説明

原子発振器のマイクロ波空洞共振装置

【課題】空洞共振器内に規定周波数を有する安定したTE011共振モードを生起する。
【解決手段】原子発振器のマイクロ波空洞共振装置において、空洞共振器2内における軸方向の両端近傍に設けられ、ガスセル4を空洞共振器内の中央位置に支持する低誘電率の材料で形成された一対の支持部材21、22と、空洞共振器内に挿脱自在に設けられた高誘電率の誘電体部材26と、TE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数が規定周波数になるように、空洞共振器内における軸方向の一端面から高誘電率の誘電体部材の空洞共振器内への突出量を調整する突出量調整機構27と、空洞共振器内における軸方向の一端壁に刻設され、アンテナ24の一部を側壁に対して隙間を有して収納する凹部23とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルビジウムやセシウム133等の吸収ガスが有する光の吸収特性を利用した原子発振器に係わり、特にこの原子発振器に組込まれたマイクロ波空洞共振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ励起型の原子発振器の中核部品であるマイクロ波空洞共振装置は、例えば、特許文献1に報告されている。すなわち、この特許文献1に報告されているマイクロ波空洞共振装置は、図10の断面図に示すように構成されている。円筒状の空洞共振器(キャビティ)31内に、円筒状のガラス容器にルビジウムガスを充填したガスセル32が配設されている。さらに、空洞共振器31内に、この空洞共振器31の共振周波数を調整する低誘電損失でかつ空気よりも比誘電率の大きな環状の誘電体33が設けられている。この誘電体33は、例えばテフロン(登録商標)等の低誘電損失の物体である。
【0003】
空洞共振器31の軸方向の一端壁31aに形成されたねじ穴に大径を有する金属製のネジ部34がねじ込まれており、このネジ部34の先端に前述した環状の誘電体33が固定されている。なお、ネジ部34には、軸方向にレーザ光38を貫通させるための貫通孔35が形成されている。
【0004】
また、空洞共振器31の軸方向の一方の壁31aには、この空洞共振器31内に共振モードを生成するマイクロ波を供給するためのアンテナ36が取付けられている。なお、このアンテナ36には図示しない電圧制御水晶発振器(VCO)からの発振出力を逓倍した信号が印加されている。
【0005】
そして、前述したネジ部34のねじ穴に対するねじ込み量を変更することによって、誘電体33を矢印方向へ移動して、空洞共振器31の容積を変更させて、空洞共振器31に発生しているマイクロ波の共振モードにおける共振周波数を、ルビジウムに対して予め定められた基準の共振周波数(規定周波数)に調整する。
【0006】
外部のレーザダイオード37から出射したレーザ光38は、ネジ部34の貫通孔35を介して空洞共振器31内へ入射し、さらにガスセル32へ入射する。ガスセル32を透過したレーザ光38は、空洞共振器31の軸方向の他方の壁31bに取付けられたフォトセル39へ入射して、このフォトセル39で電気信号に変換される。
【0007】
さらに、空洞共振器31の外周には、ガスセル32を収納した空洞共振器31内に静磁界を生起させる磁気シールドコイル40が巻かれている。
【0008】
原子発振器においては、空洞共振器31内における共振モード発生時における基準の共振周波数(規定周波数)のマイクロ波入力周波数を用いて外部に出力する基準周波数を作成する。そして、空洞共振器31内に共振モードが発生した状態においては、ガスセル32内に収納されたルビジウムの光に対する吸収特性における光の吸収が最大になるので、フォトセル39で受光されたレーザ光38の強度が最小となる。したがって、空洞共振器31内に共振モードが発生したことをレーザ光38の強度が最小となることで検出する。
【0009】
したがって、マイクロ波空洞共振装置において、フォトセル39から出力される電気信号によって、フォトセル39の入射光量が小さくなるように、電圧制御水晶発振器(VCO)の発振出力(発振周波数)を制御する。この結果、電圧制御水晶発振器(VCO)の発振周波数をルビジウムの原子共振周波数に一致させるようにしている。
【特許文献1】特開平7―264064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら図10に示したマイクロ波空洞共振装置においてもまだ解消すべき次のような課題があった。
【0011】
このような構成のマイクロ波空洞共振装置において、吸収ガスとしてルビジウムを採用した場合において、円筒状の空洞共振器31の直径や軸長は、アンテナ36から出力されるマイクロ波入力周波数が前述した基準の共振周波数(規定周波数)で、この空洞共振器31内に共振モードが発生するように設定されている。
【0012】
しかし、空洞共振器31内には、ガスセル32、誘電体33、ネジ部34、アンテナ36、フォトセル39等が存在する。これらの構成部材は、共振モード発生時の周波数に影響を与える。したがって、製造された空洞共振器31の共振モード発生時の周波数が正確に前述した基準の共振周波数(規定周波数)になるとは限らない。
【0013】
そこで、空洞共振器31に発生しているマイクロ波の共振モードにおける共振周波数を、ルビジウムに対して予め定められた基準の共振周波数(規定周波数)に調整する手法として、先端にテフロン(登録商標)等の低誘電損失の物体で形成された環状の誘電体33が取付けられた金属製のネジ部34のねじ穴に対するねじ込み量を変更することによって、空洞共振器31の容積を変更させている。すなわち、誘電体33の挿入位置は変化するが、ネジ部34の空洞共振器31の挿入量を変更している。
【0014】
このことは、結果的に、空洞共振器31の外径を変えずに軸長を調整して周波数を調整することになる。そのために空洞共振器設計ツールであるモードチャートの線上から外れてモード飛び現象などが発生し、空洞共振器31としては不安定となっていた。
【0015】
また、結果的に、空洞共振器31内に大きく突出するテフロン(登録商標)等の低誘電損失の物体で形成された誘電体33を支持するネジ部34は金属で形成されているので、形成された共振モードが乱れて、共振器としてのQ値が劣化する。
【0016】
次に、アンテナ36と同軸線(セミリジッド)のインピーダンス整合について述べる。空洞共振器31内は自由空間と異なりほぼ完全に密閉状態になる。また、マイクロ波共振点は狭く、マイクロ波入カはこのような密閉状態ではほぼ全反射するので、このアンテナ36と同軸線(セミリジッド)のインピーダンスは誘導(インダクタンス)成分が大きくて、インピーダンス整合を取ることはかなり困難である。特に、図10のマイクロ波空洞共振装置においては、1/4波長のアンテナ36を空洞共振器31内に配設していると推定できるためにインピーダンス整合を取ることはかなり困難である。その結果、空洞共振器31内のマイクロ波のレベルが不安定になる。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、マイクロ波の共振モードとしてTE011共振モードを採用し、空洞共振器内に存在する各構成部材のTE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数に与える影響を選択でき、簡単に、空洞共振器内に規定周波数を有する安定したTE011共振モードを生起できる原子発振器のマイクロ波空洞共振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、金属体内に形成された円筒形の空洞共振器と、この空洞共振器内に収納され、吸収ガスと緩衝ガスとを封入したガスセルと、空洞共振器内にTE011共振モードを生成するマイクロ波を供給するためのアンテナと、外部から入射されてガスセルを透過した光を受光する受光器とを有する原子発振器のマイクロ波空洞共振装置に適用される。
【0019】
そして、上記課題を解消するために、本発明の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置においては、円筒形の空洞共振器内における軸方向の両端近傍に設けられ、ガスセルを空洞共振器内の中央位置に支持する低誘電率の材料で形成された一対の支持部材と、空洞共振器内に挿脱自在に設けられた高誘電率の誘電体部材と、TE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数が規定周波数になるように、空洞共振器内における軸方向の一端面から高誘電率の誘電体部材の空洞共振器内への突出量を調整する突出量調整機構と、空洞共振器内における軸方向の一端壁に刻設され、アンテナの一部を側壁に対して隙間を有して収納する凹部とを備えている。
【0020】
このように構成された原子発振器のマイクロ波空洞共振装置においては、マイクロ波の共振モードとして、図5(b)に示す、TE011共振モードを採用している。そして、ガスセルは空洞共振器内の中央位置に低誘電率の材料で形成された一対の支持部材で支持されているので、ガスセルはTE011共振モードの中心に位置している。その結果、ガスセル内において、磁界の磁力線のほとんどが垂直方向となる。さらに、支持部材は空気により近い低誘電率の材料で形成されているので、マイクロ波の誘電体損失が低減され、この支持部材の存在によって、TE011共振モードの安定性が大きく劣化することはない。
【0021】
また、空洞共振器内に周波数調整用の高誘電率の誘電体部材が、突出量調整機構にて、空洞共振器内への突出量が調整される。このように、高誘電率の誘電体部材を採用することによって、少ない突出量でより効率的にTE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数を規定周波数に調整可能である。また、金属で作られたネジの接触不良による難しさもなくなる。
【0022】
さらに、空洞共振器内における軸方向の一端壁に刻設された凹部内にアンテナの一部を収納している。このようにアンテナの一部を凹部内に収納することにより、アンテナと同軸線(セミリジッド)のインピーダンス整合が容易になり、空洞共振器内のマイクロ波のレベルが安定になる。
【0023】
また、別の発明は、上述した発明の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置において、吸収ガスとしてルビジウム又はセシウム133を採用し、光としてレーザ光又はランプ光を採用している。
【0024】
また、別の発明は、上述した発明の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置において、ガスセルとして球形のガスセルを採用している。
【0025】
また、別の発明は、上述した発明の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置において、ガスセルとして円筒形のガスセルを採用している。
【発明の効果】
【0026】
本発明の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置においては、マイクロ波の共振モードとしてTE011共振モードを採用し、ガスセルを低誘電率の材料で形成された一対の支持部材で空洞共振器内の中央位置に支持するとともに、高誘電率の誘電体部材の空洞共振器内への突出量で周波数調整を実施ししている。
【0027】
したがって、ガスセルを空洞共振器内の中心に固定でき、かつ空洞共振器内に存在する各構成部材のTE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数に与える影響を選択でき、簡単に、空洞共振器内に規定周波数を有する安定したTE011共振モードを生起できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の各実施形態を図面を用いて説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係わる原子発振器のマイクロ波空洞共振装置の概略構成を示す断面模式図であり、また、図2(a)はこのマイクロ波空洞共振装置の上面図であり、図2(b)はこのマイクロ波空洞共振装置をA―A線で切断して上方から下方を見た断面図である。
【0030】
この第1実施形態の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置においては、アルミ材からなる円柱状のハウジング1内に円筒状の空洞共振器(キャビティ)2が形成されている。この空洞共振器2の下端はアンテナベース9で蓋されている。空洞共振器2内には、セシウム133の吸収ガスと緩衝ガスとが封入された球形のガスセル4が収納されている。
【0031】
このガスセル4は、ハウジング1の上壁に形成された貫通孔5に取付けられたリング状の上側支持部材21と、アンテナベース9の貫通孔8内に上下移動自在に設けられた円筒状の下側支持部材22とで支持されている。下側支持部材22は、アンテナベース9に固定されたバネ10にて上方へ付勢されている。したがって、ガスセル4はバネ10にて上側支持部材21に付勢されている。
【0032】
なお、リング状の上側支持部材21の軸方向の厚みtは、ガスセル4が空洞共振器2の軸方向の中心に位置するように設定されている。上側支持部材21及び下側支持部材22は例えばテフロン(登録商標)等の低誘電率の材料で形成されている。実施形態の上側支持部材21及び下側支持部材22の比誘電率εは2.1である。なお、ガスセル4の比誘電率εは4.0である。
【0033】
図3(a)(b)(c)は、リング状の上側支持部材21の外観図である。この実施形態においては、軸方向の厚みtは全て等しいが、外径がそれぞれ異なる値に設定された3種類の上側支持部材21、21a、21bが予め準備されている。そして、空洞共振器2内に形成されるTE011共振モード発生時の周波数の調整時に、いずれか1個の上側支持部材21(21a、21b)が選択されて、マイクロ波空洞共振装置に組込まれる。図4は円筒状の下側支持部材22の外観図である。この下側支持部材22は1種類のみである。
【0034】
そして、外部から入射した光としてのレーザ光11は、凸平レンズ17、貫通孔5、上側支持部材21を介してガスセル4へ入射する。ガスセル4を透過したレーザ光11は、下側支持部材22を介して、アンテナベース9に取付けられた受光器12へ入射して、この受光器12で電気信号に変換される。
【0035】
また、このマイクロ波空洞共振装置における空洞共振器2のアンテナベース9の外周縁近傍には、図2(b)に示すように、長円形断面を有する溝状の凹部23が周方向に刻設されている。この凹部23内に、空洞共振器2内にTE011共振モードを生成するマイクロ波を供給するためのアンテナ24が取付けられている。このアンテナ24には同軸コネクタ13が接続されている。
【0036】
このアンテナ24は、図2(b)、及び図5(a)に示すように、空洞共振器2の周方向に配設され、アンテナ24の全長はTE011共振モードを生成するマイクロ波の1波長にほぼ等しく設定されている。アンテナ24の先端は凹部23から約3mm空洞共振器2内へ突出している。さらに、アンテナ24と凹部23の側壁23aとの間には一定の隙間が存在する。
【0037】
このように配設されたアンテナ24において、アンテナ24と凹部23の側壁23aとの間に分布容量(キャパシタ)が存在する。この分布容量(キャパシタ)成分は、前述した誘導(インダクタンス)成分が大きいアンテナと同軸線(セミリジッド)のインピーダンスにおける誘導(インダクタンス)成分を打ち消すことになり、インピーダンスを抵抗成分のみにできる。その結果、アンテナ24と同軸線(セミリジッド)のインピーダンス整合を簡単に取ることができる。この整合位置が上記で説明したアンテナ24の凹部23からの突出量が約3mmとなる。
【0038】
そして、アンテナ24の空洞共振器2内への突出量を前述した3mmとすることで、TE011共振モード発生時において、アンテナ24の入力インピーダンスを50Ωの抵抗成分のみにでき、空洞共振器2内のマイクロ波のレベルが安定になり、かつ、同軸コネクタ13からアンテナ24に供給するマイクロ波の電力レベルを低減できる。
【0039】
さらに、アンテナ24は周方向に配設されているので、図5(b)に示すように、アンテナ24で生成される磁界の方向と、空洞共振器2内に生成されるTE011共振モード発生時の磁界の方向とが一致している。その結果、このアンテナ24が空洞共振器2内に存在することに起因するTE011共振モードの乱れを最小限に抑制できる。
【0040】
なお、図5(c)に、アンテナ24の形状と、このアンテナ24に同軸コネクタ13を介して印加されるマイクロ波の信号の1波長分(λ)の波形との関係を示す。図示するように、アンテナ24の両端A、C位置が1波長分(λ)の波形の最大点位置(0、2π)を示し、アンテナ24の中間B位置が1波長分(λ)の波形の最小点位置(π)を示す。
【0041】
また、このマイクロ波空洞共振装置における空洞共振器2のアンテナベース9の外周縁近傍には、図1及び図2(b)に示すように、円形断面を有する凹部25が刻設されている。この凹部25内に、空洞共振器2内におけるTE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数を調整するための例えばアルミナ等で円柱状に形成された高誘電率の誘電体部材26が挿脱自在に収納されている。この高誘電率の誘電体部材26の空洞共振器2への突出量は、突出量調整機構としての調整ネジ27のアンテナベース9へのネジ込み量を調整することにより実施される。調整が終了すると、ロックナット28で調整ネジ27の位置を固定する。
【0042】
このように、アルミナ等で円柱状に形成された高誘電率の誘電体部材26でマイクロ波の周波数を調整しているので、少ない突出量でより効率的にTE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数を、吸収ガスとしてセシウム133を採用した場合における、9.19263177GHzの規定周波数に調整可能である。ちなみに、アルミナの比誘電率εは約9.6で、従来のマイクロ波空洞共振装置におけるリン青銅で形成された調整ネジ34による乱反射を軽減できる。その結果、この高誘電体部材26が空洞共振器2内に存在することに起因するTE011共振モードの乱れを最小限に抑制できる。
【0043】
さらに、円柱状のハウジング1の外周には、ガスセル4を収納した空洞共振器2内に静磁界を生起させる磁気シールドコイル18が巻かれている。
【0044】
次に、TE011共振モードが発生する空洞共振器2の外径と軸長とからなる形状について述べる。
空洞共振器2の内部構造を決めた後で、アンテナ24を除いた他の構造部材を取り去った時のTE011共振モード発生時の周波数と、全ての構造部材を取付けた時のTE011共振モード発生時の周波数との差をシミュレーションで解析する。シミュレーション結果から、内部構造部材が存在すると、誘電率が増加し、TE011共振モード発生時の周波数が低くなることが判明した。
【0045】
これまでの設計ではこの周波数の低下分を空洞共振器2の軸長を可変して周波数を調整していたが、その方法では、数ミリ動かすだけで他のモードに移り、モード飛び現象を起こす危険性があった。
【0046】
そこで、実施形態装置においては、空洞共振器2の形状を予め周波数の低下分だけ高くして設計し、TE011共振モード発生時の周波数を、内部構造部材の存在により前述した理想とする9.19263177GHz近くにする。このように空洞共振器2の形状をTE011共振モード発生のための基本条件に基づいて設計しているので、モード飛び現象の発生がしにくくなり、TE011共振モードの安定性が向上する。
【0047】
さらに、空洞共振器2の形状を予め周波数の低下分だけ高くして設計した結果、実施形態の空洞共振器2を、図10に示す従来の空洞共振器31に比較して、外径が小さく小型に形成できた。
【0048】
図6は、上記の条件で設計された空洞共振器2の内部に、上側支持部材21、ガスセル4、下側支持部材22、高誘電率の誘電体部材26、アンテナ24等の内部構造部材を収納した状態における、アンテナ24を介して空洞共振器2内へ印加したマイクロ波の周波数fを変化させたときのマイクロ波入力端への反射(リターン)特性を示す図である。
【0049】
この特性においては、TE011共振モードの発生時の周波数fは、ほぼ9.17GHzとなり、吸収ガスとしてセシウム133を採用した場合の基準周波数としての理想の9.19263177GHzに対して22MHzまだ低いが、この程度であれば、上側支持部材21の外径の変更と、高誘電体部材26の空洞共振器2内への突出量の調整により、TE011共振モードの発生時の周波数fを理想の9.19263177GHzに容易に一致させることが可能である。
【0050】
次に、周波数の調整手順を説明する。
先ず、ガスセル4を装着し、次に、外径の異なる各上側支持部材21、21a、21bを順番に装着して、その時のTE011共振モードの発生時の周波数fを測定する。そして、理想の9.19263177GHzに最も近い周波数fの一つの上側支持部材21(21a、21b)を選択して、マイクロ波空洞共振装置に装着する。
【0051】
次に、空洞共振器2内にTE011共振モード発生時のマイクロ波の周波数fが理想の9.19263177GHzに一致するように、調整ネジ27のアンテナベース9へのネジ込み量を変更することにより高誘電率の誘電体部材26の空洞共振器2への突出量を調整する。調整が終了すると、ロックナット28で調整ネジ27の位置を固定する。
【0052】
このように、2段階に亘って調整することによって、簡単にかつ高い精度で周波数の調整が可能である。
【0053】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置の概略構成を示す断面模式図である。図1に示す第1実施形態の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置と同一部分には同一符号を付して重複する部分の詳細説明を省略する。
【0054】
この第2実施形態の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置においては、空洞共振器2内に、円筒形のガスセル29が中心位置に収納されている。その他の構成は、図1に示す第1実施形態の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置とほぼ同一である。
【0055】
この円筒形のガスセル29を採用することによる特徴を図8(a)(b)を用いて説明する。図8(a)は空洞共振器2内にTE011共振モードが発生している状態における磁力線分布と球形のガスセル4との位置関係を示す模式図であり、図8(b)は空洞共振器2内にTE011共振モードが発生している状態における磁力線分布と円筒形のガスセル29との位置関係を示す模式図である。
【0056】
図8(a)と図8(b)と比較すれば明らかなように、円筒形のガスセル29を採用することで、TE011共振モードの磁界方向がガスセル29内でほとんど垂直になる。したがって、ラムゼー共鳴特性におけるπ遷移成分がほとんど無い状態になる可能性が有り、原子発振器の周波数安定性がより一層向上する。
【0057】
図9は、円筒形のガスセル29を採用したマイクロ波空洞共振装置において、アンテナ24を介して空洞共振器2内へ印加したマイクロ波の周波数fを変化させたときのマイクロ波入力端への反射(リターン)特性を示す図である。この特性によると、TE011共振モードが発生する周波数fは、理想の9.19263177GHzから少しずれた9.358GHzとなるが、最終調整はπ遷移を最小にする方向なので円筒形ガスセルを使用すると調整箇所の数が減少する利点もある。
【0058】
なお、円筒形のガスセル29は、球形のガスセル4に比較して、外気圧に対するガスセルの体積が変化しやすいために周波数安定度に変動をきたす。これを解決させるためには、ガスセル29の上下端の厚みを増す必要がある。
【0059】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。各実施形態においては、ガスセル4、29に封入する吸収ガスとしてセシウム133を採用したが、ルビジウム、及び他の吸収ガスを採用することが可能である。
【0060】
さらに、各実施形態においては、空洞共振器2へ入射する光としてレーザ光11を採用したが、レーザ光11に代えて、ランプ光を採用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態に係わる原子発振器のマイクロ波空洞共振装置の概略構成を示す断面模式図
【図2】同マイクロ波空洞共振装置の上面図及び水平断面図
【図3】同マイクロ波空洞共振装置に組込まれた上側支持部材の斜視図
【図4】同マイクロ波空洞共振装置に組込まれた下側支持部材の斜視図
【図5】同マイクロ波空洞共振装置に組込まれたアンテナ及びその動作を示す図
【図6】同マイクロ波空洞共振装置におけるマイクロ波の反射及び周波数特性図
【図7】本発明の第2実施形態に係わる原子発振器のマイクロ波空洞共振装置の概略構成を示す断面模式図
【図8】同マイクロ波空洞共振装置に組込まれたガスセルの特徴を示す図
【図9】同マイクロ波空洞共振装置におけるマイクロ波の反射及び周波数特性図
【図10】従来の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置の概略構成を示す断面模式図
【符号の説明】
【0062】
1…ハウジング、2…空洞共振器、4,29…ガスセル、9…アンテナベース、10…バネ、11…レーザ光、12…受光器、13…同軸コネクタ、17…凸平レンズ、18…磁気シールドコイル、21,21a,21b…上側支持部材、22…下側支持部材、23,25…凹部、24…アンテナ、26…高誘電率の誘電体部材、27…調節ネジ、28…ロックナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体内に形成された円筒形の空洞共振器(2)と、この空洞共振器内に収納され、吸収ガスと緩衝ガスとを封入したガスセル(4、29)と、前記空洞共振器内にTE011共振モードを生成するマイクロ波を供給するためのアンテナ(24)と、外部から入射されて前記ガスセルを透過した光(11)を受光する受光器(12)とを有する原子発振器のマイクロ波空洞共振装置において、
前記円筒形の空洞共振器内における軸方向の両端近傍に設けられ、前記ガスセルを前記空洞共振器内の中央位置に支持する低誘電率の材料で形成された一対の支持部材(21、22)と、
前記空洞共振器内に挿脱自在に設けられた高誘電率の誘電体部材(26)と、
前記TE011共振モード発生時の前記マイクロ波の周波数が規定周波数になるように、前記空洞共振器内における軸方向の一端面から前記高誘電率の誘電体部材の空洞共振器内への突出量を調整する突出量調整機構(27)と、
前記空洞共振器内における軸方向の一端壁に刻設され、前記アンテナの一部を側壁に対して隙間を有して収納する凹部(23)と
を備えたことを特徴とする原子発振器のマイクロ波空洞共振装置。
【請求項2】
前記吸収ガスはルビジウム又はセシウム133であり、前記光はレーザ光又はランプ光であることを特徴とする請求項1記載の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置。
【請求項3】
前記ガスセルの形状は球形であることを特徴とする請求項1又は2記載の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置。
【請求項4】
前記ガスセルの形状は円筒形であることを特徴とする請求項1又は2記載の原子発振器のマイクロ波空洞共振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−33373(P2006−33373A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208789(P2004−208789)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】