説明

原油処理システム

【課題】ニッケルやバナジウム、残留炭素分を比較的多く含む原油を処理して、後段の接触分解プロセスに原料を供給する原油処理システムを提供する。
【解決手段】主蒸留塔11は、第1の原油を、その一部が接触分解プロセスの原料油となる残渣油留分、及びこの他の留分に分留し、副蒸留塔21は、第1の原油よりも前記接触分解プロセスに用いられる触媒に対する触媒毒を多く含む第2の原油を、前記この他の留分の蒸留温度範囲に含まれる軽質留分と、残る重質留分とに分留する共に、軽質留分供給ラインは軽質留分を主蒸留塔11にて処理するために当該軽質留分を主蒸留塔11に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触分解プロセスの触媒に対する触媒毒を含む原油を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の原油の需要増加、高騰、生産量の頭打ちから、重質原油処理のニーズが高まっている。一方、重質原油の性状は、1次装置である原油蒸留装置(Crude Distillation Unit;CDU)にて分留された各種の留分を処理する2次装置に大きな影響を与える。
【0003】
例えば重質原油に多く含まれる残留炭素分(コンラドソン法(JIS K2270−1)にてその量が特定される残留炭素分を以下、CCR(Conradson Carbon Residue)という)、バナジウム(V)やニッケル(Ni)は、CDUにて得られた残渣油留分である常圧残渣油(Atmospheric Residue、以下ARという)を触媒と接触させて分解する重油流動接触分解装置(Residue Fluid Catalytic Cracking Unit;以下、RFCCUという)などの接触分解プロセスにおいて、コーク収率やオフガス収率の上昇、触媒活性の低下などを引き起こす。
【0004】
従来、重質原油から得られたAR中に含まれるV、Niなどの触媒毒は、重油直接脱硫装置(以下、RDSUという)などの前処理装置にて除去されてきたが、主として軽質原油を処理する製油所などにおいては、RDSUを備えていない場合も多い。ところがRDSUは、石油精製装置のなかでも高額な装置の一つであり、処理原油の重質化のためにRDSUを建設することは経済性の観点から困難な場合もある。
【0005】
ここで特許文献1には、CDUから留出した常圧残渣油を、酸化剤を添加した超臨界水や亜臨界水に接触させることにより当該常圧残渣油からバナジウムを遊離させ、鉄や活性炭などからなる捕捉剤によってこのバナジウムを除去する技術が記載されている。しかしながら特許文献1に記載の技術は、超臨界水や亜臨界水を用いることから高温高圧条件を必要とすると共に、酸化剤や捕捉剤を消費するため、装置コストや運転コストが嵩む一方、常圧残渣油からニッケルやCCRを除去する技術についてはなんら記載がなく、依然として接触分解プロセスに用いられる触媒の活性低下の問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−277770号公報:請求項1、請求項8、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、ニッケルやバナジウム、残留炭素分を比較的多く含む原油を処理して、後段の接触分解プロセスに原料を供給する原油処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る原油処理システムは、第1の原油供給ラインより供給される第1の原油を、その全量または一部が接触分解プロセスの原料油となる残渣油留分、及びこの他の留分に分留する主蒸留塔と、
第2の原油供給ラインより供給され、前記第1の原油よりも前記接触分解プロセスに用いられる触媒に対する触媒毒を多く含む第2の原油を、前記この他の留分の蒸留温度範囲に含まれる軽質留分と、残りである重質留分とに分留する副蒸留塔と、
前記軽質留分を、前記主蒸留塔に供給して処理するための軽質留分供給ラインと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、他の発明に係る原油処理システムは、第1の原油供給ラインより供給される第1の原油を、その全量または一部が接触分解プロセスの原料油となる残渣油留分、及びこの他の留分に分留する主蒸留塔と、
第2の原油供給ラインより供給され、前記第1の原油よりも前記接触分解プロセスに用いられる触媒に対する触媒毒を多く含む第2の原油を、当該触媒毒の含有量が予め定めた設定値以下である軽質留分と、残りである重質留分とに分留する副蒸留塔と、
前記軽質留分を、前記主蒸留塔に供給して処理するための軽質留分供給ラインと、を備えたことを特徴とする。
【0010】
さらに前記の各原油処理システムは、以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記重質留分を、前記接触分解プロセスの原料油となる減圧軽油留分、及びこの他の減圧残渣油留分に減圧蒸留する減圧蒸留塔と、前記副蒸留塔から当該減圧蒸留塔に前記重質留分を供給して処理するための重質留分供給ラインとを備えたこと。
(b)前記残渣油留分を、前記減圧蒸留塔に供給して処理するための残渣油留分供給ラインを備えたこと。
(c)前記主蒸留塔から留出した残渣油留分と、前記減圧蒸留塔から留出した減圧軽油留分とを混合して前記接触分解プロセスの原料油とすること。
(d)前記触媒毒は、ニッケル、バナジウムまたは残留炭素分からなる触媒毒群から選択されること。
(e)前記第2の原油は、マヤ原油、オリノコタール、オイルサンド・ビチュメンからなる原油群から選択される原油を含んでいること。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、接触分解プロセスに用いられる触媒に対する触媒毒の含有量が多い第2の原油を処理することが可能な副蒸留塔を備え、接触分解プロセスに供給される残渣油留分に殆ど混入しない温度範囲の軽質留分を前記第2の原油から抜き出すので、触媒毒の含有量が少ない第1の原油を処理する主蒸留塔に当該軽質留分を供給しても、主蒸留塔から留出する残渣油留分に含まれる触媒毒の含有量の上昇を抑えることができる。
【0012】
また第2の発明によれば、接触分解プロセスに用いられる触媒に対する触媒毒の含有量が多い第2の原油を処理することが可能な副蒸留塔を備え、当該第2の原油から触媒毒の含有量が少ない軽質留分だけを抜き出すので、触媒毒の含有量が少ない第1の原油を処理する主蒸留塔に当該軽質留分を供給しても、主蒸留塔から留出する残渣油留分に含まれる触媒毒の含有量の上昇を抑えることができる。
これらの結果、第1の発明、第2の発明のいずれにおいても後段の接触分解プロセスに影響を与えることなく原油を重質化できるので、当該原油処理システムにて処理可能な原油選択の幅が広がる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態に係る原油処理システムの構成を示す説明図である。
【図2】重質原油の留出温度に対する触媒毒含有量の変化の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、CCR、V、Niといった触媒毒を比較的多く含む原油を処理して、例えばRFCCUに原料を供給する原油処理システムについて説明する。
図1は、本実施の形態に係る原油処理システムの構成を示す説明図であり、この原油処理システムには、例えばCCR、V、Niの含有量が少ない軽質原油を常圧蒸留する原油蒸留装置1と、原油蒸留装置1から留出したARを減圧蒸留する減圧蒸留装置3と、CCR、V、Niの含有量が比較的多い、重質原油を前処理し、原油処理装置1にて処理しても後段の接触分解プロセスの触媒を劣化させない留分を原油蒸留装置1へ送る一方、触媒毒の含有量が多い留分を減圧蒸留装置3へ送る重質原油前処理装置2と、を備えている。以下の本実施の形態において、「触媒毒の含有量」とは、例えば原油やARなどの単位重量あたりの含有量、即ち、重量基準の濃度を意味するものとする。
【0015】
原油蒸留装置1は、例えばCCR、V、Niの含有量が比較的少ない軽質の原油を常圧蒸留して、各種の中間製品を得る装置である。原油蒸留装置1に直接供給される当該原油は、本実施の形態の第1の原油に相当する。
【0016】
原油蒸留装置1は、例えばデソルター12と、プレフラッシュドラム13と、加熱炉14と、常圧蒸留塔11とを上流側からこの順に接続した構成となっている。デソルター12は受け入れた原油中の水分や塩分などを取り除く(脱塩する)役割を果たし、プレフラッシュドラム13は脱塩後の原油をたとえばナフサ留分などの軽質分と、ナフサ留分より重い重質分とに分け、軽質分を常圧蒸留塔11に直接供給する一方、重質分を後段の加熱炉14へと供給する役割を果たす。加熱炉14は、プレフラッシュドラム13から供給された重質分を例えば300℃〜380℃程度の温度に加熱し、常圧蒸留塔11へと供給する機能を備えている。
【0017】
これらの機器12、13、14を接続する配管には、熱交換器群などのヒーターが介設されており、プレフラッシュドラム13や加熱炉14に供給される前の原油や重質分を所定の温度まで予熱することができるようになっている。デソルター12、プレフラッシュドラム13、加熱炉14及びこれらを接続する配管からなる一連の機器群は、本実施の形態の第1の原油供給ラインに相当する。
【0018】
常圧蒸留塔11は、プレフラッシュドラム13より受け入れた軽質分と、加熱炉14より受け入れた重質分とを常圧蒸留して、ナフサ、灯油、軽質軽油(Light Gas Oil、以下LGOという)と、重質軽油(Heavy Gas Oil、以下HGOという)と、ARとの各留分及び塔頂ガスに分留する本実施の形態の主蒸留塔であり、例えば公知の棚段式の蒸留塔として構成されている。ここで本発明の残渣油留分であるARと対比して、塔頂ガス、ナフサ、灯油、LGO、HGOは、本発明の「この他の留分」に相当する。
【0019】
常圧蒸留塔11の塔底には、油中の軽質分を追い出すストリッピングスチームを供給するための配管が接続されている一方、塔頂側には塔頂ガスを冷却して塔頂ガスとナフサとに分けるレシーバー15が設けられている。また常圧蒸留塔11には、各留分の切れをよくするためのリフラックラインや、常圧蒸留塔11から抜き出された灯油、LGO、HGO中の軽質分をスチームで追い出すためのサイドストリッパーなどが設けられているが、便宜上、図示を省略してある。常圧蒸留塔11から留出し、クーラーにて冷却されたナフサ、灯油、LGO、HGOの各留分は、脱硫装置などの後段の処理装置へと送られる。一方、塔底部から取り出された本実施の形態の残渣油留分であるARの一部は、後段のRFCCUに移送され触媒により接触分解される一方、残るARは、AR移送配管111(残渣油留分供給ライン)を介して後段の減圧蒸留装置3へと送られて減圧蒸留されるようになっている。
【0020】
減圧蒸留装置3は、例えばサージドラム32と、加熱炉33と、減圧蒸留塔31とを上流側からこの順に接続した構成となっており、サージドラム32は常圧蒸留塔11から受け入れたARなどを一時的に貯留して加熱炉33へ向けて払い出す役割を果たし、加熱炉33は、サージドラム32から供給された減圧蒸留原料を例えば380℃〜420℃程度の温度に加熱する役割を果たす。
【0021】
減圧蒸留塔31は、加熱炉33より受け入れた原料油を例えば1.33kPa〜13.3kPa(10mmHg〜100mmHg)程度の減圧雰囲気下で蒸留し、減圧蒸留塔31の塔頂部及び中段部から留出した留分を混合して得られる減圧軽油(Vacuum Gas Oil、以下VGOという)と、減圧残渣油(Vacuum Residue、以下VRという)とに分留する、例えば棚段式の蒸留塔として構成されている。
【0022】
既述の常圧蒸留塔11と同様に、減圧蒸留塔31の塔底には、油中の軽質分を追い出すストリッピングスチームを供給するための配管が接続されている。そして、塔底より得られたVRは例えば重油基材やコークス、アスファルトの原料となる一方、VGOは、原油処理装置1側のARと同様に、RFCCUの原料となる点が本原油処理システムの特徴となっているが、その詳細については後述する。
【0023】
以上に説明した原油処理システムには、例えばCCR、V、Niの含有量が比較的多い重質原油を処理して、RFCCU原料を得るための重質原油前処理装置2が設けられている。以下、重質原油前処理装置2の詳細について説明する。
【0024】
マヤ原油、オリノコタール、オイルサンド・ビチュメンなどの超重質原油などと呼ばれる重質原油は、例えば図2に概略的に示すように、留出温度が高い重質留分ほど多くの触媒毒(CCR、V、Ni)を含有している。そこで例えば、留出温度がHGOよりも軽質の留分(HGOを含む。以下同じ)だけを重質原油より抜き出して常圧蒸留塔11に供給すれば、これらの軽質留分は、ARには殆ど混入せずに、HGOよりも軽質の留分として常圧蒸留塔11より留出することになる。この結果、AR中におけるRFCCUの触媒毒の含有量を殆ど上昇させることなく、重質原油の一部を原油蒸留装置1にて処理することが可能となる。本実施の形態に係る重質原油前処理装置2はこのような考え方に基づいて構成されており、重質原油前処理装置2に供給される重質原油は、本実施の形態の第2の原油に相当している。
【0025】
重質原油前処理装置2は、例えば重質原油中の塩分などを脱塩するデソルター22と、脱塩後の重質原油を200℃〜370℃程度の温度に加熱する加熱炉23と、プレフラッシャー21とを上流側からこの順に接続した構成となっている。デソルター22、加熱炉23及びこれらを接続する配管からなる一連の機器群は、本実施の形態の第2の原油供給ラインに相当する。
【0026】
プレフラッシャー21は、加熱炉23より受け入れた重質原油を、例えばHGOよりも軽質側の軽質留分と、これより重質の重質留分とに分留する蒸留塔である。プレフラッシャー21は特定の方式のものに限定されず、棚段式の蒸留塔でもよいし、例えばフラッシュ蒸留方式の蒸留塔でもよい。また温度条件、圧力条件も特定の範囲の条件に限定されず、目的の温度で軽質留分と重質留分とを分留できればよい。プレフラッシャー21は本実施の形態の副蒸留塔に相当し、重質原油を本発明の「この他の留分」の蒸留温度範囲に含まれる軽質留分と、残る重質留分とに分留していることになる。
【0027】
プレフラッシャー2から留出した例えばHGOよりも軽質の軽質留分は、軽質留分供給配管211を介して例えば原油蒸留装置1の常圧蒸留塔11に供給される。ここで、プレフラッシャー2における軽質留分-重質留分間の切れの程度によっては重質留分の一部が軽質留分側へ混入して常圧蒸留塔11へ供給されることもありうる。そこで、例えば軽質留分の90%留出温度が、常圧蒸留塔から留出するHGOの90%留出温度よりも例えば10℃程度低くなるように余裕を持たせ、ARへの触媒毒の混入量を低減してもよい。以上に説明した軽質留分供給配管211及びこの軽質留分供給配管211と合流して軽質留分を常圧蒸留塔11に供給する配管は、本実施の形態の軽質留分供給ラインに相当する。
【0028】
一方で、プレフラッシャー21にて軽質留分が取り出された後の残りの留分である重質留分は、例えばAR相当の蒸留性状を持っている。この重質留分は、重質留分供給配管212を介して例えば減圧蒸留装置3のサージドラム32に供給され、常圧蒸留塔11側から留出したARと共に減圧蒸留塔31にて減圧蒸留される。ここでプレフラッシャー21側から留出する重質留分は、触媒毒であるCCR、V、Niを多く含んでいるので、サージドラム32から減圧蒸留塔31へ供給されるARとの混合後の減圧蒸留原料についても常圧蒸留塔11から留出するARよりも多くの触媒毒を含んでいる。
【0029】
一方で、この減圧蒸留原料についても図2に示したように、重質側により多くの触媒毒を含み、軽質側はその含有量が少ないという特性を示す。そこで減圧蒸留塔31においては、例えばCCR、V、Niの含有量のいずれもが、予め設定した設定値以下となる留出温度にてVGOとVRとを分留し、こうして得られた触媒毒の含有量が少ないVGOを、例えば常圧蒸留塔11側から留出したARの一部と混合して、後段のRFCCUに供給する構成となっている。そして前記触媒毒を多く含むVRは、例えば重油基材やコークス、アスファルトの原料として使用される。重質留分供給配管212、サージドラム32、加熱炉33及びこれらを接続する配管は、重質留分供給ラインに相当している。
【0030】
CCR、V、Niの各設定値は、例えばARとVGOとの混合割合の変化などによって適宜設定されるが、RFCCUの原料油(本例ではARとVGOとの混合油)中に含まれる触媒毒の含有量が、例えば原油蒸留装置1に軽質原油である第1の原油を単独で処理したときに得られるARと同程度となるように設定することが好ましい。ここでRFCCにされる原料油中のV、Ni、CCRの具体的な量は、RFCCの処理能力や触媒によって大きく変化するので具体的な値を例示することは困難であるが、各々のRFCCにて設定されている原料油中のV、Ni含有量やCCRの規格(目標値)を満足するように、例えばVGOの90%留出温度が設定される。
【0031】
このように、減圧蒸留塔31から流出するVGOは、常圧蒸留塔11側から留出したARにより希釈されてからRFCCUに供給されるので、各触媒毒の設定値は、ARによる希釈率や当該AR中の触媒毒の含有量によって変化する。このときVGO中の触媒毒の含有量は、計算上、VGOトータルで設定値以下となっていればRFCCUでの処理が可能となるが、VGO-VR間の切れの程度によってはVR側の留分がVGO側に混入する場合もある。そこで本実施の形態に係る減圧蒸留塔31は、例えばVGOの90%留出温度における留分中の触媒毒の含有量が前記設定値以下となるようにすることにより、例えばVRの10%程度がVGO側に混入してもRFCC原料としての各触媒毒の含有量が予め設定された目標値を超えないようになっている。さらにこのとき、VGO側の90%留出温度を理論上の温度に対して例えば10℃程度低くなるように余裕を持たせて設定してもよい。
【0032】
また、本実施の形態に係る原油蒸留装置1、重質原油前処理装置2、減圧蒸留装置3の各原料供給配管や中間製品の払い出し配管、加熱炉14、23、33の燃料供給配管などには、流量調整弁などの制御端が設けられており、これらの制御端が互いに協働して原油処理システム全体を制御するDCS(Distributed Control System、分散型制御システム)を構成している。これにより、例えば、軽質留分、重質留分や各中間製品の留出温度範囲を調節することができるようになっている。
【0033】
そして常圧蒸留塔11から流出するARは、例えば定期的にサンプリングされてその蒸留性状やV、Ni含有量、CCRが計測される。そして例えば、AR中のVやNiの含有量、CCRの値が予め定めた設定値以上になったら、例えば重質原油前処理装置2に供給される重質原油がさらに重質化し、軽質留分によって常圧蒸留塔11へ持ち込まれるVやNi、CCRが増大していることを示している。そこで、この場合には加熱炉23への燃料供給量を減らして、プレフラッシャー21に供給される重質原油の温度を下げて、軽質留分に含まれるV、Ni、CCRを低下させることにより、RFCCUに直接供給されるAR中のこれら被毒成分の量を低減することができる。なお、ARの蒸留性状やV、Ni含有量、CCRの分析をオンラインで行い、オンライン分析計の検出値に基づいて、加熱炉23の出口の重質原油の温度を調節するフィードバック制御を行ってもよいことは勿論である。
【0034】
以上に説明した構成の重質原油前処理装置2に重質原油が供給されると、重質原油はデソルター22、加熱炉23を通って所定の温度まで昇温され、プレフラッシャー21内にてHGOよりも軽質で、触媒毒の含有量が少ない軽質留分と、残る重質留分とに分離される。そしてプレフラッシャー21にて分離された軽質留分は、常圧蒸留塔11にて蒸留され、HGOより軽質の各留分として留出するので、重質原油により持ち込まれた触媒毒は、AR中には殆ど混入しない。
【0035】
ここで実際には、プレフラッシャー21における軽質留分-重質留分間の切れの程度、またHGO-AR間の切れの程度によっては、重質原油により持ち込まれた触媒毒の若干量がAR中に混入する場合も考えられる。しかしながら、当該ARの一部は減圧蒸留装置3にて減圧蒸留され、触媒毒の含有量が少ないVGOとして取り出され、残るARは当該VGOと混合されて触媒毒の含有量が目標値以下となるように調節してからRFCCの原料油とされるので、従来以上にRFCCUの触媒活性を低下させるおそれは少ない。
【0036】
またこのとき、常圧蒸留塔11から留出するARは、その蒸留性状やV、Ni含有量、CCRが定期的にモニタリングされている。そして、例えば重質原油の性状変化などの理由によりAR中のV、Ni含有量、CCRが設定値を超えたら、重質原油前処理装置2の加熱炉23の出口温度を下げ、V、Ni含有量が多くCCRが高い、軽質留分中の比較的留出温度の高い留分を重質留分側に移行させる。これにより、常圧蒸留塔11に供給される軽質留分の中の触媒毒の含有量を低下させ、RFCCUに直接供給されるAR中のこれら触媒毒の含有量を低減することができる。
【0037】
一方、プレフラッシャー21の塔底から留出した重質留分は、減圧蒸留装置3へと供給されて、原油蒸留装置1からの一部のARと共に減圧蒸留塔31にて減圧蒸留が行われ、触媒毒の含有量が少ないVGOと、残るVRとに分留してから当該VGOが残るARと混合されてRFCCUに供給される。このとき既述のようにVGOの例えば90%留出温度は、RFCCの原料油中の触媒毒の含有量が目標値以下となるように設定されている。そして本例においては、この目標値は例えば原油蒸留装置1にて軽質原油である第1の原油を単独で処理したときに得られるARと、触媒毒の含有量が同程度となるように設定しているので、RFCCUにおける触媒活性の低下の程度を従来と同等程度に抑えることができる。
【0038】
本実施の形態に係る原油処理システムによれば以下の効果がある。RFCCUに用いられる触媒に対する触媒毒(CCR、V、Ni)の含有量が多い重質原油(第2の原油)を処理することが可能なプレフラッシャー21を備え、ARには殆ど混入しないHGOよりも軽質の軽質留分だけを前記重質原油から抜き出すので、触媒毒の含有量が少ない軽質原油(第1の原油)を処理する常圧蒸留塔11に当該軽質留分を供給しても、常圧蒸留塔11から留出する残渣油留分に含まれる触媒毒の含有量の上昇を抑えることができる。この結果、後段のRFCCUに影響を与えることなく原油を重質化できるので、当該原油処理システムにて処理可能な原油選択の幅が広がる。
【0039】
特に、重質原油を2つの留分(軽質留分と重質留分)に分留する重質原油前処理装置2は、装置構成も比較的単純であり、例えばRDSUやこれに付随してFCCRU原料中のVやNiを除去する脱メタル塔を建設する場合に比べて装置の建設コストを抑制できる。 また、例えば既存の原油蒸留装置1にて処理原油を重質化する場合においても、本例にかかる原油処理システムは、原油蒸留装置1の稼動を継続しながら例えば隣接地区に重質原油前処理装置2や減圧蒸留装置3を建設し、これらが完成してから原油蒸留装置1と接続することが可能であり、原油蒸留装置1の停止期間を短期間に抑え、機会ロスの低減に貢献できる。
【0040】
ここで上述のプレフラッシャー21においては、重質原油を、HGOよりも軽質の留分からなる軽質留分と、残る重質留分とに分留する場合について説明したが、軽質留分-重質留分間の分留の方針はこの例に限定されるものではない。例えば図2に示す留出温度-触媒毒含有量特性において、例えば軽質留分の90%留出温度における触媒毒の含有量が予め設定した設定値以下、例えば原油蒸留装置1に軽質原油である第1の原油を単独で処理したときに得られるARと同程度の含有量以下となる留出温度範囲の留分を軽質留分としてもよい。
【0041】
この場合には、例えば軽質留分中にHGOよりも重質の留分が含まれる場合には、この留分はAR中に混入することになるが、当該留分中の触媒毒の含有量は軽質原油を単独で処理した場合のARよりも含有量が少ない分かっているので、AR中の触媒毒の含有量を上昇させることはない。本例の場合も軽質留分-重質留分間の切れの程度により軽質留分中に重質留分の一部が混入することを考慮して、例えば前記設定値における90%留出温度よりも10℃程度低い温度が軽質留分の90%留出温度となるように余裕を持たせてもよい。
【0042】
このほか、原油蒸留装置1側に供給される軽質原油(第1の原油)と、重質原油前処理装置2側に供給される重質原油(第2の原油)との供給比は、例えば常圧蒸留塔11やプレフラッシャー21のサイズや運転可能な供給量範囲により適宜設定されるが、常時、双方のラインから並列に原油を供給する場合に限定されない。例えば一方側の原油供給ラインからの原油供給を停止し、原油の供給が停止された原油供給ラインは原油を循環させた状態にするなどしておき、他方側からの原油供給のみによる運転を行ってもよい。
【0043】
そして、RFCCの原料油における触媒毒の含有量の目標値は、RFCCUの原料油性状制約の範囲内とする場合に限定されるものではない。例えばこれよりも目標値を厳しい値(低い値)にして、RCCUの触媒劣化の度合いをさらに抑制してもよいし、反対に目標値を緩和して(高くして)、その分VGOの得量、言い替えるとRFCCU原料油の得量を増やしてもよい。この場合には、例えばRFCCUへの触媒投入量を増やすことにより、触媒劣化分の活性が補われる。
【0044】
さらには、本発明の原油処理システムは、重質留分を処理可能な減圧蒸留塔31を必ずしも設けなくてもよい。プレフラッシャー21より取り出された重質留分をそのまま重油基材、コークスやアスファルト原料としてもよいし、例えばRDSUを備える他の製油所に重質留分を転送して処理してもよい。このとき常圧蒸留塔11から留出するARは例えばその全量がRFCCUの原料油となる。
【0045】
さらにまた本例では、RFCC触媒の触媒毒として、原油に含まれるCCR、V、Niに着目したが、本発明を適用して処理可能な原油に含まれる触媒毒の種類はこれに限られるものではない。例えば図2に示すように、軽質留分中の含有量が少ない特性を持つ触媒毒であれば、ARに混入しない留分のみを軽質留分として抜き出し、または触媒毒の含有量が少ない留分のみを軽質留分として抜き出し、常圧蒸留塔11にて処理するという考え方、さらに重質留分中の触媒含有量が少ないVGOのみを抜き出してFCCU原料とする考え方を適用することができる。
【0046】
これらに加え、本発明を原油処理システムにより原料を供給可能な接触分解プロセスはRFCCに限定されず、例えば常圧蒸留塔11から留出したARの全量を減圧蒸留塔31にて処理し、得られたVGOを間接脱硫装置(HDSU)にて脱硫してから接触分解を行うFCCプロセスにも適用することができる。この場合にも例えばHDSUに供給する原料油中のCCR、V、Niの含有量が予め設定した設定値以下となるように、VGOの例えば90%留出温度を設置し、その結果、HDSUの蒸留塔から留出する例えば脱硫減圧軽油中のこれら触媒毒の含有量が軽質原油を単独で処理した場合と同等以下になるようにすればよい。
【符号の説明】
【0047】
1 原油蒸留装置
11 常圧蒸留塔
2 重質原油前処理装置
21 プレフラッシャー
211 軽質留分供給配管
212 重質留分供給配管
3 減圧蒸留装置
31 減圧蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の原油供給ラインより供給される第1の原油を、その全量または一部が接触分解プロセスの原料油となる残渣油留分、及びこの他の留分に分留する主蒸留塔と、
第2の原油供給ラインより供給され、前記第1の原油よりも前記接触分解プロセスに用いられる触媒に対する触媒毒を多く含む第2の原油を、前記この他の留分の蒸留温度範囲に含まれる軽質留分と、残りである重質留分とに分留する副蒸留塔と、
前記軽質留分を、前記主蒸留塔に供給して処理するための軽質留分供給ラインと、を備えたことを特徴とする原油処理システム。
【請求項2】
第1の原油供給ラインより供給される第1の原油を、その全量または一部が接触分解プロセスの原料油となる残渣油留分、及びこの他の留分に分留する主蒸留塔と、
第2の原油供給ラインより供給され、前記第1の原油よりも前記接触分解プロセスに用いられる触媒に対する触媒毒を多く含む第2の原油を、当該触媒毒の含有量が予め定めた設定値以下である軽質留分と、残りである重質留分とに分留する副蒸留塔と、
前記軽質留分を、前記主蒸留塔に供給して処理するための軽質留分供給ラインと、を備えたことを特徴とする原油処理システム。
【請求項3】
前記重質留分を、前記接触分解プロセスの原料油となる減圧軽油留分、及びこの他の減圧残渣油留分に減圧蒸留する減圧蒸留塔と、前記副蒸留塔から当該減圧蒸留塔に前記重質留分を供給して処理するための重質留分供給ラインとを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の原油処理システム。
【請求項4】
前記残渣油留分を、前記減圧蒸留塔に供給して処理するための残渣油留分供給ラインを備えたことを特徴とする請求項3に記載の原油処理システム。
【請求項5】
前記主蒸留塔から留出した残渣油留分と、前記減圧蒸留塔から留出した減圧軽油留分とを混合して前記接触分解プロセスの原料油とすること特徴とする請求項3または4に記載の原油処理システム。
【請求項6】
前記触媒毒は、ニッケル、バナジウムまたは残留炭素分からなる触媒毒群から選択されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の原油処理システム。
【請求項7】
前記第2の原油は、マヤ原油、オリノコタール、オイルサンド・ビチュメンからなる原油群から選択される原油を含んでいることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の原油処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144224(P2011−144224A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4345(P2010−4345)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】