説明

吊り上げ治具

【課題】吊り上げ状態での傾斜作業を容易に行うことができ、高い作業効率を実現し得る吊り上げ治具を提供する。
【解決手段】昇降部材と被吊り上げ部材(攪拌羽根)との間に介在する吊り上げ治具3であって、昇降部材Jに連結される係止部4と、被吊り上げ部材に結合される支持部5とを備え、係止部4は、弧状ガイド部4cが形成されたフレーム4aを備えており、弧状ガイド部4cは、一つの中心点に対応する円弧に沿うようにして中心点より上方の位置から下方へ延び、被吊り上げ部材を支持し、支持部5及び弧状ガイド部4cは、被吊り上げ部材を支持部5に取付ける際に、被吊り上げ部材の重心Gを弧状ガイド部の中心点に一致または接近させ得るように、形状及び寸法が決められている吊り上げ治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り上げのための昇降部材と被吊り上げ部材との間に介在する吊り上げ治具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の吊り上げ治具としては、例えば、攪拌混合造粒機(特許文献1)に用いられる攪拌羽根を取り扱うための治具がある。この吊り上げ治具は、攪拌羽根を造粒機の内部に対して取り付け及び取り外しを行う際に、攪拌羽根を吊り上げるのに用いられる。
【0003】
例えば図10に示す攪拌混合造粒機は、バーチカルグラニュレータと称されるタイプのものであり、機台11上に、原材料を攪拌混合するための処理容器12を備えている。機台11内には、モータ14a、減速機14b等を備えた駆動部14が配置されており、駆動軸14cが減速機14bから上方に延びている。
【0004】
処理容器12は底部12aと筒状の側部12bとで構成されている。処理容器12の側部12bは上端が開口し、この開口12cに蓋13が開閉機構13aにより開閉自在に装着され、ロック機構13aにより閉鎖状態が保持可能となっている。また、蓋13には、スプレーノズル等の液供給手段を挿入するための挿入口13bと、処理容器12内の空気を排気するための排気部13cとが設置され、必要に応じて、熱風の供給口や点検窓、洗浄液供給手段の挿入口などが設けられる。
【0005】
処理容器12の底部12aには、攪拌羽根Bが回転自在に取付けられる。攪拌羽根Bは、底部12aの内面と側部12bの内面との間に僅かなクリアランスを維持しながら回転する複数(図示の例では3枚)の羽根部B1と、これらの羽根部が接続されたボス部B2とを備えている。
【0006】
また、処理容器12の側部12bには、クロススクリュー(解砕羽根)16が配設されている。クロススクリュー16は、モータ18aからの回転動力を受けて、水平方向の軸心回りに回転する。
【0007】
この処理容器12は、側部12bの上部が窄まっており、その上端に開口12cが形成されている。この処理容器12に攪拌羽根Bを取り付ける際には、攪拌羽根Bを最大径部分が開口縁に当たらない位置とし、且つ上下方向に傾斜させて、開口に通す必要がある。
【0008】
従来、この作業を行うのに用いられていた治具2は、例えば図11に示すように、固定用のねじ孔22が設けられた平板状の支持部21と、平板部21から上方へ逆U字状に延びる係止部23とを備えている。治具2は、固定ねじをねじ孔22から攪拌羽根のボス部に通して固定され、クレーンやホイスト等から垂下するチェーン先端のフック(昇降部材)Jに係止部23が係止される。
【0009】
図10に示した攪拌処理装置等のように、攪拌羽根が人手で扱える寸法及び重量の場合、攪拌羽根の吊り上げ作業は、クレーンやホイスト等で行われるが、処理容器の開口に通す際の攪拌羽根の傾斜は、人手によって行われる。この作業は、図12に示すように、治具2の係止部23を中心に、吊り上げ状態の攪拌羽根の一端側を人手により引き上げ、他端側を下げるようにして行われる。攪拌羽根は、寸法によっては20kgを超える重さのものがあり、一人の作業者がこの作業を行うのは困難を伴うことがあり、複数の作業者で行う場合にも多くの作業時間を要していた。また、攪拌羽根を攪拌処理装置から取り外す際には、逆の動作を行いながら、開口12cを通す時に、前述と同様に攪拌羽根を傾斜させる必要があった。これらの結果、攪拌処理装置に対する攪拌羽根の取り付け及び取り外しの作業効率が低いものとなっていた。
【0010】
一方、処理容器によっては、容器側壁が下部から上部までほぼ同一径の直胴タイプのものがある。この場合には、上端開口から攪拌羽根を挿入する際に、攪拌羽根を傾斜させる必要はない。しかしながら、攪拌羽根の洗浄や洗浄後のバリデーションの際には、攪拌羽根の底面の操作や検査が可能となるように、攪拌羽根を傾斜させる必要がある。この場合にも、傾斜作業が作業者にとって大きな負担をとなり、作業効率を低下させていた。
【0011】
この他、溶融金属注湯用の坩堝(るつぼ)を吊り上げて傾斜させる際に用いられる治具等、被吊り上げ部材の傾斜を伴う作業に用いられる治具が種々存在するが、従来の治具は、傾斜作業に被吊り上げ部材の重量に見合う力を必要としていたため、作業効率が低いものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−307447公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明は、このような従来技術の問題点を解消し、吊り上げ状態での傾斜作業を容易に行うことができ、高い作業効率を実現し得る吊り上げ治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記目的を達成するため、吊り上げのための昇降部材と被吊り上げ部材との間に脱着自在に介在する吊り上げ治具であって、前記昇降部材に対して揺動可能に連結される係止部と、被吊り上げ部材に固定的に結合される支持部とを備え、前記係止部は、弧状ガイド部が形成されたフレームを備えており、該弧状ガイド部は、一つの中心点に対応する円弧に沿うようにして前記中心点より上方の位置から下方へ延び、被吊り上げ部材を支持し得るようになっており、前記支持部及び弧状ガイド部は、被吊り上げ部材を該支持部に取付ける際に、被吊り上げ部材の重心を前記弧状ガイド部の中心点に一致または接近させ得るように、形状及び寸法が決められていることを特徴とする吊り上げ治具を提供するものである。
【0015】
この吊り上げ治具は、クレーン等における吊り上げのための昇降部材に対して揺動可能に連結される係止部と、被吊り上げ部材に固定的に結合される支持部とを備えており、以下の作用により、被吊り上げ部材の上下方向への傾斜を容易に行えるようにする。
【0016】
すなわち、係止部は、弧状ガイド部が形成されたフレームを備えており、弧状ガイド部は、被吊り上げ部材を支持し得るようになっている。したがって、吊り上げ状態において生じさせた被吊り上げ部材の傾斜は、該被吊り上げ部材に固定的に結合された支持部を介して、係止部を同様に傾斜させる。
【0017】
そして、弧状ガイド部は、一つの中心点に対応する円弧に沿うようにして中心点より上方の位置から下方へ延びており、支持部及び弧状ガイド部は、被吊り上げ部材を取付ける際に、被吊り上げ部材の重心を弧状ガイド部の中心点に一致または接近させ得るように、形状及び寸法が決められている。したがって、弧状ガイド部が沿在する円弧の中心点に重心が一致または接近した状態で、被吊り上げ部材を傾斜させることができる。
【0018】
その結果、被吊り上げ部材を傾斜させる際に、吊り上げ治具に対して、被吊り上げ部材の重心位置が変化しないか、変化が僅かに抑えられることとなり、傾斜に要する力が軽減され、被吊り上げ部材を容易に傾斜させることができる。これにより、傾斜作業に要する作業者、作業時間、設備等が軽減され、高い作業効率が得られる。
【0019】
なお、弧状ガイド部が、一つの中心点に対応する円弧に沿うようにして延びる形態としては、弧状ガイド部が円弧上に延びる場合、及び、弧状ガイド部が円弧の近傍位置で延びる場合、並びに、これらが混在した場合を含むものとする。これらの内、弧状ガイド部が円弧上に延びる場合には、被吊り上げ部材の傾斜に要する力が最大またはこれに近い程度に軽減される。また、弧状ガイド部が円弧の近傍位置で延びる場合には、円弧上に延びる場合ほどの軽減効果は得られないが、被吊り上げ部材の傾斜に伴う重心位置の変化が抑制される分、傾斜に要する力が軽減される。弧状ガイド部はまた、一つの中心点からの距離が等しい等距離部を、連続的に、または滑らかな経過部を介して断続的に備えることができ、この場合にも同様の軽減効果が得られる。
【0020】
支持部及び弧状ガイド部は、被吊り上げ部材を該支持部に取付ける際に、被吊り上げ部材の重心を弧状ガイド部の中心点に一致または接近させ得るように、形状及び寸法が決められている。ここで、被吊り上げ部材の重心を弧状ガイド部の中心点に接近させるというのは、これらの重心及び中心点の二点間距離及び被吊り上げ部材の重量に起因するモーメントを小さくして、被吊り上げ部材の傾斜作業に要する力を作業に好適なように軽減させ得るように二点間距離を小さくすることをいう。この接近状態の二点間距離は、一人の作業者による通常の傾斜作業の場合、10mm以下とするのが望ましい。二点間距離がこの距離を超えると、被吊り上げ部材を傾斜させる作業者に過度の負担を与える場合がある。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、吊り上げ状態での傾斜作業を容易に行うことができ、高い作業効率を実現し得る吊り上げ治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る吊り上げ治具の斜視図である。
【図2】図1に示した吊り上げ治具の正面図である。
【図3】図1に示した吊り上げ治具の平面図である。
【図4】図1に示した吊り上げ治具に用いられる連結部材を示す図であり、(a) は正面図、(b) は側面図である。
【図5】図1に示した吊り上げ治具による攪拌羽根の種々の吊り上げ状態(a), (b), (c) を示す正面図である。
【図6】図1に示した吊り上げ治具を用いた攪拌処理装置への取り付け作業の一工程を示す縦断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る吊り上げ治具の要部を示す正面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態に係る吊り上げ治具の要部を示す正面図である。
【図9】本発明の実施形態及び従来例の各吊り上げ治具を用いて行った吊り上げ作業性の試験方法の説明図である。
【図10】吊り上げ治具を用いて攪拌羽根の取付け及び取り外しを行う攪拌処理装置の一例を示す縦断面図である。
【図11】従来の吊り上げ治具の一例を示す斜視図である。
【図12】図11の吊り上げ治具を用いた攪拌羽根取り扱い作業の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を一部省略する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る吊り上げ治具を示す斜視図、図2はその正面図、図3は平面図である。
【0025】
この吊り上げ治具3は、図10に示した攪拌処理装置に対して攪拌羽根の取り付け及び取り外しを行う際に用いられる。すなわち、吊り上げ治具3は、クレーンやホイスト等から垂下するチェーン先端部等の吊り上げのための昇降部材Jと、被吊り上げ部材である攪拌羽根との間に介在させて用いられる。
【0026】
図示のように、吊り上げ治具3は、昇降部材に対して揺動可能に連結される係止部4と、被吊り上げ部材に固定的に結合される支持部5とを備えている。係止部4は、平面状をなすフレーム4aを備え、中央の中空部4bを囲んでいる。フレーム4aの上辺4a1が中空部4bに臨む縁部は、円弧状に延び、弧状ガイド部4cを形成している。この弧状ガイド部4cは、図2に示すように、一つの中心点Poに対応しており、中心点Poの上方の位置から下方へ延びている。フレーム4aは、上辺4a1の上端部から下方へ延びる縦辺4a2、上辺4a1の下端部からほぼ水平に延びる横辺4a3、横辺4a3の内端から上辺4a1より小さい径で同心状に延びる下辺4a4を備えている。弧状ガイド部4cの中心角は、攪拌羽根Bを鉛直姿勢で吊り上げる場合や、下面の検査等を可能にする場合には、これらに応じた角度とされ、例えば70〜110度とするのが望ましく、この実施形態では、ほぼ90度となっている。
【0027】
支持部5は、円板状をなし、中央孔5aの両側に固定ボルト挿通用の固定孔5bが設けられている。支持部5は、一端にフレーム4aの縦辺4a2の下端が固着され、他端に下辺4a4の内端が固着されている。
【0028】
図2及び図3には、攪拌羽根B(被吊り上げ部材)が二点鎖線で示されている。攪拌羽根Bを吊り上げ治具3に取り付けた際は、図示のように、攪拌羽根Bの重心Gが弧状ガイド部4cの中心点Poに一致する。すなわち、支持部5を攪拌羽根Bに取り付けた状態で、弧状ガイド部4cの円弧が攪拌羽根Bの重心Gを中心に位置するように、支持部5及び弧状ガイド部4cの形状及び寸法が決められている。この実施形態では、弧状ガイド部4cの半径Rは200mmとされている。攪拌羽根Bは、外径が1000mmであり、ボス部B2に対して羽根部B1が120度毎の等角度で配置されているので、重心Gはボス部B2の中心軸線上にある。したがって、支持部5は、ボス部B2と同心状に位置しており、この実施形態では厚さが10mmとされている。
【0029】
吊り上げ治具3の係止部4はさらに、昇降部材Jとフレーム4aとの間に介在する連結部材6を備えている。連結部材6は、図4に示すように、逆U字状の係合部材6aと、係合部材6aの1対の脚部を横切る通孔に螺入される軸部6bと、軸部6b上に回転自在に支持されたローラ6cとを備えている。ローラ6cは、係止部4の弧状ガイド部4cに転がり接触する円筒部6c1と、円筒部6c1の両側に設けられたフランジ6c2とを備えている。連結部材6は、係合部材6aの上部が昇降部材Jに係合し、下部のローラ6cが弧状ガイド部4cに係合するようにして用いられる。
【0030】
この吊り上げ治具3を用いれば、攪拌羽根Bの吊り上げ作業を次のようにして行うことができる。先ず、連結部材6の軸部6b及びローラ6cを係合部材6aから取り外した後、フレーム4aを囲むようにして、係合部材6a、ローラ6c及び軸部6bを再度組み立てる。次に、支持台等に水平に置かれた攪拌羽根Bのボス部B2に支持部5をボルト止めし、昇降部材Jのフックに連結部材6を係止する。連結部材6は、弧状ガイド部4cの上端部に位置させておく。この状態で昇降部材Jを上昇させれば、図5(a) に示すように、水平姿勢を保って攪拌羽根Bを吊り上げることができる。弧状ガイド部4cの円弧の中心点Poは、攪拌羽根Bの重心Gと一致しているので、吊り上げ状態が安定し、外力を加えない限り、吊り上げ姿勢が保持される。
【0031】
この状態から、図5(b) に示すように攪拌羽根Bを傾斜させた状態においても、弧状ガイド部4cの円弧の中心点Poと、攪拌羽根Bの重心Gとが一致しているので、同様に安定した吊り上げ状態が得られる。
【0032】
さらに、図5(c) に示すように、攪拌羽根Bを鉛直方向となるまで傾斜させた場合にも、弧状ガイド部4cの円弧の中心点Poと、攪拌羽根Bの重心Gとが一致した状態が保たれ、同様に安定した吊り上げ状態が保持される。
【0033】
また、弧状ガイド部4cの円弧の中心点Poと攪拌羽根Bの重心Gとが一致しているので、攪拌羽根Bの傾斜に伴うモーメントは生じないか極めて小さく、傾斜角を変える際に要する力は、ローラ6cと弧状ガイド部4cとの摩擦抵抗や、僅かな形状または取り付け寸法の誤差に起因する抵抗力等となり、ゼロに近いか極めて小さいものとなる。さらに、ローラ6cの転動により摩擦抵抗が小さくされているので、攪拌羽根Bを傾斜させれば、ローラ6cは攪拌羽根Bに作用する重力によって弧状ガイド部4cを移動し、中心点Poと重心Gとが一致する状態またはこれに近い状態を保つ。
【0034】
したがって、攪拌羽根Bを攪拌処理装置の処理容器12に取り付ける際には、図6に示すように、攪拌羽根Bを傾斜させて開口12cから容易に挿入することができる。また、取り外しの際にも同様に、攪拌羽根Bを傾斜させて開口12cから容易に取り出すことができる。さらに、傾斜に要する力が軽減されているので、攪拌羽根の洗浄及び表面状態の確認も容易になる。これらに伴って、作業時間の短縮や、作業者への負担軽減が可能となり、高い作業効率が得られる。また、作業の安全性が高まり、必要な作業スキルのレベルが緩和されて作業者層を広げることができるという効果も得られる。
【0035】
図7は、本発明の他の実施形態に係る吊り上げ治具3’の要部を示している。この吊り上げ治具3’は、先の実施形態に対して、係止部4の弧状ガイド部4c’の形状が異なっており、他の構造は同じであるので、以下では弧状ガイド部4c’を中心に説明する。
【0036】
この弧状ガイド部4c’は、前述のように攪拌羽根Bの重心Gと一致する中心点Poに対応して半径Rで延びる円弧状部分4c'1と、この円弧状部分4c'1より僅かに大きい径R’の変曲部4c'2とを備えている。これにより、弧状ガイド部4c’は、全体として、中心点Poに対応する円弧に沿うようにして延びた状態となっている。この例では、変曲部4c'2は、弧状ガイド部4c’の上端、下端、並びに上端から中心角30度毎の位置に設けられている。変曲部4c'2は、連結部材6のローラ6cを受け入れる周方向寸法を有し、各々円弧状部分4c'1に滑らかな曲線で連続している。
【0037】
この吊り上げ治具3’を用いれば、次のように吊り上げ作業を行うことができる。連結部材6のローラ6cが円弧状部分4c'1に位置するときには、先の実施形態と同様に、攪拌羽根B(被吊り上げ部材)を傾斜させるための力が大きく軽減されている。一方、ローラ6cが変曲部4c'2に位置するときには、中心点Poからの距離が径R’によって僅かに大きくなるので、支持された攪拌羽根Bは、重心Gが中心点Poより僅かに下方となるように下降する。
【0038】
その結果、ローラ6cを変曲部4c'2から円弧状部分4c'1に移動させるには、攪拌羽根Bを僅かな距離(R’−R)だけ持ち上げる必要が生じる。これは、ローラ6cが変曲部4c'2に到達する毎に、被吊り上げ部材等の自重により、その箇所に留まる力が付与されることを意味する。そして、ローラ6cが円弧状部分4c'1へ移動した後は、その円弧状部分4c'1に沿う移動に要する力が再び軽減されたものとなる。したがって、円弧状部分4c'1での角度変化が容易となると共に、被吊り上げ部材を決められた傾斜角に留めて作業を要する場合等において、傾斜角の保持による安定した作業が可能となる。
【0039】
図8は、本発明のさらに他の実施形態に係る吊り上げ治具3”の要部を示している。この吊り上げ治具3”は、先の実施形態に対して、係止部4の弧状ガイド部4ctの形状が異なっており、他の構造は同じであるので、以下では弧状ガイド部4ctを中心に説明する。
【0040】
この弧状ガイド部4ctは全体として、前述と同様に、攪拌羽根の重心と一致する中心点に対応した円弧に沿うようにして所定半径で延びている。但し、この実施形態では、弧状ガイド部4ctは、円弧状部分に沿って多数の歯が並設されたラックを形成している。そして、この弧状ガイド部4ctのラックにピニオン6pが噛合し、ピニオン6pの軸は図外の連結部材に結合されて係止部を構成し、連結部材は吊り上げのための昇降部材に連結される。
【0041】
このように、吊り上げ治具3”は、弧状ガイド部4ctのラックに対して、係止部のピニオン6pが噛合した状態となるので、両者間のすべりが防止され、より安全で確実な作動が得られる。
【0042】
この弧状ガイド部4ctとピニオン6pとの噛合を利用して、図8に示すように、ピニオン6pの軸に外部操作が可能なブレーキ装置8bを接続することにより、ピニオン6pを弧状ガイド部4ctに対して所定位置で固定することができる。また、同図に示すように、ピニオン6pの軸にモータ8mを接続することにより、ピニオン6pをモータ駆動し、弧状ガイド部4cに対する所定の位置へ自動運転させることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、弧状ガイド部での移動が円滑に行われる場合には、係止部は、必ずしもローラを備えた連結部材を必要とせず、昇降部材に揺動可能に連結される種々の形態とすることができる。この場合は、係止部をフック状部材として形成し、或いは、昇降部材の下端に設けられたフック状部材を利用することも可能である。
【0044】
寸法の異なる被吊り上げ部材を吊り上げる場合は、寸法の異なる吊り上げ治具を用いてもよいが、被吊り上げ部材に固定される支持部の寸法を変えることにより、吊り上げ治具の他の部分を共用することも可能である。この場合は、支持部の寸法変化に伴って被吊り上げ部材及び支持部を合わせたものの重心が、弧状ガイド部の中心点に一致または接近するように設定するのが望ましい。
【0045】
実施形態では、弧状ガイド部の中心角が上端からほぼ90度のものを示したが、必要に応じて中心角の大きさを設定することができ、初期の吊り上げ状態から左右両側へ傾斜させるには、上端から左右両側へ中心角を設定した弧状ガイド部とすることもでき、その範囲は、例えば90〜180度とすることができる。
【実施例】
【0046】
図1〜図4に示した本発明の実施形態に係る吊り上げ治具3、及び図11に示した従来例の吊り上げ治具2を用いて、攪拌羽根Bの吊り上げ作業性に関する試験を行った。
【0047】
A.傾斜時に掛かる荷重
各吊り上げ治具を用いて、攪拌羽根を水平姿勢で吊り上げ、鉛直姿勢まで傾斜させるときに、必要な荷重を測定した。具体的には、実施形態の吊り上げ治具3では、図9(a1)の水平姿勢から図9(a2) の鉛直姿勢まで、攪拌羽根Bの先端点p1を引き上げて傾斜させ、鉛直姿勢において攪拌羽根Bの面に垂直方向に作用させた力Fを測定した。従来例の吊り上げ治具2の場合も同様に、図9(b1)の水平姿勢から図9(b2) の鉛直姿勢まで、攪拌羽根Bの先端点p1を引き上げて傾斜させ、鉛直姿勢において攪拌羽根Bの面に垂直方向に作用させた力Fを測定した。
【0048】
用いた攪拌羽根Bは、最大径が1000mm、重量が44.4kgであり、荷重の測定には、日本電産シンポ株式会社製のデジタルフォースゲージDFG-50TAを用いた。試験結果を表1に示す。
【表1】

【0049】
表1から明らかな通り、攪拌羽根Bを傾斜させるのに、従来例の吊り上げ治具を用いた場合には8kgを超える力が必要であったのに対し、実施形態の吊り上げ治具を用いた場合は必要な力が0と、著しく軽減された。
【0050】
B.攪拌処理装置に対する着脱時間
実施形態の吊り上げ治具3及び従来例の吊り上げ治具2を用いて、攪拌羽根Bを吊り上げ、図6に示したようにして、攪拌処理装置における取り付け位置まで攪拌羽根Bを挿入するのに要する時間、並びに、取り付け位置から攪拌処理装置外まで取り出すのに要する時間を各々測定した。試験結果を表2に示す。
【表2】

【0051】
表2中、「羽根支持時間」は、挿入時及び取り出し時において作業者が手の力により攪拌羽根を傾斜姿勢に保持する必要があった時間を示す(なお、実施形態の吊り上げ治具では傾斜姿勢の保持に力を要しなかったので時間測定はしていない)。
【0052】
表2から明らかな通り、実施形態の吊り上げ治具を用いた場合は、従来例の吊り上げ治具を用いた場合に比し、挿入及び取り出しの双方において著しく作業時間が短縮され、高い作業効率が得られた。また、作業者Cは、従来例の治具では挿入及び取り出しの作業を完了させることができなかったが、実施形態の治具を用いることにより、作業の完了が可能となった。
【符号の説明】
【0053】
3:吊り上げ治具
4:係止部
4a:フレーム
4c:弧状ガイド部
5:支持部
6:連結部材
6a:係合部材
6b:軸部
6c:ローラ
12:処理容器
12c:開口
17a:羽根部
21:支持部
23:係止部
B:攪拌羽根
B1:羽根部
B2:ボス部
G:重心
J:昇降部材
Po:中心点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り上げのための昇降部材と被吊り上げ部材との間に脱着自在に介在する吊り上げ治具であって、前記昇降部材に対して揺動可能に連結される係止部と、被吊り上げ部材に固定的に結合される支持部とを備え、
前記係止部は、弧状ガイド部が形成されたフレームを備えており、該弧状ガイド部は、一つの中心点に対応する円弧に沿うようにして前記中心点より上方の位置から下方へ延び、被吊り上げ部材を支持し得るようになっており、
前記支持部及び弧状ガイド部は、被吊り上げ部材を該支持部に取付ける際に、被吊り上げ部材の重心を前記弧状ガイド部の中心点に一致または接近させ得るように、形状及び寸法が決められていることを特徴とする吊り上げ治具。
【請求項2】
前記弧状ガイド部が、前記円弧上を連続して延びていることを特徴とする請求項1に記載の吊り上げ治具。
【請求項3】
前記弧状ガイド部が、前記円弧に沿って変化する位置を滑らかに結ぶ曲線上を延びていることを特徴とする請求項1に記載の吊り上げ治具。
【請求項4】
前記係止部が、前記昇降部材と前記フレームとの間に介在する連結部材を備え、該連結部材は、前記昇降部材に対して連結された際に、上部が前記昇降部材に、下部が前記フレームに各々係合し、該下部には、前記弧状ガイド部に接するローラが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の吊り上げ治具。
【請求項5】
前記弧状ガイド部は、前記支持部を前記被吊り上げ部材に結合した際に、該弧状ガイド部の上端部が、前記被吊り上げ部材の重心の直上に位置するように配置され、該上端部から下方へ70〜110度の範囲で弧状に延びていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の吊り上げ治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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