説明

原油処理システム

【課題】腐食性物質を比較的多く含有する原油を処理することが可能な原油処理システムを提供する。
【解決手段】主蒸留塔11は、第1の原油を目的の留分に分留し、副蒸留塔21は、第1の原油よりも腐食性物質を多く含む第2の原油を、当該腐食性物質の含有量が前記主蒸留塔11にて腐食を引き起こさない量である軽質留分と、残りである重質留分とに分留すると共に、軽質留分供給ラインは、主蒸留塔11にて軽質留分を処理するために当該軽質留分を副蒸留塔21から主蒸留塔11へ供給する。ここで第2の原油を副蒸留塔21に供給する供給ライン及び副蒸留塔21は、第2の原油及び重質留分と接触する環境下で、前記腐食性物質に対する耐腐食性を備えた材料を用いて構成されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食性物質を含む原油を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の原油の需要増加、高騰、生産量の頭打ちから、これまで敬遠されていた腐食性物質を比較的多く含む原油(以下、腐食性原油という)の処理のニーズが高まっている。一方、原油を処理する原油蒸留装置(Crude Distillation Unit、以下、CDUという)のなかには老朽化が進んでおり、腐食性原油を処理することは、大きな困難が伴う場合がある。
【0003】
腐食性原油に含まれる例えばナフテン酸などの腐食性物質は、例えば原油1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg-KOH/g)である全酸度(Total Acid Number;以下、TANという)などを指標としてその含有量が表され、このTANの値が大きくなるほど腐食性の高い原油と評価される。腐食性の高い原油を処理する場合には、特に高温に加熱された腐食性原油と接触する領域にて配管や機器の腐食が進行しやすくなるため、例えばSUS317など、耐腐食性が高いものの、高価な材料を用いなければならない。
【0004】
しかしながら原油蒸留装置において、加熱された腐食性原油と接触する機器は、予熱用の熱交換器群や加熱炉、蒸留塔など広範囲に及ぶため、例えば既存の原油蒸留装置にて腐食性原油を処理可能にする改造を行う場合であっても大規模でコストの高い改造工事を実施しなければならない。また、改造のため原油蒸留装置を停止する期間も長期間に及び、その間、原油を処理できないことに伴う機会ロスも膨大になってしまう。
【0005】
そこで従来は、腐食性原油を他の原油で希釈して原油蒸留装置の改造をせずに腐食性原油の処理が行われてきたが、この場合には希釈用の原油が大量に必要となると共に、腐食性原油の処理量の制約も大きいといった問題があった。
【0006】
そこで例えば薬剤により腐食性物質を中和して腐食性原油のTANを低下させることにより、従来の原油処理装置の改造を行わずに腐食性原油の処理を可能にする技術が検討されている(例えば特許文献1)。しかしながら薬剤による処理は実際の装置に適用した実績が少なく、実際に装置の腐食を抑えることが可能であるのか不明な部分が多い。
【0007】
また特許文献2には、ナフテン酸などの腐食性物質を含んだ原料油を熱反応器内で不活性ガスと接触させながら加熱することにより、ナフテン酸を分解し、当該原料油を、分解しきれなかったナフテン酸を含む揮発性の液体と、ナフテン酸の含有量が低減された非揮発性の反応器油とに分離する技術が記載されている。揮発性液体は、例えば水酸化カルシウムなどの塩基性の薬剤にて当該液体中に含まれるナフテン酸を中和、分離された後、前述の非揮発性の反応器油と混合することにより、ナフテン酸の含有量を低減した原料油となる。
【0008】
しかしながら特許文献2に記載の技術では、原料油を加熱する熱源や不活性ガス、ナフテン酸の中和用の薬剤などが必要であり、原料油処理に必要な変動コストが高い。また揮発性液体中のナフテン酸の中和に薬剤を使用しており、特許文献1に記載の技術の場合と同様に、本技術を適用してナフテン酸を低減した原料油を原油処理装置に通油しても装置の腐食を引きこさないか否かを判断するための実証的なデータが少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−83395号公報:請求項1、段落0024、段落0029〜段落0030
【特許文献2】特表2003−534391号公報:段落0013、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、腐食性物質を比較的多く含有する原油を処理することが可能な原油処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る原油処理システムは、第1の原油供給ラインより供給される第1の原油を、目的の留分に分留する主蒸留塔と、
第2の原油供給ラインより供給され、前記第1の原油よりも腐食性物質を多く含む第2の原油を、当該腐食性物質の含有量が少ない軽質留分と、残りである重質留分とに分留する副蒸留塔と、
前記軽質留分を、前記主蒸留塔に供給して処理するための軽質留分供給ラインと、を備え、
前記第2の原油供給ライン及び副蒸留塔は、前記第2の原油及び重質留分の少なくとも一方と接触する環境下で、前記腐食性物質に対する耐腐食性を備えた材料を用いて構成されていることを特徴とする。
【0012】
さらに前記原油処理システムは、以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記重質留分を目的の留分に減圧蒸留する減圧蒸留塔と、前記副蒸留塔から当該減圧蒸留塔に前記重質留分を供給して処理するための重質留分供給ラインとを備え、これら減圧蒸留塔及び重質留分供給ラインは、当該重質留分と接触する環境下で、前記腐食性物質に対する耐腐食性を備えた材料を用いて構成されていること。
(b)前記主蒸留塔の底部から留出する残渣油留分を、前記減圧蒸留塔に供給して処理するための残渣油留分供給ラインを備えたこと。
(c)前記耐腐食性を備えた材料は、SUS317、SUS317L、SUS316(但し、Mo2.5%以上)、SUS316L(但し、Mo2.5%以上)であること。
(d)前記腐食性物質は、全酸度にてその含有量が特定される酸性物質であること。
(e)前記軽質留分は、全酸度が0.5mg-KOH/g以下であること。
(f)前記耐腐食性を備えた材料は、内部の環境が230℃以上となる部位に用いられること。
(g)前記第2の原油は、マヤ原油、オリノコタール、オイルサンド・ビチュメンからなる原油群から選択される原油を含んでいること。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、腐食性物質の含有量が多い第2の原油を処理することが可能な副蒸留塔を備え、当該第2の原油から腐食性物質の含有量が少ない軽質留分だけを抜き出すので、腐食性物質の含有量が少ない第1の原油を処理する主蒸留塔にて当該軽質留分を供給しても、主蒸留塔では腐食が引き起こされない。この結果、第2の原油を希釈せずに処理を行うことが可能になるので、当該原油処理システムにて処理可能な原油選択の幅が広がる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る原油処理システムの構成を示す説明図である。
【図2】高TAN原油の留出温度に対するTANの変化の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ナフテン酸などの腐食性物質を比較的多く含み、例えばTANの値が0.5以上の腐食性原油を処理することが可能な原油処理システムについて説明する。
図1は、本実施の形態に係る原油処理システムの構成を示す説明図であり、この原油処理システムには、例えば腐食性が低い通常の原油を常圧蒸留する原油蒸留装置1と、原油蒸留装置1から留出した常圧残渣油(Atmospheric Residue、以下ARという)を減圧蒸留する減圧蒸留装置3と、腐食性の原油を前処理してから低腐食性の留分を原油蒸留装置1へ送り、腐食性の高い留分を減圧蒸留装置3へ送る高TAN原油前処理装置2と、を備えている。
【0016】
原油蒸留装置1は、例えばTANの値が0.5未満であり、腐食性がそれ程高くない通常の原油を常圧蒸留して、各種の中間製品を得る装置である。例えば東南アジア産の原油や中東産の軽質原油や中質原油の原油の場合には、TANの値は0〜0.05程度である。原油蒸留装置1に直接供給される当該原油は、本実施の形態の第1の原油に相当する。
【0017】
原油蒸留装置1は、例えばデソルター12と、プレフラッシュドラム13と、加熱炉14と、常圧蒸留塔11とを上流側からこの順に接続した構成となっている。デソルター12は受け入れた原油中の水分や塩分などを取り除く(脱塩する)役割を果たし、プレフラッシュドラム13は脱塩後の原油をたとえばナフサ留分などの軽質分と、ナフサ留分より重い重質分とに分け、軽質分を常圧蒸留塔11に直接供給する一方、重質分を後段の加熱炉14へと供給する役割を果たす。加熱炉14は、プレフラッシュドラム13から供給された重質分を例えば300℃〜380℃程度の温度に加熱し、常圧蒸留塔11へと供給する機能を備えている。
【0018】
これらの機器12、13、14を接続する配管には、熱交換器群などのヒーターが介設されており、プレフラッシュドラム13や加熱炉14に供給される前の原油や重質分を所定の温度まで予熱することができるようになっている。デソルター12、プレフラッシュドラム13、加熱炉14及びこれらを接続する配管からなる一連の機器群は、本実施の形態の第1の原油供給ラインに相当する。
【0019】
常圧蒸留塔11は、プレフラッシュドラム13より受け入れた軽質分と、加熱炉14より受け入れた重質分とを常圧蒸留して、ナフサ、灯油、軽質軽油(Light Gas Oil、以下LGOという)と、重質軽油(Heavy Gas Oil、以下HGOという)と、ARとの各留分及び塔頂ガスの各中間製品に分留する本実施の形態の主蒸留塔であり、例えば公知の棚段式の蒸留塔として構成されている。
【0020】
常圧蒸留塔11の塔底には、油中の軽質分を追い出すストリッピングスチームを供給するための配管が接続されている一方、塔頂側には塔頂ガスを冷却して塔頂ガスとナフサとに分けるレシーバー15が設けられている。また常圧蒸留塔11には、各留分の切れをよくするためのリフラックラインや、常圧蒸留塔11から抜き出された灯油、LGO、HGO中の軽質分をスチームで追い出すためのサイドストリッパーなどが設けられているが、便宜上、図示を省略してある。常圧蒸留塔11から留出し、クーラーにて冷却されたナフサ、灯油、LGO、HGOの各留分は、脱硫装置などの後段の処理装置へと送られる。一方、塔底部から取り出された本実施の形態の残渣油留分であるARは、AR移送配管111(残渣油留分供給ライン)を介して後段の減圧蒸留装置3へと送られて減圧蒸留されるようになっている。このAR移送配管111は、例えばクーラーの下流で分岐しており、ARを後段の装置へ向けて払い出すこともできるようになっている。
【0021】
減圧蒸留装置3は、例えばサージドラム32と、加熱炉33と、減圧蒸留塔31とを上流側からこの順に接続した構成となっており、サージドラム32は常圧蒸留塔11から受け入れたARなどを一時的に貯留して加熱炉33へ向けて払い出す役割を果たし、加熱炉33は、サージドラム32から供給された減圧蒸留原料を例えば380℃〜420℃程度の温度に加熱する役割を果たす。
【0022】
減圧蒸留塔31は、加熱炉33より受け入れた原料油を例えば1.33kPa〜13.3kPa(10mmHg〜100mmHg)程度の減圧雰囲気下で蒸留し、例えば軽質減圧軽油(Light Vacuum Gas Oil、以下LVGOという)と、中質減圧軽油(Middle Vacuum Gas Oil、以下MVGOという)と、重質減圧軽油(Heavy Vacuum Gas Oil、以下HVGOという)と、減圧残渣油(Vacuum Residue、以下VRという)との各留分に分留する、例えば棚段式の蒸留塔として構成されている。
【0023】
既述の常圧蒸留塔11と同様に、減圧蒸留塔31の塔底には、油中の軽質分を追い出すストリッピングスチームを供給するための配管が接続されており、また減圧蒸留塔31から留出したLVGO、MVGO、HVGOは脱硫装置などの後段の処理装置へ送られる一方、VRは例えば重油基材やコークス、アスファルトの原料となる。
【0024】
以上に説明した原油処理システムには、例えばTANの値が0.5以上の腐食性の原油(以下、高TAN原油という)の処理を可能とするための高TAN原油前処理装置2が設けられている。以下、高TAN原油前処理装置2の詳細について説明する。
【0025】
本発明者は、高TAN原油を構成する留分と各留分のTANの値との間に共通する特徴があることを見出した。例えば図2は、マヤ原油、オリノコタール、オイルサンド・ビチュメンなどの高TAN原油において、当該原油の留出温度に対してその留出温度の留分におけるTANの値の概略の傾向をプロットした特性図である。
【0026】
図2によれば、高TAN原油は、留出温度の低い軽質な留分においてTANの値が比較的低く、留出温度の高い重質な留分ではTANの値が比較的高くなっていることが分かる。そこで例えばTANの値が0.5未満となる、腐食性物質の含有量が少ない留出温度範囲の留分(以下、軽質留分という)を高TAN原油中から抜き出せば、この軽質留分全体のTANの値も0.5未満となり、例えば原油蒸留装置1にてナフテン酸に対する腐食対策を講じたり、TANの値の低い原油で希釈したりしなくても常圧蒸留塔11などにおいて腐食を引き起こさずに当該軽質留分を処理することが可能となる。
【0027】
ここで「腐食を引き起こさない」とは、常圧蒸留塔11を構成する材料にて殆ど腐食が進行しない場合だけではなく、仮に当該材料の腐食が進行したとしても、当該材料の更新周期の間、十分な材料強度が保たれる程度に腐食の程度が抑えられる場合も含んでいる。本実施の形態に係る高TAN原油前処理装置2はこのような考え方に基づいて構成されており、高TAN原油前処理装置2に供給される高TAN原油は、本実施の形態の第2の原油に相当している。
【0028】
高TAN原油前処理装置2は、例えば高TAN原油中の塩分などを脱塩するデソルター22と、脱塩後の高TAN原油を200℃〜370℃程度の温度に加熱する加熱炉23と、プレフラッシャー21とを上流側からこの順に接続した構成となっている。デソルター22、加熱炉23及びこれらを接続する配管からなる一連の機器群は、本実施の形態の第2の原油供給ラインに相当する。
【0029】
プレフラッシャー21は、加熱炉23より受け入れた高TAN原油を、軽質留分(例えば留分中のTANの値が0.5未満となる留出温度範囲の留分)とこれより重質の重質留分とに分留する蒸留塔である。プレフラッシャー21は特定の方式のものに限定されず、棚段式の蒸留塔でもよいし、例えばフラッシュ蒸留方式の蒸留塔でもよい。また温度条件、圧力条件とも特定の範囲の条件に限定されず、目的の温度で軽質留分と重質留分とを分留できればよい。プレフラッシャー21は本実施の形態の副蒸留塔に相当している。
【0030】
ここで軽質留分のTANの値は、当該軽質留分トータルで0.5未満となれば常圧蒸留塔11での処理が可能となるが、軽質留分-重質留分間の切れの程度によっては重質留分側の留分が軽質留分側に混入することが避けられない。そこで本実施の形態に係るプレフラッシャー21は、例えば軽質留分の90%留出温度における留分のTANの値が0.5となるように軽質留分と重質留分とを分留することにより、例えば10%程度の重質留分が軽質留分側に混入しても軽質留分トータルのTANの値が0.5を超えないようになっている。
【0031】
例えば図2においてTANの値が0.5となる留出温度が260℃程度である場合には、灯油より軽質の軽質留分が軽質留分供給配管211を介して例えば原油蒸留装置1の常圧蒸留塔11に供給される。そしてLGOより重質の重質留分が重質留分供給配管212を介して例えば減圧蒸留装置3のサージドラム32に供給されて減圧蒸留される。ここで軽質留分供給配管211及びこの軽質留分供給配管211と合流して軽質留分を常圧蒸留塔11に供給する配管は、本実施の形態の軽質留分供給ラインに相当し、重質留分供給配管212、サージドラム32、加熱炉33及びこれらを接続する配管は、重質留分供給ラインに相当している。
【0032】
このとき例えば原油蒸留装置1の常圧蒸留塔11は、既述のように例えばTANの値が0.5未満の腐食性の低い原油を処理するように構成されている。この場合には、常圧蒸留塔11をはじめとする各機器は、例えば耐硫化腐食性を備える一方、ナフテン酸に起因する腐食には耐性の低い5Cr-0.5Mo鋼や18Cr鋼などの材料が用いられている。
【0033】
一方、ナフテン酸などの腐食性物質を多く含む高TAN原油や重質留分では、例えば230℃以上の温度環境にて腐食が進行することが知られている。そこで本実施の形態に係る原油処理システムにおいては、高TAN原油前処理装置2や減圧蒸留装置3を構成する各機器のうち、例えば230℃以上に加熱された高TAN原油や重質留分と接触する領域における配管や機器を耐腐食性の高い材料で構成している。耐腐食性の高い材料としては、例えば既述のSUS317(JIS G4305等に規定、Cr;18〜20%、Ni;11〜15%、Mo;3〜4%、C;0.08%以下)のほか、SUS317L(C;0.03%以下であるほか、SUS317に同じ)、SUS316(Cr;16〜18%、Ni;10〜14%、Mo;2〜3%、C;0.08%以下)、SUS316L(Ni;12〜15%、C;0.03%以下であるほかSUS316に同じ)、などが好適である。但し、SUS316、SUS316Lの場合には、Moの含有量が2.5%以上であることが好ましい。
【0034】
本例では例えば図1に破線で囲んで示した範囲、即ち、高TAN原油前処理装置2の加熱炉23の入口から、プレフラッシャー21の本体、及び重質留分供給配管212のクーラー手前までの領域、また、減圧蒸留装置3のサージドラム32のヒーター出口から減圧蒸留塔31の本体の蒸留温度が230℃以上となる高さ位置、さらにMVGO、HVGO、VRの払い出し配管のクーラーの手前までの領域が耐腐食性の高い材料により構成されている。ここで耐腐食性の高い材料を用いる範囲は、既述の230℃に対して例えば10℃程度の余裕を持たせて例えば高TAN原油や重質留分が220℃以上となる領域としてもよい。
【0035】
また、本実施の形態に係る原油蒸留装置1、高TAN原油前処理装置2、減圧蒸留装置3の各原料供給配管や中間製品の払い出し配管、加熱炉14、23、33の燃料供給配管などには、流量調整弁などの制御端が設けられており、これらの制御端が互いに協働して原油処理システム全体を制御するDCS(Distributed Control System、分散型制御システム)を構成している。これにより、例えば、軽質留分、重質留分や各中間製品の留出温度範囲を調節することができるようになっている。
【0036】
そして常圧蒸留塔11から流出する灯油、LGO、HGOは、例えば定期的にサンプリングされてこれら各中間製品のTANの値が計測される。そして、これら中間製品のTANの値が例えば0.5以上になったら、加熱炉23への燃料供給量を減らして、プレフラッシャー21に供給される高TAN原油の温度を下げて、軽質留分のTANの値を下げることにより、常圧蒸留塔11内で蒸留される原油(軽質留分を含む)のTANの値を0.5未満とする制御を行うことができる。なお、TANの分析をオンラインで行うことが可能な場合には、オンライン分析計の検出値に基づいて、加熱炉23の出口の高TAN原油の温度を調節するフィードバック制御を行ってもよいことは勿論である。
【0037】
以上に説明した構成の高TAN原油前処理装置2に高TAN原油が供給されると、高TAN原油はデソルター22、加熱炉23を通って所定の温度まで昇温され、プレフラッシャー21内にてTANの値が0.5未満の軽質留分と、残る重質留分とに分離される。このとき、230℃以上に加熱されている高TAN原油や重質留分と接触する加熱炉23やプレフラッシャー21などは、耐腐食性の高い材料により構成されているので、ナフテン酸などの腐食性物質に起因する腐食が引き起こされない。
【0038】
そしてプレフラッシャー21にて分離された軽質留分は、常圧蒸留塔11にて腐食性物質の含有量が常圧蒸留塔11にて腐食を引き起こさない程度にまで低減されているので、原油蒸留装置1に直接供給された原油と共に蒸留することが可能であり、こうして得られた各留分は後段の処理装置へと送られる。
【0039】
またこのとき、常圧蒸留塔11から留出する灯油、LGO、HGOは、TANの値が定期的にモニタリングされている。そして、例えば高TAN原油の性状変化などの理由によりいずれかの中間製品のTANの値が0.5を超えたら、高TAN原油前処理装置2の加熱炉23の出口温度を下げ、TANの値が高い、軽質留分中の比較的留出温度の高い留分を重質留分側に移行させる。これにより、常圧蒸留塔11に供給される軽質留分のTANの値を低下させ、腐食の発生が抑えられる。
【0040】
一方、プレフラッシャー21にて分離された腐食性物質を多く含む重質留分は、減圧蒸留装置3へと移送されて、原油蒸留装置1からのARと共に減圧蒸留塔31にて減圧蒸留が行われ、各留分が後段の処理装置へと送られる。このとき減圧蒸留装置3においても230℃以上に加熱されている重質留分と接触する加熱炉33や減圧蒸留塔31などは、耐腐食性の高い材料により構成されているので、ナフテン酸などの腐食性物質に起因する腐食が引き起こされない。ここで、減圧蒸留から留出した各留分に含まれるナフテン酸などの腐食性物質は、例えば常圧蒸留塔11から留出した留分との混合により希釈され、さらに後段の脱硫装置等で処理される際に分解されるので、顕著な腐食の問題は起きない。
【0041】
本実施の形態に係る原油処理システムによれば以下の効果がある。ナフテン酸などの腐食性物質の含有量が多い高TAN原油(第2の原油)を処理することが可能なプレフラッシャー21を備え、当該高TAN原油から腐食性物質の含有量が少ない軽質留分だけを抜き出すので、腐食性物質の含有量が少ない原油(第1の原油)を処理する常圧蒸留塔11にて当該軽質留分を処理しても、常圧蒸留塔11では腐食が引き起こされない。この結果、第高TAN原油を希釈せずに処理を行うことが可能になるので、当該原油処理システムにて処理可能な原油選択の幅が広がる。
【0042】
また、多種の留分を分留し、熱回収の観点などから熱交換器(ヒーター/クーラー)の設置台数も多い原油蒸留装置1に比べて、高TAN原油を2つの留分(軽質留分と重質留分)に分留する高TAN原油前処理装置2は、常圧蒸留塔11に比べてプレフラッシャー21のサイズも小さく、熱交換器の設置台数も少ない。このため、例えば原油蒸留装置1の原油供給ラインの230℃以上となる領域や常圧蒸留塔11を耐腐食性の高い材料で構成することにより原油蒸留装置1に高TAN原油を直接供給する場合に比べて、耐腐食性材料の使用量が少なくて済み、装置の建設コストを抑制できる。これは、高TAN原油前処理装置2に加えて減圧蒸留装置3の減圧蒸留塔31やその供給ラインを耐腐食性材料で構成する場合においても同様である。
【0043】
また、例えば既存の原油蒸留装置1を改造することにより高TAN原油の処理を可能にする場合などにおいても、原油蒸留装置1の稼動を継続しながら例えば隣接地区に高TAN原油前処理装置2や減圧蒸留装置3を建設し、これらが完成してから原油蒸留装置1と接続することが可能であり、原油蒸留装置1の停止期間を短期間に抑え、機会ロスの低減に貢献できる。
【0044】
ここで原油蒸留装置1側に供給される腐食性物質の含有量の少ない原油(第1の原油)と、高TAN原油前処理装置2側に供給される高TAN原油(第2の原油)との供給比は、例えば常圧蒸留塔11やプレフラッシャー21のサイズや運転可能な供給量範囲により適宜設定されるが、常時、双方のラインから並列に原油を供給する場合に限定されない。例えば一方側の原油供給ラインからの原油供給を停止し、原油の供給が停止された原油供給ラインは原油を循環させた状態にするなどしておき、他方側からの原油供給のみによる運転を行ってもよい。
【0045】
また、上述の実施の形態では耐腐食性の高い材料を使用する領域を狭い範囲に抑えるため、例えば230℃以上の高TAN原油や重質留分と接触する領域を耐腐食性材料で構成した場合について説明したが、これ以外の領域において耐腐食性の高い材料を使用することを否定するものではない。例えば高TAN原油前処理装置2や減圧蒸留装置3全体に耐腐食性の高い材料を使用する場合も本発明に含まれる。
【0046】
そして、プレフラッシャー21にて取り出される軽質留分のTANの値についても0.5未満に限定されるものではなく、これ以下の値となるように軽質留分と重質留分とを分留してもよいし、例えば常圧蒸留塔11の耐腐食性能に合わせてこれより高い値となるように軽質留分を抜き出してもよい。
【0047】
このほか、本発明の原油処理システムは、腐食性物質を多く含む重質留分を処理可能な減圧蒸留塔31を必ずしも設けなくてもよい。プレフラッシャー21より取り出された重質留分をそのまま脱硫して重油基材などにしてもよいし、腐食性物質を多く含むARを処理可能な減圧蒸留塔31を備える他の製油所に重質留分を転送して処理してもよい。
【0048】
また、本例では原油に含まれる腐食性物質としてTANの値を指標として評価されるナフテン酸などの腐食物質に着目したが、本発明を適用して処理可能な原油に含まれる腐食性物質の種類はこれに限られるものではない。例えば図2に示すように、軽質留分中の含有量が少ない特性を持つ腐食性物質であれば、腐食性物質の含有量が少ない軽質留分のみを抜き出して常圧蒸留塔11にて処理するという本発明の考え方を適用することができる。
【0049】
なお、原油の留出温度に対するTANの値をプロットした特性が図2に示したものと異なる場合であっても本発明の考え方を適用することができる。例えば留出温度が高い程、腐食性物質の含有量が少なくなる右肩下がりの特性を持つ場合や、中間の留出温度において腐食性物質の含有量が高い上に凸の特性を持つ場合、あるいは中間の留出温度において腐食性物質の含有量が低い下に凸の特性を持つ場合であっても、高TAN原油前処理装置2にて腐食性物質の含有量が少ない留分を抜き出して常圧蒸留塔11に供給すればよい。
【符号の説明】
【0050】
1 原油蒸留装置
11 常圧蒸留塔
2 高TAN原油前処理装置
21 プレフラッシャー
211 軽質留分供給配管
212 重質留分供給配管
3 減圧蒸留装置
31 減圧蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の原油供給ラインより供給される第1の原油を、目的の留分に分留する主蒸留塔と、
第2の原油供給ラインより供給され、前記第1の原油よりも腐食性物質を多く含む第2の原油を、当該腐食性物質の含有量が少ない軽質留分と、残りである重質留分とに分留する副蒸留塔と、
前記軽質留分を、前記主蒸留塔に供給して処理するための軽質留分供給ラインと、を備え、
前記第2の原油供給ライン及び副蒸留塔は、前記第2の原油及び重質留分の少なくとも一方と接触する環境下で、前記腐食性物質に対する耐腐食性を備えた材料を用いて構成されていることを特徴とする原油処理システム。
【請求項2】
前記重質留分を目的の留分に減圧蒸留する減圧蒸留塔と、前記副蒸留塔から当該減圧蒸留塔に前記重質留分を供給して処理するための重質留分供給ラインとを備え、これら減圧蒸留塔及び重質留分供給ラインは、当該重質留分と接触する環境下で、前記腐食性物質に対する耐腐食性を備えた材料を用いて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の原油処理システム。
【請求項3】
前記主蒸留塔の底部から留出する残渣油留分を、前記減圧蒸留塔に供給して処理するための残渣油留分供給ラインを備えたことを特徴とする請求項2に記載の原油処理システム。
【請求項4】
前記耐腐食性を備えた材料は、SUS317、SUS317L、SUS316(但し、Mo2.5%以上)、SUS316L(但し、Mo2.5%以上)であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の原油処理システム。
【請求項5】
前記腐食性物質は、全酸度にてその含有量が特定される酸性物質であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の原油処理システム。
【請求項6】
前記軽質留分は、全酸度が0.5mg-KOH/g以下であることを特徴とする請求項5に記載の原油処理システム。
【請求項7】
前記耐腐食性を備えた材料は、内部の環境が230℃以上となる部位に用いられることを特徴とする請求項5または6に記載の原油処理システム。
【請求項8】
前記第2の原油は、マヤ原油、オリノコタール、オイルサンド・ビチュメンからなる原油群から選択される原油を含んでいることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一つに記載の原油処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144225(P2011−144225A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4350(P2010−4350)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】