説明

合成樹脂製角形壜体

【課題】 本発明は、二軸延伸ブロー成形による角形壜体の底部の接地部におけるヒケの発生を抑制するための底部形状の創出を技術的な課題とする。
【解決手段】 2軸延伸ブロー成形された合成樹脂製角形壜体において、底部の底面の、周縁部には環状の接地部を配設し、中央部には陥没凹部を配設し、陥没凹部には、陥没壁を外部方向に膨出させて放射線状に放射状リブを複数延設し、この放射状リブの延設範囲を陥没凹部の頂部の周縁から接地部の内周縁近傍に至る範囲とし、陥没凹部には、陥没凹部の陥没壁を外部方向に膨出させ、陥没凹部の頂部の周縁から放射線状に接地部の内周縁近傍に至る範囲に放射状リブを複数延設し、隣接する放射状リブのうち、側壁の左右中心方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さを、角壁方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さより短くなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ブロー成形による角形筒状の胴部を有する、特に所謂、耐熱性ボトルと称される合成樹脂製角形壜体に関する。

【背景技術】
【0002】
引用文献1には、丸形のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の二軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体、所謂、ペットボトルの底部の形状に係る発明が記載されており、実施例として図5に示されるような底部105の形状が記載されている。
図5中、(a)は底面図、(b)は(a)中のE−E線に沿った底部105近傍の縦断面図であり、底面壁を上方、内部方向に陥没させて形成した陥没凹部113を配設し、この陥没凹部113の周りに円環状の接地部112を配設し、さらに底部105の耐熱性を向上させるために、陥没凹部113の陥没壁に頂部115の周縁から接地部112に向けて、多数(この実施例では8ケ)の放射状リブ114が延設されている。
【0003】
そして、上記のような底部形状を有するペットボトルは、例えば、お茶やジュース等の熱充填される内容物に使用される耐熱ペットボトルとして広く利用されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−59937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、図6は、従来の耐熱角形ペットボトルの底部の形状の例を示す底面図である。この角形ペットボトルは4ケの側壁104sと、4ケの角壁104cからなる平断面形状が正方形状の胴部104を有するものであり、底部105の形状を図5の丸形ペットボトルの底部の形状と類似的な形状としたものである。
しかしながら、角形壜体では、その底部105において、胴部104の側壁104sの左右中心方向(図中Sで示す。以下S方向とする。)と、角壁104c方向(図中Cで示し、以下C方向とする。)とでは、中心からの距離の違いにより、二軸延伸ブロー成形による延伸倍率が異なるため、底部105を形成する金型キャビティの各方向への2軸延伸ブローされる樹脂の供給、所謂、肉周りが不均一になってしまう。
【0006】
そのため、S方向に位置する接地部112と、C方向に位置する接地部112では上記した肉周りが不均一となり、特に横方向への延伸倍率が小さいS方向に位置する接地部112(図中ハッチングで示す。)では、肉周りが不足し、その結果ヒケが生じ易く、自立安定性や耐衝撃強度が低下するという問題があった。
従来は、プリフォームの肉厚や成形条件を調整する、等の手段で、上記のようなヒケの発生に対処してきたが、これらの方法は、生産性が損なわれる、あるいは必ずしも満足のいく再現性が得られない等の問題を有するものであった。
【0007】
そこで、本発明は、上記したような二軸延伸ブロー成形による角形壜体の底部の接地部におけるヒケの発生を抑制するための底部形状の創出を技術的な課題とするものであり、自立安定性や耐衝撃性に優れた、耐熱性のある合成樹脂製角形壜体を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段のうち、本発明の主たる構成は、
胴部が4ケの側壁と、隣接する側壁を連結する4ケの角壁により構成されて矩形状の平断面形状を有する2軸延伸ブロー成形された合成樹脂製角形壜体において、
底部の底面の、周縁部には環状の接地部を配設し、中央部には接地部の内周縁を基端として底面壁を上方、内部方向に陥没させて形成した陥没凹部を配設し、
陥没凹部には、この陥没凹部の陥没壁を外部方向に膨出させて放射線状に放射状リブを複数延設し、
この放射状リブの延設範囲を陥没凹部の頂部の周縁から接地部の内周縁近傍に至る範囲とし、
陥没凹部には、陥没凹部の陥没壁を外部方向に膨出させ、陥没凹部の頂部の周縁から放射線状に接地部の内周縁近傍に至る範囲に放射状リブを複数延設し、
隣接する放射状リブのうち、S方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さを、C方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さより短くなるように構成する、と云うものである。
【0009】
この種の耐熱性の角形壜体では、試験管状の形状をしたプリフォームを2軸延伸ブローして陥没凹部を有する底部を形成する際、プリフォームは横方向に膨張すると共に、陥没壁を形成する金型面の傾斜面に沿って下方にも膨張し、陥没凹部、そして接地部を形成するが、
ここで、S方向では、C方向に比較してプリフォームから横方向に位置する金型キャビティ面までの距離が短く、プリフォームの横方向への膨張変形により短時間で側壁を形成する金型キャビティ面に到達するので、下方への膨張変形による接地部への十分な樹脂の供給が阻害され、すなわち肉周りが不足して、接地部のS方向に位置する部分でヒケが発生すると考えられる。
【0010】
そこで、上記構成において、陥没凹部の陥没壁を外部方向に膨出させ形成した、放射状リブのうち、S方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さを、よりC方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さより短くすることにより、接地部への樹脂の供給をスムーズにし、側壁を形成する金型キャビティ面までの距離が短いことに起因する、肉周りの悪さを補完することができ、接地部における肉周りを均一にしてヒケの発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0011】
そして、上記構成によればプリフォームの肉厚や成形条件、等の調整の必要がないので、ヒケの抑制効果が確実に発揮され、生産性を損なうこともない。
なお、放射状リブの数、延設長さあるいは膨出高さ等の形状は要求される耐熱性、外観、成形性等を考慮して適宜決めることができるが、その数は通常3〜12ケの範囲とすることが好ましい。
また、放射状リブの延設長さを、C方向に対してS方向をどの程度短くするかは、ヒケの抑制効果や、リブとしての補強効果を勘案して決めることができる。
【0012】
本発明の他の構成は上記主たる構成において、接地部の内周縁を円形状とし、放射状リブの下端と前記内周縁との距離により放射状リブの延設長さを調整すると云うものである。
【0013】
上記構成より、S方向に近い方向では、2軸延伸ブローされた樹脂がよりスムーズに接地部に供給されるので、側壁を形成する金型キャビティ面までの距離が短いことに起因する、肉周りの不足をより十分に補完することができる。
【0014】
本発明のさらに他の構成は上記主たる構成において、胴部の平断面形状を正方形状とし、放射状リブを、各S方向と各C方向に計8ケ延設し、平坦円形状の頂部の周縁から、S方向に延設される放射状リブの延設長さを、C方向に延設される放射状リブの延設長さより短くなるようにする、と云うものである。
【0015】
上記構成は、胴部の平断面形状を正方形状とした角形壜体において、底部の形状を従来より使用される標準的な形状とし、その中で、S方向の放射状リブの延設長さをC方向に比較して短くするものであり、S方向の放射状リブの延設長さを若干変更するだけで接地部にヒケのない角形壜体を提供することができる。
【0016】
本発明のさらに他の構成は上記構成において、S方向に延設される放射状リブとC方向に延設される放射状リブの延設長さの差を0.5mm〜1.5mmの範囲とする、と云うものであり、このような範囲とすることによりヒケの抑制効果とリブとしての補強効果を併せて効果的に発揮させることができる。
ここで、延設長さの差を0.5mm未満とするとヒケの発生に対する抑制効果を十分に発揮させることができなくなり、一方1.5mmを超えるようにすると、S方向における放射状リブによる補強効果が不十分になり、耐熱性が不足して熱充填時に所謂、底落ち現象が起こってしまう。

【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記した構成となっているので、以下に示す効果を奏する。
本発明の主たる構成を有する壜体にあっては、陥没凹部の陥没壁を外部方向に膨出させて形成した放射状リブのうち、S方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さを、C方向に近い方向に延設される放射状リブの延設長さより短くすることにより、接地部のS方向部分への2軸延伸ブローされた樹脂の供給をスムーズに達成することができ、接地部における肉周りを均一にしてヒケの発生を効果的に抑制することができる。
そして、プリフォームの肉厚や成形条件、等の調整の必要がないので、ヒケの抑制効果が確実に発揮され、生産性を損なうことなく、自立安定性や耐衝撃性に優れた、耐熱性のある合成樹脂製角形壜体を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の壜体の一実施例を示す正面図である。
【図2】図1の壜体の平面図である。
【図3】図1の壜体の底面図である。
【図4】図3中のA−A線に沿った底部近傍の縦断面図である。
【図5】従来の丸形ペットボトルの底部の形状を示す(a)は底面図、(b)は縦断面図である。
【図6】従来の角形ペットボトルの底部の形状を示す底面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1〜4は、本発明による合成樹脂製角形壜体の一実施例を示すもので、図1は正面図、図2は平面図、図3は底面図、そして図4は図3中のA−A線に沿って示す底部近傍の縦断面図である。
【0020】
この壜体1は口筒部2、肩部3、正方形筒状の胴部4、底部5を有し、容量が350mlのPET樹脂製の2軸延伸ブロー成形品で、内容液を高温で充填する用途に使用する耐熱性のペットボトルである。
また、この壜体1の全高さは140mm、横幅は58mm、対角方向の幅は68mmである。
【0021】
胴部4は4ケの側壁4sと隣接する側壁4sを連結する4ケの角壁4cにより構成されており、図2あるいは図3に見られるように正方形状の平断面形状を有する。また、胴部4の中央高さ位置付近には周溝リブ7が配設され、各側壁4sの周溝リブ7の上下の位置には、減圧吸収パネル8が陥没形成されている。
なお、図1中には図3中におけるC方向(角壁4c方向)の形状を参考のため二点鎖線で示している。
【0022】
次に、底部5の形状を図3、4を参照しながら説明する。図4は図3中のA−A線(S方向)に沿って示す底部5近傍の縦断面図であるが、二点鎖線で対角線方向(C方向)におけるヒール部11cから接地部12にかけての断面形状及び、陥没壁13wの形状を併せて示すようにしている。
底部5は胴部4の下端に連設しているが、底部5の側壁に相当する縮径筒状のヒール部11を介して底面壁が連設している。
この底部5の底面の周縁部には円環状の接地部12が配設され、中央部にはこの接地部12の内周縁を基端として、底面壁を上方、内部方向に陥没させて形成した陥没凹部13が配設されている。
【0023】
さらに詳述すると、円環状の接地部12の内周縁に連設される段部16を介して環状に平坦部17が形成されており、この平坦部17の内周縁から陥没壁13wが斜めに上方に連設されている。そして、図3から分かるように平坦部17の内周縁は歪な円形状であり、S方向の径をC方向の径より小さくしている。
【0024】
また、前記陥没凹部13には、この陥没凹部13の陥没壁13wを壜体1の外部方向に膨出させて、平坦円形状の頂部15の周縁から、S方向に4ケ、C方向に4ケ、計8ケの放射状リブ14が、上記した平坦部17の内周縁まで延設されており、これにより、S方向への放射状リブ14sの下端は接地部12の内周縁から少し離れて位置するようなり、その延設長さがC方向への放射状リブ14cに比較して短くなるように構成している。
【0025】
また、図4中に示される放射状リブ14sの延設長さLsと、放射状リブ14cの延設長さLcはそれぞれ12mmと13mmで、その差は1mmである。
なお、本実施例において、平坦状円形の頂部15の径は12mm、接地部12の内周縁の径は40mmである。
【0026】
試験管状の形状をしたプリフォームを延伸して陥没凹部13を有する底部5を形成する際、金型の底部5近傍に相当する領域では、プリフォームは横方向に膨張すると共に、陥没壁13wを形成する金型面の傾斜面に沿って下方にも膨張し、陥没凹部13、そして接地部12を形成する。
【0027】
ここで、この種の角形壜体においては、C方向に比較してS方向のヒール部11sの径が小さいく(図4参照)、プリフォームから横方向に位置する側壁を形成する金型キャビティ面までの距離が短く、プリフォームの横方向への膨張変形により短時間で側壁を形成する金型キャビティ面に到達するので、下方への膨張変形による接地部12への十分な樹脂の供給が阻害され、肉周りが悪くなり、接地部12のS方向に位置する部分でヒケが発生するが(図6参照)、
本実施例のように、S方向の放射状リブ14sの延設長さを僅か1mmであるが短くすることにより、S方向の接地部12への樹脂の供給をスムーズに達成することができ、ヒケの発生を効果的に抑制することができた。
そして、上記のように放射状リブ14の延設長さを僅かに調整するだけでよいので、外観上の違和感を与えることもなく、成形性を損なうことも無い。
【0028】
以上、実施例に沿って本発明の構成とその作用効果について説明したが、本発明の実施の形態は上記実施例に限定されるものではない。
たとえば、上記実施例ではS方向に4ケ、C方向に4ケ、計8ケの放射状リブ14を配設した例を示したが、放射状リブの数、延設長さあるいは膨出高さ等の形状は要求される耐熱性、外観、成形性等を考慮して適宜決めることができ、また延設方向をS方向あるいはC方向からずらして配設することもできる。

【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明したように、本発明の合成樹脂製角形壜体は、底部の陥没凹部に形成する放射状リブの延設長さの調整により接地部におけるヒケの発生を効果的に抑制するものであり、自立安定性や耐衝撃性に優れた耐熱性の合成樹脂製角形壜体として幅広い用途展開を期待することができる。

【符号の説明】
【0030】
1 ;壜体
2 ;口筒部
3 ;肩部
4 ;胴部
4s;側壁
4c;角壁
5 ;底部
7 ;周溝リブ
8 ;減圧吸収パネル
11(11s、11w);ヒール壁部
12;接地部
13;陥没凹部
13w;陥没壁
14(14s、14c);放射状リブ
15;頂部
16;段部
17;(環状の)平坦部
104;胴部
104s;側壁
104c;角壁
105;底部
112;接地部
113;陥没凹部
114(114s、114c);放射状リブ
115;頂部
S ;側壁の左右中心方向
C ;角壁方向
Ls、Lc;延設長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部(4)が4ケの側壁(4s)と隣接する該側壁(4s)を連結する4ケの角壁(4c)により構成されて矩形状の平断面形状を有する2軸延伸ブロー成形された合成樹脂製角形壜体であって、底部(5)の底面の、周縁部には環状の接地部(12)を配設し、中央部には前記接地部(12)の内周縁を基端として底面壁を上方、内部方向に陥没させて形成した陥没凹部(13)を配設し、前記陥没凹部(13)には、該陥没凹部(13)の陥没壁(13w)を外部方向に膨出させて放射線状に放射状リブ(14)を複数延設し、該放射状リブ(14)の延設範囲を陥没凹部(13)の頂部(15)の周縁から前記接地部(12)の内周縁近傍に至る範囲とし、隣接する前記放射状リブ(14)のうち、前記側壁(4s)の左右中央方向に近い方向に延設される放射状リブ(14)の延設長さを、角壁(4c)方向に近い方向に延設される放射状リブ(14)の延設長さより短くなるように構成したことを特徴とする合成樹脂製角形壜体。
【請求項2】
接地部(12)の内周縁を円形状とし、放射状リブ(14)の下端と前記内周縁との距離により放射状リブ(14)の延設長さを調整した請求項1記載の合成樹脂製角形壜体。
【請求項3】
胴部(4)の平断面形状を正方形状とし、放射状リブ(14)を、各側壁(4s)の左右中央方向と各角壁(4c)方向に計8ケ延設し、平坦円形状の頂部(15)の周縁から、前記側壁(4s)の左右中央方向に延設される放射状リブ(14s)の延設長さを、角壁(4c)方向に延設される放射状リブ(14c)の延設長さより短くなるようにした請求項1または2記載の合成樹脂製角形壜体。
【請求項4】
側壁(4s)の左右中央方向に延設される放射状リブ(14s)と角壁(4c)方向に配設される放射状リブ(14c)の延設長さの差を0.5mm〜1.5mmの範囲とした請求項3記載の合成樹脂製角形壜体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−274991(P2010−274991A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131498(P2009−131498)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】