説明

印刷機

【課題】印刷機において、版面に付着している異物を確実に除去してヒッキーの発生を防止すると共に乳化を安定させることで印刷品質の向上を図る。
【解決手段】版胴12の周囲にインキ供給装置14及び湿し装置15を配設し、この版胴12を駆動モータ34により駆動回転可能とする一方、湿し装置15の水着けローラ32を駆動モータ35により駆動回転可能とし、制御装置36により各駆動モータ34,35を駆動して版胴12と水着けローラ32をそれぞれ独立して駆動回転することで、版胴12と水着けローラ32の周速差が印刷機の運転状態に応じた所定値(0.08〜0.3m/s)となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、オフセット枚葉印刷機やオフセット輪転印刷機などの印刷制御を行う制御装置を有する印刷機に関し、特に、湿し装置の駆動制御を行う印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット枚葉印刷機の印刷装置では、表面に版が装着される版胴と、版胴に供給されたインキを絵柄として印刷紙に転写するブランケット胴と、このブランケット胴と協同して印刷紙に所定の印圧かける圧胴とが対接した状態で配置されている。そして、版胴の周囲に、この版胴の表面にインキを供給するインキ供給装置と、版胴の表面に湿し水を供給する湿し装置が設けられている。
【0003】
インキ供給装置は、インキつぼ装置を有し、インキつぼのインキをインキ元ローラやインキ渡しローラなどを介してインキローラ群に受け渡し、その後、インキ着けローラを介して版胴に供給することができる。湿し装置は、水舟に貯留されている湿し水を、水元ローラにより調量ローラに受け渡した後、この調量ローラから水着けローラを介して版胴に供給することができる。また、このインキ着けローラと水着けローラとの間にはインキ受入れローラが設けられており、このインキ受入れローラにインキ着けローラからインキが転移されると共に、水着けローラから湿し水が転移され、インキと湿し水との乳化が促進されることにより、綺麗な印刷を行うことができる。
【0004】
ところで、このようなオフセット枚葉印刷機では、インキが乾燥した皮膜や供給される印刷シートの紙粉、その他のごみなどの異物が版面に付着し、この状態で印刷作業を行われると、部分的な白抜けや非画線部の汚れとなるヒッキーと称される汚れの現象が発生する。そこで、一般的には、湿し装置の水着けローラを用いて版面に付着した異物を除去するようにしている。即ち、上述したオフセット枚葉印刷機にて、版胴に対して湿し装置の水着けローラを対接し、この状態で、水着けローラを版胴の速度より若干遅い速度で回転することで、版胴に対して水着けローラをスリップさせ、版面に付着している異物を除去している。
【0005】
なお、上述した水着けローラにより版面に付着している異物を除去するようにした印刷機としては、下記特許文献1に記載されたものがある。
【0006】
【特許文献1】特開平02−187336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オフセット枚葉印刷機では、上述したように、水着けローラを版胴の速度より若干遅い速度で回転することで、版面に付着している異物を除去している。ところで、湿し装置の水着けローラは、本来、版胴に所定量の湿し水を供給することで、インキに対する湿し水の混入率、つまり、適正な乳化率を確保して綺麗な印刷を行うようにしている。しかし、水着けローラの回転速度を回転版胴の回転速度よりも遅くすると、両者の間にスリップが発生し、インキ中に分散している水分(乳化水)が凝集して表面水となリ、乳化が不安定となってローラ目と呼ばれる濃度段差部が発生してしまう。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するものであり、版面に付着している異物を確実に除去してヒッキーの発生を防止すると共に乳化を安定させることで印刷品質の向上を図った印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための請求項1の発明の印刷機は、版胴と、該版胴に対接して該版胴に湿し水を供給する水着けローラと、前記版胴を駆動回転する第1駆動手段と、該水着けローラを駆動回転する第2駆動手段と、印刷機の運転状態に応じて前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御する駆動制御手段とを具えたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明の印刷機では、前記駆動制御手段は、前記版胴と前記水着けローラの周速差が前記印刷機の運転状態に応じた所定値となるように前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御することを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の印刷機では、前記駆動制御手段は、前記版胴と前記水着けローラの周速差が0.08〜0.3m/sとなるように前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御することを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明の印刷機では、前記駆動制御手段は、前記版胴と前記水着けローラの周速差が乳化安定状況及び紙粉発生状況を考慮した所定値となるように前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御することを特徴としている。
【0013】
請求項5の発明の印刷機では、前記駆動制御手段は、印刷速度に対する前記版胴と前記水着けローラの周速差を調整可能な周速差調整手段を有することを特徴としている。
【0014】
請求項6の発明の印刷機では、前記駆動制御手段は、印刷速度に対する前記版胴と前記水着けローラの周速差を設定した複数の速度関数パターンを有し、切替手段により所望の速度関数パターンに切替可能であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明の印刷機によれば、版胴を駆動回転する第1駆動手段と、版胴に対接して湿し水を供給する水着けローラを駆動回転する第2駆動手段と、印刷機の運転状態に応じて第1駆動手段及び第2駆動手段を駆動制御する駆動制御手段を設けたので、駆動制御手段が印刷機の運転状態に応じて第1駆動手段と第2駆動手段により版胴と水着けローラを独立して駆動することで、版胴の回転速度と水着けローラの回転速度を所望の速度、つまり、両者の周速差を適正なものとすることができ、版面に付着している異物を確実に除去してヒッキーの発生を防止することができると共に、版面に適量の湿し水を供給して乳化を安定させることで印刷品質を向上することができる。
【0016】
請求項2の発明の印刷機によれば、駆動制御手段は、版胴と水着けローラの周速差が印刷機の運転状態に応じた所定値となるように第1駆動手段及び第2駆動手段を駆動制御するので、印刷機の運転状態に応じて版胴と水着けローラの周速差を所定値とすることで、版面に付着している異物の除去と乳化の安定化を両立させることができる。
【0017】
請求項3に記載の印刷機によれば、駆動制御手段は、版胴と水着けローラの周速差が0.08〜0.3m/sとなるように第1駆動手段及び第2駆動手段を駆動制御するので、印刷機の運転状態に応じて版胴と水着けローラの周速差を0.08〜0.3m/sとすることで、版面に付着している異物の除去と乳化の安定化を両立させることができる。
【0018】
請求項4の発明の印刷機によれば、駆動制御手段は、版胴と水着けローラの周速差が乳化安定状況及び紙粉発生状況を考慮した所定値となるように第1駆動手段及び第2駆動手段を駆動制御するので、乳化安定状況及び紙粉発生状況を考慮して版胴と水着けローラの周速差を設定することで、高い印刷品質を確保することができる。
【0019】
請求項5の発明の印刷機によれば、駆動制御手段に、印刷速度に対する版胴と水着けローラの周速差を調整可能な周速差調整手段を設けたので、印刷速度、インキや印刷紙の種類などに応じた最適な版胴と水着けローラの周速差に詳細に調整することができる。
【0020】
請求項6の発明の印刷機によれば、駆動制御手段に、印刷速度に対する版胴と水着けローラの周速差を設定した複数の速度関数パターンを設け、切替手段により所望の速度関数パターンに切替可能としたので、印刷速度、インキや印刷紙の種類などに応じた最適な速度関数パターン版胴と水着けローラの周速差に容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る印刷機の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
図1は、本発明の一実施例に係る印刷機が適用されたオフセット枚葉印刷機の概略構成図、図2は、本実施例の印刷機におけるモニタ画面を表す概略図、図3−1から図3−4は、本実施例の印刷機における速度関数パターンを表す概略図である。
【0023】
本実施例のオフセット枚葉印刷機は、印刷シートの搬送経路に沿って、インキ色としての藍(C)、紅(M)、黄(Y)、墨(K)ごとに印刷ユニットが設置されて構成されている。この印刷ユニットにおいて、図1に示すように、印刷シートSの搬送経路を挟んで、上方にブランケット胴11及び版胴12が配置される一方、下方に圧胴13が配置されており、版胴12の周囲にインキ供給装置14と湿し装置15が配置されている。そして、版胴12の表面には、版16が装着され、長手方向の各端部が凹部12aに固定されている。
【0024】
このインキ供給装置14において、インキつぼ21には、図示しないインキキーにより調量されたインキを練り出すインキ元ローラ22が設けられており、このインキ元ローラ22に対して呼び出しローラ23が対接可能に設けられ、この呼び出しローラ23に対してインキローラ群24が対接して設けられており、4つのインキ着けローラ25,26,27,28が版胴12に対接して設けられている。
【0025】
従って、インキ供給装置14の各ローラを回転すると、インキ元ローラ22により供給量が調整されたインキが、インキつぼ21から呼び出しローラ23に供給され、インキローラ群24で適度に練られ、薄膜を形成した後にインキ着けローラ25,26,27,28から版胴12の版面に供給され、版面に付着したインキがブランケット胴11に転写され、圧胴13により印刷シートSに所定の印圧が掛けられることで、ブランケット胴11のインキを絵柄として印刷シートSに転写することができる。
【0026】
湿し装置15において、水舟29には、貯留されている湿し水を汲み出す水元ローラ30が設けられており、この水元ローラ30に対して調量ローラ31が対接可能に設けられ、この調量ローラ31には水着けローラ32が対接可能に設けられている。この水着けローラ32は版胴12に対接可能であり、水着けローラ32には、インキ着けローラ28に対接可能なインキ受入れローラ33が対接して設けられている。
【0027】
そして、上述した版胴12には、駆動モータ(第1駆動手段)34から図示しない減速機構を介して駆動力が伝達され、版胴12は図1に示す矢印方向に沿って回転駆動可能となっている。一方、水着けローラ32には、駆動モータ(第2駆動手段)35から図示しない減速機構を介して駆動力が伝達され、水着けローラ32は図1に示す矢印方向に沿って回転駆動可能となっている。そして、各駆動モータ34,35は、印刷機全体を制御する制御装置(駆動制御手段)36により駆動制御可能となっている。
【0028】
なお、インキ受入れローラ33は水着けローラ32と連れ回り可能であり、水元ローラ30は図示しないモータにより駆動可能であると共に、調量ローラ31が従動可能となっている。また、調量ローラ31は図示しない揺動シリンダにより水着けローラ32に対して着脱自在であり、水着けローラ32は図示しない揺動シリンダにより版胴12に対して着脱自在であり、インキ受入れローラ33は図示しない揺動シリンダによりインキ着けローラ28に対して着脱自在となっている。
【0029】
従って、水着けローラ32が版胴12に対接し、調量ローラ31が水着けローラ32に対接し、インキ受入れローラ33がインキ着けローラ28に対接した状態にて、湿し装置15の各ローラを回転すると、水元ローラ30により水舟29から汲み上げられた湿し水は、調量ローラ31を介して水着けローラ32に供給され、この水着けローラ32から版胴12に供給することができる。また、インキ着けローラ28からインキ受入れローラ33にインキが転移されると共に、水着けローラ32から湿し水が転移され、インキと湿し水との乳化を促進することができる。
【0030】
また、オフセット枚葉印刷機では、インキが乾燥した皮膜や印刷シートSの紙粉、その他のごみなどの異物が版胴12の版面に付着し、部分的な白抜けや非画線部の汚れとなるヒッキーと称される汚れの現象が発生する。そこで、本実施例では、湿し装置15の水着けローラ33を用いて版面に付着した異物を除去するようにしている。即ち、版胴12に水着けローラ32を対接した状態で、水着けローラ32を版胴12の速度より若干遅い速度で回転することで、版胴12に対して水着けローラ32をスリップさせ、版面に付着している異物を除去している。
【0031】
この場合、制御装置36は、印刷機の運転状態に応じて各駆動モータ34,35を駆動制御することで、版胴12の回転速度と水着けローラ32の回転速度をそれぞれ独立して制御している。そして、制御装置36は、版胴12の回転速度と水着けローラ32の回転速度の周速差が印刷機の運転状態に応じた所定値となるように各駆動モータ34,35を駆動制御している。具体的には、デザイン、シート紙、インキなどの種類によって印刷速度、つまり、版胴12の回転速度が決定され、この版胴12の回転速度に対して水着けローラ32の回転速度が決定される。そして、インキと湿し水との乳化安定状況及びシート紙Sにおける紙粉発生状況を考慮し、版胴12と水着けローラ32の周速差を0.08〜0.3m/sに設定し、印刷機の運転状態に応じて版胴12と水着けローラ32の周速差が適正値となるように、水着けローラ32の回転速度を無段階で調整制御している。
【0032】
即ち、湿し装置では、水着けローラ32を版胴12に対接させることで、この版胴12に所定量の湿し水を供給して適正な乳化率となるようにしている。また、この湿し装置では、版胴12に対して水着けローラ32の回転速度を遅くすることで、版胴12の表面(版面)に付着している異物を除去している。この場合、水着けローラ32と版胴12との周速差が小さくなるほど、乳化安定状況が良好となる一方、紙粉発生状況が悪化し、水着けローラ32と版胴12との周速差が大きくなるほど、乳化安定状況が悪化する一方、紙粉発生状況が良好となる。
【0033】
つまり、両ローラ12,32の周速差が小さくなると、水着けローラ32は版胴12に適正量の湿し水を供給して乳化率を適正なものに維持することができるが、両ローラ12,32のスリップ比が低下して水着けローラ32は発生した紙粉等の異物を適正に除去することができない。一方、両ローラ12,32の周速差が大きくなると、所定のスリップ比を確保して水着けローラ32は発生した紙粉等の異物を適正に除去することができるが、両ローラ12,32間に存在する水分(乳化水)が凝集して表面水が大きくなリ、水着けローラ32は版胴12に適正量の湿し水を供給することができずに乳化率が不安定となってしまう。
【0034】
そこで、本実施例では、上述したインキと湿し水との乳化安定とシート紙Sにおける紙粉除去を考慮し、この乳化安定と紙粉除去が両立できるように、制御装置36は、版胴12の回転速度と水着けローラ32の回転速度を制御しており、乳化安定と紙粉除去とを両立できる版胴12と水着けローラ32の周速差は、0.08〜0.3m/sの領域となっている。つまり、版胴12と水着けローラ32の周速差が0.08m/sより小さくなると、紙粉を十分に除去できずに堆積してしまい、0.3m/sより大きくなると、乳化が不安定となってしまうことが実験により規定された。
【0035】
そして、本実施例の制御装置36では、オペレータの操作により、印刷速度に対する版胴12と水着けローラ32の周速差を手動により調整可能(周速差調整手段)としている。また、本実施例の制御装置36では、印刷速度に対する版胴12と水着けローラ32の周速差を設定した複数の速度関数パターンを有し、オペレータの切替操作(切替手段)により、自動的に速度関数パターンに切替可能としている。
【0036】
即ち、制御装置36のモニタ画面において、図2に示すように、上部には手動操作画面41が表示される一方、下部には自動操作画面42が表示され、手動/自動切替スイッチ43により切替操作可能となっている。この場合、手動/自動切替スイッチ43により切替操作された手動操作画面41または自動操作画面42のいずれか一方が点灯表示され、他方が消灯表示されるようになっている。
【0037】
この手動操作画面41において、上段には版/水着け周速差表示部44が設けられ、その両側に周速差を手動により調整する+調整ボタン45と−調整ボタン46が設けられている。また、下段には版/水着け周速比表示部47が設けられ、その両側に周速比を手動により調整する+調整ボタン48と−調整ボタン49が設けられている。更に、各表示部44,47の右方に周速差が予め設定された領域から外れたときに点灯することで、オペレータに注意を促す警告灯50,51が設けられている。なお、本実施例では、周速差の適正領域が0.08〜0.3m/sであるが、周速比の適正領域は版胴速度に応じて変化する。
【0038】
一方、自動操作画面42において、左方には速度関数パターン表示部52が設けられ、周速比/周速差切替スイッチ53により周速差を制御する速度関数パターンと周速比を制御する速度関数パターンとを表示切替可能となっている。この場合、周速差/周速比切替スイッチ53により切替操作された速度関数パターンが点灯表示されるようになっている。この場合、周速差を制御する速度関数パターンは、印刷速度(版胴12の回転速度)に対する版胴12と水着けローラ32の周速差を表す関数マップであり、印刷速度に応じて自動的に両ローラ12,32の周速差、つまり、水着けローラ32の回転速度が自動的に設定される。即ち、印刷速度に応じた周速差が、上方の乳化不安定領域と下方の紙粉蓄積領域に挟まれた適正領域になるように維持される。
【0039】
この周速差を制御する速度関数パターンは、印刷機の運転状態に応じて複数設定されており、隣接する速度関数パターン切替ボタン54により切替可能であると共に、選択決定ボタン55により決定可能となっている。なお、周速差を制御する速度関数パターンは、図2に表示されたような印刷速度の増加に応じて版胴/水着け周速差が増加する関数マップAに加えて、印刷機の運転状態に応じた複数の速度関数パターンが設定されている。
【0040】
例えば、図3−1に示すように、印刷速度の増加に応じて版胴/水着け周速差が一定となるバランス型パターン、図3−2に示すように、印刷速度の増加に応じて版胴/水着け周速差が高い位置で一定となる紙粉対応重視パターン、図3−3に示すように、印刷速度の増加に応じて版胴/水着け周速差が低い位置で一定となるローラ目対応重視パターン、図3−4に示すように、印刷速度の増加に応じて版胴/水着け周速差が低下する高速時乳化安定化対応パターンが設定されている。
【0041】
そして、一般的には、バランス型パターンを選択し、ノンコート紙を使用する場合には、紙粉による悪影響が発生しやすいために紙粉対応重視パターンを選択し、紫外線硬化型インキ(UVインキ)を使用する場合やには、乳化が不安定になりやすいためにローラ目対応重視パターンを選択し、印刷速度が高いときには乳化が不安定になりやすいため、このときの印刷品質を考慮するときには高速時乳化安定化対応パターンを選択する。
【0042】
また、自動操作画面42にて、速度関数パターンを新たに設定する設定モード部56が設けられている。この設定モード部56には、印刷速度表示部57と周速差表示部58と周速比表示部59が設けられると共に、調整スイッチ57a,57b,58a,58b,59a,59bが設けられている。即ち、オペレータは、各調整スイッチ57a,57b,58a,58b,59a,59bを用いて印刷速度と周速差または周速比を調整し、入力値決定ボタン60を押して少なくとも2つの入力値を決定すると、速度関数パターン表示部52に新たな速度関数パターンが表示されるため、新規パターン決定ボタン61を押すことで、新たに設定された速度関数パターンを登録することができる。
【0043】
従って、上述した本実施例のオフセット枚葉印刷機を用いて印刷作業を行うには、図1及び図2に示すように、インキ供給装置14における各インキ着けローラ25,26,27,28を版胴12に対接すると共に、湿し装置15における水着けローラ32を版胴12に対接し、調量ローラ31を水着けローラ32に対接し、インキ受入れローラ33をインキ着けローラ28に対接する。そして、この状態にて、インキ供給装置14及び湿し装置15の各ローラを回転し、インキ元ローラ22により所定量のインキをインキつぼ21から呼び出しローラ23に供給し、インキローラ群24で適度に練り、薄膜を形成した後にインキ着けローラ25,26,27,28から版胴12の版面に供給する。
【0044】
一方、水元ローラ30により水舟29から汲み上げられた湿し水を調量ローラ31を介して水着けローラ32に供給し、この水着けローラ32から版胴12に供給する。このとき、版胴12と着けローラ32との間には、水着けローラ32の回転速度が版胴12の回転速度より若干遅くなるような所定の周速差が設定されており、水着けローラ32により版胴12の版面に付着した異物が除去される。また、インキ受入れローラ33に対してインキ着けローラ28からインキが転移されると共に、水着けローラ32から湿し水が転移され、インキと湿し水との乳化率が設定される。そして、版面に供給されたインキがブランケット胴11に転写され、圧胴13により印刷シートSに所定の印圧が掛けられることで、ブランケット胴11のインキを絵柄として印刷シートSに転写される。
【0045】
この印刷作業時に、オペレータは、制御装置36のモニタ画面を用いて周速差や周速比を所定値に設定することで、良好な印刷が実施されるように印刷機を制御している。即ち、例えば、手動/自動切替スイッチ43により手動制御に切替えたときは、手動操作画面41にて、各調整ボタン45,46を用いて版/水着け周速差表示部44に表示される版12と水着けローラ32の周速差を印刷機の運転状態に合わせて所定値に設定する。この場合、オペレータは、各警告灯50,51の表示に注意しながら周速差が適正領域0.08〜0.3m/sに入るように調整する。
【0046】
また、手動/自動切替スイッチ43により自動制御に切替えたときは、自動操作画面42にて、例えば、速度関数パターン表示部52の表示を周速比/周速差切替スイッチ53により周速差を制御する速度関数パターンに切替える。そして、速度関数パターン切替ボタン54により速度関数パターン表示部52に表示された速度関数パターンを印刷機の運転状態に合わせて切替え、選択決定ボタン55により決定する。すると、版胴12と水着けローラ32の周速差が印刷速度に応じた適正領域0.08〜0.3m/sに入るように自動的に調整される。
【0047】
そして、オペレータは、版胴12と水着けローラ32の周速差を手動調整または自動調整した後、印刷サンプルの印刷状態から判断し、必要があれば、この周速差を再調整する。なお、上述の説明では、印刷時に、版胴12と水着けローラ32の周速差を調整する場合について説明したが、版胴12と水着けローラ32の周速比を調整する場合であっても同様である。
【0048】
このように本実施例の印刷機にあっては、版胴12の周囲にインキ供給装置14及び湿し装置15を配設し、この版胴12を駆動モータ34により駆動回転可能とする一方、湿し装置15の水着けローラ32を駆動モータ35により駆動回転可能とし、制御装置36により各駆動モータ34,35を駆動して版胴12と水着けローラ32をそれぞれ独立して駆動回転することで、版胴12と水着けローラ32の周速差が印刷機の運転状態に応じた所定値(0.08〜0.3m/s)となるように制御している。
【0049】
従って、版胴12と水着けローラ32の回転速度をそれぞれ独立に駆動制御し、両者の周速差を印刷機の運転状態に応じた所定値(0.08〜0.3m/s)となるように調整することで、版胴12の版面に付着している異物を水着けローラ32により確実に除去してヒッキーの発生を防止することができると共に、版面に適量の湿し水を供給して乳化を安定させることができ、その結果、印刷品質を向上することができる。
【0050】
また、本実施例の印刷機では、制御装置36のモニタ画面に手動操作画面41及び自動操作画面42を表示可能とすると共に、手動/自動切替スイッチ43により切替操作可能とし、手動操作画面41では、版/水着け周速差表示部44に表示された周速差を調整ボタン45,46により手動で調整可能とする一方、自動操作画面42では、速度関数パターン表示部52に表示された速度関数パターンを周速比/周速差切替スイッチ53により設定し、周速差を自動的に調整可能としている。
【0051】
従って、手動制御では、印刷速度、インキや印刷紙の種類などに応じて版胴12と水着けローラ32の周速差を詳細に調整することができる一方、自動制御では、印刷速度、インキや印刷紙の種類などに応じて版胴12と水着けローラ32の周速差を容易に調整することができる。
【0052】
この場合、自動制御では、周速差を制御する速度関数パターンを印刷機の運転状態に応じて複数設定している。即ち、乳化安定状況及び紙粉発生状況を考慮し、印刷速度に対する周速差の大きさや変化度合が異なる速度関数パターンを設けている。そして、オペレータは、設定モード部56により速度関数パターンを新たに設定することが可能となっている。従って、印刷制御における操作の容易性を向上することができる。
【0053】
また、本実施例の印刷機では、版胴12と水着けローラ32を別々の駆動モータ34,35により独立して駆動回転可能としており、版胴12と水着けローラ32の各回転速度を容易に変更可能であり、複雑な歯車機構を不要として構造の簡素化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る印刷機は、印刷機の運転状態に応じて版胴と水着けローラを独立して駆動することで印刷品質を向上させるようにしたものであり、どのような種類の印刷機にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施例に係る印刷機が適用されたオフセット枚葉印刷機の概略構成図である。
【図2】本実施例の印刷機におけるモニタ画面を表す概略図である。
【図3−1】本実施例の印刷機における速度関数パターンを表す概略図である。
【図3−2】本実施例の印刷機における速度関数パターンを表す概略図である。
【図3−3】本実施例の印刷機における速度関数パターンを表す概略図である。
【図3−4】本実施例の印刷機における速度関数パターンを表す概略図である。
【符号の説明】
【0056】
11 ブランケット胴
12 版胴
13 圧胴
14 インキ供給装置
15 湿し装置
16 版
24 インキローラ群
25,26,27,28 インキ着けローラ
29 水舟
30 水元ローラ
31 調量ローラ
32 水着けローラ
33 インキ受入れローラ
34 駆動モータ(第1駆動手段)
35 駆動モータ(第2駆動手段)
36 制御装置(駆動制御手段)
41 手動操作画面
42 自動操作画面
43 手動/自動切替スイッチ
44 版/水着け周速差表示部
47 版/水着け周速比表示部
52 速度関数パターン表示部
53 周速比/周速差切替スイッチ
54 速度関数パターン切替ボタン
55 選択決定ボタン
56 設定モード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴と、該版胴に対接して該版胴に湿し水を供給する水着けローラと、前記版胴を駆動回転する第1駆動手段と、前記水着けローラを駆動回転する第2駆動手段と、印刷機の運転状態に応じて前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御する駆動制御手段とを具えたことを特徴とする印刷機。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷機において、前記駆動制御手段は、前記版胴と前記水着けローラの周速差が前記印刷機の運転状態に応じた所定値となるように前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御することを特徴とする印刷機。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷機において、前記駆動制御手段は、前記版胴と前記水着けローラの周速差が0.08〜0.3m/sとなるように前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御することを特徴とする印刷機。
【請求項4】
請求項1に記載の印刷機において、前記駆動制御手段は、前記版胴と前記水着けローラの周速差が乳化安定状況及び紙粉発生状況を考慮した所定値となるように前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段を駆動制御することを特徴とする印刷機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の印刷機において、前記駆動制御手段は、印刷速度に対する前記版胴と前記水着けローラの周速差を調整可能な周速差調整手段を有することを特徴とする印刷機。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一つに記載の印刷機において、前記駆動制御手段は、印刷速度に対する前記版胴と前記水着けローラの周速差を設定した複数の速度関数パターンを有し、切替手段により所望の速度関数パターンに切替可能であることを特徴とする印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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