説明

印刷装置および印刷方法

【課題】少なくとも、プリンター100に対して機構等を追加することなく、付着されたインク量に応じた適切なデカールを行う。
【解決手段】印刷用紙PMの表面に印刷を行った後に印刷用紙PMの裏面に印刷を行うために用紙の表裏を反転させるための搬送において、印刷用紙PMの表面に対するインクの付着量を表面の領域毎に判定し、上記搬送の経路上であって、印刷用紙PMの表面に対するインクの付着により発生する印刷媒体の膨潤カールの反りと逆向きの反りを、インクの付着量が所定値以上と判定された領域を有する印刷用紙PMの部位に発生させる所定位置において、上記印刷媒体の搬送を所定時間待機させるようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷装置および印刷方法に関し、特に印刷媒体の一方の面に対する液体の付着を行った後に前記印刷媒体の他方の面に対する液体の付着を行うための前記印刷媒体の搬送を行う印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のプリンター等の印刷装置は、両面印刷機構を搭載したものも多く、最も普及している両面印刷方式のプリンターは、1つの記録ヘッドと用紙反転機構とを搭載したタイプである。このようなプリンターでは、記録ヘッドで印刷用紙の一方の面に印刷した後、当該印刷用紙の表裏を所定の搬送経路を通過させることにより反転させ、同じ記録ヘッドで他方の面の印刷も行うようになっている。
【0003】
ここで、印刷用紙は、インクを付着されてインクを吸収すると印刷用紙の表面が膨潤する一方、当該印刷用紙表面以外の部位は膨潤しにくいため、印刷用紙の表面が膨らむように反りを生じる現象(以下、「膨潤カール」とも呼ぶ。)が起こることが知られている。膨潤カールを発生した用紙は、プリンター内部を搬送しているときにプリンター内部の部材と接触する可能性があり、印刷品質への悪影響(擦過、汚れ、紙折れ等)が懸念される。
【0004】
このような印刷品質への悪影響を回避するため、従来、大きく2種類の対策が講じられていた。1つ目は、表面への印刷が終了すると、裏面の印刷までに乾燥待機や温風ヒータによる強制的な乾燥等を行うことにより、印刷用紙の膨潤カールを緩和するものである(例えば、特許文献1参照)。2つ目は、膨潤カールの反りと逆方向の反りを印刷用紙に与える機構を設けて、強制的に膨潤カールの反りを除去(以下、「デカール」とも呼ぶ。)するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−1010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、膨潤カールは印刷の行われた部位に発生するものであるところ、上述した技術では、印刷用紙のどの部位に印刷が行われたかが考慮されていない。また、膨潤カールの度合はインクに含まれる水分量や用紙の各部位に付着されるインク量に応じて変動するが、上述した技術では、印刷用紙の各部位に付着されたインク量が考慮されていない。
また、乾燥待機を行っても膨潤カールを確実にデカールできるわけではなく、膨潤カールの対策として不十分であった。また、温風ヒータで乾燥しても膨潤カールを確実にデカールできるわけではなく、膨潤カールの対策として不十分であった。また、デカール用の機構を別途設けるとコストアップや設計変更に繋がるし、当該機構を収容する余分の空間が必要となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、少なくとも、デカールのための特別な機構等を追加してコストアップすることなく、付着されたインク量に応じた適切なデカールを行うことが可能な印刷装置および印刷方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
《請求項1》
本発明の態様の1つは、印刷媒体の一方の面に対する液体の付着を行った後に前記印刷媒体の他方の面に対する液体の付着を行うために前記印刷媒体の搬送を行う印刷装置であって、液体の付着量を前記一方の面の領域毎に判定する手段と、前記印刷媒体の所定部位を前記搬送の経路上の待機位置にて所定時間待機させる搬送待機手段と、を備える構成とされる。ここで、前記所定部位は前記判定手段によって液体の付着量が所定値以上と判定された領域を有する部位であり、前記待機位置は前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りが前記印刷媒体に発生する位置である。
【0009】
前記構成において、前記印刷媒体は平面状の媒体であって液体を付着させることができるものであればいかなるものであってもよく、紙系の印刷媒体(光沢紙、マット紙、普通紙等)のみならず、塩化ビニルのように分厚い横断幕に使われるようなメディア、透明フィルム等、が例示される。なお、前記印刷媒体の表面と裏面の一方が前記一方の面を構成し、他方が前記他方の面を構成する。
また、前記搬送は、前記一方の面に対して液体を付着させた液体吐出部(例えば、印刷ヘッド等)が前記他方の面に対して液体を付着できるように前記印刷媒体の表裏を反転させる搬送であってもよいし、前記一方の面に対して液体を付着させた液体吐出部とは異なる他の液体吐出部が前記他方の面に対して液体を付着できる位置に前記印刷媒体を移動させる搬送であってもよい。また、前記所定時間は、前記印刷媒体に発生した前記反りが解消する程度の時間であればよく、例えば、前記印刷媒体に対する前記液体の定着に要する時間としたり、当該時間から前記搬送に要する時間を除いた時間としたりすることができる。なお、前記所定時間は、前記一方の面に付着された液体量や液体種類、印刷媒体の種類等、温度や湿度等の印刷環境、を考慮して決定してもよい。前記印刷媒体に発生する反りは、一般的に、前記液体が付着された前記一方の面が膨らむ反りであるが、むろん、印刷媒体の素材や液体の材料次第では逆の反りが発生する可能性を除外するものではない。
【0010】
前記構成によれば、前記一方の面の領域毎に判定された液体の付着量に基づいて、液体の付着量が所定値以上と判定された領域を有する部位を前記所定部位に決定し、前記搬送待機手段は、前記搬送が行われているときに、前記所定部位が前記待機位置にある状態で前記搬送を所定時間待機させる。この待機が行われている間、液体を付着によって発生した反りのある前記所定部位は、当該反りと逆向きに反らされた状態となっており、待機が終了して搬送が開始されるまでに、液体を付着によって発生した反りが解消する。このように、前記搬送の経路上の適切な位置で待機を行うことで前記反りを解消するため、反りの解消のために新たな機構等を追加する必要が無い。また、液体の付着量が所定値を超えた部位に対して前記待機を行うため、必要な場合に必要な箇所に対して前記反りの解消が行われる。
【0011】
《請求項2》
本発明の態様の1つでは、前記待機位置は、前記印刷媒体を搬送する方向における前記所定部位の一端が、押圧部材によって挟持されることにより前記印刷媒体を搬送する方向における前記所定部位の他端が所定の台面に押し付けられる位置とされる。このように、前記所定部位の一端を押圧部材にて挟持したときに他端が所定の台面に押し付けられるよう挟持することにより、前記所定部位の一端から他端までの部位が、前記押し付けられる方向とは逆の方向に確実に屈曲する(反りが発生する)。この屈曲は、前記待機位置は前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りであるため、前記待機位置にて待機することにより、前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りを解消することができる。
【0012】
《請求項3》
本発明の態様の1つでは、前記待機位置は、前記所定部位の全体が前記印刷媒体の表裏を反転させる反転ローラーに接触する位置とされる。当該構成によれば、反転ローラーの曲率に応じた反りが前記所定部位に発生し、記待機位置にて待機することにより、前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りを解消することができる。
【0013】
《請求項4》
本発明の態様の1つでは、前記所定部位は、前記所定部位の少なくとも一方を付勢部材にて挟持された状態で前記一方の面に対する液体の付着が行われる領域を有する部位であり、前記待機位置は、前記所定部位の全体が前記印刷媒体の表裏を反転させる反転ローラーに接触する位置とされる。当該構成によれば、両端を固定された状態で液体の付着が行われる部位についても、記待機位置にて待機することにより、前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りを適切に解消することができる。
【0014】
《請求項5》
本発明の態様の1つは、前記待機位置においては、前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りを前記印刷媒体に生じさせた状態に維持する付勢部材が前記印刷媒体を挟持する構成とされ、前記待機位置が複数有る場合に、前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りであって各待機位置において発生する反りの曲率と、各待機位置において前記付勢部材が前記印刷媒体を挟持する前記印刷媒体の幅方向の範囲と、各待機位置において前記付勢部材が前記印刷媒体を挟持する付勢力と、に応じて、いずれかの待機位置が選択される。当該構成によれば、印刷媒体に発生した反り(前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反り)に応じて、当該反りを解消するために最適な待機位置を複数の待機位置から選択するための基準が提供される。
【0015】
なお、上述した印刷装置は、他の機器に組み込まれて実施されたり他の方法とともに実施されたりする等の各種の態様を含む。また、本発明は上記印刷装置を備える印刷システム、前記印刷装置の構成に対応した工程を有する印刷方法、前記印刷装置の構成に対応した機能をコンピューターに実現させるプログラム、当該プログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの外観図である。
【図2】用紙搬送機構における部材配置を断面的に示した図である。
【図3】給紙カセット10から給紙される印刷用紙PMの搬送経路を示す図である。
【図4】印刷用紙PMのインク打込量の判定における領域を説明する図である。
【図5】自動用紙分離部ADF2が給紙する印刷用紙PMの搬送経路を示す図である。
【図6】反転給紙経路を示す図である。
【図7】紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの押圧方向を説明する図である。
【図8】印刷用紙PMに発生する膨潤カールの説明図である。
【図9】プリンター100の制御にかかる電気的・ソフトウェア的構成を示すブロック図である。
【図10】搬送制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】各領域におけるインク打込量と待機位置との対応関係を説明する図である。
【図12】後端領域のインク打込量がVよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。
【図13】後端領域のインク打込量がVよりも小さくWよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。
【図14】中間領域のインク打込量がWよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。
【図15】先端領域のインク打込量がYよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。
【図16】先端領域のインク打込量がYよりも小さくZよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。
【図17】デカール効果と、用紙に発生した反りに対して逆向きに発生された反りの曲率と、の関係を説明する図である。
【図18】デカール効果と、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が紙を抑える圧力と、の関係を説明する図である。
【図19】デカール効果と、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が用紙の幅方向において押圧する範囲と、の関係を説明する図である。
【図20】ローラーと弾性体を用いた場合の一例を示す図である。
【図21】温度や湿度に応じて膨潤カールの度合がどのように変化するかを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)印刷装置の構成:
(2)搬送制御処理:
(3)変形例:
【0018】
(1)印刷装置の構成:
《プリンターの全体構成》
図1には、プリンターの外観の一例を示してある。なお、以下では、同図に示す上下左右前後を参照して部材の移動方向や取り付け位置等を説明するが、むろん、部材の移動方向や取り付け位置等は設計に応じて適宜に変更される。同図において、プリンター100は、外観上、給紙カセット10、手差しトレイ11、スタッカ12、操作パネル13を備えている。
【0019】
給紙カセット10は、プリンター100の前面下部において手前へ引き出し可能に設けられ、内部には複数枚の印刷用紙PMを収容することができる。給紙カセット10をプリンター100の内部に収容すると、給紙カセット10に収容された印刷用紙PMに対する印刷が可能となる。すなわち、操作パネル13やプリンター100に接続されたホスト装置(不図示)によって給紙カセット10に収容されている印刷用紙PMへの印刷を指示されると、後述する自動用紙分離部ADF1が給紙カセット10から1枚の印刷用紙PMを分離し、用紙搬送経路へ送り込むことが可能となる。ホスト装置は、例えば、プリンター100のドライバーをインストールされたコンピューターにより構成される。
【0020】
用紙搬送経路の途中には、左右に延びるガイド軸15に沿って主走査方向(図1では、左右方向)に往復動可能なキャリッジ14が設けられており、主走査方向と直交する副走査方向(図1では、前後方向)に搬送される印刷用紙PMに対し、主走査方向に往復動しつつ適宜のタイミングでインクを吐出して付着させることにより印刷用紙PMの表面に文字や画像を形成(印刷)する。文字や画像の形成が完了した印刷用紙PMは、プリンター100の外部へと排出され、スタッカ12に積層される。
【0021】
キャリッジ14の下部には、インクを噴射(吐出)する記録ヘッド14aが設けられ、さらに本体ケース内において記録ヘッド14aの下方にはプラテン20k(図2等参照)が配置されている。プラテン20kは、左右方向に長い台面を記録ヘッド14aに対面させており、主走査の各位置において、記録ヘッド14aと台面とが等距離となるように形成されている。従って、印刷用紙PMは、プラテン20k上に載置されると、記録ヘッド14aとインク付着対象部位との距離を一定に規定される。キャリッジ14の上部には、ブラック用およびカラー用の各インクカートリッジが着脱可能に装着されている。記録ヘッド14aは、各インクカートリッジから供給される各色のインクを、各色用のノズルから噴射する。
【0022】
手差しトレイ11は、プリンター100の上面後部に後傾した斜面として設けられ、当該斜面に複数枚の印刷用紙PMを積載することができる。操作パネル13やプリンター100に接続されたホスト装置(不図示)によって手差しトレイ11に積載されている印刷用紙PMへの印刷を指示されると、後述する自動用紙分離部ADF2が手差しトレイ11から1枚の印刷用紙PMを分離し、用紙搬送経路へ送り込み、上述の給紙カセット10から供給された印刷用紙PMと同様に用紙搬送経路の途中で印刷が行われ、印刷が完了するとスタッカ12に積層される。
【0023】
《用紙搬送機構の構成》
次に、用紙搬送機構について説明する。
図2は、用紙搬送機構における部材配置を断面的に示した図である。同図は、プリンター100の用紙搬送機構の要部を側面(図1では右側)から見て示した要部側面図であり、用紙搬送機構の主要な構成の位置関係を概略的に示してある。同図に示すように、プリンター100は、分離ローラー20a、分離ローラー20b、分離従動ローラー20c、中間ローラー20d、中間従動ローラー20e,20f、紙送りローラー20g、紙送り従動ローラー20h、排紙ローラー20i、排紙従動ローラー20j、プラテン20k、用紙検知センサー20l、を備えている。その他、用紙が所定の搬送経路で搬送されるようにガイドする部材が各所に配置されており、図には太線で示してある。
【0024】
《カセットからの給紙》
図3は、給紙カセット10から給紙される印刷用紙PMの搬送経路を示す図であり、図4は後述する印刷用紙PMのインク打込量の判定における領域を説明する図である。図3において、給紙カセット10から給紙される印刷用紙PMの搬送経路は二点鎖線で示してある。なお、以下ではインク打込量のことをインクデューティー記載することもある。
給紙カセット10からの給紙が選択されると、所定の機構により分離ローラー20aに印刷用紙PMが当接され、給紙カセット10に収容された印刷用紙PMの1枚が、分離ローラー20aの回転駆動(図3では反時計回り方向への駆動)により、中間ローラー20dと中間従動ローラー20eの間に到達する。なお、分離ローラー20aや印刷用紙PMを分離ローラー20aに当接させるための機構(不図示)等が自動用紙分離部ADF1を構成する。
【0025】
自動用紙分離部ADF1が給紙した印刷用紙PMは、主に中間ローラー20dの順方向回転駆動(図3では反時計回り方向の回転駆動)により、中間ローラー20dと中間従動ローラー20eに押圧挟持されつつ搬送され、先端が中間ローラー20dと中間従動ローラー20fの間に到達する(状態1−1)。さらに、中間ローラー20dの順方向回転駆動により、印刷用紙PMは、途中までは中間ローラー20dと中間従動ローラー20eの間および中間ローラー20dと中間従動ローラー20fの間に押圧挟持されつつ搬送され、途中からは中間ローラー20dと中間従動ローラー20fの間に押圧挟持されつつ搬送され、先端が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に到達する(状態1−2)。
【0026】
その後、印刷用紙PMは、主に中間ローラー20dと紙送りローラー20gの順方向回転駆動により、途中までは中間ローラー20dと中間従動ローラー20eの間および紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に押圧挟持されつつ搬送され、途中からは紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に押圧挟持されつつ搬送され、先端が排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jの間に到達する(状態1−3)。印刷用紙PMの表面への印刷は、状態1−2から状態1−3の間に開始される。
【0027】
この状態1−2から状態1−3までに印刷対象とされる印刷用紙PM上の領域が、図4に示す先端領域を構成する。ここで、状態1−2から状態1−3の間は、用紙の後端側を紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hに挟持されているものの用紙の先端側を保持されずに印刷される。従って、先端領域は、後述する膨潤カールが発生しやすいが、印刷用紙PMの中で最初に表面印刷を行われ最後に裏面印刷を行われるため、インクの乾燥時間が比較的長く確保される。また、裏面印刷の搬送では末尾に位置するため、カールが発生しても紙折れ等の不具合を生じにくい。
【0028】
その後、印刷用紙PMは、主に紙送りローラー20gと排紙ローラー20iの順方向回転駆動により、紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間および排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jの間に押圧挟持されつつ搬送され、印刷用紙PMの後端が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に到達する(状態1−4)。印刷用紙PMの表面への印刷は、状態1−3から状態1−4の間も続行される。
【0029】
この状態1−3から状態1−4までに印刷対象となる印刷用紙PMの領域が図4に示す中間領域を構成する。ここで、状態1−2から状態1−3の間は、用紙の先端側を排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jに挟持され且つ後端側を紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hに挟持された状態で印刷されるため、後述する膨潤カールが発生しにくい。また中間領域は用紙の真ん中に位置するため元々カールが発生しにくい。
【0030】
その後、印刷用紙PMは、主に排紙ローラー20iの順方向回転駆動により、排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jの間に押圧挟持されつつ、少なくとも印刷用紙PMの後端(もしくは印刷用紙PMの表面の印刷領域の後端)が記録ヘッドによる記録範囲を完全に通過して離脱するまで搬送される(状態1−5)。印刷用紙PMの表面への印刷は、状態1−4から状態1−5の間も続行される。
【0031】
この状態1−4から状態1−5までに印刷対象となる印刷用紙PMの領域が図4に示す後端領域を構成する。ここで、状態1−4から状態1−5の間は、用紙の先端側を排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jに挟持されているものの用紙の後端側を保持されずに印刷される。従って、後端領域は、後述する膨潤カールが発生しやすい上、最後に表面印刷を行われ最初に裏面印刷を行われるためインクの乾燥時間が短く、用紙の表裏を反転した後は搬送の先端側に位置することから紙折れ等の不具合も発生しやすい。
【0032】
その後、表面印刷の場合は、主に排紙ローラー20iの順方向回転駆動により、排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jの間に押圧挟持されつつ搬送され、排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jの間を抜けるとスタッカ12上に積載される。一方、両面印刷の場合は、排紙ローラー20iの逆方向回転駆動(図3では時計回り方向の回転駆動)により、後述の図5に示す反転給紙が行われる。
【0033】
《手差しトレイからの給紙》
図5は、自動用紙分離部ADF2が給紙する印刷用紙PMの搬送経路を示す図である。同図において、自動用紙分離部ADF2が給紙する印刷用紙PMの搬送経路は二点鎖線で示してある。
手差しトレイ11からの給紙が選択されると、所定の機構により分離ローラー20bに印刷用紙PMが当接され、手差しトレイ11に積載された印刷用紙PMの1枚が、分離ローラー20bの回転駆動(図5では時計回り方向への駆動)により、中間ローラー20dと中間従動ローラー20fの間に到達する。なお、分離ローラー20bや印刷用紙PMを分離ローラー20bに当接させるための機構(不図示)等が自動用紙分離部ADF2を構成する。
【0034】
さらに、主に中間ローラー20dの順方向回転駆動により、印刷用紙PMは、中間ローラー20dと中間従動ローラー20fの間に押圧挟持されつつ搬送され、先端が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に到達する。なお、この状態は上述した給紙カセット10から給紙された印刷用紙PMの状態1−2と同様であり、状態1−2以後は、上述した給紙カセット10から給紙された印刷用紙PMと同様の搬送が行われる。
【0035】
《反転給紙》
次に、両面印刷を行う場合の用紙反転ならびに反転した用紙への印刷について説明する。
図6は、反転給紙経路を示す図である。同図に置いて、反転給紙経路は二点鎖線で示してある。反転給紙が開始されると、印刷用紙PMは、排紙ローラー20iの逆方向回転駆動(図6では時計周り方向の回転駆動)により、排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jとの間に押圧挟持されつつ搬送され、後端が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に到達し、後端が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hとの間に挟持された状態となる。
【0036】
図7は、紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの押圧方向を説明する図である。なお、図7では、印刷用紙PMを一点鎖線で示しており、図7以後の図でも印刷用紙PMを図面に示す場合は一点鎖線で示すことにする。図7に示すように、紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの印刷用紙PMに対する押圧方向は、図中の上下鉛直方向から反時計回りに傾いており、紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hとの間に挟持された部位よりプラテン側にある印刷用紙PMがプラテンの表面に押し付けられた状態になる。このとき、印刷用紙PMは図中下向きに反り、当該反りの現れる箇所に重複する部位に後述のデカール効果が現れ、当該反りの現れる箇所にデカール対象となる箇所を位置させた状態を待機位置Aと呼ぶ。
【0037】
次に、印刷用紙PMは、主に排紙ローラー20iと紙送りローラー20gと中間ローラー20dの逆方向回転駆動により、排紙ローラー20iと排紙従動ローラー20jの間および紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に押圧挟持されつつ搬送され、途中からは紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に押圧挟持されつつ搬送されて後端が中間ローラー20dと中間従動ローラー20eの間に到達し、さらに、中間ローラー20dと中間従動ローラー20eの間に押圧挟持されつつ搬送されて後端が中間ローラー20dと中間従動ローラー20fの間に到達する。このように搬送される中で、印刷用紙PMが中間ローラー20dに巻きかかった状態が発生するが、このとき、中間従動ローラー20eと中間従動ローラー20fの少なくとも一方によって印刷用紙PMの特定領域を中間ローラー20dの曲面に押しつけた状態を待機位置Bと呼ぶ。なお、特定領域は、上述した中間領域,後端領域,先端領域の何れかを指す。
【0038】
その後、印刷用紙PMは、主に中間ローラー20dの逆方向回転駆動により、中間ローラー20dと中間従動ローラー20eの間および中間ローラー20dと中間従動ローラー20fの間に押圧挟持されつつ搬送されて後端が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間に到達する。このようにして紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの間まで搬送された印刷用紙PMは、先に印刷されたときと表裏が反転して裏面を上に向けており、紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hによって印刷用紙PMを徐々に左方に送る副走査を行いつつキャリッジを適宜に移動させながら記録ヘッドから適宜にインクを吐出することにより、印刷用紙PMの裏面に対して印刷を行う。
【0039】
以上のように、印刷用紙PMの裏表を反転させる際に利用される中間ローラー20dは、本実施形態において反転ローラーを構成する。なお、以上説明した各状態や各待機位置に印刷用紙PMを搬送する際に利用されるローラーは、印刷用紙PMの長さに応じて異なってくることは言うまでもない。
【0040】
《膨潤カール発生理由と待機の必要性》
図8は、印刷用紙PMに発生する膨潤カールの説明図である。図8(a)に示すように、反転給紙経路に送られる印刷用紙PMは、直前に行われた表面に対する印刷によって表面にインクが付着され、図8(b)に示すように、表面が膨潤して膨潤カールが起こる。そのため、図8(c)に示すように、用紙反転した後で裏面に印刷を行う際にプラテン20k上で浮き上がることがあり、裏面印刷品質に影響を与える。具体的には、例えば、記録ヘッドと擦れることで汚れたり、接触して紙折れしたり、記録ヘッドと印刷用紙PM表面との距離変動による印刷ムラ、等が発生する可能性がある。むろん、反転給紙の際に先頭で搬送される印刷用紙PMの後端側で膨潤カールが発生すると、記録ヘッド以外の部材と搬送経路中で干渉して同様の擦れ、汚れ、紙折れ等が発生する可能性もある。このような裏面印刷品質の低下を防止するため、本実施形態では、反転給紙経路上の所定位置で後述の待機を行う。
【0041】
《印刷装置の電気的構成》
図9は、プリンター100の制御にかかる電気的・ソフトウェア的構成を示すブロック図である。なお、同図には後述の搬送待機に関係する構成を示しており、その他の印刷制御にかかる構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で公知技術から適宜に採用することができる。同図において、プリンター100は、プリンター100の全体を制御部30と、記憶部31と、I/F32と、キャリッジモーター33と、記録ヘッド14aと、搬送モーター34と、紙検出センサー20lと、を備えている。記憶部31には、各領域毎に、インク打込量の大小に応じて決定される待機位置との対応関係が記憶されている。I/F32にはホスト装置が接続されており、プリンター100は、当該ホスト装置から入力される印刷データに基づいて印刷を行ったり、当該ホスト装置からの指示により片面印刷と両面印刷との切換え等の印刷設定が行われたりする。
【0042】
制御部30は、プリンター100の全体を制御するものであり、例えば、ROMに記憶された制御プログラムをRAMに展開しつつCPUが演算を行うことによりソフトウェア的に実現されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のようにハードウェア的に実現されてもよい。制御部30は、例えば、制御プログラムを実行することにより、記憶部31と、I/F32と、キャリッジモーター33と、記録ヘッド14aと、搬送モーター34と、紙検出センサー20lとを制御し、以下の搬送制御処理を実行する。
【0043】
(2)搬送制御処理:
図10は、搬送制御処理の流れを示すフローチャートである。当該処理は、印刷が指示されたときに実行される。処理が開始されると両面印刷か否かを判断する(S10)。ここで、指示された印刷が片面印刷の場合は(S10;No)通常の搬送制御処理を行い(S90)、表面に対する印刷が完了すると、排紙ローラー20iの駆動により、印刷用紙PMがスタッカ12に排出されて積層される(S80)。一方、指示された印刷が両面印刷の場合は(S10:Yes)、まず、表面印刷について通常の搬送制御処理を行う(S20)。
【0044】
その間/その前後いずれか/またはこれらの任意の組み合わせのタイミングで、上述した中間領域,後端領域,先端領域のそれぞれについて表面の印刷におけるインク打込量を取得する(S30)。インク打込量は、各領域に付着されるインク量を合計して平均化することにより求めてもよいが、推定値として求めてもよく、例えば、公知の各種の手法によって計算されるインクカバレッジ量をインク打ち込み量として利用してもよい。また、なお、当該インク打込量は、印刷の指示を当該プリンター100に行うホスト装置(不図示)において予め算出し、当該ホスト装置からプリンター100に送信されるようにしてもよい。当該ステップS39を実行する制御部30が本実施形態において判定手段を構成する。
【0045】
次に、インク打込量に基づいて待機位置を決定する(S40)。
図11は、各領域におけるインク打込量と待機位置との対応関係を説明する図である。図11に示す対応関係に相当するデータは、例えば、記憶部31に記憶されている。
本実施形態においては、後端領域の単位面積あたりのインク打込量Dbを、高デューティーと、中デューティーと、低デューティーの3つに分類し、分類結果に基づき、後端領域を含む印刷用紙PMの部位を、待機位置Aにおいて待機させるか、待機位置Bにおいて待機させるか、待機を行わないか、のいずれかに決定する。ここで、後端領域については、高デューティーと中デューティーの閾値をVとし、中デューティーと低デューティーの閾値をWとする。
【0046】
また、中間領域の単位面積あたりのインク打込量Daは、高デューティーと、中・低デューティーの2つに分類し、分類結果に基づき、中間領域を含む印刷用紙PMの部位を、待機位置Bにおいて待機させるか、待機を行わないか、のいずれかに決定する。ここで、中間領域については、高デューティーと中・低デューティーの閾値をWとする。なお、中間領域は後述するようにインク打込量Daが多くても後端領域や先端領域に比べて膨潤カールによる影響が小さいため、後端領域や下記の先端領域よりも分類数を少なくし、高デューティーであってもデカール効果が低めの待機位置としてある。
【0047】
また、先端領域の単位面積あたりのインク打込量Dcは、高デューティーと、中デューティーと、低デューティーの3つに分類し、分類結果に基づき、先端領域を含む印刷用紙PMの部位を、待機位置Aにおいて待機させるか、待機位置Bにおいて待機させるか、待機を行わないか、のいずれかに決定する。ここで、先端領域については、高デューティーと中デューティーの閾値をYとし、中デューティーと低デューティーの閾値をZとする。
【0048】
図12は、後端領域のインク打込量DbがVよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。同図に示すように、後端領域を待機位置Aにて待機させると、図4で示した印刷用紙PMの末尾側の端部が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hとの間に挟持された状態で待機されることになる。後端領域は、表面印刷において搬送の末尾側に位置し、その後の反転給紙では搬送の先頭側に位置するためである。そして、後端領域は、紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの挟持位置よりもプラテン20k側にある印刷用紙PMが下向きに反ることになる。すなわち、表面印刷においてインクの膨潤によりカールした向きと逆向きの反りが、後端領域に発生する。
【0049】
図13は、後端領域のインク打込量DbがVよりも小さくWよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。同図に示すように、後端領域を待機位置Bにて待機させると、図4で示した印刷用紙PMの後端側の端部が中間ローラー20dと中間従動ローラー20eにより押圧挟持される。そして、後端領域には、中間ローラー20dの曲面に沿った反りが発生し、この反りは、表面印刷においてインクの膨潤によりカールした向きと逆向きの反りである。
【0050】
図14は、中間領域のインク打込量DaがWよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。同図に示すように、中間領域を待機位置Bにて待機させると、図4で示した後端領域と中間領域の境界付近が中間ローラー20dと中間従動ローラー20fにより押圧挟持され、中間領域と先端領域の境界付近が中間ローラー20dと中間従動ローラー20eにより押圧挟持される。そして、中間領域には、中間ローラー20dの曲面に沿った反りが発生し、この反りは、表面印刷においてインクの膨潤によりカールした向きと逆向きの反りである。
【0051】
図15は、先端領域のインク打込量DcがYよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。同図に示すように、先端領域を待機位置Aにて待機させると、図4で示した印刷用紙PMの中間領域と先端領域の境界付近が紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hとの間に挟持された状態で待機されることになる。中間領域は、表面印刷において搬送の先頭側に位置し、その後の反転給紙では搬送の末尾側に位置するためである。そして、先端領域は、紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hの挟持位置よりもプラテン20k側にある印刷用紙PMが下向きに反ることになる。すなわち、表面印刷においてインクの膨潤によりカールした向きと逆向きの反りが、先端領域に発生する。
【0052】
図16は、先端領域のインク打込量DcがYよりも小さくZよりも大きい場合の印刷用紙PMの待機状態を示す図である。同図に示すように、先端領域を待機位置Bにて待機させると、図4で示した印刷用紙PMの先端領域が中間ローラー20dと中間従動ローラー20eにより押圧挟持される。そして、先端領域には、中間ローラー20dの曲面に沿った反りが発生し、この反りは、表面印刷においてインクの膨潤によりカールした向きと逆向きの反りである。
【0053】
すなわち、同じ部位であってもインク打ち込み量が多いほどデカール効果の高い位置にて待機を行い、インク打ち込み量が同じであっても用紙の搬送方向において端部を含んで形成される領域は用紙の端部を含まずに形成される領域よりもデカール効果の高い位置にて待機を行うようになっている。
【0054】
ここで、デカール効果とは、用紙に発生した反りを解消する効果のことであり、基本的には、用紙に発生した反りに対して逆の反りを発生させることにより紙に発生した反り(カール)を解消(デカール)する効果を指す。すなわち、待機位置A,Bでは用紙に発生した反りと逆方向の反りが発生する。ただし、このデカール効果の度合いはその他の要因にも依存し、例えば、用紙に発生した反りと逆向きに発生された反りの曲率、当該反りを維持させる支持部材が紙を抑える圧力、当該支持部材が用紙の幅方向(用紙の搬送方向に直交する方向)において押圧する範囲、に応じて変化する。
【0055】
図17は、デカール効果と、用紙に発生した反りに対して逆向きに発生された反りの曲率と、の関係を説明する図である。同図(a)に示す待機位置Aにおける印刷用紙PMに発生する反りの曲率Raは、同図(b)に示す待機位置Bにおける印刷用紙PMに発生する反りの曲率Rbよりも大きく、用紙に発生した反りの曲率に応じたデカール効果は待機位置Aよりも待機位置Bの方が強くなっている。すなわち、デカール効果は、用紙に発生した反りと逆向きに発生された反りの曲率が小さいほど強く、用紙に発生した反りと逆向きに発生された反りの曲率が大きいほどほど弱くなる。ただし、後述の用紙に発生した反りを維持させる支持部材が紙を抑える圧力や、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が用紙の幅方向において押圧する範囲に応じたデカール効果との兼ね合いで、結果として待機位置Aの方が待機位置Bよりもデカール効果が強くなる。
【0056】
図18は,デカール効果と、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が紙を抑える圧力と、の関係を説明する図である。同図(a)に示す待機位置Aにおける印刷用紙PMを挟持している紙送りローラー20gと紙送り従動ローラー20hとが印刷用紙PMを挟持する圧力Paは、同図(b)に示す待機位置Bにおける印刷用紙PMを挟持している中間ローラー20dと中間従動ローラー20eもしくは中間ローラー20dと中間従動ローラー20fとが印刷用紙PMを挟持する圧力Pbよりも強く、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が紙を抑える圧力に応じたデカール効果は、待機位置Bよりも待機位置Aの方が強くなっている。すなわち、デカール効果は、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が紙を抑える圧力が強いほど強く、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が紙を抑える圧力が弱いほど弱くなる。
【0057】
図19は、デカール効果と、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が用紙の幅方向において押圧する範囲と、の関係を説明する図である。同図に示すように、待機位置Aの紙送りローラー20gや待機位置Bの中間ローラー20dは印刷用紙PMの全範囲に当接する幅を有しているが、待機位置Aの紙送り従動ローラー20hは印刷用紙PMの一部に当接するローラーを用紙の幅方向に複数コマ配置して印刷用紙PMを押圧しているのに対し、待機位置Bにかかる中間従動ローラー20eや中間従動ローラー20fは印刷用紙PMの一部に当接するローラーを略中央位置に1コマだけ配置して印刷用紙PMを押圧している。すなわち、用紙に発生した反りを維持させる支持部材の用紙の幅方向において押圧する範囲は、待機位置Bよりも待機位置Bの方が広くなっている。その結果、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が用紙の幅方向において押圧する範囲に応じたデカール効果は、待機位置Bよりも待機位置Aの方が強くなる。すなわち、デカール効果は、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が用紙の幅方向において押圧する範囲が広いほど強く、用紙に発生した反りを維持させる支持部材が用紙の幅方向において押圧する範囲が狭いほど弱くなる。
【0058】
次に、表面印刷が完了したか否かを判断する(S50)。表面印刷が完了していない場合は(S50:No)表面印刷が完了するまで待機し、表面印刷が完了している場合は(S50:Yes)、ステップS40にて決定された待機位置で待機を行いつつ、裏面印刷が可能な位置まで印刷用紙PMを搬送する(S60)。本実施形態においては、当該搬送は用紙の反転給紙に相当する。
【0059】
待機位置の特定は、例えば、図9に示す紙検出センサー20lと各ローラーを駆動する搬送モーター34の駆動ステップ数にて特定することができる。より具体的な一例を挙げると、用紙検出手段にて用紙の先端が検出されてから、各ローラーのPWM駆動を何ステップ行えば待機位置に到達するかを示すデータが予め用意されており、当該データに基づく搬送駆動を行うことにより、所望の位置にて印刷用紙PMの搬送を停止させることができる。むろん、印刷用紙PMの搬送されている位置を直接に検出する手段を待機位置付近に設けて待機位置へ用紙が到達したことを検出し、搬送を停止させてもかまわない。なお、本実施形態では、各待機位置において待機開始から搬送再開までの待機時間は一定としてある。
【0060】
裏面印刷が可能な位置まで印刷用紙PMを搬送すると、裏面印刷のための搬送制御を行う(S70)。すなわち、裏面印刷のための搬送制御を行いつつ、搬送制御と連動して行われる記録ヘッドやキャリッジの駆動によって裏面印刷が行われる。なお、例えば、裏面印刷の行われる場所と待機位置との位置関係次第では、裏面印刷を行いつつ裏面印刷のための搬送を行っている間に、裏面印刷を行っていない他の部位が待機位置に差し掛かる場合もある。このような場合は、裏面印刷の途中で待機対象部位が待機位置に来た時点で裏面印刷を一時停止し、待機時間の経過後に裏面印刷を再開するように構成することもできる。裏面印刷が完了すると、排紙ローラー20iの駆動により、印刷用紙PMがスタッカ12に排出されて積層される(S80)。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、印刷用紙PMの表面に印刷を行った後に印刷用紙PMの裏面に印刷を行うために用紙の表裏を反転させるための搬送において、印刷用紙PMの表面に対するインクの付着量を表面の領域毎に判定し、上記搬送の経路上であって、印刷用紙PMの表面に対するインクの付着により発生する印刷媒体の膨潤カールの反りと逆向きの反りを、インクの付着量が所定値以上と判定された領域を有する印刷用紙PMの部位に発生させる所定位置において、上記印刷媒体の搬送を所定時間待機させるようにしてある。よって、少なくとも、プリンター100に対して機構等を追加することなく、付着されたインク量に応じた適切なデカールを行うことが可能となる。
【0062】
(3)変形例:
(3−1)変形例1:
上述した実施形態では、インク打ち込み量に応じて使い分けるデカール効果の度合いを3段階(待機位置A、待機位置B、待機しない)としたが、むろん、インク打ち込み量に応じて使い分けるデカール効果の度合いを4段階以上としてもよく、例えば、待機位置を3箇所以上設けることによりデカール効果の度合いを4段階以上としてもよい。
【0063】
(3−2)変形例2:
上述した実施形態や変形例では、複数の待機位置を使い分けることにより複数のデカール効果を実現したが、待機時間を変更することにより複数のデカール効果を実現してもよい。すなわち、同じ待機位置であっても、インク打ち込み量の多い領域を有する部位を待機させる場合は待機時間を長くし、インク打ち込み量の少ない領域を有する部位を待機させる場合は待機時間を短くする。このように待機時間を様々にした待機を行うことにより、例えば、デカール効果のある待機位置が少ない場合にも複数レベルのデカールを印刷用紙PMに適用することができる。むろん、待機位置と待機時間とを適宜に組み合わせることにより、インク打ち込み量に応じた適切なデカールを行うことができる。
【0064】
(3−3)変形例3:
上述した実施形態や変形例では、各領域ごとに待機の必要性を判断していたが、複数領域について待機が必要な場合は、各領域独立に待機位置と待機時間とを設定してもよいし、他の領域に対してデカールのための待機している時間を考慮して、他の領域に対する待機時間を短縮してもよい。
【0065】
(3−4)変形例4:
上述した実施形態や変形例で説明したように、インク打ち込み量が多いほどデカール効果の強い待機を行い、インク打ち込み量が少ないほどデカール効果が小さくなる待機を行う。すなわち、印刷モードが速度優先の場合と画質優先の場合とを比較すると、同じ画像を印刷する場合でも、速度優先の場合はデカール効果の弱い待機位置(又は待機を行わない)となり、画質優先の場合はデカール効果の強い待機位置となる。
【0066】
(3−5)変形例5:
以上説明した実施形態や変形例では、印刷用紙PMを反転させている間に印刷用紙PMを反転給紙経路上に維持するための部材として、ローラーと従動ローラーとを用いているが、ローラーと弾性体等のような付勢部材を用いてもよい。図20に、ローラーと弾性体を用いた場合の一例を示す。同図では、中間ローラーに弾性体を適用した場合を示してある。同図に示すように、中間ローラー20dはゴムなどの摩擦力の高い部材で形成されており、中間ローラー20dの回転に伴い当該中間ローラー20dに巻きまわされた印刷用紙PMが搬送される。このとき、弾性体が、印刷用紙PMを中間ローラー20dのローラー面に押し付けることにより、印刷用紙PMを反転給紙経路上に維持する付勢部材としての役割を担っている。
【0067】
(3−6)変形例6:
上述した実施形態や変形例においては、ローラーで印刷用紙PMを搬送するプリンターを例にとって説明したが、むろん、ベルト駆動にて印刷用紙PMを搬送するプリンターにおいても本発明は適用可能である。また、上述した実施形態では印刷用紙PMの反転経路を、中間ローラー20dが規定していたが、この反転経路を曲面にて規定し、ローラーにて当該反転経路上を印刷用紙PMが曲面に沿って移動させるようにすることもできる。また、ローラーの数も適宜に変更することができる。
【0068】
(3−7)変形例7:
上述した実施形態や変形例では、印刷用紙PMの表面におけるインク打込量に基づいて、各領域に適切なデカール効果が適用されるように待機位置や待機時間を調整していたが、インク打込量に加えて温度や湿度等の印刷環境を考慮して待機位置や待機時間を決定してもよい。図21は、温度や湿度に応じて膨潤カールの度合がどのように変化するかを示すグラフである。同図に示すように、温度が高くなるほど膨潤カールの反りが小さくなり、湿度が高くなるほど膨潤カールの反りが小さくなる傾向がある。従って、温度が高くなるほど図11に示した閾値を低くし、湿度が高くなるほど図11に示した閾値を低くすることにより、より適切なデカール効果を得ることができることが分かる。なお、温度や湿度は、プリンター100が温度センサーや湿度センサーを備えることにより検出することができる。
【0069】
(3−8)変形例8:
上述した実施形態や変形例では、表面に対するインク打込量に基づいて待機位置や待機の有無を決定していたが、いずれかの領域において、表面に対するインク打込量が上述したデューティーの閾値を超えた場合であって裏面に印刷パターンが無い場合は、当該領域を有する部位については待機を行わないようにしてもよい。このように、表面印刷によって膨潤カールが発生する領域であっても、当該領域の裏側に対して行われる裏面印刷の印刷品質に対する影響が少ない場合は待機を行わず、印刷速度(搬送速度)を優先してもよい。
【0070】
(3−9)変形例9:
上述した実施形態や変形例では、領域単位でインク打込量を評価しているが、1つの領域内であっても、インク打込量の多い部分と少ない部分とが並存する可能性もある。
このような場合には、印字部分と非印字部分の面積比率に応じて、単位面積当りのインク打込量と、領域全体での平均的なインク打込量とを、適宜に切換えて各領域のインク打込量とする。狭い領域でインク打込量が多い(局所的にインク打込量が高い)場合は当該領域の待機位置をデカール効果の強い位置とし、広い領域でインク打込量が多い(領域の全体的にインク打込量が多い)場合は、当該領域の待機位置をデカール効果の弱い位置とする。より具他的には、ある領域において非印字部分の面積よりも印字部分の面積の方が広い場合は、領域全体にインク打込が分布しているものと判断して、領域の平均的なインク打込量に基づいて閾値を判断し、待機位置を決定する。一方、ある領域において印字部分の面積よりも非印字部分の面積の方が広い場合は、インク打込が局所的に分布しているものと判断して、単位面積あたりの最大インク打込量に基づいて閾値を判断し、待機位置を決定する。なお、このように非印字部分と印字部分との面積比率に応じてインク打込量を適宜に選択する場合は、領域の平均的なインク打込量に基づいて待機位置を決定する場合の閾値を、単位面積あたりの最大インク打込量に基づいて待機位置を決定する場合とで、異なる閾値としてもよい。このように構成することで、局所的なカールを適宜にデカールするように待機位置を選択することができる。
【0071】
上述した実施形態では、インクを吐出して印刷を行う印刷装置を例にとり説明を行ったが、本発明を適用可能な印刷装置は、微小量の液滴を噴射(吐出)する液体吐出ヘッド等を備える液体吐出装置等、インク以外の流体を吐出する装置でもよい。液滴は、液体吐出装置が吐出する粒状の液体、涙状の液体、糸状に尾を引く液体等を含む。液体は、液体吐出装置が吐出できる材料であればよく、例えば、液状体、ゾル、ゲル水、無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体、等の液相の物質を含む。また、液相の物質のみならず、液体は、顔料や金属粒子といった固形物からなる機能材料の粒子を溶媒に溶解、分散又は混合したもの等も含む。インクや液晶等は、液体の代表的な例である。前記インクは、一般的な水性インク及び油性インク、並びに、ジェルインク、ホットメルトインク、等の各種液体組成物を包含するものとする。液体吐出装置には、例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造等に用いられる電極材や色材といった材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を吐出する装置が含まれる。また、液体吐出装置には、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を吐出する装置、捺染装置、マイクロディスペンサ、時計やカメラといった精密機械にピンポイントで潤滑油を吐出する装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)等を形成するために紫外線硬化樹脂といった透明樹脂液を基板上に吐出する装置、基板等をエッチングするために酸やアルカリといったエッチング液を吐出する装置、等が含まれる。
【0072】
なお、本発明は上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。
【符号の説明】
【0073】
10…給紙カセット、11…手差しトレイ、12…スタッカ、13…操作パネル、14…キャリッジ、14a…記録ヘッド、15…ガイド軸、20a…分離ローラー、20b…分離ローラー、20c…分離従動ローラー、20d…中間ローラー、20e…中間従動ローラー、20f…中間従動ローラー、20g…紙送りローラー、20h…紙送り従動ローラー、20i…排紙ローラー、20j…排紙従動ローラー、20k…プラテン、20l…用紙検知センサー、30…制御部、31…記憶部、32…I/F、33…キャリッジモーター、34…搬送モーター、100…プリンター、ADF1…自動用紙分離部、ADF2…自動用紙分離部、PM…印刷用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体の一方の面に対する液体の付着を行った後に前記印刷媒体の他方の面に対する液体の付着を行うための前記印刷媒体の搬送を行う印刷装置であって、
液体の付着量を前記一方の面の領域毎に判定する判定手段と、
前記印刷媒体の所定部位を前記搬送の経路上の待機位置にて所定時間待機させる搬送待機手段と、を備え、
前記所定部位は前記判定手段によって液体の付着量が所定値以上と判定された領域を有する部位であり、
前記待機位置は前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りが前記印刷媒体に発生する位置であることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記待機位置は、前記印刷媒体を搬送する方向における前記所定部位の一端が、押圧部材によって挟持されることにより前記印刷媒体を搬送する方向における前記所定部位の他端が所定の台面に押し付けられる位置であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記待機位置は、前記所定部位の全体が前記印刷媒体の表裏を反転させる反転ローラーに接触する位置であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記所定部位は、前記所定部位の少なくとも一方を付勢部材にて挟持された状態で前記一方の面に対する液体の付着が行われる領域を有する部位であり、
前記待機位置は、前記所定部位の全体が前記印刷媒体の表裏を反転させる反転ローラーに接触する位置であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記待機位置においては、前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りを前記印刷媒体に生じさせた状態に維持する付勢部材が前記印刷媒体を挟持する構成とされ、
前記待機位置が複数有る場合に、前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りであって各待機位置において発生する反りの曲率と、各待機位置において前記付勢部材が前記印刷媒体を挟持する前記印刷媒体の幅方向の範囲と、各待機位置において前記付勢部材が前記印刷媒体を挟持する付勢力と、に応じて、いずれかの待機位置が選択されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の印刷装置。
【請求項6】
印刷媒体の一方の面に対する液体の付着を行った後に前記印刷媒体の他方の面に対する液体の付着を行うために前記印刷媒体の搬送を行う印刷方法であって、
液体の付着量を前記一方の面の領域毎に判定する判定工程と、
前記印刷媒体の所定部位を前記搬送の経路上の待機位置にて所定時間待機させる搬送待機工程と、を備え、
前記所定部位は前記判定工程において液体の付着量が所定値以上と判定された領域を有する部位であり、
前記待機位置は前記一方の面に対する液体の付着により発生する前記印刷媒体の反りと逆向きの反りが前記印刷媒体に発生する位置であることを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−245619(P2012−245619A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116517(P2011−116517)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】