説明

原子炉圧力容器の密封部位における損傷箇所を加工する工具

本発明は、原子炉圧力容器(1)とその蓋(3)との間に存在する密封部位(8)における損傷箇所を手動加工する工具に関する。この工具は、本発明に基づいて、少なくとも1つのグリップ(12)を備えた本体(10)を有し、この本体(10)の片側面に、密封部位(8)の被加工面に当接支持するために用いられ且つ両者間に中間室(9)を空けている2つのすべり要素(14)が存在し、両すべり要素(14)の先端面(32)が平らに形成され、共通平面内を延び、前記中間室(9)内に、切削加工するための切除手段が、該切除手段がすべり要素(14)の先端面(32)から本質的に突出しないように配置されている。
れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉圧力容器とその蓋との間に存在する密封部位における損傷箇所を加工する工具に関する。
【0002】
原子炉の圧力容器は端面側フランジを有し、このフランジ上に蓋の対向フランジが載り、そこで両フランジがねじ結合されている。その対向フランジに、半径方向に間隔を隔てて2つの(環状)シール溝が配置され、これらのシール溝にそれぞれ金属Oリングが配置されている。組立状態において、それらのOリングは軸方向に圧縮されている。Oリングと溝底ないし容器フランジとの間の接触部位は、密封部位あるいは支持部位を形成している。密封部位における漏れは実際には、例えばOリングの交換中にその密封部位が機械的に傷つけられるか、あるいは例えば塩化物の濃度増大によって引き起こされるか助長された局所的に限られた腐食によって傷つけられる、ことでしか生じない。密封部位における最大深さ約0.05mmの損傷箇所は、研摩手段による切除およびOリングの交換によって修復される。深い大きな領域にわたって延びる損傷は、まず損傷箇所が場所的に切削加工され、続いて、切除済み部位が肉盛り溶接され、最後に、その肉盛り溶接箇所が切削加工によって切除され平滑にされることによって修復される。
【0003】
上述の修復処理は放射能から作業員を完全防護して行われる。被曝線量をできるだけ少なくするために、修復処理はできるだけ迅速に実施されねばならない。
【0004】
本発明の課題は、容器フランジの加工および容器蓋に存在する(環状)シール溝の特に溝底の加工が迅速に行え、加工中における密封部位における損傷が十分に防止される、工具を提案することにある。
【0005】
この課題は、特許請求の範囲の請求項1に記載の工具によって解決される。この工具は、少なくとも1つのグリップを備えた本体を有し、この本体の片側面に、密封部位の被加工面に当接支持するために用いられ且つ両者間に中間室を空けている2つのすべり要素が存在している。その中間室内に、切削加工するための切除手段が、この切除手段がすべり要素の先端面から本質的に突出しないように配置されている。損傷箇所の加工時、工具は、平らに形成され共通平面内を延びる両すべり要素の先端面で、圧力容器フランジあるいは蓋フランジの面に当接支持される。切除手段が両側をすべり要素で挟まれていることによって、密封部位の面の意図しない損傷が実質的に回避される。切除手段がすべり要素の先端面から本質的に突出していないので、損傷箇所の部位において必要以上に多量の材料が切除され、これにより、フランジの母材に窪みが形成される、ことが防止される。
【0006】
特に有利な実施態様において、両すべり要素は両側に位置する外側側面を有し、この両外側側面間の距離は蓋に存在するシール溝の幅より小さい。かかる工具は溝底の加工に適している。両すべり要素は、工具の往復運動時、レールのように作用する溝内を案内され、これにより、溝側壁および特に溝底に損傷を生じさせる恐れなしに、大きな加工速度が可能とされる。シール溝内における工具の支障のない運動が、すべり要素の外側面が被加工シール溝の溝壁に相当する曲率を有している、ことによって一層助長される。
【0007】
他の有利な実施態様において、本体のグリップとは反対の側に当接設置面が存在し、この当接設置面からすべり要素が突出し、この当接設置面からすべり要素の先端面までの距離が、本質的に被加工シール溝の深さに相当している。当接設置面は加工時に溝周縁部に接し、これにより、工具の横傾きが防止される。これによって、切除手段例えば平形やすりの作用面が常に溝底に対して平行に向けられる、ことが保証される。
【0008】
また有利な実施態様において、すべり要素が本体に交換可能に固定されている。被加工シール溝およびその曲率の所定の寸法に応じて、はめ合いすべり要素が選定される。
【0009】
上述した平形やすりのほかに、特に精密加工するために研摩ベルトが利用される。有利な実施態様において、かかる研摩ベルトの迅速な交換は、両すべり要素間に、研摩ベルトに対する対向面を有する支持体が存在し、すべり要素の長手方向における支持体の両端と本体との間にそれぞれ開口が存在している、ことによって保証される。それらの開口を通して、研摩ベルトの両端がそれぞれ差し込まれ、その研摩ベルトは、支持体の対向面とは反対の側に配置されたスナップ装置により固定される。
【0010】
以下図に示した実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0011】
図1に示されているように、原子炉圧力容器1の端面にフランジ2が存在し、このフランジ2上に蓋3の対向フランジ4が載っている。この対向フランジ4に、それぞれ金属Oリング6を収容する半径方向に間隔を隔てられた2つの(環状)シール溝5が設けられている。そのOリング6は原子炉圧力容器1の軸方向に見て僅かに圧縮され、これにより、断面楕円形をしている。Oリング6と溝底7ないしフランジ2との接触部位が密封部位8を形成している。そこで例えば機械的損傷あるいは腐食により発生された損傷箇所は、原子炉圧力容器1に漏れを生じさせ、遅くとも定期的点検で修復されねばならない。この目的のために、損傷箇所がまず切削除去され、続いて、その切除済み部位が肉盛り溶接される。これにより形成された肉盛り溶接部33は、溝底7ないしフランジ2から突出し、切削加工で除去されねばならない。
【0012】
図2と図3は、シール溝5ないし溝底7を加工するための工具を示している。この工具は主にプレート状本体10を有している。この本体10の上側面にUリンク状グリップ12が固定されている。本体10におけるグリップ12とは反対の側に位置し当接設置面13を形成する下側面の中央部位に、2個のすべり要素14が主に直角に突出している。
【0013】
これらの両すべり要素14はほぼ壁状に形成され、本体10の長手方向15に延び、互いに横方向に間隔を隔てられている。すべり要素14は無塩化樹脂例えばPEで作られている。この両すべり要素14はねじ18で本体10に交換可能に取り付けられる基板17に成形されている。両すべり要素14の先端面32は平面的に形成され、共通平面に配置されている。すべり要素14で両側を挟まれた中間室19の中に、平形やすり20が配置されている。この平形やすり20は、本体10並びに基板17を貫通する2個のクランプ22で保持されている。それらのクランプ22はそのねじ部位(23)が本体10から突出し、そのねじ部位(23)にロレット付きねじ24がねじ込まれている。クランプ22はその掛け爪25でやすりの終端凹所26に係合している。平形やすり20と基板17との間に、基板17に対する距離を調整するシム27が配置されている。この目的のために、本体10と基板17は2個の調整ねじ28で貫通され、これらの調整ねじ28は、縮径されたねじ無し終端部29がシム27に当てられ作用する。補助工具無しでも、保護手袋を着けた手で可能とされる調整ねじ28およびロレット付きねじ24の作動によって、すべり要素14の先端面32から平形やすり20の作用面30までの距離が変化させられる。即ち、肉盛り溶接部33が溝底7からかなり突出しているときでも、そのようにして、上述の距離を加工のはじめに増大することが目的に適っている。すべり要素14の終端部34は基板17に向けて傾斜され、これにより、肉盛り溶接部33に向けての工具9の移動が容易とされる。当接設置面13からすべり要素14の先端面32までの距離ないし突出距離35は、シール溝5の深さ36にほぼ相当している。これによって、加工中にシール溝5内においてその長手方向に往復運動される工具9が横に全くあるいはほんの僅かしか傾かないことが保証される。これにより、平形やすり20あるいは他の切除手段の作用面30は本質的に溝底7の平面に対して常に平行に延びている。
【0014】
肉盛り溶接部33を切除するために適した異なった工具9aが図4に示されている。その本体10aはフライス装置37を収容するほぼ箱型のケースである。このケースの平面は当接設置面13を形成し、この当接設置面13から、工具9aの長手方向15に延び中間室19を挟み込む両側のすべり要素14aが突出している。それらのすべり要素14aは基板17aに成形されている。基板17aないしすべり要素14aは同様に当接設置面13の中央部位に配置されている。基板17aはケース状本体10aの内部に向き開いた開口38が開けられている。この開口38を通して、すべり要素14aで両側を挟まれた中間室19にフライスヘッド(植刃フライス)39が突出している。基板17aがピン40とねじ42で本体10aに固定されている。この本体10aは両横側グリップ12aを有している。フライスヘッド39は、開口38に滑り込められた硬質金属ブッシュ43において案内され、この硬質金属ブッシュ43は、発生する切削力によるフライスヘッド39の横変位を防止する。フライスヘッド39が基板17aから突出する距離は、フライス装置37の相応した可調整性によって変更でき、その突出距離は最大で、肉盛り溶接部33が約0.1mmの残留突出寸法になるまで切除されるように調整できる。フライス装置37ないしフライスヘッド39の軸44は、十分な表面研削および切削力の低減を得るために、切削方向ないし長手方向35に対して約3°傾斜されている。工具9a並びに前述の工具9においても、両すべり要素14、14aの側面45はそれぞれ隣接する溝壁の半径に相当した曲率を有している。
【0015】
肉盛り溶接部33が約0.1mmの残留突出寸法まで切除されたとき、切除手段として研摩ベルト46を有する図5〜図8に示された工具9bが採用される。この工具9bは同様に当接設置面13付きのプレート状本体10bを有している。すべり要素14aは当接設置面13の中央部位から突出し、このすべり要素14bは両者間に同様に中間室19を空け、その側面45は同様に、溝側壁の半径に相当する曲率を有している。また、すべり要素14bは本体10bに解除可能に固定されている。両すべり要素14aの両端は横壁47を介して互いに結合されている。これらの横壁47の互いに向かい合う内側面48に、それぞれ中間室19の幅にわたって延びる開口49が隣接している。これらの開口49間に存在する本体10bの部位は支持体52を支持している。この支持体52の本体10bとは反対の面は、研摩ベルト46に対する対向面53を形成している。支持体52は長手方向15に部分的に開口49の中に延びている。本体10bの上側面に研摩ベルト46に対するスナップ装置55が配置されている。このスナップ装置55はフック56を有し、このフック56に研摩ベルト46の終端ループ57が掛けられている。フック56は長手方向15に延びるロッド58の一端に固定され、このロッド58の他端は横方向16に延びるピン59に結合されている。スナップ装置55はさらに締付けレバー60を有し、この締付けレバー60は、ピン59とフック56との間で本体10bに固定され横方向16に延びる揺動軸62に揺動可能に支持されている。締付けレバー60が図6における締付け状態から出発して矢印63の方向に本体10bから離れて揺動されたとき、フック56は例えば矢印64の方向に移動され、これによって、ループ57がフック56から外され、研摩ベルト46が交換される。研摩ベルト46の他端は同様にループ57を有し、このループ57は本体10bに固く固定されたフック65(図8参照)に固定されている。研摩ベルトの交換は、補助工具を要せずに保護手袋を着けた手で行える。
【0016】
肉盛り溶接部の残留突出寸法は工具9bによって完全に切除され、その加工終了時、元の損傷箇所は完全に平らに研摩し終えている。研摩ベルト46が主にすべり要素14bの先端面32を越えて突出せず、加工時に当接設置面13が蓋3の対向フランジ4のシール溝を形成する部位に接することによって、必要な寸法を超えた過度の研摩は防止される。
【0017】
図9と図10に示された工具9cはやすり工具であり、それに応じて平形やすり20を有している。この工具9cは同様にプレート状本体10cを有している。この本体10cの下側面に2つのすべり要素14cが固定され、この両すべり要素14cは互いに平行に長手方向15に延び、両者間に中間室19を空けている。この中間室の中央に平形やすり20が配置され、工具9(図2、図3)に相応した様式で調整可能に固定されている。上述した実施例と異なって、すべり要素14cは幅広くされ、これによって、その先端面32はほぼ本体10cの側縁66まで延びている。原子炉圧力容器1のフランジ2に存在する肉盛り溶接部(図9に図示せず)を切削加工する際、すべり要素14cの先端面32は当接面として用いられ、この先端面32はフランジ2に接し、フランジ2を損傷する恐れなしに大きな加工速度で、肉盛り溶接部33の平面切削加工を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】原子炉圧力容器のフランジ部位の部分断面図。
【図2】平形やすりが装備された工具の底面図。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図。
【図4】切除手段としてフライスヘッドが存在する工具の一部断面側面図。
【図5】切除手段として研摩ベルトがスナップ装置によって固定して設けられた工具の平面図。
【図6】図5のVI−VI線に沿った断面図。
【図7】図5の工具の底面図。
【図8】スナップ装置が除かれた図6に相応した断面図。
【図9】フランジ加工に適した工具の底面図。
【図10】図9のX−X線に沿った断面図。
【符号の説明】
【0019】
1 原子炉圧力容器
2 フランジ
3 蓋
4 対向フランジ
5 (環状)シール溝
6 Oリング
7 溝底
8 密封部位
9 工具
10 本体
12 グリップ
13 当接設置面
14 すべり要素
15 長手方向
16 横方向
17 基板
18 ねじ
19 中間室
20 平形やすり
22 クランプ
23 ねじ部位
24 ロレット付きねじ
25 掛け爪
26 凹所
27 シム
28 調整ねじ
29 調整ねじ終端部
30 作用面
32 すべり要素先端面
33 肉盛り溶接部
34 すべり要素終端部
35 突出距離
36 深さ
37 フライス装置
38 開口
39 フライスヘッド(植刃フライス)
40 ピン
42 ねじ
43 硬質金属ブッシュ
44 軸
45 外側側面
46 研摩ベルト
47 横壁
48 内側面
49 開口
52 支持体
53 対向面
55 スナップ装置
56 フック
57 ループ
58 ロッド
59 ピン
60 締付けレバー
62 揺動軸
63 矢印
64 矢印
65 フック
66 側縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器(1)とその蓋(3)との間に存在する密封部位(8)における損傷箇所を手動加工する工具であって、
− 少なくとも1つのグリップ(12)を備えた本体(10)を有し、
− 該本体(10)の片側面に、密封部位(8)の被加工面に当接支持するために用いら れ且つ両者間に中間室(9)を空けている2つのすべり要素(14)が存在し、
− 両すべり要素(14)の先端面(32)が平らに形成され、共通平面内を延び、
− 前記中間室(9)内に、切削加工するための切除手段が、該切除手段がすべり要素( 14)の先端面(32)から本質的に突出しないように配置されている、
ことを特徴とする原子炉圧力容器(1)とその蓋(3)との間に存在する密封部位(8)における損傷箇所を手動加工する工具。
【請求項2】
すべり要素(14、14a、14b)が両側に位置する外側側面(45)を有し、該外側側面(45)間の距離が蓋(3)に存在するシール溝(5)の幅より小さい、ことを特徴とする請求項1に記載の工具。
【請求項3】
本体(10、10a、10b)のすべり要素を支える側に当接設置面(13)が存在し、該当接設置面(13)からすべり要素(14、14a、14b)が突出し、当接設置面(13)からすべり要素の先端面(32)までの距離(35)が、本質的に被加工シール溝(5)の深さ(36)に相当している、ことを特徴とする請求項2に記載の工具。
【請求項4】
すべり要素(14、14a、14b)の外側側面(45)が、被加工シール溝(5)の溝壁に相当する曲率を有している、ことを特徴とする請求項2又は3に記載の工具。
【請求項5】
すべり要素(14)が本体(10)に交換可能に固定されている、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の工具。
【請求項6】
切除手段が本体(10)に交換可能に固定されている、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の工具。
【請求項7】
すべり要素(14)の先端面(32)から切除手段までの距離が調整可能である、ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の工具。
【請求項8】
切除手段として平形やすり(20)が存在している、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の工具。
【請求項9】
切除手段として研摩ベルト(46)が存在している、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の工具。
【請求項10】
両すべり要素(14b)間に、研摩ベルト(46)に対する対向面(53)を有する支持体(52)が存在し、本体(10b)の長手方向(15)における支持体(52)の端部と本体(10b)との間にそれぞれ開口(49)が存在し、支持体(52)の対向面(53)とは反対の側に、支持体(52)に固定される研摩ベルト(46)に対するスナップ装置(55)が存在している、ことを特徴とする請求項9に記載の工具。
【請求項11】
切除手段としてフライスヘッド(39)が存在している、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−524802(P2009−524802A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551666(P2008−551666)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012399
【国際公開番号】WO2007/085295
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(501315289)アレヴァ エンペー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (61)
【Fターム(参考)】