説明

可視光応答型光触媒およびその製造方法並びにそれを用いた光触媒コート剤、光触媒分散体

【課題】光触媒活性を有し、あらゆる支持体に強固に、かつ、長期間にわたって固定することかできる可視光応答型光触媒を提供する。
【解決手段】酸化チタン等の光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子の表面に、可視光透過性無機物質を担持する。可視光透過性無機物質は、珪素、アルミニウム、スズ、亜鉛およびジルコニウムからなる群より選ばれる元素の少なくとも1種の化合物が好ましく、0.1〜30重量%担持するのが好ましい。
光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子と可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質とを溶媒中で混合し、次いで、酸および/またはアルカリで中和するなどして、可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光を含む光の照射により活性を有する光触媒(以下、可視光応答型光触媒という場合がある)、それを含む光触媒コート剤、光触媒分散体、およびそれを支持体に固定した光触媒体ならびにそれらを用いた有害物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射すると励起し、強い触媒活性が発現するものである。特に、有機物やNOxなどの一部無機物の酸化・分解力が大きく、エネルギー源として低コストで、環境負荷の非常に小さい光を利用できることから、近年環境浄化や脱臭、防汚、殺菌などへの応用が進められている。また、光触媒が励起するとその表面が親水性になり水との接触角が低下することが見出され、この作用を利用して防曇、防汚などへの応用も進められている。光触媒としては、酸化物や硫化物などの金属化合物が、特に、高い光触媒活性を有する微粒子の酸化チタン、酸化亜鉛などが一般的に用いられている。一方、酸化チタン、酸化亜鉛などは、励起光の波長が400nm以下の紫外線領域にあるので、紫外線ランプなど特別な光源が必要であり、利用分野が制限されている。このため、酸化チタンに窒素、硫黄、炭素等の異種元素をドープして可視光触媒活性を発現させる技術が提案されている(特許文献1を参照)。あるいは、ハロゲン化白金化合物を酸化チタン等の光触媒粒子の表面に担持させたり(特許文献2を参照)、オキシ水酸化鉄を酸化チタン等の光触媒粒子の表面に担持させる(特許文献3を参照)などして、可視光・光触媒活性を付与する技術も知られている。
このような可視光応答型光触媒は、通常、支持体上に固定して用いられる。具体的にはガラス板、プラスチック板、フィルム等に固定するには、可視光応答型光触媒を含むコート剤や分散体を上記の支持体に塗布し、乾燥させたり、高温で加熱したりする方法が用いられる。また、衣服や紙などに固定するには、それらの原料繊維と可視光応答型光触媒とを混合し、次いで、紡糸したり、抄造したりする方法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−29750号公報
【特許文献2】特開2002−239395号公報
【特許文献3】WO2007/125998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子は、可視光照射下での光触媒活性が高い。この可視光応答型光触媒に照射する可視光を含む光は、太陽、蛍光灯等の一般的な光源を用いることができるため、紫外線ランプ等の特殊な光源を用いる必要がない点で有利であるが、長時間の光照射が可能になることにより、光触媒活性が長時間維持され、それによりプラスチック板、フィルム、衣服や紙等の支持体や固定する際に用いたバインダを分解してしまい、固定強度の低下や商品の変質を招き、実用に耐えうる性能を維持できないこと、また、色物の衣服や紙などに混ぜ込むと、染料そのものの分解が起こり色あせの原因となることなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、光触媒活性を保持し、あらゆる支持体に強固に、かつ、長期間にわたって固定する方法を探索した結果、光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持すると、可視光応答型光触媒が支持体等に直接接触し難いことから、光触媒活性による支持体や固定する際に用いたバインダの分解を抑制することができ、可視光応答型光触媒を長期間固定することが可能であること、しかも、可視光は無機物質を透過して可視光応答型光触媒に照射されるため、抗菌作用、脱臭、防汚などの光触媒活性を十分に発揮することができることなどを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、(1)光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持することを特徴とする可視光応答型光触媒、 (2)光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子と可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質とを溶媒中で混合し、次いで、酸および/またはアルカリで中和して、可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持することを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法、(3)前記の可視光応答型光触媒とバインダとを少なくとも含むことを特徴とする光触媒コート剤、(4)前記の可視光応答型光触媒と分散媒とを少なくとも含むことを特徴とする光触媒分散体、(5)前記の可視光応答型光触媒を支持体に固定してなることを特徴とする光触媒体、(6)前記の可視光応答型光触媒または光触媒体に可視光を含む光の照射下、有害物を分解させることを特徴とする有害物の分解方法などである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子の表面に、可視光透過性無機物質を担持することを特徴とする光触媒であって、無機物質の立体的障害により、支持体、バインダとの直接的な接触をさけることができる部分で可視光応答型光触媒粒子を固定させることができるので、紙、繊維等の光触媒活性に対して弱い支持体やバインダも使用することができ、可視光応答型光触媒粒子を強固に、かつ、長期間にわたって固定することができる。本発明の可視光応答型光触媒を支持体に固定してなる光触媒体は、優れた光触媒活性を有しており、有害物を効率よく、かつ簡易に分解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持することを特徴とする可視光応答型光触媒である。「可視光応答型光触媒」とは、400〜800nmの波長の可視光を照射した際の光触媒活性を測定して、少しでも光触媒活性の発現を確認できる光触媒を言う。光触媒活性の測定方法としては、後述するアセトアルデヒド等の有機物の分解活性や、NOxガスの除去活性、あるいは、水との接触角を測定してもよい。このような可視光応答型光触媒粒子は、公知のものを用いることができるが、ハロゲン化白金化合物を酸化チタン等の光触媒粒子の表面に担持させたり、オキシ水酸化鉄を酸化チタン等の光触媒粒子の表面に担持させたものは可視光を含む光の照射により高い活性を有するため好ましい。オキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した光触媒粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、チタン酸ストロンチウムなどの公知の金属化合物半導体を1種または2種以上用いることができる。特に、優れた光触媒機能を有し、化学的に安定でかつ無害である酸化チタンが望ましい。酸化チタンとしては、一般的なチタンの酸化物の他に、無水酸化チタン、含水酸化チタン、水和酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸などと呼ばれるものを含み、アナターゼ型やルチル型など結晶形には特に制限は無く、不定形であってもよく、それらが混合したものであってもよい。
さらに、光触媒粒子の光触媒機能を向上させるために、その内部および/またはその表面にV、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、PtおよびAgからなる群より選ばれる元素の少なくとも1種の金属および/またはその化合物を含有させてもよい。本発明において、可視光応答型光触媒粒子の粒子径は、優れた光触媒機能を有し、かつ、可視光透過性無機物質を担持するうえで、0.005〜0.5μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5μmの範囲、もっとも好ましくは0.01〜0.3μmの範囲である。
【0009】
光触媒粒子に担持するオキシ水酸化鉄は、FeOOHまたはFe・nHOの化学式で表される化合物であって、α態、β態、γ態等の結晶性のもの、あるいは無定形のものを用いることができ、特にα−オキシ水酸化鉄は400〜500nmの波長の光の吸収効果が高く、より優れた活性を有する可視光応答型光触媒を得られるので好ましい。オキシ水酸化鉄の含有量は適宜設定できるが、オキシ水酸化鉄と酸化チタンの合量に対しFe換算で0.01〜5重量%の範囲にあるのが好ましく、0.05〜2重量%の範囲が更に好ましい。オキシ水酸化鉄が含有あるいは担持しているか、より詳細には、α態のオキシ水酸化鉄が含有あるいは担持しているかなどは、例えば、メスバウアー分光法で確認することができる。
【0010】
光触媒粒子に担持するハロゲン化白金化合物としては、無機系ハロゲン化白金化合物が好ましく、具体的には、PtCl2、PtCl4、PtCl4・2H2O、H2 [Pt(OH)2Cl4]・nH2O等の白金塩化物や、PtBr2、PtBr4等の白金臭化物、PtI2、PtI4等の白金ヨウ化物、PtF4等の白金フッ化物などの白金ハロゲン化物またはその水和物、塩化白金酸、塩化白金酸塩、ブロモ白金錯塩、ヨウ化白金酸塩等のハロゲン化白金酸、ハロゲン化白金酸塩またはハロゲン化白金錯塩、それらの水和物が挙げられる。ハロゲン化白金化合物の中でも塩素元素と白金の化合物である塩化白金化合物は効果が高く好ましい。ハロゲン化白金化合物の担持様態は制限されず、酸化チタン等の光触媒粒子表面に吸着した状態であっても、粒子表面と反応して強固に結合した状態、例えば、Ti[PtXn](X:ハロゲン、n=4または6)で表されるようなハロゲン化白金錯体を形成していてもよい。あるいは、一部が吸着され、一部が結合していてもよい。ハロゲン化白金化合物の担持量は、酸化チタン等の光触媒粒子に対しPt換算で0.01〜5重量%の範囲であれば優れた可視光・光触媒活性が得られやすくなるため好ましく、0.01〜1重量%の範囲がより好ましく、0.01〜0.7重量%の範囲がさらに好ましい。このように、ハロゲン化白金化合物の担持量が微量である場合では、その組成を特定することは難しいが、化学的または物理的分析法、例えば蛍光X線分析によってハロゲン元素と白金とが検出されていれば、本発明ではハロゲン化白金化合物を担持しているものと見なす。また、ハロゲン化白金化合物を担持する際に、ハロゲン化白金化合物を還元する含有促進剤として種々のものを用いることができ、亜リン酸、次亜リン酸およびそれらの塩を用いた場合には、ハロゲン元素、白金元素に加えリン元素を更に含有した組成となる場合がある。
【0011】
可視光応答型光触媒粒子の表面上に担持する無機物質は、可視光応答型光触媒粒子が励起する可視光を少しでも透過するものであればどのような物質でも用いることができる。このような可視光透過性無機物質としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの酸化物、水酸化珪素、水酸化アルミニウム、水酸化スズ、水酸化亜鉛、水酸化ジルコニウムなどの水酸化物や含水酸化物、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウムなどのリン酸塩や、モンモリロナイト、カオリン、タルク、雲母、セピオライトなどの粘土化合物等の化合物を挙げることができ、これらの無機化合物の1種または2種以上を用いることができる。可視光透過性無機物質としては、光触媒反応に用いる光によっては半導性、触媒性を全くあるいはほとんど発現しない物質が好ましく、珪素、アルミニウム、スズ、亜鉛およびジルコニウムからなる群より選ばれる元素の少なくとも1種の化合物が好ましく、特に、珪素、アルミニウム、スズ、亜鉛の化合物、特にそれらの酸化物、水酸化物、含水酸化物、水和酸化物がもっとも好ましい。可視光透過性無機物質の担持量は、可視光応答型光触媒粒子の重量に対して、0.1〜50重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜30重量%の範囲であり、更に好ましくは0.5〜30重量%の範囲であり、もっとも好ましくは1.0〜20重量%の範囲である。可視光透過性無機物質の担持量が前記範囲より少ないと可視光応答型光触媒粒子の表面には光活性な部分が多く、その部分が支持体に接触して支持体の酸化劣化を引き起こしやすくなるため好ましくなく、また、前記範囲より多いと可視光透過性無機物質が阻害して可視光応答型光触媒粒子に可視光が照射されず、光触媒活性が発現されにくいため好ましくない。可視光透過性無機物質の担持は、可視光応答型光触媒粒子の表面に連続的な被覆層を形成してもよく、島状に担持されてもよい。連続的な被覆層を形成する場合の可視光透過性無機物質としては珪素、アルミニウムの酸化物、水酸化物、含水酸化物、水和酸化物が可視光透過性に優れているため好ましい。また、島状とは可視光応答型光触媒粒子の表面が一部分露出するように可視光透過性無機物質が付着している状態をいう。この場合の可視光透過性無機物質としてはスズ、亜鉛、ジルコニウムの酸化物、水酸化物、含水酸化物、水和酸化物が好ましい。可視光透過性無機物質の担持面積は可視光応答型光触媒粒子の表面積の5〜100%程度が好ましく、10〜100%程度がより好ましく、20〜100%程度がもっとも好ましい。また、可視光透過性無機物質が、光触媒粒子に担持したオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物の表面に存在するとより好ましい。可視光透過性無機物質の担持状態は、電子顕微鏡観察により確認することができる。
【0012】
可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持するには、例えば、(1)可視光応答型光触媒粒子と可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質とを溶媒中で混合し、好ましくは可視光応答型光触媒粒子を水中に分散させた懸濁液に、可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質を添加し、次いで、酸やアルカリで中和して、可視光応答型光触媒粒子の表面に析出させる方法、(2)可視光応答型光触媒粒子と可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質とを混合し、好ましくは溶媒中で両者を混合し、より好ましくは可視光応答型光触媒粒子を水中に分散させた懸濁液に、可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質を添加し混合して、必要に応じて湿式粉砕し、次いで、乾燥して、具体的には濾過し乾燥したり蒸発乾固したりあるいは噴霧乾燥(スプレードライ)したりして、光触媒粒子の表面に担持させる方法、(3)気相酸化法を用いて可視光透過性無機物質を可視光応答型光触媒粒子の表面上に担持させる方法などを用いることができる。これらの方法に用いる可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質としては、例えば、珪酸ナトリウム、水ガラス、塩化珪素、シリカゾル、珪酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミナゾル、珪酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、ジルコニアゾル、塩化スズ、硫酸スズ、酸化スズゾル、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酸化亜鉛ゾルなどの無機化合物、メチルシロキサンやポリメチルシロキサンなどのオルガノシロキサン等の有機化合物を用いることができる。水ガラスとしてはナトリウム−ケイ酸系、カリウム−ケイ酸系、リチウム−ケイ酸系等を用いることができ、中でもナトリウム−ケイ酸系が安定性が高いので好ましい。ナトリウム−ケイ酸系の水ガラスはNaOとSiOのモル比が2〜4の範囲にあると好ましく、前記モル比が3の3号水ガラスが特に好ましい。オルガノシロキサン等の有機化合物は加水分解して可視光透過性無機物質となる。前記の(1)、(2)に使用する溶媒としては、水溶媒やアルコール等の有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒を用いることができる。このようにして得られた可視光応答型光触媒を、必要に応じて、濾過し、洗浄し、乾燥したり、あるいは焼成したりしてもよい。乾燥温度は室温から200℃程度が好ましく、焼成温度は200から400℃程度が好ましい。
【0013】
可視光応答型光触媒粒子の表面に担持する珪素の酸化物、水酸化物、含水酸化物または水和酸化物(以下、シリカという場合がある)は、高密度シリカまたは多孔質シリカを形成するのがより好ましい。シリカ被覆処理の際のpH範囲に応じて、被覆されるシリカが多孔質となったり、非多孔質(高密度)となったりするが、高密度シリカであると緻密な被覆を形成しやすいため、無機物質としての効果が高くより好ましい。そのため、可視光応答型光触媒粒子の表面に高密度シリカの第一被覆層を存在させ、その上に多孔質シリカの第二被覆層あるいはアルミニウムの酸化物、水酸化物、含水酸化物または水和酸化物(以下、アルミナという場合がある)を存在させてもよい。シリカ被覆は電子顕微鏡で観察することができる。
【0014】
具体的に可視光応答型光触媒粒子の表面に高密度シリカ被覆を行うには、まず、可視光応答型光触媒粒子の水性懸濁液に珪酸塩を添加する。珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどの種々の珪酸塩を使用することができる。珪酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。次いで、珪酸塩の添加終了後必要に応じて更に充分に撹拌し混合した後、懸濁液の温度を好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上に維持しながら、アルカリ域の水性懸濁液に酸を添加して中和する。ここで使用する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などが挙げられ、これらにより懸濁液のpHを好ましくは7.5以下、より好ましくは7以下に調整して、可視光応答型光触媒粒子の表面に高密度シリカを被覆することができる。
【0015】
また、可視光応答型光触媒粒子の表面に多孔質シリカ被覆を行うには、まず、可視光応答型光触媒粒子の水性懸濁液に、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などの酸を添加してpHを1〜6、好ましくは1.5〜5に調整する。懸濁液温度は50〜80℃に調整するのが好ましい。次に、懸濁液pHを前記範囲に保持しながら、珪酸塩と酸とを添加して多孔質シリカの被覆を形成する。珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどの種々の珪酸塩を使用することができる。珪酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。このようにして可視光応答型光触媒粒子の表面に多孔質シリカを被覆することができる。
【0016】
一方、可視光応答型光触媒粒子の表面にアルミナ被覆を行うには、まず、可視光応答型光触媒粒子の懸濁液を水酸化ナトリウム等のアルカリでpHを8〜9に中和した後50℃以上の温度に加熱し、次に、アルミニウム化合物と酸性水溶液とを同時並行に添加するのが好ましい。アルミニウム化合物としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等のアルミン酸塩を好適に用いることができ、酸性水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸等の水溶液を好適に用いることができる。前記の同時並行添加とは、アルミニウム化合物と酸性水溶液のそれぞれを別々に少量ずつ連続的あるいは間欠的に反応器に添加する方法をいう。具体的には反応器内のpHを8.0〜9.0に保ちながら両者を10分〜2時間程度かけて同時に添加するのが好ましい。アルミニウム化合物と酸性水溶液を添加後、酸性水溶液を更に添加しpHを5〜6程度に調整するのが好ましい。
また、スズ、亜鉛、ジルコニウム等の酸化物等を可視光応答型光触媒粒子の表面に被覆するには、前記のアルミナ被覆に準じて行うことができる。
【0017】
次に、本発明は、前記の可視光応答型光触媒とバインダとを少なくとも含むことを特徴とする光触媒コート剤である。光触媒コート剤には可視光応答型光触媒のほかに少なくともバインダが含まれ、バインダとしては、無機系樹脂、有機系樹脂を用いることができ、光触媒反応により分解され難いバインダ、例えば、重合性ケイ素化合物、セメント、コンクリート、石膏、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが好ましく、中でも重合性ケイ素化合物は耐久性が高く、比較的取扱が容易で汎用性が高いので好ましい。重合性ケイ素化合物としては、例えば、加水分解性シランまたはその加水分解生成物またはその部分縮合物、水ガラス、コロイダルシリカ、オルガノポリシロキサン等が挙げられ、これらの中の1種を用いても、2種以上を混合して用いてもよい。加水分解性シランはアルコキシ基、ハロゲン基等の加水分解性基を少なくとも1個含むもので、中でもアルコキシシランが安定性、経済性の点で望ましく、特にテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランが反応性が高く好ましい。水ガラスとしてはナトリウム−ケイ酸系、カリウム−ケイ酸系、リチウム−ケイ酸系等を用いることができ、中でもナトリウム−ケイ酸系が安定性が高いので好ましい。ナトリウム−ケイ酸系の水ガラスはNaOとSiOのモル比が2〜4の範囲にあると硬化性が高く、安定性と硬化性とのバランスから前記モル比が3の3号水ガラスが特に好ましい。コロイダルシリカやオルガノポリシロキサンとしては、シラノール基を有するものを用いることができる。光触媒コート剤には、更に水や、アルコール類、炭化水素類、エーテル類、エーテルアルコール類、エステル類、エーテルエステル類、ケトン類等の非水溶媒が分散媒として含まれていてもよく、バインダとの相溶性に応じて、これらの1種または2種以上を含む混合溶媒などを適宜選択して用いる。コート剤中の固形分濃度は1〜50重量%の範囲が好ましく、10〜40重量%の範囲が更に好ましい。可視光応答型光触媒は固形分中に50〜95重量%含まれているのが好ましく、70〜95重量%の範囲が更に好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記の可視光応答型光触媒と分散媒とを少なくとも含むことを特徴とする光触媒分散体である。光触媒分散体の分散媒には、光触媒コート剤に配合されている分散媒と同種のものか、または相溶性が高いものを選択する。また、分散体には分散剤を配合してもよく、分散媒に応じて分散剤種を適宜選択する。分散剤としては、例えば、(1)界面活性剤((a)アニオン系(カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等)、(b)カチオン系(アルキルアミン塩、アルキルアミンの4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩、複素環4級アンモニウム塩等)、(c)両性(ベタイン型、アミノ酸型、アルキルアミンオキシド、含窒素複素環型等)、(d)ノニオン系(エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等)等、(2)シリコーン系分散剤(アルキル変性ポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等)、(3)リン酸塩系分散剤(リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、オルトリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等)、(4)アルカノールアミン類(アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール等)等が挙げられる。中でもカルボン酸塩系の界面活性剤が、特に高分子型のものが酸化チタンを高度に分散させることができるので好ましい。具体的には、ポリアクリル酸塩([CHCH(COOM)]:Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム等、以下も同様)、アクリル酸塩−アクリルアミドコポリマー([CHCH(COOM)]−[CHCH(CONH)])、アクリル酸−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(COOH)]−[CHCH(COOM)CH(COOM)])、エチレン−マレイン酸塩コポリマー([CHCH−[CH(COOM)CH(COOM)])、オレフィン−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(R)]−[CH(COOM)CH(COOM)])、スチレン−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(C)]−[CH(COOM)CH(COOM)])等が挙げられる。分散体中の光触媒の配合量は、5〜90重量%の範囲が好ましく、10〜80重量%の範囲が更に好ましい。また、分散剤の配合量は、光触媒に対し0.01〜20重量%の範囲が好ましく、0.01〜10重量%の範囲が更に好ましい。
【0019】
光触媒コート剤、光触媒分散体には、可視光応答型光触媒および/またはバインダや、分散媒以外にも、本発明の効果を損ねない範囲で、pH調整剤、分散剤、消泡剤、乳化剤、着色剤、増量剤、防カビ剤、硬化助剤、増粘剤等の各種添加剤、充填剤等が含まれていてもよい。これらの添加剤または充填剤が不揮発性であれば、光触媒活性により分解され難い無機系のものを選択するのが好ましい。
【0020】
次に、本発明は、前記の可視光応答型光触媒を支持体に固定してなることを特徴とする光触媒体である。支持体としては、金属、セラミックス、ガラスなどの無機物、ポリマ、布、紙、板やそれらの原料繊維などの有機物を用いることができる。特に、支持体として紙を用いた光触媒体は障子、ふすま、壁紙などの建具に利用して室内の光脱臭、防汚、抗菌を行うことができるほか、軽量であり加工が容易であるため冷暖房機や換気扇のフィルターなどの種々の用途に利用できるという優れた利点を有するものである。支持体の大きさ、形状や色相などには、特にとらわれる必要がなく、用途に応じてどのようなものでも用いることができる。前記の可視光応答型光触媒を支持体に固定するには、前記の光触媒コート剤を基材表面に塗布あるいは吹きつけた後、乾燥または焼成する方法を用いることができる。また、前記の光触媒分散体を基材表面に塗布あるいは吹きつけた後、乾燥または焼成する方法を用いることができる。乾燥温度は室温から200℃程度が好ましく、焼成温度は200から400℃程度が好ましい。
【0021】
次に、本発明は、前記の可視光応答型光触媒またはそれを支持体に固定してなる光触媒体に、可視光を含む光の照射下、有害物を接触させて分解する方法である。前記の有害物としては、油、有機物などの水質汚濁物質、アンモニア、メルカプタン、アルデヒド、アミン、硫化水素、炭化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物などの大気汚染物質、細菌、菌、微生物、各種の汚れ成分などの環境悪化物質などを対象とすることができる。これらの有害物を、送風機や送液機を用いたり、自然対流や移動を利用したりして、可視光応答型光触媒または光触媒体に接触させて、光触媒活性により浄化する。本発明の有害物分解方法に用いる光源としては、可視光応答型光触媒粒子に可視光を含む光を放射できる光源が必要であり、例えば、太陽などの自然光源、蛍光灯、白熱灯などの人工光源を用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0023】
実施例1
純水0.5リットルにヘキサクロロ塩化白金酸6水和物0.674g(TiOに対しPt換算で0.5重量%に相当)を添加し、よく撹拌し、光触媒酸化チタン粒子(ST−01:石原産業製)50gを添加した後に次亜リン酸水溶液(50%)を0.72ミリリットル加え、次いで、90℃で1時間加熱処理を行った。次いで、冷却してから濾過し、洗浄水の導電率が100μS/m以下となるまで純水でよく洗浄を行い、110℃×1昼夜乾燥後、ライカイ機にて粉砕し、濃い肌色を呈した光触媒(試料a)を得た。
蛍光X線分析によって試料aを分析した結果、白金と塩素が検出され、白金の歩留まりは約100%であった。
【0024】
次いで、試料aを水に懸濁した水性懸濁液に珪酸ナトリウム(3号水ガラス)を添加し、温度を90℃に調整した。次に、懸濁液のpHを1時間掛けて硫酸でpHを6に調整し、その後1時間熟成した。引き続き、硫酸を添加して懸濁液のpHを3に調整した後、濾過し、洗浄し、乾燥して、本発明の高密度シリカ(10重量%)を被覆した光触媒(試料A)を得た。
【0025】
実施例2
前記の試料aを水に懸濁した水性懸濁液を75℃に加温し、硫酸を添加してpHを5に調整した後に、懸濁液のpHを保持しながら、珪酸ナトリウム(3号水ガラス)と硫酸とを同時に添加し、1時間熟成した。引き続き、濾過し、洗浄し、乾燥して、本発明の多孔質シリカ(10重量%)を被覆した光触媒(試料B)を得た。
【0026】
実施例3
前記の試料aを水に懸濁した水性懸濁液に硫酸を添加してpHを5に調整し、温度を70℃に調整した。次に、懸濁液のpHを保持しながら、四塩化スズ水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加した後、濾過し、洗浄し、乾燥して、本発明の酸化スズ(10重量%)を被覆した光触媒(試料C)を得た。
【0027】
実施例4
前記の試料aを水に懸濁した水性懸濁液に硫酸を添加してpHを5に調整し、温度を70℃に調整した。次に、懸濁液のpHを保持しながら、オキシ塩化ジルコニウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加した後、濾過し、洗浄し、乾燥して、本発明の酸化ジルコニウム(10重量%)を被覆した光触媒(試料D)を得た。
【0028】
実施例5
前記の試料aを水に懸濁した水性懸濁液に、シリカゾル(スノーテックスXS、日産化学社製)を添加して、湿式粉砕した後、スプレードライして、本発明のコロイダルシリカ(10重量%)を被覆した光触媒(試料E)を得た。
【0029】
比較例1
前記の試料aを比較試料(試料F)とした。
【0030】
評価1:アセトアルデヒド分解活性
実施例および比較例で得られた試料(A〜F)0.2gをそれぞれ5cm×10cmのガラス板に均一に広げた。流通系反応装置において、サンプルを設置した後、流量を1L/分、アセトアルデヒド濃度を5ppmになるように調整した。暗条件において、30分間程度で吸着平衡に到達させた後、6000ルクスの白色蛍光灯で3時間光照射した。サンプリングは流通系反応装置出口より採取し、光音響マルチガスモニタにてアセトアルデヒド濃度の測定を行った。測定結果をグラフにした際の、光未照射におけるアセトアルデヒド濃度の面積と、光照射におけるアセトアルデヒドの濃度の面積からアセトアルデヒド除去率(%)を計算した。
アセトアルデヒド除去率(%)=(光未照射におけるアセトアルデヒド濃度−光照射におけるアセトアルデヒド濃度)/(光未照射におけるアセトアルデヒド濃度)
【0031】
【表1】

【0032】
評価2:色差の測定
実施例および比較例で得られた各試料(A〜F)4.5gを、アクリル樹脂(アクリディックA−165−45、固形分45重量%、DIC社製)15.1g、トルエン−ブタノール混合溶液(混合重量比1:1)7.9gおよびガラスビーズ30gと混合した後ペイントシェーカー(レッドデビル(Red devil)社、#5110)に入れて20分間振とうしてそれぞれの塗料を調製した。次に、この塗料を白チャート紙に塗布し、24時間自然乾燥して試験シートを作成した。
次に、各試験シートにブラックライトを3時間照射した。試験シート表面の照度は3mW/cmとした。その後、各試験シートの白部分の色目を分光測色計X-Rate 938(X-Rate,Incorporated,USA)で測定して、色差ΔEを算出した。
それぞれの試料の色差を表2に示す。実施例の各試料は、比較例1の試料に比べ色差が低く、光触媒によるアクリル樹脂の分解が抑制されていることがわかった。
【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の光触媒は、優れた可視光応答性を有しており、コート剤、分散体とすることが容易にできることから、可視光が照射する環境下における浄化材、脱臭材、防汚材、殺菌材、防曇材等として広範囲の用途に利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持していることを特徴とする可視光応答型光触媒。
【請求項2】
可視光透過性無機物質を0.1〜30重量%担持してなることを特徴とする請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項3】
可視光透過性無機物質が、珪素、アルミニウム、スズ、亜鉛およびジルコニウムからなる群より選ばれる元素の少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項4】
可視光透過性無機物質が、光触媒粒子に担持したオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物の表面に存在することを特徴とする請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項5】
光触媒粒子が酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項6】
光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子と可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質とを溶媒中で混合し、次いで、酸および/またはアルカリで中和して、可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持することを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項7】
光触媒粒子の表面にオキシ水酸化鉄および/またはハロゲン化白金化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子と可視光透過性無機物質あるいは可視光透過性無機物質となる物質とを混合し、次いで、乾燥して、可視光応答型光触媒粒子の表面に可視光透過性無機物質を担持することを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の可視光応答型光触媒とバインダとを少なくとも含むことを特徴とする光触媒コート剤。
【請求項9】
請求項1に記載の可視光応答型光触媒と分散媒とを少なくとも含むことを特徴とする光触媒分散体。
【請求項10】
請求項1に記載の可視光応答型光触媒を支持体に固定してなることを特徴とする光触媒体。
【請求項11】
請求項1に記載の可視光応答型光触媒または請求項10に記載の光触媒体に可視光を含む光の照射下、有害物を分解させることを特徴とする有害物の分解方法。

【公開番号】特開2011−20033(P2011−20033A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165930(P2009−165930)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】