説明

印刷装置、及び、印刷方法

【課題】搬送用ローラーの動作がロール紙によって生じるイナーシャの影響を受けにくい媒体搬送を実現する。
【解決手段】ロール体を回転させて媒体を搬送するロール体駆動機構、及びロール体駆動機構を駆動するロール体駆動部と、ロール体よりも搬送方向の下流側に設けられ媒体を搬送する第1搬送機構、及び第1搬送機構を駆動する第1駆動部と、ロール体と第1搬送機構との間に設けられ媒体を搬送する第2搬送機構、及び第2搬送機構を駆動する第2駆動部と、第1搬送機構が媒体を搬送する速度が変化する際に、ロール体駆動機構により搬送される媒体の量と、第2搬送機構により搬送される媒体の量との差の最大量が、第2搬送機構により搬送される媒体の量と、第1搬送機構により搬送される媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように制御する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、及び、印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを噴射して媒体上にインク滴(ドット)を着弾させることで印刷を行う印刷装置がある。また、印刷装置として、ロール状に巻かれた媒体(ロール紙)から印刷に用いられる分の媒体を適宜繰り出して印刷を行うロール紙印刷機構を備えるプリンターが知られている。このようなプリンターでは、ロール紙の回転量や、ロール紙から繰り出された媒体(紙)を搬送する搬送用ローラーの回転量を制御することにより、媒体の搬送量を調整しながら印刷を行っている。
ロール紙印刷機構を備えるプリンターにおいて、ロール紙や搬送用ローラーの回転量を制御する際には、搬送中の媒体に弛みが生じないように、媒体に一定のテンション(張力)がかかるようにする。ところが、印刷の進行と共に媒体が消費されることによってロール紙のロール径が変化していくため、ロール紙の回転量の制御が適切になされず、印刷中の媒体に一定のテンションをかけ続けることは困難であった。
このような問題を解消するために、ロール紙の駆動モーターの設定トルクをロール径の変化に対応させて制御することによりロール紙の回転量を調整し、ロール径が変化しても常に一定のテンションが媒体にかかるようにする方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−208921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、ロール紙の取り付け誤差や、メカ的な製造誤差や、経年劣化からくるロール紙の回転軸の軸ズレに伴って発生する慣性(イナーシャ)の影響については何も考慮されていない。例えば、業務用の大型プリンター等でロール径の大きなロール紙を用いて印刷を行う場合、径が大きくなるに伴って軸ズレに伴って発生するイナーシャの影響は大きくなる。そして、ロール紙の駆動モーターや搬送用ローラーを制御する際に軸ズレに伴うイナーシャの影響が大きくなると、該モーター等の加速・減速時における応答性が悪くなり、制御の精度が低下する。特に、搬送用ローラーは印刷中の媒体の搬送や停止を繰り返し制御する必要があることから、該搬送用ローラーの動作にイナーシャの影響が及ぶと、媒体を正確に搬送することが難しくなる。
本発明では、ロール紙印刷機構を備える印刷装置において、軸ズレによって生じるイナーシャの影響を受けにくい媒体搬送を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、(A)媒体がロール状に巻かれたロール体を回転させて該媒体を搬送方向に搬送するロール体駆動機構、及び該ロール体駆動機構を駆動するロール体駆動部と、(B)前記ロール体よりも前記搬送方向の下流側に設けられ前記媒体を搬送する第1搬送機構、及び該第1搬送機構を駆動する第1駆動部と、(C)前記ロール体と前記第1搬送機構との間に設けられ前記媒体を搬送する第2搬送機構、及び該第2搬送機構を駆動する第2駆動部と、(D)前記ロール体が1回転する間に、前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように、前記ロール体駆動部と前記第1駆動部と前記第2駆動部との動作を制御する制御部と、を備える印刷装置である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本実施形態にかかるプリンターの外観の構成例を示す斜視図。
【図2】プリンターにおけるDCモーターを用いる駆動系と制御系の関係を示す図。
【図3】ロール体を保持する回転ホルダーの構成を示す斜視図。
【図4】ロール体と搬送ローラー対と搬送調整ローラー対、及び印刷ヘッドの位置関係を示す図。
【図5】ENC信号を示す図。
【図6】制御部の機能的構成例を示すブロック図。
【図7】比較例における媒体搬送時の、各種ローラーの回転の様子を概略的に表した図。
【図8】第1実施形態における媒体搬送時の、各種ローラーの回転や媒体の弛みの様子を概略的に表した図。
【図9】第1実施形態の変形例におけるDCモーターを用いる駆動系と制御系の関係を示す図。
【図10】第1実施形態の変形例における制御部の機能的構成例を示すブロック図。
【図11】第2実施形態における媒体搬送時の、各種ローラーの回転や媒体の弛みの様子を概略的に表した図。
【図12】第2実施形態における制御部の機能的構成例を示すブロック図。
【図13】第2実施形態の変形例における制御部の機能的構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
(A)媒体がロール状に巻かれたロール体を回転させて該媒体を搬送方向に搬送するロール体駆動機構、及び該ロール体駆動機構を駆動するロール体駆動部と、(B)前記ロール体よりも前記搬送方向の下流側に設けられ前記媒体を搬送する第1搬送機構、及び該第1搬送機構を駆動する第1駆動部と、(C)前記ロール体と前記第1搬送機構との間に設けられ前記媒体を搬送する第2搬送機構、及び該第2搬送機構を駆動する第2駆動部と、(D)前記ロール体が1回転する間に、前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように、前記ロール体駆動部と前記第1駆動部と前記第2駆動部との動作を制御する制御部と、を備える印刷装置。
このような印刷装置によれば、ロール紙の取り付け誤差や、メカ的な製造誤差や、経年劣化からくるロール紙の回転軸の軸ズレに伴って発生するイナーシャの影響を受けにくい媒体搬送を実現することができる。
【0008】
かかる印刷装置であって、前記制御部は、前記第1搬送機構が前記媒体の搬送を開始してから前記媒体の搬送を終了するまでの間に、前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように、前記ロール体駆動部と前記第1駆動部と前記第2駆動部との動作を制御することが望ましい。
このような印刷装置によれば、イナーシャの影響を受けやすい搬送ローラーの加減速時においても、イナーシャの影響の少ない媒体搬送を実現することができる。
【0009】
かかる印刷装置であって、前記制御部は、印刷が開始されてから印刷が終了するまでの間に、前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように、前記ロール体駆動部と前記第1駆動部と前記第2駆動部との動作を制御することが望ましい。
このような印刷装置によれば、印刷動作毎にイナーシャの影響の少ない媒体搬送を実現することができる。
【0010】
かかる印刷装置であって、前記ロール体駆動機構と前記第2搬送機構との間の前記媒体の弛み量を検出する弛み量検出部を備え、前記制御部は、前記弛み量検出部によって検出された弛み量が所定の弛み量以下である場合には前記ロール体駆動部を駆動させ、前記弛み量検出部によって検出された弛み量が所定の弛み量よりも大きい場合には前記ロール体駆動部を停止させることが望ましい。
このような印刷装置によれば、弛み量のみによってロール体の駆動を制御しつつ、イナーシャの影響の少ない媒体搬送を実現することができる。
【0011】
かかる印刷装置であって、前記制御部は、前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量とに基づいて、前記ロール体駆動機構と前記第2搬送機構との間の前記媒体の弛み量を検出し、検出された前記弛み量が所定の弛み量以下である場合には前記ロール体駆動部を駆動させ、検出された前記弛み量が所定の弛み量よりも大きい場合には前記ロール体駆動部を停止させることが望ましい。
このような印刷装置によれば、弛みセンサー等の余分な機器を用いずに、弛み量のみによってロール体の駆動を制御しつつ、イナーシャの影響の少ない媒体搬送を実現することができる。
【0012】
また、(A)媒体がロール状に巻かれたロール体を駆動するロール体駆動機構を駆動させて媒体を搬送方向に搬送することと、(B)前記ロール体よりも前記搬送方向の下流側に設けられた第1搬送機構を駆動させて前記媒体を搬送することと、(C)前記ロール体と前記第1搬送機構との間に設けられた第2搬送機構を駆動させて前記媒体を搬送することと、(D)前記ロール体が1回転する間に、前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるようにすることと、を有する印刷方法が明らかとなる。
【0013】
===印刷装置の基本的構成===
印刷装置としてのプリンター及び駆動制御方法について説明する。なお、本実施形態のプリンターは、サイズの大きな媒体(例えばJIS規格のA2以上のサイズの印刷用紙)に印刷をすることができるプリンターである。また、本実施形態におけるプリンターは、インクジェット式のプリンターであるが、かかるインクジェット式プリンターは、インクを噴射して印刷可能な装置であれば、いかなる噴射方法を採用した装置でも良い。
また、以下の説明においては、下方側とは、プリンターが設置される側を指し、上方側とは、設置される側から離間する側を指す。また、媒体が供給される側を供給側(後端側)、媒体が排出される側を排紙側(手前側)として説明する。
【0014】
<プリンターの構成について>
図1は、本発実施形態にかかるプリンター10の外観の構成例を示す図である。図2は、図1のプリンター10におけるDCモーターを用いる駆動系と制御系の関係を示す図である。図3は、回転ホルダー31と、ロールモーター33の外観の構成例を示す図である。
この例の場合、プリンター10は、一対の脚部11と、当該脚部11に支持される本体部20とを有している。脚部11には、支柱12が設けられていると共に、回転自在なキャスタ13がキャスタ支持部14に取り付けられている。
【0015】
本体部20は、不図示のシャーシに支持される状態で、内部の各種機器が搭載されており、それらが外部ケース21によって覆われている。また、図2に示すように、本体部20には、DCモーターを用いる駆動系として、ロール体駆動機構30と、キャリッジ駆動機構40と、媒体搬送機構50と、搬送調整機構60とが設けられている。
【0016】
ロール体駆動機構30は、本体部20に存在するロール搭載部22に設けられている。ロール搭載部22は、図1に示すように、本体部20のうち、背面側かつ上方側に設けられていて、上述の外部ケース21を構成する一要素である開閉蓋23を開くことにより、その内部にロール体RPを搭載し、ロール体駆動機構30によってロール体RPを回転駆動させることが可能となっている。
また、ロール体RPを回転させるためのロール体駆動機構30は、図2及び図3に示すように、回転ホルダー31と、ギア輪列32と、ロールモーター33を有している。回転ホルダー31は、ロール体RPに設けられている中空孔RP1の両端側から挿入されるものであり、ロール体RPを両端側から支持すべく、一対設けられている。ロール体RPは媒体(例えば用紙P)がロール状に巻かれており、このロール体RPが回転することにより、印刷に使用される分の用紙Pが引き出され、媒体搬送機構50や搬送調整機構60に供給される。
【0017】
なお、図3に示すように、ロール体RPの全加重は回転ホルダー31とロールモーター33の接合部にかかる為、回転モーターの回転軸が加重により曲がってしまったり、ロール体RPの両端回転ホルダー31が平行に取り付けられなかったり、中空孔RP1の径と回転ホルダー31の径にズレがある場合などは、回転軸の軸ズレに伴って発生するイナーシャの影響は大きくなる。
【0018】
ロールモーター33は、一対の回転ホルダー31のうち、一端側に位置する回転ホルダー31aに対して、ギア輪列32を介して駆動力(回転力)を与えるものである。すなわち、ロールモーター33は、ロール体RPを回転させる駆動力を与えるモーターに相当する。
ロールモーター33は回転方向を自在に変更することができる。以下において、媒体を供給方向(以下、搬送方向ともいう)に送り出す際のロールモーター33の回転の向きを正転方向とし、その逆方向の回転を逆転方向と称する。
なお、ロール体駆動機構30でロール体RPを回転させる駆動部はロールモーター33のような「モーター」には限られず、油圧によって作動するアクチュエーター等を用いてもよい。
【0019】
キャリッジ駆動機構40は、インク供給/噴射機構の構成要素の一部ともなるキャリッジ41と、キャリッジ軸42と、その他不図示のキャリッジモーター、ベルト等を具備している。
キャリッジ41は、各色のインクを貯留するためのインクタンク43を具備していて、このインクタンク43には、不図示のチューブを介して、本体部20の前面側に固定的に設けられているインクカートリッジ(図示省略)からインクが供給可能となっている。また、図2に示すように、キャリッジ41の下面には、インク滴を噴射可能な印刷ヘッド44が設けられている。印刷ヘッド44には、各インクに対応づけられた不図示のノズル列が設けられていて、このノズル列を構成するノズルには、ピエゾ素子が配置されている。このピエゾ素子の作動により、インク通路の端部にあるノズルからインク滴を噴射することが可能となっている。
【0020】
なお、これらキャリッジ41、インクタンク43、印刷ヘッド44、不図示のチューブ、インクカートリッジによって、インク供給/噴射機構が構成されている。また、印刷ヘッド44は、ピエゾ素子を用いたピエゾ駆動方式に限られず、例えばインクをヒーターで加熱し、発生する泡の力を利用するヒーター方式、磁歪素子を用いる磁歪方式、ミストを電界で制御するミスト方式等を採用しても良い。また、インクカートリッジ/インクタンク43に充填されるインクは、染料系インク/顔料系インク等、いずれの種類のインクを搭載しても良い。
【0021】
図4は、ロール体RPから搬送される媒体と搬送ローラー対51と搬送調整ローラー対61、及び印刷ヘッド44の位置関係を示す図である。
媒体搬送機構50は、図2及び図4に示すように、搬送ローラー対51と、ギア輪列52と、PFモーター53と、回転検出部54とを有している。搬送ローラー対51は、搬送ローラー51aと、搬送従動ローラー51bとを具備していて、これらの間で、ロール体RPから引き出され、搬送される媒体(例えば用紙P)を挟持可能となっている。なお、本実施形態のプリンター10における媒体搬送機構50ではローラーを用いて媒体を搬送しているが、媒体搬送機構50の搬送方法はローラーを用いた方法には限られない。例えば、ベルトによる搬送方法であったり、吸引機構を用いた搬送方法であったりしてもよい。
【0022】
PFモーター53は、搬送ローラー51aに対して、ギア輪列52を介して駆動力(回転力)を与えるものである。すなわち、PFモーター53は、搬送ローラー51aを回転させる駆動力を与えるモーターに相当する。PFモーター53は、ロールモーター33と同様に回転方向を自在に変更することができる。以下において、媒体を搬送方向に送り出す際のPFモーター53の回転の向きを正転方向とし、その逆方向の回転を逆転方向と称する。なお、搬送ローラー51aを駆動する駆動部は、PFモーター53のような「モーター」には限られず、油圧によって作動するアクチュエーター等を用いてもよい。
【0023】
回転検出部54は、本実施形態ではロータリーエンコーダーを用いている。そのため、回転検出部54は、円盤状スケール54aと、ロータリーセンサー54bとを具備している。円盤状スケール54aは、その周方向に沿って一定の間隔毎に、光を透過させる透光部と、光の透過を遮断する遮光部とを有している。また、ロータリーセンサー54bは、不図示の発光素子と、同じく不図示の受光素子と、同じく不図示の信号処理回路を主要な構成要素としている。
【0024】
図5Aは、PFモーター53が正転しているときの出力信号の波形のタイミングチャートである。図5Bは、PFモーター53が逆転しているときの出力信号の波形のタイミングチャートである。本実施形態では、ロータリーセンサー54bからの出力により、図5A、図5Bに示すような、互いに位相が90度異なるパルス信号(A相のENC信号,B相のENC信号)が制御部100に入力される。そのため、PFモーター53が正転状態にあるのか、又は逆転状態にあるのかを、位相の進み/遅れによって検出可能となっている。
【0025】
搬送ローラー対51よりも搬送方向の下流側(排紙側)には、プラテン55が設けられていて、媒体は当該プラテン55上をガイドさせられる(図4)。また、プラテン55の上方側には、印刷ヘッド44が対向するように配設されている。このプラテン55には、吸引孔55aが形成されている。一方、吸引孔55aは、吸引ファン56に連通可能に設けられていて、吸引ファン56が作動することによって、印刷ヘッド44側から吸引孔55aを介して空気が吸引される。それにより、プラテン55上に媒体が存在する場合には、媒体を吸引保持することが可能となっている。なお、プリンター10は、その他、媒体の幅を検出する媒体幅検出センサー等、その他の各種センサーを備えている。
【0026】
搬送調整機構60の構成は媒体搬送機構50とほぼ同様であり、図2に示すように、搬送調整ローラー対61と、ギア輪列62と、FCモーター63と、回転検出部64とを有している。搬送調整ローラー対61は、搬送調整ローラー61aと、調整従動ローラー61bとを具備していて、これらの間で、ロール体RPから引き出される媒体を挟持可能となっている。FCモーター63は、搬送調整ローラー61aに対して、ギア輪列62を介して駆動力(回転力)を与える。すなわち、FCモーター63は、搬送調整ローラー61aを回転させる駆動力を与えるモーターに相当する。FCモーター63は、ロールモーター33と同様に回転方向を自在に変更することができる。以下において、媒体を搬送方向に送り出す際のFCモーター63の回転の向きを正転方向とし、その逆方向の回転を逆転方向と称する。なお、搬送調整ローラー61aを駆動する駆動部は、FCモーター63のような「モーター」には限られず、油圧によって作動するアクチュエーター等を用いてもよい。
搬送調整機構60はロール体RPと搬送調整ローラー対61との中間に位置し、媒体の搬送量を調整する機能を有する。媒体の搬送量調整についての詳細は後述する。
【0027】
搬送調整ローラー対61とロール体RPとの間には弛みセンサー68が設けられている。弛みセンサー68は媒体の下方側に設置され、搬送調整ローラー対61とロール体RPとの間において、媒体の上下方向の位置(弛みセンサー68と媒体との上下方向の相対位置)を検出可能なセンサーである。弛みセンサー68を用いることによって、媒体が弛まない状態で(張った状態で)搬送される場合の上下方向の搬送位置に対してどれだけ弛んでいるかを表す「弛み量」を取得することができる。
【0028】
<制御部について>
図6は、第1実施形態における制御部100の機能的構成例を示すブロック図である。第1実施形態において、制御部100には媒体搬送機構50の回転検出部54,搬送調整機構60の回転検出部64、弛みセンサー68、及び不図示のリニアセンサーの出力信号が入力される。他にも、紙幅検出センサー、ギャップ検出センサー、プリンター10の電源をオン/オフする電源スイッチ等(全て不図示)の各出力信号が入力される。
図2に示すように、制御部100は、CPU101、ROM102、RAM103、PROM104、ASIC105、モータードライバー106等を具備していて、これらが例えばバス等の伝送路107を介して相互に接続されている。また、制御部100は、コンピューターCOMに接続されている。そして、これらのハードウエアと、ROM102やPROM104に記憶されているソフトウエア及び/又はデータの協働、又は特有の処理を行う回路や構成要素の追加等によって、図6に示すような、主制御部110と、ロールモーター制御部111と、PFモーター制御部112と、FCモーター制御部113とが実現される。
【0029】
主制御部110は、ロールモーター制御部111、PFモーター制御部112、及びFCモーター制御部113の動作を制御し、媒体を搬送方向に搬送する処理を行う。その際、搬送ローラー51aによる媒体の搬送量と、ロール体RPから供給(搬送)される媒体の搬送量とのバランスを調整して、媒体搬送機構50にロール体RPによるイナーシャの影響が及ばないように制御する。
ロールモーター制御部111は、弛みセンサー68の出力信号に基づいて、プリンター10の媒体搬送機構50に適正な量の媒体を供給(搬送)するように、ロールモーター33の駆動を制御する。
PFモーター制御部112は、回転検出部54の出力信号に基づいて、PFモーター53の駆動を制御する。これによって搬送ローラー51aの回転量を制御し、媒体を搬送方向に搬送する。
FCモーター制御部113は、回転検出部64の出力信号に基づいて、FCモーター63の駆動を制御する。これによって搬送調整ローラー61aの回転量を制御し、ロール体RPから供給される媒体の量と、搬送ローラー51aによって搬送される媒体の量とを調整する。
【0030】
<印刷動作について>
プリンター10がコンピューターCOMから印刷データを受信すると、制御部100は、ロール体駆動機構30やキャリッジ駆動機構40等の各ユニットを制御することにより、給紙処理・ドット形成処理・搬送処理等を行う。
給紙処理は、印刷すべき媒体をロール体RPからプリンター10内に供給し、印刷開始位置(頭出し位置とも言う)に紙を位置決めする処理である。制御部100は、ロール体RPを正転方向に回転させ、媒体を搬送調整ローラー61a及び搬送ローラー51aまで送る。続いて、搬送調整ローラー61a及び搬送ローラー51aを回転させ、ロール体RPから送られてきた紙を印刷開始位置に位置決めする。
【0031】
ドット形成処理は、媒体の搬送方向と垂直な方向(以下、移動方向とも呼ぶ)に沿って移動する印刷ヘッド44からインクを断続的に噴射させ、媒体上にインクドットを形成する処理である。制御部100は、キャリッジ41を移動方向に移動させ、キャリッジ41が移動している間に、印刷データに基づいて印刷ヘッド44からインクを噴射させる。噴射されたインク滴が媒体上に着弾するとドットが形成され、媒体上には移動方向に沿った複数のドットからなるドットラインが形成される。
【0032】
搬送処理は、媒体をヘッドに対して搬送方向に沿って相対的に移動させる処理である。制御部100は、搬送ローラー51aを回転させて紙を搬送方向に搬送する。この搬送処理により、印刷ヘッド44は、先ほどのドット形成処理によって形成されたドットの位置とは異なる位置に、ドットを形成することが可能になる。搬送時の媒体の送り量の制御については後で説明する。
【0033】
制御部100は印刷すべきデータがなくなるまで、ドット形成処理と搬送処理とを交互に繰り返し、ドットラインにより構成される画像を徐々に紙に印刷する。最後に制御部100は、画像の印刷が終了した媒体を排紙する。
【0034】
===比較例===
はじめに、比較例として搬送調整機構60が無い場合の媒体搬送について説明する。
図7は比較例における媒体搬送時の、各種ローラーの回転の様子を概略的に表したものである。比較例の印刷装置では、ロール体RPから繰り出された媒体が、搬送調整ローラー対61を介さずに直接搬送ローラー51aへと送られ、搬送ローラー51аが正転することによって媒体を搬送方向に搬送する。
【0035】
上述のように、このような印刷装置では、ロール径が大きなロール体RPを用いて印刷を行うことを想定している。媒体供給時において、軸ズレが発生していると、ロール径、ロール体の重量、本来回転軸となるべき位置(理論中心)と実際の回転動作において中心となる位置(実中心)のズレ量(軸ズレ量)等に比例して、軸ズレに起因するイナーシャ(慣性)の影響は大きくなる。そして、ロール体RPで発生した軸ズレに起因するイナーシャは媒体を通して搬送ローラー51aの回転動作に影響する。
たとえば、軸ズレが生じた状況下では、理論中心と実中心の位置により、同じ角度ロール体が回転したとしてもロール体から送り出されるロール紙の送り出し量が異なるため、ロール体RPおよび、搬送ローラー51aとロール体RP間に位置するロール紙が搬送ローラー51aに与えるイナーシャが不安定となり、媒体の搬送動作が乱れ、印刷画質が低下するおそれがある。
【0036】
===第1実施形態===
上述のように、ロール体RPが大きい(重い)場合には、その分軸ズレに起因するイナーシャは大きくなり搬送制御が難しくなる。そこで、本実施形態では、搬送ローラー51aとロール体RPとの間に搬送調整ローラー61aを設ける。
図8は第1実施形態における媒体搬送時の、各種ローラーの回転や媒体の弛みの様子を概略的に表したものである。印刷動作中(媒体搬送中)に搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間では媒体が弛まない状態で搬送されるように制御を行い、搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間では媒体が常に弛んだ状態で搬送されるように制御を行う。搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間で媒体を弛ませて、ロール体RPによって発生するイナーシャの影響を媒体の弛み部分で吸収させることにより、搬送ローラー51aにイナーシャの影響が及ぶことを抑制する。
以下、各ローラーの回転制御について説明する。
【0037】
<搬送ローラー51aの回転制御>
搬送ローラー51aは、ある速度Vで媒体を搬送方向に搬送する。
搬送ローラー51aの直径(ローラー径)をD1、回転時の角速度をω1とすると、搬送ローラー51aによる媒体の搬送速度Vは次の式(1)で表現される。
V=ω1×D1/2 ・・・(1)
PFモーター制御部112は、搬送ローラー51aを角速度ω1で回転させるべく、PWM出力を行ってPFモーター53を駆動させる。PFモーター53の単位時間当たりの回転量は回転検出部54によって検出され、検出された回転量とギア輪列52のギア比との関係から、搬送ローラー51aの現在の角速度が算出される。この算出された角速度が目標角速度ω1に近づくように、PFモーター制御部112は搬送ローラー51aの回転速度を適正に制御して、媒体を安定して搬送する。
【0038】
<搬送調整ローラー61aの回転制御>
搬送調整ローラー61aは、搬送ローラー51aに従動して、搬送ローラー51aと同一の速度Vで媒体を搬送方向に搬送する。これにより、搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間で、媒体は常に一定量を保ちつつ搬送される。搬送調整ローラー61aの直径(ローラー径)をD2、回転時の角速度をω2とすると、搬送調整ローラー61aによる媒体の搬送速度Vは次の式(2)で表現される。
V=ω2×D2/2 ・・・(2)
式(1)と式(2)のVが等しい場合、V=ω1×D1/2=ω2×D2/2より、
ω2=ω1×D1/D2 ・・・(3)
と表すことができる。すなわち、搬送調整ローラー61aを搬送ローラー51aの角速度ω1に対応した角速度ω2で回転させることによって、媒体を所定の速度Vで搬送することができるようになる。
FCモーター制御部113は、搬送調整ローラー61aを角速度ω2で回転させるべく、PWM出力を行ってFCモーター63を駆動させる。FCモーター63の単位時間当たりの回転量は回転検出部64によって検出され、検出された回転量とギア輪列62のギア比との関係から搬送調整ローラー61aの現在の角速度が算出される。これにより、FCモーター制御部113は搬送調整ローラー61aの回転速度を適正に制御して、搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間では、単位時間内に同じ量だけ媒体が搬送されることになる。
【0039】
なお、本実施形態では、搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間で媒体が一定のテンションを保った状態で搬送される。そのため、主制御部110は媒体の搬送開始に際してFCモーター63の回転を開始する前に、PFモーター53のみを正転方向に回転させる。すなわち、搬送調整ローラー61aを停止させた状態で搬送ローラー51aのみを回転させる。これにより、搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間で媒体を張った状態にして弛みが生じないようにする。このとき、媒体の弛みの有無は後述する弛みセンサー58によって検出する。媒体の弛みが除去された後、FCモーター63も正転方向に回転させて、上述のように搬送調整ローラー61aの回転速度制御を行う。
また、媒体の搬送開始に際して、PFモーター53を正転方向に回転させ、FCモーター63を逆転方向に回転させることで、搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間で媒体の弛みを取り除くこともできる。そして、媒体の弛みが除去された後、FCモーター63を正転方向に回転させて、上述のように搬送調整ローラー61aの回転速度の制御を行うという方法であっても良い。
【0040】
<ロール体RPの回転制御>
ロール体RPはロールモーター33によって、正転方向に回転することで、搬送調整ローラー61a(及び搬送ローラー51a)側に媒体を供給(搬送)する。本実施形態では、図8に示されるように搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間に弛みを発生させ、搬送ローラー51aにはロール体RPの軸ズレに起因するイナーシャの影響を与えないようにするために、ロールモーター33の回転量を調整し、適切な量の媒体が搬送調整ローラー61a(及び搬送ローラー51a)に供給されるように制御する。
【0041】
搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間で媒体を弛ませるためには、印刷時において搬送ローラー51aの回転に先立ち、ロール体RPの軸ズレの影響を許容できるだけの弛み量を搬送調整ローラー61aとロール体RPの間に発生させておく必要がある。
【0042】
媒体の弛み量は弛みセンサー68によって監視されている。本実施形態で用いられる弛みセンサー68は図8に示されるように、搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間で、媒体の下方側に設置され、搬送される媒体との距離(弛みセンサー68と媒体との上下方向の位置関係)SL1を検出する。例えば、媒体に全く弛みが生じていない場合に、媒体と弛みセンサー68との上下方向距離が10センチであったとする。媒体に弛みが生じると、媒体の自重によって媒体位置が下がってくるため、媒体と弛みセンサー68との上下方向距離は小さくなる。ここで、検出されるSL1の目標値を5センチと設定しておけば、検出値が5センチ以上であれば弛み量が大きく、5センチよりも小さければ弛み量が小さいということになる。このように媒体との上下方向の距離(位置関係)を検出することで媒体の弛み量を監視する。
なお、弛みセンサー68は媒体との位置関係を測定する装置ではなく、スケールを設けておいて視覚的に弛み量を監視する装置等としてもよい。
【0043】
本実施形態においてSL1の目標値=hとした場合について説明する。弛みセンサー68によって検出された媒体との距離SL1がh以上となった場合は、媒体の弛み量が想定された基準値よりも少なくないことを意味する。そこで、ロールモーター制御部111は、ロールモーター33を正転方向に回転させるように制御する。すなわち、媒体の弛み量が所定の基準量以下になった場合に、ロールモーター33を回転させ、ロール体RPから媒体を繰り出し、媒体搬送機構50に十分な量の媒体が供給されるようにする。
逆に、弛みセンサー68によって検出された媒体との距離SL1がhよりも小さくなった場合は、媒体の弛み量が想定された基準値よりも多いことを意味する。そこで、ロールモーター制御部111は、ロールモーター33の回転を停止させるように制御する。すなわち、媒体の弛み量が所定の基準量よりも多くなった場合は、しばらくロール体RPからの媒体供給を停止させる。印刷時において、搬送ローラー51a及び搬送調整ローラー61aは所定速度Vで媒体を搬送方向に搬送しているので、媒体の供給が停止されれば、搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間における媒体の弛み量も徐々に減少する。そして、再び弛みセンサー68によって検出されたSL1が所定の大きさ(上述の例の場合はh)以上となった場合にロールモーター33を正転方向に回転させて、媒体を媒体搬送機構50に供給する。
【0044】
なお、印刷開始直後等ではロール体RPの重量が非常に重いことから、ロールモーター33の制動が難しい場合がある。また、上述のように回転・停止を細かく繰り返す制御ではロールモーター33にかかる負荷が大きくなることが考えられる。
そのような場合は、はじめにロールモーター33を回転させ、所定量の媒体(例えば2m分の媒体)を供給してから停止させ、搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間に十分に大きな弛み部分を形成しておく。そして、印刷が進行して、供給した分の媒体が消費され、弛み量が所定の目標値よりも小さくなった時に再びロールモーター33を回転させ、再度十分な量の媒体を供給してからロールモーター33を停止させる。この繰り返しにより、搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間で、媒体を所定量以上に弛ませておくこともできる。この場合は、ロールモーター33に後述する回転検出部34を設けておけばよい。
【0045】
<第1実施形態の効果>
ロール体RPから供給(搬送)された媒体は、搬送方向に沿って搬送調整ローラー61a、搬送ローラー51aの順に搬送されて行く。媒体の搬送速度は搬送ローラー51aの回転速度を調整することによって制御される。一方、ロール体RPはそれ自体が大きな質量を有し、回転によって軸ズレに起因するイナーシャ(慣性)が発生する。特に、搬送ローラー51aの回転速度が変動する際に、ロール体RPによるイナーシャが搬送ローラー51aの回転動作に影響すると、搬送ローラー51aの回転を正確に制御することができなくなり、媒体を安定して搬送することができなくなる。
【0046】
そこで、本実施形態においては搬送ローラー51aとロール体RPとの間に搬送調整ローラー61aを設け、搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間で媒体が十分な弛み量を確保できるように各種モーターの回転量を制御する。つまり、ロール体RPが1回転する間に、単位時間当たりのロール体RPから搬送される媒体の最大量が搬送ローラー51aおよび搬送調整ローラー61aの単位時間当たりに搬送される媒体の最大量よりも大きくなるような制御を行う。これにより、ロール体RPの軸ズレに起因するイナーシャ(慣性)の搬送ローラー51aへの影響を搬送調整ローラー61aとロール体RPの弛み部分で吸収し、搬送方向下流側の搬送ローラー51aまでイナーシャの影響が伝達しないようにしている。搬送ローラー51aはイナーシャの影響を受けないので、正確な媒体搬送が実現できる。
また、本実施形態では搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間では媒体に一定のテンションを与えた状態で搬送を行う。つまり、搬送ローラー51aの搬送方向下流側においては、媒体に弛みやシワが発生しない。これにより、実際に印刷が行われる領域(プラテン55上)では媒体に弛みがないので、ヘッドから噴射されるインクドットの着弾位置がずれる等の問題も生じにくく、良好な画質の印刷を実現することができる。
【0047】
<第1実施形態の変形例>
上述の実施形態では弛みセンサー68を用いて、ロール体RPと搬送調整ローラー61aとの間の媒体の弛み量を検出していた。しかし、他の方法を用いて媒体の弛み量を検出することもできる。
図9は、第1実施形態の変形例におけるDCモーターを用いる駆動系と制御系の関係を示す図である。図10は第1実施形態の変形例における制御部100の機能的構成例を示すブロック図である。
本変形例では、ロール体駆動機構30に回転検出部34を有する(図9)。このため、弛みセンサー68は不要である。印刷装置に関するそれ以外の構成は第1実施形態と同様である。
【0048】
回転検出部34は、回転検出部54及び64と同様のロータリーエンコーダーを用いており円盤状スケール34aと、ロータリーセンサー34bとを具備している。円盤状スケール34aは、その周方向に沿って一定の間隔毎に、光を透過させる透光部と、光の透過を遮断する遮光部とを有している。また、ロータリーセンサー34bは、発光素子、受光素子、及び、信号処理回路(全て不図示)を主要な構成要素としている。そして、ロールモーター33の回転検出部34と、FCモーター63の回転検出部64とを用いてそれぞれの回転量を検出することによって弛み量を算出する(図9)。
具体的には、回転検出部34から得られたロールモーター33の回転量とギア輪列32とロール体RPの径から媒体の供給量(送り量)Feed_rollを得ることができる。ここで、ロール体RPから供給される媒体(ロール紙)は印刷によって徐々に消費されため、印刷の進行と共にロール体RPのロール径も変動する。したがって、ロール体RPの径は、既に搬送した媒体の量に基づいて推定される。また、回転検出部64から得られたFCモーター63の回転量とギア輪列62と搬送調整ローラー61aの径とから媒体の搬送量Feed_fcを得ることができる。そうすると、供給量Feed_rollから搬送量Feed_fcを減算することにより、現在どれだけの弛み量が生じているのかを推定することができる。
弛み量検出以外の各ローラーの制御方法については、第1実施形態と同様にして行うことができる。
【0049】
===第2施形態===
第2実施形態では、搬送調整ローラー61aと搬送ローラー51aとの間でも媒体の弛み量に基づく制御を行う。図11は第2実施形態における媒体搬送時の、各種ローラーの回転や媒体の弛みの様子を概略的に表した図である。図12は第2実施形態における制御部100の機能的構成例を示すブロック図である。
第2実施形態では搬送調整ローラー61aと搬送ローラー51aとの間の媒体の弛み量を検出するために、その間に弛みセンサー58が設けられている(図11)。弛みセンサー58は、弛みセンサー68と同様に媒体の下方側に設置され、搬送調整ローラー61aと搬送ローラー51aとの間において、媒体の上下方向の位置(弛みセンサー58と媒体との上下方向の相対位置)を検出可能なセンサーである。弛みセンサー58を用いることによって、媒体が弛まない状態で(張った状態で)搬送される場合の上下方向の搬送位置に対してどれだけ弛んでいるかを表す「弛み量」を取得することができる。
弛みセンサー58以外の各構成は第1実施形態と同様である。
【0050】
<搬送ローラー51aの回転制御>
搬送ローラー51aの制御は第1実施形態と同様である。すなわち、ある速度Vで媒体を搬送方向に搬送するため、V=ω1×D1/2となるような角速度ω1で回転させる。
PFモーター制御部112は、搬送ローラー51aを角速度ω1で回転させるべく、PWM出力を行ってPFモーター53を駆動させる。PFモーター53の単位時間当たりの回転量は回転検出部54によって監視されており、PFモーター53の回転量を検出することで、ギア輪列52のギア比との関係から搬送ローラー51aの現在の角速度が算出される。これにより、PFモーター制御部112は搬送ローラー51aの回転速度を適正に制御して、媒体を安定して搬送する。
【0051】
<搬送調整ローラー61aの回転制御>
搬送調整ローラー61aの回転量は、弛みセンサー58によって検出される弛み量に基づいて制御される。弛みセンサー58は、図11に示されるように、搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間の媒体の下方側に設置され、搬送される媒体との距離(弛みセンサーと媒体との上下方向の位置関係)SL2を検出する。
【0052】
FCモーター制御部113は、媒体の弛み量が所定の目標弛み量となるようにFCモーター63を制御する。例えば、弛みセンサー58によって検出されたSL2から現在の弛み量を算出し、算出された現在弛み量を目標弛み量から減じて得られた偏差がゼロになるようにPID制御を行ったデューティー制御を行い、FCモーター63を回転させる。このようにすることで、適切な弛み量を確保しつつ媒体を搬送することができる。なお、弛み量が0mmに設定されている場合には、搬送調整ローラー61aと搬送ローラー51aとの間で、媒体が弛まない状態で搬送されることとなる。
【0053】
<ロール体RPの回転制御>
ロール体RPの回転量制御は第1実施形態と同様である。すなわち、ロール体RPと搬送調整ローラー61aとの間の媒体の弛み量が所定量以上となり、常に弛んだ状態で搬送されるようにする。
【0054】
<第2施形態の効果>
本実施形態でも、第1施形態と同様に搬送調整ローラー61aとロール体RPとの間で媒体が十分な弛み量を確保できるようにモーターの制御が行われる。これにより、搬送ローラー51aの回転速度変動時に問題となる軸ズレに起因するイナーシャ(慣性)の影響を当該弛み部分で吸収し、搬送方向下流側の搬送ローラー51aまでイナーシャの影響が伝達しないようにしている。搬送ローラー51aはイナーシャの影響を受けないので、正確な媒体搬送が実現できる。
さらに、本実施形態では搬送ローラー51aと搬送調整ローラー61aとの間でも、媒体の弛み量を管理してモーターの制御が行われる。これにより、当該区間でも媒体に弛みを持たせることができるようになる。また、目標弛み量は自由に設定することができるので、印刷に使用される媒体の材質や種類に応じて最適な搬送を実現することができる。例えば、薄い媒体を使用して印刷を行う際には、シワの発生を抑えるために張力を比較的強めにかけた方が良い場合がある。このような場合は目標弛み量を0mmに設定する。一方、シワのできにくい媒体であれば目標弛み量を多めに設定して、搬送ローラー51aの回転動作に余計な負荷がかからないようにする等、種々の印刷条件に応じて最適な媒体搬送を実現することができる。
【0055】
<第2実施形態の変形例>
搬送調整ローラー61aと搬送ローラー51aとの間における媒体の弛み量を検出するために、弛みセンサー58を用いずに各種モーターの回転量から弛み量をコントロールすることもできる。弛みセンサー58が不要であること以外についての印刷装置の構成は第2実施形態と同様である。
図13は第2実施形態の変形例における制御部100の機能的構成例を示すブロック図である。本変形例では、上述の第1実施形態の変形例で説明したのと同様の方法により、回転検出部54から得られたPFモーター53の回転量とギア輪列52と搬送ローラー51aの径から媒体の搬送量(送り量)Feed_pfを得ることができる。また、回転検出部64から得られたFCモーター63の回転量とギア輪列62と搬送調整ローラー61aの径とから媒体の搬送量Feed_fcを得ることができる。そうすると、供給量Feed_pfから搬送量Feed_fcを減算することにより、現在どれだけの弛み量が生じているのかを推定することができる。
【0056】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0057】
上述の実施の形態においては、モーター制御装置は、プリンター10に設けられている場合について説明している。しかしながら、モーター制御装置は、プリンター10に設ける場合には限られず、ロール体(ロール紙)を用いるファックス等に適用するようにしても良い。
【0058】
<印刷装置について>
また、上述の実施形態では、ヘッドがキャリッジとともに移動するシリアル走査タイプのプリンター10を例に挙げて説明したが、プリンターはヘッドが固定された、いわゆるラインプリンターであってもよい。
【0059】
また、プリンター10は、スキャナー装置やコピー装置のような、複合的な機器の一部であっても良い。さらに、上述の実施の形態においては、インクジェット方式のプリンター10に関して説明している。しかしながら、プリンター10としては、流体を噴射可能なものであれば、インクジェット方式のプリンターには限られない。例えば、ジェルジェット方式のプリンター、トナー方式のプリンター、ドットインパクト方式のプリンター等、種々のプリンターに対して、本実施形態を適用することが可能である。
特にラインプリンターでは、軸ズレにより、媒体が蛇行して搬送され、印刷位置ズレが発生したり、インク着弾高さなどが変化して画質が劣化したりする問題があるため、本実施形態を適応する事で、搬送精度の向上に加え、画質をも向上させることが出来る。
【0060】
<使用するインクについて>
上述の実施形態では、CMYKの4色の有色インクを使用して印刷を行うことが出来る。インクは染料系インク/顔料系インク等を市世することができる。また、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト、クリア等、CMYK以外の色のインクを用いて印刷を行うこともできる。
【0061】
<媒体について>
上述の実施の形態において、媒体をロール紙としているが、「紙」以外に、フィルム状の部材、樹脂製のシート、アルミ箔等を用いるようにしても良い。
【0062】
<制御部について>
制御部100は、上述の実施の形態のものには限られず、例えばASIC105のみでロールモーター33、PFモーター53、FCモーター63の制御を司るように構成しても良く、また、これら以外に種々の周辺機器が組み込まれた1チップマイコン等を組み合わせて、制御部100を構成するようにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
10…プリンター、20…本体部、30…ロール体駆動機構、32…ギア輪列、33…ロールモーター、34…回転検出部、34a…円盤状スケール、34b…リニアセンサー、40…キャリッジ駆動機構、41…キャリッジ、42…キャリッジ軸、43…インクタンク、44…印刷ヘッド、50…媒体搬送機構、51…搬送ローラー対、51a…搬送ローラー、51b…従動ローラー、52…ギア輪列、53…PFモーター、54…回転検出部、54a…円盤状スケール、54b…リニアセンサー、58…弛みセンサー、60…搬送調整機構、61…搬送調整ローラー対、61a…搬送調整ローラー、61b…従動ローラー、62…ギア輪列、63…FCモーター、64…回転検出部、64a…円盤状スケール、64b…リニアセンサー、68…弛みセンサー、100…制御部、110…主制御部、111…ロールモーター制御部、112…PFモーター制御部、113…FCモーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)媒体がロール状に巻かれたロール体を回転させて該媒体を搬送方向に搬送するロール体駆動機構、及び該ロール体駆動機構を駆動するロール体駆動部と、
(B)前記ロール体よりも前記搬送方向の下流側に設けられ前記媒体を搬送する第1搬送機構、及び該第1搬送機構を駆動する第1駆動部と、
(C)前記ロール体と前記第1搬送機構との間に設けられ前記媒体を搬送する第2搬送機構、及び該第2搬送機構を駆動する第2駆動部と、
(D)前記ロール体が1回転する間に、
前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、
前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように、
前記ロール体駆動部と前記第1駆動部と前記第2駆動部との動作を制御する制御部と、
を備える印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、前記第1搬送機構が前記媒体の搬送を開始してから前記媒体の搬送を終了するまでの間に、
前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、
前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように、
前記ロール体駆動部と前記第1駆動部と前記第2駆動部との動作を制御することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、印刷が開始されてから印刷が終了するまでの間に、
前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、
前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるように、
前記ロール体駆動部と前記第1駆動部と前記第2駆動部との動作を制御することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記ロール体駆動機構と前記第2搬送機構との間の前記媒体の弛み量を検出する弛み量検出部を備え、
前記制御部は、
前記弛み量検出部によって検出された弛み量が所定の弛み量以下である場合には前記ロール体駆動部を駆動させ、
前記弛み量検出部によって検出された弛み量が所定の弛み量よりも大きい場合には前記ロール体駆動部を停止させることを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記制御部は、
前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量とに基づいて、前記ロール体駆動機構と前記第2搬送機構との間の前記媒体の弛み量を検出し、
検出された前記弛み量が所定の弛み量以下である場合には前記ロール体駆動部を駆動させ、
検出された前記弛み量が所定の弛み量よりも大きい場合には前記ロール体駆動部を停止させることを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
(A)媒体がロール状に巻かれたロール体を駆動するロール体駆動機構を駆動させて媒体を搬送方向に搬送することと、
(B)前記ロール体よりも前記搬送方向の下流側に設けられた第1搬送機構を駆動させて前記媒体を搬送することと、
(C)前記ロール体と前記第1搬送機構との間に設けられた第2搬送機構を駆動させて前記媒体を搬送することと、
(D)前記ロール体が1回転する間に、
前記ロール体駆動機構により搬送される前記媒体の量と、前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量が、
前記第2搬送機構により搬送される前記媒体の量と、前記第1搬送機構により搬送される前記媒体の量との差の最大量よりも大きくなるようにすることと、
を有する印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−162379(P2012−162379A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25940(P2011−25940)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】