説明

印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法及び装置

【課題】 例えば枚葉印刷機や輪転印刷機などの印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法及び装置に関し、版排出に要する時間を短縮できるようにするとともに、版排出時の版の巻き込みを防止できるようにする。
【解決手段】 各印刷ユニット21の版胴22及びブランケット胴24を、ブランケット胴24のギャップ54が版胴22に対向しない位置にくるように停止させる。そして、各版胴22を、各ブランケット胴24とは別個に回転させて版23の所定の版抜き出し開始位置で停止させる。その後、各版胴22のギャップ52から各版23の一端部を外し、各版胴22及び各ブランケット胴24を共に回転させて各版23を各印刷ユニット21外へ同時に抜き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば枚葉印刷機や輪転印刷機などの印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8〜図10は一般的な枚葉印刷機を示すもので、図8はその側面図、図9はその印刷装置を拡大して示す側面図、図10は刷版の交換方法を説明するための図である。
図8に示すように、枚葉印刷機は、シート供給装置10,印刷装置20,シート排出装置30を主に備えて構成されている。シート供給装置10は、被印刷物となるシート(枚葉紙)1を給紙テーブル11上に積重させておき、印刷に伴う消費速度に対応して最上段側のシート1から1枚ずつ印刷装置20へ供給するようになっている。
【0003】
印刷装置20は、複数組の印刷ユニット21A〜21D(個々に区別しない場合は符号21で示す)を備えて構成されている。一組の印刷ユニット21においては一色のみの印刷しかできないため、多色印刷を施す枚葉印刷機では、シート1の走行方向に沿ってインキ色の異なる複数組の印刷ユニット21を並設し、各印刷ユニット21を順次通過させることによって目的とする多色印刷を行なうようになっている。図8に示す枚葉印刷機は、4組の印刷ユニット21A〜21Dを備えており、片面4色の印刷が可能となっている。
【0004】
印刷ユニット21Aは、版胴22a表面に巻着された刷版(以下、単に版ともいう)23a上にインキ及び湿し水を供給して版胴22aからブランケット胴(又はゴム胴ともいう)24aにインキを転写し、ブランケット胴24aと圧胴26aとの間にシート1を通して、ブランケット胴24aからこのシート1の表面にインキを転写するようになっている。印刷ユニット21B〜21Dも印刷ユニット21Aと同様に構成されており、印刷ユニット21Aでインキが転写されたシート1は中間胴27を介して印刷ユニット21Bへ受け渡されて印刷ユニット21Bでインキが転写され、その後、中間胴28を介して印刷ユニット21Cへ受け渡されて印刷ユニット21Cでインキが転写され、その後、中間胴29を介して印刷ユニット21Dへ受け渡されて印刷ユニット21Dでインキが転写される。これにより、シート1の4色印刷が完了する。なお、図8〜図10中、符号の添え字a,b,c,dはそれぞれ各印刷ユニット21A,21B,21C,21Dの構成要素であることを示しており、以下、それぞれ個々に区別しない場合は添え字a,b,c,dを省略して説明する。
【0005】
シート排出装置30は、チェングリッパ(図示省略)が具備されて従動軸31により駆動されるエンドレスチェン32と、シート1を積重するシート積重装置33とを備えている。これにより、印刷装置20での印刷を終えたシート1は、エンドレスチェン32のチェングリッパに把持されてシート積重装置33の上方まで搬送された後、チェングリッパから開放されてシート積重装置33の排紙テーブル34上に積重されていく。
【0006】
また、図9に示すように、例えば印刷ユニット21Aの版胴22aの表面には版23aを巻着するためのギャップ52aが形成されており、また、ブランケット胴24aの表面にはブランケット25aを巻着するためのギャップ54aが形成されている。図示は省略するが、版胴22aのギャップ52aには版23aの両端部(咥え側端部及び咥え尻側端部)を引っ張って版23aを版胴22aの表面に密着させる版締め装置が備えられており、また、ブランケット胴24aのギャップ54aにはブランケット25aの両端部(咥え側端部及び咥え尻側端部)を引っ張ってブランケット25aをブランケット胴24aの表面に密着させるブランケット締め装置が備えられている。印刷ユニット21B〜21Dの版胴22及びブランケット胴24にも同様のギャップ52,54がそれぞれ形成されている。
【0007】
版胴22とブランケット胴24とは駆動ギアで互いに連結されて、印刷運転時には同じ周速で回転し、一回転毎に版胴22のギャップ52とブランケット胴24のギャップ54とが互いに向かい合うようになっている。なお、図9中、版胴22,ブランケット胴24,圧胴26及び中間胴27,28,29内の矢印は印刷運転時の回転方向を示している。また、例えば印刷ユニット21Aの符号41a,42a,43a,44aは版23aにインキを供給するインキ着けローラであり、符号45aは版23aに湿し水を供給する湿し水着けローラである。同様に、印刷ユニット21B〜21Dの符号41b〜44b,41c〜44c,41d〜44dはインキ着けローラであり、符号45b,45c,45dは湿し水着けローラである。
【0008】
このような枚葉印刷機において各版胴22の版23を交換する場合、まず初めに印刷機を停止して各胴及び各ローラの回転を停止する。このとき、印刷ユニット21Aの版胴22aのギャップ52aが図10に示す位置(版抜き出し開始位置)にくるように印刷機を停止する。そして、図10に示すように、版23aの端部をギャップ52aから外し、各胴及び各ローラを印刷運転時の回転方向(図9中、各胴内に示す矢印方向)とは逆方向へ印刷運転時の回転速度よりも低い速度で回転させて版23aを図10中の矢印A方向へ抜き出すことにより、版23aを印刷ユニット21Aから排出する。なお、このとき、インキ着けローラ41a〜44a及び湿し水着けローラ45aは、版23aに干渉しないように版胴22aから所定距離(例えば2mm)だけ離れる。また、ブランケット胴24が版23に接触して版23の膨らみを抑えながら回転し、版23の抜き出しを案内するガイドの役割をする。
【0009】
このようにして印刷ユニット21Aの版23aを抜き出したら、次に、印刷ユニット21Bの版胴22bのギャップ52bが図10に示す版胴22aの位置(版抜き出し開始位置)にくるように各胴を回転させ、印刷ユニット21Aの版23aと同様にして抜き出す。また、印刷ユニット21Cの版23c及び印刷ユニット21Dの版23dも同様にして順に抜き出す。
【0010】
ところで、このような枚葉印刷機では、版23を印刷ユニット21毎に順に抜き出す必要があるため、全ての版23の交換作業を行なうのに時間がかかってしまう。従って、このような版の抜き出しに要する時間を短縮するため、版23を同時に抜き出すことが望まれる。そこで、印刷機停止後に例えば版胴22とブランケット胴24との接続を切って版胴22をブランケット胴24とは別に且つ各版胴22を個別に回転させること(即ち、版胴22の位相調整)ができるように構成するとともに、版胴22のみを回転させて全ての版胴22を図11に示すように版抜き出し開始位置に停止させて、この状態から前述したように各胴を印刷運転時とは逆方向へ回転させて全ての版胴22の版23を同時に抜き出して排出することが考えられる。例えば特許文献1には、印刷機の各印刷ユニットの版胴に装着された版の取り付け位置を、各印刷ユニットが同時に版替えができる位置に移動し、版替え終了後に前記版替えを行なう以前の機械的に見当の合った版胴相互の位相に戻すようにする技術が開示されている。
【特許文献1】特開平2−103145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、この場合、以下に説明するような課題が生じる。すなわち、上述したように版胴22のみを位相調整して版の抜き出しを行なう場合、印刷ユニット21によっては、版23の端部を版胴22のギャップ52から外す時点においてブランケット胴24のギャップ54が版胴22側を向いている場合がある。例えば図11では印刷ユニット21Cのブランケット胴24cが版胴22c側を向いている。この状態では、図12に示すように、版胴22cとブランケット胴24cとの間の隙間が、ブランケット胴24cのギャップ54cが版胴22c側を向いていない場合と比べて大きくなるため、版23cの端部を版胴22cのギャップ52cから外すと、版23cはそれ自身の剛性により版23c全体が版胴22cの表面から離れる方向へ膨らむ。これにより、版23cがインキ着けローラ42c,43c,44cに接触して版23cにインキが付着して汚れてしまうとともに、この接触が版23cの抜き出し時の抵抗となり版23cを印刷ユニット21C内に巻き込んでしまうおそれがある。特に、版23cが印刷ユニット21C内に巻き込まれてしまうと、版23cが折れ曲がって、版23cを再利用することが困難となったり、機械側に損傷を与えてしまったりする。
【0012】
なお、このような版23cの巻き込みは次のような理由で発生するものと考えられる。即ち、版23cが版胴22cの表面から離れる方向へ膨らむことにより版23cの径(版胴22cの軸心から版23cの表面までの距離)が大きくなるため、版23cの周速が版胴22cの周速よりも僅かながら大きくなる。そして、版23cが、版胴22cと同じ周速で回転するインキ着けローラ41c〜44cや湿し水着けローラ45cと接触すると、これらインキ着けローラ41c〜44cや湿し水着けローラ45cとの周速差により、版23cの抜き出し方向とは逆方向に力(抵抗)が生じ、これにより、版23cが印刷ユニット21C内に巻き込まれてしまうものと考えられる。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、版排出に要する時間を短縮できるようにするとともに、版排出時の版の巻き込みを防止できるようにした、印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため、請求項1記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法は、表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止する方法であって、上記の各版胴及び各ブランケット胴を、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しない位置にくるように停止させるステップと、次に、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させるステップと、次に、上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外し、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すステップとをそなえたことを特徴としている。
【0015】
請求項2記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法は、請求項1記載の方法において、上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴にインキを供給するインキ着けローラをそなえ、上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出すステップでは、上記の各版が上記の各インキ着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにすることを特徴としている。
【0016】
請求項3記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法は、請求項2記載の方法において、上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴に湿し水を供給する湿し水着けローラをそなえ、上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出すステップでは、上記の各版が上記の各湿し水着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにすることを特徴としている。
【0017】
請求項4記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法は、表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止する方法であって、上記の各版胴及び各ブランケット胴を停止させるステップと、次に、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させるステップと、次に、上記の各版の一端部近傍をローラにより上記の各版胴の表面に押さえつけた状態で、上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外し、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すステップとをそなえたことを特徴としている。
【0018】
請求項5記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法は、請求項4記載の方法において、該版胴に該版を巻着する際に該版を該版胴に押さえつけて該版胴の表面になじませる版なじみローラを該ローラとして兼用することを特徴としている。
請求項6記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置は、表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止するための装置であって、上記の各版の排出開始を示す第1の信号を入力するための第1の入力手段と、上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外したことを示す第2の信号を入力するための第2の入力手段と、上記の第1の入力手段により第1の信号が入力されると、上記の各版胴及び各ブランケット胴を、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しない位置にくるように停止させるとともに、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させ、上記の第2の入力手段により第2の信号が入力されると、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すように、上記の各版胴及び各ブランケット胴を制御する制御装置とをそなえたことを特徴としている。
【0019】
請求項7記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置は、請求項6記載の装置において、上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴にインキを供給するインキ着けローラをそなえ、上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出している最中であって上記の各版が上記の各インキ着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにすることを特徴としている。
【0020】
請求項8記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置は、請求項7記載の装置において、上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴に湿し水を供給する湿し水着けローラをそなえ、上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出している最中であって上記の各版が上記の各湿し水着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにすることを特徴としている。
【0021】
請求項9記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置は、表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止するための装置であって、上記の各版の排出開始を示す第1の信号を入力するための第1の入力手段と、上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外したことを示す第2の信号を入力するための第2の入力手段と、上記の各版胴に接離可能に設けられ、上記の各版の一端部近傍を上記の各版胴の表面に押さえつけるローラと、上記の第1の入力手段により第1の信号が入力されると、上記の各版胴及び各ブランケット胴を停止させた後、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させるとともに、上記の各ローラを上記の各版胴に接近させて上記の各版の一端部近傍を上記の各版胴の表面に押さえつけ、上記の第2の入力手段により第2の信号が入力されると、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すように、上記の各版胴及び各ブランケット胴を制御する制御装置とをそなえたことを特徴としている。
【0022】
請求項10記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置は、請求項9記載の装置において、該ローラが、該版胴に該版を巻着する際に該版を該版胴に押さえつけて該版胴の表面になじませる版なじみローラとして使用されることを特徴としている。
請求項11記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置は、表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止するための装置であって、上記の各ブランケット胴の表面と同じ曲率で形成され、上記の各ブランケット胴のギャップを覆うように取り付けられたカバー部材をそなえたことを特徴としている。
【0023】
請求項12記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置は、請求項11記載の装置において、該カバー部材が、上記の各ブランケット胴のギャップの軸方向に複数並設されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法、及び、請求項6記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置によれば、各印刷ユニットの版胴のギャップから版の一端部を外したとき、ブランケット胴の表面により版の膨らみが抑えられるので、版がブランケット胴のギャップに入り込むようにして膨らんでしまうのを防止できる。これにより、版を版胴のギャップから外したときに、版が周囲の構成要素に接触して版が印刷ユニット内に巻き込まれてしまうことを防止することができる。また、各印刷ユニットの版をすべて同時に抜き出して排出することができ、版排出に要する時間を短縮できる。
【0025】
請求項2記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法、及び、請求項7記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置によれば、各印刷ユニットの版胴のギャップから版の一端部を外した後版を抜き出していく間も、各印刷ユニットの版はブランケット胴表面により膨らみが抑えられるので、版胴のギャップから版の一端部を外した時点だけでなく、その後版を各印刷ユニットから同時に抜き出している最中においても、版がインキ着けローラに接触することがない。従って、インキ着けローラとの接触による版へのインキ付着や印刷ユニット内への版の巻き込みを防止することができる。
【0026】
請求項3記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法、及び、請求項8記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置によれば、インキ着けローラとの接触だけでなく、湿し水着けローラとの接触による印刷ユニット内への版の巻き込みも防止することができる。
請求項4記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法、及び、請求項9記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置によれば、各印刷ユニットの版胴のギャップから版の一端部を外したとき、また、その後版を抜き出している最中も、ローラにより版の膨らみが抑えられるので、ブランケット胴のギャップが版胴に対向する位置にきても版が膨らまない。すなわち、版を版胴のギャップから外したときや、版を抜き出している最中に、版が周辺の構成要素に接触して版が印刷ユニット内に巻き込まれてしまうことを防止することができる。また、各印刷ユニットの版をすべて同時に抜き出して排出することができ、版排出に要する時間を短縮できる。
【0027】
請求項5記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法、及び、請求項10記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置によれば、版なじみローラをローラとして兼用するので、既存の構成で実現できる。
請求項11,12記載の本発明の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置によれば、各印刷ユニットの版胴のギャップから版の一端部を外したとき、また、その後版を抜き出している最中も、ブランケット胴の表面或いはカバー部材により版の膨らみが抑えられるので、ブランケット胴のギャップが版胴に対向する位置にきても版が膨らまない。すなわち、版を版胴のギャップから外したときや、版を抜き出している最中に、版が周囲の構成要素に接触して版が印刷ユニット内に巻き込まれてしまうことを防止することができる。また、各印刷ユニットの版をすべて同時に抜き出して排出することができ、版排出に要する時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(A)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態としての印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法及び装置を説明するためのもので、版排出時の印刷ユニットの側面図(一部ブロック図)である。なお、図1において、前述した従来の枚葉印刷機のものと同一の部位については同一の符号を用いて示している。
【0029】
図1に示すように、本実施形態にかかる版巻き込み防止装置は、表面に形成されたギャップ52に版(刷版)23の両端部が係止されることで版23が巻着された版胴22と、この版胴22に接して設けられ、表面にブランケット25巻着用のギャップ54が形成されたブランケット胴(又はゴム胴ともいう)24とをそなえた印刷ユニット21を複数並設した印刷機において、各版23を各印刷ユニット21外へ同時に排出する時の各版23の各印刷ユニット21内への巻き込みを防止するための装置である。
【0030】
印刷ユニット21は、版胴22表面に巻着された版23上にインキ及び湿し水を供給して版胴22からブランケット胴24にインキを転写し、ブランケット胴24と圧胴26との間にシート(図示省略)を通して、ブランケット胴24からこのシートの表面にインキを転写するようになっている。前述したように、一組の印刷ユニット21においては一色のみの印刷しかできないため、多色印刷を施す印刷機では、シートの走行方向に沿ってインキ色の異なる複数組の印刷ユニット21を並設し、各印刷ユニット21を順次通過させることによって目的とする多色印刷を行なうようになっている。本実施形態にかかる印刷機にも、このような印刷ユニット21が複数(例えば4台)備えられている。
【0031】
版胴22のギャップ52には、版23の両端部(咥え側端部及び咥え尻側端部)を引っ張って版23を版胴22の表面に密着させる版締め装置(図示省略)が備えられている。また、ブランケット胴24のギャップ54には、ブランケット25の両端部(咥え側端部及び咥え尻側端部)を引っ張ってブランケット25をブランケット胴24の表面に密着させるブランケット締め装置(図示省略)が備えられている。
【0032】
版胴22とブランケット胴24とは駆動ギアで互いに連結されて、印刷運転時には同じ周速で回転し、一回転毎に版胴22のギャップ52とブランケット胴24のギャップ54とが互いに向かい合うようになっている。また、版胴22の周囲には、印刷運転時に版胴22に接してインキを供給するインキ着けローラ41,42,43,44と、印刷運転時に版胴22に接して湿し水を供給する湿し水着けローラ45とが備えられている。インキ着けローラ41,42,43,44及び湿し水着けローラ45はそれぞれ印刷運転時の版胴22の回転方向下流側から上流側へ向かって順に配置されている。なお、図1中の版胴22内に示す矢印は版23の抜き出し時の回転方向を示しており、印刷運転時はこの矢印方向とは逆方向へ回転している。つまり、図1に示すように、インキ着けローラ41,42,43,44及び湿し水着けローラ45はそれぞれ版23の抜き出し時の版胴22の回転方向上流側から下流側へ向かって順に配置されている。また、インキ着けローラ41,42,43,44及び湿し水着けローラ45は、印刷運転時には版胴22表面(詳細には版23表面)に接しているが、版23の交換時(印刷停止時)には版胴22表面から所定距離(例えば2mm)離隔した位置(即ち、版胴22に近接した位置)に配置されるようになっている。
【0033】
また、本実施形態にかかる印刷機には、版23の排出開始を示す第1の信号を入力するための第1スイッチ(第1の入力手段)60と、版胴22のギャップ52から版23の一端部を外したことを示す第2の信号を入力するための第2スイッチ(第2の入力手段)61と、各印刷ユニット21の版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26などの各胴や、インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45などの各ローラをそれぞれ回転駆動しうる駆動装置62と、第1スイッチ60及び第2スイッチ61から入力される信号に基づいて駆動装置62を制御する制御装置63とが備えられている。なお、駆動装置62は、具体的には、ブランケット胴24を回転させるメインモータや、版胴22を回転させるサブモータなどの装置からなる。
【0034】
また、本実施形態では、第1スイッチ60及び第2スイッチ61は例えば押しボタン式のスイッチで構成されており、第1スイッチ60は、各印刷ユニット21の各版23の排出を開始する時に使用し、第2スイッチ61は、各印刷ユニット21の各版胴22のギャップ52から各版23の一端部を外した後、各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラインキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を印刷運転時の回転方向とは逆方向へ印刷運転時の回転速度よりも低い速度で回転させて各印刷ユニット21の各版23を図1中の矢印A方向へ抜き出す時に使用する。
【0035】
制御装置63は、例えばコンピュータであり、演算部64を備えている。この演算部64は、第1スイッチ60により第1の信号が入力されると、各印刷ユニット21の各ブランケット胴24のギャップ52が各版胴22に対向しないような各ブランケット胴24の回転位相位置を演算するようになっている。そして、制御装置63は、この演算部64により演算された各ブランケット胴24の回転位相位置に各ブランケット胴24が停止するように、駆動装置62を制御して各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を停止させるようになっている。この後、制御装置63は、各印刷ユニット21の各版胴22と各ブランケット胴24との接続を切り離すなどして、駆動装置62を制御して各印刷ユニット21の各版胴22を各印刷ユニット21の各ブランケット胴24とは別個に回転させて各版23の所定の抜き出し開始位置(図1に示す版胴22の位置。ここでは、版胴22のギャップ52がインキ着けローラ41付近に対向する位置)で停止させるようになっている。
【0036】
また、制御装置63は、第2スイッチにより第2の信号が入力されると、駆動装置62を制御して、各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を共に印刷運転時の回転方向とは逆方向(図1中、各胴及び各ローラ内に示す方向)へ印刷運転時の回転速度よりも低い速度で回転させて各版23を図1中の矢印A方向へ抜き出すようになっている。
【0037】
本発明の第1実施形態にかかる版巻き込み防止装置は、上述のごとく構成されているので、各印刷ユニット21の各版23を交換する場合、第1スイッチ60を操作すると、各印刷ユニット21の各ブランケット胴24のギャップ52が各版胴22に対向しない位置にくるように各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を停止する。その後、各印刷ユニット21の各版胴22を各印刷ユニット21の各ブランケット胴24とは別個に回転させ、所定の版抜き出し開始位置で停止させる。そして、各印刷ユニット21の各版23を各版胴22のギャップ52から外した後、第2スイッチ61を操作すると、各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)が印刷運転時の回転方向とは逆方向(図1中、各胴及び各ローラ内に示す方向)へ印刷運転時の回転速度よりも低い速度で回転させて、各印刷ユニット21の各版23をすべて同時に図1中の矢印A方向へ抜き出す。
【0038】
これにより、各版胴22のギャップ52から各版23の一端部を外したとき、各ブランケット胴24の表面(ギャップ54以外の部分)によりガイドされて各版23の膨らみが抑えられるので、従来のように版23がブランケット胴24のギャップ54に入り込むようにして膨らんでしまうのを防止できる。すなわち、版23を版胴22のギャップ52から外したときに、版23がインキ着けローラ41〜44や湿し水着けローラ45に接触して版23にインキが付着して汚れてしまったり印刷ユニット21内に巻き込んでしまうことを防止することができる。また、各印刷ユニット21の各版23をすべて同時に抜き出して排出することができ、版排出に要する時間を短縮できる。
【0039】
なお、本実施形態では、演算部64は、第1スイッチ60により第1の信号が入力されると、各印刷ユニット21の各ブランケット胴24のギャップ52が各版胴22に対向しないような各ブランケット胴24の回転位相位置を演算するが、さらに、演算部64が、各印刷ユニット21の各版23を各印刷ユニット21外へ抜き出している最中であって各版23が各インキ着けローラ41〜44に対向する領域に存在している間も、各ブランケット胴24のギャップ54が各版胴22に対向しないような各ブランケット胴24の回転位相位置を演算することが好ましい。そして、制御装置63が、この演算部64により演算された各ブランケット胴24の回転位相位置に各ブランケット胴24が停止するように、駆動装置62を制御して各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を停止させるのが好ましい。この後の制御は本実施形態と同様に、制御装置63が、各印刷ユニット21の各版胴22と各ブランケット胴24との接続を切り離すなどして、駆動装置62を制御して各印刷ユニット21の各版胴22を各ブランケット胴24とは別個に回転させて各版23の所定の抜き出し開始位置で停止させる。そして、第2スイッチ61により第2の信号が入力されたら、制御装置63は駆動装置62を制御して各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を印刷運転時の回転方向とは逆方向(図1中、各胴及び各ローラ内に示す方向)へ印刷運転時の回転速度よりも低い速度で回転させて各版23を図1中の矢印A方向へ抜き出す。
【0040】
このように構成すれば、各印刷ユニット21の各版胴22のギャップ52から各版23の一端部を外した後、図2(a)及び図2(b)に示すように各版23を矢印A方向へしだいに抜き出していく間も、各印刷ユニット21の各版23は各ブランケット胴24表面(ギャップ54以外の部分)によりガイドされて各版23の膨らみが抑えられるので、各版胴22のギャップ52から各版23の一端部を外した時点だけでなく、その後各版23を各印刷ユニット21から同時に抜き出している最中においても、各版23が各印刷ユニット21の各インキ着けローラ41〜44に接触することがない。従って、インキ着けローラ41〜44との接触による各版23へのインキ付着や、各印刷ユニット21内への各版23の巻き込みを防止することが可能になる。
【0041】
また、演算部64が、各印刷ユニット21の各版23を各印刷ユニット21外へ抜き出している最中であって各版23が各印刷ユニット21の各湿し水着けローラ45に対向する領域に存在している間も、各ブランケット胴24のギャップ54が各版胴22に対向しないような各ブランケット胴24の回転位相位置を演算し、制御装置63が、この演算部64により演算された各ブランケット胴24の回転位相位置に各ブランケット胴24が停止するように、駆動装置62を制御して各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を停止させるのが好ましい。このように構成すれば、各版23を各印刷ユニット21から同時に抜き出している間、各版23が各印刷ユニット21の各湿し水着けローラ45に接触することがなくなるので、湿し水着けローラ45との接触による各版23の各印刷ユニット21内への巻き込みを防止することが可能になる。
【0042】
また、演算部64が、各印刷ユニット21の各版23を各印刷ユニット21外へ抜き出している最中であって各版23が各印刷ユニット21の各インキ着けローラ41〜44及び各湿し水着けローラ45の両方に対向する領域に存在している間、各ブランケット胴24のギャップ54が各版胴22に対向しないような各ブランケット胴24の回転位相位置を演算し、制御装置63が、この演算部64により演算された各ブランケット胴24の回転位相位置に各ブランケット胴24が停止するように、駆動装置62を制御して各印刷ユニット21の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を停止させるようにしてもよい。このように構成すれば、インキ着けローラ41〜44との接触だけでなく、湿し水着けローラ45との接触による各印刷ユニット21内への各版23の巻き込みも防止することが可能になる。
【0043】
なお、本実施形態では、図1,図2(a)及び図2(b)に示すように、版胴22及びブランケット胴24が圧胴26の上方に配置された印刷ユニット(この場合、シートの表側の面に印刷が施されるため、これを「表面印刷ユニット」ともいう)21について説明したが、図3に示すように版胴22及びブランケット胴24が圧胴26の下方に配置された印刷ユニット(この場合、シートの裏側の面に印刷が施されるため、これを「裏面印刷ユニット」ともいう)21′(図3ではブロック図を省略している)に適用することももちろん可能である。
【0044】
(B)第2実施形態
図4は、本発明の第2実施形態としての印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法及び装置を説明するためのもので、版排出時の印刷ユニットの側面図である。なお、図4において、前述した従来の枚葉印刷機のものと同一の部位については同一の符号を用いて示している。
【0045】
図4に示すように、本実施形態にかかる版巻き込み防止装置は、第1実施形態と同様に、表面に形成されたギャップ52に版(刷版)23の両端部が係止されることで版23が巻着された版胴22と、この版胴22に接して設けられ、表面にブランケット25巻着用のギャップ54が形成されたブランケット胴(又はゴム胴ともいう)24とをそなえた印刷ユニット121を複数並設した印刷機において、版23を印刷ユニット121外へ排出する時の版23の印刷ユニット121内への巻き込みを防止するための装置である。なお、印刷ユニット121の版胴22,ブランケット胴24,圧胴26,インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45は前述した第1実施形態と同様であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0046】
本実施形態にかかる各印刷ユニット121には、版胴22に対して接離可能に設けられた版押さえローラ80が備えられている。この版押さえローラ80は、印刷運転時には版胴22から離隔した位置に配置されているが、版23の取り外し時には版胴22に接近した位置に配置されて、版胴22のギャップ52から外される版23の一端部近傍を版胴22の表面に押さえつけるように構成されている。版押さえローラ80は駆動装置162により駆動される。なお、本実施形態にかかる駆動装置162は、ブランケット胴24を回転させるメインモータや版胴22を回転させるサブモータや版押さえローラ80を駆動するエアシリンダなどの装置からなる。
【0047】
また、本実施形態にかかる制御装置163は、第1スイッチ60により第1の信号が入力されると、駆動装置162を制御して、各印刷ユニット121の各版胴22及び各ブランケット胴24を停止させた後、各印刷ユニット121の各版胴22を各ブランケット胴24とは別個に回転させて各版23の所定の版抜き出し開始位置(図4に示す版胴22の位置。ここでは、版胴22のギャップ52がインキ着けローラ41付近に対向する位置)で停止させるとともに、各印刷ユニット21の各版押さえローラ80を各版胴22に接近させて各版23の一端部近傍を各版胴22の表面に押さえつけるように制御する。また、制御装置163は、第2スイッチにより第2の信号が入力されると、駆動装置162を制御して、各印刷ユニット121の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)を共に印刷運転時の回転方向とは逆方向(図4中、各胴及び各ローラ内に示す方向)へ印刷運転時の回転速度よりも低い速度で回転させて各版23を図4中の矢印A方向へ抜き出すようになっている。
【0048】
本発明の第2実施形態にかかる版巻き込み防止装置は、上述のごとく構成されているので、各印刷ユニット121の各版23を交換する場合、第1スイッチ60を操作すると、各印刷ユニット121の各版胴22及び各ブランケット胴24が停止する。その後、各印刷ユニット21の各版胴22を各ブランケット胴24とは別個に回転させ、所定の版抜き出し開始位置で停止させる。また、各印刷ユニット121の各版押さえローラ80が各版胴22に接近して各版23の一端部近傍を各版胴22の表面に押さえつける。そして、各印刷ユニット121の各版23の一端部を各版胴22のギャップ52から外した後、第2スイッチ61を操作すると、各印刷ユニット121の各胴(版胴22,ブランケット胴24及び圧胴26)及び各ローラ(インキ着けローラ41〜44及び湿し水着けローラ45)が印刷運転時の回転方向とは逆方向(図4中、各胴及び各ローラ内に示す方向)へ印刷運転時の回転速度よりも低い速度で回転させて、各印刷ユニット121の各版23をすべて同時に図4中の矢印A方向へ抜き出す。
【0049】
これにより、各印刷ユニット121の各版胴22のギャップ52から各版23の一端部を外したとき、また、その後各版23を抜き出している最中も、各版押さえローラ80によりガイドされて各版23の膨らみが抑えられるので、各ブランケット胴24のギャップ54が各版胴22に対向する位置にきても各版23が膨らまない。すなわち、各版23を各版胴22のギャップ52から外したときや、各版23を抜き出している最中に、各版23が各印刷ユニット121の各インキ着けローラ41〜44や各湿し水着けローラ45に接触して各版23にインキが付着して汚れてしまったり各版23を各印刷ユニット121内に巻き込んでしまうことを防止することができる。また、各印刷ユニット121の各版23をすべて同時に抜き出して排出することができ、版排出に要する時間を短縮できる。
【0050】
また、本実施形態によれば、各印刷ユニット121の各ブランケット胴24のギャップ52が各版胴22に対向しないような各ブランケット胴24の回転位相位置を演算する必要がないので、第1実施形態に比べて構成を簡素にすることができる。さらに、各印刷ユニット121の各版胴22に各版23を巻着する際に各版23を各版胴22に押さえつけて各版胴22の表面になじませる版なじみローラを版押さえローラ80として兼用することができるので、新たな構成を追加する必要がなく、既存の構成で実現できる。
【0051】
なお、本実施形態では、図4に示すように、版胴22及びブランケット胴24が圧胴26の上方に配置された印刷ユニット(表面印刷ユニット)121について説明したが、図5に示すように版胴22及びブランケット胴24が圧胴26の下方に配置された印刷ユニット(裏面印刷ユニット)121′(図5ではブロック図を省略している)に適用することももちろん可能である。
【0052】
(C)第3実施形態
図6及び図7は、本発明の第3実施形態としての印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法及び装置を説明するためのもので、図6はブランケット胴の側面図、図7はブランケットが巻着された状態における図6のC−C断面図である。なお、図6及び図7において、前述した従来の枚葉印刷機のものと同一の部位については同一の符号を用いて示している。
【0053】
本実施形態にかかる版巻き込み防止装置は、従来技術で説明した各印刷ユニット21のブランケット胴24の構成に特徴がある。なお、各印刷ユニット21のその他の構成(版胴,圧胴,インキ着けローラ及び湿し水着けローラ)は従来技術と同様であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
図6及び図7に示すように、各印刷ユニット21の各ブランケット胴24のギャップ54には、ブランケット25の表面と同じ曲率で形成され、ブランケット胴24のギャップ54を覆うように取り付けられたカバー(カバー部材)100が備えられている。カバー100の表面がブランケット25の表面よりも高いと、版取り外し中にカバー100が版胴22と接触してカバー100が破損してしまうおそれがあるため、カバー100の表面位置はブランケット25と同じ表面位置となるように配置されている。なお、図6及び図7中の符号90はブランケット25の咥え側端部を係止する第1係止部材であり、符号91はブランケット25の咥え尻側端部を係止する第2係止部材であり、これら第1係止部材90及び第2係止部材91からブランケット締め装置が構成される。カバー100は、第1係止部材90及び第2係止部材91により係止されたブランケット25に干渉しない長さ(ブランケット胴24の周方向長さ)で形成されており、ブランケット胴24のギャップ54部分を滑らかに接続するようになっている。また、カバー100は、ギャップ54の底部に立設された支持部材101により支持されている。さらに、本実施形態では、カバー100は、ブランケット胴24のギャップ54の軸方向に複数(ここでは5つ)並設されている。
【0054】
本発明の第3実施形態にかかる版巻き込み防止装置は、上述のごとく構成されているので、各印刷ユニット21の各版胴22のギャップ52から各版23の一端部を外したとき、また、その後各版23を抜き出している最中も、常に、各ブランケット胴24の表面(ギャップ54以外の領域)或いはカバー100(ギャップ54の領域)によりガイドされて各版23の膨らみが抑えられるので、何れの印刷ユニット21のブランケット胴24のギャップ54が版胴22に対向する位置にきても版23が膨らまない。すなわち、各版23を各版胴22のギャップ52から外したときや、各版23を抜き出している最中に、各版23がインキ着けローラ41〜44や湿し水着けローラ45に接触して各版23にインキが付着して汚れてしまったり各版23を各印刷ユニット21内に巻き込んでしまうことを防止することができる。また、各印刷ユニット21の各版23をすべて同時に抜き出して排出することができ、版排出に要する時間を短縮できる。
【0055】
また、本実施形態によれば、各印刷ユニット21の各ブランケット胴24のギャップ52が各版胴22に対向しないような各ブランケット胴24の回転位相位置を演算する必要がないので、第1実施形態と比べて構成を簡素にすることができる。
さらに、本実施形態ではカバー100をブランケット胴24のギャップ54の軸方向に複数並設する構成としたが、版排出時の版23の膨らみ状態を考慮してカバー100の個数を適宜変更してもよい。また、ブランケット胴24の軸方向に延びる1つのカバーによりギャップ54全体を覆ってもよい。いずれにしても、版排出時に各印刷ユニット21の各版23が各ブランケット胴24のギャップ54に入り込むようにして膨らんでしまうのを確実に防止するため、本実施形態のようにカバー100をブランケット25の表面と同じ曲率で形成するのがよい。
【0056】
なお、本実施形態では、版胴22及びブランケット胴24が圧胴26の上方に配置された印刷ユニット(表面印刷ユニット)21について説明したが、版胴22及びブランケット胴24が圧胴26の下方に配置された印刷ユニット(裏面印刷ユニット)に適用することももちろん可能である。
【0057】
(D)その他
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば第1,第2及び第3実施形態の構成を適宜組み合わせてもよい。また、本発明の版巻き込み防止装置は、枚葉印刷機及び輪転印刷機のいずれにも適用することができる。
【0058】
さらに、上述した第1,2実施形態では、第1スイッチ60及び第2スイッチ61の手動操作により印刷機の各動作を段階的に行なうようにしたが、第1スイッチ60による動作完了後に第2スイッチ61により第2の信号が自動的に入力されるようにし、第1スイッチ60による動作の後第2スイッチ61による動作を連続して自動で行なうようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる版排出時の印刷ユニットを示す側面図(一部ブロック図)である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる版排出時の印刷ユニットの側面図であって、(a)は図1の状態よりも版を抜き出した状態を示す図,(b)は(a)の状態よりも版を抜き出した状態を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかる印刷ユニットの変形例を示す側面図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる版排出時の印刷ユニットを示す側面図である。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる印刷ユニットの変形例を示す側面図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかるブランケット胴を示す側面図である。
【図7】本発明の第3実施形態にかかるブランケット胴にブランケットが巻着された状態における図6のC−C断面図である。
【図8】一般的な枚葉印刷機を示す側面図である。
【図9】図8の印刷装置を拡大して示す側面図である。
【図10】刷版の交換方法を説明するための図である。
【図11】印刷機の版胴を位相調整する技術を説明するための図である。
【図12】従来技術の課題を説明するための図である。
【符号の説明】
【0060】
1 シート(枚葉紙)
10 シート供給装置
11 給紙テーブル
20 印刷装置
21,21′,121,121′ 印刷ユニット
22 版胴
23 版
24 ブランケット胴
25 ブランケット
26 圧胴
27,28,29 中間胴
30 シート排出装置
31 従動軸
32 エンドレスチェン
33 シート積重装置
34 排紙テーブル
41,42,43,44 インキ着けローラ
45 湿し水着けローラ
52 版胴のギャップ
54 ブランケット胴のギャップ
60 第1スイッチ(第1の入力手段)
61 第2スイッチ(第2の入力手段)
62,162 駆動装置
63,163 制御装置
64 演算部
80 版押さえローラ(ローラ)
90 第1係止部材
91 第2係止部材
100 カバー(カバー部材)
101 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、
該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止する方法であって、
上記の各版胴及び各ブランケット胴を、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しない位置にくるように停止させるステップと、
次に、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させるステップと、
次に、上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外し、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すステップとをそなえた
ことを特徴とする、印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法。
【請求項2】
上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴にインキを供給するインキ着けローラをそなえ、
上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出すステップでは、
上記の各版が上記の各インキ着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにする
ことを特徴とする、請求項1記載の印刷機の版排出時の版巻き込み方法。
【請求項3】
上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴に湿し水を供給する湿し水着けローラをそなえ、
上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出すステップでは、
上記の各版が上記の各湿し水着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにする
ことを特徴とする、請求項2記載の印刷機の版排出時の版巻き込み方法。
【請求項4】
表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、
該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止する方法であって、
上記の各版胴及び各ブランケット胴を停止させるステップと、
次に、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させるステップと、
次に、上記の各版の一端部近傍をローラにより上記の各版胴の表面に押さえつけた状態で、上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外し、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すステップとをそなえた
ことを特徴とする、印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法。
【請求項5】
該版胴に該版を巻着する際に該版を該版胴に押さえつけて該版胴の表面になじませる版なじみローラを該ローラとして兼用する
ことを特徴とする、請求項4記載の印刷機の版排出時の版巻き込み防止方法。
【請求項6】
表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、
該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止するための装置であって、
上記の各版の排出開始を示す第1の信号を入力するための第1の入力手段と、
上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外したことを示す第2の信号を入力するための第2の入力手段と、
上記の第1の入力手段により第1の信号が入力されると、上記の各版胴及び各ブランケット胴を、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しない位置にくるように停止させるとともに、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させ、上記の第2の入力手段により第2の信号が入力されると、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すように、上記の各版胴及び各ブランケット胴を制御する制御装置とをそなえた
ことを特徴とする、印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置。
【請求項7】
上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴にインキを供給するインキ着けローラをそなえ、
上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出している最中であって上記の各版が上記の各インキ着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにする
ことを特徴とする、請求項6記載の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置。
【請求項8】
上記の各版胴に近接した位置に配置され、上記の各版胴に湿し水を供給する湿し水着けローラをそなえ、
上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ抜き出している最中であって上記の各版が上記の各湿し水着けローラに対向する領域に存在している間、上記の各ブランケット胴のギャップが上記の各版胴に対向しないようにする
ことを特徴とする、請求項7記載の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置。
【請求項9】
表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、
該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止するための装置であって、
上記の各版の排出開始を示す第1の信号を入力するための第1の入力手段と、
上記の各版胴のギャップから上記の各版の一端部を外したことを示す第2の信号を入力するための第2の入力手段と、
上記の各版胴に接離可能に設けられ、上記の各版の一端部近傍を上記の各版胴の表面に押さえつけるローラと、
上記の第1の入力手段により第1の信号が入力されると、上記の各版胴及び各ブランケット胴を停止させた後、上記の各版胴を、上記の各ブランケット胴とは別個に回転させて上記の各版の所定の版抜き出し開始位置で停止させるとともに、上記の各ローラを上記の各版胴に接近させて上記の各版の一端部近傍を上記の各版胴の表面に押さえつけ、上記の第2の入力手段により第2の信号が入力されると、上記の各版胴及び上記の各ブランケット胴を共に回転させて上記の各版を上記の各印刷ユニット外へ同時に抜き出すように、上記の各版胴及び各ブランケット胴を制御する制御装置とをそなえた
ことを特徴とする、印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置。
【請求項10】
該版胴に該版を巻着する際に該版を該版胴に押さえつけて該版胴の表面になじませる版なじみローラが該ローラとして兼用される
ことを特徴とする、請求項9記載の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置。
【請求項11】
表面に形成されたギャップに版の両端部が係止されることで該版が巻着された版胴と、
該版胴に接して設けられ、表面にブランケット巻着用のギャップが形成されたブランケット胴とをそなえた印刷ユニットを複数並設した印刷機において、該版を該印刷ユニット外へ排出する時の該版の該印刷ユニット内への巻き込みを防止するための装置であって、
上記の各ブランケット胴の表面と同じ曲率で形成され、上記の各ブランケット胴のギャップを覆うように取り付けられたカバー部材をそなえた
ことを特徴とする、印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置。
【請求項12】
該カバー部材が、上記の各ブランケット胴のギャップの軸方向に複数並設されている
ことを特徴とする、請求項11記載の印刷機の版排出時の版巻き込み防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−175734(P2006−175734A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371679(P2004−371679)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】