説明

口腔内速崩壊性医薬用組成物およびその製造方法

【課題】本発明は、従来の口腔内速崩壊性医薬用組成物に比べ、口腔内崩壊時間を延長させずに高い硬度を有し、打錠障害を起こさない口腔内速崩壊性医薬用組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される医薬用組成物であって、少なくとも2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含有し、このうち2種以上の糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点と、それ以外の糖アルコール類および/または糖類のいずれかのものの融点との差が5℃以上である医薬用組成物であって、さらに滑沢剤を加えることによって得られる、優れた口腔内崩壊性と高い硬度を有し、しかも打錠障害のない口腔内速崩壊性医薬組成物およびその製造方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に含むときに速やかに崩壊し、通常の製造、輸送、使用に際して充分な硬度を示す医薬用組成物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会への移行および生活環境の変化に伴い、老人、小児および水分摂取が制限された患者に対し、取り扱いやすくかつ服用しやすい医薬品製剤の開発が望まれている。従来、医薬品の固形製剤の剤形には、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などがあるが、これらの錠剤では、老人や小児など嚥下能力が低い患者のコンプライアンスが低下することがある。また、これらの固形製剤の服用に際しては多量の水を必要とするため、特に水分の摂取が制限されている患者が服用する際には問題である。
【0003】
このようなことから、固形製剤医薬品を服用時に、水なしの唾液のみ、もしくは少量の水のみで口腔内にて速やかに崩壊または溶解する製剤を得るべく、組成および製造方法に関する研究が、国内外を問わず数多く報告されている。
【0004】
例えば、R.P.Scherer社から市販されている口腔内溶解型製剤Zydis速溶製剤や「口腔内崩壊製剤及びその製造法」(特許文献1参照)の場合、薬効成分を溶解あるいは懸濁した溶液を、予め成型したPTP(Press Through Package)シートのポケットに充填し、凍結乾燥あるいは減圧乾燥することで作られている。
【0005】
しかしながら、この製造法では、凍結乾燥あるいは減圧乾燥が必要なために生産コストが高くなり、さらに、得られた錠剤の強度が弱く、通常の輸送に耐えられないほどもろいという欠点がある。
【0006】
「迅速溶解性固形製剤およびその製造法」(特許文献2参照)、「速溶錠」(特許文献3参照)および「湿製錠の成型方法とその装置および湿製錠」(特許文献4参照)の発明は、薬効成分を含む水分で湿った紛体を打錠し、その後、乾燥させる方法である。これらの方法では、口腔内崩壊性に優れており、しかも硬度がある程度高い錠剤が得られるが、湿った紛体を打錠するため、錠剤重量を制御するのに困難が生じる。また、通常の打錠機では製造困難であるため、特殊な装置が必要となる。
【0007】
一方、「速溶解性錠剤の製造方法及び該製造方法により製造した速溶解性錠剤」(特許文献5参照)および「口腔内速崩壊製錠剤の製法」(特許文献6参照)の発明のような乾燥状態の紛体を低圧にして打錠し、加湿処理をした後、乾燥して目的とする製剤を製造する方法もある。この方法についても製造工程が多く、製造時間が長いなど生産効率の問題が生じている。さらに、上記開示されているいずれの製造方法でも、製造工程において、薬効成分が長時間、水分と接しているため、水に不安定な薬効成分に対して適応が困難であるという欠点がある。
【0008】
また、本発明者らはすでに、糖アルコール類または糖類に、これらより低融点である糖アルコール類または糖類を加え、圧縮処理と加熱処理を組み合わせることにより、口腔内にて速やかに崩壊する医薬用組成物を見出し、特許出願した(特許文献7参照)。
【0009】
【特許文献1】国際公開第93/12769号パンフレット
【特許文献2】特開平11−116464号公報
【特許文献3】国際公開第93/15724号パンフレット
【特許文献4】特開平6−218028号公報
【特許文献5】特開平8−29105号公報
【特許文献6】特開平11−12161号公報
【特許文献7】国際公開第2002/032403号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが既に特許出願した医薬用組成物は、従来の口腔内速崩壊錠と比較しても充分に実用化し得るものである。しかしながら、錠剤の大きさが大きくなるほど、より高い硬度が求められる。錠剤の輸送条件が悪い場合等に備えて、より硬度を高めるために圧縮成型圧を大きくすると、口腔内崩壊時間の遅延や打錠障害が認められることがある。このようなことから、より硬度が高く、かつ口腔内崩壊時間が短い製剤の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来、滑沢剤を添加すると、錠剤硬度が低下することが知られているが(特開2001−316249公報)、本発明者らは、鋭意研究の結果、予想外にも、滑沢剤を適量含有させることにより、錠剤硬度を向上させることができることを見出した。
通常、添加された滑沢剤は造粒物および/または粉末の粒子表面を完全に被覆するため、粒子同士の結合力を低下させる。
【0012】
本発明者らは、滑沢剤の含有量を、圧縮処理の前の、造粒物および/または粉末の粒子表面を完全に被覆しない程度に調整し、かつ造粒物および/または粉末において粒径が小さい粒子が多く分布するよう調整した。その結果、粒子の表面積が増加し、粒子同士の結合力が低下せず、かつ、粒子同士を滑りやすくすることのよって圧縮処理時の圧伝達率が向上することを見出した。
【0013】
さらに、医薬用組成物、特に錠剤の製造工程で、少なくとも混合処理、圧縮処理、さらに加熱処理を行なう際に、硬度増強成分として滑沢剤を適量含有させた後に圧縮処理を行なうことにより、滑沢剤を含有させない場合と比較して、硬度が増強することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明は、
1.少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される医薬用組成物であって、圧縮処理の前に滑沢剤を含有させることを特徴とする医薬用組成物、
2.少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される医薬用組成物であって、少なくとも2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含有し、この2種以上の糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点と、それ以外の糖アルコール類および/または糖類のいずれかのものの融点との差が5℃以上である医薬用組成物であって、さらに滑沢剤を含有させることを特徴とする医薬用組成物、
3.滑沢剤の含有量が、医薬用組成物の全重量に対して1〜20w/w%であることを特徴とする1または2に記載の医薬用組成物、
4.滑沢剤の含有量が、医薬用組成物の全重量に対して2〜15w/w%であることを特徴とする1または2に記載の医薬用組成物、
5.滑沢剤の含有量が、医薬用組成物の全重量に対して3〜10w/w%であることを特徴とする1または2に記載の医薬用組成物、
6.滑沢剤が、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする1〜5のいずれか1に記載の医薬用組成物、
7.滑沢剤がタルクであることを特徴とする1〜5のいずれか1に記載の医薬用組成物、
8.糖アルコール類および/または糖類が、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、乳糖、グルコース、スクロース、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、トレハロースおよびフルクトースから選ばれる2種以上の組み合わせであることを特徴とする2〜7のいずれか1に記載の医薬用組成物、
9.糖アルコール類および/または糖類が、乳糖と、キシリトール、ソルビトールまたはトレハロースのうちいずれか1種の組み合わせであることを特徴とする2〜7のいずれか1に記載の医薬用組成物、
10.糖アルコール類および/または糖類が、乳糖とキシリトールの組み合わせであることを特徴とする2〜7のいずれか1に記載の医薬用組成物、
11.糖アルコール類および/または糖類が、エリスリトールと、キシリトール、ソルビトールまたはトレハロースのうちいずれか1種の組み合わせであることを特徴とする2〜7のいずれか1に記載の医薬用組成物、
12.糖アルコール類および/または糖類が、マンニトールと、キシリトール、ソルビトールまたはトレハロースのうちいずれか1種の組み合わせであることを特徴とする2〜7のいずれか1に記載の医薬用組成物、
13.さらにクロスポビドンおよび/またはカルメロースを含有させることを特徴とする1〜12のいずれか1に記載の医薬用組成物、
14.さらに薬効成分を含有させることを特徴とする1〜13のいずれか1に記載の医薬用組成物、
15.1〜14のいずれか1に記載の医薬用組成物であって、加熱処理の温度が80〜140℃であることを特徴とする医薬用組成物、
16.1〜15のいずれか1に記載の医薬用組成物であって、加熱処理の時間が3〜90分であることを特徴とする医薬用組成物、
17.剤形が錠剤である1〜16のいずれか1に記載の医薬用組成物、
18.速崩壊性である1〜17のいずれか1に記載の医薬用組成物、
19.口腔内速崩壊性である1〜17のいずれか1に記載の医薬用組成物、
20.滑沢剤を硬度増強用成分として含有させた錠剤、
21.少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される錠剤であって、圧縮処理の前に滑沢剤を添加することを特徴とする錠剤の製造方法、
22.少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される、少なくとも2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含有する錠剤の製造方法であって、1)圧縮処理の前に滑沢剤を添加する工程、および2)圧縮処理後の加熱処理において、含有する糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点より5℃以上融点が低い糖アルコール類および/または糖類の融点温度付近にて加熱する工程、を含む錠剤の製造方法。
23.滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して1〜20w/w%であることを特徴とする21または22に記載の錠剤の製造方法、
24.滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して2〜15w/w%であることを特徴とする21または22に記載の錠剤の製造方法、
25.滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して3〜10w/w%含有することを特徴とする21または22に記載の錠剤の製造方法、
26.滑沢剤が、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする21〜25のいずれか1に記載の錠剤の製造方法、
27.滑沢剤がタルクであることを特徴とする21〜25のいずれか1に記載の錠剤の製造方法、
28.圧縮処理の前の、造粒物および/または粉末の粒度分布において、粒径1〜150μmの粒子が、粒子全体の60〜100w/w%であることを特徴とする21〜27のいずれか1に記載の錠剤の製造方法、
29.滑沢剤を有効成分とする錠剤の硬度増強剤、
30.少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される錠剤であって、圧縮処理の前に滑沢剤を添加することを特徴とする錠剤の硬度増強方法、
31.滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して1〜20w/w%であることを特徴とする30に記載の錠剤の硬度増強方法、
32.滑沢剤が、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする30または31に記載の錠剤の硬度増強方法、
33.滑沢剤がタルクであることを特徴とする30または31に記載の錠剤の硬度増強方法、
34.圧縮処理の前の、造粒物および/または粉末の粒度分布において、粒径1〜150μmの粒子が、粒子全体の60〜100w/w%であることを特徴とする30〜33のいずれか1に記載の錠剤の硬度増強方法、である。
【発明の効果】
【0015】
後記実施例から明らかなように、少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される医薬用組成物であって、圧縮処理の前に滑沢剤を含有させることにより、より高い硬度を有しながら、優れた口腔内速崩壊性を保持する医薬用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかる滑沢剤としては、例えば、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、硬化油等を挙げることができる。本発明においては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウムが、優れた口腔内崩壊性を維持するため、さらに好ましい。これらの滑沢剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の医薬組成物における滑沢剤としては、特にタルクが好ましい。
【0017】
また、本発明にかかる滑沢剤の含有量は医薬用組成物の全重量に対して1〜20w/w%が好ましく、2〜15w/w%がより好ましく、3〜10w/w%が最も好ましい。
【0018】
本発明の医薬用組成物は、滑沢剤を配合することにより、優れた口腔内速崩壊性を保持しながら、より高い硬度を有することができる。従って、本発明にかかる滑沢剤は、口腔内速崩壊性の医薬組成物、特に口腔内速崩壊性錠剤の硬度を増強させる硬度増強剤としても利用することができる。
【0019】
また、本発明の医薬用組成物は、本発明にかかる滑沢剤を配合することにより、打錠障害(ラミネーションおよびバインディング)の防止にも優れる。
【0020】
本発明における滑沢剤の効果は、比較的粒径の小さい粒子の比率が高い場合に、粒子の表面積が増加し、滑沢剤が粒子の表面を覆いきらないため、粒子同士の結合力を低下させず、かつ粒子同士の流動性を高めて圧伝達力を向上させる。従って、本発明にかかる2種以上の糖アルコール類および/または糖類、所望により崩壊剤、薬効成分およびその他の添加物を含むものについて、造粒処理を行っても良いし、粉末のまま打錠しても良いが、滑沢剤による硬度増強効果を高めるため、圧縮処理前の造粒物および/または粉末の粒度分布は、1〜150μmの粒子の占める割合が60〜100w/w%であることが好ましく、1〜100μmが60〜100w/w%であることがより好ましく、1〜75μmが50〜100w/w%であることが、さらに好ましい。
【0021】
本発明の医薬用組成物は、2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含有することが好ましく、当該2種以上の糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点と、それ以外の糖アルコール類および/または糖類のいずれかのものの融点との差が5℃以上であることがさらに好ましい。このような2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含有し、さらに滑沢剤を添加することで、硬度増強効果および優れた口腔内崩壊性が得られる。
【0022】
さらに、本発明の医薬用組成物の製造工程において、含有されている2種以上の糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点より5℃以上融点が低い糖アルコール類および/または糖類の焼結作用を利用して加熱処理を行なうことは、滑沢剤の硬度増強効果と口腔内崩壊性を高めるため好ましい。
【0023】
ここで焼結作用とは、造粒物および/または粉末の成型体を成型体中に含まれる低融点物質の融点温度付近において加熱処理することにより、粒子間の接着や成型体の収縮・緻密化を起こさせ、その結果、成型体が固化または緻密化する作用を意味する。
【0024】
本発明においては、焼結作用を利用した加熱処理、すなわち2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含む医薬用組成物を、含有される糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点より5℃以上融点が低い糖アルコール類および/または糖類の融点付近で加熱処理した後に放冷・冷却することで、粒子間強度を高めることができる。
【0025】
本発明の医薬用組成物に含有される糖アルコール類および/または糖類としては、単糖類、二糖類、または糖アルコール類を用いることができる。具体例としては、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、乳糖、グルコース、スクロース、マルチトース、キシリトール、ソルビトール、トレハロース、フルクトース等を挙げることができるが、特にこれらのみに限定されるものではない。
【0026】
これらの糖アルコール類および/または糖類は、いずれか2種を用いても良いし、3種以上を組み合わせても良いが、含有される糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大の糖アルコール類および/または糖類の融点と、それ以外の糖アルコール類および/または糖類のいずれかのものの融点との差が5℃以上であることが好ましい。
【0027】
前記糖アルコール類および/または糖類の中でも、エリスリトールとトレハロース、キシリトールまたはソルビトールのうち1種との組み合わせ、マンニトールとキシリトールまたはソルビトールのうち1種との組み合わせ、乳糖とキシリトール、ソルビトールまたはトレハロースのうちいずれか1種の組み合わせのいずれかであることが好ましい。
【0028】
本発明においては、特に乳糖とキシリトールの組み合わせが、高い硬度を保ちながら速やかな口腔内崩壊性を有するため好ましい。これらの2種以上の糖アルコール類および/または糖類の含有量は、含有される糖アルコール類および/または糖類の組み合わせにより、または所望の硬度、口腔内崩壊性の程度により、適宜決定すればよいが、含有されている糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で最も融点の低いものの含有量が、それ以外の糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの含有量の合計の0.1〜75.0w/w%であることが好ましく、0.3〜50w/w%であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の医薬用組成物には、さらに崩壊剤を添加するのが好ましい。崩壊剤としては、例えば、クロスポビドン、カルボキシメチルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等を挙げることができるが、特にこれらのみに限定されるものではない。また、これらの崩壊剤は、単独で添加してもよく、2種以上を組み合わせて添加してもよい。本発明においては、優れた口腔内崩壊性を発揮するため、クロスポビドンおよび/またはカルメロースを添加することが好ましく、クロスポビドンを添加することがさらに好ましい。
【0030】
本発明の医薬用組成物は、さらに薬効成分を含めることができる。本発明に適用される薬効成分としては、経口投与が可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、ビタミン剤、解熱鎮痛消炎薬、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、胃粘膜修復剤、鎮痛鎮痙剤、向精神薬、鎮吐剤、抗うつ剤、H受容体拮抗薬、化学療法剤、抗菌剤、降圧剤、不整脈治療剤、抗血栓薬、抗リウマチ薬、抗不安薬、ACE阻害薬等から選ばれた1種または2種以上の成分が用いられる。
【0031】
本発明の医薬用組成物は、前記薬効成分を通常0.05〜75w/w%、好ましくは0.05%〜50w/w%、さらに好ましくは0.05〜25w/w%含む。これらの薬効成分は特に限定されるべきものではないが、具体例としては、塩酸チアミン、ニコチン酸アミド、アスコルビン酸、パンテチン、エテンザミド、アスピリン、アセトアミノフェン、塩酸セトラキサート、インドメタシン、メロキシカム、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸プロカテロール、塩酸メクロフェノキサート、ロラゼパム、フェノバルビタール、チミペロン、塩酸メマンチン、パラアミノサリチル酸カルシウム、アンピシリン、カルモフール、レボフロキサシン、オフロキサシン、ニフェジピン、カルベジロール、塩酸プロカインアミド、塩酸チクロピジン、塩酸セビメリン水和物、酒石酸アリメマジン、塩酸ロフェプラミン、イソニアジド、バクロフェン、塩酸セチリジン、塩酸イソクスプリン、N−メチルスコポラミンメチル硫酸塩、塩酸トリヘキシフェニジル、オキシペルチン、カプトプリル、ペリンドプリルエルブミン等を挙げることができる。
【0032】
また、本発明の医薬用組成物は水を用いずに製造可能である。したがって、水に不安定な薬効成分は、本発明の医薬用組成物に特に適している。ここで、水に不安定な薬効成分とは25℃、75%RH、3ヶ月という保管条件で含有量が初期値に比較して5%以上低下するものをいう。例えば、塩酸チアミン、ニコチン酸アミド、アスピリン、アセトアミノフェン、インドメタシン、塩酸ジフェンドラミン、塩酸プロカテロール、塩酸メクロフェノキサート、ロラゼパム、フェノバルビタール、パラアミノサリチル酸カルシウム、アンピシリン、カルモフール、カプトプリル、ニフェジピン、塩酸プロカインアミド、ペリンドプリルエルブミン等を挙げることができる。
【0033】
本発明の医薬用組成物は加熱処理によって得られるため、熱に安定な薬効成分が本発明に適している。ここで熱に安定な薬効成分とは、融点または分解点が140℃以上であるものをいう。例えば、アスコルビン酸、パンテチン、エテンザミド、レボフロキサシン、オフロキサシン、塩酸セトラキサート、酒石酸アリメマジン、塩酸ロフェプラミン、メロキシカム、イソジアニド、バクロフェン、塩酸セチリジン、塩酸イソクスプリン、N−メチルスコポラミンメチル硫酸塩、塩酸トリヘキシフェニジル、チミペロン、オキシペルチン、カルベジロール、塩酸チクロピジン、塩酸セビメリン水和物、ペリンドプリルエルブミン等を挙げることができる。
【0034】
本発明の医薬用組成物は、本発明の効果を損なわない程度および範囲において、さらに上記の糖アルコール類および糖類、滑沢剤以外の製剤添加物を含んでもよい。当該製剤添加物としては、崩壊剤、賦形剤、結合剤、着色剤、着香剤、甘味剤、発泡剤、界面活性剤、流動化剤等が挙げられる。
【0035】
また、本発明の医薬用組成物の製剤としては、固形製剤であれば特に限定されない。固形製剤としては、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤等を挙げることができるが、本発明においては、錠剤であることが好ましい。
【0036】
本発明の医薬用組成物は、口腔内で速やかに崩壊する口腔内速崩壊性であることを特徴とする。すなわち、本発明の医薬用組成物の剤形が錠剤の場合、健康な成年男子が、該錠剤を口腔内に服用のため水なしで含んだ時、錠剤が口腔内から完全に崩壊または溶解するまでの時間(口腔内崩壊時間)は通常90秒以内、好ましくは60秒以内、より好ましくは30秒以内、さらに好ましくは15秒以内である。通常の服用状態では、服用者が舌で舐めたり、舌と上顎により圧迫したりすることにより、さらに短時間で崩壊する。従って、前記の口腔内崩壊時間15秒以内の医薬用組成物は、老人、小児および水分摂取制限された患者等が服用する使用性の観点から充分な口腔内崩壊性を有するといえるため特に好ましい。
【0037】
また、本発明の医薬用組成物は、速やかな口腔内崩壊時間を保持しながら、実用に耐えうる程度に充分な硬度を有することを特徴とする。なお、実用に耐えうる充分な硬度とは、製造、流通、使用に耐えうる硬度をいうが、特に本発明の医薬用組成物が錠剤の場合は、PTP包装時あるいは開放時破損することなく耐える程度の強度をいう。
通常、錠剤においては、実用に耐えうる充分な硬度は、錠剤の大きさや形状により異なるが、例えば、直径または最大長が8mm以上10mm未満の場合1kp以上、10mm以上15mm未満の場合2kp以上、15mm以上20mm未満の場合3kp以上、20mm以上の場合4kp以上が好ましい。これらの錠剤の大きさと必要な硬度の関係から、口腔内速崩壊性錠剤の硬度は4kp以上あれば、あらゆる大きさの錠剤に利用可能ということができる。
【0038】
したがって、本発明においては、本発明の医薬組成物の剤形が錠剤の場合、該錠剤の硬度は、2kp以上であることが好ましく、3kp以上であることがさらに好ましく、4kp以上であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の医薬用組成物は、前記薬効成分、前記の2種以上の糖アルコール類および/または糖類、前記滑沢剤、並びに必要に応じて崩壊剤およびその他の添加物の混合物を製して、所望の剤形に応じて圧縮処理を行い、さらに加熱処理をすることによって製造することができる。
【0040】
本発明の医薬用組成物の製造方法の一例を次に説明する。
【0041】
本発明の医薬用組成物の製造は、一般に使用されている医薬品製剤製造装置により製造可能である。(薬効成分および)2種以上の糖アルコール類および/または糖類、滑沢剤、および崩壊剤などの他の添加物の混合はV型混合機、二重円錐型混合機、流動層造粒乾燥機、攪拌造粒機、ナウタミキサー等を用いればよい。
【0042】
次いで、得られた混合物を単発式打錠機、ロータリー式打錠機などの一般的な錠剤の成型機によって圧縮する処理を行う。圧縮処理時の圧縮成型圧は、所望の成型物の硬度、口腔内に含んだ際の崩壊性あるいは溶解性から設定すればよい。圧縮成型圧は、100〜2000kgf、好ましくは200〜1800kgf、より好ましくは、300〜1500kgf程度である。
【0043】
さらに、一般に用いられる乾燥機、例えば送風恒温乾燥機、真空低温乾燥機、マイクロウェーブオーブンなどにより、加熱処理することによって、本発明の医薬用組成物を製造することができる。加熱温度は、60〜180℃、好ましくは70〜160℃、より好ましくは80〜140℃であり、最も好ましくは85℃〜140℃である。また、加熱時間は0.5〜240分、好ましくは、1〜120分、より好ましくは3〜90分である。
【0044】
なお、本発明における加熱処理の温度は、前記圧縮処理にて得られた圧縮成形物に含まれる水分を除去する、いわゆる乾燥する程度の温度ではない。本発明における加熱処理の温度は、本発明の医薬用組成物に含有される2種以上の糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点より5℃以上融点が低い糖アルコール類および/または糖類の融点付近の温度であり、加熱処理を行なうことにより当該融点の低い糖アルコール類および/または糖類が溶融する程度の温度である。
【0045】
本発明の医薬組成物においては、必要に応じて、混合工程時に添加物を加えてもよく、また、混合工程に引き続き流動層造粒乾燥機、攪拌造粒機、転動流動造粒機、押出し造粒機などを用いて造粒工程を実施しても、本発明の医薬用組成物を製造することができる。ここで、一般に造粒には湿式造粒と乾式造粒とがある。湿式造粒とは、上記糖アルコール類および/または糖類へ必要に応じて添加剤を加えて溶解もしくは懸濁した溶液もしくは懸濁液または水を用いて湿式造粒を実施するものである。この場合は造粒操作に引き続いて乾燥操作を実施する。湿式造粒の具体的方法には(1)空気流により上記成分の流動層を成形させ、乾燥しながらその層中に、上記糖アルコール類および/または糖類へ必要に応じて添加物を加えて溶解もしくは懸濁した溶液もしくは懸濁液または水を噴霧し、液架橋により粒子同士を付着凝集させて造粒する流動層造粒法;(2)上記成分に糖アルコール類および/または糖類あるいは必要に応じて添加物を溶解および/または懸濁した溶液または水を加えて混合攪拌しながら造粒する混合攪拌造粒法;(3)上記成分を高速で混合攪拌しながら、糖アルコール類および/または糖類あるいは必要に応じて添加物を溶解および/または懸濁した溶液または水を加えて造粒する、混合攪拌造粒において、高せん断を与えた高速混合攪拌造粒法;(4)上記成分に水等を加えて練合し、練合物をダイスやスクリーン面に押し付けて押し出して成型造粒する押し出し造粒法;(5)転動する上記成分に糖アルコール類および/または糖類あるいは必要に応じて添加物を溶解および/または懸濁した溶液または水を噴霧するか、または被覆することによって球形の粒子を作る転動造粒法(医薬品の開発第11巻、製剤の単位操作と機械(廣川書店)参照)などがあり、本発明においてはいずれも用いることができる。
【0046】
上記溶液または懸濁液の濃度は5〜80w/w%が好ましく、より10〜70w/w%が好ましく、さらに20〜60w/w%が好ましい。上記(1)〜(5)における「上記成分」には、糖アルコール類および/または糖類、薬効成分、および必要に応じて加える添加物の全成分の場合と、それらの一部の成分(ただし、2種以上の糖アルコール類および/または糖類、滑沢剤は必須の成分とする)の場合の両方を含む。また、薬効成分が水に不安定な場合は必要に応じてその薬効成分を上記成分には含めないで、造粒操作に続く乾燥操作後において薬効成分を混合することがある。
【0047】
本発明における乾式造粒とは、上記成分をそのまま圧縮、成形し、これを適当な大きさに粉砕して造粒する(乾式顆粒圧縮法)ことである。
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
(試験方法)
本発明の効果をさらに詳細に説明するため、比較例および実施例で得られた錠剤について下記のような製剤特性について試験した。
【0050】
(硬度試験)
錠剤硬度計はエルベーカー社製錠剤硬度計を用いて、錠剤の直径方向の破壊強度を測定した。
【0051】
(口腔内崩壊試験)
健康な成人男性の口腔内に服用のための水なしで錠剤を含ませ、錠剤が口腔内から崩壊・溶解するまでの時間を測定した。
【0052】
(実施例1)
流動層造粒機(FLOW COATER Mini、フロイント)に、乳糖(商品名:Pharmatose200M、DMV Japan)190gを入れ、キシリトール(商品名:キシリット、東和化成工業)の26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末87.8gにクロスポビドン(商品名:Polyplasdone XL、ISP TECHNOLOGIES,INC)5g、軽質無水ケイ酸(商品名:アエロジル200、日本アエロジル)と得られた粉末の混合粉砕末2.2g加え、ターブラーミキサーで10分間混合した。なお、無水ケイ酸と得られた粉末との混合粉砕末は、予め1:10の割合でメノウ乳鉢にて1分間混合粉砕した粉末である。得られた混合粉末にステアリン酸マグネシウム(HyQual、Tyco Helth care Japan)5gを加え、更にターブラーミキサーで3分間混合した。単発打錠機(NE−30、岡田精工)を用いて、打錠した(重量:300mg、打錠圧:500kgf、杵:9.5mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0053】
(実施例2)
実施例1のステアリン酸マグネシウムをフマル酸ステアリルナトリウム(PRUV、MENDELL)に換え、実施例1と同様な操作で造粒及び打錠を行った。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0054】
(実施例3)
実施例1のステアリン酸マグネシウムをショ糖脂肪酸エステル(サーフホープSE J−1815、三菱化学フーズ)に換え、実施例1と同様な操作で造粒および打錠を行った。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊錠剤を得た。
【0055】
(実施例4)
実施例1のステアリン酸マグネシウムを硬化油(K−3ワックス−200、川研ファインケミカル)に換え、実施例1と同様の操作で造粒及び打錠を行った。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0056】
(実施例5)
実施例1のステアリン酸マグネシウムをタルク(松村産業)に換え、実施例1と同様な操作で造粒及び打錠を行った。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0057】
(比較例1)
流動層造粒機に、乳糖190gを入れ、キシリトールの26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末93.8gにクロスポビドン5g、軽質無水ケイ酸と得られた粉末の混合粉砕末2.2gを加え、ターブラーミキサーで10分間混合した。なお、軽質無水ケイ酸と得られた粉末との混合粉砕末は、予め1:10の割合でメノウ乳鉢にて1分間混合粉砕した粉末である。得られた混合粉末を単発打錠機(NE−30、岡田精工)を用いて、打錠した(重量:300mg、打錠圧500kgf、杵:9.5mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0058】
実施例1〜5および比較例1の加熱処理前後の錠剤硬度を測定した。結果を表1に示す。表1から明らかなように、滑沢剤を含有させた医薬用組成物である実施例1〜5は、滑沢剤を含有させていない医薬組成物である比較例1に比べ、加熱前においても高い硬度を有することが明らかであり、加熱処理によって、その硬度はさらに向上した。また、滑沢剤を含有させていない比較例1では、打錠障害が認められたが、滑沢剤を含有させた実施例1〜5では打錠障害(ラミネーション及びバインディング)は認められなかった。さらに、滑沢剤の適切な添加量について検討を行なうため、タルクの添加量ごとの各々の硬度と口腔内崩壊時間を測定した。

(表1)


【0059】
(実施例6)
流動層造粒機に、乳糖190gを入れ、キシリトールの26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末92.8gにクロスポビドン5g、軽質無水ケイ酸と得られた粉末の混合粉砕末2.2gを加え、ターブラーミキサーで10分間混合した。なお、軽質無水ケイ酸と得られた粉末との混合粉砕末は、予め1:10の割合でメノウ乳鉢にて1分間混合粉砕した粉末である。得られた混合粉末にタルク1gを加え、さらにターブラーミキサーで3分間混合した。単発打錠機(NE−30、岡田精工)を用いて、打錠した(重量300mg、打錠圧:500kgf、杵:9.5mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0060】
(実施例7)
流動層造粒機に、乳糖190gを入れ、キシリトールの26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末82.8gにクロスポビドン5g、軽質無水ケイ酸と得られた粉末の混合粉砕末2.2gを加え、ターブラーミキサーで10分間混合した。なお、軽質無水ケイ酸と得られた粉末との混合粉砕末は、予め1:10の割合でメノウ乳鉢にて1分間混合粉砕した粉末である。得られた混合粉末にタルク10gを加え、さらにターブラーミキサーで3分間混合した。単発打錠機を用いて、打錠した(重量300mg、打錠圧:500kgf、杵:9.5mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0061】
(実施例8)
流動層造粒機に、乳糖190gを入れ、キシリトールの26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末72.8gにクロスポビドン5g、軽質無水ケイ酸と得られた粉末の混合粉砕末2.2gを加え、ターブラーミキサーで10分間混合した。なお、軽質無水ケイ酸と得られた粉末との混合粉砕末は、予め1:10の割合でメノウ乳鉢にて1分間混合粉砕した粉末である。得られた混合粉末にタルク20gを加え、さらにターブラーミキサーで3分間混合した。単発打錠機を用いて、打錠した(重量300mg、打錠圧:500kgf、杵:9.5mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0062】
実施例5〜8および比較例1の加熱処理後の錠剤硬度及び口腔内速崩壊時間を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
(表2)


【0064】
タルクを配合した本発明の医薬用組成物は、優れた硬度及び口腔内崩壊時間を示した。
特に実施例5および7は、錠剤の硬度が増加しても、口腔内崩壊時間は15秒以内と速やかであることが確認された。また、実施例5、7及び8では、打錠時に打錠障害(ラミネーション及びバインディング)が認められなかった。
【0065】
(実施例9)
流動層造粒機に、乳糖166.4g及びアスコルビン酸(L(+)−アスコルビン酸、和光純薬)23.6gを入れ、キシリトールの26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm 、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末82.8gにクロスポビドン5g、軽質無水ケイ酸と得られた粉末の混合粉砕末2.2gを加え、ターブラーミキサーで10分間混合した。なお、軽質無水ケイ酸と得られた粉末との混合粉砕末は、予め1:10の割合でメノウ乳鉢にて1分間混合粉砕した粉末である。得られた混合粉末にタルク10gを加え、更にターブラーミキサーで3分間混合した。単発打錠機を用いて、打錠した(重量:300mg、打錠圧:500kgf、杵:9.5mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15 分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0066】
(実施例10)
流動層造粒機に、乳糖166.4g及びエテンザミド(o−エトキシベンズアミド、和光純薬)23.6gを入れ、キシリトールの26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末82.8gにクロスポビドン5g、軽質無水ケイ酸と得られた粉末の混合粉砕末2.2gを加え、ターブラーミキサーで10分間混合した。なお、軽質無水ケイ酸と得られた粉末との混合粉砕末は、予め1:10の割合でメノウ乳鉢にて1分間混合粉砕した粉末である。得られた混合粉末にタルク10gを加え、更にターブラーミキサーで3分間混合した。単発打錠機を用いて、打錠した(重量:300mg、打錠圧:500kgf、杵:9.5mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15 分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0067】
薬効成分を配合した実施例9、10および比較対照として実施例7の加熱処理後の錠剤硬度及び口腔内速崩壊時間を測定した。結果を表3に示す。
【0068】
(表3)


【0069】
本発明の医薬組成物はアスコルビン酸やエテンザミドといった薬効成分を加えても、高い硬度を維持し、かつ優れた口腔内崩壊性を示した。
【0070】
(参考例1)
流動層造粒機(FLOW COATER Mini、フロイント)に、エリスリトール(商品名:エリスリトール、日研化学)190gを入れ、キシリトール26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末をオートグラフ(島津製作所)を用いて、単発打錠を行った。(重量:300mg、打錠圧:500kgf、杵10mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0071】
(参考例2)
参考例1のエリスリトールをマンニトール(商品名:マンニットP、東和化成工業)に換え、参考例1と同様な操作で造粒および単発打錠を行った。得られた成型物を加熱(90℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0072】
(参照例3)
参考例1のエリスリトールを乳糖に換え、参考例1と同様な操作で造粒および単発打錠を行った。得られた成型物を加熱(90℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0073】
(参考例4)
流動層造粒機に、エリスリトール190gを入れ、トレハロース(商品名:トレハロースP、旭化成工業)の26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末を、オートグラフを用いて単発打錠を行った。(重量:300mg、打錠圧:500kgf、杵10mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0074】
(参考例5)
参考例4のエリスリトールをマンニトールに換え、参考例4と同様な操作で造粒および単発打錠を行った。得られた成型物を加熱(90℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0075】
(参考例6)
参考例4のエリスリトールを乳糖に換え、参考例4と同様な操作で造粒および単発打錠を行った。得られた成型物を加熱(90℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0076】
(参考例7)
流動層造粒機に、エリスリトール190gを入れ、ソルビトール(商品名:ソルビットD、東和化成工業)の26.7w/w%水溶液37.5mLを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度0.8mL/minで造粒を行った。乾燥後、得られた粉末を、オートグラフを用いて単発打錠を行った。(重量:300mg、打錠圧:500kgf、杵10mmφ)。得られた成型物を加熱(95℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0077】
(参考例8)
参考例7のエリスリトールをマンニトールに換え、参考例7と同様な操作で造粒および単発打錠を行った。得られた成型物を加熱(90℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0078】
(参考例9)
参考例7のエリスリトールを乳糖に換え、参考例7と同様な操作で造粒および単発打錠を行った。得られた成型物を加熱(90℃、15分)し、その後、室温にて冷却し、口腔内速崩壊性錠剤を得た。
【0079】
種々の糖アルコール類および/または糖類の組み合わせにおける硬度および口腔内崩壊時間を表4に示す。参考例1〜9の医薬用組成物に、さらに滑沢剤を圧縮処理前に添加すると、より高い硬度を有し、かつ優れた口腔内崩壊性を有する錠剤を提供することができる。

(表4)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される医薬用組成物であって、圧縮処理の前に滑沢剤を含有させることを特徴とする医薬用組成物。
【請求項2】
少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される医薬用組成物であって、少なくとも2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含有し、この2種以上の糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点と、それ以外の糖アルコール類および/または糖類のいずれかのものの融点との差が5℃以上である医薬用組成物であって、さらに滑沢剤を含有させることを特徴とする医薬用組成物。
【請求項3】
滑沢剤の含有量が、医薬用組成物の全重量に対して1〜20w/w%であることを特徴とする請求項1または2に記載の医薬用組成物。
【請求項4】
滑沢剤の含有量が、医薬用組成物の全重量に対して2〜15w/w%であることを特徴とする請求項1または2に記載の医薬用組成物。
【請求項5】
滑沢剤の含有量が、医薬用組成物の全重量に対して3〜10w/w%であることを特徴とする請求項1または2に記載の医薬用組成物。
【請求項6】
滑沢剤が、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項7】
滑沢剤がタルクであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項8】
糖アルコール類および/または糖類が、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、乳糖、グルコース、スクロース、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、トレハロースおよびフルクトースから選ばれる2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項9】
糖アルコール類および/または糖類が、乳糖と、キシリトール、ソルビトールまたはトレハロースのうちいずれか1種の組み合わせであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項10】
糖アルコール類および/または糖類が、乳糖とキシリトールの組み合わせであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項11】
糖アルコール類および/または糖類が、エリスリトールと、キシリトール、ソルビトールまたはトレハロースのうちいずれか1種の組み合わせであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項12】
糖アルコール類および/または糖類が、マンニトールと、キシリトール、ソルビトールまたはトレハロースのうちいずれか1種の組み合わせであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項13】
さらにクロスポビドンおよび/またはカルメロースを含有させることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項14】
さらに薬効成分を含有させることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の医薬用組成物であって、加熱処理の温度が80〜140℃であることを特徴とする医薬用組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の医薬用組成物であって、加熱処理の時間が3〜90分であることを特徴とする医薬用組成物。
【請求項17】
剤形が錠剤である請求項1〜16のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項18】
速崩壊性である請求項1〜17のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項19】
口腔内速崩壊性である請求項1〜17のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
【請求項20】
滑沢剤を硬度増強用成分として含有させた錠剤。
【請求項21】
少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される錠剤であって、圧縮処理の前に滑沢剤を添加することを特徴とする錠剤の製造方法。
【請求項22】
少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される、少なくとも2種以上の糖アルコール類および/または糖類を含有する錠剤の製造方法であって、1)圧縮処理の前に滑沢剤を添加する工程、および2)圧縮処理後の加熱処理において、含有する糖アルコール類および/または糖類のそれぞれの中で含有量が最大のものの融点より5℃以上融点が低い糖アルコール類および/または糖類の融点温度付近にて加熱する工程、を含む錠剤の製造方法。
【請求項23】
滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して1〜20w/w%であることを特徴とする請求項21または22に記載の錠剤の製造方法。
【請求項24】
滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して2〜15w/w%であることを特徴とする請求項21または22に記載の錠剤の製造方法。
【請求項25】
滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して3〜10w/w%含有することを特徴とする請求項21または22に記載の錠剤の製造方法。
【請求項26】
滑沢剤が、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項21〜25のいずれか1項に記載の錠剤の製造方法。
【請求項27】
滑沢剤がタルクであることを特徴とする請求項21〜25のいずれか1項に記載の錠剤の製造方法。
【請求項28】
圧縮処理の前の、造粒物および/または粉末の粒度分布において、粒径1〜150μmの粒子が、粒子全体の60〜100w/w%であることを特徴とする請求項21〜27のいずれか1項に記載の錠剤の製造方法。
【請求項29】
滑沢剤を有効成分とする錠剤の硬度増強剤。
【請求項30】
少なくとも混合処理、圧縮処理および加熱処理により製造される錠剤であって、圧縮処理の前に滑沢剤を添加することを特徴とする錠剤の硬度増強方法。
【請求項31】
滑沢剤の含有量が、錠剤の全重量に対して1〜20w/w%であることを特徴とする請求項30に記載の錠剤の硬度増強方法。
【請求項32】
滑沢剤が、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸マグネシウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項30または31に記載の錠剤の硬度増強方法。
【請求項33】
滑沢剤がタルクであることを特徴とする請求項30または31に記載の錠剤の硬度増強方法。
【請求項34】
圧縮処理の前の、造粒物および/または粉末の粒度分布において、粒径1〜150μmの粒子が、粒子全体の60〜100w/w%であることを特徴とする請求項30〜33のいずれか1項に記載の錠剤の硬度増強方法。

【公開番号】特開2006−265242(P2006−265242A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51610(P2006−51610)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】