説明

吊子

【課題】負圧が作用したときに上端の係止部が変形するのを抑制できるように、特に係止部の強度を高める。これによって、折板の飛散を抑制する。
【解決手段】折板の馳部が係止される係止部12を上端部に有する金属板からなる吊子11であって、材料の金属板の一部を折り返して密着状態に重合させる折り曲げ部16が、反係止部12側の端部に形成され、該折り曲げ部16から延びる重合部17が前記の係止部12まで延設された吊子11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、折板の固定に用いる固定金具に使用される吊子に関し、より詳しくは、強度が高く折板の飛散を抑制できるような吊子に関する。
【背景技術】
【0002】
折板の飛散は次のようにして起こると考えられている。
強風を受けると、特にケラバ部分のケラバ包みに変形や脱落が起こり、この部分から折板の下に空気が流入して内部圧力が一気に増加し、折板が浮き上がる。そして、この時、折板屋根の上面で吹き上げによる負圧力も作用して、これらの相乗作用で折板に強力な負圧の破壊力が生じる。この結果、折板を固定している吊子が破断し、これによって折板がさらに変形し、変形した折板が大きな荷重を受けて吊子が連鎖的に破断して、折板が飛散する。
【0003】
このような現象の発生を抑えるには、ケラバ部分をしっかりと構成する必要があると考えられるが、そのほかにも、吊子の強度を確保することも重要になると思われる。吊子には、どうしても材料強度のばらつきがあるうえに、日射などで折板が熱伸縮して固定金具と吊子に負荷がかかって、経年にともなって強度の低下が引き起こされるからである。
【0004】
この点、下記特許文献1に開示されているような吊子が提案されている。
この吊子は、断面鉤形状の馳部に、吊子長手方向に交差する方向に沿って延びる補強リブを設けたもので、馳部の強度を強くして、吊子が折板の馳部から抜けることを防止しようとするものである。
【特許文献1】特開2000−328727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、吊子の馳部の補強をリブによって行うので、強度のばらつきが生じ易いという難点がある。
【0006】
すなわち、リブは金型を用いてプレスして形成するが、材料やプレス油、圧力などのプレスにかかわる条件によってリブ部分の強度に差が生じやすい。このため、強度が安定した製品を得ることが難しく、却って、折板が飛散する原因の一つである吊子強度のばらつきを助長してしまうおそれがある。
【0007】
そこで、この発明は、吊子の強度のばらつきを抑え、負荷にも耐えうるようにして、折板の飛散を抑制することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段は、折板の馳部が係止される係止部を上端部に有する金属板からなる吊子であって、材料の金属板を折り返して重合させる折り曲げ部が一部に形成されるとともに、該折り曲げ部から延びる重合部が前記の係止部に形成された吊子である。
【0009】
吊子には重合部が形成され、この重合部により係止部の形状変化を抑制し、強度を補うことができる。しかも、この重合部は、折り曲げ部での折り返しによって形成されるものであるので、一体性は高く、保形能力が良好である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、この発明によれば、係止部の保形能力が高いので、強度を向上できる。この結果、折板の飛散を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、吊子11の斜視図であり、この吊子11は、図2に示したように、屋根板取り付け金具21の上部に取り付けられる。図2に示した屋根板取り付け金具21は、二重折板屋根を形成するときに使用するもので、様々ある屋根板取り付け金具21のうちの一例である。屋根板取り付け金具21は、このほか、たとえばタイトフレーム等であるもよく、この屋根板取り付け金具の構成によって吊子11の各部の形状は適宜設定される。
【0012】
吊子11は、1枚の金属板を折り曲げて所定の形状にプレス加工して形成されている。その概略形状は、屋根を構成する折板を係止するための係止部12を上端部に有し、その下方に、屋根板取り付け金具21に取り付けるための取り付け部13を有したものである。
【0013】
係止部12は、垂直に立つ垂直片14の上端から直角に曲がって逆L形をなす基部12aと、この基部12aの先端から垂直片14側に向けて斜め下方に延びる先端部12bとを有する。この係止部12は、取り付け部13の下端よりも幅広に、長く形成されている。このため、垂直片14の幅方向の両側が上側ほど幅広となるように斜めに形成されている。
【0014】
取り付け部13は、垂直片14の下端から、係止部12と反対方向に曲がる板状の固定片13aを有する。この固定片13aの中央部には、固定用のボルト22を挿通する取り付け孔15が形成されている。
【0015】
このような概略形状をなす吊子11において、前記の固定片13aの長さ方向の端部に、材料の金属板を折り返して重合させる折り曲げ部16が形成されている。折り曲げ部16で折り返した部分は固定片13aと垂直片14と係止部12の外面側に密着した状態で重なって、重合部17を形成する。重合部17は固定片13aに重合する部分では固定片13aと同一の幅を有し、垂直片14と係止部12に重合する部分では固定片13aよりも幅広で、垂直片14や係止部12よりも幅狭に設定されている。また、固定片13aと垂直片14の下端部に対応する部分には、平面視略半円弧状をなす上へ凸のリブ18,17aが形成されている。このリブ18,17aは、図3に示したように、重なり合う部分で一体に形成される。
【0016】
また、重合部17における固定片13aに対応する部分には、固定片13aに形成された取り付け孔15と同一形状の取り付け孔17bが形成されている。取り付け孔17bの形成は、重合した状態で打ち抜いて行う。図3に示したように、取り付け孔15,17b部分での一体性も高まる。
【0017】
さらに重合部17は、係止部12の基部12aまでの長さに設定される。係止部12の変形は、基部12aのL字形に曲がった角部分で発生し易いので、少なくともこの部分での変形を抑えることが必要だからである。
【0018】
なお、重合部17は図4に示したように、内面側に形成することもできる。以下の説明において、前記の構成と同一又は同等の部位については同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0019】
図5、図6は、折り曲げ部16を垂直片14と係止部12の両側縁に形成した吊子11の例を示している。図5の吊子11では、重合部17を外面側に、図6の吊子11では重合部17を内面側に有する。
【0020】
また、重合部17は図7に示したように、重合する部分に対応する幅に形成することもできる。
【0021】
図8に示した吊子11は、固定片13aの幅方向の両側に、重合部17を有する断面逆L字型をなす受け部19が形成された例である。この受け部19は、係止部12に係止する折板の下面を受ける部分である。
【0022】
図9は、折り曲げ部16を係止部12の先端部12bの先端縁に形成した例を示している。この場合、材料たる金属板の端である固定片13aの先端縁と重合部17の対応部位を図9(a)に示したように揃えておくも、図9(b)に示したように一方を折り返して他方を包み込むようにするもよい。
【0023】
図10は、丸はぜ型の吊子11の例を示している。この吊子11は、上端部の係止部12の形態が断面略円弧状をなし、それより下側の取り付け部13は上下方向に垂直に形成されている。折り曲げ部16は下端に形成され、重合部17が垂直片14から係止部12にかけて形成されている。重合部17における垂直片に対応する部位には、取り付け孔17bが形成されるとともに、重なり合う部分で一体の縦方向に直線状をなす2本のリブ17aが形成されている。
【0024】
また、以上の例のように重合部を形成するのに先立って、図11に示したように、重合部17とこの重合部17に重なる部分の相対向する対向面は、粗面20に形成されるとよい。粗面化は、たとえばブラスト加工等の適宜手段によって行える。
【0025】
粗面化した場合には、重合したときに、面同士の間での接触抵抗が高く、面方向でのずれがなく、高い一体性を得られる。
【0026】
以上のように構成された吊子11では、折り曲げ部16で折り返されて形成された重合部17が係止部12に形成されているので、重合部17とこれが重合する部分との間での位置関係が安定し、係止部12の形状変化を抑えることができる。折板屋根に負圧が作用すると、吊子11の係止部12に伸びる力がかかって、係止部12が延びる変形をすることがあるが、その変形を抑えられるので、折板の脱落を防止して、折板の飛散を抑制できる。
【0027】
しかも、重合部17に取り付け孔17bが形成された場合には、重合部17が屋根板取り付け金具21に対して固定するためのボルト22で締められることになる。このため、重合部17の重合状態がボルト22によっても維持されるため、係止部12の形状変化を阻止する効果が高い。
【0028】
同様に、重合部17に、重なり合う部分で一体のリブ17aが形成された場合には、強度の向上を図ることができるとともに、重なり合う相互間で面方向での位置ずれを防止できるので、この点からも重合部分の高い一体性を得ることが可能となる。
【0029】
折り曲げ部16が係止部12と垂直片14に形成された場合には、重合部17の存在によるほか、折り曲げ部16の存在によっても剛性が向上して形態が安定し、形状を維持するのに大きく貢献する。
【0030】
また、互いに重なる部分の対向面を粗面にした場合には、前記のように、面同士の間での接触抵抗が高く、面方向でのずれがなく、高い一体性を得られるので、さらに強固な形態保持能力を付与することができ、折板の飛散防止に貢献する。
【0031】
さらに、吊子11の補強をリブによって行うのではなく、重合部17の形成によって行うので、強度のばらつきが生じにくい。このため、強度が安定した製品を容易に得ることができ、確実性を高めることができる。
【0032】
以上はこの発明を実施するための一形態であって、この発明は前記の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することができる。
【0033】
たとえば、折り曲げ部を固定片の先端縁に備えるほか、係止部と垂直片とに備えて、2種類の重合部を有する吊子とするもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】吊子の斜視図。
【図2】吊子を備えた屋根板取り付け金具の斜視図。
【図3】吊子の縦断面図。
【図4】他の例に係る吊子の縦断面図。
【図5】他の例に係る吊子の斜視図。
【図6】他の例に係る吊子の斜視図。
【図7】他の例に係る吊子の斜視図。
【図8】他の例に係る吊子の斜視図。
【図9】他の例に係る吊子の縦断面図。
【図10】他の例に係る吊子の斜視図。
【図11】重合部と重合部に重なる部分の相対向面の構造を示す拡大断面図。
【符号の説明】
【0035】
11…吊子
12…係止部
15…取り付け孔
16…折り曲げ部
17…重合部
17a…リブ
17b…取り付け孔
18…リブ
20…粗面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折板の馳部が係止される係止部を上端部に有する金属板からなる吊子であって、
材料の金属板を折り返して重合させる折り曲げ部が一部に形成されるとともに、
該折り曲げ部から延びる重合部が前記の係止部に形成された
吊子。
【請求項2】
前記の重合部に、取り付け孔が形成された
請求項1に記載の吊子。
【請求項3】
前記の重合部に、重なり合う部分で一体のリブが形成された
請求項1または請求項2に記載の吊子。
【請求項4】
前記の重合部と該重合部に重なる部分の相対向する対向面が、粗面に形成された
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の吊子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−90673(P2010−90673A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264341(P2008−264341)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(390035301)株式会社マルイチ (16)
【Fターム(参考)】