説明

受信機及び受信方法

【課題】受信機50において、AD変換による受信アナログ信号のサンプリングに伴って生じる受信アナログ信号の高調波に因る折り返し歪を有効に抑圧する。
【解決手段】受信機50は、受信アナログ信号を受信デジタル信号へ変換するAD変換器51と、AD変換器にAD変換のサンプリング周波数に係る信号を供給するクロック・ジェネレータ52と、サンプリング周波数を変更する制御部53とを備える。制御部53は、サンプリング周波数のn(nは2以上の自然数)分の1となる周波数としての特定周波数が、特定周波数と一致する受信アナログ信号の周波数を中心にしてあらかじめ定められた周波数範囲の外になるように、サンプリング周波数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声等を受信する受信機及び受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はデジタル情報処理装置を開示する。該デジタル情報処理装置は電波受信手段とデジタル手段と制御手段とから構成され、制御手段は、デジタル手段において使用されているサンプリング周波数又はクロック数を、電波受信手段の受信周波数に応じて変更する(特許文献1の段落0009)。具体的には、電波受信手段が所定の周波数をもった電波を受信するに際して、当該受信周波数又はその近傍の周波数と同等の高調波が発生しないようなサンプリング周波数又はクロック数を、あらかじめ記憶されている該複数のサンプリング周波数或いはクロック数の中から選択して使用する(特許文献1の段落0015)。
【0003】
図7は従来のダイレクト・コンバージョン型受信機90の主要部構成図である。ダイレクト・コンバージョン型受信機90において本発明の実施例として後述するダイレクト・コンバージョン型受信機10(図1)の要素と同一の要素については、ダイレクト・コンバージョン型受信機10の対応要素に付した符号と同一の符号で指示して、説明は省略し、主要点についてのみ説明する。
【0004】
アンテナ11は電波を捕捉し、LNA(低ノイズアンプ)12は、アンテナ11からRF信号を増幅してから、ADC(アナログデジタル変換器)13へ供給する。ADC13は、LNA12からのRF信号を、ローカル発振器20からのサンプリング・クロックの周波数(サンプリング周波数)でサンプリングして、デジタル信号へ変換し、該デジタル信号を直交検波器14へ出力する。従来のダイレクト・コンバージョン型受信機90では、ADC13がローカル発振器20からサンプリング周波数の情報として受けるサンプリング・クロックの周波数は固定されており、したがって、サンプリング周波数は固定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−6338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以降、ダイレクト・コンバージョン型受信機90において、受信可能周波数を100KHz〜30MHz、サンプリング周波数fsを75MHzに想定して、問題点を説明する。
【0007】
図8は従来のダイレクト・コンバージョン型受信機90において希望信号の周波数f1が25MHzの場合の希望信号とその2次から6次までの高調波f2,f3,f4,f5,f6が現れる周波数の分布を、ADC13でAD変換する前の状態を周波数スペクトラム上に示したものである。なお、希望信号とは、ユーザがダイレクト・コンバージョン型受信機90において選択した周波数の受信信号のことであり、該希望信号の音声がダイレクト・コンバージョン型受信機90のスピーカから出力されることになる。また、25MHzについて説明する理由は、それが75MHzの1/n(ただしnは自然数)であるからである。この場合、ADC13においてAD変換後の高調波成分は、図9のように、f2、f4、f5の高調波が希望信号と同じ周波数の25MHzに折り返され、f3、f6の高調波は直流成分に折り返される。
【0008】
高調波成分は次数に比例して変調波の帯域幅が広がるため、例えば希望信号がFM変調波である場合、帯域内に折り返された高調波成分は歪として現われる。また、希望信号が25MHzに対してオフセットを持っている場合、高調波成分のオフセット量は次数に比例して大きくなり、また、オフセットの方向は、折り返し方によって変わるため、オフセット量によっては、可聴帯域内のスプリアス成分として現われる。
【0009】
また、f1=25MHz以外にも、f1=18.75MHz(75MHzの1/4)では、3次高調波が帯域内に折り返され、f1=15MHz(75MHzの1/5)では、4次高調波が帯域内に折り返され、f1=12.5MHz(75MHzの1/6)では、5次高調波が帯域内に折り返されてしまう。
【0010】
LNA12等で発生する高調波は、その後にLPF(ロー・パス・フィルタ)を入れることで減衰できるが、ADC13内で発生する高調波は減衰できない。よって、サンプリング周波数が固定されている場合、特定の周波数の希望信号を受信する場合に、その高調波が希望信号の帯域内に折り返されて、歪やスプリアスが発生するという問題があった。
【0011】
特許文献1は、サンプリング周波数の高調波が希望信号(受信アナログ信号)に混入すること(この場合、サンプリング周波数<受信アナログ信号の周波数である。)に対処して、サンプリング周波数の高調波が受信アナログ信号の周波数の近傍にならないように、サンプリング周波数を調整するものであり、AD変換器による受信アナログ信号のサンプリングに伴い受信アナログ信号の高調波に因る折り返し歪(この場合、サンプリング周波数>受信アナログ信号の周波数)には対処することができない。
【0012】
本発明の目的は、AD変換による受信アナログ信号のサンプリングに伴って生じる受信アナログ信号の高調波に因る折り返し歪を有効に抑圧することができる受信機及び受信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、受信アナログ信号をAD変換により受信デジタル信号へAD変換する場合に、受信アナログ信号の高調波の折り返しが受信アナログ信号の帯域に重ならないように、AD変換のサンプリング周波数を調整する。
【0014】
本発明の受信機は、
受信アナログ信号を受信デジタル信号へ変換するAD変換器と、
前記AD変換器にAD変換のサンプリング周波数に係る信号を供給するクロック・ジェネレータと、
前記サンプリング周波数を変更する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記サンプリング周波数のn(nは2以上の自然数)分の1となる周波数としての特定周波数が、前記受信アナログ信号の周波数のあらかじめ定められた周波数範囲の外になるように、サンプリング周波数を制御する。
【0015】
本発明の受信方法は次のステップを含む。
指示されたサンプリング周波数で受信アナログ信号を受信デジタル信号へ変換する変換ステップ、及び
前記サンプリング周波数のn(nは2以上の自然数)分の1となる周波数としての特定周波数が、前記受信アナログ信号の周波数のあらかじめ定められた周波数範囲の外になるように、サンプリング周波数を制御する制御ステップ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、受信アナログ信号の高調波の折り返しが受信アナログ信号の帯域に重ならないように、AD変換のサンプリング周波数を調整する結果、受信アナログ信号の高調波に因る折返し歪を抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ダイレクト・コンバージョン型受信機の主要部構成図である。
【図2】各サンプリング周波数に対して割当てられる受信周波数の範囲を示す図である。
【図3】所定のサンプリング周波数に対して希望信号の周波数がどれだけずれると該希望信号の高調波が該希望信号の帯域が折り返しと重ならなくなるかの限界を示す図である。
【図4】どれだけサンプリング周波数がずれると希望信号の帯域が折り返しと重ならなくなるかの限界を示す図である。
【図5】受信機のブロック図である。
【図6】受信方法のフローチャートである。
【図7】従来のダイレクト・コンバージョン型受信機の主要部構成図である。
【図8】従来のダイレクト・コンバージョン型受信機において希望信号とその各高調波とが、受信可能性信号の全範囲についてADCでAD変換する前の周波数スペクトラム上にどのように分布しているかを示す図である。
【図9】図8の場合に希望信号の各高調波がどのように折り返されるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1はダイレクト・コンバージョン型受信機10の主要部構成図である。ダイレクト・コンバージョン型受信機10は例えば短波のデジタルラジオである。なお、ダイレクト・コンバージョン型受信機10において、従来のダイレクト・コンバージョン型受信機90(図7)との構成要素上の相違点はクロック・ジェネレータ19が付加されていることである。
【0019】
アンテナ11は電波を捕捉し、LNA12は、該電波に係るRF信号を増幅してから、ADC13へ出力する。ADC13は、LNA12からのRF信号を、クロック・ジェネレータ19からのサンプリング・クロックの周波数(サンプリング周波数)でサンプリングして、デジタル信号へ変換し、該デジタル信号を直交検波器14へ出力する。
【0020】
クロック・ジェネレータ19は、ローカル発振器20からの発振信号の周波数を基準周波数として種々の周波数のクロック・パルスを生成することができ、該クロック・パルスの周波数はADC13のサンプリング周波数を決定する。マイクロコンピュータ21は、クロック・ジェネレータ19に、それが出力するクロック・パルスの周波数を指示する。
【0021】
直交検波器14は、ADC13から入力されたデジタル信号から、マイクロコンピュータ21で指定される希望信号周波数に基づき希望信号を選択して、ベースバンドI,Q信号へ周波数変換してから、出力する。ベースバンドI,Q信号は、LPF15,16でそれぞれ帯域制限され、希望信号のもののみが復調器17へ出力される。
【0022】
復調器17は、それに入力されたI,Q信号について、AM等の復調を行うことにより、希望信号に係る音声デジタル信号を生成して、それをDAC(デジタルアナログ変換器)18へ出力する。DAC18は、該音声デジタル信号をDA変換し、アナログ音声信号としてスピーカ(図示せず)へ出力する。こうして、希望信号に係る音声がスピーカから出力される。
【0023】
以降、ダイレクト・コンバージョン型受信機10の動作について、従来のダイレクト・コンバージョン型受信機90のときと同様に、受信可能信号の周波数範囲は100KHz〜30MHzと想定して、説明する。従来のダイレクト・コンバージョン型受信機90のように、サンプリング周波数fsを希望信号の周波数に関係なく、75MHzに固定した場合には、希望信号の周波数が25MHz(75MHzの1/3)、18.75MHz(75MHzの1/4)、15MHz(75MHzの1/5)、12.5MHz(75MHzの1/6)付近である場合には、その高調波が希望信号の帯域内に折り返されて、折返し歪の原因になってしまう。以降、説明の便宜上、これら25MHz、18.75MHz、15MHz、12.5MHz等のように、75MHzの1/n(ただし、nは自然数)の周波数を、適宜「特定周波数」と呼ぶことにする。
【0024】
そこで、ダイレクト・コンバージョン型受信機10では、希望信号の周波数が特定周波数の付近、例えば特定周波数±50KHz以内に設定された場合に、クロック・ジェネレータ19の設定を変えてサンプリング周波数fsを別の周波数、例えば74MHzに切り換える。なお、特定周波数の付近とする周波数範囲を、特定周波数±50KHzと、特定周波数に対して±両側に等しい範囲を設定しているが、特定週数に対する+側と−側との範囲を異なる値に適宜、設定することもできる。74MHzは、受信周波数がどの特定周波数であっても、該特定周波数の高調波の内、74MHzに最接近する高調波(n次高調波)が、74MHzから一定周波数以上離れるという条件の下で、設定した値であり、該条件が満たされれば、74MHz以外の周波数を特定周波数に対する共通のサンプリング周波数として採用することもできる。しかし、特定周波数に対する共通のサンプリング周波数として設定する値は本来の75MHzからあまり離れていない方が有利である。
【0025】
図2は各サンプリング周波数に対して割当てられる受信周波数の範囲を示している。図2(a)及び(b)はそれぞれサンプリング周波数fs=75MHz及びサンプリング周波数fs=74MHzとされる受信周波数範囲を示している。希望信号周波数が特定周波数±50KHz(25MHz±50KHz、18.75MHz±50KHz、15MHz±50KHz、及び12.5MHz±50KHz)である場合には、サンプリング周波数=74MHzとされ、その他の場合には、サンプリング周波数=75MHzとされる。
【0026】
こうして、ダイレクト・コンバージョン型受信機10では、サンプリング周波数=75MHzとした場合に、希望信号周波数のn倍(n次高調波)が75MHzの近傍範囲になって、希望信号周波数への高調波の折返しに因る音声出力の劣化が予測される場合には、サンプリング周波数=74MHzへ切り換えられて、音声出力品質を良好に保持することができる。
【0027】
なお、75MHzの1/2である37.5MHzは、ダイレクト・コンバージョン型受信機10の受信周波数範囲、100KHz〜30MHz外であるので、サンプリング周波数=74MHzへ切り換える受信周波数からは除外されている。サンプリング周波数fs=75MHzであって、ダイレクト・コンバージョン型受信機10の受信周波数範囲の上限が37.5MHz−50KHzより大である場合には、サンプリング周波数=75MHzに保持したときには、37.5MHz自体はその高調波に因る折り返しが直流成分になって、折り返し歪の対策が不要であるものの、希望信号の帯域幅の一部が37.5MHz未満になって交流成分が生じることもある。したがって、これに対処して、サンプリング周波数を標準値の75MHzから別の値へ切り換える対策が必要となる。ただし、別の値を74MHzとすると、ナイキスト周波数が37MHzとなって、37.5MHz−50KHz〜37.5MHzの受信周波数範囲がナイキスト周波数より上になってしまうので、別の値としては標準値より適当に大きい、例えば76MHzを採用する。なお、サンプリング周波数を75MHzから切り換える場合の切り換え先の値を74MHzに代えて76MHzを採用すれば、37.5MHzの特定周波数を含む複数の特定周波数に対する共通のサンプリング周波数として76MHzを使用可能になる。
【0028】
高調波とサンプリング周波数との特定関係に因る折り返し歪の解決策には2つある。サンプリング周波数をずらすやり方と受信周波数をずらすやり方とである。両者とも、ずらし量は、nと電波形式により定められた占有帯域幅(以下は帯域幅と記す)Bwとから求まる。ずらし量、帯域幅Bw及びnの関係について、次のケース1,2で説明する。
【0029】
[ケース1]
n=50、Bw=10KHz、及び受信周波数1500KHz(FMを想定)とすると、折り返し帯域幅は、折り返し歪の49(=n−1)次高調波が折り返されるので、10KHz×49で、490KHzとなる。したがって、受信周波数<1495KHz又は受信周波数>1505KHzである場合には、ADC13のサンプリング周波数fsを75MHzとし、1495KHz≦受信周波数≦1505KHzである場合には、ADC13のサンプリング周波数fsを、490KHz/2より大きく離した74.750MHz(=75MHz−10KHz×50/2)又は75.250MHz(=75MHz+10KHz×50/2)として、折り返し歪に対処することができる。
【0030】
折り返しの周波数帯域幅が、受信周波数の2倍を超えるとマイナスの周波数となるが、これは0Hzから折り返すことを意味する。また、折り返しの周波数帯域幅が受信周波数の約3倍になると、再び、受信周波数に重なってしまう。これについて、次のケース2で説明する。
【0031】
[ケース2]
n=50、Bw=100KHz、及び受信周波数1500KHzとすると、折り返し帯域幅は、受信周波数の49次高調波が折り返されるので、100KHz×49で、4900KHzとなる。したがって、受信周波数<1450KHz又は受信周波数>1550 KHである場合には、サンプリング周波数を75MHzとし、また、1450KHz≦受信周波数≦1550KHzである場合には、ADC13のサンプリング周波数fsを4900KHz/2より大きく離した72.5MHz(=75MHz−100KHz×50/2)又は77.5MHz(=75MHz+100KHz×50/2)として折り返し歪に対処することができる。
【0032】
一方、サンプリング周波数を72.5MHzにした場合、折り返しの周波数は、計算上−1000KHz(=72.5MHz−15000KHz×49)を中心として、−3450KHz(=−1000KHz−4900MHz/2)〜1450KHz(=−1000KHz+4900MHz/2)の4900KHzの幅となる。0〜1450MHzの成分は重ならないが、−3450KHz〜0は、0Hzで折り返するので、受信周波数帯域1500KHzでBwの10KHz(1450KHz〜1550KHz)に重なる。しかしながら、高次(ケース2では49次)の高調波ほど発生するレベルは下がることから、実用上はnに制限を設けて、ある受信周波数がある周波数以下である場合は、サンプリング周波数を75MHzからシフトせずに、75MHzに保持してもよい。
【0033】
図3はサンプリング周波数75MHzの場合で25MHzの受信周波数がどれだけずれると、受信周波数の帯域が折り返しと重ならなくなるかの限界を示す図である。なお、図3では、n(25MHz=75MHz/nにおけるn)=3、Bw(受信信号の帯域幅)=100KHz、Fs0(サンプリング周波数)=75MHz、かつFrx(受信周波数)>Fs0/n+Bw/2、又はFrx(受信周波数)<Fs0/n−Bw/2 と仮定している。
【0034】
折り返しが重ならない限界の受信周波数は、Fs0、Bw、nにより上記の式:Fs0/n±Bw/2のとおりとなる。つまり受信信号の帯域幅1/2だけ受信周波数がずれると、折り返しの信号は重ならなくなる。放送局からの信号を受信する場合、定められた周波数間隔(チャンネル)で放送されているので、Bwの半分だけ受信周波数をずらした場合にサンプリング周波数を変える必要も無く、隣接のチャンネルを受信する場合にサンプリング周波数をずらせばよい。またアマチュア無線のように、使用可能な周波数帯域が割り当てられ、その範囲であればどの周波数で運用してもよい場合は、上記の式の条件を当てはめてもよい。
【0035】
図4はどれだけサンプリング周波数がずれると、受信周波数の帯域が折り返しと重ならなくなるかの限界を示す図である。なお、図4では、n(25MHz=75MHz/nにおけるn)=3、受信周波数=25MHz、Bw(受信信号の帯域幅)=100KHz、Fs0(サンプリング周波数)の初期値=75 MHz、かつFs<Fs0−Bw×n/2又はFs>Fs0+Bw×n/2と仮定している。
【0036】
折り返しが重ならない限界のサンプリング周波数Fsは、Fs0、Bw、nにより下記のようになる。
Fs=75000−100*3/2=74850
Fs=75000+100*3/2=75150
すなわち、Fs0が75MHzの時に、受信周波数が25MHzで帯域幅が100KHzの受信信号を受信する場合、サンプリング周波数は74.85MHz又は75.150MHzで折り返しが重ならなくなることになる。
【0037】
しかし、サンプリング周波数の発振手段としてはPLL回路が使われることが多いが、PLL回路で発振周波数の変化幅を小さくするためには、比較周波数を低く設定することになる。一般的に比較周波数を低く設定すると、信号のC/Nと、ロックアップスピードがトレードオフとなることから、必ずしも帯域幅に合わせてサンプリング周波数のシフト量を変化させなくてもよく、その受信機で受信する最も広い帯域幅の電波形式の信号を考慮し、サンプリング周波数の設定を行うのが容易なシフト量を選択してもよい。
【0038】
図5は受信機50のブロック図である。受信機50の一例はダイレクト・コンバージョン型受信機10である。受信機50は、無線機にも適用することができる。受信機50は、携帯式、車載式及び据置き式のどれであってもよい。受信機50の受信アナログ信号は、音声、映像及びデータのいずれか1つ又はそれらの組み合わせに係る受信アナログ信号であってよい。受信機50はAD変換器51、クロック・ジェネレータ52及び制御部53を備える。
【0039】
AD変換器51は、受信アナログ信号を受信デジタル信号へ変換する。クロック・ジェネレータ52は、AD変換器51にAD変換のサンプリング周波数に係る信号を供給する。制御部53は、サンプリング周波数を変更する。制御部53は、サンプリング周波数のn(nは2以上の自然数)分の1となる周波数としての特定周波数が、受信アナログ信号の周波数のあらかじめ定められた周波数範囲の外になるように、サンプリング周波数を制御する。
【0040】
受信機50のサンプリング周波数は、その実施例としてのダイレクト・コンバージョン型受信機10ではそれぞれ75MHz及び74MHz(図2のfs)に対応している。特定周波数とは、ダイレクト・コンバージョン型受信機10における25MHz、18.75MHz、15MHz、12.5MHzに対応している。制御部53は、周波数範囲をnに応じて変更することができるが、周波数範囲をnに関係なく固定してもよい。なお、前述のダイレクト・コンバージョン型受信機10では、該周波数範囲は特定周波数を中心に±50KHzに固定されている。また、該周波数範囲は、特定周波数に対して±両側が等しい周波数範囲とすることなく、±両側に異なる周波数範囲とすることもできる。具体的には、ダイレクト・コンバージョン型受信機10のケース1,2でずらし量について説明したように、ずらし量の対応値としての周波数範囲はnだけでなく、電波形式(例:FMやAM)により定められた占有帯域 Bwによっても変化する。したがって、制御部53は、周波数範囲をn及び/又はBwに応じて変更するようにしてもよい。
【0041】
ダイレクト・コンバージョン型受信機10では、75MHzのサンプリング周波数に対して、n=2の場合の32.5MHzについては、そのいずれの高調波もナイキスト周波数の整数倍になって、受信周波数可能範囲への折り返しがないとともに、32.5MHzは、ダイレクト・コンバージョン型受信機10における受信可能周波数の上限30MHzを超えていることから、32.5MHzの受信アナログ信号については、サンプリング周波数を75MHzから変更せずにそのまま維持している。しかしながら、受信可能周波数がナイキスト周波数へ十分に接近していて、かつ受信アナログ信号の周波数帯域幅Bwが広い場合には、n=2のときも、該受信アナログ信号の高調波が該受信アナログ信号の周波数帯域幅Bw内に折り返されることが予想され、n=2に対しても、75MHzから例えば76MHzへ変更することができる。なお、ここで、74MHzへの変更としなかったのは、サンプリング周波数の標準値は75MHzの1/2は、37.5MHzであり、サンプリング周波数を74MHzとすると、そのナイキスト周波数は37MHzとなり、37MHz〜37.5MHzの範囲が該ナイキスト周波数を上回ってしまうからである。
【0042】
典型的な受信機50では、制御部53がクロック・ジェネレータ52に指示するサンプリング周波数には、第1及び第2の値の2つのみ存在し、制御部53は、第1の値が周波数範囲の外にあれば、サンプリング周波数を第1の値にそのまま維持し、第1の値が周波数範囲の内にあれば、サンプリング周波数を第1の値から第2の値へ切り換える。
【0043】
典型的には、受信機50は、第1及び第2の値や、サンプリング周波数を第2の値へ切り換える受信アナログ信号の周波数の範囲は、あらかじめ記憶しているので、サンプリング周波数の制御値を2個に限定することにより処理負担の軽減及び処理の迅速化を図ることができる。
【0044】
典型的には、サンプリング周波数の第1及び第2の値をそれぞれ標準値及び一時値として、受信機50では、一時値へのサンプリング周波数の変更は、一部(少なくとも1個)のnに対してのみ実施すればよいとする。受信機50の設計者は、受信可能周波数の範囲(図4)や、次数に係る周波数のレベルを踏まえ、n=2や、所定値以上又は所定範囲のnに対して、サンプリング周波数を一時値へ変更することを中止して、標準値に維持するように、受信機50を設計することもできる。
【0045】
図6は受信方法60のフローチャートである。受信方法60はS61とS62とを含む。S61とS62との順番は、任意であり、S62をS61より先に実行することもできる。
【0046】
S61では、指示されたサンプリング周波数で受信アナログ信号を受信デジタル信号へ変換する。S62では、サンプリング周波数のn(nは2以上の自然数)分の1となる周波数としての特定周波数が、受信アナログ信号の周波数のあらかじめ定められた周波数範囲の外になるように、サンプリング周波数を制御する。
【0047】
受信方法60は例えば受信機50に適用される。したがって、受信機50の各要素(特に制御部53)について述べた具体的態様は、受信方法60の各ステップ(特にS62)の具体的態様としても適用可能である。
【0048】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更(付加及び削除も含む。)が可能であることは言うまでもない。
【0049】
本明細書は様々な範囲及びレベルの発明を開示している。それら発明は、本明細書で説明した様々な技術的範囲及び具体的レベルの各装置及び各方法だけでなく、拡張ないし一般化の範囲で、各装置及び各方法から独立の作用、効果を奏する1つ又は複数の要素を抽出したものや、1つ又は複数の要素を拡張ないし一般化の範囲で変更したものや、さらに、各装置間及び各方法間で1つ又は複数の要素の組合せを入れ換えたものを含む。
【符号の説明】
【0050】
50:受信機、51:AD変換器、52:クロック・ジェネレータ、53:制御部、60:受信方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信アナログ信号を受信デジタル信号へ変換するAD変換器と、
前記AD変換器にAD変換のサンプリング周波数に係る信号を供給するクロック・ジェネレータと、
前記サンプリング周波数を変更する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記サンプリング周波数のn(nは2以上の自然数)分の1となる周波数としての特定周波数が、前記受信アナログ信号の周波数のあらかじめ定められた周波数範囲の外になるように、サンプリング周波数を制御することを特徴とする受信機。
【請求項2】
前記制御部が前記クロック・ジェネレータに指示するサンプリング周波数には、第1及び第2の値の2つのみ存在し、
前記制御部は、前記第1の値が周波数範囲の外にあれば、サンプリング周波数を第1の値にそのまま維持し、前記第1の値が周波数範囲の内にあれば、サンプリング周波数を第1の値から第2の値へ切り換えることを特徴とする請求項1記載の受信機。
【請求項3】
前記制御部は、前記周波数範囲をnに応じて変更することを特徴とする請求項1又は2記載の受信機。
【請求項4】
前記制御部は、前記周波数範囲を電波形式により定められた占有周波数帯域に応じて変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の受信機。
【請求項5】
指示されたサンプリング周波数で受信アナログ信号を受信デジタル信号へ変換する変換ステップと、
前記サンプリング周波数のn(nは2以上の自然数)分の1となる周波数としての特定周波数が、前記受信アナログ信号の周波数のあらかじめ定められた周波数範囲の外になるように、サンプリング周波数を制御する制御ステップと、
を含むことを特徴とする受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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