説明

含硫ウレタン系樹脂及びレンズとその製造方法

【目的】 耐熱性に優れた含硫ウレタン系樹脂及びレンズを提供する。
【構成】 下記式で表されるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物と、ポリイソシアナート化合物、ポリイソチオシアナート化合物又はイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物から選ばれた少なくとも1種のエステル化合物を反応させる。


【効果】 本発明の含硫ウレタン樹脂及びレンズは、無色透明で高屈折率、低分散、軽量であり、耐候性、耐衝撃性、耐熱性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、メルカプト化合物を用いた含硫ウレタン系樹脂及びその樹脂より成るレンズならびにそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックレンズは、無機レンズに比べ、軽量で割れ難く、染色が可能なため、近年、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子に急速に普及してきている。現在、これらの目的に広く用いられている樹脂としては、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(以下D.A.C.と称す)をラジカル重合させたものがある。この樹脂は、耐衝撃性に優れていること、軽量であること、染色性に優れていること、切削性および研磨性等の加工性が良好であること等、種々の特徴を有している。しかしながら、屈折率が無機レンズ(nD =1.52)に比べnD =1.50と小さく、ガラスレンズと同等の光学特性を得るためには、レンズの中心厚、コバ厚および曲率を大きくする必要があり、全体的に肉厚になることが避けられない。このため、より屈折率の高いレンズ用樹脂が望まれている。
【0003】高屈折率を与えるレンズ用樹脂として、イソシアナート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応(特開昭 57-136601号公報)、イソシアナート化合物とテトラブロモビスフェノールAなどのハロゲン原子を含有するヒドロキシ化合物との反応(特開昭58-164615 号公報)、イソシアナート化合物とジフェニルスルフィド骨格を含有するヒドロキシ化合物との反応(特開昭 60-194401号公報)等により得られるポリウレタン系樹脂製のプラスチックレンズが知られている。しかしながら、これらの公知の樹脂によるレンズは、D.A.C.を用いたレンズよりも屈折率は向上するものの、なお屈折率の点で不充分であり、また、屈折率を向上させるべく、分子内に多数のハロゲン原子或いは芳香環を有する化合物を用いている為に、耐候性が悪い、あるいは比重が大きいといった欠点を有している。
【0004】本発明者らは、高屈折率レンズ用樹脂として、イソシアナート化合物と硫黄原子を含有するヒドロキシ化合物との反応(特開昭 60-217229号公報)、さらにはポリチオール化合物との反応(特開昭60-199016 号公報、特開昭62-267316 号公報、特開昭63-46213号公報)により得られるポリウレタン系樹脂製のプラスチックレンズを先に提案した。しかし、本発明者らが提案したプラスチックレンズも、屈折率的には、なお高度なものとは言えず、また、染色、コート等の後加工の際の耐熱性に問題があった。(例えば、プラスチックレンズの染色は、通常、90〜95℃の染色浴中で行われるため、耐熱温度は100℃以上のものが望まれている。)また、レンズは重合時の色相が重要であるため、工業的に蒸留精製が容易で、かつ、蒸気圧の高くない分子量 200程度のメルカプト化合物が望まれていた。本発明者らは、また、新規なメルカプト化合物として、1,2-ビス〔(2-メルカプトエチル)チオ]-3- メルカプトプロパンを、出願したが(特開平 2-270859号公報)、この化合物はレンズ用として最も一般に用いられるm−キシリレンジイソシアナートと重合させた場合、得られる樹脂の耐熱温度は98℃であり、耐熱性の更なる改良が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本願発明の目的は、高屈折率で、しかも、耐熱性に優れた含硫ウレタン系樹脂およびこれを用いたプラスチックレンズを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、ある種のメルカプト化合物を用いることにより解決しうることを見出し、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は、式(1)、(2)または(3)(化3)で表されるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物とポリイソシアナート化合物、ポリイソチオシアナート化合物又はイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物から選ばれた少なくとも一種のエステル化合物(シアナート化合物)を反応させて得られる含硫ウレタン系樹脂およびこの樹脂からなるレンズに関するものである。
【0007】
【化3】


【0008】また、本願発明は、メルカプト化合物とエステル化合物を加熱硬化させる前記の含硫ウレタン系樹脂の製造方法およびメルカプト化合物とエステル化合物を注型重合する前記の含硫ウレタン系樹脂製レンズの製造方法に関するものである。さらに言えば、本願発明は、分子量が 200程度で、蒸留精製が容易で、しかも、硫黄臭の少ないメルカプト化合物を用いた無色透明で、高屈折率、低分散であり、軽量で、耐候性に優れ、耐衝撃性、耐熱性に優れた含硫ウレタン系樹脂及びレンズとそれらの製造方法に関するものである。
【0009】本発明の含硫ウレタン系樹脂は式(1)、(2)又は(3)で表わされるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物とポリイソシアナート化合物、ポリイソチオシアナート化合物又はイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物から選ばれる少なくとも一種のエステル化合物を反応させて得られる。本発明で用いるメルカプト化合物、即ち、式(1)で表されるテトラキス(メルカプトメチル)メタン、式(2)で表される1,1,1−トリス(メルカプトメチル)エタンおよび式(3)で表される2−エチル−2−(メルカプトメチル)プロパンは、各々対応するハロゲン化物から公知の方法で合成される。例えば、下記式(4)、(5)および(6)(化4)で表されるブロモ化合物を水硫化ナトリウムやチオシアン酸カリウム等と反応させることによって製造される。
【0010】
【化4】


【0011】本発明の含硫ウレタン系樹脂の原料として用いるエステル化合物の1つであるポリイソシアナート化合物としては、例えば、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、オクタメチレンジイソシアナート、ノナメチレンジイソシアナート、 2,2'-ジメチルペンタンジイソシアナート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアナート、デカメチレンジイソシアナート、ブテンジイソシアナート、1,3-ブタジエン-1,4 -ジイソシアナート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、1,6,11- ウンデカトリイソシアナート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアナート、1,8-ジイソシアナート-4- イソシアナートメチルオクタン、2,5,7-トリメチル-1,8- ジイソシアナート-5- イソシアナートメチルオクタン、ビス(イソシアナートエチル)カーボネート、ビス(イソシアナートエチル)エーテル、1,4-ブチレングリコールジプロピルエーテル-w,w'-ジイソシアナート、リジンジイソシアナートメチルエステル、リジントリイソシアナート、2-イソシアナートエチル -2,6-ジイソシアナートヘキサノエート、2-イソシアナートプロピル-2,6- ジイソシアナートヘキサノエート、キシリレンジイソシアナート、ビス(イソシアナートエチル)ベンゼン、ビス(イソシアナートプロピル)ベンゼン、α,α,α',α'-テトラメチルキシリレンジイソシアナート、ビス(イソシアナートブチル)ベンゼン、ビス(イソシアナートメチル)ナフタリン、ビス(イソシアナートメチル)ジフェニルエーテル、ビス(イソシアナートエチル)フタレート、メシチリレントリイソシアナート、2,6-ジ(イソシアナートメチル)フラン等の脂肪族ポリイソシアナート、
【0012】イソホロンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、シクロヘキサンジイソシアナート、メチルシクロヘキサンジイソシアナート、ジシクロヘキシルジメチルメタンジイソシアナート、2,2'- ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ビス(4- イソシアナート-n- ブチリデン)ペンタエリスリトール、ダイマ酸ジイソシアナート、2-イソシアナートメチル-3- (3-イソシアナートプロピル)-5-イソシアナートメチル‐ビシクロ[2,2,1]-ヘプタン、2-イソシアナートメチル-3- (3-イソシアナートプロピル)-6- イソシアナートメチル- ビシクロ- [2,2,1]-ヘプタン、2-イソシアナートメチル -2-(3-イソシアナートプロピル)-5-イソシアナートメチル- ビシクロ-[2,2,1]- ヘプタン、2-イソシアナートメチル-2- (3-イソシアナートプロピル)-6- イソシアナートメチル-ビシクロ-[2,2,1]- ヘプタン、2-イソシアナートメチル -3-(3-イソシアナートプロピル)-5-(2- イソシアナートエチル)- ビシクロ-[2,2,1]- ヘプタン、2-イソシアナートメチル-3-(3-イソシアナートプロピル)-6-(2- イソシアナートエチル)-ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、2-イソシアナートメチル-2-(3-イソシアナートプロピル)-5-(2-イソシアナートエチル)- ビシクロ-[2,2,1]- ヘプタン、2-イソシアナートメチル-2-(3-イソシアナートプロピル)-6-(2-イソシアナートエチル)- ビシクロ-[2,2,1]- ヘプタン等の脂環族ポリイソシアナート、
【0013】フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、エチルフェニレンジイソシアナート、イソプロピルフェニレンジイソシアナート、ジメチルフェニレンジイソシアナート、ジエチルフェニレンジイソシアナート、ジイソプロピルフェニレンジイソシアナート、トリメチルベンゼントリイソシアナート、ベンゼントリイソシアナート、ナフタリンジイソシアナート、メチルナフタレンジイソシアナート、ビフェニルジイソシアナート、トルイジンジイソシアナート、 4,4'-ジフェニルメタンジイソシアナート、3,3'-ジメチルジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアナート、ビベンジル 4,4'-ジイソシアナート、ビス(イソシアナートフェニル)エチレン、3,3'- ジメトキシビフェニル-4,4'-ジイソシアナート、トリフェニルメタントリイソシアナート、ポリメリックMDI、ナフタリントリイソシアナート、ジフェニルメタン-2,4,4'-トリイソシアナート、3-メチルジフェニルメタン-4,6,4'-トリイソシアナート、4-メチル‐ジフェニルメタン-3,5,2',4',6'-ペンタイソシアナート、フェニルイソシアナートメチルイソシアナート、フェニルイソシアナートエチルイソシアナート、テトラヒドロナフチレンジイソシアナート、ヘキサヒドロベンゼンジイソシアナート、ヘキサヒドロジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアナート、ジフェニルエーテルジイソシアナート、エチレングリコールジフェニルエーテルジイソシアナート、1,3-プロピレングリコールジフェニルエーテルジイソシアナート、ベンゾフェノンジイソシアナート、ジエチレングリコールジフェニルエーテルジイソシアナート、ジベンゾフランジイソシアナート、カルバゾールジイソシアナート、エチルカルバゾールジイソシアナート、ジクロロカルバゾールジイソシアナート等の芳香族ポリイソシアナート、
【0014】チオジエチルジイソシアナート、チオジプロピルジイソシアナート、チオジヘキシルジイソシアナート、ジメチルスルフォンジイソシアナート、ジチオジメチルジイソシアナート、ジチオジエチルジイソシアナート、ジチオジプロピルジイソシアナート等の含硫脂肪族イソシアナート、ジフェニルスルフィド-2,4'-ジイソシアナート、ジフェニルスルフィド-4,4'-ジイソシアナート、3,3'- ジメトキシ-4,4'-ジイソシアナートジベンジルチオエーテル、ビス(4-イソシアナートメチルベンゼン)スルフィド、4,4'- メトキシベンゼンチオエチレングリコール- 3,3'- ジイソシアナートなどの芳香族スルフィド系イソシアナート、ジフェニルジスルフィド-4,4'-ジイソシアナート、2,2'- ジメチルジフェニルジスルフィド-5,5'- ジイソシアナート、3,3'- ジメチルジフェニルジスルフィド -5,5'- ジイソシアナート、3,3'- ジメチルジフェニルジスルフィド -6,6'- ジイソシアナート、4,4'- ジメチルジフェニルジスルフィド-5,5'-ジイソシアナート、3,3'- ジメトキシジフェニルジスルフィド-4,4'-ジイソシアナート、4,4'- ジメトキシジフェニルジスルフィド-3,3'-ジイソシアナートなどの芳香族ジスルフィド系イソシアナート、
【0015】ジフェニルスルホン-4,4'-ジイソシアナート、ジフェニルスルホン-3,3'-ジイソシアナート、ベンジディンスルホン-4,4'-ジイソシアナート、ジフェニルメタンスルホン-4,4'-ジイソシアナート、4-メチルジフェニルスルホン -2,4'- ジイソシアナート、4,4'- ジメトキシジフェニルスルホン -3,3'- ジイソシアナート、3,3'- ジメトキシ-4,4'-ジイソシアナートジベンジルスルホン、 4,4'-ジメチルジフェニルスルホン-3,3'-ジイソシアナート、4,4'- ジ tert-ブチルジフェニルスルホン-3,3'-ジイソシアナート、4,4'- メトキシベンゼンエチレンジスルホン-3,3'-ジイソシアナート、4,4'- ジクロロジフェニルスルホン-3,3'-ジイソシアナートなどの芳香族スルホン系イソシアナート、4-メチル -3-イソシアナートベンゼンスルホニル-4'-イソシアナートフェノールエステル、4-メトキシ-3-イソシアナートベンゼンスルホニル-4'-イソシアナートフェノールエステルなどのスルホン酸エステル系イソシアナート、4-メチル-3- イソシアナートベンゼンスルホニルアニリド -3'- メチル-4'-イソシアナート、ジベンゼンスルホニル‐エチレンジアミン-4,4'-ジイソシアナート、 4,4'-メトキシベンゼンスルホニル‐エチレンジアミン-3,3'-ジイソシアナート、4-メチル-3- イソシアナートベンゼンスルホニルアニリド-4- メチル-3'-イソシアナートなどの芳香族スルホン酸アミド、チオフェン -2,5-ジイソシアナート等の含硫複素環化合物、その他 1,4- ジチアン-2,5- ジイソシアナートなどが挙げられる。また、これらの塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ダイマー化あるいはトリマー化反応生成物等もまた使用できる。
【0016】本発明の含硫ウレタン系樹脂の原料として用いられるエステル化合物の1つであるポリイソチオシアナート化合物は、一分子中に-NCS基を2つ以上含有する化合物であり、さらにイソチオシアナート基の他に硫黄原子を含有していてもよい。具体的には、例えば、1,2-ジイソチオシアナートエタン、1,3-ジイソチオシアナートプロパン、1,4-ジイソチオシアナートブタン、1,6-ジイソチオシアナートヘキサン、p-フェニレンジイソプロピリデンジイソチオシアナート等の脂肪族イソチオシアナート、シクロヘキサンジイソチオシアナート等の脂環族イソチオシアナート、1,2-ジイソチオシアナートベンゼン、1,3-ジイソチオシアナートベンゼン、1,4-ジイソチオシアナートベンゼン、2,4-ジイソチオシアナートトルエン、2,5-ジイソチオシアナート -m-キシレン、4,4'- ジイソチオシアナート-1,1'-ビフェニル、1,1'- メチレンビス(4-イソチオシアナートベンゼン)、1,1'- メチレンビス(4-イソチオシアナート-2- メチルベンゼン)、1,1'- メチレンビス(4-イソチオシアナート-3- メチルベンゼン)、1,1'-(1,2-エタンジイル)ビス(4-イソチオシアナートベンゼン)、4,4'- ジイソチオシアナートベンゾフェノン、4,4'- ジイソチオシアナート -3,3'- ジメチルベンゾフェノン、ベンズアニリド-3,4'-ジイソチオシアナート、ジフェニルエーテル-4,4'-ジイソチオシアナート、ジフェニルアミン-4,4'-ジイソチオシアナート等の芳香族イソチオシアナート、2,4,6-トリイソチオシアナート-1,3,5- トリアジン等の複素環含有イソチオシアナート、さらにはヘキサンジオイルジイソチオシアナート、ノナンジオイルジイソチオシアナート、カルボニックジイソチオシアナート、1,3-ベンゼンジカルボニルジイソチオシアナート、1,4-ベンゼンジカルボニルジイソチオシアナート、(2,2'-ビピリジン)-4,4'-ジカルボニルジイソチオシアナート等のカルボニルイソチオシアナート等が挙げられる。
【0017】イソチオシアナート基の他に1つ以上の硫黄原子を含有する2官能以上のポリイソチオシアナートとしては、例えば、チオビス(3-イソチオシアナートプロパン)、チオビス(2-イソチオシアナートエタン)、ジチオビス(2-イソチオシアナートエタン)などの含硫脂肪族イソチオシアナート、1-イソチオシアナート-4-[(2- イソチオシアナート)スルホニル]ベンゼン、チオビス(4-イソチオシアナートベンゼン)、スルホニルビス(4-イソチオシアナートベンゼン)、スルフィニルビス(4-イソチオシアナートベンゼン)、ジチオビス(4-イソチオシアナートベンゼン)、4-イソチオシアナート-1-[( 4-イソチオシアナートフェニル)スルホニル]-2-メトキシ‐ベンゼン、4-メチル-3- イソチオシアナートベンゼンスルホニル-4'-イソチオシアナートフェニルエステル、4-メチル-3- イソチオシアナートベンゼンスルホニルアニリド-3'-メチル-4'-イソチオシアナートなどの含硫芳香族イソチオシアナート、チオフェノン-2,5- ジイソチオシアナート、1,4-ジチアン-2,5- ジイソチオシアナート等の含硫複素環化合物等が挙げられる。さらに、これらのポリイソチオシアナートの塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ダイマー化あるいはトリマー化反応生成物等もまた使用できる。
【0018】本発明の含硫ウレタン系樹脂の原料として用いるエステル化合物の1 つであるイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物としては、例えば、1-イソシアナート-3- イソチオシアナートプロパン、1-イソシアナート-5-イソチオシアナートペンタン、1-イソシアナート-6- イソチオシアナートヘキサン、イソチオシアナートカルボニルイソシアナート、1-イソシアナート-4- イソチオシアナートシクロヘキサンなどの脂肪族あるいは脂環族化合物、1-イソシアナート-4-イソチオシアナートベンゼン、4-メチル-3- イソシアナート-1- イソチオシアナートベンゼンなどの芳香族化合物、2-イソシアナート-4,6- ジイソチオシアナート-1,3,5- トリアジンなどの複素環式化合物、さらには4-イソシアナート-4'-イソチオシアナートジフェニルスルフィド、2-イソシアナート-2'-イソチオシアナートジエチルジスルフィド等のイソチオシアナート基以外にも硫黄原子を含有する化合物等が挙げられる。さらに、これら化合物の塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ダイマー化あるいはトリマー化反応生成物等もまた使用できる。これらエステル化合物はそれぞれ単独で用いることも、また二種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】本発明では、エステル化合物とメルカプト化合物の使用割合は、官能基モル比〔(NCO+NCS) /SH〕が通常 0.5〜3.0 の範囲、好ましくは、0.5 〜1.5 の範囲である。本願発明は、メルカプト化合物として、式(1)、(2)又は(3)で表わされるメルカプト化合物を少なくとも1種含有することを特徴とするものである。本願発明は、式(1)、(2)又は(3)で表わされるメルカプト化合物を原料メルカプト化合物に添加することにより、得られる樹脂の耐熱性を改良することを可能にするものである。本願において、式(1)、(2)又は(3)で表わされるメルカプト化合物の使用量は、使用する原料モノマーの種類や必要とされる耐熱性の程度によって、適宜決められるが、好ましくは使用される全メルカプト化合物の5モル%以上、更に好ましくは20モル%以上である。
【0020】本発明のプラスチックレンズは、チオカルバミン酸S−アルキルエステル系樹脂又はジチオウレタン系樹脂を素材とするものであり、イソシアナート基とメルカプト基によるチオカルバミン酸S−アルキルエステル結合又はイソチオシアナート基とメルカプト基によるジチオウレタン結合を主体とするが、目的によっては、それ以外にアロハネート結合、ウレヤ結合、チオウレヤ結合、ビウレット結合等を含有しても、勿論差し支えない。たとえば、チオカルバミン酸S−アルキルエステル結合に、さらにイソシアナート基を反応させたり、ジチオウレタン結合に、さらにイソチオシアナート基を反応させて架橋密度を増大させることは好ましい結果を与える場合が多い。この場合には、反応温度を少なくとも 100℃以上に高くし、イソシアナート成分又はイソチオシアナート成分を多く使用する。あるいはまた、アミン等を一部併用し、ウレヤ結合、ビウレット結合を利用することもできる。メルカプト化合物以外のものを使用する場合には、特に着色の点に留意する必要がある。
【0021】また、目的に応じて、公知の成形法におけると同様に、内部離型剤、鎖延長剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、油溶染料、充填剤などの種々の物質を添加してもよい。さらに、所望の反応速度に調整するため、ポリウレタンの製造において用いられる公知の反応触媒を適宜に添加することもできる。本発明のレンズは、通常、注型重合により得られる。具体的には、エステル化合物と式(1)、(2)または(3)で表わされるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物とを混合し、必要に応じて、この混合液を適当な方法で脱泡を行なった後、モールド中に注入し、通常、低温から高温に徐々に昇温しながら重合させる。重合温度及び重合時間は、モノマーの組成、添加剤の種類、量によっても異なるが、一般的には約20℃から昇温を開始し、120 ℃程度まで8〜24時間で昇温する。この際、重合後の離型性を容易にするため、モールドに公知の離型処理を施しても差し支えない。
【0022】また、本発明の含硫ウレタン系樹脂を素材とするレンズは、必要に応じ反射防止、高硬度付与、耐摩耗性向上、耐薬品性向上、防曇性付与、あるいはファッション性付与等の改良を行うため、表面研磨、帯電防止処理、ハードコート処理、無反射コート処理、染色処理、調光処理等の物理的あるいは化学処理を施すことができる。このようにして得られる本発明の含硫ウレタン系樹脂は、モノマー取り扱い時の硫黄臭による不快感や、後加工時の硫黄臭による不快感が無く、物性的には極めて低分散、高屈折率、耐熱性に優れ、かつ無色透明であり、軽量で、耐候性、耐衝撃性等に優れた特徴を有しており、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子材料やグレージング材料、塗料、接着剤の材料として好適である。
【0023】
【実施例】以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
実施例1テトラキス(メルカプトメチル)メタン(式(1)の化合物)34.6重量部(0.17モル)、m−キシリレンジイソシアナート65.4重量部(0.34モル)、ジブチルチンジラウレート0.1重量%を混合し均一とし、十分に脱泡した後、離型処理を施したガラスモールドとガスケットよりなるモールド型に注入した。次いで、40℃から120℃まで徐々に昇温しながら20時間かけて加熱硬化させた。重合終了後徐々に冷却し、重合体をモールドより取り出した。こうして得られた樹脂は、無色透明で耐衝撃性に優れ、屈折率nD =1.66、アッベ数νD =33、熱変形開始温度は176℃であった。得られたレンズについて性能試験を行い、結果を表−1(表1)に示した。屈折率、アッベ数、耐熱性は以下の試験法により評価した。
・屈折率、アッベ数:プルフリッヒ屈折計を用い、20℃で測定した。
・外 観:目視により観察した。
・耐熱性:サーモメカニカルアナライザー〔パーキンエルマー社(米国)製〕を用いて試験片に5g加重し、2.5 ℃/分で加熱して、その熱変形開始温度を測定した。
【0024】実施例2〜4実施例1と同様にして、表−1に記載した化合物、組成比でレンズを製造し、実施例1と同様に評価した。結果を表−1に示した。
実施例5実施例1のテトラキス(メルカプトメチル)メタンの代わりに、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)66.2重量部(0.14モル)とテトラキス(メルカプトメチル)メタン7.7重量部(0.04モル)を用い、実施例1と同様にしてレンズ化を行なった。得られた樹脂は無色透明で屈折率nD =1.60、アッベ数νD =36であり、熱変形開始温度は113℃であった。このレンズを95℃の染色浴中に、30分つけて染色したが、レンズは変形していなかった。
【0025】実施例6実施例1のテトラキス(メルカプトメチル)メタンの代わりに、1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパン(GST)42.6重量部(0.16モル)とテトラキス(メルカプトメチル)メタン10.4重量部(0.05モル)を用い、実施例1と同様にしてレンズ化を行なった。得られた樹脂は無色透明で屈折率nD =1.66、アッベ数νD =32であり、熱変形開始温度は114℃であった。このレンズを95℃の染色浴中に、30分つけて染色したが、レンズは変形していなかった。
【0026】比較例1実施例1のテトラキス(メルカプトメチル)メタンの代わりに、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)84.9重量部(0.17モル)を用い、実施例1と同様にしてレンズ化を行ない、実施例1と同様に評価した。結果を表−1に示した。得られた樹脂は無色透明で屈折率nD =1.59、アッベ数νD =36であったが、熱変形開始温度は84℃と不十分であった。このレンズを95℃の染色浴中に、30分つけて染色すると、レンズは変形していた。
【0027】比較例2実施例1のテトラキス(メルカプトメチル)メタンの代わりに、1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン(GST)60.1重量部(0.23モル)を用い、実施例1と同様にしてレンズ化を行ない、実施例1と同様に評価した。結果を表−1に示した。得られた樹脂は無色透明で屈折率nD =1.66、アッベ数νD =33であったが、熱変形開始温度は98℃と不十分であった。このレンズを95℃の染色浴中に、30分つけて染色すると、レンズは変形していた。
【0028】
【表1】


PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)
GST:1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン
【0029】
【発明の効果】本発明の含硫ウレタン樹脂及びレンズは、無色透明で、高屈折率、低分散であり、軽量で、耐候性に優れ、耐衝撃性、耐熱性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(1)、(2)または(3)(化1)で表されるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物と、
【化1】


ポリイソシアナート化合物、ポリイソチオシアナート化合物又はイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物から選ばれた少なくとも一種のエステル化合物とを反応させて得られる含硫ウレタン系樹脂。
【請求項2】 式(1)、(2)または(3)で表されるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物と、ポリイソシアナート化合物、ポリイソチオシアナート化合物又はイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物から選ばれた少なくとも一種のエステル化合物を加熱硬化させることを特徴とする請求項1記載の含硫ウレタン系樹脂の製造方法。
【請求項3】 式(1)、(2)または(3)(化2)で表されるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物と、
【化2】


ポリイソシアナート化合物、ポリイソチオシアナート化合物及びイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物から選ばれた少なくとも一種のエステル化合物を反応させて得られる含硫ウレタン系樹脂製レンズ。
【請求項4】 式(1)、(2)または(3)で表されるメルカプト化合物を少なくとも1種含有するメルカプト化合物と、ポリイソシアナート化合物、ポリイソチオシアナート化合物及びイソシアナート基を有するイソチオシアナート化合物から選ばれた少なくとも一種のエステル化合物を注型重合することを特徴とする請求項3記載の含硫ウレタン系樹脂製レンズの製造方法。