可変容量形ベーンポンプ
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、可変容量形ベーンポンプの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両、特に自動車の油圧式パワーステアリング装置やサスペンション装置に圧油を供給する油圧ポンプとしては、主に圧力平衡形ベーンポンプが用いられている。この圧力平衡形ベーンポンプは、1回転で吸込み、吐出を2回行う2サイクルタイプである。そのために、1回転当たりの押しのけ容積は、圧力不平衡の2倍となる。
また、それぞれの吐出領域が、回転軸を挟んで対向する位置にあるため、圧力バランスが良い。
このように圧力平衡形ベーンポンプは、1回転当たりの押しのけ容積が多く、しかも、圧力バランスがよいので、軽量、小型化が図れるというメリットがある。そのために、自動車用の油圧ポンプとして利用されている。
【0003】
この圧力平衡形の可変容量形ベーンポンプを示したのが、図9および図10である。このベーンポンプは、ボディ1の内側に、カムリング2を設けている。このカムリング2は、第1リング部2aと第2リング部2bとから構成されている。そして、この第1、第2リング部2a、2bは、ボディ1の内側を、図の左右方向に摺動可能にして、第1リング部2a、第2リング部2b同士が相対移動可能になっている。つまり、第1、第2リング部2a、2bは、相対移動によって、両者の対向間隔を調整可能としている。
したがって、このカムリング2は、対向間隔を調節することで、その内側の容積を変化させることができるようになっている。
また、第1リング部2a、第2リング部2bの対向端には、図10に示すように、カムリング2において点対称になる位置に、先端を薄くしたエッジ部4、5を形成している。そして第1リング部2aのエッジ部4は、第2リング部2bの対向端の上に重なっている。また、第2リング部2bのエッジ部5は、第1リング部2aの対向端の上に重なっている。
【0004】
このような第1リング部2a、第2リング部2bからなるカムリング2内には、その中心部にロータ6を設けている。このロータ6は、図示しないエンジンの駆動力によって回転するとともに、ラジアル方向に出没可能な複数のベーン7を備えている。これらベーン7は、ロータ6に形成した背圧室3内の圧力作用で、その先端を常時カムリング2に接触させている。なお、この背圧室3にはポンプ吐出圧が導かれるようにしている。したがって、これらベーン7は、ロータ6が回転すると、カムリング2に沿って出没する。そして、このベーン7とベーン7とで区画された空間をベーン室57としている。
【0005】
さらに、カムリング2の両側は、インテークハウジング8、および図示しないアウトレットハウジングで挟持されているが、このハウジングのそれぞれには、一対の吸込ポート9または吐出ポート10とを形成している。そして、これら吸込、吐出ポート9、10により、ベーン室57への油の吸い込みおよび吐出を行っている。
また、ボディ1の両側には第1リング部2a、第2リング部2bを移動させるためのカムリング移動機構11を設けている。このカムリング移動機構11は、ボディ1に取り付けたケーシング12と、このケーシング12内に摺動自在に設けたピストン13と、このピストン13に取り付けられ、ピストン13の移動量に応じて第1リング部2a、第2リング部2bをロータ6方向に押しつけるロッド14と、スプリング室15に設けたスプリング15aと、ピストン13に移動力を与える図示しない油圧回路とから構成している。
このカムリング移動機構11により、カムリング2の対向間隔を調整して、ベーン室57の容積を変えることができる。このようにベーン室57の容積を変えることによって、当該ポンプの吐出量を調整できる。例えば、対向間隔を小さくすれば、吐出量が少なくなり、反対に、対向間隔を大きくすれば、吐出量は多くなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の可変容量形ベーンポンプでは、第1、2リング部2a、2bのエッジ部4、5が、第2、第1リング部2b、2aの対向端の上に重なっているので、エッジ部4、5に段差が出来てしまう。このために、カムリング2を摺動するベーン7がエッジ部4、5の尖端に当たり、それを乗り越える際に、ジャンピングを起こしてしまう。このジャンピングにより、ベーン7は、ロータ6内に押し戻されてしまうが、このときベーン7が、ロータ6内の背圧室3に、ジャンピング分だけの圧力を作用させてしまう。また背圧室3には、吐出圧が導かれているので、ジャンピングによる背圧室3の圧力変化が、吐出圧の変化として現れる。それが脈動の原因となってしまうという問題があった。
また、ベーン7がエッジ部4、5に当たったときの音が騒音となるという問題もあった。
【0007】
また、上記の問題を解決するために、エッジ部4、5を薄くすることも考えられる。しかし、エッジ部4、5を薄くすればするほど、ベーン7の摺動は滑らかになるが、その分、エッジ部4、5の強度は、反対に弱くなってしまう。このために、エッジ部4、5が破損しやすく、耐久性に乏しくなるという別の問題が発生する。
さらに、エッジ部4、5を薄くするということは、それだけ精密な加工が必要となり、それだけ生産性が悪くなるという問題も発生する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、ボディと、このボディ内に設け、かつ、第1リング部と第2リング部とに分割し、それらの対向間隔を調整可能にしたカムリングと、ラジアル方向に複数のベーンを出没可能に設けたロータとを備え、ロータを回転させることによって、ベーンをカムリングに沿って出没させる可変容量形ベーンポンプを前提にする。
上記のベーンポンプを前提にしつつ、第1の発明は、上記第1リング部と第2リング部の対向端にラップ部を形成し、このラップ部は、第1、第2リング部の対向間隔の変化にかかわらず、ベーンの幅方向で常にオーバーラップする構成にするとともに、これら両ラップ部を介して、カムリングのベーン摺動面を面一に連続させ、さらに、第1、第2リング部の対向部間に隙間を形成し、この隙間を吸い込みポートとした点に特徴を有する。
【0009】
第2の発明は、上記各ベーンで構成されるベーン室をシールするサイドプレートを備え、上記サイドプレートの背面に、ポンプ吐出圧を導く高圧エリアを設けた点に特徴を有する。
第3の発明は、上記第1リング部および第2リング部との対向間隔を制御するアクチュエータと、このアクチュエータの移動を制御する電磁比例弁と、この電磁比例弁の移動位置に応じて高圧エリアにポンプ吐出圧を導いたり、その高圧エリアとタンクとを連通したりする方向切換弁とを備え、電磁比例弁を切換えて上記アクチュエータを作動させ、第1,2リング部の対向間隔を制御するとき、高圧エリアとタンクとを連通し、電磁比例弁を中立位置に復帰させたとき、高圧エリアにポンプ吐出圧を導く構成にした点に特徴を有する。
【0010】
【作用】
第1の発明では、カムリングを構成する第1、第2リング部の対向端に形成したラップ部を、第1、第2リング部の対向間隔の変化にかかわらず、ベーンの幅方向で常にオーバーラップさせ、両ラップ部を介して、カムリングのベーン摺動面を面一に連続させている。
したがって、カムリングのベーン摺動面が面一に連続しているので、例えば、従来のような、段差がない。このため、段差によるベーン摺動時のジャンピングがない。
また、第2の発明では、サイドプレートの背面に、ポンプ吐出圧を導く高圧エリアを設けたので、ポンプの吐出圧に応じた圧力をサイドプレート背面に作用させることができる。これにより、サイドプレートは、ポンプの吐出圧に応じて、ベーン室をシールすることができる。
さらに、第3の発明では、ポンプの吐出量を制御する場合、サイドプレートの押圧力を弱くしてから、第1、第2リング部を相対移動させ、これら両リング部の移動が終了すると、サイドプレートに押圧力が作用するため、スムーズな吐出量可変工程が実現できる。
【0011】
【実施例】
図1〜3は、この発明の第1実施例を示したものである。前記した従来例と共通の構成要素については同一符号を用いるとともに、その詳細な説明を省略する。
この第1実施例では、従来例と同様に、ボディ1の内側に、カムリング16を設けている。このカムリング16は、第1リング部16aと第2リング部16bとから構成されている。そして、この第1、第2リング部16a、16bは、ボディ1の内側を、図の左右方向に摺動可能にして、第1リング部16a、第2リング部16b同士が相対移動可能になっている。つまり、第1、第2リング部16a、16bは、相対移動によって、両者の対向間隔を調整可能としている。
ただし、この第1実施例では、第1リング部16a、第2リング部16bの対向端に、この発明のラップ部としてのラップ凹部17、18と、ラップ凸部19、20とを形成している点が、従来と相違する。
【0012】
これらラップ凹部17、18およびラップ凸部19、20のそれぞれは、図3に示すように、摺動可能にはめ合っている。このようにはめ合ったラップ凹部17、18、ラップ凸部19、20は、第1リング部16a、第2リング部16bの対向間隔の変化にかかわらず、ベーン7の幅方向で、常にオーバーラップする構成とし、両ラップ凹部17、18、およびラップ凸部19、20を介して、カムリング16のベーン摺動面を面一に連続させている。
なお、ここでは、一方の対向端についてのみ説明したが、他方の対向端においても同一の構成にしている。
このように、カムリング16のベーン摺動面を面一に連続させているので、従来のように、カムリング16のベーン摺動面に段差がない。したがって、従来のように、段差によってベーン7がジャンピングしなくなる。段差がないので、ベーン7は滑らかに摺動し、ベーン7のジャンピングによる脈動が発生することがないとともに、騒音も発生しない。
また、ラップ凹部17、18、ラップ凸部19、20を、上記のようにはめ合わせているので、従来例のように、薄くエッジにする必要がない。したがって、従来のように、エッジ部4、5を薄くしたときのような強度上の問題は発生しない。
【0013】
なお、ラップ凹部17、18の深さに対して、ラップ凸部19、20の長さを長くしているので、凸部先端が凹部の底部につき当たったとしても、第1、第2リング部16a,16b間に隙間23が形成される。つまり、両リング部16a、16bの対向間隔がどのように変化しても必ず隙間23が形成される構成としている。この隙間23は、ボディ1に形成した吸込ポート52に常時連通させている。
また、上記第1、第2リング部16a、16bの側面には、サイドプレート25を設けて、ベーン室57側面をシールしている。このサイドプレート25の背面には、高圧エリアHが設けてあり、この高圧エリアHにポンプの吐出圧が作用するようにしている。したがって、サイドプレート25は、ポンプの吐出圧に応じてベーン室57側面をシールするプレッシャーローディングの機能を果たしている。
また、上記サイドプレート25とは反対側には、一対の吐出ポート26が形成され、複数のベーン7によって区画されたベーン室57からの圧油を吐出するようにしている。そして、第1、第2リング部16a、16bに設けたシール部材53で、この吐出ポート26の周囲をシールし、そこからの漏れを防止している。
【0014】
上記のようにした第1、第2リング部16a、16bの対向間隔を調整するには、カムリング移動機構11を動作させる。このカムリング移動機構11は、ボディ1の両側に取り付けた一対のアクチュエータ27と、このアクチュエータ27を動作させる油圧制御回路とから構成されている。
上記アクチュエータ27は、ボディ1に取り付けたケーシング28にピストン29を摺動自在に設けている。そして、このピストン29に設けたロッド30の端部は、第1、第2リング部16a、16bにねじ止めされている。
また、ケーシング28のロッド側室31とボトム側室32とには、それぞれ圧油の流出入ポート33、34を形成している。この流出入ポート33、34を介してケーシング28内に圧油が流出入し、ピストン29が移動するようになっている。
【0015】
したがって、ケーシング28のボトム側室32あるいはロッド側室31に圧油が供給されれば、ピストン29が移動し、そのピストン29の移動量に応じて第1、第2リング部16a、16bも移動する。
なお、ケーシング28のロッド側室31にはスプリング35が設けてあり、ピストン29をボトム側室32に押しつける弾性力を作用させている。また、ケーシング28の端部には、コントローラ36と接続した変位センサー37を設けている。このセンサー37は、ピストン29の移動量を検知してその情報をコントローラ36に送る。
【0016】
また、アクチュエータ27のケーシング28に形成した流出入ポート33、34は、電磁比例弁39に接続している。この電磁比例弁39は、クローズドセンタータイプの切換弁で、コントローラ36に接続したソレノイド39aで、切換え位置39bと39cとに切換わり、これらの切換え位置に応じてアクチュエータ27のボトム側室32、あるいはロッド側室31を、通路38を介して、このポンプに接続する。
また、上記可変容量形ベーンポンプには、3つの通路40〜42を接続し、図示していないパワーステアリング装置、サスペンション装置、サイドプレート25に圧油を供給するようにしている。そして、上記通路38には、流量センサー43を設けている。この流量センサー43は、その本体内に絞り43aを設け、この絞り43a前後の差圧を電気的に検出して流量を測定するもので、その検出信号をコントローラ36に伝達している。
【0017】
また、サイドプレート25と連通する通路42には、方向切換弁44が設けてある。この方向切換弁44は、サイドプレート25の高圧エリアHに圧油を供給する切換え位置44cと、高圧エリアHをタンクTに接続する切換え位置44bとを備えている。
また、切換え位置44c側には、スプリング51を設け、このバネ力の作用で、方向切換弁44は、ノーマル状態で切換え位置44cを保つようにしている。さらに、上記スプリング51とは反対端に、パイロット室44aを設けている。したがって、この方向切換弁44は、パイロット室44aに圧力が作用したとき切換え位置44bに切換わる。
【0018】
上記電磁比例弁39下流とアクチュエータ27との間から分岐した通路54、55には、シャトル弁45が接続してある。このシャトル弁45は、アクチュエータ27のボトム側室32とロッド側室31とに接続してあるとともに、方向切換弁44のパイロット室44aにも接続している。このように接続することで、ボトム側室32かロッド側室31のいずれか高圧側の圧力を選択し、その圧力を方向切換弁44のパイロット室44aに作用させている。
さらに、アクチュエータ27のボトム側室32の流出入ポート33とロッド側室31の流出入ポート34との上流には絞り46、47が設けてある。この絞り46、47は、その上流に絞り抵抗を付与させることで、アクチュエータ27が作動する前に、方向切換弁44を切換えさせるためのものである。
【0019】
このようにすれば、第1、第2リング部16a、16bを移動させる前に、サイドプレート25の押圧力を制御することができる。
なお、コントローラ36はエンジンEの回転を検出する回転数センサー48と、車速センサー49とにも接続している。
また、符号50は、リリーフ弁である。さらに、絞り46、47前後に設けたチェック弁56、58は、アクチュエータ27からの戻り油を、絞り46、47の抵抗を受けずに戻すためのものである。
なお、図1に示した電磁比例弁39は、図2における流出入ポート33,34に連通している。
【0020】
このような構成による可変容量形ベーンポンプは以下のように作動する。
図2は、第1、第2リング部16a、16bの対向間隔が最大となっている状態である。したがって、可変容量形ベーンポンプの吐出量は最大となっている。
このような状態において、回転数センサー48や車速センサー49が、エンジンEの回転数の上昇や、車速の上昇という情報をコントローラ36に送ったとする。このとき、エンジンEの回転数が図4に示すNC以上であれば、コントローラ36が高速走行時と判断し、コントローラ36が動作して、電磁比例弁39を切換え位置39cに切換える。
【0021】
電磁比例弁39が切換え位置39cに切換わると、アクチュエータ27のボトム側室32に圧油が供給されてピストン29を、ロータ6の中心方向に移動させることになる。
このとき、アクチュエータ27の上流には、絞り46が設けてあるので、この絞り46によってアクチュエータ27への供給流量が制限され、この絞り46上流には、絞り46による抵抗が付与される。この絞り46によって発生した圧力は、シャトル弁45で選択されて、方向切換弁44のパイロット室44aに作用し、方向切換弁44を切換え位置44bに切換える。方向切換弁44は、高圧エリアHをタンクTに連通させるので、サイドプレート25の背面に作用している圧力がタンク圧になり、サイドプレート25の押圧力を弱くする。
【0022】
こうして、ベーン室57側面をシールしているサイドプレート25の押圧力が弱くなるころに、絞り46で流量を制御された圧油が、アクチュエータ27のボトム側室32に作用し始め、ピストン29を移動させる。そして、ピストン29の移動量に応じて、第1、第2リング部16a、16bの対向間隔が縮まり、可変容量形ベーンポンプの吐出量が少なくなる。
上記のように、可変容量形ベーンポンプの吐出量が、少なくなると、その吐出量は、流量センサー43によって検出されコントローラ36に送られる。コントローラ36は、この情報と変位センサー37からの情報とによって、吐出流量を適切に制御するために電磁比例弁39を制御する。
こうして、コントローラ36で設定した吐出量になると、電磁比例弁39は図示の中立位置に戻される。電磁比例弁39が中立位置に戻れば、方向切換弁44にパイロット圧が作用しなくなり、方向切換弁44がスプリング51の力でノーマル位置に戻り、サイドプレート25背面の高圧エリアHには、吐出量の少なくなった可変容量形ベーンポンプの吐出圧に応じた圧力が作用し、ベーン室57をシールする。
【0023】
このように、エンジンEの回転数や車速に応じて、可変容量形ベーンポンプの吐出量を制御する場合、サイドプレート25の押圧力を弱くしてから、第1、第2リング部16a、16bを相対移動させる。そして、第1、第2リング部16a、16bの移動が終了すると、またサイドプレート25に押圧力が作用する。したがって、可変容量形ベーンポンプの吐出量を変化させる過程に無駄がない。
また、上記したように、可変容量形ベーンポンプの吐出圧に応じて、サイドプレート25背面の高圧エリアHに圧力を作用させ、ベーン室57側面をシールするプレッシャーローディングをしているので、容積効率がよい。
【0024】
図5は、第2実施例を示すもので、そのラップ凹部17とラップ凸部19とを一つにしたもので、その他は第1実施例と同様である。
図6に示した第3実施例は、一つのラップ凹部17と一つのラップ凸部19とを形成するとともに、それら両者が完全にかみ合う形状にしている。そして、このラップ凸部19の先端にカット面19aを形成し、両者が完全にかみ合ったときにも、このカット面19aの先端に、吸込ポート52に連通する隙間23が形成されるようにしている。
この第3実施例においても、第1、2リング部16a、16bの対向間隔が最大になったときにも、ラップ凹部17とラップ凸部19とが、ベーンの幅方向で、常にオーバーラップするようにしている。
【0025】
図7に示した第4実施例は、第1リング部16aと、第2リング部16bとの対向端に、点対称になる傾斜部を形成し、この傾斜部を形成した先端をこの発明のラップ部59、60としている。
これらラップ部59、60の先端には、第3実施例と同様のカット面59a、60aを形成し、上記ラップ部59、60が完全に一致したときにも、このカット面59a、60aのいずれか先端に、吸込ポート52に連通する隙間23が形成されるようにしている。
図8に示した第5実施例は、第2リング部16bを固定化し、第1リング部16aのみを可動式にしたもので、それにともなって、アクチュエータ27も一つにしたもので、その他は、第1実施例と同様である。
【0026】
【効果】
第1の発明では、カムリングのベーン摺動面が面一に連続しているので、例えば、従来のような、段差がない。このため、段差によるベーン摺動時のジャンピングがないので、脈動が発生しないとともに、騒音が発生しない。
また、第1、第2リング部の対向部間に隙間を形成し、この隙間を吸い込みポートとしたので、吸い込みポートを特別に設ける必要が無くなる。
第2の発明では、サイドプレートは、ポンプの吐出圧に応じて、ベーン室57をシールすることができるので、容積効率が良くなる。
第3の発明では、第1,2リング部の対向間隔を制御するとき、高圧エリアとタンクとを連通するようにしたので、その対向間隔の制御が極めてスムーズに行われる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例のポンプを接続した回路図である。
【図2】第1実施例の断面図である。
【図3】図2のIII-III線での要部拡大断面図である。
【図4】エンジンの回転数、および車速と、パワーステアリング装置等の作動に必要な流量との関係を示したグラフである。
【図5】第2実施例の要部拡大断面図である。
【図6】第3実施例の要部拡大断面図である。
【図7】第4実施例の要部拡大断面図である。
【図8】第5実施例の可変容量形ベーンポンプの断面図である。
【図9】従来例の可変容量形ベーンポンプの断面図である。
【図10】従来例の可変容量形ベーンポンプの要部拡大図である。
【符号の説明】
1 ボディ
6 ロータ
7 ベーン
16 カムリング
16a、16b 第1、第2リング部
17、18 ラップ凹部
19、20 ラップ凸部
25 サイドプレート
59、60 ラップ部
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、可変容量形ベーンポンプの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両、特に自動車の油圧式パワーステアリング装置やサスペンション装置に圧油を供給する油圧ポンプとしては、主に圧力平衡形ベーンポンプが用いられている。この圧力平衡形ベーンポンプは、1回転で吸込み、吐出を2回行う2サイクルタイプである。そのために、1回転当たりの押しのけ容積は、圧力不平衡の2倍となる。
また、それぞれの吐出領域が、回転軸を挟んで対向する位置にあるため、圧力バランスが良い。
このように圧力平衡形ベーンポンプは、1回転当たりの押しのけ容積が多く、しかも、圧力バランスがよいので、軽量、小型化が図れるというメリットがある。そのために、自動車用の油圧ポンプとして利用されている。
【0003】
この圧力平衡形の可変容量形ベーンポンプを示したのが、図9および図10である。このベーンポンプは、ボディ1の内側に、カムリング2を設けている。このカムリング2は、第1リング部2aと第2リング部2bとから構成されている。そして、この第1、第2リング部2a、2bは、ボディ1の内側を、図の左右方向に摺動可能にして、第1リング部2a、第2リング部2b同士が相対移動可能になっている。つまり、第1、第2リング部2a、2bは、相対移動によって、両者の対向間隔を調整可能としている。
したがって、このカムリング2は、対向間隔を調節することで、その内側の容積を変化させることができるようになっている。
また、第1リング部2a、第2リング部2bの対向端には、図10に示すように、カムリング2において点対称になる位置に、先端を薄くしたエッジ部4、5を形成している。そして第1リング部2aのエッジ部4は、第2リング部2bの対向端の上に重なっている。また、第2リング部2bのエッジ部5は、第1リング部2aの対向端の上に重なっている。
【0004】
このような第1リング部2a、第2リング部2bからなるカムリング2内には、その中心部にロータ6を設けている。このロータ6は、図示しないエンジンの駆動力によって回転するとともに、ラジアル方向に出没可能な複数のベーン7を備えている。これらベーン7は、ロータ6に形成した背圧室3内の圧力作用で、その先端を常時カムリング2に接触させている。なお、この背圧室3にはポンプ吐出圧が導かれるようにしている。したがって、これらベーン7は、ロータ6が回転すると、カムリング2に沿って出没する。そして、このベーン7とベーン7とで区画された空間をベーン室57としている。
【0005】
さらに、カムリング2の両側は、インテークハウジング8、および図示しないアウトレットハウジングで挟持されているが、このハウジングのそれぞれには、一対の吸込ポート9または吐出ポート10とを形成している。そして、これら吸込、吐出ポート9、10により、ベーン室57への油の吸い込みおよび吐出を行っている。
また、ボディ1の両側には第1リング部2a、第2リング部2bを移動させるためのカムリング移動機構11を設けている。このカムリング移動機構11は、ボディ1に取り付けたケーシング12と、このケーシング12内に摺動自在に設けたピストン13と、このピストン13に取り付けられ、ピストン13の移動量に応じて第1リング部2a、第2リング部2bをロータ6方向に押しつけるロッド14と、スプリング室15に設けたスプリング15aと、ピストン13に移動力を与える図示しない油圧回路とから構成している。
このカムリング移動機構11により、カムリング2の対向間隔を調整して、ベーン室57の容積を変えることができる。このようにベーン室57の容積を変えることによって、当該ポンプの吐出量を調整できる。例えば、対向間隔を小さくすれば、吐出量が少なくなり、反対に、対向間隔を大きくすれば、吐出量は多くなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の可変容量形ベーンポンプでは、第1、2リング部2a、2bのエッジ部4、5が、第2、第1リング部2b、2aの対向端の上に重なっているので、エッジ部4、5に段差が出来てしまう。このために、カムリング2を摺動するベーン7がエッジ部4、5の尖端に当たり、それを乗り越える際に、ジャンピングを起こしてしまう。このジャンピングにより、ベーン7は、ロータ6内に押し戻されてしまうが、このときベーン7が、ロータ6内の背圧室3に、ジャンピング分だけの圧力を作用させてしまう。また背圧室3には、吐出圧が導かれているので、ジャンピングによる背圧室3の圧力変化が、吐出圧の変化として現れる。それが脈動の原因となってしまうという問題があった。
また、ベーン7がエッジ部4、5に当たったときの音が騒音となるという問題もあった。
【0007】
また、上記の問題を解決するために、エッジ部4、5を薄くすることも考えられる。しかし、エッジ部4、5を薄くすればするほど、ベーン7の摺動は滑らかになるが、その分、エッジ部4、5の強度は、反対に弱くなってしまう。このために、エッジ部4、5が破損しやすく、耐久性に乏しくなるという別の問題が発生する。
さらに、エッジ部4、5を薄くするということは、それだけ精密な加工が必要となり、それだけ生産性が悪くなるという問題も発生する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、ボディと、このボディ内に設け、かつ、第1リング部と第2リング部とに分割し、それらの対向間隔を調整可能にしたカムリングと、ラジアル方向に複数のベーンを出没可能に設けたロータとを備え、ロータを回転させることによって、ベーンをカムリングに沿って出没させる可変容量形ベーンポンプを前提にする。
上記のベーンポンプを前提にしつつ、第1の発明は、上記第1リング部と第2リング部の対向端にラップ部を形成し、このラップ部は、第1、第2リング部の対向間隔の変化にかかわらず、ベーンの幅方向で常にオーバーラップする構成にするとともに、これら両ラップ部を介して、カムリングのベーン摺動面を面一に連続させ、さらに、第1、第2リング部の対向部間に隙間を形成し、この隙間を吸い込みポートとした点に特徴を有する。
【0009】
第2の発明は、上記各ベーンで構成されるベーン室をシールするサイドプレートを備え、上記サイドプレートの背面に、ポンプ吐出圧を導く高圧エリアを設けた点に特徴を有する。
第3の発明は、上記第1リング部および第2リング部との対向間隔を制御するアクチュエータと、このアクチュエータの移動を制御する電磁比例弁と、この電磁比例弁の移動位置に応じて高圧エリアにポンプ吐出圧を導いたり、その高圧エリアとタンクとを連通したりする方向切換弁とを備え、電磁比例弁を切換えて上記アクチュエータを作動させ、第1,2リング部の対向間隔を制御するとき、高圧エリアとタンクとを連通し、電磁比例弁を中立位置に復帰させたとき、高圧エリアにポンプ吐出圧を導く構成にした点に特徴を有する。
【0010】
【作用】
第1の発明では、カムリングを構成する第1、第2リング部の対向端に形成したラップ部を、第1、第2リング部の対向間隔の変化にかかわらず、ベーンの幅方向で常にオーバーラップさせ、両ラップ部を介して、カムリングのベーン摺動面を面一に連続させている。
したがって、カムリングのベーン摺動面が面一に連続しているので、例えば、従来のような、段差がない。このため、段差によるベーン摺動時のジャンピングがない。
また、第2の発明では、サイドプレートの背面に、ポンプ吐出圧を導く高圧エリアを設けたので、ポンプの吐出圧に応じた圧力をサイドプレート背面に作用させることができる。これにより、サイドプレートは、ポンプの吐出圧に応じて、ベーン室をシールすることができる。
さらに、第3の発明では、ポンプの吐出量を制御する場合、サイドプレートの押圧力を弱くしてから、第1、第2リング部を相対移動させ、これら両リング部の移動が終了すると、サイドプレートに押圧力が作用するため、スムーズな吐出量可変工程が実現できる。
【0011】
【実施例】
図1〜3は、この発明の第1実施例を示したものである。前記した従来例と共通の構成要素については同一符号を用いるとともに、その詳細な説明を省略する。
この第1実施例では、従来例と同様に、ボディ1の内側に、カムリング16を設けている。このカムリング16は、第1リング部16aと第2リング部16bとから構成されている。そして、この第1、第2リング部16a、16bは、ボディ1の内側を、図の左右方向に摺動可能にして、第1リング部16a、第2リング部16b同士が相対移動可能になっている。つまり、第1、第2リング部16a、16bは、相対移動によって、両者の対向間隔を調整可能としている。
ただし、この第1実施例では、第1リング部16a、第2リング部16bの対向端に、この発明のラップ部としてのラップ凹部17、18と、ラップ凸部19、20とを形成している点が、従来と相違する。
【0012】
これらラップ凹部17、18およびラップ凸部19、20のそれぞれは、図3に示すように、摺動可能にはめ合っている。このようにはめ合ったラップ凹部17、18、ラップ凸部19、20は、第1リング部16a、第2リング部16bの対向間隔の変化にかかわらず、ベーン7の幅方向で、常にオーバーラップする構成とし、両ラップ凹部17、18、およびラップ凸部19、20を介して、カムリング16のベーン摺動面を面一に連続させている。
なお、ここでは、一方の対向端についてのみ説明したが、他方の対向端においても同一の構成にしている。
このように、カムリング16のベーン摺動面を面一に連続させているので、従来のように、カムリング16のベーン摺動面に段差がない。したがって、従来のように、段差によってベーン7がジャンピングしなくなる。段差がないので、ベーン7は滑らかに摺動し、ベーン7のジャンピングによる脈動が発生することがないとともに、騒音も発生しない。
また、ラップ凹部17、18、ラップ凸部19、20を、上記のようにはめ合わせているので、従来例のように、薄くエッジにする必要がない。したがって、従来のように、エッジ部4、5を薄くしたときのような強度上の問題は発生しない。
【0013】
なお、ラップ凹部17、18の深さに対して、ラップ凸部19、20の長さを長くしているので、凸部先端が凹部の底部につき当たったとしても、第1、第2リング部16a,16b間に隙間23が形成される。つまり、両リング部16a、16bの対向間隔がどのように変化しても必ず隙間23が形成される構成としている。この隙間23は、ボディ1に形成した吸込ポート52に常時連通させている。
また、上記第1、第2リング部16a、16bの側面には、サイドプレート25を設けて、ベーン室57側面をシールしている。このサイドプレート25の背面には、高圧エリアHが設けてあり、この高圧エリアHにポンプの吐出圧が作用するようにしている。したがって、サイドプレート25は、ポンプの吐出圧に応じてベーン室57側面をシールするプレッシャーローディングの機能を果たしている。
また、上記サイドプレート25とは反対側には、一対の吐出ポート26が形成され、複数のベーン7によって区画されたベーン室57からの圧油を吐出するようにしている。そして、第1、第2リング部16a、16bに設けたシール部材53で、この吐出ポート26の周囲をシールし、そこからの漏れを防止している。
【0014】
上記のようにした第1、第2リング部16a、16bの対向間隔を調整するには、カムリング移動機構11を動作させる。このカムリング移動機構11は、ボディ1の両側に取り付けた一対のアクチュエータ27と、このアクチュエータ27を動作させる油圧制御回路とから構成されている。
上記アクチュエータ27は、ボディ1に取り付けたケーシング28にピストン29を摺動自在に設けている。そして、このピストン29に設けたロッド30の端部は、第1、第2リング部16a、16bにねじ止めされている。
また、ケーシング28のロッド側室31とボトム側室32とには、それぞれ圧油の流出入ポート33、34を形成している。この流出入ポート33、34を介してケーシング28内に圧油が流出入し、ピストン29が移動するようになっている。
【0015】
したがって、ケーシング28のボトム側室32あるいはロッド側室31に圧油が供給されれば、ピストン29が移動し、そのピストン29の移動量に応じて第1、第2リング部16a、16bも移動する。
なお、ケーシング28のロッド側室31にはスプリング35が設けてあり、ピストン29をボトム側室32に押しつける弾性力を作用させている。また、ケーシング28の端部には、コントローラ36と接続した変位センサー37を設けている。このセンサー37は、ピストン29の移動量を検知してその情報をコントローラ36に送る。
【0016】
また、アクチュエータ27のケーシング28に形成した流出入ポート33、34は、電磁比例弁39に接続している。この電磁比例弁39は、クローズドセンタータイプの切換弁で、コントローラ36に接続したソレノイド39aで、切換え位置39bと39cとに切換わり、これらの切換え位置に応じてアクチュエータ27のボトム側室32、あるいはロッド側室31を、通路38を介して、このポンプに接続する。
また、上記可変容量形ベーンポンプには、3つの通路40〜42を接続し、図示していないパワーステアリング装置、サスペンション装置、サイドプレート25に圧油を供給するようにしている。そして、上記通路38には、流量センサー43を設けている。この流量センサー43は、その本体内に絞り43aを設け、この絞り43a前後の差圧を電気的に検出して流量を測定するもので、その検出信号をコントローラ36に伝達している。
【0017】
また、サイドプレート25と連通する通路42には、方向切換弁44が設けてある。この方向切換弁44は、サイドプレート25の高圧エリアHに圧油を供給する切換え位置44cと、高圧エリアHをタンクTに接続する切換え位置44bとを備えている。
また、切換え位置44c側には、スプリング51を設け、このバネ力の作用で、方向切換弁44は、ノーマル状態で切換え位置44cを保つようにしている。さらに、上記スプリング51とは反対端に、パイロット室44aを設けている。したがって、この方向切換弁44は、パイロット室44aに圧力が作用したとき切換え位置44bに切換わる。
【0018】
上記電磁比例弁39下流とアクチュエータ27との間から分岐した通路54、55には、シャトル弁45が接続してある。このシャトル弁45は、アクチュエータ27のボトム側室32とロッド側室31とに接続してあるとともに、方向切換弁44のパイロット室44aにも接続している。このように接続することで、ボトム側室32かロッド側室31のいずれか高圧側の圧力を選択し、その圧力を方向切換弁44のパイロット室44aに作用させている。
さらに、アクチュエータ27のボトム側室32の流出入ポート33とロッド側室31の流出入ポート34との上流には絞り46、47が設けてある。この絞り46、47は、その上流に絞り抵抗を付与させることで、アクチュエータ27が作動する前に、方向切換弁44を切換えさせるためのものである。
【0019】
このようにすれば、第1、第2リング部16a、16bを移動させる前に、サイドプレート25の押圧力を制御することができる。
なお、コントローラ36はエンジンEの回転を検出する回転数センサー48と、車速センサー49とにも接続している。
また、符号50は、リリーフ弁である。さらに、絞り46、47前後に設けたチェック弁56、58は、アクチュエータ27からの戻り油を、絞り46、47の抵抗を受けずに戻すためのものである。
なお、図1に示した電磁比例弁39は、図2における流出入ポート33,34に連通している。
【0020】
このような構成による可変容量形ベーンポンプは以下のように作動する。
図2は、第1、第2リング部16a、16bの対向間隔が最大となっている状態である。したがって、可変容量形ベーンポンプの吐出量は最大となっている。
このような状態において、回転数センサー48や車速センサー49が、エンジンEの回転数の上昇や、車速の上昇という情報をコントローラ36に送ったとする。このとき、エンジンEの回転数が図4に示すNC以上であれば、コントローラ36が高速走行時と判断し、コントローラ36が動作して、電磁比例弁39を切換え位置39cに切換える。
【0021】
電磁比例弁39が切換え位置39cに切換わると、アクチュエータ27のボトム側室32に圧油が供給されてピストン29を、ロータ6の中心方向に移動させることになる。
このとき、アクチュエータ27の上流には、絞り46が設けてあるので、この絞り46によってアクチュエータ27への供給流量が制限され、この絞り46上流には、絞り46による抵抗が付与される。この絞り46によって発生した圧力は、シャトル弁45で選択されて、方向切換弁44のパイロット室44aに作用し、方向切換弁44を切換え位置44bに切換える。方向切換弁44は、高圧エリアHをタンクTに連通させるので、サイドプレート25の背面に作用している圧力がタンク圧になり、サイドプレート25の押圧力を弱くする。
【0022】
こうして、ベーン室57側面をシールしているサイドプレート25の押圧力が弱くなるころに、絞り46で流量を制御された圧油が、アクチュエータ27のボトム側室32に作用し始め、ピストン29を移動させる。そして、ピストン29の移動量に応じて、第1、第2リング部16a、16bの対向間隔が縮まり、可変容量形ベーンポンプの吐出量が少なくなる。
上記のように、可変容量形ベーンポンプの吐出量が、少なくなると、その吐出量は、流量センサー43によって検出されコントローラ36に送られる。コントローラ36は、この情報と変位センサー37からの情報とによって、吐出流量を適切に制御するために電磁比例弁39を制御する。
こうして、コントローラ36で設定した吐出量になると、電磁比例弁39は図示の中立位置に戻される。電磁比例弁39が中立位置に戻れば、方向切換弁44にパイロット圧が作用しなくなり、方向切換弁44がスプリング51の力でノーマル位置に戻り、サイドプレート25背面の高圧エリアHには、吐出量の少なくなった可変容量形ベーンポンプの吐出圧に応じた圧力が作用し、ベーン室57をシールする。
【0023】
このように、エンジンEの回転数や車速に応じて、可変容量形ベーンポンプの吐出量を制御する場合、サイドプレート25の押圧力を弱くしてから、第1、第2リング部16a、16bを相対移動させる。そして、第1、第2リング部16a、16bの移動が終了すると、またサイドプレート25に押圧力が作用する。したがって、可変容量形ベーンポンプの吐出量を変化させる過程に無駄がない。
また、上記したように、可変容量形ベーンポンプの吐出圧に応じて、サイドプレート25背面の高圧エリアHに圧力を作用させ、ベーン室57側面をシールするプレッシャーローディングをしているので、容積効率がよい。
【0024】
図5は、第2実施例を示すもので、そのラップ凹部17とラップ凸部19とを一つにしたもので、その他は第1実施例と同様である。
図6に示した第3実施例は、一つのラップ凹部17と一つのラップ凸部19とを形成するとともに、それら両者が完全にかみ合う形状にしている。そして、このラップ凸部19の先端にカット面19aを形成し、両者が完全にかみ合ったときにも、このカット面19aの先端に、吸込ポート52に連通する隙間23が形成されるようにしている。
この第3実施例においても、第1、2リング部16a、16bの対向間隔が最大になったときにも、ラップ凹部17とラップ凸部19とが、ベーンの幅方向で、常にオーバーラップするようにしている。
【0025】
図7に示した第4実施例は、第1リング部16aと、第2リング部16bとの対向端に、点対称になる傾斜部を形成し、この傾斜部を形成した先端をこの発明のラップ部59、60としている。
これらラップ部59、60の先端には、第3実施例と同様のカット面59a、60aを形成し、上記ラップ部59、60が完全に一致したときにも、このカット面59a、60aのいずれか先端に、吸込ポート52に連通する隙間23が形成されるようにしている。
図8に示した第5実施例は、第2リング部16bを固定化し、第1リング部16aのみを可動式にしたもので、それにともなって、アクチュエータ27も一つにしたもので、その他は、第1実施例と同様である。
【0026】
【効果】
第1の発明では、カムリングのベーン摺動面が面一に連続しているので、例えば、従来のような、段差がない。このため、段差によるベーン摺動時のジャンピングがないので、脈動が発生しないとともに、騒音が発生しない。
また、第1、第2リング部の対向部間に隙間を形成し、この隙間を吸い込みポートとしたので、吸い込みポートを特別に設ける必要が無くなる。
第2の発明では、サイドプレートは、ポンプの吐出圧に応じて、ベーン室57をシールすることができるので、容積効率が良くなる。
第3の発明では、第1,2リング部の対向間隔を制御するとき、高圧エリアとタンクとを連通するようにしたので、その対向間隔の制御が極めてスムーズに行われる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例のポンプを接続した回路図である。
【図2】第1実施例の断面図である。
【図3】図2のIII-III線での要部拡大断面図である。
【図4】エンジンの回転数、および車速と、パワーステアリング装置等の作動に必要な流量との関係を示したグラフである。
【図5】第2実施例の要部拡大断面図である。
【図6】第3実施例の要部拡大断面図である。
【図7】第4実施例の要部拡大断面図である。
【図8】第5実施例の可変容量形ベーンポンプの断面図である。
【図9】従来例の可変容量形ベーンポンプの断面図である。
【図10】従来例の可変容量形ベーンポンプの要部拡大図である。
【符号の説明】
1 ボディ
6 ロータ
7 ベーン
16 カムリング
16a、16b 第1、第2リング部
17、18 ラップ凹部
19、20 ラップ凸部
25 サイドプレート
59、60 ラップ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、このボディ内に設け、かつ、第1リング部と第2リング部とに分割し、それらの対向間隔を調整可能にしたカムリングと、ラジアル方向に複数のベーンを出没可能に設けたロータとを備え、ロータを回転させることによって、ベーンをカムリングに沿って出没させる可変容量形ベーンポンプにおいて、上記第1リング部と第2リング部の対向端にラップ部を形成し、このラップ部は、第1、第2リング部の対向間隔の変化にかかわらず、ベーンの幅方向で常にオーバーラップする構成にするとともに、これら両ラップ部を介して、カムリングのベーン摺動面を面一に連続させ、さらに、第1、第2リング部の対向部間に隙間を形成し、この隙間を吸い込みポートとした可変容量形ベーンポンプ。
【請求項2】
上記各ベーンで構成されるベーン室をシールするサイドプレートを備え、上記サイドプレートの背面に、ポンプ吐出圧を導く高圧エリアを設けた請求項1記載の可変容量形ベーンポンプ。
【請求項3】
上記第1リング部および第2リング部との対向間隔を制御するアクチュエータと、このアクチュエータの移動を制御する電磁比例弁と、この電磁比例弁の移動位置に応じて高圧エリアにポンプ吐出圧を導いたり、その高圧エリアとタンクとを連通したりする方向切換弁とを備え、電磁比例弁を切換えて上記アクチュエータを作動させ、第1,2リング部の対向間隔を制御するとき、高圧エリアとタンクとを連通し、電磁比例弁を中立位置に復帰させたとき、高圧エリアにポンプ吐出圧を導く構成にした請求項2記載の可変容量形ベーンポンプ。
【請求項1】
ボディと、このボディ内に設け、かつ、第1リング部と第2リング部とに分割し、それらの対向間隔を調整可能にしたカムリングと、ラジアル方向に複数のベーンを出没可能に設けたロータとを備え、ロータを回転させることによって、ベーンをカムリングに沿って出没させる可変容量形ベーンポンプにおいて、上記第1リング部と第2リング部の対向端にラップ部を形成し、このラップ部は、第1、第2リング部の対向間隔の変化にかかわらず、ベーンの幅方向で常にオーバーラップする構成にするとともに、これら両ラップ部を介して、カムリングのベーン摺動面を面一に連続させ、さらに、第1、第2リング部の対向部間に隙間を形成し、この隙間を吸い込みポートとした可変容量形ベーンポンプ。
【請求項2】
上記各ベーンで構成されるベーン室をシールするサイドプレートを備え、上記サイドプレートの背面に、ポンプ吐出圧を導く高圧エリアを設けた請求項1記載の可変容量形ベーンポンプ。
【請求項3】
上記第1リング部および第2リング部との対向間隔を制御するアクチュエータと、このアクチュエータの移動を制御する電磁比例弁と、この電磁比例弁の移動位置に応じて高圧エリアにポンプ吐出圧を導いたり、その高圧エリアとタンクとを連通したりする方向切換弁とを備え、電磁比例弁を切換えて上記アクチュエータを作動させ、第1,2リング部の対向間隔を制御するとき、高圧エリアとタンクとを連通し、電磁比例弁を中立位置に復帰させたとき、高圧エリアにポンプ吐出圧を導く構成にした請求項2記載の可変容量形ベーンポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【特許番号】特許第3573470号(P3573470)
【登録日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【発行日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−359912
【出願日】平成4年12月29日(1992.12.29)
【公開番号】特開平6−200882
【公開日】平成6年7月19日(1994.7.19)
【審査請求日】平成11年12月28日(1999.12.28)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【参考文献】
【文献】実開平06−034181(JP,U)
【文献】特開平04−031680(JP,A)
【文献】特開平03−267589(JP,A)
【文献】特開昭61−112793(JP,A)
【登録日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【発行日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成4年12月29日(1992.12.29)
【公開番号】特開平6−200882
【公開日】平成6年7月19日(1994.7.19)
【審査請求日】平成11年12月28日(1999.12.28)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【参考文献】
【文献】実開平06−034181(JP,U)
【文献】特開平04−031680(JP,A)
【文献】特開平03−267589(JP,A)
【文献】特開昭61−112793(JP,A)
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