300sから遠い第1種領域A1に印刷を行う場合には、液滴D1、D2の着弾位置は、目標位置Py1からズレてしまう。第1液滴D1の着弾位置は、目標位置Py1から印刷ヘッド250の移動方向側(+Dy方向側)にズレた位置であり、第2液滴D2の着弾位置は、目標位置Py1から印刷ヘッド250の移動方向側(−Dy方向側)にズレた位置である。このようなドットの位置ズレは、ノズル面npとシート300との間のギャップと、基準ギャップGPsと、の間の差が大きいほど、大きい。
【0031】
一般に、画像を印刷するために、互いに離れた複数のドットが形成される。ここで、ギャップと基準ギャップGPsとの差が大きい場合には、ドットの位置ズレに起因して、一部のドットが他のドットに近づく場合があり、さらに、一部のドットが他のドットと繋がる場合がある。この結果、ドットの位置ズレが無い場合と比べて、印刷済画像が粗く見える場合がある(印刷済画像を表す粒(ドット)のパターンが粗く見える場合がある)。このような粒状性の変化は、基準面300sに近い第2種領域A2と比べて、基準面300sから遠い第1種領域A1の方が、大きい。印刷済画像の観察者は、第1種領域A1と第2種領域A2との間の粒状性の差を、粒状性ムラとして、認識する。
【0032】
図4は、粒状性ムラの例を示す概略図である。図4(A)は、対象画像データId(印刷対象の画像データ)を示す。対象画像データIdは、階調値の均一な画像Idiを表す。図4(B)は、対象画像データIdを、補正せずに、波状に変形したシート上に印刷して得られる、印刷済画像Ipを示す。図示するように、第1種領域A1と第2種領域A2との間で、粒状性ムラが生じる。このような粒状性ムラを抑制するために、印刷装置600(図1)は、印刷のための画像処理において、補正用データ134aを利用した画像補正を行う。
【0033】
なお、第1種領域A1と第2種領域A2とは、ノズル面np(図3(B))から、押圧部269の最も低い部分と高支持部265bの上面との間の位置までのギャップ(「ギャップ閾値GPth」と呼ぶ)を用いて、区別することができる。すなわち、第1種領域A1は、ギャップがギャップ閾値GPth以上の範囲内にある領域である。第2種領域A2は、ギャップがギャップ閾値GPth未満の範囲内にある領域である。ギャップ閾値GPthは、例えば、押圧部269の最も低い部分と高支持部265bの上面との間の中間の高さに相当するギャップであり得る。
【0034】
次に、補正用データ134aを利用した印刷について説明する。図5は、印刷装置600(図1)によって実行される印刷処理のフローチャートである。プリンタドライバM100は、ユーザの指示(例えば、ユーザによる操作部170の操作や、通信部190に接続されたコンピュータ(図示せず)からのコマンド)に応じて、印刷処理を開始する。プリンタドライバM100は、印刷対象の対象画像データを、通信部190に接続された外部装置から取得する。
【0035】
最初のステップS200では、補正済データ生成部M104(図1)は、対象画像データを、ビットマップデータに変換する(ラスタライズ処理)。ビットマップデータに含まれる画素データは、例えば、赤(R)と緑(G)と青(B)の3つの色成分の階調値(例えば、0〜255の256階調)で画素の色を表すRGB画素データである。また、ビットマップデータの画素密度は、印刷解像度(ドットの最高密度)と同じである。
【0036】
次のステップS210では、補正済データ生成部M104(図1)は、ビットマップデータに含まれるRGB画素データを、シアンとマゼンタとイエロとブラックとの4つの色成分の階調値(ドット形成状態の総数(本実施例では、4値)よりも多い階調数。例えば、0〜255の256階調)で画素の色を表すCMYK画素データに変換する(色変換処理)。色変換処理は、RGB画素データとCMYK画素データとを対応付けるルックアップテーブルを用いて行われる。
【0037】
次のステップS220では、補正済データ生成部M104(図1)は、CMYK画素データを含むビットマップデータを、各画素毎のドットの形成状態を表すドットデータに変換する(ハーフトーン処理)。本実施例では、補正済データ生成部M104は、マトリクス136を利用した誤差拡散法に従って、ドットデータを生成する。このステップS220の詳細については、後述する。
【0038】
次のステップS230では、補正済データ生成部M104(図1)は、ドットデータから印刷データを生成する。印刷データは、印刷実行部200によって解釈可能なデータ形式で表されたデータである。本実施例では、補正済データ生成部M104は、いわゆる双方向印刷を実行するように、印刷データを生成する。
【0039】
次のステップS240では、補正済データ供給部M106は、印刷データを印刷実行部200に供給する。印刷実行部200は、受信した印刷データに従って、画像を印刷する。
【0040】
図6は、ハーフトーン処理の概略図であり、図7は、ハーフトーン処理のフローチャートである。以下、図7のフローチャートに沿って、説明を行う。図7の処理は、インク色毎、かつ、画素毎に、実行される。この処理によって、画素毎のドット形成状態が決定される。本実施例では、ドット形成状態は、互いにインク量(すなわち、ドットのサイズ(ドットによって表現される濃度))の異なる以下の4つの状態の中から決定される。
A)大ドット
B)中ドット(中ドットの濃度<大ドットの濃度)
C)小ドット(小ドットの濃度<中ドットの濃度)
D)ドット無し
【0041】
最初のステップS504では、補正済データ生成部M104(図1)は、マトリクス136(図1)と、誤差バッファEB(図6)と、を用いて、処理対象の画素(注目画素)の誤差値Etを算出する。後述するように、誤差バッファEBは、各画素における濃度誤差(階調の誤差値)を格納している。誤差バッファEBは、揮発性メモリ120(図1)に、設けられている。マトリクス136は、注目画素の周辺の所定の相対位置に配置された画素に、ゼロより大きい重みを割り当てている。図6のマトリクス136では、記号「+」が注目画素を表し、周辺の画素に重みa〜mが割り当てられている。重みa〜mの合計は1である。補正済データ生成部M104は、この重みに従って、周辺の画素の誤差値の重み付き和を、注目画素の誤差値Etとして算出する。
【0042】
次のステップS506では、補正済データ生成部M104は、誤差値Etと、注目画素の階調値(以下、入力階調値Vinとも呼ぶ。例えば、シアンの階調値)との和を、第1階調値Vaとして算出する。なお、図6に示すマトリクス136は、−Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合のマトリクスである。+Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合には、注目画素を中心に第1方向Dyの相対位置を反転させたマトリクスが利用される。
【0043】
次のステップS508では、補正済データ生成部M104は、補正用データ134aを参照し、注目画素の第1方向Dyの位置に応じて、乱数値RNDを生成する。図8(A)は、補正用データ134a(以下、「振幅係数データ134a」と呼ぶ)を示すグラフである。横軸は第1方向Dyの位置Pyを示し、縦軸は振幅係数Amcを示す。後述するように、振幅係数Amcは、乱数値RNDを生成する場合の、乱数値RNDの取り得る値の範囲(以下、乱数値RNDの定義域と呼ぶ)の大きさを表す係数である(振幅係数Amcが大きいほど、定義域が大きくなる)。
【0044】
図8(A)に示すように、本実施例では、押圧部269の位置Pya1〜Pya6では、振幅係数Amcは「0」に設定され、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7では、振幅係数Amcは「1」に設定される。すなわち、ギャップが、図3の基準面300sのギャップ(基準ギャップGPs)と同じである位置Pyでは、振幅係数Amcは、「1」である。他の位置Pyでは、振幅係数Amcは、線形補間によって決定される。振幅係数データ134aは、各位置Pya1〜Pya6、Pyb1〜Pyb7の振幅係数Amcを表すテーブルデータである。
【0045】
なお、他の位置Pyの振幅係数Amcは、線形補間に限らず、他の種々の補間(例えば、スプライン関数や正弦関数を用いた補間)によって決定されてもよく、また、変形したシートの実際の形状に応じて決定されてもよい。一般的には、振幅係数データ134aとしては、第1方向Dyの印刷位置が第1種領域A1内にある場合と第2種領域A2内にある場合とで補正量(粒状性の変化量)が異なるように、補正量の印刷位置依存性を規定するデータを採用可能である。ここで、振幅係数データ134aは、第2種領域A2において、第1種領域A1と比べて、印刷済画像が相対的に粗くなるような補正量を規定することが好ましい。また、振幅係数データ134aは、振幅係数Amcと位置Pyとの関係を定める他の任意の形式のデータであってよい(例えば、振幅係数Amcと位置Pyとの関係を定めるルックアップテーブル)。なお、振幅係数データ134aは、予め決められている。
【0046】
図8(B)は、振幅係数Amcと、乱数値RNDの定義域RRと、の関係を示すグラフである。横軸は、振幅係数Amcを示し、縦軸は、乱数値RNDを示す。下限RNDLと上限RNDHとは、それぞれ、乱数値RNDの定義域RRの下限と上限とを、示す。図中では、定義域RRにハッチングが付されている。本実施例では、下限RNDLは、「0.0」に固定されている。上限RNDH(>下限RNDL)は、振幅係数Amcと正比例である。従って、定義域RRの幅RNDWは、振幅係数Amcが大きいほど、広い。本実施例では、振幅係数Amcが「0」の場合に上限RNDHは85であり、振幅係数Amcが「1」の場合に上限RNDHは175である。
【0047】
図8(C)は、定義域RRの位置依存性を示すグラフである。横軸は、第1方向Dyの位置Pyを示し、縦軸は、乱数値RNDを示す。図中では、定義域RRにハッチングが付されている。上述したように、振幅係数Amcは、第1方向Dyの位置Pyに応じて変化するので、定義域RRも、位置Pyに応じて変化する。図示するように、押圧部269の位置Pya1〜Pya6を含む第1種領域A1では、定義域RRが狭く、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7の位置を含む第2種領域A2では、定義域RRが広い。
【0048】
以上のように、補正済データ生成部M104は、注目画素の位置Pyに応じて振幅係数Amcを決定し、決定された振幅係数Amcに応じて定義域RRを決定し、決定された定義域RR内で乱数値RNDを生成する。乱数値RNDの生成は、画素毎に行われる。本実施例では、乱数値RNDは、定義域RR内で一様に分布する。
【0049】
図7の続くステップS510〜S540では、補正済データ生成部M104は、第1階調値Vaと、乱数値RNDと、3つの基準閾値Th1〜Th3と、を利用した大小関係に基づいて、注目画素のドット形成状態を決定する。本実施例では、入力階調値Vinは、0〜255の256段階で表される。第1基準閾値Th1は、小ドットを出力するための閾値の基準である(例えば、ゼロ)。第1補正済閾値Th1rは、「第1基準閾値Th1+乱数値RND」である。第2基準閾値Th2は、中ドットを出力するための閾値の基準である(例えば、84)。第2補正済閾値Th2rは、「第2基準閾値Th2+乱数値RND」である。第3基準閾値Th3は、大ドットを出力するための閾値の基準である(例えば、170)。第3補正済閾値Th3rは、「第3基準閾値Th3+乱数値RND」である。
【0050】
補正済データ生成部M104は、以下のように、ドット形成状態を決定する。
A)第1階調値Va>第3補正済閾値Th3r(S510:Yes):ドット形成状態=「大ドット」(S515)
B)第1階調値Vaが第3補正済閾値Th3r以下であり、かつ、第1階調値Va>第2補正済閾値Th2r(S520:Yes):ドット形成状態=「中ドット」(S525)
C)第1階調値Vaが第2補正済閾値Th2r以下であり、かつ、第1階調値Va>第1補正済閾値Th1r(S530:Yes):ドット形成状態=「小ドット」(S535)
D)第1階調値Vaが第1補正済閾値Th1r以下である(S530:No):ドット形成状態=「ドット無し」(S540)
【0051】
このように、本実施例では、補正済データ生成部M104(図1)は、乱数値RNDを利用して、閾値を補正する。そして、補正済データ生成部M104は、入力階調値Vinと、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rと、の間の大小関係に基づいて、注目画素のドット形成状態を決定する。本実施例では、図7に示す処理(ドット形成状態の決定)が、補正処理(画像補正)の例である。以下、補正処理の対象の画像データ(ここでは、CMYKのビットマップデータ)を、「入力画像データ」とも呼ぶ。また、補正処理から印刷データの生成までの一連の処理(図5のS220、S230)の全体が、「補正処理を実行することによって、入力画像データから補正済画像データ(具体的には、補正済の印刷データ)を生成する処理」の例である(以下、「補正済画像データ生成処理」、より具体的に、「補正済印刷データ生成処理」とも呼ぶ)。
【0052】
3つの図8(D)、図8(E)、図8(F)は、3つの閾値Th3r、Th2r、Th1rの位置依存性をそれぞれ示すグラフである。横軸は、第1方向Dyの位置Pyを示し、縦軸は、補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rを示している。図中では、各補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rの取り得る値の範囲に、ハッチングが付されている(以下、「閾値範囲TR3、TR2、TR1」と呼ぶ)。各閾値範囲TR3、TR2、TR1は、乱数値RNDの定義域RRと同様に、位置Pyに応じて変化する。すなわち、押圧部269の位置Pya1〜Pya6を含む第1種領域A1では、各閾値範囲TR3、TR2、TR1が狭く、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7の位置を含む第2種領域A2では、各閾値範囲TR3、TR2、TR1が広い。このように、位置Pyに依存して変化する閾値範囲TR3、TR2、TR1と、印刷済画像の粒状性との関係については、後述する。
【0053】
ドット形成状態の決定の次のステップS550(図7)では、補正済データ生成部M104は、決定されたドット形成状態に対応付けられた階調値(ドット階調値Vbと呼ぶ)を取得する。本実施例では、以下のようにドット階調値が設定されている。
A)大ドット:ドット階調値Vb=255
B)中ドット:ドット階調値Vb=170
C)小ドット:ドット階調値Vb=84
D)ドット無し:ドット階調値Vb=ゼロ
ドット階調値Vbは、ドット形成状態によって表される階調値(濃度)を表している。このような対応関係は、ドット階調値テーブルとして、補正済データ生成部M104に予め組み込まれている。
【0054】
次のステップS570では、補正済データ生成部M104は、対象誤差値Eaを算出する。対象誤差値Eaは、以下の式で表される。
対象誤差値Ea=第1階調値Va−ドット階調値Vb
補正済データ生成部M104は、算出した対象誤差値Eaを、注目画素の誤差値として、誤差バッファEBに登録する。
【0055】
以上のように、補正済データ生成部M104は、各印刷画素のドット形成状態を、インク色毎に、決定する。
【0056】
図9は、ドット形成状態の決定例を示す。図9(A)の決定例は、第1種領域A1における決定例を示している。図9(A)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜85であり、定義域幅RNDWは比較的狭い(85)。図9(B)の決定例は、第2種領域A2における決定例を示している。図9(B)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜175であり、定義域幅RNDWが比較的広い(175)。これらの図は、16個の画素が第1方向Dyに並んで形成された画素ラインの決定例を示している。図中には、入力階調値Vinと、第1階調値Vaと、乱数値RNDと、補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rと、ドット形成状態DSと、ドット階調値Vbと、対象誤差値Eaと、が示されている。ドット形成状態DSの欄には、「ドット無し」、「小ドットdt1」、「中ドットdt2」、「大ドットdt3」のいずれかのシンボル(「ドット無し」は空欄)示されている。
【0057】
ここで、入力階調値Vinは、全ての画素で同じ値(120)であることとしている。また、説明を簡単にするために、或る画素で生じた誤差の全てが、+Dy方向に隣接する画素の第1階調値Vaに、加算されると仮定している。例えば、図9(A)に示すように、上から2番目の第2画素P2の第1階調値Vaは、その画素P2の入力階調値Vin(120)と、1つ上の第1画素P1で生じた対象誤差値Ea(36)との、和(156)である。
【0058】
定義域幅RNDWが狭い場合には、広い場合と比べて、大きい(濃度が高い)ドットが形成され難い。例えば、図9(A)に示す例では、ドット形成状態DSは、「小ドットdt1」と「中ドットdt2」とのいずれかである。濃度が最も高い「大ドットdt3」の画素は、存在しない。全画素数(16)に対する大ドットdt3の画素数(0)の割合は、ゼロ(0/16)である。従って、このドット形成状態のパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が比較的細かく見える。また、濃度が最も薄い「ドット無し」の画素も、存在しない。全画素数(16)に対する「ドット無し」の画素数(0)の割合は、ゼロ(0/16)である。従って、ドット形成状態のパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が、比較的均等に分布しているように見える(印刷済画像が滑らかに見える)。このように、定義域幅RNDWが比較的狭い場合には、ドットパターンは細かく見える。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「122」である。
【0059】
一方、定義域幅RNDWが広い場合には、狭い場合と比べて、大きい(濃度が高い)ドットが形成され易い。例えば、図9(B)に示す例では、定義域幅RNDWが比較的狭い場合(図9(A))と比べて、大ドットdt3の画素数の割合が増大する(3/16=0.19)。従って、このドット形成状態のパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が、比較的粗く見える。また、図9(B)の決定例では、定義域幅RNDWが比較的狭い場合(図9(A))と比べて、「ドット無し」の画素数の割合が増大する(5/16=0.31)。従って、ドット形成状態のパターンの観察者は、画像を表す粒(ドット)が、均等に分布せずに、局所的に偏っているように見える。このように、定義域幅RNDWが比較的広い場合には、ドットパターンが粗く見える。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「117」である。
【0060】
このように、図9(A)と図9(B)との間では、ドット形成状態のパターンが異なる(すなわち、粒状性が異なる)。乱数値RNDの定義域幅RNDWが大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンを粗くすることができる。この理由は、以下の通りである。乱数値RNDが大きい場合には、小さい場合と比べて、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rが大きいので、注目画素に生じるドットが小さい(または、ドットが生じない)傾向にある。例えば、図9(B)の第3画素P3の第1階調値Va(164)は、第4画素P4の第1階調値Va(105)よりも大きいにも拘わらず、第3画素P3のドットのサイズ(ドット無し)は、第4画素P4のドットのサイズ(小ドットdt1)よりも小さい。また、ドットが小さいほど、対象誤差値Eaが大きい。従って、乱数値RNDが大きい場合には、注目画素は、周辺の画素に大きな誤差値Eaを分散させることができる。
【0061】
乱数値RNDの大きな画素で生じる大きな誤差値Eaが、乱数値RNDの小さな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが小さい場合であっても、大ドットdt3が形成され得る(例えば、図9(B)の第7画素P7)。このような乱数値RNDに起因する大ドットdt3の形成は、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、促進される。
【0062】
乱数値RNDに起因して注目画素に大ドットdt3が形成されると、周辺の画素のドットのサイズが小さくなる。従って、大ドットdt3の画素数の割合が大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンによって表される濃度の分布が不均等になる。従って、定義域幅RNDWを大きくすることによって、ドットパターンを粗くすることができる。
【0063】
一方、乱数値RNDが小さい場合には、大きい場合と比べて、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rが小さいので、注目画素に生じるドットが大きい傾向にある。例えば、図9(B)の第5画素P5の第1階調値Va(188)は、第6画素P6の第1階調値Va(238)よりも小さいにも拘わらず、第5画素P5のドットのサイズ(大ドットdt3)は、第6画素P6のドットのサイズ(中ドットdt2)よりも、大きい。また、ドットが大きいほど、対象誤差値Eaが小さい。従って、乱数値RNDが小さい場合には、注目画素は、周辺の画素に小さな誤差値Eaを分散させることができる。
【0064】
乱数値RNDの小さな画素で生じる小さな誤差値Eaが、乱数値RNDの大きな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが大きい場合であっても、ドット形成されない場合がある(例えば、図9(B)の第8画素P8)。このような乱数値RNDに起因する「ドット無し」画素の発生は、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、促進される。
【0065】
乱数値RNDに起因して「ドット無し」の画素が生じると、周辺の画素のドットサイズが大きくなる。従って、「ドット無し」の画素数の割合が大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンによって表される濃度の分布が、不均等になる。従って、定義域幅RNDWを大きくすることによって、ドットパターンを粗くすることができる。
【0066】
図10は、印刷処理における粒状性の変化例を示す概略図である。図10(A)は、入力画像データIDin(ハーフトーン処理の対象のCMYKのビットマップデータ)を示す。入力画像データIDinは、階調値の均一な画像を表す(以下、「入力画像Iin」とも呼ぶ)。入力画像Iinは、例えば、図4(A)の画像Idiと同じ画像を表す。図10(B)は、入力画像データIDinを用いたハーフトーン処理(図7:補正処理)を実行することによって生成される補正済の印刷データIDc(補正済画像データIDc)を示す。図中の領域A1、A2と方向Dx、Dyとは、補正済画像データIDcが印刷される場合の印刷済画像に基づく領域A1、A2と方向Dx、Dyとを示している。図8(A)〜図8(F)で説明したように、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広い。そして、図9(A)、図9(B)で説明したように、定義域幅RNDWが広い場合には、狭い場合と比べて、ドット形成状態のパターンが粗い。従って、図10(B)の補正済画像データIDcでは、第2種領域A2のドット形成状態のパターンが、第1種領域A1のドット形成状態のパターンと比べて、粗い(以下、補正済画像データIDcによって表される画像を、「補正済画像Ic」と呼ぶ)。
【0067】
仮に、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合には(例えば、図3(B)の基準シート300fに印刷する場合)、補正済画像データIDcを印刷して得られる印刷済画像は、補正済画像Icと同じである。図10(C)は、このような印刷済画像(補正済画像Ic)における空間周波数スペクトルの概略例を示すグラフである。横軸は、空間周波数SF(単位は、サイクル/ミリメートル)を示し、縦軸は、強度mを示す。第1グラフmcA1は、第1種領域A1の印刷済画像のスペクトルを示し、第2グラフmcA2は、第2種領域A2の印刷済画像のスペクトルを示す。この空間周波数スペクトルは、いわゆるウイナースペクトラムである。このような空間周波数スペクトルは、以下のようにして、得られる。まず、印刷済の補正済画像Icを光学的に読み取ることによって、印刷済の補正済画像Icを表す画像データが生成される。次に、画像データは、L*a*b*空間で色を表す画像データに変換される。次に、L*成分の画像に対して、二次元のFFT(Fast Fourier Transform)が実行される。次に、二次元FFTの結果は、極座標系で表されたデータに変換される。そして、極座標系で表されたデータを、角度についての平均化を利用して、一次元化することによって、図10(C)のスペクトルが得られる。
【0068】
図示するように、第1種領域A1(第1グラフmcA1)と第2種領域A2(第2グラフmcA2)との間では、スペクトルが異なっている。具体的には、第2種領域A2(第2グラフmcA2)では、第1種領域A1(第1グラフmcA1)と比べて、特定の空間周波数SF1よりも低い低周波数成分の強度mが強い。これは、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、ドットパターンが粗く見えることを示している。
【0069】
図10(D)は、仮想印刷済画像IPinの概略図である。仮想印刷済画像IPinは、乱数値RNDを用いた補正を行わずに、入力画像データIDinを用いて、波状に変形したシート上に印刷された印刷済画像を示している。図4(B)で説明したように、第1種領域A1では、第2種領域A2と比べて、印刷済画像が粗く見える。
【0070】
図10(E)は、補正済画像データIDcを、波状に変形したシート上に印刷して得られる印刷済補正画像IPcの概略図である。印刷済補正画像IPcにおける粒状性の変化の位置依存性(第1方向Dyの位置)は、シートの波状の変形に起因する粒状性の変化の位置依存性(図10(D))と、画像補正による粒状性の変化の位置依存性(図10(B))と、を総合して得られる。ここで、図10(D)の仮想印刷済画像IPinにおける粒状性の変化の位置依存性は、図10(B)の補正済画像Icにおける粒状性の変化の位置依存性と、逆である。従って、印刷済補正画像IPcにおいては、第1種領域A1と第2種領域A2との間の粒状性の差が緩和される。すなわち、粒状性のムラは、入力画像データIDinを補正せずに印刷した場合と比べて、小さい。
【0071】
図10(F)は、印刷済補正画像IPcにおける空間周波数スペクトルの概略例を示すグラフである。横軸は、空間周波数SF(単位は、サイクル/ミリメートル)を示し、縦軸は、強度mを示す。第1グラフmpA1は、第1種領域A1の印刷済画像のスペクトルを表し、第2グラフmpA2は、第2種領域A2の印刷済画像のスペクトルを表す。図3(B)で説明したように、第2種領域A2では、シートの波状の変形に起因する粒状性の変化が小さいので、第2グラフmpA2は、図10(C)の第2グラフmcA2と、おおよそ同じである。一方、第1種領域A1では、シートの波状の変形に起因して粒状性が変化する(印刷済画像が粗くなる)ので、第1種領域A1におけるスペクトル(第1グラフmpA1)は、シートが平らな場合の補正済画像Icにおけるスペクトル(図10(C)の第1グラフmcA1)と比べて、第2種領域A2におけるスペクトル(第2グラフmpA2)に近くなる。
【0072】
このように、第1実施例では、図10(B)、図10(C)で説明したように、仮に、入力画像データIDin(図10(A))が階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合には(例えば、図3(B)の基準シート300fに印刷する場合)、印刷済画像において、複数の第1種領域A1に印刷される複数の印刷済部分画像と、複数の第2種領域A2に印刷される複数の印刷済部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、補正処理(図7)が実行されて補正済画像データIDcが生成される。ここで、印刷済画像は、図10(B)に示す補正済画像Icと、同様の画像である。すなわち、複数の第1種領域A1と複数の第2種領域A2とは、搬送方向Dxに沿って延びる領域であり、各第1種領域A1と各第2種領域A2とは、第1方向Dyに沿って交互に並ぶ。従って、シートの波状の変形に起因する印刷済画像の粒状性ムラを低減することができる。特に、本実施例では、第2種領域A2の印刷済部分画像の方が、第1種領域A1の印刷済部分画像と比べて、粗くなるように、補正処理(図7)が実行されて補正済画像データIDcが生成される。従って、シートの波状の変形に起因して、第1種領域A1の印刷済み部分画像が、第2種領域A2の印刷済み部分画像と比べて、粗くなる場合に、第2種領域A2の印刷済み部分画像の粒状性を、第1種領域A1の印刷済み部分画像の粒状性に近づけることができるので、粒状性のムラを、適切に、抑制することができる。
【0073】
また、第1実施例では、図9(A)、図9(B)、図10(A)、図10(B)で説明したように、仮に、入力画像データIDin(図10(A))が階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合には、複数の第1種領域A1の複数の印刷済部分画像と、複数の第2種領域A2の複数の印刷済部分画像と、の間で、濃度が最も高いドット有状態(大ドットdt3)の印刷画素の割合が異なるように、補正処理(図7)が実行されて印刷画素毎のドット形成状態が決定される。従って、第1種領域A1と第2種領域A2とのそれぞれの印刷済部分画像の間で空間周波数スペクトルを異ならせることができる(図10(C))。この結果、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。
【0074】
また、図3には、特定範囲GRがハッチングで示されている。特定範囲GRは、ノズル面npとシートとの間のギャップがギャップ閾値GPth未満の範囲である。図示すように、第1種領域A1は、シート300とノズル250n(ノズル面np)との間のギャップが特定範囲GRの外にある領域であり、第2種領域A2は、ギャップが特定範囲GR内にある領域である。図10(C)に示すように、画像補正(ドット形成状態の決定処理(図7))は、第1種領域A1と第2種領域A2との間で空間周波数スペクトルを異ならせるので、一部の領域(第1種領域A1)のギャップが特定範囲GRから外れることに起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。特に、第2種領域A2のギャップの範囲である特定範囲GRが、ギャップ閾値GPth未満の範囲であるので、比較的ギャップが大きい第1種領域A1と、比較的ギャップが小さい第2種領域A2との間の粒状性ムラを低減することができる。ここで、図9(A)、図9(B)で説明したように、画像補正は、第1種領域A1と比べて、第2種領域A2における最大濃度のドット形成状態の画素数の割合を高くする。従って、シート300の波状の変形に起因して、第1種領域A1の印刷済み部分画像が、第2種領域A2の印刷済み部分画像と比べて、粗くなる場合に、第2種領域A2の印刷済み部分画像の粒状性を、第1種領域A1の印刷済み部分画像の粒状性に近づけることができるので、粒状性ムラを抑制することができる。
【0075】
また、第1実施例では、補正済データ生成部M104(図1)は、図7のハーフトーン処理(補正処理)において、注目画素の入力階調値Vinと、注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値Etと、乱数値RNDと、を用いて、注目画素のドット形成状態と、注目画素のドット形成状態に応じた注目画素の対象誤差値Eaと、を決定する。そして、図8(C)に示すように、補正済データ生成部M104は、誤差拡散法に従ったドット形成状態の決定で利用される補正用のパラメータ(より具体的には、乱数値RNDの取り得る範囲(定義域RR))を、注目画素の第1方向Dyの位置Pyに応じて変化させる。従って第1方向Dyの印刷位置に応じてドット形成状態の特性を変化させることができる。この結果、シート300の第1方向Dyに沿った波状の変形に起因する印刷済画像の粒状性ムラを、容易に抑制することができる。
【0076】
また、第1実施例では、図2、図3に示すように、シート搬送部260は、シート300を下面から支持する複数の高支持部265bを含む。複数の高支持部265bは、第1方向Dyと平行に移動する印刷ヘッド250に対向する位置に、第1方向Dyに沿って並んで配置されている。また、シート搬送部260は、シート300を、上面から、下方に向かって(より具体的には、高支持部265bとシート300との接触位置(基準高さSH)よりも下方に向かって)押圧する複数の押圧部269を含む。各押圧部269の第1方向Dyの位置は、隣り合う2つの高支持部265bの間に配置されている。従って、シート搬送部260は、シート300を適切に波状に変形させることができる。特に、本実施例では、複数の押圧部269の第1方向Dyの位置と、複数の高支持部265bの第1方向Dyの位置とは、交互に並んでいる。従って、シート300が、山と谷とを繰り返す波状に変形するので、シート300が、図2(C)の符号302で示すように、意図せずに変形する可能性を低減できる。
【0077】
また、第1実施例では、図10(D)で説明したように、画像補正を行わずに、波状に変形したシート300に印刷を行う場合には、第1種領域A1と第2種領域A2との間で粒状性が異なってしまう。具体的には、第1種領域A1の粒状性が、第2種領域A2の粒状性よりも大きくなる(第1種領域A1の印刷済画像が、第2種領域A2の印刷済画像よりも、粗くなる)。このような粒状性のムラを抑制するためには、2種類の領域A1、A2の間の粒状性の差を小さくすることが好ましい。ここで、印刷装置600の構成を変えずに第1種領域A1の印刷済画像の粒状性を更に向上させる(画像を細かくする)ことは困難である。そこで、本実施例では、第2種領域A2の粒状性を低下させることによって(第2種領域A2の印刷済画像を粗くすることによって)、2種類の領域A1、A2の間の粒状性の差を小さくしている。
【0078】
B.第2実施例:
図11は、第2実施例におけるハーフトーン処理の概略図であり、図12は、第2実施例におけるハーフトーン処理のフローチャートである。図6、図7の第1実施例とは異なり、第2実施例では、乱数値RNDの代わりに、第1方向Dyの位置Pyに応じて変化するマトリクス136A〜136Fが利用される。図12では、図7のステップと同じステップに同じ符号を付している。印刷処理の手順は、図5の実施例と同じである。また、印刷処理を実行する印刷装置の構成は、不揮発性メモリ130が、マトリクス136の代わりに6つのマトリクス136A〜136Fを格納する点を除いて、図1、図2の印刷装置600の構成と同じである。
【0079】
図13(A)〜、図13(F)は、6つのマトリクス136A〜136Fの例を、それぞれ示している。図中には、第1方向Dyと第2方向Dxとが示されている。1つの四角は1つの画素を示している。記号「+」は注目画素を示している。各画素の位置は、注目画素を基準とする相対的な位置である。各画素に記載されている数値は、重み係数を示している。各画素の重み係数を、全画素の重み係数の和が1になるように正規化して得られる値が、実際の重みである。なお、各マトリクス136A〜136Fは、−Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合のマトリクスである。+Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合には、注目画素を中心に第1方向Dyの相対位置を反転させたマトリクスが利用される。
【0080】
図13(G)は、各マトリクス136A〜136Fのそれぞれの粒状性評価値GEを示す表である。粒状性評価値GEは、印刷済画像の粒状性(画像の粗さ)を数値化したものであり、図13(H)の式に従って算出される。粒状性評価値GEが大きいほど、印刷済画像が粗い。ここで、uは空間周波数(単位は、サイクル/ミリメートル)であり、WS(u)は、上述したウイナースペクトラムである。VTF(u)は、視覚の空間周波数特性であり、図13(I)の式によって算出される。Dは、ウイナースペクトラムの算出に利用された印刷済画像の平均濃度である。図13(I)の式におけるLは、観察距離(単位は、ミリメートル)であり、本実施例では、L=300mmである。なお、ウイナースペクトラムの算出には、均一なグレー画像(CMYのコンポジットで表されるグレー画像)が利用される。本実施例では、粒状性評価値GEの算出に利用される印刷済画像のL*は、おおよそ50であり、印刷解像度は、600dpi(dot per inch)である。また、ウイナースペクトラムの算出に利用される画像を印刷する場合には、基準面300s(図3(B))に対応する平らなシートに画像を印刷することとする。なお、ウイナースペクトラムWS(u)と粒状性評価値GEとの算出方法は、例えば、以下の文献「日本写真学会誌 第60巻 第6号(1997年) インクジェットプリンタの画質評価 藤野真」で説明されている。
【0081】
図13(G)に示するように、マトリクス136A〜136Fの順番は、粒状性評価値GEの小さい順である。入力画像データが同じ場合であっても、第1マトリクス136Aは、細かく見えるドットパターンを生成し、第6マトリクス136Fは、粗く見えるドットパターンを生成する。すなわち、入力画像データが同じ場合であっても、ドットパターンの空間周波数スペクトラムは、マトリクス136A〜136F毎に、異なる。そして、濃度の最も高いドット有状態の印刷画素の割合も、マトリクス136A〜136F毎に、異なり得る。補正済データ生成部M104は、マトリクスを切り替えることによって、ドット形成状態のパターンの粗さを変更することができる。
【0082】
次に、図12のフローチャートに沿って、説明を行う。最初のステップS502では、補正済データ生成部M104(図1)は、振幅係数データ134a(図8(A))を参照し、注目画素の第1方向Dyの位置に対応付けられた振幅係数Amcを利用して、マトリクスを選択する。図13(J)は、振幅係数Amcとマトリクスとの関係を示す概略図である。横軸は、ゼロから1までの振幅係数Amcの範囲を示す。図示するように、振幅係数Amcの範囲は、5つの境界値Amc1〜Am5によって、6つの部分範囲AA1〜AA6に区分される。6つの部分範囲AA1〜AA6には、6つのマトリクス136A〜136Fが、一対一に対応付けられている。部分範囲の振幅係数Amcが大きいほど、マトリクスの粒状性評価値GEは大きい。なお、本実施例では、各部分範囲AA1〜AA6の幅は、同じである。ただし、一部の部分範囲の幅が、他の部分範囲の幅と異なっていても良い。
【0083】
図13(K)は、第1方向Dyの位置Pyと、選択されるマトリクスの粒状性評価値GEとの関係を示すグラフである。横軸は、位置Pyを示し、縦軸は、選択されるマトリクスの粒状性評価値GEを示す。図示するように、第1種領域A1では、粒状性評価値GEの比較的小さいマトリクス136A、136B、136Cが選択される。第2種領域A2では、粒状性評価値GEの比較的大きいマトリクス136D、136E、136Fが選択される。すなわち、図10(B)、図10(C)の第1実施例と同様に、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、ドットパターンが粗くなる(第1種領域A1と第2種領域A2との間で、空間周波数スペクトラムが異なる)。
【0084】
補正済データ生成部M104は、乱数値RNDの代わりに、選択したマトリクスを利用して、図7の第1実施例と同様にドット形成状態を決定する。図12の次のステップS504、S506は、図7のステップS504、S506と、それぞれ同じである(第1階調値Vaが決定される)。続くステップS510b〜S540では、補正済データ生成部M104は、第1階調値Vaと、基準閾値Th1〜Th3と、の間の大小関係に基づいて、注目画素のドット形成状態を決定する。ステップS510b、S520b、S530bでは、補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rの代わりに、基準閾値Th3、Th2、Th1が、それぞれ利用される。続くステップS550、S570は、図7のステップS550、S570と、それぞれ同じである。
【0085】
以上のように、第2実施例では、誤差拡散法に従ったドット形成状態の決定で利用される補正用のパラメータ(より具体的には、マトリクス)が、注目画素の第1方向Dyの位置Pyに応じて変化する。従って、第1方向Dyの位置に応じてドット形成状態の特性を変化させることができる。この結果、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを、容易に抑制することができる。
【0086】
特に、第2実施例では、図13(K)で説明したように、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、マトリクスの粒状性評価値GEが大きい。従って、図10(A)のような入力画像データIDinを印刷する場合には、図10(B)、図10(C)と同様に、第2種領域A2の印刷済部分画像の方が、第1種領域A1の印刷済部分画像と比べて、粗くなるように、補正済画像データIDcが生成される。従って、粒状性ムラを、適切に、抑制することができる。
【0087】
また、第2実施例では、補正済データ生成部M104は、6つのマトリクス136A〜136Fから、第1方向Dyの位置Py(振幅係数Amc)に対応付けられたマトリクスを選択する。従って、マトリクスの総数が少ない場合(例えば、2)と比べて、粒状性を滑らかに変化させることができる。この結果、粒状性のムラを適切に抑制できる。なお、マトリクスの総数としては、2以上の種々の数を採用可能である。いずれの場合も、補正済データ生成部M104は、粒状性評価値GEが互いに異なる複数のマトリクスを利用することが好ましい。そして、図13(K)に示すように、注目画素の第1方向Dyの位置Pyが押圧部269の位置Pya1〜Pya6に近いほど、粒状性評価値GEが小さく、位置Pyが高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7に近いほど、粒状性評価値GEが大きいことが好ましい。こうすれば、適切に粒状性ムラを抑制できる。なお、粒状性評価値GEは、印刷条件(例えば、インクの種類や、シートの種類や、印刷解像度)に応じて変わり得る。従って、実際の印刷条件に応じて、マトリクス毎の粒状性評価値GEを評価することが好ましい。
【0088】
また、本実施例においても、図9の第1実施例と同様に、第1種領域A1の印刷済部分画像と、第2種領域A2の印刷済部分画像と、の間で、濃度が最も高いドット有状態(大ドットdt3)の印刷画素の割合が異なるように、マトリクスを構成してもよい。
【0089】
また、第2実施例では、乱数値RNDの代わりに複数のマトリクス136A〜136Fを利用する点を除いた他の構成は、第1実施例と同じである。従って、第2実施例は、第1実施例と同様の種々の効果を奏する。また、図12の処理は、「補正処理」の例である。
【0090】
また、本実施例において、ドット形成状態の総数が2であってもよい。補正済データ生成部M104(図1)は、例えば、図12のフローチャートから、中ドットdt2と小ドットdt1とのためのステップSRb(S520b、S525、S530b、S535)を省略して得られるフローチャートに従って、ドット形成状態を決定してもよい。この場合も、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。
【0091】
C.第3実施例:
図7に示す第1実施例において、ドット形成状態の総数が2(すなわち、「ドット有り」と「ドット無し」の2階調)であってもよい。図14は、ドット形成状態の総数が2である場合の、ドット形成状態の決定例を示す。図14では、図9と同様に、処理が簡略化されている。図14は、25個の画素が第1方向Dyに並んで形成された画素ラインのドット形成状態を示している。図中には、入力階調値Vinと、第1階調値Vaと、乱数値RNDと、補正済閾値Thrと、ドット形成状態DSと、ドット階調値Vbと、対象誤差値Eaと、が示されている。図9の決定例とは異なり、図14の決定例では、ドット形成状態は、「ドット無し」と「大ドットdt3」とのいずれかである(以下、大ドットdt3を、単に「ドットdt3」と呼ぶ)。また、基準閾値は、128であり、補正済閾値Thrは、「基準閾値(128)+乱数値RND」である。また、乱数値RNDの上限RNDH(図8(B))は、85〜128の範囲で変化することとしている。ドット形成状態を決定する処理は、図7から、中ドットdt2と小ドットdt1とのためのステップSRa(S520、S525、S530、S535)を省略したものと、同じである(ステップS510では、第3補正済閾値Th3rの代わりに、補正済閾値Thrが利用される)。
【0092】
図14(A)は、第1種領域(例えば、図10(B)の第1種領域A1)における決定例を示している。図14(A)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜85であり、定義域幅RNDWは比較的狭い(85)。図14(B)の決定例は、第2種領域(例えば図10(B)の第2種領域A2)における決定例を示している。図14(B)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜128であり、定義域幅RNDWが比較的広い(125)。
【0093】
定義域幅RNDWが狭い場合には、広い場合と比べて、ドットdt3の配置の偏りが小さい。例えば、図14(A)の例では、「ドットdt3」の画素と「ドット無し」の画素とが、おおよそ交互に並ぶ。同じ種類の画素が連続する部分は、1カ所だけである(第1部分Pvaで、2つの「ドット無し」の画素が連続する)。従って、このドットパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が、比較的均等に分布しているように見える(印刷済画像が滑らかに見える)。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「122」である。
【0094】
一方、定義域幅RNDWが広い場合には、狭い場合と比べて、ドットdt3が偏って配置される。例えば、図14(B)の例では、3つの部分Pd1〜Pd3で、ドットdt3が形成される画素が連続する。また、5つの部分Pv1〜Pv5で、「ドット無し」の画素が連続する。従って、このドットパターンの観察者にとっては、ドットパターンが、粗く見える。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「122」である。
【0095】
このように、ドット形成状態の総数が2である場合も、第1実施例と同様に、乱数値RNDの定義域幅RNDWが大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンを粗くすることができる。この理由は、以下の通りである。図9でも説明したように、乱数値RNDの大きな画素で生じる大きな誤差値Eaが、乱数値RNDの小さな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが小さい場合であっても、ドットdt3が形成され得る。逆に、乱数値RNDの小さな画素で生じる小さな誤差値Eaが、乱数値RNDの大きな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが大きい場合であっても、ドット形成されない場合がある。このような乱数値RNDに起因する「ドット無し」画素の発生と「ドットdt3有り」の画素の発生とは、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、促進される。従って、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、ドット分布が不均等になり易い。この結果、定義域幅RNDWを大きくすることによって、ドットパターンを粗くすることができる。すなわち、定義域幅RNDWを変えることによって、第1種領域A1と第2種領域A2との間で空間周波数スペクトルを異ならせることができる。
【0096】
以上のように、本実施例においても、補正済データ生成部M104(図1)は、図8(B)、図8(C)のように定義域幅RNDWを位置Pyに応じて変化させることによって、図10の実施例と同様に、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。
【0097】
また、第3実施例では、ドット形成状態の総数が異なる点を除いた他の構成は、第1実施例と同じである。従って、第3実施例は、第1実施例と同様の種々の効果を奏する。
【0098】
D.第4実施例:
図15(A)は、基準ギャップの別の実施例を示す説明図である。図15(A)は、図3(B)と同様に、液滴D1、D2の着弾位置と、シート300とを示している。この実施例では、図1、図2に示す印刷装置600が利用される。そして、シート300の高支持部265bに支持される部分の代わりに、押圧部269によって下方に押さえられる部分のギャップGPsaが、基準ギャップとして利用される(以下、ノズル250n(ノズル面np)から基準ギャップGPsaだけ離れた平面300saを「基準面300sa」と呼ぶ)。本実施例では、液滴D1、D2の吐出タイミングは、基準面300saに印刷する場合を想定して、調整されている(図中では、液滴D1、D2が第1方向Dyの同じ目標位置Py1にドットを形成することが想定されている)。従って、ギャップが小さいほど、すなわち、シート300がノズル250nに近いほど、ドットの位置ズレが大きくなる。そこで、本実施例では、ギャップがギャップ閾値GPth以上の範囲(特定範囲GRa)の外にある第1種領域A1aでは、ギャップが特定範囲GRa内にある第2種領域A2aと比べて、ドットパターンが粗くなるように、補正済画像データ(印刷データ)が生成される。図中では、特定範囲GRaがハッチングで示されている。
【0099】
振幅係数Amcの位置Py依存性のパターンは、図8(A)の実施例の振幅係数Amcの「1」と「0」とを入れ替えたパターンと同じである。すなわち、押圧部269の位置Pya1〜Pya6では、振幅係数Amcは「1」に設定され、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7では、振幅係数Amcは「0」に設定される(図示省略)。すなわち、ギャップが、基準面300saの基準ギャップGPsaと同じである位置(第1方向Dyの位置Py)では、振幅係数Amcは「1」である。
【0100】
図15(B)は、基準ギャップの更に別の実施例を示す説明図である。図15(B)も、図15(A)と同様に、+Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴D1a、D1bと、−Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴D2a、D2bと、の着弾位置と、シート300とを示している。この実施例では、図1、図2に示す印刷装置600が利用される。そして、押圧部269の最も低い部分と高支持部265bの上面との間の中間位置のギャップGPsbが、基準として利用される(以下、ノズル250n(ノズル面np)からギャップGPsbだけ離れた平面300sbを「基準面300sb」と呼ぶ)。液滴D1a、D1b、D2a、D2bの吐出タイミングは、基準面300sbに印刷する場合を想定して、調整されている(図中では、液滴D1a、D2aが同じ目標位置Py1aにトッドを形成することが想定され、液滴D1b、D2bが同じ目標位置Py1bにドットを形成することが想定されている)。従って、ギャップが基準のギャップGPsbから離れるほど、ドットの位置ズレが大きくなる。そこで、本実施例では、ギャップと基準ギャップGPsbとの間の差の絶対値が特定の値以下である範囲GRbの外にギャップがある第1種領域A1b1、A1b2では、ギャップが範囲GRb内にある第2種領域A2bと比べて、ドットパターンが粗くなるように、補正済画像データ(印刷データ)が生成される。図中では、範囲GRbがハッチングで示されている。
【0101】
振幅係数Amcの位置Py依存性は、以下の通りである。すなわち、押圧部269の位置Pya1〜Pya6と、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7と、のそれぞれにおいて、振幅係数Amcは「0」に設定される。隣り合う押圧部269と高支持部265bとの間の中間位置において、具体的には、ギャップが、基準面300sbの基準ギャップGPsbと同じである位置(第1方向Dyの位置Py)では、振幅係数Amcは「1」に設定される。
【0102】
なお、図15(A)、図15(B)のそれぞれは、上述の各実施例に適用可能である。
【0103】
E.変形例:
(1)第1種領域の印刷済部分画像と、第2種領域の印刷済部分画像と、の間で、空間周波数スペクトルが異なるように、実行される補正処理としては、上記各実施例の補正処理に限らず、種々の処理を採用可能である。例えば、上述の乱数値RNDの定義域RRは、図8(B)で説明した範囲に限らず、他の種々の範囲を採用可能である。例えば、定義域RRの下限RNDL、または、下限RNDLと上限RNDHとの両方が、負値であってもよい。負値の乱数値RNDは、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rを小さくすることによって、大ドットdt3の画素数の割合を増大することができる。また、乱数値RNDは、離散的な複数の値から選択されてもよい。例えば、図8(B)の実施例において、乱数値RNDが、下限RNDLと上限RNDHとのいずれかであってもよい(2値乱数)。また、図5のステップS220のハーフトーン処理(補正処理)が、誤差拡散法の代わりに、ディザマトリクスを利用する処理であってもよい。この場合には、粒状性評価値GEが互いに異なる複数のディザマトリクスを準備することが好ましい。補正済データ生成部M104(図1)は、図13(K)の実施例のように、第1方向Dyの印刷位置に応じてディザマトリクスを選択すればよい。この場合には、印刷画素の第1方向Dyの位置に応じてディザマトリクスが変化する。また、第1方向Dyの位置に応じてディザマトリクスを変化させることによってドット形成状態を決定することが、補正処理の例である。また、補正済データ生成部M104は、図5のステップS210の処理対象のビットマップデータのRGB階調値、または、ステップS220の処理対象のビットマップデータのCMYK階調値に、乱数を付加することによって、空間周波数スペクトルを変化させてもよい。この場合には、乱数付加の対象のビットマップデータが、入力画像データの例であり、乱数の付加が、補正処理の例である。また、乱数の付加から印刷データの生成までの一連の処理が、「補正済印刷データ生成処理」の例である。
【0104】
(2)図2(D)に示すように、ノズル250nとシート300との間のギャップは、搬送方向Dxの位置に応じて異なり得る。本実施例では、−Dx方向側のノズル250nの位置よりも、+Dx方向側のノズル250nの位置の方が、ギャップが小さい。そこで、上記各実施例において、補正済データ生成部M104は、ノズル250nの搬送方向Dxの位置に応じて、ドット形成状態決定のための処理で利用されるパラメータ(例えば、図7、図8(B)の実施例の乱数値RNDの定義域幅RNDW、図11、図12のマトリクス136A〜136F)を変化させてもよい。この際、補正済データ生成部M104は、第1方向Dyの位置Pyに応じてパラメータを変化させるのと同様に、ドット形成時の搬送方向Dxの位置に応じてパラメータを変化させる。
【0105】
(3)上記各実施例において、ドット形成状態決定のための処理で利用されるパラメータ(例えば、図8(A)の振幅係数データ134a、図7、図8(B)の乱数値RNDの定義域幅RNDW、または、図11、図12のマトリクス136A〜136F)は、シート(印刷媒体)の種類毎に、準備されてもよい。シートの種類は、例えば、「光沢紙」や「マット紙」といった一般的な種類の中から選択されてもよく、また、シートの型番によって種類が特定されてもよい。補正済データ生成部M104は、シートの種類に対応付けられたパラメータを利用する。こうすれば、補正済データ生成部M104は、シートの種類に適した補正を行うことができる。
【0106】
また、図示しないサーバが、複数種類のシートのための複数種類のパラメータを、メモリ(例えば、不揮発性メモリ)に格納してもよい。そして、印刷制御装置に補正用データ取得部(図示省略)を設け、補正用データ取得部が、ユーザによって指定された種類のシートに対応付けられたパラメータを、ネットワークを介して、上記サーバから取得してもよい。
【0107】
(4)印刷実行部の構成としては、上記各実施例の印刷実行部200の構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、印刷実行部が利用可能なインクとしては、CMYKの4種類のインクに限らず、1以上の種々のインクを採用可能である。また、図3で説明したドットの位置ズレは、双方向印刷を行う場合に限らず、単方向印刷を行う場合にも、生じ得る。従って、上述した各実施例の補正済画像データ生成処理を、単方向印刷を行う印刷実行部に適用してもよい。また、ドット形成状態の総数としては、2または4に限らず、2以上の種々の数を採用可能である。
【0108】
(5)上記各実施例において、シート搬送部260の構成としては、図1、図2に示す構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、低支持部265aが省略されてもよい。また、押圧部269は、種々の部材を用いて構成されてよく、例えば、硬質樹脂部材を用いて構成されてもよく、板バネ等の弾性体を用いて構成されてもよい。また、支持部265a、265bの第1部分265a1、265b1の代わりに、第1ローラ261と対向する従動ローラが設けられてもよい。同様に、第5部分265a5、265b5の代わりに、第2ローラ262と対向する従動ローラが設けられてもよい。
【0109】
(6)上記各実施例において、基準ギャップGPs、GPsa、GPsbは、印刷結果を利用して特定することができる。すなわち、第1方向Dyの位置Pyが互いに異なる複数の直線(搬送方向Dxに沿って延びる直線)を表す画像データを用いて印刷を行う。ギャップが基準ギャップに近い印刷領域(位置Py)では、ドットの位置ズレが小さいので、直線がはっきりと印刷される。一方、ギャップが基準ギャップから遠い印刷領域(位置Py)では、ドットの位置ズレが大きいので、直線がぼやけて印刷される。このように、直線がはっきりと印刷された位置Pyにおけるギャップが、基準ギャップである。また、第1種領域と第2種領域とは、以下のように特定することができる。すなわち、第1種領域は、第2種領域と比べて、実際のギャップと特定された基準ギャップとの間の差の絶対値が大きい領域である。
【0110】
(7)上記各実施例において、制御装置100と、印刷実行部200とが、互いに異なる筐体に収容された独立の装置として、実現されてもよい。また、上記各実施例において、ネットワークを介して互いに通信可能な複数のコンピュータが、印刷のための画像処理に要する機能を一部ずつ分担して、全体として、印刷のための画像処理の機能を提供してもよい。このように、印刷制御装置(例えば、制御装置100)は、複数のコンピュータを含むコンピュータシステムによって構成されてもよい(このようなコンピュータシステムを利用する技術は、クラウドコンピューティングとも呼ばれる)。
【0111】
(8)上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、図1の補正済データ生成部M104の機能を、論理回路を有する専用のハードウェア回路によって実現してもよい。
【0112】
また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含んでいる。
【0113】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0114】
100...制御装置、110...CPU、120...揮発性メモリ、130...不揮発性メモリ、132...プログラム、134a...振幅係数データ(補正用データ)、136、136A〜136F...マトリクス、170...操作部、180...表示部、190...通信部、200...印刷実行部、210...制御回路、212...移動制御部、214...ヘッド駆動部、216...搬送制御部、240...ヘッド移動部、242...移動モータ、244...支持軸、250...印刷ヘッド、250n...ノズル、260...シート搬送部、261...第1ローラ、262...第2ローラ、263...搬送モータ、265...シート台、265a...低支持部、265b...高支持部、269...押圧部、300...シート、300f...基準シート、300s...基準面、300sa...基準面、300sb...基準面、600...印刷装置、M100...プリンタドライバ、M104...補正済データ生成部、M106...補正済データ供給部、EB...誤差バッファ、np...ノズル面、Dy...第1方向、Dx...搬送方向(第2方向)、
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷のための画像処理に関し、特に、印刷時にシートが変形された状態で搬送される場合の画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
インクドットを記録媒体(例えば、紙)に形成する印刷が知られている。このような印刷では、記録媒体が、インクドットの形成に起因して、プラテンから記録ヘッド方向へ浮く場合がある。例えば、記録媒体が、丸まってしまい、プラテンから記録ヘッド方向へ浮く場合がある。高品位な印刷結果を得るために、このような記録媒体の浮きを抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、記録媒体を波打ち形状にすることによって、記録媒体を記録ヘッド方向に浮かなくする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−138923号公報
【特許文献2】特開2004−106978号公報
【特許文献3】特開2007−59972号公報
【特許文献4】特開平07−285251号公報
【特許文献5】特開2001−261188号公報
【特許文献6】特開2004−122609号公報
【特許文献7】特開2003−040507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、記録媒体(シートとも呼ぶ)を波状に変形させた状態で搬送する場合には、印刷ヘッドとシートとの間の距離が、シート上の位置に依存して異なり得る。この結果、シートの波状の変形に起因して、印刷済み画像にムラが生じる可能性があった。
【0005】
本発明の主な利点は、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像のムラを抑制することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]第1方向に沿って前記シートを波状に変形させた状態で、前記シートを前記第1方向と交差する第2方向に搬送するシート搬送部と、液滴を吐出する複数のノズルを有する印刷ヘッドと、前記第1方向と平行に前記印刷ヘッドを移動させるヘッド移動部と、前記印刷ヘッドの移動中に前記印刷ヘッドを駆動することによって前記波状に変形したシートに向かって前記液滴を吐出させる印刷ヘッド駆動部と、を含む印刷実行部に、印刷を実行させる印刷制御装置であって、補正処理を実行することによって、入力画像データから補正済画像データを生成する処理を実行する補正済データ生成部と、前記補正済画像データを前記印刷実行部に供給する補正済データ供給部と、を備え、前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、前記シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して前記補正済画像データを生成する処理を含み、前記複数の第1種領域と前記複数の第2種領域とは前記第2方向に沿って延びる領域であり、前記各第1種領域と前記各第2種領域とは前記第1方向に沿って交互に並んでいる、印刷制御装置。
【0008】
この構成によれば、仮に、入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像との間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、入力画像データを利用する補正処理が実行されて補正済画像データが生成される。このため、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができ、この結果、粒状性ムラを抑制することができる。
【0009】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、印刷制御方法および印刷制御装置、印刷方法および印刷装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体(例えば、一時的ではない記録媒体)、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としての印刷装置600のブロック図である。
【図2】印刷装置600の説明図である。
【図3】液滴D1、D2の着弾位置を示す説明図である。
【図4】粒状性ムラの例を示す概略図である。
【図5】印刷処理のフローチャートである。
【図6】ハーフトーン処理の概略図である。
【図7】ハーフトーン処理のフローチャートである。
【図8】乱数値RNDを利用する補正処理の説明図である。
【図9】ドット形成状態の決定例を示す。
【図10】印刷処理における粒状性の変化例を示す概略図である。
【図11】第2実施例におけるハーフトーン処理の概略図である。
【図12】第2実施例におけるハーフトーン処理のフローチャートである。
【図13】第2実施例におけるハーフトーン処理の説明図である。
【図14】ドット形成状態の総数が2である場合のドット形成状態の決定例を示す。
【図15】基準ギャップの別の実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1実施例:
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、本発明の一実施例としての印刷装置600のブロック図である。この印刷装置600は、制御装置100と、印刷実行部200と、を含む。
【0012】
制御装置100は、印刷装置600の動作を制御するコンピュータである。制御装置100は、CPU110と、DRAM等の揮発性メモリ120と、EEPROM等の不揮発性メモリ130と、タッチパネル等の操作部170と、液晶ディスプレイ等の表示部180と、外部装置との通信のためのインタフェースである通信部190と、を備える。通信部190は、例えば、いわゆるUSBインタフェース、または、IEEE802.3に準拠したインタフェースであってよい。
【0013】
不揮発性メモリ130は、プログラム132と、補正用データ134aと、マトリクス136と、を格納している。CPU110は、プログラム132を実行することによって、プリンタドライバM100の機能を含む種々の機能を実現する。プリンタドライバM100は、印刷対象の画像データ(「対象画像データ」とも呼ぶ)を利用して、印刷実行部200に印刷を実行させる。対象画像データは、例えば、外部装置(例えば、コンピュータまたはUSBフラッシュメモリ)から印刷装置600に供給された画像データである。
【0014】
本実施例では、プリンタドライバM100は、補正済データ生成部M104と、補正済データ供給部M106と、を含む。補正済データ生成部M104は、補正用データ134aを利用して補正処理を実行することによって、対象画像データから補正済の印刷データ(「補正済画像データ」とも呼ぶ)を生成する。補正済データ供給部M106は、補正済画像データを印刷実行部200に供給する。印刷実行部200は、受信した補正済画像データに従って、印刷を実行する。
【0015】
印刷実行部200は、インクの液滴をシート(印刷媒体)に向かって吐出することによって、シート上にドットを形成する。印刷済画像は、ドットのパターンによって表される。印刷実行部200は、制御回路210と、印刷ヘッド250と、ヘッド移動部240と、シート搬送部260と、を含む。印刷ヘッド250の底面には、インクの液滴を吐出する複数のノズルが設けられている(図示省略)。本実施例では、印刷ヘッド250は、シアンとマゼンタとイエロとブラックとの4種類のインクを吐出可能である。シート搬送部260は、シートを、所定の搬送方向に搬送する。ヘッド移動部240は、印刷ヘッド250を、搬送方向と直交する方向に移動させる。印刷ヘッド250が、シートと対向する位置を移動しつつインクの液滴をシートに向かって吐出する動作と、シート搬送部260が、シートを搬送する動作と、の繰り返しによって、画像の印刷が進行する。制御回路210は、ヘッド移動部240を制御する移動制御部212と、印刷ヘッド250を制御するヘッド駆動部214と、シート搬送部260を制御する搬送制御部216と、を含む。制御回路210は、制御装置100からの補正済画像データ(印刷データ)に従ってヘッド移動部240と、印刷ヘッド250と、シート搬送部260と、を制御する。
【0016】
図2(A)は、印刷装置600の斜視図を示す。図中には、3つの方向Dx、Dy、Dzが示されている。2つの方向Dx、Dyは、それぞれ、水平な方向であり、Dz方向は、鉛直上方向である。Dy方向は、Dx方向と直交する方向である。Dy方向は、印刷ヘッド250の移動方向と平行である(以下、Dy方向を「第1方向Dy」とも呼ぶ)。Dx方向は、シート300の搬送方向と同じである(以下、Dx方向を「搬送方向Dx」または「第2方向Dx」とも呼ぶ)。以下、Dx方向を「+Dx方向」とも呼び、Dx方向の反対方向を「−Dx方向」とも呼ぶ。+Dy方向、−Dy方向、+Dz方向、−Dz方向についても、同様である。
【0017】
シート搬送部260は、搬送モータ263と、第1ローラ261と、第2ローラ262と、シート台265と、押圧部269と、を含む。シート台265は、シート300を、下面から、おおよそ水平に、支持する。2つのローラ261、262は、シート台265の上面と対向する位置に、配置されている。第1ローラ261は、シート台265の−Dx方向側の部分と対向し、第2ローラ262は、シート台265の+Dx方向側の部分と対向する。各ローラ261、262は、Dy方向と平行なローラであり、搬送モータ263によって、回転駆動される。シート300は、ローラ261、262とシート台265との間に挟持され、回転するローラ261、262によって搬送方向Dxに搬送される。
【0018】
本実施例では、印刷装置600が、特定サイズの長方形シート(例えば、A4サイズの紙)に印刷を行う場合には、長方形シートの短辺が搬送方向Dxと平行であり、長辺が第1方向Dyと平行となるように、シートが配置される。この結果、シートの長辺が搬送方向Dxと平行である場合と比べて、印刷装置600の搬送方向Dxのサイズを小さくすることができる。
【0019】
ヘッド移動部240は、移動モータ242と、支持軸244と、を含む。支持軸244は、第1ローラ261と第2ローラ262との間に配置され、第1方向Dyと平行に延びる。支持軸244は、印刷ヘッド250を、支持軸244に沿ってスライド可能に、支持する。移動モータ242は、図示しないベルトによって印刷ヘッド250に接続されている。移動モータ242は、印刷ヘッド250を、第1方向Dyと平行に、移動させる。本実施例では、ヘッド駆動部214(図1)は、印刷ヘッド250が第1方向Dyに移動する最中と、印刷ヘッド250が第1方向Dyの反対方向(−Dy方向)に移動する最中と、のそれぞれにおいて、印刷ヘッド250を駆動して液滴を吐出させる(双方向印刷)。
【0020】
図2(B)は、ヘッド移動部240とシート搬送部260との拡大斜視図を示す。図中では、シート台265の搬送方向Dxと垂直な断面(2つのローラ261、ローラ262の間の位置の断面)も示されている。図示するように、シート台265は、複数の低支持部265aと、複数の高支持部265bと、を含む。高支持部265bは、低支持部265aと比べて、高い位置でシート300を支持する。低支持部265aと高支持部265bとは、第1方向Dyに沿って交互に並んで配置されている。図2(C)は、高支持部265bの断面図を示し、図2(D)は、低支持部265aの断面図を示す。図2(C)、図2(D)は、いずれも、搬送方向Dxと鉛直上方向Dzとに平行な断面を示す。
【0021】
図2(C)に示すように、高支持部265bは、−Dx方向側から+Dx方向側に並んで配置された5つの部分265b1〜265b5を含む。第1部分265b1は、第1ローラ261と対向する部分であり、第3部分265b3は、印刷ヘッド250(複数のノズル250n)と対向する部分であり、第5部分265b5は、第2ローラ262と対向する部分である。これら3つの部分265b1、265b3、265b5は、それぞれ、同じ高さの上面を有し、シート300を下面から支持する(以下、これらの部分の上面の高さを「基準高さSH」と呼ぶ)。残りの2つの部分265b2、265b4は、基準高さSHよりも下方に凹んでおり、シート300から離れている。なお、図示するように、印刷ヘッド250には、搬送方向Dxの位置が互いに異なる複数のノズル250nが設けられている。本実施例では、CMYKのインク毎に、そのような複数のノズル250nが設けられている。
【0022】
図2(D)に示すように、低支持部265aは、−Dx方向側から+Dx方向側に並んで配置された5つの部分265a1〜265a5を含む。第1部分265a1と第5部分265a5とは、図2(C)の第1部分265b1と第5部分265b5と、それぞれ同じである。第3部分265a3は、図2(C)の第3部分265b3と同様に、印刷ヘッド250(複数のノズル250n)と対向する。ただし、第3部分265a3の上面の高さは、基準高さSHよりも低い。また、第3部分265a3の上面は、−Dx側から+Dx側へ向けて斜め上方向に傾斜している(第2ローラ262に近いほど、高い)。残りの2つの部分265a2、265a4は、基準高さSHよりも下方に凹んでおり、シート300から離れている。
【0023】
第2部分265a2の上方には、押圧部269が配置されている。押圧部269は、第1部分265a1の上面と対向する位置から、搬送方向Dx側に向けて、斜め下方向に傾斜して延びる。押圧部269の搬送方向Dx側の端の高さは、基準高さSHよりも低い。第1ローラ261と第1部分265a1との間から送り出されたシート300は、押圧部269によって曲げられて、基準高さSHよりも下方に送られる。押圧部269の搬送方向Dx側では、シート300は、第3部分265a3に下面を支持されて、徐々に基準高さSHに近づく。ただし、印刷ヘッド250(複数のノズル250n)と対向する位置では、シート300の高さは、基準高さSHよりも低い。第3部分265a3の搬送方向Dx側では、シート300は、第2ローラ262と第5部分265a5とに挟まれる。
【0024】
図2(B)に示すように、本実施例では、押圧部269および低支持部265aと、高支持部265bと、が第1方向Dyに沿って交互に並ぶ。これにより、シート搬送部260は、第1ローラ261と第2ローラ262との間で搬送方向Dxと交差する第1方向Dyに沿って波状に変形させた状態で、シート300を搬送方向Dxに搬送する。シート300を波状に変形させる理由は、シート300が丸まることに起因してシート300がシート台265から印刷ヘッド250側へ浮き上がることを抑制するためである。シート300が変形せずに平らなまま搬送されると仮定すると、ノズル250nからインクの液滴を受けたシートが、図2(C)の符号302で示すように意図せずに変形する可能性がある。このような意図しない変形は、印刷不良を引き起こし得る。特に、本実施例では、長方形シートの短辺が搬送方向Dxと平行であり、長辺が第1方向Dyと平行である。この場合には、長辺が搬送方向Dxと平行である場合と比べて、意図しない変形が生じる可能性が高い。そこで、本実施例の印刷装置600は、搬送方向Dxと交差する第1方向Dyに沿って波状にシート300を変形させることによって、意図しない変形を抑制する。
【0025】
図3は、印刷ヘッド250から吐出された液滴D1、D2の、シート上の着弾位置(第1方向Dyの位置)を示す。第1液滴D1は、+Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴を示し、第2液滴D2は、−Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴を示す。また、図3(A)は、変形せずに平らなシート300f(以下、「基準シート300f」とも呼ぶ)に印刷を行う仮想的な場合を示し、図3(B)は、波状に変形した実施例のシート300に印刷を行う場合を示す。
【0026】
ノズル250nは、鉛直下方に向けて、液滴D1、D2を吐出する。また、ノズル250nは、液滴D1、D2の吐出時に、シート300、300fの上方で、水平に移動する。従って、シート300、300fから見ると、液滴D1、D2は、印刷ヘッド250の移動方向に向かって、斜めに飛ぶ。図3(A)に示すように、同じ目標位置Py1にドットを形成するためには、+Dy方向に移動する印刷ヘッド250は、目標位置Py1よりも−Dy方向側の位置で第1液滴D1を吐出し、−Dy方向に移動する印刷ヘッド250は、目標位置Py1よりも+Dy方向側の位置で第2液滴D2を吐出する。このように、液滴D1、D2の吐出タイミングが調整される。
【0027】
図3(A)中のギャップGPsは、ノズル面npと基準シート300fとの間のギャップを示す。ここで、ノズル面npは、複数のノズル250nの位置を含む平面であり、移動するノズル250nが通過し得る位置を含む平面である。本実施例では、ノズル面npは、おおよそ水平な平面である。ギャップは、ノズル面npと垂直に測定した、ノズル面npとシートとの間の距離である。以下、基準シート300fのギャップGPsを、基準ギャップGPsとも呼ぶ。
【0028】
図3(B)に示すように、実際に利用されるシート300は、第1方向Dyに沿って波状に変形している。本実施例では、シート300における最も高い部分(高支持部265bに支持される部分)のギャップが、基準ギャップGPsと同じである。以下、基準シート300fに相当する平面300sを「基準面300s」と呼ぶ。基準面300sの高さは、図2(C)、図2(D)の基準高さSHと同じである。
【0029】
図示するように、シート300上の領域は、第1方向Dyに沿って交互に並ぶ第1種領域A1と第2種領域A2とに区分される。第1種領域A1は、押圧部269によって押さえられる部分を含む領域である。第2種領域A2は、高支持部265bによって支持される部分を含む領域である。
【0030】
本実施例においても、ノズル250nから基準ギャップGPsだけ離れた平らな基準面300sに印刷することを想定して、液滴D1、D2の吐出タイミングが調整される。図3(B)には、図3(A)と同じ目標位置Py1にドットを形成するために吐出された液滴D1、D2が示されている。基準面300sから遠い第1種領域A1に印刷を行う場合には、液滴D1、D2の着弾位置は、目標位置Py1からズレてしまう。第1液滴D1の着弾位置は、目標位置Py1から印刷ヘッド250の移動方向側(+Dy方向側)にズレた位置であり、第2液滴D2の着弾位置は、目標位置Py1から印刷ヘッド250の移動方向側(−Dy方向側)にズレた位置である。このようなドットの位置ズレは、ノズル面npとシート300との間のギャップと、基準ギャップGPsと、の間の差が大きいほど、大きい。
【0031】
一般に、画像を印刷するために、互いに離れた複数のドットが形成される。ここで、ギャップと基準ギャップGPsとの差が大きい場合には、ドットの位置ズレに起因して、一部のドットが他のドットに近づく場合があり、さらに、一部のドットが他のドットと繋がる場合がある。この結果、ドットの位置ズレが無い場合と比べて、印刷済画像が粗く見える場合がある(印刷済画像を表す粒(ドット)のパターンが粗く見える場合がある)。このような粒状性の変化は、基準面300sに近い第2種領域A2と比べて、基準面300sから遠い第1種領域A1の方が、大きい。印刷済画像の観察者は、第1種領域A1と第2種領域A2との間の粒状性の差を、粒状性ムラとして、認識する。
【0032】
図4は、粒状性ムラの例を示す概略図である。図4(A)は、対象画像データId(印刷対象の画像データ)を示す。対象画像データIdは、階調値の均一な画像Idiを表す。図4(B)は、対象画像データIdを、補正せずに、波状に変形したシート上に印刷して得られる、印刷済画像Ipを示す。図示するように、第1種領域A1と第2種領域A2との間で、粒状性ムラが生じる。このような粒状性ムラを抑制するために、印刷装置600(図1)は、印刷のための画像処理において、補正用データ134aを利用した画像補正を行う。
【0033】
なお、第1種領域A1と第2種領域A2とは、ノズル面np(図3(B))から、押圧部269の最も低い部分と高支持部265bの上面との間の位置までのギャップ(「ギャップ閾値GPth」と呼ぶ)を用いて、区別することができる。すなわち、第1種領域A1は、ギャップがギャップ閾値GPth以上の範囲内にある領域である。第2種領域A2は、ギャップがギャップ閾値GPth未満の範囲内にある領域である。ギャップ閾値GPthは、例えば、押圧部269の最も低い部分と高支持部265bの上面との間の中間の高さに相当するギャップであり得る。
【0034】
次に、補正用データ134aを利用した印刷について説明する。図5は、印刷装置600(図1)によって実行される印刷処理のフローチャートである。プリンタドライバM100は、ユーザの指示(例えば、ユーザによる操作部170の操作や、通信部190に接続されたコンピュータ(図示せず)からのコマンド)に応じて、印刷処理を開始する。プリンタドライバM100は、印刷対象の対象画像データを、通信部190に接続された外部装置から取得する。
【0035】
最初のステップS200では、補正済データ生成部M104(図1)は、対象画像データを、ビットマップデータに変換する(ラスタライズ処理)。ビットマップデータに含まれる画素データは、例えば、赤(R)と緑(G)と青(B)の3つの色成分の階調値(例えば、0〜255の256階調)で画素の色を表すRGB画素データである。また、ビットマップデータの画素密度は、印刷解像度(ドットの最高密度)と同じである。
【0036】
次のステップS210では、補正済データ生成部M104(図1)は、ビットマップデータに含まれるRGB画素データを、シアンとマゼンタとイエロとブラックとの4つの色成分の階調値(ドット形成状態の総数(本実施例では、4値)よりも多い階調数。例えば、0〜255の256階調)で画素の色を表すCMYK画素データに変換する(色変換処理)。色変換処理は、RGB画素データとCMYK画素データとを対応付けるルックアップテーブルを用いて行われる。
【0037】
次のステップS220では、補正済データ生成部M104(図1)は、CMYK画素データを含むビットマップデータを、各画素毎のドットの形成状態を表すドットデータに変換する(ハーフトーン処理)。本実施例では、補正済データ生成部M104は、マトリクス136を利用した誤差拡散法に従って、ドットデータを生成する。このステップS220の詳細については、後述する。
【0038】
次のステップS230では、補正済データ生成部M104(図1)は、ドットデータから印刷データを生成する。印刷データは、印刷実行部200によって解釈可能なデータ形式で表されたデータである。本実施例では、補正済データ生成部M104は、いわゆる双方向印刷を実行するように、印刷データを生成する。
【0039】
次のステップS240では、補正済データ供給部M106は、印刷データを印刷実行部200に供給する。印刷実行部200は、受信した印刷データに従って、画像を印刷する。
【0040】
図6は、ハーフトーン処理の概略図であり、図7は、ハーフトーン処理のフローチャートである。以下、図7のフローチャートに沿って、説明を行う。図7の処理は、インク色毎、かつ、画素毎に、実行される。この処理によって、画素毎のドット形成状態が決定される。本実施例では、ドット形成状態は、互いにインク量(すなわち、ドットのサイズ(ドットによって表現される濃度))の異なる以下の4つの状態の中から決定される。
A)大ドット
B)中ドット(中ドットの濃度<大ドットの濃度)
C)小ドット(小ドットの濃度<中ドットの濃度)
D)ドット無し
【0041】
最初のステップS504では、補正済データ生成部M104(図1)は、マトリクス136(図1)と、誤差バッファEB(図6)と、を用いて、処理対象の画素(注目画素)の誤差値Etを算出する。後述するように、誤差バッファEBは、各画素における濃度誤差(階調の誤差値)を格納している。誤差バッファEBは、揮発性メモリ120(図1)に、設けられている。マトリクス136は、注目画素の周辺の所定の相対位置に配置された画素に、ゼロより大きい重みを割り当てている。図6のマトリクス136では、記号「+」が注目画素を表し、周辺の画素に重みa〜mが割り当てられている。重みa〜mの合計は1である。補正済データ生成部M104は、この重みに従って、周辺の画素の誤差値の重み付き和を、注目画素の誤差値Etとして算出する。
【0042】
次のステップS506では、補正済データ生成部M104は、誤差値Etと、注目画素の階調値(以下、入力階調値Vinとも呼ぶ。例えば、シアンの階調値)との和を、第1階調値Vaとして算出する。なお、図6に示すマトリクス136は、−Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合のマトリクスである。+Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合には、注目画素を中心に第1方向Dyの相対位置を反転させたマトリクスが利用される。
【0043】
次のステップS508では、補正済データ生成部M104は、補正用データ134aを参照し、注目画素の第1方向Dyの位置に応じて、乱数値RNDを生成する。図8(A)は、補正用データ134a(以下、「振幅係数データ134a」と呼ぶ)を示すグラフである。横軸は第1方向Dyの位置Pyを示し、縦軸は振幅係数Amcを示す。後述するように、振幅係数Amcは、乱数値RNDを生成する場合の、乱数値RNDの取り得る値の範囲(以下、乱数値RNDの定義域と呼ぶ)の大きさを表す係数である(振幅係数Amcが大きいほど、定義域が大きくなる)。
【0044】
図8(A)に示すように、本実施例では、押圧部269の位置Pya1〜Pya6では、振幅係数Amcは「0」に設定され、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7では、振幅係数Amcは「1」に設定される。すなわち、ギャップが、図3の基準面300sのギャップ(基準ギャップGPs)と同じである位置Pyでは、振幅係数Amcは、「1」である。他の位置Pyでは、振幅係数Amcは、線形補間によって決定される。振幅係数データ134aは、各位置Pya1〜Pya6、Pyb1〜Pyb7の振幅係数Amcを表すテーブルデータである。
【0045】
なお、他の位置Pyの振幅係数Amcは、線形補間に限らず、他の種々の補間(例えば、スプライン関数や正弦関数を用いた補間)によって決定されてもよく、また、変形したシートの実際の形状に応じて決定されてもよい。一般的には、振幅係数データ134aとしては、第1方向Dyの印刷位置が第1種領域A1内にある場合と第2種領域A2内にある場合とで補正量(粒状性の変化量)が異なるように、補正量の印刷位置依存性を規定するデータを採用可能である。ここで、振幅係数データ134aは、第2種領域A2において、第1種領域A1と比べて、印刷済画像が相対的に粗くなるような補正量を規定することが好ましい。また、振幅係数データ134aは、振幅係数Amcと位置Pyとの関係を定める他の任意の形式のデータであってよい(例えば、振幅係数Amcと位置Pyとの関係を定めるルックアップテーブル)。なお、振幅係数データ134aは、予め決められている。
【0046】
図8(B)は、振幅係数Amcと、乱数値RNDの定義域RRと、の関係を示すグラフである。横軸は、振幅係数Amcを示し、縦軸は、乱数値RNDを示す。下限RNDLと上限RNDHとは、それぞれ、乱数値RNDの定義域RRの下限と上限とを、示す。図中では、定義域RRにハッチングが付されている。本実施例では、下限RNDLは、「0.0」に固定されている。上限RNDH(>下限RNDL)は、振幅係数Amcと正比例である。従って、定義域RRの幅RNDWは、振幅係数Amcが大きいほど、広い。本実施例では、振幅係数Amcが「0」の場合に上限RNDHは85であり、振幅係数Amcが「1」の場合に上限RNDHは175である。
【0047】
図8(C)は、定義域RRの位置依存性を示すグラフである。横軸は、第1方向Dyの位置Pyを示し、縦軸は、乱数値RNDを示す。図中では、定義域RRにハッチングが付されている。上述したように、振幅係数Amcは、第1方向Dyの位置Pyに応じて変化するので、定義域RRも、位置Pyに応じて変化する。図示するように、押圧部269の位置Pya1〜Pya6を含む第1種領域A1では、定義域RRが狭く、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7の位置を含む第2種領域A2では、定義域RRが広い。
【0048】
以上のように、補正済データ生成部M104は、注目画素の位置Pyに応じて振幅係数Amcを決定し、決定された振幅係数Amcに応じて定義域RRを決定し、決定された定義域RR内で乱数値RNDを生成する。乱数値RNDの生成は、画素毎に行われる。本実施例では、乱数値RNDは、定義域RR内で一様に分布する。
【0049】
図7の続くステップS510〜S540では、補正済データ生成部M104は、第1階調値Vaと、乱数値RNDと、3つの基準閾値Th1〜Th3と、を利用した大小関係に基づいて、注目画素のドット形成状態を決定する。本実施例では、入力階調値Vinは、0〜255の256段階で表される。第1基準閾値Th1は、小ドットを出力するための閾値の基準である(例えば、ゼロ)。第1補正済閾値Th1rは、「第1基準閾値Th1+乱数値RND」である。第2基準閾値Th2は、中ドットを出力するための閾値の基準である(例えば、84)。第2補正済閾値Th2rは、「第2基準閾値Th2+乱数値RND」である。第3基準閾値Th3は、大ドットを出力するための閾値の基準である(例えば、170)。第3補正済閾値Th3rは、「第3基準閾値Th3+乱数値RND」である。
【0050】
補正済データ生成部M104は、以下のように、ドット形成状態を決定する。
A)第1階調値Va>第3補正済閾値Th3r(S510:Yes):ドット形成状態=「大ドット」(S515)
B)第1階調値Vaが第3補正済閾値Th3r以下であり、かつ、第1階調値Va>第2補正済閾値Th2r(S520:Yes):ドット形成状態=「中ドット」(S525)
C)第1階調値Vaが第2補正済閾値Th2r以下であり、かつ、第1階調値Va>第1補正済閾値Th1r(S530:Yes):ドット形成状態=「小ドット」(S535)
D)第1階調値Vaが第1補正済閾値Th1r以下である(S530:No):ドット形成状態=「ドット無し」(S540)
【0051】
このように、本実施例では、補正済データ生成部M104(図1)は、乱数値RNDを利用して、閾値を補正する。そして、補正済データ生成部M104は、入力階調値Vinと、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rと、の間の大小関係に基づいて、注目画素のドット形成状態を決定する。本実施例では、図7に示す処理(ドット形成状態の決定)が、補正処理(画像補正)の例である。以下、補正処理の対象の画像データ(ここでは、CMYKのビットマップデータ)を、「入力画像データ」とも呼ぶ。また、補正処理から印刷データの生成までの一連の処理(図5のS220、S230)の全体が、「補正処理を実行することによって、入力画像データから補正済画像データ(具体的には、補正済の印刷データ)を生成する処理」の例である(以下、「補正済画像データ生成処理」、より具体的に、「補正済印刷データ生成処理」とも呼ぶ)。
【0052】
3つの図8(D)、図8(E)、図8(F)は、3つの閾値Th3r、Th2r、Th1rの位置依存性をそれぞれ示すグラフである。横軸は、第1方向Dyの位置Pyを示し、縦軸は、補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rを示している。図中では、各補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rの取り得る値の範囲に、ハッチングが付されている(以下、「閾値範囲TR3、TR2、TR1」と呼ぶ)。各閾値範囲TR3、TR2、TR1は、乱数値RNDの定義域RRと同様に、位置Pyに応じて変化する。すなわち、押圧部269の位置Pya1〜Pya6を含む第1種領域A1では、各閾値範囲TR3、TR2、TR1が狭く、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7の位置を含む第2種領域A2では、各閾値範囲TR3、TR2、TR1が広い。このように、位置Pyに依存して変化する閾値範囲TR3、TR2、TR1と、印刷済画像の粒状性との関係については、後述する。
【0053】
ドット形成状態の決定の次のステップS550(図7)では、補正済データ生成部M104は、決定されたドット形成状態に対応付けられた階調値(ドット階調値Vbと呼ぶ)を取得する。本実施例では、以下のようにドット階調値が設定されている。
A)大ドット:ドット階調値Vb=255
B)中ドット:ドット階調値Vb=170
C)小ドット:ドット階調値Vb=84
D)ドット無し:ドット階調値Vb=ゼロ
ドット階調値Vbは、ドット形成状態によって表される階調値(濃度)を表している。このような対応関係は、ドット階調値テーブルとして、補正済データ生成部M104に予め組み込まれている。
【0054】
次のステップS570では、補正済データ生成部M104は、対象誤差値Eaを算出する。対象誤差値Eaは、以下の式で表される。
対象誤差値Ea=第1階調値Va−ドット階調値Vb
補正済データ生成部M104は、算出した対象誤差値Eaを、注目画素の誤差値として、誤差バッファEBに登録する。
【0055】
以上のように、補正済データ生成部M104は、各印刷画素のドット形成状態を、インク色毎に、決定する。
【0056】
図9は、ドット形成状態の決定例を示す。図9(A)の決定例は、第1種領域A1における決定例を示している。図9(A)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜85であり、定義域幅RNDWは比較的狭い(85)。図9(B)の決定例は、第2種領域A2における決定例を示している。図9(B)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜175であり、定義域幅RNDWが比較的広い(175)。これらの図は、16個の画素が第1方向Dyに並んで形成された画素ラインの決定例を示している。図中には、入力階調値Vinと、第1階調値Vaと、乱数値RNDと、補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rと、ドット形成状態DSと、ドット階調値Vbと、対象誤差値Eaと、が示されている。ドット形成状態DSの欄には、「ドット無し」、「小ドットdt1」、「中ドットdt2」、「大ドットdt3」のいずれかのシンボル(「ドット無し」は空欄)示されている。
【0057】
ここで、入力階調値Vinは、全ての画素で同じ値(120)であることとしている。また、説明を簡単にするために、或る画素で生じた誤差の全てが、+Dy方向に隣接する画素の第1階調値Vaに、加算されると仮定している。例えば、図9(A)に示すように、上から2番目の第2画素P2の第1階調値Vaは、その画素P2の入力階調値Vin(120)と、1つ上の第1画素P1で生じた対象誤差値Ea(36)との、和(156)である。
【0058】
定義域幅RNDWが狭い場合には、広い場合と比べて、大きい(濃度が高い)ドットが形成され難い。例えば、図9(A)に示す例では、ドット形成状態DSは、「小ドットdt1」と「中ドットdt2」とのいずれかである。濃度が最も高い「大ドットdt3」の画素は、存在しない。全画素数(16)に対する大ドットdt3の画素数(0)の割合は、ゼロ(0/16)である。従って、このドット形成状態のパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が比較的細かく見える。また、濃度が最も薄い「ドット無し」の画素も、存在しない。全画素数(16)に対する「ドット無し」の画素数(0)の割合は、ゼロ(0/16)である。従って、ドット形成状態のパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が、比較的均等に分布しているように見える(印刷済画像が滑らかに見える)。このように、定義域幅RNDWが比較的狭い場合には、ドットパターンは細かく見える。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「122」である。
【0059】
一方、定義域幅RNDWが広い場合には、狭い場合と比べて、大きい(濃度が高い)ドットが形成され易い。例えば、図9(B)に示す例では、定義域幅RNDWが比較的狭い場合(図9(A))と比べて、大ドットdt3の画素数の割合が増大する(3/16=0.19)。従って、このドット形成状態のパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が、比較的粗く見える。また、図9(B)の決定例では、定義域幅RNDWが比較的狭い場合(図9(A))と比べて、「ドット無し」の画素数の割合が増大する(5/16=0.31)。従って、ドット形成状態のパターンの観察者は、画像を表す粒(ドット)が、均等に分布せずに、局所的に偏っているように見える。このように、定義域幅RNDWが比較的広い場合には、ドットパターンが粗く見える。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「117」である。
【0060】
このように、図9(A)と図9(B)との間では、ドット形成状態のパターンが異なる(すなわち、粒状性が異なる)。乱数値RNDの定義域幅RNDWが大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンを粗くすることができる。この理由は、以下の通りである。乱数値RNDが大きい場合には、小さい場合と比べて、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rが大きいので、注目画素に生じるドットが小さい(または、ドットが生じない)傾向にある。例えば、図9(B)の第3画素P3の第1階調値Va(164)は、第4画素P4の第1階調値Va(105)よりも大きいにも拘わらず、第3画素P3のドットのサイズ(ドット無し)は、第4画素P4のドットのサイズ(小ドットdt1)よりも小さい。また、ドットが小さいほど、対象誤差値Eaが大きい。従って、乱数値RNDが大きい場合には、注目画素は、周辺の画素に大きな誤差値Eaを分散させることができる。
【0061】
乱数値RNDの大きな画素で生じる大きな誤差値Eaが、乱数値RNDの小さな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが小さい場合であっても、大ドットdt3が形成され得る(例えば、図9(B)の第7画素P7)。このような乱数値RNDに起因する大ドットdt3の形成は、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、促進される。
【0062】
乱数値RNDに起因して注目画素に大ドットdt3が形成されると、周辺の画素のドットのサイズが小さくなる。従って、大ドットdt3の画素数の割合が大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンによって表される濃度の分布が不均等になる。従って、定義域幅RNDWを大きくすることによって、ドットパターンを粗くすることができる。
【0063】
一方、乱数値RNDが小さい場合には、大きい場合と比べて、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rが小さいので、注目画素に生じるドットが大きい傾向にある。例えば、図9(B)の第5画素P5の第1階調値Va(188)は、第6画素P6の第1階調値Va(238)よりも小さいにも拘わらず、第5画素P5のドットのサイズ(大ドットdt3)は、第6画素P6のドットのサイズ(中ドットdt2)よりも、大きい。また、ドットが大きいほど、対象誤差値Eaが小さい。従って、乱数値RNDが小さい場合には、注目画素は、周辺の画素に小さな誤差値Eaを分散させることができる。
【0064】
乱数値RNDの小さな画素で生じる小さな誤差値Eaが、乱数値RNDの大きな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが大きい場合であっても、ドット形成されない場合がある(例えば、図9(B)の第8画素P8)。このような乱数値RNDに起因する「ドット無し」画素の発生は、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、促進される。
【0065】
乱数値RNDに起因して「ドット無し」の画素が生じると、周辺の画素のドットサイズが大きくなる。従って、「ドット無し」の画素数の割合が大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンによって表される濃度の分布が、不均等になる。従って、定義域幅RNDWを大きくすることによって、ドットパターンを粗くすることができる。
【0066】
図10は、印刷処理における粒状性の変化例を示す概略図である。図10(A)は、入力画像データIDin(ハーフトーン処理の対象のCMYKのビットマップデータ)を示す。入力画像データIDinは、階調値の均一な画像を表す(以下、「入力画像Iin」とも呼ぶ)。入力画像Iinは、例えば、図4(A)の画像Idiと同じ画像を表す。図10(B)は、入力画像データIDinを用いたハーフトーン処理(図7:補正処理)を実行することによって生成される補正済の印刷データIDc(補正済画像データIDc)を示す。図中の領域A1、A2と方向Dx、Dyとは、補正済画像データIDcが印刷される場合の印刷済画像に基づく領域A1、A2と方向Dx、Dyとを示している。図8(A)〜図8(F)で説明したように、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広い。そして、図9(A)、図9(B)で説明したように、定義域幅RNDWが広い場合には、狭い場合と比べて、ドット形成状態のパターンが粗い。従って、図10(B)の補正済画像データIDcでは、第2種領域A2のドット形成状態のパターンが、第1種領域A1のドット形成状態のパターンと比べて、粗い(以下、補正済画像データIDcによって表される画像を、「補正済画像Ic」と呼ぶ)。
【0067】
仮に、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合には(例えば、図3(B)の基準シート300fに印刷する場合)、補正済画像データIDcを印刷して得られる印刷済画像は、補正済画像Icと同じである。図10(C)は、このような印刷済画像(補正済画像Ic)における空間周波数スペクトルの概略例を示すグラフである。横軸は、空間周波数SF(単位は、サイクル/ミリメートル)を示し、縦軸は、強度mを示す。第1グラフmcA1は、第1種領域A1の印刷済画像のスペクトルを示し、第2グラフmcA2は、第2種領域A2の印刷済画像のスペクトルを示す。この空間周波数スペクトルは、いわゆるウイナースペクトラムである。このような空間周波数スペクトルは、以下のようにして、得られる。まず、印刷済の補正済画像Icを光学的に読み取ることによって、印刷済の補正済画像Icを表す画像データが生成される。次に、画像データは、L*a*b*空間で色を表す画像データに変換される。次に、L*成分の画像に対して、二次元のFFT(Fast Fourier Transform)が実行される。次に、二次元FFTの結果は、極座標系で表されたデータに変換される。そして、極座標系で表されたデータを、角度についての平均化を利用して、一次元化することによって、図10(C)のスペクトルが得られる。
【0068】
図示するように、第1種領域A1(第1グラフmcA1)と第2種領域A2(第2グラフmcA2)との間では、スペクトルが異なっている。具体的には、第2種領域A2(第2グラフmcA2)では、第1種領域A1(第1グラフmcA1)と比べて、特定の空間周波数SF1よりも低い低周波数成分の強度mが強い。これは、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、ドットパターンが粗く見えることを示している。
【0069】
図10(D)は、仮想印刷済画像IPinの概略図である。仮想印刷済画像IPinは、乱数値RNDを用いた補正を行わずに、入力画像データIDinを用いて、波状に変形したシート上に印刷された印刷済画像を示している。図4(B)で説明したように、第1種領域A1では、第2種領域A2と比べて、印刷済画像が粗く見える。
【0070】
図10(E)は、補正済画像データIDcを、波状に変形したシート上に印刷して得られる印刷済補正画像IPcの概略図である。印刷済補正画像IPcにおける粒状性の変化の位置依存性(第1方向Dyの位置)は、シートの波状の変形に起因する粒状性の変化の位置依存性(図10(D))と、画像補正による粒状性の変化の位置依存性(図10(B))と、を総合して得られる。ここで、図10(D)の仮想印刷済画像IPinにおける粒状性の変化の位置依存性は、図10(B)の補正済画像Icにおける粒状性の変化の位置依存性と、逆である。従って、印刷済補正画像IPcにおいては、第1種領域A1と第2種領域A2との間の粒状性の差が緩和される。すなわち、粒状性のムラは、入力画像データIDinを補正せずに印刷した場合と比べて、小さい。
【0071】
図10(F)は、印刷済補正画像IPcにおける空間周波数スペクトルの概略例を示すグラフである。横軸は、空間周波数SF(単位は、サイクル/ミリメートル)を示し、縦軸は、強度mを示す。第1グラフmpA1は、第1種領域A1の印刷済画像のスペクトルを表し、第2グラフmpA2は、第2種領域A2の印刷済画像のスペクトルを表す。図3(B)で説明したように、第2種領域A2では、シートの波状の変形に起因する粒状性の変化が小さいので、第2グラフmpA2は、図10(C)の第2グラフmcA2と、おおよそ同じである。一方、第1種領域A1では、シートの波状の変形に起因して粒状性が変化する(印刷済画像が粗くなる)ので、第1種領域A1におけるスペクトル(第1グラフmpA1)は、シートが平らな場合の補正済画像Icにおけるスペクトル(図10(C)の第1グラフmcA1)と比べて、第2種領域A2におけるスペクトル(第2グラフmpA2)に近くなる。
【0072】
このように、第1実施例では、図10(B)、図10(C)で説明したように、仮に、入力画像データIDin(図10(A))が階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合には(例えば、図3(B)の基準シート300fに印刷する場合)、印刷済画像において、複数の第1種領域A1に印刷される複数の印刷済部分画像と、複数の第2種領域A2に印刷される複数の印刷済部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、補正処理(図7)が実行されて補正済画像データIDcが生成される。ここで、印刷済画像は、図10(B)に示す補正済画像Icと、同様の画像である。すなわち、複数の第1種領域A1と複数の第2種領域A2とは、搬送方向Dxに沿って延びる領域であり、各第1種領域A1と各第2種領域A2とは、第1方向Dyに沿って交互に並ぶ。従って、シートの波状の変形に起因する印刷済画像の粒状性ムラを低減することができる。特に、本実施例では、第2種領域A2の印刷済部分画像の方が、第1種領域A1の印刷済部分画像と比べて、粗くなるように、補正処理(図7)が実行されて補正済画像データIDcが生成される。従って、シートの波状の変形に起因して、第1種領域A1の印刷済み部分画像が、第2種領域A2の印刷済み部分画像と比べて、粗くなる場合に、第2種領域A2の印刷済み部分画像の粒状性を、第1種領域A1の印刷済み部分画像の粒状性に近づけることができるので、粒状性のムラを、適切に、抑制することができる。
【0073】
また、第1実施例では、図9(A)、図9(B)、図10(A)、図10(B)で説明したように、仮に、入力画像データIDin(図10(A))が階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時にシートが変形せずに平らな状態で搬送される場合には、複数の第1種領域A1の複数の印刷済部分画像と、複数の第2種領域A2の複数の印刷済部分画像と、の間で、濃度が最も高いドット有状態(大ドットdt3)の印刷画素の割合が異なるように、補正処理(図7)が実行されて印刷画素毎のドット形成状態が決定される。従って、第1種領域A1と第2種領域A2とのそれぞれの印刷済部分画像の間で空間周波数スペクトルを異ならせることができる(図10(C))。この結果、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。
【0074】
また、図3には、特定範囲GRがハッチングで示されている。特定範囲GRは、ノズル面npとシートとの間のギャップがギャップ閾値GPth未満の範囲である。図示すように、第1種領域A1は、シート300とノズル250n(ノズル面np)との間のギャップが特定範囲GRの外にある領域であり、第2種領域A2は、ギャップが特定範囲GR内にある領域である。図10(C)に示すように、画像補正(ドット形成状態の決定処理(図7))は、第1種領域A1と第2種領域A2との間で空間周波数スペクトルを異ならせるので、一部の領域(第1種領域A1)のギャップが特定範囲GRから外れることに起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。特に、第2種領域A2のギャップの範囲である特定範囲GRが、ギャップ閾値GPth未満の範囲であるので、比較的ギャップが大きい第1種領域A1と、比較的ギャップが小さい第2種領域A2との間の粒状性ムラを低減することができる。ここで、図9(A)、図9(B)で説明したように、画像補正は、第1種領域A1と比べて、第2種領域A2における最大濃度のドット形成状態の画素数の割合を高くする。従って、シート300の波状の変形に起因して、第1種領域A1の印刷済み部分画像が、第2種領域A2の印刷済み部分画像と比べて、粗くなる場合に、第2種領域A2の印刷済み部分画像の粒状性を、第1種領域A1の印刷済み部分画像の粒状性に近づけることができるので、粒状性ムラを抑制することができる。
【0075】
また、第1実施例では、補正済データ生成部M104(図1)は、図7のハーフトーン処理(補正処理)において、注目画素の入力階調値Vinと、注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値Etと、乱数値RNDと、を用いて、注目画素のドット形成状態と、注目画素のドット形成状態に応じた注目画素の対象誤差値Eaと、を決定する。そして、図8(C)に示すように、補正済データ生成部M104は、誤差拡散法に従ったドット形成状態の決定で利用される補正用のパラメータ(より具体的には、乱数値RNDの取り得る範囲(定義域RR))を、注目画素の第1方向Dyの位置Pyに応じて変化させる。従って第1方向Dyの印刷位置に応じてドット形成状態の特性を変化させることができる。この結果、シート300の第1方向Dyに沿った波状の変形に起因する印刷済画像の粒状性ムラを、容易に抑制することができる。
【0076】
また、第1実施例では、図2、図3に示すように、シート搬送部260は、シート300を下面から支持する複数の高支持部265bを含む。複数の高支持部265bは、第1方向Dyと平行に移動する印刷ヘッド250に対向する位置に、第1方向Dyに沿って並んで配置されている。また、シート搬送部260は、シート300を、上面から、下方に向かって(より具体的には、高支持部265bとシート300との接触位置(基準高さSH)よりも下方に向かって)押圧する複数の押圧部269を含む。各押圧部269の第1方向Dyの位置は、隣り合う2つの高支持部265bの間に配置されている。従って、シート搬送部260は、シート300を適切に波状に変形させることができる。特に、本実施例では、複数の押圧部269の第1方向Dyの位置と、複数の高支持部265bの第1方向Dyの位置とは、交互に並んでいる。従って、シート300が、山と谷とを繰り返す波状に変形するので、シート300が、図2(C)の符号302で示すように、意図せずに変形する可能性を低減できる。
【0077】
また、第1実施例では、図10(D)で説明したように、画像補正を行わずに、波状に変形したシート300に印刷を行う場合には、第1種領域A1と第2種領域A2との間で粒状性が異なってしまう。具体的には、第1種領域A1の粒状性が、第2種領域A2の粒状性よりも大きくなる(第1種領域A1の印刷済画像が、第2種領域A2の印刷済画像よりも、粗くなる)。このような粒状性のムラを抑制するためには、2種類の領域A1、A2の間の粒状性の差を小さくすることが好ましい。ここで、印刷装置600の構成を変えずに第1種領域A1の印刷済画像の粒状性を更に向上させる(画像を細かくする)ことは困難である。そこで、本実施例では、第2種領域A2の粒状性を低下させることによって(第2種領域A2の印刷済画像を粗くすることによって)、2種類の領域A1、A2の間の粒状性の差を小さくしている。
【0078】
B.第2実施例:
図11は、第2実施例におけるハーフトーン処理の概略図であり、図12は、第2実施例におけるハーフトーン処理のフローチャートである。図6、図7の第1実施例とは異なり、第2実施例では、乱数値RNDの代わりに、第1方向Dyの位置Pyに応じて変化するマトリクス136A〜136Fが利用される。図12では、図7のステップと同じステップに同じ符号を付している。印刷処理の手順は、図5の実施例と同じである。また、印刷処理を実行する印刷装置の構成は、不揮発性メモリ130が、マトリクス136の代わりに6つのマトリクス136A〜136Fを格納する点を除いて、図1、図2の印刷装置600の構成と同じである。
【0079】
図13(A)〜、図13(F)は、6つのマトリクス136A〜136Fの例を、それぞれ示している。図中には、第1方向Dyと第2方向Dxとが示されている。1つの四角は1つの画素を示している。記号「+」は注目画素を示している。各画素の位置は、注目画素を基準とする相対的な位置である。各画素に記載されている数値は、重み係数を示している。各画素の重み係数を、全画素の重み係数の和が1になるように正規化して得られる値が、実際の重みである。なお、各マトリクス136A〜136Fは、−Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合のマトリクスである。+Dy方向にドット状態決定処理が進行する場合には、注目画素を中心に第1方向Dyの相対位置を反転させたマトリクスが利用される。
【0080】
図13(G)は、各マトリクス136A〜136Fのそれぞれの粒状性評価値GEを示す表である。粒状性評価値GEは、印刷済画像の粒状性(画像の粗さ)を数値化したものであり、図13(H)の式に従って算出される。粒状性評価値GEが大きいほど、印刷済画像が粗い。ここで、uは空間周波数(単位は、サイクル/ミリメートル)であり、WS(u)は、上述したウイナースペクトラムである。VTF(u)は、視覚の空間周波数特性であり、図13(I)の式によって算出される。Dは、ウイナースペクトラムの算出に利用された印刷済画像の平均濃度である。図13(I)の式におけるLは、観察距離(単位は、ミリメートル)であり、本実施例では、L=300mmである。なお、ウイナースペクトラムの算出には、均一なグレー画像(CMYのコンポジットで表されるグレー画像)が利用される。本実施例では、粒状性評価値GEの算出に利用される印刷済画像のL*は、おおよそ50であり、印刷解像度は、600dpi(dot per inch)である。また、ウイナースペクトラムの算出に利用される画像を印刷する場合には、基準面300s(図3(B))に対応する平らなシートに画像を印刷することとする。なお、ウイナースペクトラムWS(u)と粒状性評価値GEとの算出方法は、例えば、以下の文献「日本写真学会誌 第60巻 第6号(1997年) インクジェットプリンタの画質評価 藤野真」で説明されている。
【0081】
図13(G)に示するように、マトリクス136A〜136Fの順番は、粒状性評価値GEの小さい順である。入力画像データが同じ場合であっても、第1マトリクス136Aは、細かく見えるドットパターンを生成し、第6マトリクス136Fは、粗く見えるドットパターンを生成する。すなわち、入力画像データが同じ場合であっても、ドットパターンの空間周波数スペクトラムは、マトリクス136A〜136F毎に、異なる。そして、濃度の最も高いドット有状態の印刷画素の割合も、マトリクス136A〜136F毎に、異なり得る。補正済データ生成部M104は、マトリクスを切り替えることによって、ドット形成状態のパターンの粗さを変更することができる。
【0082】
次に、図12のフローチャートに沿って、説明を行う。最初のステップS502では、補正済データ生成部M104(図1)は、振幅係数データ134a(図8(A))を参照し、注目画素の第1方向Dyの位置に対応付けられた振幅係数Amcを利用して、マトリクスを選択する。図13(J)は、振幅係数Amcとマトリクスとの関係を示す概略図である。横軸は、ゼロから1までの振幅係数Amcの範囲を示す。図示するように、振幅係数Amcの範囲は、5つの境界値Amc1〜Am5によって、6つの部分範囲AA1〜AA6に区分される。6つの部分範囲AA1〜AA6には、6つのマトリクス136A〜136Fが、一対一に対応付けられている。部分範囲の振幅係数Amcが大きいほど、マトリクスの粒状性評価値GEは大きい。なお、本実施例では、各部分範囲AA1〜AA6の幅は、同じである。ただし、一部の部分範囲の幅が、他の部分範囲の幅と異なっていても良い。
【0083】
図13(K)は、第1方向Dyの位置Pyと、選択されるマトリクスの粒状性評価値GEとの関係を示すグラフである。横軸は、位置Pyを示し、縦軸は、選択されるマトリクスの粒状性評価値GEを示す。図示するように、第1種領域A1では、粒状性評価値GEの比較的小さいマトリクス136A、136B、136Cが選択される。第2種領域A2では、粒状性評価値GEの比較的大きいマトリクス136D、136E、136Fが選択される。すなわち、図10(B)、図10(C)の第1実施例と同様に、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、ドットパターンが粗くなる(第1種領域A1と第2種領域A2との間で、空間周波数スペクトラムが異なる)。
【0084】
補正済データ生成部M104は、乱数値RNDの代わりに、選択したマトリクスを利用して、図7の第1実施例と同様にドット形成状態を決定する。図12の次のステップS504、S506は、図7のステップS504、S506と、それぞれ同じである(第1階調値Vaが決定される)。続くステップS510b〜S540では、補正済データ生成部M104は、第1階調値Vaと、基準閾値Th1〜Th3と、の間の大小関係に基づいて、注目画素のドット形成状態を決定する。ステップS510b、S520b、S530bでは、補正済閾値Th3r、Th2r、Th1rの代わりに、基準閾値Th3、Th2、Th1が、それぞれ利用される。続くステップS550、S570は、図7のステップS550、S570と、それぞれ同じである。
【0085】
以上のように、第2実施例では、誤差拡散法に従ったドット形成状態の決定で利用される補正用のパラメータ(より具体的には、マトリクス)が、注目画素の第1方向Dyの位置Pyに応じて変化する。従って、第1方向Dyの位置に応じてドット形成状態の特性を変化させることができる。この結果、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを、容易に抑制することができる。
【0086】
特に、第2実施例では、図13(K)で説明したように、第2種領域A2では、第1種領域A1と比べて、マトリクスの粒状性評価値GEが大きい。従って、図10(A)のような入力画像データIDinを印刷する場合には、図10(B)、図10(C)と同様に、第2種領域A2の印刷済部分画像の方が、第1種領域A1の印刷済部分画像と比べて、粗くなるように、補正済画像データIDcが生成される。従って、粒状性ムラを、適切に、抑制することができる。
【0087】
また、第2実施例では、補正済データ生成部M104は、6つのマトリクス136A〜136Fから、第1方向Dyの位置Py(振幅係数Amc)に対応付けられたマトリクスを選択する。従って、マトリクスの総数が少ない場合(例えば、2)と比べて、粒状性を滑らかに変化させることができる。この結果、粒状性のムラを適切に抑制できる。なお、マトリクスの総数としては、2以上の種々の数を採用可能である。いずれの場合も、補正済データ生成部M104は、粒状性評価値GEが互いに異なる複数のマトリクスを利用することが好ましい。そして、図13(K)に示すように、注目画素の第1方向Dyの位置Pyが押圧部269の位置Pya1〜Pya6に近いほど、粒状性評価値GEが小さく、位置Pyが高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7に近いほど、粒状性評価値GEが大きいことが好ましい。こうすれば、適切に粒状性ムラを抑制できる。なお、粒状性評価値GEは、印刷条件(例えば、インクの種類や、シートの種類や、印刷解像度)に応じて変わり得る。従って、実際の印刷条件に応じて、マトリクス毎の粒状性評価値GEを評価することが好ましい。
【0088】
また、本実施例においても、図9の第1実施例と同様に、第1種領域A1の印刷済部分画像と、第2種領域A2の印刷済部分画像と、の間で、濃度が最も高いドット有状態(大ドットdt3)の印刷画素の割合が異なるように、マトリクスを構成してもよい。
【0089】
また、第2実施例では、乱数値RNDの代わりに複数のマトリクス136A〜136Fを利用する点を除いた他の構成は、第1実施例と同じである。従って、第2実施例は、第1実施例と同様の種々の効果を奏する。また、図12の処理は、「補正処理」の例である。
【0090】
また、本実施例において、ドット形成状態の総数が2であってもよい。補正済データ生成部M104(図1)は、例えば、図12のフローチャートから、中ドットdt2と小ドットdt1とのためのステップSRb(S520b、S525、S530b、S535)を省略して得られるフローチャートに従って、ドット形成状態を決定してもよい。この場合も、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。
【0091】
C.第3実施例:
図7に示す第1実施例において、ドット形成状態の総数が2(すなわち、「ドット有り」と「ドット無し」の2階調)であってもよい。図14は、ドット形成状態の総数が2である場合の、ドット形成状態の決定例を示す。図14では、図9と同様に、処理が簡略化されている。図14は、25個の画素が第1方向Dyに並んで形成された画素ラインのドット形成状態を示している。図中には、入力階調値Vinと、第1階調値Vaと、乱数値RNDと、補正済閾値Thrと、ドット形成状態DSと、ドット階調値Vbと、対象誤差値Eaと、が示されている。図9の決定例とは異なり、図14の決定例では、ドット形成状態は、「ドット無し」と「大ドットdt3」とのいずれかである(以下、大ドットdt3を、単に「ドットdt3」と呼ぶ)。また、基準閾値は、128であり、補正済閾値Thrは、「基準閾値(128)+乱数値RND」である。また、乱数値RNDの上限RNDH(図8(B))は、85〜128の範囲で変化することとしている。ドット形成状態を決定する処理は、図7から、中ドットdt2と小ドットdt1とのためのステップSRa(S520、S525、S530、S535)を省略したものと、同じである(ステップS510では、第3補正済閾値Th3rの代わりに、補正済閾値Thrが利用される)。
【0092】
図14(A)は、第1種領域(例えば、図10(B)の第1種領域A1)における決定例を示している。図14(A)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜85であり、定義域幅RNDWは比較的狭い(85)。図14(B)の決定例は、第2種領域(例えば図10(B)の第2種領域A2)における決定例を示している。図14(B)の例では、乱数値RNDの定義域が0〜128であり、定義域幅RNDWが比較的広い(125)。
【0093】
定義域幅RNDWが狭い場合には、広い場合と比べて、ドットdt3の配置の偏りが小さい。例えば、図14(A)の例では、「ドットdt3」の画素と「ドット無し」の画素とが、おおよそ交互に並ぶ。同じ種類の画素が連続する部分は、1カ所だけである(第1部分Pvaで、2つの「ドット無し」の画素が連続する)。従って、このドットパターンの観察者にとっては、画像を表す粒(ドット)が、比較的均等に分布しているように見える(印刷済画像が滑らかに見える)。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「122」である。
【0094】
一方、定義域幅RNDWが広い場合には、狭い場合と比べて、ドットdt3が偏って配置される。例えば、図14(B)の例では、3つの部分Pd1〜Pd3で、ドットdt3が形成される画素が連続する。また、5つの部分Pv1〜Pv5で、「ドット無し」の画素が連続する。従って、このドットパターンの観察者にとっては、ドットパターンが、粗く見える。なお、ドット階調値Vbの平均値は、入力階調値Vin(120)とおおよそ同じ「122」である。
【0095】
このように、ドット形成状態の総数が2である場合も、第1実施例と同様に、乱数値RNDの定義域幅RNDWが大きい場合には、小さい場合と比べて、ドットパターンを粗くすることができる。この理由は、以下の通りである。図9でも説明したように、乱数値RNDの大きな画素で生じる大きな誤差値Eaが、乱数値RNDの小さな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが小さい場合であっても、ドットdt3が形成され得る。逆に、乱数値RNDの小さな画素で生じる小さな誤差値Eaが、乱数値RNDの大きな注目画素の第1階調値Vaに加算されると、注目画素の入力階調値Vinが大きい場合であっても、ドット形成されない場合がある。このような乱数値RNDに起因する「ドット無し」画素の発生と「ドットdt3有り」の画素の発生とは、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、促進される。従って、乱数値RNDの定義域幅RNDWが広いほど、ドット分布が不均等になり易い。この結果、定義域幅RNDWを大きくすることによって、ドットパターンを粗くすることができる。すなわち、定義域幅RNDWを変えることによって、第1種領域A1と第2種領域A2との間で空間周波数スペクトルを異ならせることができる。
【0096】
以上のように、本実施例においても、補正済データ生成部M104(図1)は、図8(B)、図8(C)のように定義域幅RNDWを位置Pyに応じて変化させることによって、図10の実施例と同様に、シートの波状の変形に起因する印刷済み画像の粒状性ムラを低減することができる。
【0097】
また、第3実施例では、ドット形成状態の総数が異なる点を除いた他の構成は、第1実施例と同じである。従って、第3実施例は、第1実施例と同様の種々の効果を奏する。
【0098】
D.第4実施例:
図15(A)は、基準ギャップの別の実施例を示す説明図である。図15(A)は、図3(B)と同様に、液滴D1、D2の着弾位置と、シート300とを示している。この実施例では、図1、図2に示す印刷装置600が利用される。そして、シート300の高支持部265bに支持される部分の代わりに、押圧部269によって下方に押さえられる部分のギャップGPsaが、基準ギャップとして利用される(以下、ノズル250n(ノズル面np)から基準ギャップGPsaだけ離れた平面300saを「基準面300sa」と呼ぶ)。本実施例では、液滴D1、D2の吐出タイミングは、基準面300saに印刷する場合を想定して、調整されている(図中では、液滴D1、D2が第1方向Dyの同じ目標位置Py1にドットを形成することが想定されている)。従って、ギャップが小さいほど、すなわち、シート300がノズル250nに近いほど、ドットの位置ズレが大きくなる。そこで、本実施例では、ギャップがギャップ閾値GPth以上の範囲(特定範囲GRa)の外にある第1種領域A1aでは、ギャップが特定範囲GRa内にある第2種領域A2aと比べて、ドットパターンが粗くなるように、補正済画像データ(印刷データ)が生成される。図中では、特定範囲GRaがハッチングで示されている。
【0099】
振幅係数Amcの位置Py依存性のパターンは、図8(A)の実施例の振幅係数Amcの「1」と「0」とを入れ替えたパターンと同じである。すなわち、押圧部269の位置Pya1〜Pya6では、振幅係数Amcは「1」に設定され、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7では、振幅係数Amcは「0」に設定される(図示省略)。すなわち、ギャップが、基準面300saの基準ギャップGPsaと同じである位置(第1方向Dyの位置Py)では、振幅係数Amcは「1」である。
【0100】
図15(B)は、基準ギャップの更に別の実施例を示す説明図である。図15(B)も、図15(A)と同様に、+Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴D1a、D1bと、−Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される液滴D2a、D2bと、の着弾位置と、シート300とを示している。この実施例では、図1、図2に示す印刷装置600が利用される。そして、押圧部269の最も低い部分と高支持部265bの上面との間の中間位置のギャップGPsbが、基準として利用される(以下、ノズル250n(ノズル面np)からギャップGPsbだけ離れた平面300sbを「基準面300sb」と呼ぶ)。液滴D1a、D1b、D2a、D2bの吐出タイミングは、基準面300sbに印刷する場合を想定して、調整されている(図中では、液滴D1a、D2aが同じ目標位置Py1aにトッドを形成することが想定され、液滴D1b、D2bが同じ目標位置Py1bにドットを形成することが想定されている)。従って、ギャップが基準のギャップGPsbから離れるほど、ドットの位置ズレが大きくなる。そこで、本実施例では、ギャップと基準ギャップGPsbとの間の差の絶対値が特定の値以下である範囲GRbの外にギャップがある第1種領域A1b1、A1b2では、ギャップが範囲GRb内にある第2種領域A2bと比べて、ドットパターンが粗くなるように、補正済画像データ(印刷データ)が生成される。図中では、範囲GRbがハッチングで示されている。
【0101】
振幅係数Amcの位置Py依存性は、以下の通りである。すなわち、押圧部269の位置Pya1〜Pya6と、高支持部265bの位置Pyb1〜Pyb7と、のそれぞれにおいて、振幅係数Amcは「0」に設定される。隣り合う押圧部269と高支持部265bとの間の中間位置において、具体的には、ギャップが、基準面300sbの基準ギャップGPsbと同じである位置(第1方向Dyの位置Py)では、振幅係数Amcは「1」に設定される。
【0102】
なお、図15(A)、図15(B)のそれぞれは、上述の各実施例に適用可能である。
【0103】
E.変形例:
(1)第1種領域の印刷済部分画像と、第2種領域の印刷済部分画像と、の間で、空間周波数スペクトルが異なるように、実行される補正処理としては、上記各実施例の補正処理に限らず、種々の処理を採用可能である。例えば、上述の乱数値RNDの定義域RRは、図8(B)で説明した範囲に限らず、他の種々の範囲を採用可能である。例えば、定義域RRの下限RNDL、または、下限RNDLと上限RNDHとの両方が、負値であってもよい。負値の乱数値RNDは、補正済閾値Th1r、Th2r、Th3rを小さくすることによって、大ドットdt3の画素数の割合を増大することができる。また、乱数値RNDは、離散的な複数の値から選択されてもよい。例えば、図8(B)の実施例において、乱数値RNDが、下限RNDLと上限RNDHとのいずれかであってもよい(2値乱数)。また、図5のステップS220のハーフトーン処理(補正処理)が、誤差拡散法の代わりに、ディザマトリクスを利用する処理であってもよい。この場合には、粒状性評価値GEが互いに異なる複数のディザマトリクスを準備することが好ましい。補正済データ生成部M104(図1)は、図13(K)の実施例のように、第1方向Dyの印刷位置に応じてディザマトリクスを選択すればよい。この場合には、印刷画素の第1方向Dyの位置に応じてディザマトリクスが変化する。また、第1方向Dyの位置に応じてディザマトリクスを変化させることによってドット形成状態を決定することが、補正処理の例である。また、補正済データ生成部M104は、図5のステップS210の処理対象のビットマップデータのRGB階調値、または、ステップS220の処理対象のビットマップデータのCMYK階調値に、乱数を付加することによって、空間周波数スペクトルを変化させてもよい。この場合には、乱数付加の対象のビットマップデータが、入力画像データの例であり、乱数の付加が、補正処理の例である。また、乱数の付加から印刷データの生成までの一連の処理が、「補正済印刷データ生成処理」の例である。
【0104】
(2)図2(D)に示すように、ノズル250nとシート300との間のギャップは、搬送方向Dxの位置に応じて異なり得る。本実施例では、−Dx方向側のノズル250nの位置よりも、+Dx方向側のノズル250nの位置の方が、ギャップが小さい。そこで、上記各実施例において、補正済データ生成部M104は、ノズル250nの搬送方向Dxの位置に応じて、ドット形成状態決定のための処理で利用されるパラメータ(例えば、図7、図8(B)の実施例の乱数値RNDの定義域幅RNDW、図11、図12のマトリクス136A〜136F)を変化させてもよい。この際、補正済データ生成部M104は、第1方向Dyの位置Pyに応じてパラメータを変化させるのと同様に、ドット形成時の搬送方向Dxの位置に応じてパラメータを変化させる。
【0105】
(3)上記各実施例において、ドット形成状態決定のための処理で利用されるパラメータ(例えば、図8(A)の振幅係数データ134a、図7、図8(B)の乱数値RNDの定義域幅RNDW、または、図11、図12のマトリクス136A〜136F)は、シート(印刷媒体)の種類毎に、準備されてもよい。シートの種類は、例えば、「光沢紙」や「マット紙」といった一般的な種類の中から選択されてもよく、また、シートの型番によって種類が特定されてもよい。補正済データ生成部M104は、シートの種類に対応付けられたパラメータを利用する。こうすれば、補正済データ生成部M104は、シートの種類に適した補正を行うことができる。
【0106】
また、図示しないサーバが、複数種類のシートのための複数種類のパラメータを、メモリ(例えば、不揮発性メモリ)に格納してもよい。そして、印刷制御装置に補正用データ取得部(図示省略)を設け、補正用データ取得部が、ユーザによって指定された種類のシートに対応付けられたパラメータを、ネットワークを介して、上記サーバから取得してもよい。
【0107】
(4)印刷実行部の構成としては、上記各実施例の印刷実行部200の構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、印刷実行部が利用可能なインクとしては、CMYKの4種類のインクに限らず、1以上の種々のインクを採用可能である。また、図3で説明したドットの位置ズレは、双方向印刷を行う場合に限らず、単方向印刷を行う場合にも、生じ得る。従って、上述した各実施例の補正済画像データ生成処理を、単方向印刷を行う印刷実行部に適用してもよい。また、ドット形成状態の総数としては、2または4に限らず、2以上の種々の数を採用可能である。
【0108】
(5)上記各実施例において、シート搬送部260の構成としては、図1、図2に示す構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、低支持部265aが省略されてもよい。また、押圧部269は、種々の部材を用いて構成されてよく、例えば、硬質樹脂部材を用いて構成されてもよく、板バネ等の弾性体を用いて構成されてもよい。また、支持部265a、265bの第1部分265a1、265b1の代わりに、第1ローラ261と対向する従動ローラが設けられてもよい。同様に、第5部分265a5、265b5の代わりに、第2ローラ262と対向する従動ローラが設けられてもよい。
【0109】
(6)上記各実施例において、基準ギャップGPs、GPsa、GPsbは、印刷結果を利用して特定することができる。すなわち、第1方向Dyの位置Pyが互いに異なる複数の直線(搬送方向Dxに沿って延びる直線)を表す画像データを用いて印刷を行う。ギャップが基準ギャップに近い印刷領域(位置Py)では、ドットの位置ズレが小さいので、直線がはっきりと印刷される。一方、ギャップが基準ギャップから遠い印刷領域(位置Py)では、ドットの位置ズレが大きいので、直線がぼやけて印刷される。このように、直線がはっきりと印刷された位置Pyにおけるギャップが、基準ギャップである。また、第1種領域と第2種領域とは、以下のように特定することができる。すなわち、第1種領域は、第2種領域と比べて、実際のギャップと特定された基準ギャップとの間の差の絶対値が大きい領域である。
【0110】
(7)上記各実施例において、制御装置100と、印刷実行部200とが、互いに異なる筐体に収容された独立の装置として、実現されてもよい。また、上記各実施例において、ネットワークを介して互いに通信可能な複数のコンピュータが、印刷のための画像処理に要する機能を一部ずつ分担して、全体として、印刷のための画像処理の機能を提供してもよい。このように、印刷制御装置(例えば、制御装置100)は、複数のコンピュータを含むコンピュータシステムによって構成されてもよい(このようなコンピュータシステムを利用する技術は、クラウドコンピューティングとも呼ばれる)。
【0111】
(8)上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、図1の補正済データ生成部M104の機能を、論理回路を有する専用のハードウェア回路によって実現してもよい。
【0112】
また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含んでいる。
【0113】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0114】
100...制御装置、110...CPU、120...揮発性メモリ、130...不揮発性メモリ、132...プログラム、134a...振幅係数データ(補正用データ)、136、136A〜136F...マトリクス、170...操作部、180...表示部、190...通信部、200...印刷実行部、210...制御回路、212...移動制御部、214...ヘッド駆動部、216...搬送制御部、240...ヘッド移動部、242...移動モータ、244...支持軸、250...印刷ヘッド、250n...ノズル、260...シート搬送部、261...第1ローラ、262...第2ローラ、263...搬送モータ、265...シート台、265a...低支持部、265b...高支持部、269...押圧部、300...シート、300f...基準シート、300s...基準面、300sa...基準面、300sb...基準面、600...印刷装置、M100...プリンタドライバ、M104...補正済データ生成部、M106...補正済データ供給部、EB...誤差バッファ、np...ノズル面、Dy...第1方向、Dx...搬送方向(第2方向)、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に沿って前記シートを波状に変形させた状態で、前記シートを前記第1方向と交差する第2方向に搬送するシート搬送部と、液滴を吐出する複数のノズルを有する印刷ヘッドと、前記第1方向と平行に前記印刷ヘッドを移動させるヘッド移動部と、前記印刷ヘッドの移動中に前記印刷ヘッドを駆動することによって前記波状に変形したシートに向かって前記液滴を吐出させる印刷ヘッド駆動部と、を含む印刷実行部に、印刷を実行させる印刷制御装置であって、
補正処理を実行することによって、入力画像データから補正済画像データを生成する処理を実行する補正済データ生成部と、
前記補正済画像データを前記印刷実行部に供給する補正済データ供給部と、
を備え、
前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、前記シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して前記補正済画像データを生成する処理を含み、
前記複数の第1種領域と前記複数の第2種領域とは前記第2方向に沿って延びる領域であり、前記各第1種領域と前記各第2種領域とは前記第1方向に沿って交互に並んでいる、印刷制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データは、ドットを形成しないドット無状態と、ドットを形成する複数のドット有状態であって互いに濃度の異なる複数のドット有状態と、の中から決定される、印刷画素毎のドット形成状態を表し、
前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記複数の第1種の印刷済み部分画像と、前記複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、濃度の最も高いドット有状態の印刷画素の割合が異なるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して印刷画素毎のドット形成状態を決定する処理を含む、印刷制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データは、ドットを形成しないドット無状態と、ドットを形成するドット有状態と、の中から決定された、印刷画素毎のドット形成状態を表す、印刷制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記第1種領域は、前記シートと前記ノズルとの間のギャップが特定範囲外にある領域であり、
前記第2種領域は、前記ギャップが前記特定範囲内にある領域である、印刷制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の印刷制御装置であって、
前記特定範囲は、前記ギャップが特定の閾値未満の範囲である、印刷制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記複数の第2種の印刷済み部分画像の方が、前記複数の第1種の印刷済み部分画像と比べて、粗くなるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して前記補正済画像データを生成する処理を含む、印刷制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記入力画像データは、複数の印刷画素のそれぞれの色を、前記液滴の色成分の階調値であるインク色階調値で表し、
前記補正済画像データは、印刷画素毎のドット形成状態を表し、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、注目画素の階調値と、前記注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値と、乱数値と、を用いて、前記注目画素の前記ドット形成状態と、前記注目画素の前記ドット形成状態に応じた前記注目画素の誤差値と、を決定し、
前記乱数値の取り得る範囲は、前記補正処理のパラメータとして、前記注目画素の前記第1方向の位置に応じて変化する、印刷制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データは、印刷画素毎のドット形成状態を表し、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、前記印刷画素の前記第1方向の位置に応じて変化する補正用のパラメータを利用する誤差拡散法に従って、前記印刷画素毎のドット形成状態を決定する、印刷制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、注目画素の階調値と、前記注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値と、前記補正用パラメータに応じて決定される乱数値と、を用いて、前記注目画素の前記ドット形成状態と、前記注目画素の前記ドット形成状態に応じた前記注目画素の誤差値と、を決定し、
前記乱数値の取り得る範囲は、前記補正用パラメータとして、前記注目画素の前記第1方向の位置に応じて変化する、印刷制御装置。
【請求項10】
請求項8に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、注目画素の階調値と、前記注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値と、前記誤差値に付与される重みであって前記注目画素に対する前記周辺画素の相対的な位置毎に決定される重みと、を用いて、前記注目画素の前記ドット形成状態と、前記注目画素の前記ドット形成状態に応じた前記注目画素の誤差値と、を決定し、
前記重みは、前記補正用パラメータとして、前記注目画素の前記第1方向の位置に応じて変化する、印刷制御装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の前記印刷制御装置と、
前記印刷実行部と、
を備える、印刷装置。
【請求項12】
請求項11に記載の印刷装置であって、
前記シート搬送部は、
前記第1方向と平行に移動する前記印刷ヘッドに対向する位置に前記第1方向に沿って並んで配置され、前記シートを前記シートの下面から支持する複数の支持部と、
前記シートを、前記シートの上面から下方に向かって押圧する複数の押圧部であって、前記各押圧部の前記第1方向の位置が、前記複数の支持部のうちの隣り合う2つの前記支持部の間に配置された、複数の押圧部と、
を備える、印刷装置。
【請求項1】
第1方向に沿って前記シートを波状に変形させた状態で、前記シートを前記第1方向と交差する第2方向に搬送するシート搬送部と、液滴を吐出する複数のノズルを有する印刷ヘッドと、前記第1方向と平行に前記印刷ヘッドを移動させるヘッド移動部と、前記印刷ヘッドの移動中に前記印刷ヘッドを駆動することによって前記波状に変形したシートに向かって前記液滴を吐出させる印刷ヘッド駆動部と、を含む印刷実行部に、印刷を実行させる印刷制御装置であって、
補正処理を実行することによって、入力画像データから補正済画像データを生成する処理を実行する補正済データ生成部と、
前記補正済画像データを前記印刷実行部に供給する補正済データ供給部と、
を備え、
前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記シート上の複数の第1種領域に印刷される複数の第1種の印刷済み部分画像と、前記シート上の複数の第2種領域に印刷される複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、空間周波数のスペクトルが異なるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して前記補正済画像データを生成する処理を含み、
前記複数の第1種領域と前記複数の第2種領域とは前記第2方向に沿って延びる領域であり、前記各第1種領域と前記各第2種領域とは前記第1方向に沿って交互に並んでいる、印刷制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データは、ドットを形成しないドット無状態と、ドットを形成する複数のドット有状態であって互いに濃度の異なる複数のドット有状態と、の中から決定される、印刷画素毎のドット形成状態を表し、
前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記複数の第1種の印刷済み部分画像と、前記複数の第2種の印刷済み部分画像と、の間で、濃度の最も高いドット有状態の印刷画素の割合が異なるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して印刷画素毎のドット形成状態を決定する処理を含む、印刷制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データは、ドットを形成しないドット無状態と、ドットを形成するドット有状態と、の中から決定された、印刷画素毎のドット形成状態を表す、印刷制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記第1種領域は、前記シートと前記ノズルとの間のギャップが特定範囲外にある領域であり、
前記第2種領域は、前記ギャップが前記特定範囲内にある領域である、印刷制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の印刷制御装置であって、
前記特定範囲は、前記ギャップが特定の閾値未満の範囲である、印刷制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データを生成する前記処理は、仮に、前記入力画像データが階調値の均一な画像を表し、かつ、印刷時に前記シートが変形せずに平らな状態で搬送される場合に、前記複数の第2種の印刷済み部分画像の方が、前記複数の第1種の印刷済み部分画像と比べて、粗くなるように、前記入力画像データを利用する前記補正処理を実行して前記補正済画像データを生成する処理を含む、印刷制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記入力画像データは、複数の印刷画素のそれぞれの色を、前記液滴の色成分の階調値であるインク色階調値で表し、
前記補正済画像データは、印刷画素毎のドット形成状態を表し、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、注目画素の階調値と、前記注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値と、乱数値と、を用いて、前記注目画素の前記ドット形成状態と、前記注目画素の前記ドット形成状態に応じた前記注目画素の誤差値と、を決定し、
前記乱数値の取り得る範囲は、前記補正処理のパラメータとして、前記注目画素の前記第1方向の位置に応じて変化する、印刷制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の印刷制御装置であって、
前記補正済画像データは、印刷画素毎のドット形成状態を表し、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、前記印刷画素の前記第1方向の位置に応じて変化する補正用のパラメータを利用する誤差拡散法に従って、前記印刷画素毎のドット形成状態を決定する、印刷制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、注目画素の階調値と、前記注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値と、前記補正用パラメータに応じて決定される乱数値と、を用いて、前記注目画素の前記ドット形成状態と、前記注目画素の前記ドット形成状態に応じた前記注目画素の誤差値と、を決定し、
前記乱数値の取り得る範囲は、前記補正用パラメータとして、前記注目画素の前記第1方向の位置に応じて変化する、印刷制御装置。
【請求項10】
請求項8に記載の印刷制御装置であって、
前記補正済データ生成部は、前記補正済画像データを生成する前記処理において、注目画素の階調値と、前記注目画素の周辺に位置する周辺画素で得られる誤差値と、前記誤差値に付与される重みであって前記注目画素に対する前記周辺画素の相対的な位置毎に決定される重みと、を用いて、前記注目画素の前記ドット形成状態と、前記注目画素の前記ドット形成状態に応じた前記注目画素の誤差値と、を決定し、
前記重みは、前記補正用パラメータとして、前記注目画素の前記第1方向の位置に応じて変化する、印刷制御装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の前記印刷制御装置と、
前記印刷実行部と、
を備える、印刷装置。
【請求項12】
請求項11に記載の印刷装置であって、
前記シート搬送部は、
前記第1方向と平行に移動する前記印刷ヘッドに対向する位置に前記第1方向に沿って並んで配置され、前記シートを前記シートの下面から支持する複数の支持部と、
前記シートを、前記シートの上面から下方に向かって押圧する複数の押圧部であって、前記各押圧部の前記第1方向の位置が、前記複数の支持部のうちの隣り合う2つの前記支持部の間に配置された、複数の押圧部と、
を備える、印刷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−111873(P2013−111873A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260758(P2011−260758)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]