説明

印刷機

【課題】 湿し水を適切な時期に交換することにより、印刷品質の向上を図るとともに生産性の向上を図る。
【解決手段】 各印刷ユニット2Aないし2Dには、版胴3に湿し水25を供給する給水装置とインキを供給するインキ装置が備えられている。給水装置の水舟8には、タンク26内の湿し水25が、ポンプ28によって給水管29、配管30Aないし30Dを介して供給される。タンク26内の湿し水25中にカルシウムイオン検出器40を浸漬しておき、カルシウムイオン検出器40は警報装置41および印刷品質管理装置42に接続されている。検出されたカルシウムイオンの検出濃度が予め設定された設定値を超えると警報装置41から警報音が発せられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、版胴の版にインキを供給するインキ装置と、インキ装置によって供給されるインキによって印刷される紙と、版胴の版に湿し水を供給する給水装置とを備えた印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は従来の印刷機における湿し水の給水回路を概念的に示す回路図、図4は一般的な印刷機における給水装置とインキ装置のローラ配列を示す図である。図3において、全体を符号1で示す印刷機には4つの印刷ユニット2Aないし2Dが備えられており、これら印刷ユニット2Aないし2Dには、広く知られているように版胴3とこれと対向するゴム胴4とこれと対向する圧胴5とが設けられている。また、印刷ユニット2Aないし2Dには、図4に示すように版胴3に湿し水を供給する給水装置6と、版胴にインキを供給するインキ装置7とが備えられている。
【0003】
給水装置6は、水舟8に浸漬された水元ローラ9と、版胴3に対接する水着ローラ10と、この水着ローラ10と水元ローラ9との間に設けられ互いに周面が対接した調量ローラ11および移しローラ12とによって構成されている。インキ装置7はインキ供給装置13とインキローラ群14とで構成されており、インキ供給装置13は、インキ壷ローラ15と左右一対のインキせきによってインキが蓄えられたインキ壷16が備えられている。インキローラ群14は、版胴3の周面に対接しているインキ着けローラ18と、これを支持する振りローラ19と、この振りローラ19の上方に設けられた3個の練りローラ20と、インキ壷ローラ15と練りローラ21とに交互に接触する呼び出しローラ22と、練りローラ23と振りローラ24とによって概略構成されている。
【0004】
この印刷機1には、図3に示すように印刷用の湿し水25を貯留するタンク26が備えられている。27はタンク26内に貯留されている湿し水25を冷却するクーラー、28はタンク26内の湿し水25を給水管29を介して4本の配管30Aないし30Dに給水するためのポンプである。これら4本の配管30Aないし30Dへの湿し水25の供給量は、バルブ31Aないし31Dの開閉量によって個々に調整され、湿し水25は4本の配管30Aないし30Dを介して各印刷ユニット2Aないし2Dに備えられたそれぞれの水舟8に供給される。これら水舟8には、水舟8内の湿し水25の貯水量を一定に保つ配管32Aないし32Dが設けられており、一定量以上の湿し水25はこれら配管32Aないし32Dから排水管33を通り、後述するカルシウムイオンのように湿し水中にイオン化した物質を除去する目の細かいフィルタとは異なる目の粗いフィルタ34を介して予備のタンク35に一時的に貯留される。
【0005】
この予備のタンク35に貯留された湿し水25は、予備のタンク35内の湿し水25の貯水量が増加したことを検知して、ポンプ36を作動させ、復水管37を介してタンク25内に送水し、予備のタンク35内の湿し水25を一定量に維持させる。これら給水管29、配管30Aないし30D、配管32Aないし32D、排水管33および復水管37によって湿し水25の循環経路38が形成されている。なお、上述した従来技術は、出願人が出願時点で知る限りにおいて文献公知ではない。また、出願人は、出願時までに本発明に関連する先行技術文献を発見することができなかった。よって、先行技術文献情報を開示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の印刷機においては、長期間にわたって湿し水を交換しないままで使用していると、インキローラ上に親水性の膜が形成されることにより、インキローラにインキが着かなくなるという、いわゆるローラストリッピングが発生する。このため、印刷機を一定期間運転させると定期的に湿し水の交換を行ってきた。しかし、近年、作業者が意図しない時期に原因不明なローラストリッピングが頻繁に発生するようになってきた。このため、湿し水を頻繁に交換しなければならなくなり、これにともない湿し水の交換時期が短縮されるようになってきている。この交換時期は、上記したようにストリッピングの発生原因が不明であるため、専ら作業者の勘を頼りに行っており、湿し水の適切な交換時期を判断するのが難しくなってきている。
【0007】
すなわち、交換時期が遅れインキローラ上に親水性の膜が形成された後では、この親水性の膜を取り除くために、一旦印刷作業を停止しインキローラを洗浄しなければならなかったり、インキローラを交換しなければならないというように、生産性が低下するといった問題があった。一方、交換時期が必要以上に早過ぎると、使用可能な湿し水を交換してしまうために、湿し水が無駄になるという問題が起きる。また、ローラストリッピングを防止するために、インキローラの表面にエアーを吹き着けるためのファンやエアー吹き装置を設けることも考えられるが、エアーを吹き着けるための配管やエアー源を設ける必要があるため、構造が複雑になるというばかりではなく装置が大型化するという問題があった。
【0008】
本発明は上記した従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、湿し水を適切な時期に交換することにより、印刷品質の向上を図るとともに生産性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、版胴の版にインキを供給するインキ装置と、このインキ装置によって供給されるインキによって印刷される紙と、版胴の版に湿し水を供給する給水装置とを備えた印刷機において、前記湿し水に含まれるカルシウムイオンを検出するカルシウムイオン検出器と、このカルシウムイオン検出器によって検出されたカルシウムイオンの検出濃度が予め設定された設定値を超えたことを報知する報知手段とを備えたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、湿し水を貯留するタンクと、このタンク内の湿し水をポンプによって前記給水装置の水舟に供給し水舟内の湿し水を前記タンクに戻す湿し水循環経路とを備え、前記タンクに貯留された湿し水のカルシウムイオンの濃度を前記カルシウムイオン検出器によって検出するものである。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記給水装置を構成する水舟内の湿し水のカルシウムイオンの濃度を前記カルシウムイオン検出器によって検出するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、湿し水中に含まれるカルシウムの濃度を測定することにより、カルシウムイオンに起因するローラストリッピングが発生する以前に、湿し水の交換時期を作業者の勘に頼らずに適切に行うことができるようにしたので、印刷品質の向上を図ることができるとともに生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明に係る印刷機の給水回路を示すモデル図である。同図において、上述した図3および図4に示す従来技術において説明した同一または同等の部材については、同一の符号を付し詳細な説明は適宜省略する。先ず、本願発明者は、近年になり、何故ローラストリッピングの発生が以前に較べて顕著になってきたかについて探求し、試行錯誤の結果、湿し水中に含まれるイオンのうちカルシウムイオンが目立って多く含まれるようになってきていることに注目した。さらに、探求を進めていくうちに、近年再生紙の使用頻度が増加していることに着目した。そこで、再生紙の成分を分析した結果、カルシウムが多く含まれていることが判明し、このカルシウムが印刷機内を循環する湿し水に再生紙の紙粉が溶けることによりイオン化するものと推測した。
【0014】
次に、このカルシウムイオンとローラストリッピングとの因果関係については、カルシウムイオンが湿し水の成分であるエッチ液(etching solution)に含まれている物質と結合しやすいことがわかっており、このためにインキローラ上にカルシウムの結晶が形成され、これが親水性の膜になると考えられる。このカルシウムイオンのように湿し水中にイオン化した物質を、上記した紙粉除去用フィルタ34とは異なる目の細かいフィルタや水処理装置で除去することは可能であるが、この方法では湿し水中の成分であるエッチ液やIPA(イソ・プロピレン・アルコール)液等まで除去されてしまうため、この方法を採用することはできない。
【0015】
したがって、本願発明においては、インキローラ上に親水性の膜が形成される直前のカルシウムイオンの濃度を実験により特定し、この濃度を予め設定した設定値とし、この設定値に湿し水中のカルシウムイオンの濃度が達したときに、湿し水を交換するようにしたものである。すなわち、本願発明においては、タンク26内に貯留された湿し水25にカルシウムイオン検出器40を浸漬させておき、このカルシウムイオン検出器40によって湿し水25に溶解したカルシウムイオンの濃度を検出するように構成した。このカルシウムイオン検出器40によって検出されたカルシウムイオンの検出濃度が、予め設定された設定値に達すると、カルシウムイオン検出器40に接続されている報知手段としての警報装置41から警報が発せられる。また、カルシウムイオン検出器40はインキ量や給水量等の印刷品質を管理するための印刷品質管理装置42に接続されており、この印刷品質管理装置42の報知手段としての表示器43には、カルシウムイオンの検出濃度が表示される。
【0016】
このように構成されていることにより、湿し水25内に予め設定された設定値以上のカルシウムイオンが生成される以前に警報装置41が警報音を発する。したがって、作業者は印刷品質管理装置42の表示器43に表示されているカルシウムイオンの濃度を確認し、カルシウムイオンの濃度が設定値に達していれば、直ちに印刷機を停止させ、タンク26内および予備のタンク35内に貯留された湿し水25ならびに循環経路38内の湿し水25を交換する。このように、本発明においては、例えば再生紙を使用する印刷機において、再生紙に多く含まれているカルシウムが、印刷機内を湿し水25が循環する間に再生紙の紙粉が湿し水に溶けることによりイオン化し、このカルシウムイオンが湿し水の成分であるエッチ液(etching solution)に含まれている物質と結合し、インキローラ上にカルシウムの結晶である親水性の膜を形成することに着目し湿し水の交換を必要最小限にしたものである。
【0017】
すなわち、湿し水25中のカルシウムの濃度を測定することにより、カルシウムイオンに起因するローラストリッピングが発生する以前に、湿し水25の交換時期を作業者の勘に頼らずに適切な時期に行うことができるようにしたので、刷りムラが発生する以前に湿し水を交換することができるため、印刷品質の向上を図ることができる。同時に、インキローラ上に親水性の膜が形成される以前に湿し水を交換することができるため、一旦印刷作業を停止しインキローラを洗浄しなければならないということや、インキローラを交換しなければならないということがないので生産性が向上する。また、湿し水の交換時期が早過ぎてしまうことがないため、使用可能な湿し水を無駄にしてしまうことがない。また、ローラストリッピングを防止するために、インキローラの表面にエアーを吹き着けるためのファンやエアー吹き装置を設ける必要がなくなるため、エアーを吹き着けるための配管やエアー源が不要になるから、構造が簡易になるというばかりではなく装置が大型化するようなこともない。
【0018】
なお、本実施の形態においては、報知手段として警報装置41や表示器43を設けたが、これらに限らず警告ランプ等でもよく、種々の設計変更が可能である。また、湿し水25を貯留するタンク26を利用して、このタンク26内にカルシウムイオン検出器40を浸漬させておく構成としたが、図2に示すように、この検出器40を水舟8内の湿し水25に浸漬させておく構成としてもよく、また、湿し水25の循環経路38の一部にカルシウムイオン検出器40を設ける湿し水の貯留部を設けてもよく、要は湿し水25の循環経路38の一部にカルシウムイオン検出器40を設けれるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る印刷機における給水回路を概念的に示す回路図である。
【図2】本発明の他の実施の形態を示す給水装置とインキ装置のローラ配列を示す図である。
【図3】従来の印刷機における給水回路を概念的に示す回路図である。
【図4】一般的な印刷機における給水装置とインキ装置のローラ配列を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1…印刷機、3…版胴、6…給水装置、7…インキ装置、8…水舟、14…インキローラ群、25…湿し水、26…タンク、38…湿し水の循環経路、40…カルシウム検出器、41…警報、42…印刷品質管理装置、43…表示器。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴の版にインキを供給するインキ装置と、このインキ装置によって供給されるインキによって印刷される紙と、版胴の版に湿し水を供給する給水装置とを備えた印刷機において、
前記湿し水に含まれるカルシウムイオンを検出するカルシウムイオン検出器と、このカルシウムイオン検出器によって検出されたカルシウムイオンの検出濃度が予め設定された設定値を超えたことを報知する報知手段とを備えたことを特徴とする印刷機。
【請求項2】
請求項1記載の印刷機において、
湿し水を貯水するタンクと、このタンク内の湿し水をポンプによって前記給水装置の水舟に供給し水舟内の湿し水を前記タンクに戻す湿し水循環経路とを備え、前記タンクに貯水された湿し水のカルシウムイオンの濃度を前記カルシウムイオン検出器によって検出することを特徴とする印刷機。
【請求項3】
請求項1記載の印刷機において、
前記給水装置を構成する水舟内の湿し水のカルシウムイオンの濃度を前記カルシウムイオン検出器によって検出することを特徴とする印刷機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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