説明

印字装置

【課題】印字ヘッドと印字面との距離が所定間隔になった場合のみ、印字ヘッドによる印字動作を実行できる印字装置を提供する。
【解決手段】手動移動型印字装置1の開口端の4つの角部には、記録紙15との接触状態を検出する接触センサユニット51等が設けられる。接触センサユニット51は、筒体60と、該筒体60の開口から出退可能に支持されたボール90と、ボール90に当接しながら上下移動する移動棒70と、移動棒70を介してボール90を開口側に付勢するつる巻きバネ75と、移動棒70の変位を検出する第1フォトセンサ81とから構成される。制御装置31は、4つの接触センサユニット51等の全てが接触状態を検出していない場合、印字動作を行わないように印字ヘッド12を制御するので、印字ヘッド12と記録紙15との距離が所定間隔になった場合のみ印字動作を実行できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字装置に関し、詳細には、筐体を被記録媒体に沿って被接触状態で移動走査させることによって、被記録媒体の印字面に文字や図形等の画像を印字する印字装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルヘッドからなる印字ヘッドを有する印字機構を本体ケース内にコンパクトに収納し、記録媒体上に略鉛直姿勢に保持し、本体ケースを印字方向に手動で移動させることで、記録媒体上に印字するようにした携帯可能な小型の印字装置が各種提案されている。例えば、本体ケース内に、走行ローラを介して記録媒体に対する相対移動量を検出する移動量検出手段と、印字ヘッドを有する印字手段と、印字動作の開始を指示する印字開始スイッチなどを設け、この印字開始スイッチを操作して、本体ケースを印字方向へ手動で移動するときに、印字ヘッドを介して印字データをその先頭から記録媒体に印字するようにした手動移動型の印字装置が知られている。
【0003】
ところが、この手動移動型の印字装置では、本装置が被記録媒体に対して適切な位置に保持していない状況でも、印字動作が実行されてしまい、印字不良を起こしてしまう問題点があった。そこで、印字ヘッドの近傍に、インクジェットヘッドと印字面との距離に応じた電気信号を出力する近接センサーを設け、該近接センサーの出力信号に応じて、インクジェットヘッドの駆動を制御するCPUを備えた印字装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この印字装置では、近接センサーの出力信号により、印字面との距離が一定間隔より離れている場合、CPUによって、インクジェットヘッドの駆動が行われないように制御される。
【特許文献1】特開平10−6566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の印字装置では、近接センサーが、被記録媒体の光沢具合や環境光度の影響を受けてしまい、インクジェットヘッドと印字面との距離を正確に検出できないことがあった。よって、インクジェットヘッドと印字面との距離が一定間隔より離れている場合でも印字ヘッドによる印字が実行されてしまい、印字不良を起こしてしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、印字ヘッドと印字面との距離が所定間隔になった場合のみ、印字ヘッドによる印字動作を実行できる印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の印字装置は、筐体と、当該筐体の底部に設けられた長方形状の開口と、前記筐体内に設けられ、被記録媒体の印字面に非接触の状態で移動走査されることによって、前記開口を介して前記印字面に印字する印字ヘッドと、前記開口の開口端の少なくとも対角線上に一対設けられ、前記印字面に対する前記開口端の接触状態を検出する接触状態検出手段と、当該接触状態検出手段の全てが前記接触状態を検出した場合のみ、前記印字ヘッドによる印字動作を実行させる印字制御手段とを備えている。
【0007】
また、請求項2に係る発明の印字装置は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記接触状態検出手段は、前記開口端の四隅に各々設けられている。
【0008】
また、請求項3に係る発明の印字装置は、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記接触状態検出手段は、前記印字面に接触させるボールと、当該ボールを収容するとともに、前記ボールの一部を前記印字面に向かって出退可能に支持する筒体と、当該筒体内に移動可能に支持され、前記ボールに当接しながら前記ボールの出退とともに前記筒体内を移動する移動部材と、前記筒体内に設けられ、前記移動部材を介して前記ボールを前記印字面に向かって付勢する付勢手段と、前記筒体内に設けられ、前記移動部材の前記筒体内における変位を検出する位置検出手段とから構成され、複数の前記接触状態検出手段において、全ての前記位置検出手段が前記移動部材の変位を検出した場合のみ、前記印字制御手段は前記印字ヘッドによる印字動作を実行させることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明の印字装置は、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記位置検出手段は、発光素子と受光素子とを備え、前記発光素子と前記受光素子との間の光軸が前記移動部材によって遮断されることによって、前記移動部材の変位を検出するフォトセンサであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明の印字装置では、接触状態検出手段は、筐体の開口端の少なくとも対角線上に一対設けられているので、これら接触状態検出手段の全てが被記録媒体に対して接触状態を検出した場合は、筐体の開口端が被記録媒体上に確実に接触していると判断できる。そして、印字制御手段は、これら接触状態検出手段の全てが接触状態を検出した場合のみ印字ヘッドによる印字動作を実行させるので、被記録媒体に対して開口端が確実に接触した場合にのみ印字ヘッドによる印字動作を実行させることができる。これにより、被記録媒体と印字ヘッドとの間の距離が一定間隔になった場合にのみ印字ヘッドによる印字動作を実行できるので、印字不良を確実に防止できる。また、接触状態検出手段は、開口端と被記録媒体との接触状態を検出するので、被記録媒体の光沢具合や、環境光度の影響を受ける恐れもない。
【0011】
また、請求項2に係る発明の印字装置は、請求項1に記載の発明の効果に加え、接触状態検出手段は開口端の四隅に各々設けられているので、被記録媒体に対して開口端が確実に接触した場合にのみ印字ヘッドによる印字動作を実行させることができる。これにより、印字ヘッドによる印字不良をより確実に防止できる。
【0012】
また、請求項3に係る発明の印字装置は、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、接触状態検出手段では、筒体内に出退可能に支持されたボールは、付勢手段によって印字面側に付勢されているので、筒体内からボールが突出した状態となっている。そこで、筐体の開口端を被記録媒体上に接触させると、ボールは被記録媒体上に接触して、付勢手段による付勢方向とは反対方向に筒体内に押し戻される。すると、移動部材がそのボールに押されて筒体内を後退して移動する。そこで、その移動部材の変位を位置検出手段が検出することで、被記録媒体との接触状態を確実に検出できる。さらに、被記録媒体上に接触するのはボールであるので、被記録媒体を傷付ける恐れがないうえ、被記録媒体上を滑らかに摺動させることができる。そして、印字制御手段は、複数の接触状態検出手段の全ての位置検出手段が移動部材の変位を検出した場合のみ、印字ヘッドによる印字動作を実行させるので、被記録媒体に対して開口端が確実に接触した場合にのみ印字ヘッドによる印字動作を実行させることができる。
【0013】
また、請求項4に係る発明の印字装置は、請求項3に記載の発明の効果に加え、位置検出手段はフォトセンサであるので、発光素子と受光素子との間の光軸が移動部材によって遮断されることによって、移動部材の変位を正確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態である手動移動型印字装置1について、図面を参照して説明する。図1は、手動移動型印字装置1の斜視図であり、図2は、手動移動型印字装置1の底面図であり、図3は、手動移動型印字装置1の縦断面図であり、図4は、接触センサユニット51の縦断面図であり、図5は、手動移動型印字装置1の電気的構成を示すブロック図であり、図6は、CPU32による印字制御動作を示すフローチャートであり、図7は、図6に示すフローチャートの続きを示すフローチャートである。
【0015】
また、図2において、左側を手動移動型印字装置1の前面側とし、右側を手動移動型印字装置1の背面側とし、上側を手動移動型印字装置1の左側とし、下側を手動移動型印字装置1の右側とする。さらに、図3において、左側を手動移動型印字装置1の前面側とし、右側を手動移動型印字装置1の背面側とし、紙面奥行き側を手動移動型印字装置1の左側とし、紙面手前側を手動移動型印字装置1の右側とする。
【0016】
なお、本実施形態の手動移動型印字装置1は、インクジェット式の印字機構を有する手動移動型印字装置に本発明を適用したものである。そして、この手動移動型印字装置1は、被記録媒体の光沢具合や環境光度に関係なく、印字ヘッド12と記録紙15との間の距離を所定間隔に確実に保持でき、保持できない場合は、印字ヘッド12による印字動作を行わない点に特徴を備えている。
【0017】
はじめに、手動移動型印字装置1の構造について説明する。図1乃至図3に示すように、手動移動型印字装置1は、上下方向に長い筒状の本体ケース2を備えている。この本体ケース2内には、記録紙15に印字可能な印字ヘッド12を有する印字機構10と、記録紙15に対する手動移動型印字装置1の相対移動量を検出する移動量検出機構20と、赤外光を用いて光通信する赤外フォトダイオード3及び赤外発光ダイオード4と、これらダイオード3,4による送受信制御を司るとともに、移動量検出機構20から出力されるエンコーダ信号に基づいて印字機構10を駆動制御する制御装置31を備える制御用基板30と、電源として充電可能な2次電池であるバッテリ40とがコンパクトに各々収納されている。
【0018】
そして、この手動移動型印字装置1を、記録紙15に対して印字方向に手動で移動させることにより、記録紙15上に文字や図形等を印字することができる。また、この手動移動型印字装置1では、本体ケース2を略鉛直姿勢となるように保持し、開口端2cを記録紙15上に当接させることにより、印字ヘッド12と記録紙15との間の距離が適切な間隔(所定間隔)に保持されるようになっている。以下、各構造及び各機構について順に説明する。
【0019】
まず、本体ケース2について説明する。図1乃至図3に示すように、本体ケース2は、直方体の筒状の合成樹脂製のケースであり、その底部は開口され、上部は上端壁部2aによって閉塞されている。そして、この上端壁部2aには、赤外フォトダイオード3と赤外発光ダイオード4とが設けられている。一方、本体ケース2の前面壁部2bには、電源スイッチ5a(図5参照)をオンオフするための電源用ツマミ5と、各種メッセージを表示するための液晶ディスプレイ6と、印字動作の許可及び禁止を指示する印字指示スイッチ7a(図5参照)をオンオフするための印字指示ボタン7と、印字中断後に印字を再開するときの印字データを選択する選択スイッチ8a(図5参照)をオンオフするための選択ボタン8とが各々設けられている。
【0020】
さらに、本体ケース2の開口端2cの4つの角部には、本体ケース2の底部の開口端2cを記録紙15上に押し当てたときに作動する本発明の特徴である円筒状の接触センサユニット51,52,53,54が鉛直方向に起立した状態で各々取付けられている。詳細には、開口端2cの前方右側角部には接触センサユニット51が設けられ、開口端2cの前方左側角部には接触センサユニット52が設けられ、開口端2cの後方右側角部には接触センサユニット53が設けられ、開口端2cの後方左側角部には接触センサユニット54が設けられている。
【0021】
次に、印字機構10について説明する。図3に示すように、印字機構10は、本体ケース2内の下側前方に設けられている。この印字機構10は、バッテリ40の下側に着脱可能に設けられ、インクを収容するインクタンク11と、該インクタンク11に連結された印字ヘッド12とで構成されている。この印字ヘッド12には、例えば、1列で32個の下向きの噴射ノズル(図示略)が、印字方向と直交する左右方向に2列分設けられている。この印字機構10では、インクタンク11内のインクが印字ヘッド12の各噴射ノズルに供給され、これら複数の噴射ノズルから選択的にインク滴が下側の記録紙15に向けて噴射されるようになっている。
【0022】
次に、移動量検出機構20について説明する。図3に示すように、本体ケース2の下端部には、印字ヘッド12に隣接するとともに、本体ケース2の左右方向に延びるゴム製のタイミングローラ21が枢支軸22によって回転可能に軸支されている。このタイミングローラ21の下端部は、本体ケース2の下端部よりも下側にやや突出しているので、記録紙15上に当接するようになっている。さらに、本体ケース2には、そのタイミングローラ21の一部に当接して回転可能に枢着されたギヤ23と、該ギヤ23の一部に当接して回転可能に枢着された円形のエンコーダ板24とが設けられている。このエンコーダ板24の外周部には複数のスリットが形成され、図示しない発光部と受光部とを有するフォトセンサ25が、そのエンコーダ板24の外周部に対して両側面から臨むようにして設けられている。
【0023】
上記構成からなる移動量検出機構20では、タイミングローラ21を記録紙15に接触させた状態で、ユーザが本体ケース2を印字方向に手動で移動させると、タイミングローラ21が所定の回転方向(図3における時計回りの方向)に回転すると同時にギヤ23を介してエンコーダ板24が回転される。このときに、フォトセンサ25から出力されるパルス列からなるエンコーダ信号と記録データとに基づく制御装置31の制御により、本体ケース2が所定印字ピッチ分ずつ移動した各印字タイミング毎に、複数の噴射ノズルから選択的にインクが噴射される。このようにして記録紙15に文字や図形等が印字されるようになっている。
【0024】
次に、本発明の特徴である接触センサユニット51〜54について説明する。なお、これら接触センサユニット51〜54は全て同じ構造であるので、ここでは接触センサユニット51の構造について説明し、他のユニットについては説明を省略する。図4に示すように、接触センサユニット51は、上下方向に長い筒体60と、当該筒体60の軸穴61に収納され、下側の開口63から出退可能に支持されたボール90と、前記軸穴61に内挿され、ボール90に当接しながら軸穴61の軸方向に沿って上下移動するT字型の移動棒70と、該移動棒70に外挿され、移動棒70を介してボール90を開口63に向かって付勢する円筒状のつる巻きバネ75と、軸穴61の上側の所定位置に設けられ、移動棒70の変位を検出する第1フォトセンサ81とから構成されている。
【0025】
そして、図4に示すように、筒体60の記録紙15に押し当てられる下端部には、略円錐状のテーパ部62が設けられ、該テーパ部62の先端部には、ボール90の一部が出退する開口63が設けられている。さらに、この開口63の内径はボール90の外径よりも小さくなっているので、ボール90はテーパ部62の内面に当接して開口63から抜けないようになっている。なお、テーパ部62の先端部は、本体ケース2の開口端2cの位置と同位置に調整されている。つまり、テーパ部62の先端部が記録紙15上に押し当てられると、開口端2cの前方右側角部が記録紙15上に押し当てられたことになる。一方、軸穴61の軸方向中間よりもやや上側には、筒体60の内面から軸方向に直交する方向に突出する平面視リング状の係止部64が設けられ、該係止部64の中心には、移動棒70が遊挿される挿入穴64aが設けられている。
【0026】
また、移動棒70は、棒状部71と、該棒状部71の長手方向一端部に設けられた鍔状の当接部72とから構成されている。さらに、つる巻きバネ75は、この移動棒70の棒状部71に外挿された状態で、筒体60の軸穴61に収納されている。さらに、つる巻きバネ75の一端部は、移動棒70の当接部72の上面に当接し、反対の他端部は、筒体60の係止部64の下面に当接している。これにより、つる巻きバネ75は、移動棒70の当接部72を下方に押し下げるので、移動棒70は軸穴61を下方に移動する。さらに、その移動棒70の当接部72によってボール90が押し下げられるので、筒体60の開口63からそのボール90の一部を突出させることができる。
【0027】
そして、テーパ部62の先端が記録紙15に押し当てられると、ボール90が記録紙15に押し当てられて上方に移動する。さらに、そのボール90に当接する移動棒70が押し上げられ、つる巻きバネ75の付勢方向とは反対方向に向かって移動する。そして、この移動棒70の変位を第1フォトセンサ81が検出することで、テーパ部62の先端部が記録紙15上に接触していると判断でき、本体ケース2の開口端2cの前方右側角部が記録紙15上に接触していると判断できる。また、記録紙15上に当接するのは滑らかな球面を有するボール90であるので、記録紙15の表面を傷付ける恐れがないうえ、記録紙15上を滑らかに摺動させることができる。
【0028】
ところで、第1フォトセンサ81は発光素子と受光素子とを備え、これら発光素子と受光素子との間の光軸が、変位する移動棒70の一端部(上端部)によって遮断されることで、移動棒70の変位が検出される。そして、この第1フォトセンサ81の軸穴61における位置は、テーパ部62の先端が記録紙15に確実に押し当てられたときの移動棒70の一端部が、第1フォトセンサ81の光軸を遮断可能な位置に調整されている。つまり、第1フォトセンサ81は、テーパ部62の先端が記録紙15に押し当てられていないときの移動棒70の一端部を検出できないようになっている。これにより、第1フォトセンサ81が移動棒70の一端部を検出した場合は、テーパ部62の先端が記録紙15に確実に押し当てられていると判断できる。
【0029】
以上構造からなる接触センサユニット51は、記録紙15に対してボール90を接触させ、そのボール90の移動によって押し上げられる移動棒70の変位を検出することで、記録紙15との接触状態を検出するので、記録紙15の光沢具合や環境光度の影響を全く受けない。そして、このような接触センサユニット51と同じ構造を有する接触センサユニット52,53,54が、本体ケース2の開口端2cの4つの角部に各々設けられている。これにより、これら接触センサユニット51〜54の全てのテーパ部62の先端が記録紙15に押し当てられると、開口端2cの全部位が記録紙15上に接触するようになっている。この状態では、印字ヘッド12と記録紙15と間の距離が所定間隔に保持されるので、印字ヘッド12による印字動作を良好に行うことができる。
【0030】
また、これら接触センサユニット51〜54のうち何れかのユニットのテーパ部62の先端が記録紙15から離れた場合、開口端2cの一部が記録紙15上に接触していないため、印字ヘッド12と記録紙15の距離が所定間隔に保持できていない。この場合、印字ヘッド12の噴射ノズルから記録紙15に向かって適切にインクが噴射されないので、印字不良を起こす原因となる。そこで、本実施形態の後述する制御装置31のCPU32は、接触センサユニット51〜54のうち何れかのユニットにおいて、記録紙15との接触状態を検出しない場合は、印字動作を行わないように印字ヘッド12を制御する。なお、このCPU32による印字制御動作については後述する。
【0031】
また、図1乃至図4に示す接触センサユニット51〜54が、本発明の「接触状態検出手段」に相当し、図4に示す移動棒70が、本発明の「移動部材」に相当し、つる巻きバネ75が、本発明の「付勢手段」に相当し、第1,第2、第3,第4フォトセンサ81〜84が、本発明の「位置検出手段」に相当する。
【0032】
次に、手動移動型印字装置1の電気的構成について説明する。図5に示すように、制御装置31は、CPU32、ROM33、RAM34及び入出力インターフェース35を有するマイクロプロセッサと、パーソナルコンピュータなどの外部の電子機器(図示略)と赤外光により通信するための光通信用インターフェース36と、赤外光受信回路37と、赤外光送信回路38と、印字ヘッド12を駆動させる駆動回路39とで構成されている。ここで、バッテリ40は、電源スイッチ5aを介して、制御装置31の各ICチップ32〜35や種々の回路36〜39と、各種の素子などに電力を供給するようになっている。
【0033】
入出力インターフェース35には、液晶ディスプレイ6と、印字指示スイッチ7aと、選択スイッチ8aと、接触センサユニット51の第1フォトセンサ81と、接触センサユニット52の第2フォトセンサ82と、接触センサユニット53の第3フォトセンサ83と、接触センサユニット54の第4フォトセンサ84と、印字ヘッド12を駆動する駆動回路39とがそれぞれ接続されている。また、赤外光受信回路37には、赤外フォトダイオード3が接続され、赤外光送信回路38には、赤外発光ダイオード4が接続されている。また、赤外光受信回路37は、電子機器から赤外光により送信される光データを赤外フォトダイオード3を介して受信するものであり、赤外光送信回路38は、文字サイズや書体に関する印字フォーマットのデータやデータ転送に関する諸データを赤外発光ダイオード4を介して電子機器に光データとして送信するものである。
【0034】
ROM33には、印字ヘッド12の各噴射ノズルに設けられたアクチュエータを駆動制御する印字制御プログラム、光データによる送受信制御プログラム、印字制御の制御プログラム、複数の文字や記号の各々に関するドットパターンデータ等が格納されている。また、RAM34には、受信した光データを格納するデータメモリ34a、その光データに含まれる文字コードデータについて、記録用に展開されたドットイメージデータを格納する印字データメモリ34b、印字データメモリ34bから印字用ドットイメージデータを読み出す読み出しアドレスを指示する読み出しアドレスポインタ34cに加えて、印字制御や光通信制御に必要な各種のメモリが設けられている。
【0035】
次に、手動移動型印字装置1の基本的な操作方法について説明する。図1に示すように、例えば、1行分の印字データとして、アルファベット文字列「ABCDEF」の場合に、タイミングローラ21を記録紙15に当接させて略鉛直姿勢となるように保持し、印字指示ボタン7を操作しながら、本体ケース2を印字方向に手動で移動させることで、先頭部分の文字列「ABCD」が印字される。また、文字「D」を印字した直後に、本体ケース2の移動を中止するとともに、印字指示ボタン7の操作を中止し、選択ボタン8を操作しないで、本体ケース2を次行の印字開始位置に移動させてから、再度、印字指示ボタン7を操作しながら本体ケース2を移動させることにより、残りの文字列「EF」が印字される。一方、文字「D」を印字した後に、選択ボタン8を操作してから、本体ケース2を次行の印字開始位置に移動させ、再度、印字指示ボタン7を操作しながら本体ケース2を移動させたときには、その印字行の文字列「AB・・・」が印字されることになる。
【0036】
次に、制御装置31のCPU32による印字制御動作について、図5及び図6のフローチャートを参照して説明する。但し、光通信により受信した光データを格納するデータ受信制御、その光データに含まれる文字コードデータについてドットイメージ展開する展開制御については説明を省略する。
【0037】
手動移動型印字装置1の電源スイッチ5aが投入されると、印字制御が開始される。まず、選択スイッチ8aが操作された回数を計数する選択回数値Nに、初期値「0」がセットされる(S10)。次に、印字に際して、本体ケース2を略鉛直姿勢となるように手で保持し、タイミングローラ21を記録紙15に当接させ、開口端2cを記録紙15に押し当てる。そして、接触センサユニット51〜54の全てにおいて、記録紙15との接触状態を検出しているか否かが判断される(S11)。ここで、接触センサユニット51〜54のうち少なくとも何れかのユニットにおいて接触状態を検出しない場合(S11:NO)、本体ケース2の開口端2cの一部が記録紙15に接触しておらず、本体ケース2が記録紙15に対して略鉛直姿勢に保持されていない。つまり、印字ヘッド12と記録紙15との間の距離が所定間隔になっていないため、印字ヘッド12の噴射ノズルからインクが噴射されても、記録紙15上に綺麗に印字されない可能性が高い。よって、このような場合に印字動作をさせるのは適切でないので、エラーメッセージ「印字不可」が液晶ディスプレイ6に表示される(S29)。その後、S10に戻って処理が繰り返される。
【0038】
そして、接触センサユニット51〜54の全てのユニットにおいて接触状態が検出された場合(S11:YES)、本体ケース2の開口端2cの全部位が記録紙15に接触しており、本体ケース2が記録紙15に対して略鉛直姿勢に保持されている。つまり、印字ヘッド12と記録紙15との間の距離が所定間隔になっているため、印字ヘッド12の噴射ノズルからインクが噴射された場合、記録紙15上に対して綺麗に印字することができる。そこで、印字ヘッド12による印字動作の実行に向け、続いて、印字データメモリ34bに印字する印字用のドットイメージデータが格納されているか否かが判断される(S12)。ここで、印字用のドットイメージデータが格納されていない場合(S12:NO)、印字すべき印字用のドットイメージデータがないので、エラーメッセージ「印字不可」が液晶ディスプレイ6に表示される(S29)。
【0039】
一方、印字データが印字データメモリ34bに格納されている場合(S12:YES)、印字指示スイッチ7aから印字動作を「許可」する指示信号が入力されたか否かが判断される(S13)。ここで、まだ指示信号が入力されていない場合は(S13:NO)、S10に戻って処理が繰り返される。そして、印字指示ボタン7が操作され、印字指示スイッチ7aから「許可」の指示信号が入力された場合(S13:YES)、印字データメモリ34bに格納された複数行分の印字データのうち、先頭に格納された印字データの先頭アドレスが、読み出しアドレスYPとして、読み出しアドレスポインタ34cにセットされる(S14)。次いで、その印字する印字データの先頭の数文字分(例えば、液晶ディスプレイ6に表示可能な6文字分)が液晶ディスプレイ6に表示される(S15)。
【0040】
そして、印字指示スイッチ7aから「許可」の指示信号が入力されたか否かが再度判断される(S16)。ここで、「許可」の指示信号が入力された状態のままの場合は(S16:YES )、さらに、接触センサユニット51〜54の全てにおいて、記録紙15との接触状態を検出しているか否かが判断される(S17)。ここで、接触センサユニット51〜54のうち少なくとも一のユニットにおいて接触状態を検出しない場合(S17:NO)、S16に戻って処理が繰り返される。つまり、接触センサユニット51〜54の全てのユニットが接触状態を検出するまでは、印字ヘッド12による印字動作が実行されない。
【0041】
一方、接触センサユニット51〜54の全てのユニットにおいて接触状態を検出した場合(S17:YES)、本体ケース2の開口端2cの全部位が記録紙15上に接触し、印字ヘッド12と記録紙15との間の距離が所定間隔になっている。そこで、本体ケース2を印字方向に直線状に手動で移動させると、タイミングローラ21の回転によるエンコーダ板24の回転に伴って、フォトセンサ25からエンコーダ信号が入力される。そして、そのエンコーダ信号に基づいて印字タイミングになった場合(S18:YES)、読み出しアドレスYPで指示されるアドレスに格納されている1ドット列分のドットイメージデータが読み出されて、対応する噴射ノズルが駆動されてインク噴射が実行され、1ドット列の印字処理が実行される(S19)。そして、印字ヘッド12と記録紙15との間の距離が所定間隔に維持されているので、記録紙15に綺麗な印字を施すことができる。
【0042】
さらに、読み出しアドレスYPが1つインクリメントされる(S20)。次いで、印字終了か否かが判断される(S21)。つまり、読み出しアドレスYPにドットイメージデータが格納されているか否かが判断される。そして、読み出しアドレスYPにドットイメージデータが格納され、印字終了でない場合(S21:NO)、S16に戻って処理が繰り返され、1ドット列毎の印字が実行される。一方、ドットイメージデータが格納されておらず、印字終了の場合(S21:YES)、S10に戻って処理が繰り返される。
【0043】
ところで、1ドット列毎の印字の実行中に、印字指示ボタン7の操作が中止されて、印字指示スイッチ7aから「禁止」の指示信号が入力された場合(S16:NO)、選択ボタン8が操作されたか否かが判断される(S22)。ここで、選択ボタン8が操作されず、選択スイッチ8aから選択信号が入力されない場合(S22:NO)、その読み出しアドレスYPで指示するアドレス以降の印字データの先頭部分が液晶ディスプレイ6に表示され(S28)、S16に戻る。
【0044】
一方、選択ボタン8が操作されて、選択スイッチ8aから選択信号が入力された場合には(S22:YES )、選択信号の回数値Nが1つインクリメントされる(S23)。次いで、その選択回数値Nが奇数(1、3、5、・・・・)であるか否かが判断される(S24 )。そして、その選択回数値Nが奇数の場合は(S24:YES)、読み出しアドレスYPとして、現在の印字行の印字データの先頭アドレスがセットされ(S25)、その先頭アドレス以降の印字データの先頭部分が液晶ディスプレイ6に表示される(S28)。
【0045】
また、選択回数値Nが奇数でない場合は(S24:NO)、選択回数値Nが「0」以外の偶数(2、4、6、・・・・)であるか否かが判断される(S26)。そして、選択回数値Nが「0」以外の偶数(2、4、6、・・・・)の場合には(S26:YES)、読み出しアドレスYPとして、次の印字行の印字データの先頭アドレスがセットされる(S27)。そして、その次行の印字データの先頭部分が液晶ディスプレイ6に表示され(S28)、S16に戻り、印字指示スイッチ7aから「許可」の指示信号が入力されたか否かが再度判断される。また、選択回数値Nが「0」の場合は(S26:NO)、先頭アドレスの印字データの先頭部分が液晶ディスプレイ6に表示される(S28)
【0046】
次に、印字指示ボタン7が再度操作されて、印字指示スイッチ7aから「許可」の指示信号が入力されたときには(S16:YES)、S16〜S21により1ドット列毎の印字が続行される。そして、その印字行の印字が終了した場合には(S21:YES)、S10に戻って、次回の印字処理のために待機する。なお、図6に示すS17の判断処理と、S19の処理を実行するCPU32が、本発明の「印字制御手段」に相当する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の手動移動型印字装置1では、本体ケース2の開口端2cの4つの角部に、本体ケース2の底部の開口端2cを記録紙15上に押し当てて接触させたときに作動する接触センサユニット51〜54が各々取付けられている。この接触センサユニット51〜54は、筒体60と、該筒体60の開口63から出退可能に支持されたボール90と、筒体60の軸穴61に内挿され、ボール90に当接しながら軸穴61の軸方向に沿って上下移動するT字型の移動棒70と、該移動棒70に外挿され、移動棒70を介してボール90を開口63に向かって付勢する円筒状のつる巻きバネ75と、軸穴61の上側の所定位置に設けられ、移動棒70の変位を検出する第1フォトセンサ81とから構成されている。
【0048】
そして、つる巻きバネ75は、移動棒70を下方に押し下げるので、ボール90も押し下げられて筒体60の開口63からその一部が突出する。そして、テーパ部62の先端が記録紙15に押し当てられると、ボール90が記録紙15に押し当てられ、移動棒70が押し上げられて移動する。そして、この移動棒70の変位を第1フォトセンサ81が検出することで、テーパ部62の先端部が記録紙15上に接触していると判断でき、本体ケース2の開口端2cの前方右側角部が記録紙15上に接触していると判断できる。そして、接触センサユニット51は、記録紙15に対してボール90を接触させ、そのボール90の移動によって押し上げられる移動棒70の変位を検出することで、記録紙15との接触状態を検出するので、記録紙15の光沢具合や環境光度の影響を全く受けない。また、記録紙15上に当接するのは滑らかな球面を有するボール90であるので、記録紙15の表面を傷付ける恐れがないうえ、記録紙15上を滑らかに摺動させることができる。また、記録紙15との接触を移動棒70の変位に置き換え、記録紙15との接触を間接的に検出することによって、記録紙15との接触及び摩擦による負荷がなくなるので、耐久性にも優れている。
【0049】
そして、このような接触センサユニット51〜54が、本体ケース2の開口端2cの4つの角部に各々設けられているので、これら接触センサユニット51〜54の全てのテーパ部62の先端が記録紙15に押し当てられると、開口端2cの全部位が記録紙15上に接触するようになっている。この状態では、印字ヘッド12と記録紙15と間の距離が所定間隔に保持されるので、印字ヘッド12による印字動作を良好に行うことができる。また、制御装置31のCPU32は、これら接触センサユニット51〜54の全てにおいて、記録紙15との接触状態を検出しない場合、印字動作を実行しないので、印字不良を確実に防止できる。
【0050】
なお、本発明の印字装置は、上記実施形態に限らず、各種変形が可能なことはいうまでもない。例えば、上記実施形態では、本体ケース2の開口端2cの4つの角部に全て接触センサユニット51〜54を各々取り付けたが、少なくとも対角線上に一対設ければよい。例えば、開口端2cにおいて、前方右側角部の接触センサユニット51と、後方左側角部の接触センサユニット54との組合せ、又は、前方左側角部の接触センサユニット52と、後方右側角部の接触センサユニット53との組合せである。この場合でも、開口端2cの対角線上の一対の両角部を記録紙15上に接触させれば、開口端2cの全部位が偏りなく記録紙15に接触させることができる
【0051】
また、接触センサユニット51において、移動棒70の変位を検出するために、発酵素子及び受光素子を有する第1フォトセンサ81を使用しているが、例えば、接触センサ等でもよく、移動棒70の一端部との接触によって、移動棒70の変位を検出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の印字装置は、被記録媒体に対して手動で移動させる印字装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】手動移動型印字装置1の斜視図である。
【図2】手動移動型印字装置1の底面図である。
【図3】手動移動型印字装置1の縦断面図である。
【図4】接触センサユニット51の縦断面図である。
【図5】手動移動型印字装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】CPU32による印字制御動作を示すフローチャートである。
【図7】図6に示すフローチャートの続きを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
1 手動移動型印字装置
2 本体ケース
2c 開口端
12 印字ヘッド
15 記録紙
32 CPU
51〜54 接触センサユニット
60 筒体
61 軸穴
70 移動棒
75 バネ
81 第1フォトセンサ
82 第2フォトセンサ
83 第3フォトセンサ
85 第4フォトセンサ
90 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
当該筐体の底部に設けられた長方形状の開口と、
前記筐体内に設けられ、被記録媒体の印字面に非接触の状態で移動走査されることによって、前記開口を介して前記印字面に印字する印字ヘッドと、
前記開口の開口端の少なくとも対角線上に一対設けられ、前記印字面に対する前記開口端の接触状態を検出する接触状態検出手段と、
当該接触状態検出手段の全てが前記接触状態を検出した場合のみ、前記印字ヘッドによる印字動作を実行させる印字制御手段と
を備えたことを特徴とする印字装置。
【請求項2】
前記接触状態検出手段は、前記開口端の四隅に各々設けられていることを特徴とする請求項1に記載の印字装置。
【請求項3】
前記接触状態検出手段は、
前記印字面に接触させるボールと、
当該ボールを収容するとともに、前記ボールの一部を前記印字面に向かって出退可能に支持する筒体と、
当該筒体内に移動可能に支持され、前記ボールに当接しながら前記ボールの出退とともに前記筒体内を移動する移動部材と、
前記筒体内に設けられ、前記移動部材を介して前記ボールを前記印字面に向かって付勢する付勢手段と、
前記筒体内に設けられ、前記移動部材の前記筒体内における変位を検出する位置検出手段と
から構成され、
複数の前記接触状態検出手段において、全ての前記位置検出手段が前記移動部材の変位を検出した場合のみ、前記印字制御手段は前記印字ヘッドによる印字動作を実行させることを特徴とする請求項1又は2に記載の印字装置。
【請求項4】
前記位置検出手段は、発光素子と受光素子とを備え、前記発光素子と前記受光素子との間の光軸が前記移動部材によって遮断されることによって、前記移動部材の変位を検出するフォトセンサであることを特徴とする請求項3に記載の印字装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−93915(P2008−93915A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277066(P2006−277066)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】