説明

反射防止フィルム及びカメラシステム

【課題】カメラ1の光軸Lが窓2に対して斜め方向に入射する場合であっても、反射を抑制し、被写体Hをカメラ1で鮮明に撮影することができる反射防止フィルム及びカメラシステムを提供する。
【解決手段】窓2を介してカメラ1で被写体Hを撮影するカメラシステムに、反射防止フィルムを用いる。反射防止フィルムは、窓2の表面の垂線Vと前記カメラ1の光軸Lとが所定の角度θをなし、かつ、カメラ1の撮像範囲において窓2に貼付されるように形成されている。反射防止フィルムは、前記角度θに基づいてカメラ1の位置における光の反射が抑制されるように反射防止層の膜厚が調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓を介して被写体を撮影するカメラシステムに用いる反射防止フィルム及び反射防止フィルムを用いたカメラシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディスプレイやタッチパネルにおいて、ガラスやプラスチック板といった透明基板の表面に反射防止の処理をすることにより、透明基板への写り込みを低減し画像を見やすくする反射防止技術が知られている。例えば、透明基板の表面に、基板よりも屈折率の低い材料にて薄膜を形成したり、高屈折率の薄膜と低屈折率の薄膜とを複層形成したりすることにより、反射を防止する効果が得られる。このような薄膜は、透明基板に直接形成されてもよいし、表面に薄膜を形成したプラスチックフィルムを透明基板に貼付けるようにして設けられてもよい。
【0003】
ところで、反射防止技術は、ディスプレイやタッチパネルといった画像表示機器だけでなく、ショーウインドウやショーケースあるいは建物のガラスなどの窓においても、同様に写り込み低減の効果を得ることができるため、そのような用途への展開も図られつつある。
【0004】
そして、ガラスやプラスチックといった透明基板を介して肉眼で直接、物を見る場合だけではなく、防犯カメラなどカメラで撮影する場合においても、写り込みによってガラス等を介した被写体の画像が鮮明に見えない場合がある。その場合、カメラの撮像範囲にあたる部分のガラスに反射防止処理をしたり、反射防止フィルムを貼ったりして写り込みを低減し、ガラスを介して被写体を鮮明にカメラで撮影することも知られている。
【0005】
しかしながら、従来のカメラ撮影の反射防止技術においては、ガラスに対して光軸を垂直にしてカメラを設置した場合が検討されているだけである(例えば特許文献1,2参照)。ここで、監視カメラなど建物に設置するようなカメラシステムでは、通常、ガラス面に対して斜め方向、すなわちガラス面に対して垂直でない方向に、カメラの光軸が入ることが多い。特に、撮影したい被写体がガラス面に対して垂直な方向に存在しない場合、被写体を撮影するためには、ガラスの被写体とは反対側において、カメラの光軸を被写体に向けガラス面に対して斜め方向にしてカメラを設置せざるを得ない。このように、カメラの光軸がガラス面に対して斜め方向になると、ガラス表面の反射防止機能が写り込みを十分に防止することができず、結局、被写体を鮮明に撮影することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−267426号公報
【特許文献2】特開平11−240384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、カメラの光軸が窓に対して斜め方向になる場合であっても、反射を抑制し、被写体をカメラで鮮明に撮影することができる反射防止フィルム及びカメラシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、反射防止フィルムに係る発明は、窓を介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムに用いる反射防止フィルムであって、前記窓の表面の垂線と前記カメラの光軸とが所定の角度θをなし、かつ、前記カメラの撮像範囲において前記窓に貼付されるように形成され、前記角度θに基づいて前記カメラの位置における光の反射が抑制されるように反射防止層の膜厚が調整されたことを特徴とする。
【0009】
この発明にあっては、前記反射防止層の膜厚が100/cosθ(nm)の±10%の範囲内であることが好ましい。
【0010】
この発明にあっては、前記角度θが30〜60度であり、反射防止層の膜厚が110〜200nmであることが好ましい。
【0011】
カメラシステムに係る発明は、窓を介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムであって、前記カメラの撮像範囲において前記窓に、上記構成の反射防止フィルムが貼付されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反射防止フィルムによれば、窓による光の反射を抑制し、カメラの光軸が窓に対して斜め方向になる場合であっても、写り込みを低減し、被写体をカメラで鮮明に撮影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カメラシステムの一例を示す概略図である。
【図2】同上のカメラシステムの一例を示す概略説明図である。
【図3】(a)及び(b)は、カメラシステムの一例にて撮影した画像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
反射防止フィルムは、窓を介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムに用いられるものである。
【0015】
図1に、カメラシステムの一例を示す。このカメラシステムは、例えば、マンションにおいて不審者の侵入を防いだりする監視システムに用いられるものである。
【0016】
図1のカメラシステムでは、窓2を介してカメラ1で被写体Hを撮像するようにカメラ1が建物10の屋内に設置されている。カメラ1は上側に設けられた設置脚11で建物10の内部の天井12に支持され取り付けられている。窓2は、この形態では、透明なガラス材などによって形成されたスライド式の両側開きドアとなっている。なお、ドアの一部のみが透明になり窓になっていてもよく、また、ドアではなく、壁の一部に窓2が設けられていてもよい。また、カメラ1は壁13に取り付けられていてもよい。窓2の表面は断面視直線状の平坦な面として形成されている。
【0017】
図2に示すように、このようなカメラシステムにあっては、通常、カメラ1の光軸Lが窓2に対して斜め方向になる角度θから被写体Hを撮影しなければならない。すなわち、カメラ1は邪魔にならないように建物の所定位置に取り付けられる必要があり、カメラ1が天井12などに取り付けられた場合、被写体Hは天井12よりも下方に位置するので、カメラの光軸Lは窓2の表面に対して垂直にはならず、斜め方向になる。
【0018】
また、撮影したい被写体Hが窓2の表面に対して垂直な方向に存在しない場合がある。すなわち、窓2として小さいサイズのものを用いたような場合、被写体Hがこの窓2の垂直方向に存在しないことがある。被写体Hが窓2の垂直方向に存在するのであれば、カメラ1の取り付け位置を調整したりカメラ1の光軸Lの方向を調整したりしてできるだけ反射が少なくなるようにカメラ1を取り付けて撮影することも可能ではある。しかしながら、窓2の垂直方向に被写体Hが存在しない場合、被写体Hを撮影するためには、光軸Lが窓2を通過して被写体Hに向かうように光軸Lを窓2に対して斜め方向にしてカメラ1を設置せざるを得ない。そしてこの場合、光軸Lと窓2の垂線Vとのなす角度θはさらに大きくなる。
【0019】
このように、カメラ1の光軸Lが窓2の表面に対して斜め方向になると、光の反射が起こりやすく、写り込みが発生して、被写体Hを鮮明に撮影することができないという問題が生じる。
【0020】
そこで、反射防止フィルムを窓2に用いるのである。
【0021】
反射防止フィルムとしては、特に限定されるものではなく、プラスチックフィルムなどの基材の表面に、反射防止層として、基材よりも低屈折率の層が形成されているものを用いることができる。反射防止層は基材の表面に単層で形成されていることが好ましいが、これに限られない。基材の表面に、ハードコート層などの高屈折率層を形成し、さらにその表面(上層)に低屈折率層を形成したものであってもよい。また、基材の表面に、高屈折率層と低屈折率層とを複層で形成したものであっても構わない。
【0022】
反射防止フィルムの基材としては、特に限定されるものではなく、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、TAC(トリアセチルセルロース)、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂などの樹脂基材を用いることができる。そして、基材として、透明な基材であれば構わない。基材の厚みとしては、例えば、25〜200μm程度にすることができる。
【0023】
反射防止層は、反射を抑制するために、基材よりも低屈折率の層で構成される。例えば、反射防止層の屈折率nを1.25〜1.50程度に設定することができる。反射防止層は、反射防止層を形成する樹脂組成物(コーティング材)を基材の表面に塗布するなどして形成することができる。この反射防止層は、コーティング材を基材表面に塗布するウェットコーティング法で形成されたものであっても、蒸着法やスパッタ法といったドライコーティング法で形成されたものであっても構わない。
【0024】
コーティング材としては、例えば、バインダー材料に低屈折率の粒子(屈折率:1.20〜1.45)を添加したようなものを用いることができる。
【0025】
バインダー材料としては、シリコンアルコキシド系であっても、飽和炭化水素、ポリエーテルを主鎖として有するポリマー(UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂)であってもよい。その中にフッ素原子を含む単位を含有してもよい。
【0026】
低屈折率微粒子としては、具体的には、シリカ微粒子、中空シリカ微粒子、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等のフッ化物微粒子が好ましい。これら微粒子を1種類もしくは2種類以上混合して使用することができる。これら微粒子をバインダー樹脂に相溶性を持たせるための表面処理を施して分散させてもよい。
【0027】
このようなコーティング材を用いることにより、反射防止層の屈折率を低減することができるものである。
【0028】
反射防止フィルムは、窓ガラスや透明樹脂板などの窓2に貼付される。反射防止フィルムを窓2に貼付する方法としては、特に限定されるものではなく、粘着剤を介して貼る方法や、ラミネートする方法などを選択することができる。
【0029】
窓2に反射防止フィルムを貼付するにあたっては、窓2の両面に貼付しても片面のみに貼付しても構わない。両面に貼付する場合、反射防止効果を向上させることができるという利点がある。一方、片面のみに貼付する場合、反射防止フィルムの取り付けを簡単にして反射を抑制できるという利点がある。
【0030】
反射防止フィルムとしては、具体的には、例えば、剥離層、粘着層、基材、ガード層、反射防止層、保護層がこの順で積層されているものを用いることができる。この場合、フィルムの施工にあたっては、剥離層を剥離して、粘着層にて反射防止フィルムを貼付した後、保護層を剥離する。このような層構成のフィルムであれば、剥離層を剥離して粘着層を露出させることができ、また、保護層で施工時の傷つきを低減することができ、取り付け時の作業性が向上する。屋外側に貼付するフィルムの基材にアクリル基材を用いることも好ましい。その場合、耐久性を高めることができる。また、屋外側に貼付するフィルムの反射防止層に光触媒を含有させることも好ましい。それにより紫外線の侵入を低減することや、表面の汚れを光触媒による自浄作用により防止することができる。一方、屋内側に貼付するフィルムの基材にPETを用いることも好ましい。その場合、ガラスの飛散を防止することができる。また、反射防止層に撥水性や撥水撥油性を付与してもよい。その場合、防汚性を高めたり、雨や結露などの水滴による画像の低下を低減したりすることができる。
【0031】
窓2は、少なくとも反射防止フィルムが貼付される部分の表面が平坦になっていることが好ましい。窓2の表面が平坦でないと反射防止フィルムをきれいに貼付することができなくなるおそれがある。
【0032】
反射防止フィルムは、窓2の表面の垂線Vとカメラ1の光軸Lとのなす角が所定の角度θになるように窓2に貼付されるように形成される。この角度θは0°であってもよいが、通常、0°よりも大きく90°よりも小さい。すなわち、ある一定の角度をもって斜め方向からカメラ1の光軸Lが窓2に入射するのである。カメラ1の光軸Lとは、カメラ1と被写体Hとを結ぶ直線のことである。この光軸Lは、カメラ1のレンズ中心における垂線であってもよく、カメラ1の、被写体の画像を受像する受像素子とレンズとを結ぶ直線であってもよい。このように、反射防止フィルムは、あらかじめカメラ1の光軸Lが斜め方向に所定の角度θで反射防止フィルムに入射することが想定されて形成されるものであり、それによって光の反射を低減することが可能となる。
【0033】
反射防止フィルムは、カメラ1の撮像範囲において窓2に貼付されるように形成されている。すなわち、カメラ1の窓2での撮像範囲に反射防止フィルムが貼付される。カメラ1の撮像範囲に貼付されることで反射を抑制することが可能となる。
【0034】
図1及び図2において、直線Cと直線Cとで挟まれた範囲がカメラ1の撮像範囲であり、領域Aで示す範囲が窓2の位置におけるカメラ1の撮像範囲である。反射防止フィルムをこの撮像範囲に貼付することで、窓2での反射を抑制し、写り込みを低減することができる。ここで、反射防止フィルムは撮像範囲と同じ大きさであってもよく、撮像範囲よりも大きくてもよい。また、被写体Hを撮影するのに支障がなければ、撮像範囲よりも小さい反射防止フィルムを用いてもよい。
【0035】
反射防止フィルムは、カメラ1の光軸Lと窓2の表面の垂線Vとがなす角度θに基づき、カメラ1の位置における光の反射が抑制されるように膜厚が調整されている。より好ましくは、角度θにおいて光の反射率が最小になるように、反射防止層の膜厚が調整されている。つまり、反射防止フィルムを製造する際には、角度θに基づき、反射防止層の膜厚を調整する。
【0036】
ここで、反射防止フィルムは、通常、カメラ1の光軸Lが反射防止フィルムに対し斜め方向に入射するように貼付されるものである。そして、反射防止フィルムは、その膜厚が調整されて、光軸Lと窓2の垂線Vとがなす角度θの角度において光の反射率が小さくなっている。すなわち、光軸Lと窓2の垂線Vとがなす角度θは、カメラ1の設置位置やカメラ1のレンズの向き、反射防止フィルムの貼付位置などにより変化するが、所定の角度θで入射するように形成された反射防止フィルムにおいて、その所定の角度θにおいて反射率が小さくなるように膜厚が調整されるのである。
【0037】
反射率が最小となる反射防止層の膜厚(D)は、次式に従って算出される。
【0038】
D=100/cosθ (nm)
すなわち、膜厚(D)は、カメラ1の光軸Lと窓2の表面に垂直な線(垂線V)とのなす角度である角度θから求められるものであり、角度θに基づいて調整可能なものである。
【0039】
上記の式は次のような理論から導出される。
【0040】
基材の表面に膜厚(D)の反射防止層を形成した場合、反射防止層の表面で反射する光と基材表面で反射する光との位相が(1/2)×λ(λ:波長)だけずれていれば、互いに打ち消し合うため最も反射が少なくなる。つまり、反射防止層の表面で反射する光と反射防止層の内部を通って基材表面で反射する光との光路差が波長の半分である(1/2)×λに等しい場合、反射が最も少なくなる。
【0041】
光の入射角をθとし反射防止層の屈折率をnとすると、基材表面で反射する光は、次式の光路差分だけ反射防止層の表面で反射する光よりも長い光路をたどる。
【0042】
光路差=2nDcosθ
この光路差が(1/2)×λに等しいことが、反射率が最小となる条件となる。
【0043】
つまり、
2nDcosθ=(1/2)×λ
となるので、
D=(1/4)×(1/n)×λ×(1/cosθ)
となる。
【0044】
ここで、人間の目にとって最も反射が少なくなると感じる光の波長は550nmといわれている。また、一般的な反射防止層は、その屈折率nが1.36程度である。そこで、λ=550、n=1.36を代入することにより、D=100/cosθの式を得ることができる。なお、反射による光の入射角と出射角は通常等しいので、上記の光の入射角θをそのままカメラ1の光軸Lの角度θに置き換えて考えることができる。
【0045】
角度θが30°より小さい場合には、反射防止層の膜厚Dは角度依存性が低くなる。例えば、角度θが0°に近い場合、つまりカメラ1の光軸Lが窓2の表面に対して垂直に近い場合、上記の式により膜厚を調整しても、角度θ=0°の場合の膜厚との差が少ない。この場合、角度θ=0°の場合の膜厚を用いても反射をある程度抑制することができ、写り込みによる撮像画像の画質低下はわずかである。したがって、上記の式に基づいて膜厚を調整することのメリットが少ない。この傾向は、0°<θ<30°においても同様であり、この範囲では膜厚の角度依存性が低い。
【0046】
しかしながら、角度θが30°以上60°以下の範囲にある場合には、上記の式に基づき、反射防止層の膜厚を、上記の式で算出した膜厚Dの±10%以内の範囲の厚みに調整することで、反射をより抑制して写り込みを低減し、鮮明な画像を得ることができる。このような反射の抑制は、膜厚の角度依存性が高いために、上記の式にて調整しない場合よりも優れるものである。そして、膜厚としては、上記によって求めた膜厚の±10%程度の厚みの範囲内ならば反射を効果的に抑制することが可能である。したがって、反射防止層の膜厚(D)は、100/cosθ(nm)の±10%の範囲内であることが好ましいのである。この膜厚(D)の範囲は、言い換えれば、0.9×(100/cosθ)〜1.1×(100/cosθ)(nm)となる
ところで、角度θが60°よりも大きく90°よりも小さい場合、上記の式に基づけば、反射防止層の膜厚の角度依存性がより顕著になるため、より精密な膜厚調整が求められる。しかしながら、このような角度でカメラ1が設置されるケースは稀である。そのため、実用的には角度θは30°以上60°以下である。
【0047】
したがって、角度θが30〜60度であり、反射防止層の膜厚が110〜200nmであることが好ましいものである。この膜厚は、上記の式で、θ=30°、60°を代入することにより算出される。
【0048】
光軸Lと垂線Vとがなす角度θに基づく、より精密な膜厚の調整の方法を例示して説明する。
【0049】
カメラ1の光軸Lと窓2の垂線Vとのなす角度θが60°であるカメラシステムに用いる場合、上記の式に基づき、反射率が最小となる膜厚(D)は次のようになる。
【0050】
D=100/cos60°
=200
ここで、反射率が最小となる膜厚の±10%の範囲内においては、反射を抑制する効果が高くなる。したがって、膜厚Dを180〜220nmの間で調整すれば、反射をさらに抑制することができる。
【0051】
同様に、角度θが45°である場合は、膜厚D=127〜156nmとなり、膜厚Dをこの範囲内に調整すれば、反射をさらに抑制することができる。また、角度θが30°である場合は、膜厚D=104〜127nmとなり、膜厚Dをこの範囲内に調整すれば、反射をさらに抑制することができる。
【0052】
ただし、カメラシステムにおいては、角度θは、カメラ1の設置位置やカメラ1のレンズの向き、反射防止フィルムの貼付位置などにより変化するものである。したがって、角度θ=30〜60°を想定し、反射防止層の膜厚を110〜200nmにすることが好ましいのである。この場合、角度θとの関係から、反射率が最小になる膜厚から±10%の範囲を超える膜厚になる場合も予想されるが、そのような場合でも光を打ち消す効果は得られるものであり、反射は十分に抑制される。
【0053】
このように、窓2を介してカメラ1で被写体Hを撮影するカメラシステムにあっては、カメラ1の撮像範囲において窓2に、上記のような反射防止フィルムが貼付されていることにより、窓2による光の反射を抑制することができる。したがって、カメラ1の光軸Lが窓2に対して斜め方向になる場合であっても、写り込みを低減し、被写体Hをカメラ1で鮮明に撮影することができるものである。
【0054】
上記のようなカメラシステムを用いれば、監視カメラシステムを簡単に構築することが可能となる。例えば、屋外の駐車場に停車した自動車を監視する場合、屋内のカメラ1を屋外に向けてカメラ1で撮影して監視することができる。この場合、屋外に新しくカメラ1を設けたりすることなく、屋内にて室内用のカメラ1を設置して撮影できるものである。また、一般に屋外用カメラは高価であるが、室内用カメラは比較的安価であり、安価なコストでカメラシステムを構築することができる。また、屋内において、又は屋内と屋外とをあわせて、複数のカメラを設置し、ネットワークカメラにしたカメラシステムを構築することもできる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって詳細に説明する。
【0056】
[実施例1]
厚み75μmのPETフィルムの表面に膜厚140nmの反射防止層を形成した反射防止フィルムを用意した。反射防止層はシリコン樹脂「コーティング材エアロセラ(パナソニック電工製)」により形成されたものである。塗工方法としてはグラビアコーターにて塗工する方法を用いた。反射防止層の屈折率は1.36であった。この反射防止フィルムを、カメラの光軸と窓ガラスの垂線とのなす角度θが45°となったカメラ前面(撮像範囲)の窓ガラス両面に貼り付けた。これにより、窓ガラス及び反射防止フィルムを介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムを構築した。
【0057】
[実施例2]
実施例1において、反射防止層の膜厚を130nmとした。それ以外は、実施例1と同様の方法で、窓ガラス及び反射防止フィルムを介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムを構築した。
【0058】
[実施例3]
実施例1において、反射防止層の膜厚を100nmとし、カメラの光軸と窓ガラスの垂線とのなす角度を20°とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で、窓ガラス及び反射防止フィルムを介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムを構築した。
【0059】
[実施例4]
実施例1において、反射防止層の膜厚を290nmとし、カメラの光軸と窓ガラスの垂線とのなす角度θを70°とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で、窓ガラス及び反射防止フィルムを介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムを構築した。
【0060】
[比較例1]
厚み75μmのPETフィルムの表面に、実施例1と同様の材料からなる膜厚100nmの反射防止層を形成した反射防止フィルムを用意した。この反射防止フィルムを、カメラの光軸と窓ガラスの垂線とのなす角度θが45°となったカメラ前面(撮像範囲)の窓ガラス両面に貼り付けた。これにより、窓ガラス及び反射防止フィルムを介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムを構築した。
【0061】
[比較例2]
厚み75μmのPETフィルムの表面に、実施例1と同様の材料からなる膜厚100nmの反射防止層を形成した反射防止フィルムを用意した。この反射防止フィルムを、カメラの光軸と窓ガラスの垂線とのなす角度θが70°となったカメラ前面(撮像範囲)の窓ガラス両面に貼り付けた。これにより、窓ガラス及び反射防止フィルムを介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムを構築した。
【0062】
[撮像画像の品質評価]
カメラの撮像画像を目視で評価して確認した。
判定基準は
◎:写り込みがまったくなく被写体が鮮明に見える
○:わずかに写り込みがあるが被写体が概ね鮮明に見える
△:写り込みが明らかにあり、被写体が見にくい
×:写り込みが激しく、被写体がまったくわからない
とした。
【0063】
[反射率]
反射防止フィルムを貼付したガラスをサンプルとし、分光光度計にて反射率を測定した。測定は、サンプルに対して所定の入射角で波長550nmの光を照射し、入射角と同角度の反対位置にある検出器により反射率を測定した。
【0064】
なお、反射率の比較基準として、反射防止フィルムを貼り付けていない窓ガラスについて、サンプル測定時の角度と同角度で、反射率を測定した。(ただし反射防止フィルムを貼り付けていないガラスの反射率は角度に依存せず約8.5%であった)
[結果]
結果を表1に示す。
【0065】
実施例1〜4では、反射防止フィルムを貼り付けていない比較基準の反射率8.5%に比べて反射率の値が低く、写り込みが抑制され、撮像画像も鮮明に見ることができた。
【0066】
一方、比較例1、2では反射率の値が高いため写り込みが多く、撮像画像が鮮明に見えなかった。角度θが大きい比較例2の方がその傾向は顕著であった。
【0067】
このように、写り込みを抑制するためには、反射率は低い方がよく、具体的には、3.0%以下程度が好ましく、2.5%以下程度がより好ましいことが分かる。
【0068】
【表1】

【0069】
[システム構築例]
図3は、カメラシステムにて撮影したカメラ画像を示す写真である。(a)は反射防止フィルムを貼り付ける前、(b)は反射防止フィルムを貼り付けた後の様子を示している。なお、反射防止フィルムはガラスの両面に貼り付けられている。
【0070】
図3(a)に示すように、反射防止フィルムを貼り付ける前においては、室内のレンガ模様が映り込み、外が見えにくくなっている(符号Pで示す部分)。一方、図3(b)に示すように、反射防止フィルムを貼り付けた後においては、映り込みがほとんどなくなって外(階段下)がよく見えるようになり、外を通行するバイクが見えるようになっている(符号Qで示す部分)。
【符号の説明】
【0071】
1 カメラ
2 窓
L 光軸
V 垂線
θ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓を介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムに用いる反射防止フィルムであって、前記窓の表面の垂線と前記カメラの光軸とが所定の角度θをなし、かつ、前記カメラの撮像範囲において前記窓に貼付されるように形成され、前記角度θに基づいて前記カメラの位置における光の反射が抑制されるように反射防止層の膜厚が調整されたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項2】
前記反射防止層の膜厚が100/cosθ(nm)の±10%の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記角度θが30〜60度であり、前記反射防止層の膜厚が110〜200nmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
窓を介してカメラで被写体を撮影するカメラシステムであって、前記カメラの撮像範囲において前記窓に、請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止フィルムが貼付されたことを特徴とするカメラシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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