説明

印刷装置

【課題】半中空体に印刷する際の印刷品質をより向上する。
【解決手段】印刷対象物は、上側アーム122と下側アーム124とが間隙を介して対向するカバー体120である。印刷装置は、印刷対象物を保持する保持手段として機能する印刷トレイ14と、印刷トレイ14に対して相対的に移動しつつ印刷対象物の印刷面に熱転写方式で画像印刷を施す印刷ユニットと、を備えている。印刷トレイ14は、さらに、当該印刷トレイの側面に形成される穴であって、印刷面を外部に露出した状態で印刷対象物(カバー体120)の一部が挿入される横穴と、前記一部が前記横穴に完全挿入された印刷対象物の印刷部位が収容される凹部68と、前記横穴68に前記一部が完全挿入された際に、当該印刷対象物の印刷方向上流側の側面に当接することで当該印刷対象物の浮き上がりを阻害するストッパ80と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半中空体形状の印刷対象物の印刷面に画像を印刷する印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状の物品、例えば、板をU字に折り曲げたようなU字形状体や筒状体等に熱転写方式で画像を印刷でき得る印刷装置が望まれている。こうした要望を受けて、特許文献1では、特殊な態様の印刷トレイを備えた印刷装置が開示されている。特許文献1記載の印刷装置では、半中空体の印刷対象物の印刷部位(印刷が施される印刷面を有する部位)を安定して保持するために、印刷トレイの側面に、印刷部位以外の部位が挿入・収容される横穴を形成している。かかる横穴に印刷部位以外の部位を収容することで、印刷部位を印刷トレイの上面で支持することが可能になる。そして、その結果、転写シートに形成された像を印刷面に押圧する熱転写方式であっても、印刷面の撓みを効果的に防止することができ、印刷品質を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−301879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1では、印刷対象物の撓みについては考慮されているものの、印刷対象物の浮きについては考慮されていなかった。すなわち、熱転写方式では、像形成された転写シートをヒートローラで印刷面に押圧するが、当該ヒートローラが印刷対象物の終端を通過する際、ヒートローラの荷重によって印刷対象物がトレイから浮き上がることがあった。また、像形成された転写シートを印刷面に押圧した後、当該転写シートを印刷面から剥離するが、この剥離の際、印刷面、ひいては印刷対象物に上向きの剥離荷重がかかる。特許文献1記載の印刷装置では、こうしたヒートローラ荷重および剥離荷重に対する対策がなされていないため、印刷対象物が印刷トレイから浮き上がることがあった。かかる印刷対象物の浮き上がりは、印刷品質の低下の原因となる。
【0005】
そこで、本発明では、半中空形状の印刷対象物に印刷を施す際、当該印刷対象物の浮きを防止し、印刷品質をより向上でき得る印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷装置は、印刷面を有する印刷部位と底面を有する底部位とが間隙を介して対向するとともに当該間隙にアクセス可能な開口を有する半中空体形状の印刷対象物の印刷面に画像を印刷する印刷装置であって、前記印刷対象物を保持する保持手段と、前記保持手段に対して相対的に移動しつつ前記印刷面に熱転写方式で画像印刷を施す印刷手段と、を備え、前記保持手段は、前記保持手段の側面に形成される穴であって、前記印刷面を外部に露出した状態で前記印刷対象物の一部が挿入される横穴と、前記一部が前記横穴に完全挿入された印刷対象物の印刷面が載置される載置部と、前記横穴に前記一部が完全挿入された際に、当該印刷対象物の印刷方向上流側の側面に当接することで当該印刷対象物の浮き上がりを阻害するストッパと、を備えることを特徴とする。
【0007】
好適な態様では、前記載置部は、完全挿入時にのみ前記印刷部位を収容する凹部を有し、前記ストッパは、前記印刷部位が凹部に収容されていない不完全挿入時における前記印刷対象物の側面には当接しない高さに設けられる。この場合、前記ストッパの上面の角部には、前記不完全挿入時における前記印刷対象物を当該ストッパより上側に案内するテーパーが形成されている、ことが望ましい。
【0008】
また、他の好適な態様では、前記載置部の上面と、前記横穴の上面との距離は、前記印刷部位と底部位との間隙幅より小さい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、印刷対象物の印刷方向上流側の側面に当接するストッパにより印刷対象物の浮きを防止している。そのため、複雑な機構等を設ける必要がなく、簡易な構成で、印刷品質をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態である印刷装置の斜視図である。
【図2】印刷装置の概略構成を示す図である。
【図3】印刷対象物であるカバー体の構成を示す図である。
【図4】従来技術における印刷トレイの構成を示す図である。
【図5A】従来技術におけるヒートローラ荷重の影響を示すイメージ図である。
【図5B】従来技術における剥離荷重の影響を示すイメージ図である。
【図6】本実施形態における印刷トレイの一部拡大図である。
【図7】不完全挿入時における印刷トレイのA−A断面図およびB−B断面図である。
【図8】完全挿入時における印刷トレイのA−A断面図およびB−B断面図である。
【図9】ストッパの斜視図である。
【図10】本実施形態におけるストッパの作用を示すイメージ図である。
【図11】印刷対象物の他の例を示す図である。
【図12】印刷対象物の他の例を示す図である。
【図13】図11、図12に図示した印刷対象物に好適な印刷トレイの斜視図である。
【図14】印刷対象物の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である印刷装置10の斜視図である。また、図2は、印刷装置10の概略構成図である。この印刷装置10は、半中空体の印刷対象物の印刷面に画像印刷を施す装置である。ここで半中空体とは、印刷面を有する印刷部位と底面を有する底部位とが間隙を介して対向するとともに当該間隙にアクセス可能な開口を有する形状の物体を意味しており、例えば、図3に図示するUSBメモリ100のカバー体120のようなU字形状体や、図11に図示するような筒体、図12に図示するように二面が開放された形の物体などが含まれる。以下では、特に、図3に図示するUSBメモリ100のカバー体120に画像印刷する場合に好適な印刷装置を例に挙げて説明する。
【0012】
印刷装置10には、筐体12の内外に進退自在の印刷トレイ14が設けられている。この印刷トレイ14は、印刷対象物であるカバー体120を保持する保持手段として機能する。印刷トレイ14は、このカバー体120を安定して保持するために特殊な形態を有しているが、これについては後に詳説する。この印刷トレイ14により保持されたカバー体120は、当該印刷トレイ14の移動に伴い、筐体12の内部にある印刷実行位置へと搬送される。
【0013】
筐体12の内部には、カバー体120の印刷面に画像印刷を施す印刷ユニット18が設けられている。この印刷ユニット18は、インクリボン40のインクを中間転写シート42に転写した後、当該中間転写シート42に転写されたインクを印刷対象物の印刷面に転写する熱転写方式で印刷する。インクリボン40には、複数色、例えば、四色のインクがリボン長手方向に繰り返し配設されている。なお、インクリボン40に配設されるインクには、溶融型インクと昇華型インクがあるが、どちらを用いた場合でも、印刷装置10の構成および転写プロセスに大差はない。ここでは、溶融型インクを用いた場合を例に説明する。このインクリボン40は、リボン送出ボビン46から送出され、複数のガイドローラ62に案内されて、リボン巻取ボビン44に順次巻き取られる。このリボン巻き取りの経路過程には、当該インクリボン40を中間転写シート42に密着させるとともに、インクリボン40の表面のインクを溶融するサーマルヘッド48が設けられている。サーマルヘッド48の内部には複数の発熱素子(図示せず)が設けられている。サーマルヘッド48は、この複数の発熱素子を制御部(図示せず)からの指示に応じて選択的に発熱させ、インクリボン40のインクを部分的に溶融させる。そして、この部分的にインク溶融されたインクリボン40を中間転写シート42に押圧することで、中間転写シート42に溶融したインクが転写される。
【0014】
中間転写シート42は、シート送出ボビン50から送出され、複数のガイドローラ61に案内されて、シート巻取ボビン52に巻き取られる。中間転写シート42の巻き取りの経路過程には、サーマルヘッド48からの押圧を受けるプラテンローラ54が設けられている。サーマルヘッド48が当該プラテンローラ54に向かってインクリボン40を押し付けることにより、当該プラテンローラ54に沿って送出されている中間転写シート42に、サーマルヘッド48の熱によって溶融されたインクが転写される。
【0015】
ここで、既述したとおり、インクリボン40の表面には複数の色のインクがリボン長手方向に繰り返し配設されている。フルカラー画像を印刷する場合は、この複数の色インクを全て中間転写シート42に転写させておく必要がある。そこで、フルカラー印刷の場合、中間転写シート42は、インクリボン40の表面に貼着されている一つの色のインクの転写が終了するたびにシート送出ボビン50に巻き戻される。そして、再度、シート送出ボビン50からシート巻取ボビン52へと巻き取られ次の色のインクの転写がなされる。このインク転写とシート巻き戻しを、インクリボン40のインク色数分繰り返すことにより、中間転写シート42の表面にはフルカラーの印刷像が形成されることになる。
【0016】
中間転写シート42に形成されたフルカラーの印刷像は、転写アッセンブリ56によりカバー体120の印刷面に最終転写される。転写アッセンブリ56は、内部に発熱素子を有したヒートローラ58と、当該ヒートローラ58より下流側に位置する剥離ローラ60と、が連結された部材である。インクリボン40から中間転写シート42へのインク転写実行中、この転写アッセンブリ56は、中間転写シート42とカバー体120とが接触しない程度の位置に上昇している。一方、インクリボン40から中間転写シート42へのインク転写が終了して、中間転写シート42にフルカラーの印刷像が形成されれば、転写アッセンブリ56は、下降していき、中間転写シート42をカバー体120の印刷面に圧着させる。ここで、ヒートローラ58と剥離ローラ60は、その下端高さが、ほぼ同じになるように並んでいる。そのため、転写アッセンブリ56が下降した場合、ヒートローラ58および剥離ローラ60の間に位置する中間転写シート42が、印刷面に接触することになる。換言すれば、中間転写シート42は、印刷面に対して面状に圧着されることになる。
【0017】
この圧着の際、ヒートローラ58は、内蔵された発熱素子で中間転写シート42に転写されたインクを溶融する。また、この圧着の際、印刷トレイ14は、中間転写シート42と同じ方向かつ同じ速度で移動する。図2の図示例では、印刷トレイ14は、図面左側から右側へと移動する。そして、これらヒートローラ58や印刷トレイ14の動作により、中間転写シート42に形成されたフルカラーの印刷像が、印刷面に最終転写され、画像印刷が実現されることになる。なお、既述したとおり、図示例では、印刷処理時、印刷トレイ14は図面左側から右側へと移動するため、画像印刷自体は図面右側から左側へと進むことになる。この画像印刷の進行方向を以下では「印刷方向」、印刷開始側(図面右側)を「印刷方向上流側」、印刷終了側(図面左側)を「印刷方向下流側」と呼ぶ。
【0018】
次に、本実施形態において印刷対象物とするUSBメモリ100のカバー体120について、図3を参照して簡単に説明する。図3は、本体110と、半中空形状のカバー体120と、から構成されるUSBメモリ100の一例を示す図である。図3において、(A)はUSBメモリ100非使用時の様子を示した図であり、(B)はUSBメモリ100使用時の様子を示した図であり、(C)はカバー体120の断面図である。
【0019】
このUSBメモリ100は、先端にUSB端子112が設けられた本体110と、当該USB端子112を保護するカバー体120と、に大別される。カバー体120は、本体110を挟んで互いに対向する一対のアーム部122,126と一対のアーム部122,126を接続する弧状の接続部124からなる断面U字形状の半中空形状である。このカバー体120は、上側アーム部122の底面に突設された上側回転軸128、および、下側アーム部126の上面に突設された下側回転軸130を中心として本体110に対して回動自在となっている。USBメモリ100を使用しないときには、カバー体120を本体110に対して回動させて、当該カバー体120の接続部124をUSB端子112の前方に位置させ、端子112を塵埃や外圧から保護する。一方、USBメモリ100を使用する際には、カバー体120を本体110に対して回動させて接続部124をUSB端子112の前方位置から移動させ、USB端子112を外部に露出させる。本実施形態では、このカバー体120を印刷対象物とし、当該カバー体120の上面を印刷面としている。したがって、カバー体120のうち、上側アーム部122は、印刷面を有する印刷部位として機能し、当該印刷面に対向する底面を有する下側アーム部126は底部位として機能する。
【0020】
かかるUSBメモリ100のカバー体120に熱転写方式で画像印刷を施す場合を考える。この場合、USBメモリ100の本体110からカバー体120を取り外し、当該カバー体120のみを印刷装置に搭載して印刷処理を施す。このとき、印刷トレイ14の平坦面に当該カバー体120を載置しただけでは、印刷面(上側アーム部122の上面)を適切に支持することはできない。すなわち、図3(C)から明らかなように、このカバー体120は、断面U字形状であり、印刷面を備える上側アーム部122(印刷部位)と、印刷トレイに載置される下側アーム部126(底部位)との間に間隙が存在する。換言すれば、当該カバー体120を平坦面に載置しただけでは、印刷面が設定されている上側アーム部122は、片持ち梁の状態であり、比較的、小さい力でも撓むようになっている。そのため、カバー体120を平坦面に載置しただけでは、最終転写時にヒートローラ58から受ける圧力により上側アーム部122が撓んでしまい、画像の転写不良や、カバー体120そのものの破損等を招く。
【0021】
こうした問題を解決するために、特許文献1に記載されている従来技術では、印刷トレイの側面に横穴を形成し、当該横穴に半中空体のカバー体を差し込めるようにしている。図4は、この従来技術でのカバー体120の保持の様子を示すイメージ図である。従来技術では、印刷トレイ14の上面に、印刷部位である上側アーム部122が載置される凹部68が形成されている。また、印刷トレイ14の側面には、印刷対象物以外の部位である下側アーム部126などを収容する横穴62が形成されている。かかる構成とすることで、印刷部位である上側アーム部122のほぼ全面が、印刷トレイ14(より正確には凹部68の上面)により支持されるため、最終転写時に大きな圧力を受けても印刷面が撓むことが防止される。
【0022】
つまり、従来技術でも、印刷面の撓みに対する対策は検討されているといえる。しかしながら、従来技術では、最終転写時に受けるヒートローラによる荷重および剥離荷重に起因する印刷対象物の浮きに対する対策は何ら検討されていなかった。ここで、剥離荷重とは、印刷面に押圧された中間転写シート42を当該印刷面から剥離する際に、印刷面に付加される斜め上向きの力を意味している。図5Aおよび図5Bは、ヒートローラ58による荷重および剥離荷重が従来技術において与える影響を示すイメージ図である。既述したとおり、最終転写の際には、中間転写シート42がヒートローラ58によって印刷面に押圧、加熱されることにより、溶融したインクが中間転写シート42から印刷面へと転写される。その後、印刷トレイ14の移動に伴って、中間転写シート42が、印刷面に対して相対移動していくことで、中間転写シート42が印刷面から剥離される。しかし、図5Aに図示するように、ヒートローラ58がカバー体120の印刷方向下流側(図面左側)の端部を通過する際に、カバー体120と印刷トレイ14との間にある僅かな隙間によって、カバー体120が印刷方向下流側の端部を支点として回動し、浮き上がることがあった。また、中間転写シート42の印刷面に対する相対移動の際に、溶融インクの粘着力により中間転写シート42に付着したカバー体120が、図5Bに図示するように、中間転写シート42とともに移動しようとすることがある。この場合、カバー体120には、斜め上向き方向(図5Bにおける矢印M方向)の剥離荷重がかかることになる。かかる剥離荷重を受けた場合、カバー体120は、印刷方向下流側(図面左側)の端部を支点として回動し、印刷方向上流側端部が浮き上がることがあった。
【0023】
かかるカバー体120の浮きは、インクやオーバーコート(以下「インク等」という)の転写不良を招く恐れがあった。また、浮きが生じた場合には、インク等が印刷対象物の周縁をトレースしてカットできずにバリとしてカバー体の周縁周辺に残存する可能性もあった。かかる転写不良やバリは、当然ながら印刷品質の低下の原因となる。
【0024】
ここで、こうした印刷対象物であるカバー体120の浮きを防止するために、当該カバー体120を上側から押さえつける機構を設けることは当然に考えられる。しかし、横穴62への挿入動作、および、印刷面への印刷動作(最終転写動作)のいずれをも阻害することなく、カバー体120を上側から押さえつけるという機構は、複雑かつ大サイズになりやすいという問題があった。
【0025】
そこで、本実施形態では、こうしたカバー体120の浮きを簡易な構成で防止するために、印刷トレイ14の形態を特殊なものとしている。以下、印刷トレイ14の構成について詳説する。図1、図6、図7、図8を参照して説明する。
【0026】
図6は、印刷トレイ14の一部拡大図である。また、図7および図8は、カバー体120の横穴62への不完全挿入時、および、完全挿入時における横穴62周辺の断面図である。より詳しくは、図7(A)および図8(A)は、図6におけるA−A断面、図7(B)および図8(B)は図7(A)および図8(A)におけるB−B断面図である。
【0027】
図1や図6に図示するとおり、印刷トレイ14の側面には、略矩形の切欠部72が形成されている。この切欠部72は、カバー体120の接続部124を収容する切欠空間を形成する。したがって、この切欠部72は、接続部124を収容できる程度のサイズとなっている。
【0028】
切欠部72の終端面には、印刷トレイ14の幅方向(印刷方向に直交する方向)内側に延びる横穴62が形成されている。画像印刷の際、カバー体120の下側アーム部126は、この横穴62に挿入され、収容される。したがって、この横穴62は、下側アーム部126より大きな幅と、下側アーム部126の長さより大きい深さを有している。
【0029】
この横穴62の中心線上には、当該横穴62の長手方向に延びるスリット64が形成されている。スリット64は、下側回転軸130の直径より僅かに大きい幅を有している。そして、下側アーム部126が横穴62に挿入された際、下側回転軸130は当該スリット64に嵌りこみ、このスリット64に沿って移動する。つまり、このスリット64は下側アーム部126の挿入時に下側回転軸130を逃がす逃がし溝として機能するとともに、下側回転軸130の移動方向、ひいては、カバー体120の挿入方向を案内するガイド溝としても機能する。
【0030】
なお、図7、図8などから明らかなとおり、このスリット64の高さは、下側回転軸130の高さよりも大きい。そのため、下側アーム部126が横穴62の上面に当接する高さまでカバー体120を上側に持ち上げたとしても、下側回転軸130が、後述する軸受孔70に到達することはない。そのため、カバー体120を横穴62から抜き取る際にカバー体120を持ち上げたとしても、下側回転軸130が軸受孔70に干渉することはなく、カバー体120を円滑に引き抜くことができる。
【0031】
印刷トレイ14の上面は、印刷部位が載置される載置部として機能する。この印刷トレイ14の上面のうち横穴62の上側には、カバー体120の上側アーム部122を収容する凹部68が形成されている。この凹部68は、上側アーム部122と同じ外周形状、すなわち、所定幅の矩形の先端に当該所定幅よりも大径の円形が接続された形状となっている。この凹部68に上側アーム部122が嵌め込まれた場合、上側アーム部122は、当該凹部68の周縁により、その移動が規制され、位置固定される。また、凹部68の深さは、当該凹部68に載置された上側アーム部122の上面(印刷面)の高さが印刷実行位置とほぼ同じ高さになるような深さである。凹部68のうち、カバー体120の上側回転軸128に対応する位置には、当該上側回転軸128を受け入れる軸受孔70が形成されている。この軸受孔70は、スリット64まで貫通している。この軸受孔70に上側回転軸128が嵌まり込むことにより、平坦面である上側アーム部122の底面は、同じく平坦面である凹部68の上面に全面的に接触することになる。その結果、上側アーム部122は、凹部68によって全面的に支持されることになる。
【0032】
ところで、本実施形態では、横穴62の上面から印刷トレイの上面までの距離である載置部肉厚D1を、無負荷状態における上側アーム部122と下側アーム部126との間隙幅D2以下になるようにしている。これは、カバー体120を変形せることなく、当該カバー体120の横穴62への挿入を可能にするためである。すなわち、本実施形態で印刷部位として機能する上側アーム部122は、所定幅の矩形の先端に当該所定幅より大径の円形が接続した形状となっている。換言すれば、本実施形態の印刷部位(上側アーム部122)は、基端より幅広部分を有した形状となっている。かかる形状の印刷部位(上側アーム部122)は、図7に図示するように、挿入途中または抜取途中である不完全挿入時には、凹部68に嵌まり込めず、印刷トレイ14の上面より上側に位置する。そのため、載置部肉厚D1が、無負荷状態における間隙幅D2より大きい場合には、挿入途中または抜取途中において、間隙幅D2を広げるべく、カバー体120を変形させなければならない。かかるカバー体120の変形は、横穴62への抜き差し動作を困難にする。そこで、本実施形態では、載置部肉厚D1を、無負荷状態にける間隙幅D2以下とし、カバー体120を変形させることなく、当該カバー体120を横穴62に抜き差しできるようにしている。
【0033】
さらに、本実施形態では、印刷対象物であるカバー体120の浮き上がりを防止するために、ストッパ80を設けている。ストッパ80は、図7、図8に図示するように、横穴62のうち印刷方向上流側の側面から突出する部材である。このストッパ80の先端は、カバー体120を横穴62に完全挿入した際に、下側アーム部126の印刷方向上流側の側面に当接し、下側アーム部126を水平方向に押さえるようになっている。また、このストッパ80の上面高さは、不完全挿入時におけるカバー体120の底面高さより低く(図7参照)、完全挿入されて上側アーム部122が凹部に嵌まり込んだ状態におけるカバー体120の底面高さより高く(図8参照)なっている。別の言い方をすれば、このストッパ80は、不完全挿入時においてはカバー体120には接触せず、完全挿入時にのみカバー体120に当接できるようになっている。その結果、カバー体120の挿入、抜き取り時に、ストッパ80がカバー体120の挿抜を妨げないため、当該挿入・抜き取り動作をスムーズに行うことができる。なお、本実施形態では、挿入、抜き取り時におけるカバー体120とストッパ80との干渉を、より確実に避けるために、図9に図示するように、ストッパ80の上面の角部にテーパー82を形成している。かかるテーパー82を設けることにより、挿入・抜き取り時に下側アーム部126がストッパ80に当たったとしても、当該下側アーム部126は、当該テーパー82にガイドされストッパ80の上側に滑らかに移動することになる。
【0034】
次に以上の構成の印刷装置10での印刷の流れについて簡単に説明する。カバー体120に印刷を施したい場合は、まず、印刷トレイ14にカバー体120をセットする。すなわち、図1、図7に図示するとおり、略U字状のカバー体120のうち下側アーム部126を印刷トレイ14の側面に形成された横穴62に挿入する。このとき、載置部肉厚D1は、無負荷状態におけるアーム部間の間隙幅D2よりも小さいため、カバー体120を変形させることなく横穴62に挿入できる。また、挿入時に、下側アーム部126の先端がストッパ80の端部に当たったとしても、当該ストッパ80の端部に形成されたテーパー82により、下側アーム部126はストッパ80の上側にガイドされる。その結果、カバー体120の挿入動作をスムーズに行うことができる。
【0035】
カバー体120が奥まで挿入されれば、上側アーム部122が凹部68に嵌まり込み、完全挿入の状態になる。この状態になれば、印刷部位である上側アーム部122は、そのほぼ全面が凹部68により支持される。また、上側アーム部122が凹部68に嵌まり込んでカバー体120全体が下方に落ち込むことにより、カバー体120の印刷方向上流側の側面にストッパ80が当接する。
【0036】
この完全挿入の状態になれば、印刷処理が開始される。図10は、本実施形態における印刷処理の様子を示すイメージ図である。印刷処理時、カバー体120は、ヒートローラ58による押圧を受けるが、印刷部位である上側アーム部122は、その全面が凹部68により支持されているため、当該押圧による撓み等は効果的に防止されている。その結果、良好な像転写が可能となる。
【0037】
また、ストッパ80が設けられた本実施形態によれば、最終転写時におけるカバー体120の浮きも効果的に防止される。すなわち、図4、図5A、図5Bを用いて説明したとおり、ストッパ80を設けない従来技術では、ヒートローラ58の押圧によって生じるヒートローラ荷重および印刷トレイ14の移動に伴って生じる剥離荷重により、印刷対象物が、印刷方向下流側の端部を支点として上方向に回動し、浮き上がるという問題があった。一方、本実施形態では、ヒートローラ荷重および剥離荷重が生じたとしても、カバー体120の回動動作がストッパ80により規制されるため、カバー体120の浮き上がりが効果的に防止される。その結果、転写不良やバリの発生を低減でき、印刷品質をより向上できる。
【0038】
印刷処理が終了すれば、ユーザは、横穴62からカバー体120を抜き取る。より具体的には、ユーザは、上側アーム部122が凹部68より上側に位置するように、カバー体120を僅かに持ち上げつつ手前側に引き抜く。このとき、下側アーム部126がストッパ80に当たったとしても、当該下側アーム部126は、ストッパ80の角部に形成されたテーパー82にガイドされ、当該ストッパ80より上側に移動することができる。そして、カバー体120の底面がストッパ80より上側に位置することで、カバー体120がスムーズに引き抜ける。
【0039】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態によれば、ストッパ80により、印刷対象物であるカバー体の浮きが防止されるため、印刷品質をより向上することができる。また、これまでの説明から明らかなとおり、本実施形態では、印刷対象物を上側から押さえるのではなく、側面から押さえることで印刷対象物の浮きを防止している。そのため、複雑な機構は不要であり、横穴62の側面から突出する略板状のストッパ80という非常に簡易な構成を設けるだけで浮きが防止できる。換言すれば、本実施形態によれば、浮き防止のために複雑な機構を設ける必要は無く、非常に簡易かつ低コストな機構で印刷品質が向上できている。
【0040】
なお、これまでは、略U字形状のカバー体120を印刷対象物とする場合について説明したが、印刷面を有する印刷部位と底面を有する底部位とが間隙を介して対向するとともに当該間隙にアクセス可能な開口を有する半中空体形状物であれば、当然、他の形状の物品を印刷対象物としてもよい。例えば、図11に図示するようにU字形状物の両側面が閉塞された略角筒状の物品131や、図12に図示するようにU字形状物の一側面のみが閉塞された形状の物品140を印刷対象物としてもよい。なお、このように側壁132,142を有する形状物を印刷対象物とする場合には、図13に図示するように、凹部68の周縁に、印刷対象物の側壁132,142を通過させるためのスリット孔69を形成しておく。そして、かかる場合においても、印刷対象物の印刷方向上流側側面を押さえられるように、ストッパ80(図13では見えない)を設けておくことで、印刷対象物の浮きを防止でき、印刷品質を向上できる。
【0041】
また、本実施形態は、図14に図示するようなクリップ付ペン150のクリップ体154の表面に印刷する場合にも応用できる。この場合、クリップ付ペン150のクリップ体154が印刷部位、丸棒状の本体152が底部位として機能する。この場合、印刷トレイの上面にはクリップ体154を収容する凹部を、印刷トレイの側面には本体152が挿入される横穴を形成しておけばよい。また、この横穴のうち印刷方向上流側の側面には、本体152を側方から押さえるストッパを形成しておけば、クリップ付ペン150の浮きを防止でき、印刷品質を向上できる。
【0042】
また、本実施形態では、印刷対象物の印刷方向上流側に、印刷対象物の浮き上がりを阻害するためのストッパを設ける場合について説明したが、ヒートローラ58が印刷対象物の印刷方向上流側の端部を通過する際に生じ得る印刷対象物の浮き上がりが、印刷品質に悪影響を与えるような場合には、印刷対象物下流側にも、印刷対象物の浮き上がりを阻害するためのストッパを設けるようにしてもよい。この場合のストッパの設置条件は、印刷方向上流側に設置されるストッパと同じにすることが望ましい。なお、通常の使用時において、ヒートローラ58が印刷対象物の印刷方向上流側の端部を通過するときには、印刷対象物の印刷面に画像が転写されていない状態であるので、ヒートローラ58の荷重により印刷対象物の印刷方向下流側端部に浮き上がりが生じても、画像の転写に与える影響は殆どないといえる。
【符号の説明】
【0043】
10 印刷装置、12 筐体、14 印刷トレイ、18 印刷ユニット、40 インクリボン、42 中間転写シート、48 サーマルヘッド、54 プラテンローラ、56 転写アッセンブリ、58 ヒートローラ、60 剥離ローラ、62 横穴、68 凹部、70 軸受孔、80 ストッパ、100 USBメモリ、110 本体、120 カバー体、122 上側アーム部、124 接続部、126 下側アーム部、128 上側回転軸、130 下側回転軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷面を有する印刷部位と底面を有する底部位とが間隙を介して対向するとともに当該間隙にアクセス可能な開口を有する半中空体形状の印刷対象物の印刷面に画像を印刷する印刷装置であって、
前記印刷対象物を保持する保持手段と、
前記保持手段に対して相対的に移動しつつ前記印刷面に熱転写方式で画像印刷を施す印刷手段と、
を備え、
前記保持手段は、
前記保持手段の側面に形成される穴であって、前記印刷面を外部に露出した状態で前記印刷対象物の一部が挿入される横穴と、
前記一部が前記横穴に完全挿入された印刷対象物の印刷面が載置される載置部と、
前記横穴に前記一部が完全挿入された際に、当該印刷対象物の印刷方向上流側の側面に当接することで当該印刷対象物の浮き上がりを阻害するストッパと、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記載置部は、完全挿入時にのみ前記印刷部位を収容する凹部を有し、
前記ストッパは、前記印刷部位が凹部に収容されていない不完全挿入時における前記印刷対象物の側面には当接しない高さに設けられる、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置であって、
前記ストッパの上面の角部には、前記不完全挿入時における前記印刷対象物を当該ストッパより上側に案内するテーパーが形成されている、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記載置部の上面と、前記横穴の上面との距離は、前記印刷部位と底部位との間隙幅より小さい、ことを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−173218(P2010−173218A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19470(P2009−19470)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000003676)ティアック株式会社 (339)
【Fターム(参考)】