説明

吸収性物品

【課題】 排泄量が多い場合においても漏れやムレが生じにくく、装着感に優れており、高吸収性で漏れ防止性に優れた吸収性物品を提供すること。
【解決手段】 液透過性の表面層2、液不透過性の防漏層3及び液保持性の吸収層4を有する吸収性物品において、前記吸収層4は、水で膨潤しない親水性繊維若しくは親水性発泡体、又は水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量が0.7g/g以下である親水性繊維若しくは親水性発泡体と、高吸水性ポリマーとからなり、吸収性物品1に生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率が90%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキン、使い捨てオムツ、失禁パッド、パンティライナー等の吸収性物品に関し、更に詳しくは、吸収性能に優れ、ムレの少ない、極めて装着感に優れた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用中の湿度上昇を抑えてムレを低減した吸収性物品が提案されており、例えば特開平6−218007号公報、特開平7−132126号公報等に記載のものがある。これらの公報に記載の技術は、吸収体中に絶乾パルプ、多量の高吸水性ポリマー、シリカゲルや塩化リチウム等の吸湿性を有する材料を含有させ、更に透湿性のバックシートを組み合わせたものである。
また、特表平10−508521号公報には、透湿バックシートを用いた吸収性物品が記載されている。透湿性を有する2枚のシートを組み合わせることにより、圧力下においても、その透湿バックシートを通しての液の染み出しがないようにした技術である。
しかし、これらの技術においても、排泄された体液が、紙やパルプの繊維間中に固定されていない液として残るため、体液の排泄量が多い場合においては、固定されていない液から水蒸気が生じてムレが生じ易い。
【0003】
また、特開平7−184956号公報には、疑似血液の平衡吸収膨潤後の遠心保持容量及び疑似血液の透過速度がそれぞれ所定値以上の吸収体を用いることにより、該吸収体からの液戻りを防止するようにした生理用ナプキンが提案されており、特開平6−28788号公報には、嵩高性のセルロース繊維を混合して抄紙した、液体が最初に接する表面層とこれに重層する一以上の基盤層とを有する多層の吸収紙が提案されており、特開平9−156013号公報には、高吸水性ポリマーと嵩高性のセルロース繊維とを含む吸収性シートに、親水性の微細繊維又は親水性の微細粉体を含有させた吸収性シートが提案されている。
しかし、これらの公報にも、排泄量(液の吸収量)が多い場合においても、水蒸気の発生を顕著に抑制でき、ムレの発生を顕著に抑制できる吸収性物品の構成について何ら記載されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平6−218007号公報
【特許文献2】特開平7−132126号公報
【特許文献3】特表平10−508521号公報
【特許文献4】特開平7−184956号公報
【特許文献5】特開平6−28788号公報
【特許文献6】特開平9−156013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の第1の目的は、排泄量が多い場合においてもムレが生じにくく、装着感に優れており、高吸収性で漏れ防止性に優れた吸収性物品を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、使用時間が長い場合においてもムレが生じにくく、装着感に優れており、高吸収性で漏れ防止性に優れた吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液透過性の表面層、液不透過性の防漏層及び液保持性の吸収層を有する吸収性物品において、前記吸収層は、水で膨潤しない親水性繊維若しくは親水性発泡体、又は水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量が0.7g/g以下である親水性繊維若しくは親水性発泡体と、高吸水性ポリマーとからなり、前記吸収性物品に生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率が90%以上であることを特徴とする吸収性物品を提供することにより、上記第1の目的を達成したものである(以下、第1発明というときは、この発明をいう)。
【0007】
また、本発明は、液透過性の表面層、液不透過性の防漏層及び、液保持性の吸収層を有する吸収性物品において、前記防漏層は、水蒸気透過性であり、前記吸収性物品に生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率が90%以上であることを特徴とする吸収性物品を提供することにより、上記第2の目的を達成したものである(以下、第2発明というときは、この発明をいう)。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、排泄量が多い場合においても漏れやムレが生じにくく、装着感に優れており、高吸収性で漏れ防止性に優れた吸収性物品を提供することができる。
例えば、本発明の吸収性物品においては、排泄量が多い場合であっても、吸収した殆どの液を完全に固定することができるため、排泄による着装内の湿度上昇や、ムレや液戻りによるベタツキを低減でき、快適な装着感が得られる。防漏層に透湿性のシートを使用した場合には、更に発汗による湿度や温度の上昇を効果的に抑えることができ、一層快適なものとなる。また、吸収体に使用する親水性材料は、材料自身が体液を保持しないか、又は液の保持量が小さいが故に、繊維の集合体中の空隙(もしくは発泡体の空隙)の体液が滞留し易い部分の空隙構造が、液を吸収しても安定であり、また空隙構造が高吸水性ポリマーまでの、体液の拡散誘導を促進している為、吸収された体液の殆どが、高吸水性ポリマーまで導かれ、ポリマーで完全に保持できる。
【0009】
第2発明によれば、使用時間が長い場合においてもムレが生じにくく装着感に優れており、高吸収性で漏れ防止性に優れた吸収性物品を提供することができる。
即ち、第2発明の吸収性物品は、所定の液保持固定化率を有するため、吸収層から生じる水蒸気による着装内のムレや吸収層からの液戻りによる漏れが生じず、しかも防漏層が水蒸気透過性であるため一層着装内のムレが生じにくいものである。
特に、防漏層の濡れ張力が37mN/m以下の場合には、排泄液の表面張力が低い場合であっても防漏層を通して液が染み出しにくく、漏れ防止性に優れており、ムレや吸収層からの液戻りが生じにくい吸収性物品において、一層装着者に優れた装着感及び安心感を与えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、第1及び第2発明の吸収性物品の一実施形態としての生理用ナプキンが示され、図2には、図1の生理用ナプキンの幅方向の断面が模式的に示されている。
本実施形態の生理用ナプキン1は、実質的に縦長の形状をしており、液透過性の表面層としてのトップシート2、液不透過性の防漏層としてのバックシート3、及び両層間に介在された液保持性の吸収層としての吸収体4を具備する。
トップシート2、バックシート3及び吸収体4は、それぞれ縦長形状を有しており、長手方向を一致させて一体化されている。
吸収体4は、ホットメルト粘着剤5を介してバックシート3と接着固定されている。ナプキン1の両側部には、吸収体4の両側縁を覆うように液不透過性の防漏シート6が配され、防漏部が形成されている。バックシート3の下面側には、粘着剤7が二本の帯状に塗布されて、ナプキン1をショーツ等の着用具に固定するための粘着部が形成され、該粘着部は、剥離シート8で保護されている。
また、トップシート2、バックシート3及び防漏シート6は、吸収体4の周縁部より外方に延出する部分において、ヒートシール13により互いに接合固定されている。また、トップシート2と防漏シート6とは、吸収体4の両側部上面側において、ヒートシール11により互いに接合されており、吸収体4の上面部は、トップシート2と、ヒートシール12により一体化されている。
【0011】
第1発明の吸収性物品における吸収層(吸収体)4は、水で膨潤しない親水性繊維若しくは親水性発泡体、又は水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量が0.7g/g以下、好ましくは0.5g/g以下である親水性繊維若しくは親水性発泡体と、高吸水性ポリマーとからなる。
水で膨潤しない親水性繊維若しくは親水性発泡体の形成材料としては、それ自体が膨潤しない樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、及びこれら2種以上の複合体等の合成樹脂が挙げられる。これらの合成樹脂は、その表面が疎水性であるため、親水化処理を行う必要がある。親水化処理の方法としては、前記合成樹脂からなる繊維又は成型後の発泡体に、界面活性剤の溶液を噴霧・塗工し、その表面に付着させる方法や、予め親水性の界面活性剤を前記合成樹脂に練り込み、その後、繊維又は、発泡体に成型し、その表面に界面活性剤をブリードさせる方法などがある。
【0012】
親水化処理に用いる界面活性剤としては、親水基と親油基を持つ親水性の界面活性剤であれば特に制限されないが、アニオン系界面活性剤、及び、エチレンオキサイド系の付加モル数の高いノニオン系界面活性剤が好ましい。具体的には、スルホコハク酸エステル、アルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、グリセリン脂肪酸エステルなどが好ましい。これらの界面活性剤のうち、前記合成樹脂に対する使用割合が0.05〜3重量%程度で十分な親水性を付与できるものが好ましい。界面活性剤は、一種を単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0013】
水で膨潤させた後に遠心脱水したとき水保持量(以下、「水の遠心保持量」という)が0.7g/g以下、より好ましくは0.5g/g以下である親水性繊維若しくは親水性発泡体の形成材料としては、親水化処理の必要のない材料、即ちそれ自体が親水性表面を有する材料が挙げられ、セルロースの分子内又は分子間を適当な架橋剤によって架橋させた架橋セルロース繊維(パルプ繊維)やセルローススポンジ、セルロースの結晶化度を向上させたポリノジックレーヨン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリビニルアルコールスポンジ、アクリル繊維、アクリルスポンジ等が挙げられる。これらの中でも、製造経費の面から、セルロースからなる木材パルプに架橋処理を施した架橋パルプ繊維が好ましい。
【0014】
水の遠心保持量が0.7g/ gを超える親水性繊維や親水性発泡体により吸収体を形成すると、これら親水性の繊維や発泡体中に体液が吸収され、その繊維や発泡体の弾性率が低下して、繊維間や発泡体の空孔中に体液が残留し易くなるため、残留した体液から放出される水蒸気により、装着環境内の湿度が上昇してしまう。
水の遠心保持量の測定方法については、実施例において後述する。
尚、通常の針葉樹パルプや広葉樹パルプ等の化学パルプは、水の遠心保持量が1〜2g/g程度である。以下、水の遠心保持量が0.7g/g以下の親水性繊維を「低膨潤性の親水性繊維」、水の遠心保持量が0.7g/g以下の親水性発泡体を「低膨潤性の親水性発泡体」ということがある。
また、セルロースの架橋剤としては、ジメチロールエチレン尿素及びジメチロールヒドロキシエチレン尿素などのN−メチロール化合物、クエン酸トリカルバリル酸及びブタンテトラカルボン酸などのポリカルボン酸、ポリグルシジルエーテル系化合物、並びにジアルデヒド系化合物が好ましく用いられる。
【0015】
第1発明の吸収性物品における吸収層(吸収体)4は、上述した非膨潤性又は低膨潤性の親水性繊維又は親水性発泡体に加えて、高吸水性ポリマーを含有する。トップシートを透過した体液を、繊維間や発泡体の空孔中に滞留させることなく、その殆どを高吸水性ポリマーで吸収保持されるようにすることにより、排泄された体液からの水蒸気の発生が低減され、装着環境内の湿度上昇を効果的に防止することができる。
【0016】
高吸水性ポリマーとしては、自重の20倍以上の体液を吸収保持でき、且つゲル化し得るものが好ましい。例えば、デンプンや架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又はそれらの共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体を挙げることができる。ポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩が好ましい。
【0017】
高吸水性ポリマーとしては、繊維間や発泡体の空孔から素早く体液を吸収して保持する機能を有し、且つ体液を吸収して膨潤した後もポリマー面が乾燥状態に保たれ、蒸気を発散し難く、吸収膨潤後もポリマー間の体液の移動を妨げないものが好ましい。このような機能は、ポリマーが均一な架橋構造を有していると発現し難いため、高吸水性ポリマーは架橋密度勾配を有していることが好ましい。
【0018】
高吸水性ポリマーに架橋密度勾配を持たせる方法としては、例えば高吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸塩を用いた場合には、ポリアクリル酸塩の官能基と反応し得る架橋剤(以下、ポリマー架橋剤という)によって、更にポリアクリル酸塩と反応させて、ポリマー表面を互いに架橋させる方法などが挙げられる。上記のポリマー架橋剤としては、カルボキシル基と反応し得る2個以上の官能基を有する化合物が好ましく、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等のポリグジシジルエーテル、グルタールアルデヒド、グリオキザール等のポリオール及びエチレンジアミン等のポリアミン類を挙げることができる。
【0019】
また、高吸水性ポリマーの粒子形態は、非球形状であることが好ましい。粒子形態が非球形状であると、高吸水性ポリマーが体液を吸収して膨潤した際の粒子の再配列や密着による、ポリマー粒子間の空隙の減少を防止することができる。これにより、球状粒子の場合に生じ易いゲルブロッキングを防止でき、ポリマーによる迅速且つ充分な吸収が行われる。
【0020】
非球形状の高吸水性ポリマーを得る方法としては、塊状重合で得られた高吸水性ポリマーを粉砕して非球形状とする方法や、高吸水性ポリマー製造時に、得られるポリマー粒子同士を、ポリマー架橋剤により更に接触反応により互いに結合させて、ポリマー粒子を一次粒子とする団粒化物からなる不定形の高吸水性ポリマーを得る方法、ポリマー製造時のポリマー分散剤の選定により不定形のポリマーなどを得る方法などがある。
【0021】
高吸水性ポリマーは、上述した親水性繊維又は親水性発泡体と併用され、その併用の態様としては、高吸水性ポリマーを親水性繊維の集合体もしくは親水性発泡体中に、散布等により層状に配置したり、均一に分散させるなど、特に制約はないが、高吸水性ポリマーが、親水性繊維の集合体もしくは発泡体中に3次元的に分散していることが好ましい。3次元的に分散していると、繊維もしくは発泡体と高吸水性ポリマーとの接触面積が大きくなり、トップシートを透過した体液を、繊維間や発泡体の空孔中に滞留させることなく迅速に高吸水性ポリマーに吸収させることができ、湿度上昇の防止効果が一層向上する。
ここで、「3次元的に分散」とは、繊維集合体もしくは発泡体の間に線状や層状に吸水性ポリマーが存在する形ではなく、繊維集合体もしくは発泡体の間の平面方向のみならず厚み方向にも高吸水性ポリマーが分散して存在することを意味する。
【0022】
また、高吸水性ポリマーは、生理食塩水に対する遠心保持量が25g以上であることが好ましく、30g以上であることが一層好ましい。尚、測定方法については、実施例において後述する。
【0023】
吸収層(吸収体)4中における、水で膨潤しない親水性繊維若しくは親水性発泡体、又は水の遠心保持量が0.7g/g以下である親水性繊維若しくは親水性発泡体の含有量は、該吸収層(吸収体)4の全重量に対して30〜70%であることが好ましく、特に40〜70%であることが好ましい。
非膨潤性又は低膨潤性の親水性繊維若しくは親水性発泡体の含有量が、上記範囲内であると、吸収性物品の液固定化率をより高くすることができ、且つ、吸収体の形態安定性やポリマー固定性等を向上させることができる。
非膨潤性の親水性繊維若しくは親水性発泡体と、低膨潤性の親水性繊維若しくは親水性発泡体との両者が吸収層(吸収体)に含まれていても良く、その場合、両者の合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0024】
また、吸収層(吸収体)4中における、高吸水性ポリマーの含有量は、該吸収層(吸収体)4の全重量に対して30〜70%であることが好ましく、特に35〜60%であることが好ましい。高吸水性ポリマーの含有量が、上記範囲内であると、吸収性物品の液固定化率が高く、且つ、着用者の動きによる吸収体の形態安定性及びポリマーの固定性等の面より良好なものを設計し易い。
吸収層(吸収体)4中における、非膨潤性又は低膨潤性の上記親水性繊維又は上記親水性発泡体と、高吸水性ポリマーとの配合割合は、重量比(前者/後者)で3/7〜7/3が好ましい。
【0025】
第2発明の吸収性物品における吸収層(吸収体)4としては、上述した非膨潤性又は低膨潤性の上記親水性繊維又は上記親水性発泡体と高吸水性ポリマーとからなるものを用いることができるが、それに制限されず、例えば水の遠心保持量0.7g/g超の繊維又は発泡体からなるもの等を用いることもできる。
第2発明の吸収性物品においては、液不透過性の防漏層が水蒸気透過性を有しているため、吸収体中に固定されていない非固定水が蒸発して水蒸気となったものが、該防漏層を通して発散し、その結果、非固定液量が減少する。即ち、吸収体中に使用できる親水性繊維又は発泡体の使用範囲が拡がり、水の遠心保持量が0.7g/g以下の繊維又は発泡体に制限されるものではない。
【0026】
本発明の吸収性物品(生理用ナプキン)1は、生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率(以下、液保持固定化率という)が90%以上、好ましくは93%以上である。液保持固定化率は高い程好ましく上限値は100%である。液保持固定化率の測定方法については、実施例において後述する。
液保持固定化率が90%未満であると、吸収体からの蒸気発散量が増加し、湿度が上昇して、装着中のムレ感が増大してしまう。また、90%以上であると、保持した液が再度放出されることによる漏れが生じない。
【0027】
液保持固定化率を90%以上とするための構成は、特に制限されるものではないが、上述した親水性繊維又は親水性発泡体と上述した高吸水性ポリマーとから吸収体4を構成し、トップシートを透過した体液を、繊維間もしくは発泡体の空孔中に滞留させずに、迅速に高吸水性ポリマーに吸収させるようにすることが好ましく、更に、トップシートを透過した体液が、吸収体表面から該吸収体の内部に配合した高吸水性ポリマーの全体に素早く吸収拡散されるようにすることが好ましい。
【0028】
具体的には、高吸水性ポリマーの近傍の親水性繊維からなる集合体もしくは親水性発泡体は、JIS P8141に準拠して測定した、生理食塩水に対する1分後のクレム吸水度(以下、単にクレム吸水度という)が40mm以上、特に50mm以上であることが好ましい。このような拡散性は、親水性繊維の繊維径を適切に選択したり、発泡体中の空隙の孔径等を調整して、比表面積を高めることにより調整できる。
【0029】
更には、吸収体表面から、高吸水性ポリマー近傍にかけて、親水性繊維の集合体もしくは親水性発泡体の拡散性に勾配を持たせ、高吸水性ポリマー近傍の親水性繊維の集合体もしくは発泡体の拡散性を、吸収体表面における拡散性よりも向上させることが好ましい。
【0030】
拡散性を向上させる方法としては、例えば、親水性繊維として水に膨潤しない合成繊維を親水化処理した繊維を用いる場合、その繊維径を小さくして繊維の比表面積を高くすれば良い。この場合、平均繊維直径は20μm以下、特に0.1〜10μmであることが好ましい。このような平均繊維直径を有する繊維を含む繊維集合体としては、繊維を極細にできる、メルトブローン不織布を用いることが好ましい。更には、高吸水性ポリマーと3次元的に絡ませるために、メルトブローンの噴出し口から、繊維が堆積するまでの間にポリマーを散布し、3次元的にポリマーと繊維と絡ませた、シート材料を得ることができる。
【0031】
また、高吸水性ポリマー近傍の親水性繊維もしくは親水性発泡体の拡散性を、吸収層(吸収体)表面よりも向上させた吸収層(吸収体)としては、該吸収層(吸収体)の表面層(表面シート)側の表面を形成する表面繊維層と、該表面繊維層の裏面側に積層された内部繊維層とを有し、該内部繊維層は、高吸水性ポリマーを含有するか又は高吸水性ポリマーに接触させてあり、該表面繊維層のクレム吸水度が、該内部繊維層のクレム吸水度よりも小さいものが好ましい。
【0032】
内部繊維層は、上述したように、クレム吸水度が40mm以上、特に50mm以上であることが好ましく、表面繊維層は、クレム吸水度が40mm未満、特に5〜35mmであることが好ましい。
表面繊維層と内部繊維層とのクレム吸水度を異ならせ、拡散性の勾配を持たせた場合、特に表面繊維層のクレム吸水度を40mm未満とし内部繊維層のクレム吸水度を40mm以上とした場合、表面繊維層が吸収した体液等の液体を、毛細管浸透圧により、内部繊維層内の高吸水性ポリマーに素早く導き吸収させることができる。
内部繊維層は、一枚の不織布内に高吸水性ポリマーが分散しているものでも、二枚の不織布間に高吸水性ポリマーが挟まれた構成のものでも良い。
尚、高吸水性ポリマー近傍の親水性繊維を0.1〜10μmの極細にすると共に、吸収体表面の繊維を10〜100μmと太くし、径の異なる2種類の繊維を用いる場合、その配合割合は、重量比(前者/後者)で3/7〜9/1であることが好ましい。
【0033】
また、高吸水性ポリマー近傍の親水性繊維もしくは親水性発泡体の拡散性を、吸収体表面よりも向上させたる方法としては、例えば上述した繊維径の小さいメルトブローン不織布の繊維間隙に高吸水性ポリマーを保持させた複合シート(内部繊維層)の上に、繊維径が大きく水に膨潤しない合成繊維を親水化処理した繊維からなる不織布(表面繊維層)を重ね合わせ、重ね合わせた不織布が吸収体の表面側に位置するようにして、吸収体を製造する。吸収体の表面側に配する不織布としては、ポリマー近傍の繊維よりも繊維径が大きい、繊維直径10μm〜100μmの親水化処理された合成繊維で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン及びこれら2種以上の複合体等の合成繊維からなる、スパンボンド不織布、ヒートロール不織布、サクションヒートボンド不織布等が好ましい。
【0034】
また、親水性繊維として、水の遠心保持量が0.7g/ g以下の親水性繊維を用いた場合に拡散性を向上させる場合においては、親水性繊維からなる繊維集合体の繊維密度を適宣調整したり、比表面積の高い極細パルプ、例えば、広葉樹パルプを少量配合することが好ましい。
拡散性に勾配を持たせる方法としては、吸収体表面よりもポリマー近傍の繊維密度を高めたり、ポリマー近傍に上述の、比表面積の高い極細パルプ、例えば、広葉樹パルプを少量配合したりして、拡散勾配を形成させる。
【0035】
水の遠心保持量が0.7g/ g以下の親水性繊維と高吸水性ポリマーとが複合化された吸収体を得るには、乾式法及び湿式法などその方法は限定されない。
例えば乾式法においては、該親水性繊維を空気中で積繊し、その後その繊維集合体上に高吸水性ポリマーを散布、もしくは該親水性繊維と高吸水性ポリマーを混合しながらシート状に積繊して製造する。またシート状態の乾燥及び湿潤強度を得るため、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル繊維や、それらの複合繊維からなる、熱融着性繊維を、該親水性繊維と混合積繊し、その後、熱処理等により熱融着繊維を互いに接着して製造することや、アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の結合剤を噴霧・乾燥することにより、乾燥及び湿潤強度のあるシート材料を得ることができる。
【0036】
湿式法で得る方法としては、親水性繊維を水中で分散し、その後該親水性繊維を抄紙ワイヤーで、シート状態に積繊し、ドライヤーで乾燥する前の湿潤したシートの上に高吸水性ポリマーを散布する事で、高吸水性ポリマーがシートから吸水し、粘着性を発現し、さらに別のシート材料を重ね合わせ、ドライヤーで乾燥する事で、高吸水性ポリマーが該親水性繊維に接着乾燥した、シート材料を得る方法などがある。特に、湿式法で得る方法の場合においては、吸水性ポリマー近傍の繊維が、ポリマーの含水による粘着性の発現及び、その後乾燥する事により、ポリマーの周りに集められ、より繊維密度が高くなり、自動的に繊維の拡散勾配ができ、より好ましい製法である。
また、水の遠心保持量が0.7g/ g以下の親水性繊維と水に膨潤しない合成繊維を親水化処理した繊維とを組み合わせて拡散勾配を持たせても良い。
【0037】
本発明において、吸収層(吸収体)4の占有容積V0 と、該吸収層(吸収体)4を生理食塩水で膨潤させた後に遠心脱水したときの生理食塩水保持量V1 (g)との比(V1 /V0 )が1g/cm3 以上であることが好ましい。この占有容積V0 と生理食塩水保持量V1 との比(以下、容積保持量比Pという)は、1.5g/cm3 以上であることがより好ましく、高ければ高い程好ましい。
容積保持量比Pが1g/cm3 以上であると、吸収層(吸収体)の保持絶対量が充分で、繊維集合体の繊維間もしくは発泡体中の吸収空間に体液が残留することを効果的に防止でき、漏れが生じたり、蒸気として発散することを、より一層防止することができる。
【0038】
吸収層の占有容積V0 (cm3 )は、吸収層の2.5g/cm2 の荷重下における占有容積を意味し、吸収層の2.5g/cm2 荷重下における厚みと該吸収層の占有面積(平面積)とを乗じて得られる。また、吸収層を生理食塩水で膨潤させた後に遠心脱水したときの生理食塩水保持量V1 は、具体的な測定法を後述するが、該吸収層中に完全に固定できる生理食塩水の保持量(g)を求めたものである。容積保持量比Pが1g/cm3 以上であると、該吸収層中の体液の流れが理想化されていれば、該吸収層の占有容積V0 に吸収された体液を、高吸水性ポリマーで吸収保持できる。
【0039】
生理食塩水保持量V1 は、その吸収性物品の用途や製品サイズによっても異なるが、例えば生理用品においては、吸収体の生理食塩水保持量V1 を、吸収体の面積(平面積)で除した、吸収体(吸収層)1m2 当たりの吸収保持量が、1000g/ m2 以上が好ましく、2000g/ m2 以上がより好ましい。
【0040】
本発明において、吸収層(吸収体)4は、その厚みが2.5mm以下であることが好ましい。
吸収層の厚みが2.5mm以下であると、装着時の違和感をより低減させることができ、また、吸収性物品の単位容積が減少するので吸収体からの蒸気発散量が減少し、着装内の湿度上昇やムレを一層低減ないし防止することができる。尚、吸収性能とのバランス等を考慮すると、吸収層の厚みの下限値は0.5mm程度である。尚、吸収層の厚みは、2.5g/cm2 の荷重下において測定する。
【0041】
本実施形態の生理用ナプキン1における吸収体4は、図1及び2に示す如く、着用時に着用者の排泄部に配される部分に肉厚部4aを有している。より具体的には、排泄部に配される中央部に肉厚部4aを有しており、該肉厚部4aによりナプキン1の上面(肌当接面P)に隆起部が形成されている。
肉厚部4aにおける吸収体4の厚みW1は1.5〜2.5mmと薄型であることが好ましく、該肉厚部4bの周辺部における吸収体4の厚みW2は0.5〜2.0mmであることがより好ましい。また、厚みW2に対する厚みW1の比(W1/W2)は、1.5〜4であることが好ましい。
吸収材料を排泄部に偏在化させることで、排泄された体液を広がらせず、中央部分で集中して吸収可能となる。これにより、吸収体が吸収する面積がより小さいものとなり、湿度上昇も少なく、また周辺部をより薄くすることで、湿度/ 温度の発散がより効果的となり得る。
【0042】
肉厚部4aの面積は、吸収体4の肌当接面P側の面(上面)の全面積に対して10〜50%であることが好ましい。肉厚部4aの形状及び寸法は、吸収性物品の用途に応じて適宜に決定することができるが、長さ方向がナプキンの長手方向と一致する縦長の形状が好ましく、その寸法は、例えば昼用のレギュラーサイズナプキンである、製品長180〜260mmのサイズにおいては、幅20〜50mm、長さ60〜150mmとすることが好ましく、夜用サイズの製品長260〜350mmのサイズにおいては、幅20〜50mm、長さ100〜250mmとすることが好ましい。
【0043】
バックシート(防漏層)3は、水蒸気透過性であることが好ましい。防漏層を水蒸気透過性とすることにより、運動等による着用者の発汗に起因する水蒸気を防漏層を介して外部に効率的に発散でき、吸収体がその殆どの体液を吸収保持することが可能であることの相乗効果により、着装内の湿度上昇及びそれによるムレの発生を効果的に防止できる。また、吸収体も薄型の場合、着装内にこもった温度も放出しやすく、温度/ 湿度を快適に保つ吸収性物品の構造となる。
【0044】
バックシート(防漏層)3の水蒸気透過性の程度は、JIS Z0208に従い測定された透湿度(以下、透湿度というときは、この方法により測定されたものをいう)が、0.3g/(100cm2 ・hr)以上、特に0.7g/(100cm2 ・hr)以上、更には1.0〜5.0g/(100cm2 ・hr)であることが、着装内の湿度上昇防止の点から好ましい。
水蒸気透過性とする場合の防漏層の形成材料としては、防水性があり水蒸気透過性を有していれば特に限定されないが、ポリエチレンやポリプロピレンもしくはそれら混合物からなる疎水性の熱可塑性樹脂に、炭酸カルシウムや硫酸バリウム等からなる微小な無機フィラーを溶融混合して、フイルムを製膜し、該フイルムを1軸又は2軸延伸して得られる多孔性のフイルムや、サイズ処理のされた防水紙や、メルトブローン等の製法により得られる疎水性の微細な熱可塑性繊維からなる不織布や、それら多孔性のフイルム、防水紙、疎水性の微細な熱可塑性繊維からなる不織布の複合シート等が挙げられる。
【0045】
通常、尿等の排泄液の表面張力は50〜60mN/mであり、血液の表面張力は約50mN/m程度であるが、生理用ナプキン等においては、極稀に非常に表面張力の低い経血が排泄される場合がある。また、使い捨てオムツなどの場合においても、表面材や吸収体の構成素材に、界面活性剤を材料に付着させ親水性をより高める等の処理を行ったときに、多量に排泄された尿等に界面活性剤が溶解し、その尿の表面張力を低下させる場合がある。
このような、表面張力が非常に低い尿や経血等の液が、吸収体に吸収された場合、防漏層に透湿バックシートを用いていると、その透湿シートの微細孔に液が浸透し、外部に染み出して漏れる場合がある。
上述した特表平10−508521号に記載の技術は、透湿バックシートを通しての液の染み出しを防止した技術であるが、透湿バックシートの物理的な厚みや構造により染み出しを防止するもので、バックシートが2枚必要であり、加工原反が増えて加工機が複雑化したり、コストアップになるのみならず、表面張力の低い経血等が排泄された場合には、液が外部に染み出す恐れがある。更に、上述したように体液の排泄量が多い場合、水蒸気が生じてムレが生じ易い。
【0046】
水蒸気透過性の防漏層は、吸収性物品が吸収保持すべき排泄液の表面張力が極めて低い場合においても、液が防漏層の微細孔に浸透して外部に染み出さないようにする観点から、その濡れ張力が37mN/m以下であることが好ましく、35mN/m以下がより好ましい。ここで、防漏層の濡れ張力とは、防漏層を構成するシート材を水平面上に載置し、上方から所定の表面張力を有する試験液を滴下させたとき、その試験液が裏面側に染み出さない試験液の内の最低の表面張力を有する試験液の表面張力の値を意味し、具体的な測定方法については、実施例において後述する。
このような濡れ張力の低い防漏層は、例えば、炭酸カルシウムや硫酸バリウム等の無機フィラーを熱可塑性樹脂に混合し、製膜延伸して得られた多孔性フィルムを用いる場合、無機フィラーを熱可塑性樹脂に均一に分散させるための分散剤として、より表面エネルギーの低い親油性の分散剤を用いることにより得ることができる。尚、水蒸気透過性の防漏層は、複数枚のシート材から構成されていても良いが、一枚のシート材からなることが好ましい。
【0047】
トップシート(表面層)2の形成材料としては、不織布タイプや、フイルムに開孔を施した開孔フィルム等、従来吸収性物品に使用されている各種のものを特に制限されずに使用することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン−ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン−ポリプロピレン複合繊維やそれらを混合して、不織布を製造し、立体的な開孔処理を施した開孔不織布が好ましい。開孔フィルムは、着用者の皮膚との接触面積が大きく、未開孔部分は通気性を有していないのに対し、不織布を開孔処理したものは、不織布の未開孔部分でも、繊維間の部分が通気性を有しており、しかも立体的に開孔する事で、表面材の開孔側部の平面方向においても通気性が有るため、着装内の湿度上昇及びそれによるムレの発生をより効果的に抑制することができる。
【0048】
従来、不織布からなる表面材は、開孔フィルムと比較して、不織布中に吸収体からの液戻りにより、液が染みやすく漏れ易いといったような、欠点を有していたが、本発明においては、吸収層に吸収された体液の殆どがポリマーで吸収保持され、表面層への液戻りが極めて少ないので、従来の不織布タイプの欠点は解決される。
本発明は、生理用ナプキンの他、使い捨てオムツ、失禁パッド、パンティライナー等に適用することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を、実施例及び比較例に基づき更に説明する。
<高吸水性ポリマーA>
攪拌機、還流冷却機、滴下濾斗及び、窒素ガス導入管を備えた、500mlの4つ口丸底フラスコに、シクロヘキサン230ml及び、ソルビタンモノステアレート〔商品名;レオドールSPS-12、花王(株)製〕1.4gを仕込み、攪拌して均一溶液とした。これとは別に三角フラスコで、アクリル酸モノマー30gを、水39gに溶解したカセイソーダ13.4gで中和してモノマー濃度が45%(水分量55%)のモノマー水溶液を得た。
次いで、このモノマー水溶液中に過硫酸カリウム0.1gを加えて溶解した。得られたモノマー水溶液を、シクロヘキサン等を仕込んだ上記4つ口丸底フラスコ中に、窒素雰囲気下に滴下した後、これを70〜75℃に昇温させ、重合を開始させた。次いで、共沸脱水(シクロヘキサンは還流)により、シクロヘキサン中に懸濁しているポリマー中の水分量を35%にコントロールした。この後、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03gを、水1mlに溶解した水溶液を73℃で添加し、この温度下に2時間保持した後、シクロヘキサンを除去し、得られたポリマーを80〜100℃で減圧下に乾燥し、高吸水性ポリマーAを得た。この高吸水性ポリマーAは、表面に架橋密度勾配を有しており、粒子表面が不定形であり、生理食塩水に対する遠心保持量が33g/ gである。
【0050】
<高吸水性ポリマーB>
高吸水性ポリマーAの製造に用いたものと同じ4つ口丸底フラスコに、シクロヘキサン230ml及び、エチルセルロース〔商品名;N −200、ハーキュリーズ ファーイースト(株)製〕1.94gを仕込み、攪拌して均一溶液とした。また、高吸水性ポリマーAの製造に用いたアクリル酸のモノマー水溶液と同一同量のモノマー水溶液を用意した。
次いで、上記の4つ口丸底フラスコ中の溶液温度を70〜75℃に昇温し、これにモノマー水溶液を、窒素雰囲気下に1.5時間かけて滴下した後、これを70〜75℃に0.5時間保ち、重合を終了させた。その後、シクロヘキサンを除去し、得られたポリマーを80〜100℃で減圧下に乾燥して、高吸水性ポリマーBを得た。この高吸水性ポリマーBは、架橋密度勾配は有しておらず、粒子が球形であり、生理食塩水に対する遠心保持量が28g/ gである。
【0051】
<吸収体A>
繊維直径15μm(2.2dtex)の鞘/芯=ポリエチレン/ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)の芯鞘複合繊維に、アルキルフォスフェートとソルビタン脂肪酸エステルとを1対1に混合した界面活性剤を、繊維に対して0.4重量%に付着させて水で膨潤しない親水性繊維を得、該親水性繊維100%からなるクレム吸水度10mm、坪量20g/m2 のサクションヒートボンド不織布(表面繊維層)を製造した。
次いで、直鎖低密度ポリエチレン〔エチレン・1オクテン共重合体 三井石油化学(株)製〕中に、親水化界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート〔エチレンオキサイド付加モル数6、花王(株)製〕を1重量%混合し、これを溶融噴出し法(メルトブローン法)により、平均繊維直径8μmの水で膨潤しない繊維として、上記サクションヒートボンド不織布上に坪量30g/m2 で積層させ、2種類の不織布からなる積層シートを得た。尚、サクションヒートボンド不織布上に形成されたメルトブローン不織布(内部繊維層)のクレム吸水度は55mmであった。そして、積層シートにおけるメルトブローン不織布側に、高吸水性ポリマーAを、坪量40g/m2 で散布し、更に、高吸水性ポリマーA上に、前記メルトブローン不織布を形成したのと同様にして、親水化剤を内添した前記直鎖低密度ポリエチレン繊維(平均繊維直径8μm)を坪量30g/m2 で吹き付け、トータル坪量120g/m2 のポリマーシートAを得た。
別途、親水化剤を内添した前記直鎖低密度ポリエチレン繊維(平均繊維直径8μm)を、溶融噴出し口からネット上に堆積するまでの間に、繊維と同量の高吸水性ポリマーAを混合させて堆積させ、トータル坪量80g/m2 (内高吸水性ポリマーAの坪量40g/m2 )のポリマーシートBを製造した。
そして、ポリマーシートAを、長さ175mm幅140mmの寸法に切り出すと共に、ポリマーシートBを、長さ80mm幅35mmの寸法に2枚切りだし、図1及び2に示す吸収体4の如く、ポリマーシートAを、サクションヒートボンド不織布側を表面側として、図2中のシート41のように幅方向に折りたたむと共に、ポリマーシートAの中央部に、図2中のシート42のようにポリマーシートBを2枚積層して配置し、吸収体を得た。これを吸収体Aとした。
【0052】
<吸収体B>
吸収体Aに用いたポリマーシートAを、長さ175mm幅140mmの寸法に切り出すと共に、吸収体Aに用いたポリマーシートBを、長さ175mm幅70mmの寸法に切り出した。そのポリマーシートAを、そのサクションヒートボンド不織布側が表面側となるように幅方向に折りたたんで二層とし、その二層間にポリマーシートBを介在させて、吸収体とした。これを吸収体Bとした。
【0053】
<吸収体C>
水の遠心保持量が1.1g/ gの木材化学パルプ(商品名;NB-416L 、ウエハウザー(株)〕100gを、架橋剤として、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素〔商品名;Sumitex ResinNS-19、住友化学工業(株)製〕を5重量%、金属触媒〔商品名;SumitexAccelerator X-110 、住友化学工業(株)製〕を3重量%含んだ架橋剤水溶液1000gに分散させて、上記架橋剤水溶液の量が、木材パルプ重量に対し、200重量%になるまで脱液し、電気乾燥機中に135℃で10分間加熱し、パルプ中のセルロースの分子間及び分子内を架橋して架橋パルプAを得た。得られた架橋パルプAの水の遠心保持量は0.35g/gであった。
また、水の遠心保持量が、1.3g/ gの広葉樹木材パルプLBKP〔商品名;PRIME ALBEAT ASPEN HANDWOOD、ウエハウザー(株)〕100gを、同様の手順にて、架橋処理して、架橋パルプBを得た。得られた架橋パルプBの水の遠心保持量は0.45g/gであった。
架橋パルプAと高吸水性ポリマーAを1対1で空気中にて混合積繊し、坪量90g/m2 のシートを得、更に、アクリル酸エステル共重合体〔商品名;モビニール710、ヘキスト合成(株)製〕をシート全体に実分で10g/m2 噴霧・圧縮・乾燥し、トータル坪量100g/m2 のポリマーシートC(内部繊維層)を得た。このシートのクレム吸水度は43mmである。
架橋パルプAと架橋パルプBと高吸水性ポリマーAを、4対1対5で空気中にて混合積繊し、坪量90g/m2 のシートを得、更に、アクリル酸エステル共重合体〔商品名;モビニール710、ヘキスト合成(株)製〕をシート全体に実分で10g/m2 噴霧・圧縮・乾燥し、トータル坪量100g/m2 のポリマーシートDを得た。このシートのクレム吸水度は50mmである。
得られたポリマーシートCと、吸収体Aの製造に用いたのと同じクレム吸水度10mm、坪量20g/m2 のサクションヒートボンド不織布(表面繊維層)とを積層し、得られた積層シートを長さ175mm幅140mmの寸法に切り出すと共に、ポリマーシートDを、長さ80mm幅35mmの寸法に切り出し、図1及び2に示す吸収体4の如く、切り出した積層シートを、そのサクションヒートボンド不織布側が表面側となるように、図2中のシート41のように幅方向に折り畳むと共に、その中央部に、積層シート間に介在させるようにポリマーシートDを一枚配置し、吸収体を得た。これを吸収体Cとした。
【0054】
<吸収体D>
架橋パルプAとポリビニルアルコール繊維〔商品名;フィブリボンド 三昌(株)〕とを97対3の比率で水中に分散させて混合し抄紙ネットで抄造乾燥して、クレム吸水度50mm、坪量35g/m2 の湿式不織布A(内部繊維層)を得た。湿式不織布Aのものと同組成のスラリーより、乾燥した時の坪量が25g/m2 となるように抄紙ネットでウェブを抄造し、乾燥前の湿潤したウェブ上に、高吸水性ポリマーAを坪量40g/m2 となるように均一に散布し、更にそのポリマーAの上に湿式不織布Aを貼り合わせた後、乾燥ドライヤーにて圧縮乾燥して一体化し、トータル坪量100g/m2 のポリマーシートFを得た。
また、架橋パルプAと架橋パルプBと上記のポリビニルアルコール繊維を、87対10対3の比率で水中に分散させて混合し、抄紙ネットで抄造乾燥して、クレム吸水度55mm、坪量30g/m2 の湿式不織布Bを得た。湿式不織布Bのものと同組成のスラリーより、乾燥した時の坪量が20g/m2 となるように抄紙ネットでウェブを抄造し、乾燥前の湿潤したウェブ上に、高吸水性ポリマーAを坪量50g/m2 となるように均一に散布し、更にそのポリマーAの上に湿式不織布Bを貼り合わせた後、乾燥ドライヤーにて圧縮乾燥して一体化し、トータル坪量100g/m2 のポリマーシートGを得た。
得られたポリマーシートFを、長さ175mm幅140mmの寸法に切り出すと共に、ポリマーシートGを、長さ80mm幅35mmの寸法に2枚切りだし、図1及び2に示す吸収体4の如く、切り出したポリマーシートFを、図2中のシート41のように幅方向に折りたたむと共に、ポリマーシートFの中央部に、図2中のシート42のようにポリマーシートGを2枚積層した。更に、ポリマーシートGを中央部に含んだポリマーシートFの肌当接面側に、吸収体Aに使用したクレム吸水度10mmのサクションヒートボンド不織布(表面繊維層)を長さ175mm幅70mmで切り出し積層し、吸収体を得た。これを吸収体Dとした。
【0055】
<吸収体E>
水の遠心保持量が1.1g/ gの木材化学パルプ〔商品名;NB-416L 、ウエハウザー(株)〕と高吸水性ポリマーAとを、空気中で1対1で空気中にて混合積繊し、坪量90g/m2 のシートを得、更に、アクリル酸エステル共重合体〔商品名;モビニール710、ヘキスト合成(株)製〕をシート全体に実分で10g/m2 噴霧・乾燥し、トータル坪量100g/m2 のポリマーシートHを得た。このシートのクレム吸水度は40mmである。
得られたポリマーシートHを、長さ175mm幅140mmの寸法に1枚及び、長さ80mm幅35mmの寸法に2枚切り出し、図1及び2に示す吸収体の如く、大きい一枚のポリマーシートHの中央部に、小さい2枚のポリマーシートHを積層して吸収体を得た。これを吸収体Eとした。
【0056】
<吸収体F>
水の遠心保持量が1.3g/ gの木材化学パルプ〔商品名;SKEENA PRIME,スキーナセルロース社(Skeena Cellulose Co.)〕を、水中に分散させて混合し、抄紙ネットで抄造乾燥して、クレム吸水度30mm、坪量18g/m2 の湿式吸収紙を得た。得られた吸収紙を、長さ175mm幅70mmの寸法にカットし、その吸収紙の上に、高吸水性ポリマーBを、長さ175mm幅70mmに坪量40g/m2 でほぼ均一に散布し、更に、吸収体Eに用いた水の遠心保持量1.1g/ gの木材化学パルプを、長さ175mm幅70mm坪量200g/m2 で、空気中で積繊し、更にさらに、長さ175mm幅140mmでカットした上述の湿式吸収紙で、上述したパルプ、高吸水性ポリマーB、吸収紙を包み込んで圧縮一体化したものを、吸収体Fとした。
【0057】
<吸収体G>
吸収体Fで用いた水の遠心保持量1.3g/ gの木材化学パルプと、吸収体Bで用いた架橋パルプAとを、80対20の比率で水中に均一に分散させて混合し、抄紙ネットで抄造乾燥して、クレム吸水度35mm、坪量45g/m2 の湿式吸収紙を得た。この湿式吸収紙のものと同組成のスラリーより、乾燥した時の坪量が45g/m2 となるように抄紙ネットでウェブを抄造し、乾燥前の湿潤したウェブ上に、高吸水性ポリマーBを坪量10g/m2 となるように均一に散布し、更にそのポリマーBの上に、予め抄紙した湿式吸収紙を貼り合わせて圧縮乾燥一体化し、トータル坪量100g/m2 のポリマーシートを得た。ポリマーシートを、長さ80mm幅35mmの寸法に2枚及び長さ175mm幅140mmの寸法に1枚切りだし、図1及び2に示す吸収体の如く、大きい方のポリマーシートで、小さい方の2枚のポリマーシートを包み込んで吸収体を得、これを吸収体Gとした。
【0058】
<吸収体H>
吸収体Fで用いた水の遠心保持量1.3g/ gの木材化学パルプを、水中に均一に分散させて混合し、抄紙ネットで抄造乾燥して、クレム吸水度30mm、坪量18g/m2 の湿式吸収紙を得た。得られた吸収紙を、長さ175mm幅70mmの寸法にカットし、その吸収紙の上に、高吸水性ポリマーBを、長さ175mm幅70mmに坪量10g/m2 となるようにほぼ均一に散布し、更に、吸収体Eに用いた水の遠心保持量1.1g/ gの木材化学パルプを、長さ175mm幅70mm坪量300g/m2 で、空気中で積繊し、更に、長さ175mm幅140mmの寸法にカットした、吸収体Aで使用した坪量20g/m2 、クレム吸水度10mmのサクションヒートボンド不織布で、上述したパルプ、吸水性ポリマーB、及び吸収紙を包み込んで圧縮一体化したものを吸収体Hとした。
【0059】
上述のようにして得られた各吸収体A〜Hに関して、用いた親水性繊維の種類、用いた高吸水性ポリマーの種類、各吸収体中における水に膨潤しない親水性繊維又は水の遠心保持量0.7g/ g以下の親水性繊維の含有率(表1中、「吸収体中の親水性繊維の含有率」と表記)、各吸収体中における高吸水性ポリマーの含有率、吸収体表面から高吸水性ポリマーにかけての繊維集合体の拡散勾配の有無(クレム吸水度の勾配の有無)、吸収体の中央部(肉厚部)の厚み、吸収体の中央部以外(周辺部)の厚み、吸収体の占有容積V0 、吸収体の生理食塩水保持量V1 、及び容積保持量比P(=V1/V0)を、表1に纏めて示した。
【0060】
【表1】

【0061】
1.親水性繊維又は親水性発泡体の「水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量(水の遠心保持量)」、2.吸収体の厚み、3.吸収体の占有容積V0、及び4.吸収体の生理食塩水保持量V1 及び容積保持量比Pは、それぞれ以下に示す方法により測定した。
【0062】
<水の遠心保持量の測定>
測定は20℃65%の恒温恒湿の部屋で行う。繊維や発泡体の親水性材料サンプルを1g量り取り、ナイロンメッシュ(250メッシュ)からなる袋の中にサンプルを入れ、イオン交換水500mlの入ったビーカー中に入れ30分間放置した。その後、遠心分離機〔国産遠心器(株)製のH-130C(商品名)〕にて、ビーカーから取り出したサンプルが入った袋を2000回転/分(895G の遠心加速度)で10分間回転させて遠心脱水した。そして、遠心脱水後のサンプル重量を測定し、以下に示す式から「水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量(水の遠心保持量)」を求めた。
水の遠心保持量(g/ g)=〔遠心分離後のサンプル重量―初期のサンプル重量〕/初期のサンプル重量
【0063】
高吸水性ポリマーA及びBの生理食塩水に対する遠心保持量は、繊維や発泡体の親水性材料サンプル及びイオン交換水を、ポリマー及び生理食塩水〔大塚製薬(株)〕にそれぞれ代える以外は、水の遠心保持量の測定方法と同様にして測定した。尚、上記の温室度下では、高吸水性ポリマーは吸湿して重量が増加するので、その初期サンプル重量は、密閉したポリマーの容器のなかから素早く採取して秤量した。
【0064】
<吸収体の厚みの測定>
吸収体の上面に荷重面積3cm2 (半径9.8mmの円板)及び2.5g/cm2 の測定荷重で、厚み計〔PEACOCK DIAL GAUGE,尾崎製作所(株)〕で、厚みLを測定した。
【0065】
<吸収体の占有容積V0の測定>
吸収体の2.5g/cm2 の荷重下の厚みL(cm)と、吸収体の占有面積(平面積,cm2 )の積により、吸収体の占有容積V0(cm3 )を求めた。
【0066】
<生理食塩水保持量V1 及び吸収体の容積保持量比Pの測定>
測定は20℃65%の恒温恒湿の部屋で行う。吸収体をナイロンメッシュ(250メッシュ)からなる袋の中に入れ、袋ごと、生理食塩水〔大塚製薬(株)〕3000mLの入ったビーカー中に入れ30分間そのままに放置した。その後、ビーカーからサンプルの入った袋を取り出し、遠心分離機〔国産遠心器(株)製のH-130C(商品名)〕にて、サンプルが入った袋を2000回転/分(895G の遠心加速度)で10分間回転させて遠心脱水した。
遠心脱水後のサンプル重量を測定し、以下に示す式から「生理食塩水で膨潤させた後に遠心脱水したときの生理食塩水の保持量(生理食塩水保持量)」を求めた。生理食塩水保持量V1(g)=遠心分離後のサンプル重量(g)―初期のサンプル重量(g)
そして、得られた生理食塩水保持量V1(g)を、上述のようにして測定したその吸収体の占有容積V0(cm3 )で除して、容積保持量比P(g/cm3 )を求めた。
【0067】
〔第1発明の実施例及び比較例〕
上述のようにして得られた吸収体A〜Hを用い、以下のようにして、第1発明の実施例としての吸収性物品1〜4(本発明品1〜4)と、比較例としての吸収性物品1〜4(比較品1〜4)を製造した。
【0068】
<実施例としての吸収性物品1の製造>
図1、2に示す如く、吸収体4に吸収体Aを用い、トップシート2としてPET/PE芯鞘複合繊維からなる坪量25g/m2 のサクションヒートボンド不織布に、開孔率10%で、孔あたりの開孔直径が0.8mmである開孔処理を施した開孔不織布を、吸収体4の上に重ね合わせ、表面シートと吸収体を、図1に示すようなパターン12を有した熱ロールに通し、表面シートと吸収体をヒートシール12により一体化した。その両サイドに、撥水性のPET/PE芯鞘複合繊維からなる坪量20g/m2 のスパンボンド不織布からなる防漏シート6を2重にして積層した後、同様に熱ロールに通して、防漏シート6とトップシート2と吸収体4をヒートシール11により一体化した。その後、吸収体4の非肌当接面側中央部に、幅50mm長さ150mm坪量5g/m2 で、スパイラル状塗布したホットメルト5と、その両側に、幅1mm長さ150mm坪量150g/m2 で、ビード状に塗布したホットメルト5を塗布し、更に、坪量25g/m2 のポリエチレンバックシート3を重ね合わせた。その後、吸収体4の周囲をヒートシール13により接着し、防漏シート6とトップシート2とバックシート3を一体化し、図1に示す形状に、長さ200mm幅95mmでカットした。更に、バックシート3の非肌当接面側には、ズレ止め用の粘着剤7として、長さ150mm、幅20mm、坪量30g/m2 でホットメルト粘着剤を二本帯状に塗工し、これを幅60mm長さ170mmの剥離シート8で覆い、実施例としての吸収性物品(生理用ナプキン)1を得た。
【0069】
<実施例としての吸収性物品2〜4及び比較例としての吸収性物品1〜4の製造>
吸収体Aの代わりに吸収体B〜Dを用いた以外は、吸収性物品1の製造と同様にして、実施例としての吸収性物品2〜4を得た。また、吸収体Aの代わりに吸収体E〜Hを用いた以外は、吸収性物品1の製造と同様にして、比較例としての吸収性物品1〜4を得た。
【0070】
得られた各吸収性物品について、「生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率(液保持固定化率)」、吸収性物品のモレ防止性能(モレ発生数)、及び液戻り量を、それぞれ以下に示す方法により測定、評価し、それらの結果を表2に示した。
【0071】
【表2】

【0072】
以下に、生理食塩水の固定化率(液保持固定化率)、吸収性物品のモレ防止性能(モレ発生数)、及び液戻り量の測定及び評価方法を説明する。
<液保持固定化率>
測定は20℃65%の恒温恒湿の部屋で行う。図4に示す如く、吸収性物品を水平におき、直径10mmの注入口のついた図3に示すアクリル板15をのせ、更に試験用の生理用ナプキンに、吸収体の面積に対して5g/cm2 の荷重がかかるように、重り16,16をのせる。次いで、注入口から生理食塩水〔大塚製薬(株)〕10gを、10mlのビーカーにより約2秒間で注入し、液が完全に吸収されてから、アクリル板を載せたまま5分間放置する。その後、吸収性物品が折れ曲がることなく入る寸法のナイロンメッシュ(250メッシュ)からなる袋の中にサンプルを入れる。吸収性物品に吸収された生理食塩水の中で、吸収体に完全に固定されていない生理食塩水が遠心分離できるように、吸収性物品のトップシート側を外側に向けて(吸収体からトップシート側に遠心加速度がかかるように)、遠心分離機に設置する。遠心分離機〔国産遠心器(株)製のH-130C(商品名)〕にて、サンプルが入った袋を2000回転/分(895Gの遠心加速度)で10分間回転させて遠心脱水した。その後のサンプル重量を測定し、以下に示す式から、生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率(液保持固定化率)を求めた。
液保持固定化率(%)=〔(C −A )/(B −A )〕×100
A=吸収性物品の初期重量(g)
B= 生理食塩水(10g)注入後の吸収性物品の重量(g)
C= 遠心分離後の吸収性物品の重量(g)
【0073】
<モレ防止性能(モレ発生数)の測定>
得られた各吸収性物品を、それぞれ、試験サンプル80とし、図5に示すように、可動式女性腰部モデル90に装着し、ショーツをはかせた後、腰部モデル90を100歩/分の歩行速度で10分間歩行運動させた。その後、チューブ91により脱繊維馬血〔日本バイオテスト研究所(株)製〕を歩行運動をさせながら4g/分の速度で5g注入した。その後、20分歩行運動を継続させ、更に脱繊維馬血を歩行運動させながら4g/分の速度で3g(計8g)注入して、20分歩行運動させた。更に脱繊維馬血を4g/分の速度で3g(計11g)注入して、20分歩行させた。それぞれ、5g注入20分歩行後、計8g注入20分後、及び計11g注入20分後のそれぞれの時点で、サンプル数10枚中のうち、モレが発生した枚数を数えた。
【0074】
<液戻り量の測定>
得られた各吸収性物品を、それぞれ、試験サンプル80として、図4に示す如く、表面シートを上に向けて水平におき、直径10mmの注入口のついた図3に示すアクリル板15をのせ、更に試験用の生理用ナプキンに、吸収体の面積に対して5g/cm2 の荷重がかかるように、重り16,16をのせる。次いで、注入口から上記の脱繊維馬血6gを、10mlのビーカーにより約2秒間で注入し、液が完全に吸収されてから、アクリル板15を載せたまま5分間放置する。
その後、幅75mm長さ195mmにカットした坪量30g/m2 からなる吸収紙(針葉樹化学パルプ100%)を10枚、試験用の生理用ナプキン80の肌当接面側に重ね、そのまま、生理用ナプキン80を、図5に示す可動式女性腰部モデル90に装着させショーツをはかせた後に、100歩/分の歩行速度で10分間歩行運動させた。10分間の歩行終了後、試験用の生理用ナプキン80と吸収紙10枚を取りだし、吸収紙に吸収された血液量を求める事により、生理用ナプキンの表面から戻った血液の戻り量を求めた。各サンプルを5枚ずつ測定し、その平均値を求めて液戻り量とした。
【0075】
表2の結果に示す如く、本発明の実施例としての吸収性物品(本発明品)1〜4は、水に膨潤しない親水性繊維もしくは水の遠心保持量が0.7g/ g以下である親水性繊維と高吸水性ポリマーとを含み、且つ生理食塩水を吸収保持させた時に90%以上の生理食塩水が吸収性物品に完全に吸収保持されており、自由な液が少ない。
その結果、薄型でありながら、モレ発生数や、表面への液戻り量が少なく、ベタツキやムレの少ない快適な状態であることがわかる。これは、特定の親水性繊維と高吸水性ポリマーとを、所定の組み合わせ及び配合処方で構成し、表面材に吸収されてから、高吸水性ポリマーまで液の流れを理想化している結果である。
これに対して、比較例としての吸収性物品(比較品)1〜4は、生理食塩水の固定化率が80%以下と低く、モレ発生数や液戻り量も多い。
【0076】
<第1及び第2発明の実施例としての吸収性物品5(本発明品5)の製造>
吸収性物品1において、使用した非透湿のバックシートに代えて、炭酸カルシウム50重量%とポリエチレン50重量%とを溶融混合し、フイルムを製膜し2軸延伸した多孔性透湿バックシート(透湿度1.7g/(100cm2 ・hr)を使用した以外は、吸収性物品1と同様にして吸収性物品を製造し、本発明の実施例としての吸収性物品5を得た。
【0077】
<第1及び第2発明の実施例としての吸収性物品6(本発明品6)の製造>
吸収性物品4において、使用した非透湿のバックシートの代えて、上述した多孔性透湿バックシート(透湿度1.7g/(100cm2 ・hr)を使用した以外は、実施例としての吸収性物品4と同様の材料を用いて同様に吸収性物品を製造し、本発明の実施例としての吸収性物品6を得た。
【0078】
<比較例としての吸収性物品5の製造(比較品5)>
比較例としての吸収性物品4(比較品4)において、使用した非透湿のバックシートの代えて、上述した多孔性透湿バックシート(透湿度1.7g/(100cm2 ・hr)を使用した以外は、比較例4としての吸収性物品4と同様の材料を用いて同様に吸収性物品を製造し、比較例としての吸収性物品5を得た。
【0079】
上記の如くして得られた吸収性物品〔実施例としての吸収性物品5,6(本発明品5,6)及び比較例としての吸収性物品4,5(比較品4,5)〕について、着用中における温湿度上昇抑制効果を調べるために、下記に示す方法にて、液を吸収させた時の温湿度変化を調べ、その結果を表3に示した。
【0080】
【表3】

【0081】
<温湿度の測定>
30℃65%相対湿度の恒温恒湿環境下において測定する。左記環境湿において、被験者は上半身裸体になり、うつ伏せの状態にて30分安静にする。そして、試験サンプル(吸収性物品)の吸収中央部に、生理食塩水3gを注入し、10分間放置したサンプルを、サンプルの吸収面(肌当接面)側が被験者の背中側になるように設置する。吸収性物品と肌との間に、温湿度センサー〔商品名;本体データ−ストッカー TRH-DM2 センサー部;専用プローブ THP-28 神栄(株)製〕のプローブセンサーを挟み込み、吸収性物品の周りは、湿度が発散しない様に、粘着テープで密閉した。その後、2時間安静にし、2時間後の吸収性物品と肌との間の温湿度を測定し、その結果を表3に示した。
【0082】
表3に示す如く、非透湿BS(バックシート)を用い、生理食塩水の固定化率が低い比較品4の場合には、湿度が96%にもなり、また比較品4と同じ吸収体を用い、透湿BSに変更した比較品5においても湿度が約10%程下がる程度である。これに対して、本発明品5,6のように、透湿性バックシートを用い、生理食塩水の固定化率が高い場合には、湿度を70%程度まで下げることができ、温度も低く抑えられていることがわかる。表3に示す結果から、本発明によれば、温度・湿度が着装内でこもらず、ムレずに涼しげな、快適な吸収性物品を提供できることが判る。
【0083】
〔第1及び第2発明の実施例及び比較例〕
<第1及び第2発明の実施例としての吸収性物品7,8(本発明品7,8)及び比較例としての吸収性物品6,7(比較品6,7)の製造>
実施例としての吸収性物品1(本発明品1)の製造に用いた吸収体A及び非透湿バックシートの代わりに、以下に示す吸収体及び以下に示す透湿バックシートをそれぞれ用いた以外は、該吸収性物品1(本発明品1)の製造と同様にして吸収性物品を製造した。
【0084】
実施例の吸収性物品7(本発明品7);上記吸収体D、透湿バックシートA
実施例の吸収性物品8(本発明品8);上記吸収体D、透湿バックシートB
比較例の吸収性物品6(比較品6) ;上記吸収体F、透湿バックシートA
比較例の吸収性物品7(比較品7) ;上記吸収体F、透湿バックシートC
【0085】
透湿バックシートA〜Cは、それぞれ、ポリエチレンと炭酸カルシウムを溶融混合し、製膜したフィルムを2軸延伸して得たもので、炭酸カルシウムをポリエチレンに均一に分散するための分散剤を異ならせることにより、透湿度及び/又は濡れ張力を異ならせてある。
表4に、透湿バックシートA〜Cの坪量、透湿度及び濡れ張力を示す。
尚、透湿度は、JIS Z0208に準拠して測定した値、濡れ張力は、以下に示す濡れ張力の測定方法に従って測定した値である。
【0086】
【表4】

【0087】
<濡れ張力の測定方法>
防漏層(透湿シート)の濡れ張力は、JIS K6768の"プラスチックフィルム及びシートの濡れ張力試験方法"を参考とした下記方法に従って測定した。本明細書に記載されていない点については、JIS K6768に準じて測定する。
温度23℃、相対湿度50%の測定室内で評価を実施した。
防漏層として用いるシート材(透湿シート)を、縦200mm×横100mmの寸法に切りだして試験サンプルとした。尚、試験サンプルは、3ケ所の滴下ができれば、特にこの大きさである必要はない。
濡れ試験用の試験液として、ホルムアルデヒドとエチレングリコールモノエチルエーテルの2種類の試薬で作成された表面張力30〜50mN/mの範囲に調整した市販の試験液(和光純薬工業(株)製)を用意した。
【0088】
先ず、図6に示すように、水平に置かれたステンレス板(縦250mm×横150mm)上に、試験サンプルを載せた。
そして、この測定サンプル上に、表面張力50mN/mの試験液を、図に示すように、約1mlずつ3ケ所に滴下した後、3分間放置した。
滴下してから3分後に、試験サンプルをステンレス板から離し、試験サンプルを通して試験液がステンレス板側に染み出して漏れていないか評価した。
3ケ所総てにおいて漏れていない場合、試験液の表面張力を49mN/mに下げて、同様に評価した。それでも漏れない場合、順次表面張力を、1mN/mづつ下げ同様に評価し、1ケ所でも試験液が染み出し漏れるまで評価を繰り返した。
そして、試験液の漏れ出しが初めて観察された評価液の直前に使用した評価液の表面張力の値を、その防漏層(透湿シート)の濡れ張力とした。例えば、測定サンプルの染み出しによる漏れが、40mN/mの試験液まで認められず、39mN/mの試験液において初めて観察された場合、透湿シートの濡れ張力は40mN/mとした。
【0089】
実施例の吸収性物品7,8(本発明品7,8)及び比較例の吸収性物品6,7(比較品6,7)のそれぞれについて、上述した方法により、生理食塩水の固定化率(液保持固定化率)を測定し、その結果を表5に示した。
【0090】
【表5】

【0091】
<染み出しにくさの評価>
また、実施例の吸収性物品7,8(本発明品7,8)及び比較例の吸収性物品6,7(比較品6,7)のそれぞれについて、以下に示す方法により、防漏層を通しての染み出しにくさを評価した。
即ち、表面張力35mN/mの擬似血液を用いて、染み出し試験を行った。尚、試験は、温度20℃、65%湿度環境下で行った。
図7(a)に示す如く、縦230mm×横100mmにカットした濾紙(タイプ2、東洋濾紙(株)製)の上に、吸収性物品(生理用ナプキン)を試験サンプルとして重ね合わせた。
そして、重ね合わせたナプキンの中央部に、マイクロチューブポンプを用いて、表面張力35mN/mの擬似血液を、10g/分の注入速度で10g吸収させた後、1分間放置した。
放置後、図7(b)に示す如く、擬似血液を吸収させた吸収中央部上に直径60mm、厚み5mmの円径のアクリル板をのせ、更に2kgの重りをのせて3時間加圧した。3時間の加圧中における加圧開始後30分、1時間及び3時間の各時点において、濾紙に擬似血液が染み出しているかどうかを肉眼で観察した。その結果を、表5に示した。
【0092】
尚、表面張力35mN/mの擬似血液は、以下のようにして調整した。
先ず、イオン交換水1500gに、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC・Na、関東化学(株)製)5.3gを入れ、完全に溶解させた。
それとは、別にイオン交換水556gに、塩化ナトリウム27g及び炭酸水素ナトリウム12gを入れ、完全に溶解させた。得られたCMC・Na水溶液、NaCl・NaHCO3 水溶液及びグリセリン900gを撹拌混合し、更に、赤色2号(保土谷化学工業(株)製)0.3gを加えて完全に溶解させる。これに、界面活性剤アルキルグルコシド(商品名;AG−10L、花王(株)製)を、全体の活性剤濃度が0.015wt%になる様に加える(0.432g)。
得られた混合溶液の温度を20℃にし、表面張力測定を行い、35±1mN/mにあることを確認して試験溶液とした。尚、表面張力が35±1mN/mの範囲にない時は、アルキルグルコシドの濃度を若干量調整し、35±1mN/mに調整した。
【0093】
表5に示すように、比較品6,7においては、防漏層(透湿バックシート)を通して漏れが生じた。この結果から、液保持固定化率(生理食塩水の固定化率)が低いか又は防漏層の濡れ張力が所定値以下でない場合には、排泄液の表面張力が低いと防漏層を通しての液の染み出しが生じることが判る。これに対して、本発明品7,8においては、1時間の加圧後でも液の染み出しが認められなかった。特に本発明品7の防漏層の濡れ張力が37mN/m以下の場合には、3時間の加圧後でも染み出しが認められず、排泄液が低表面張力であっても防漏層を通しての染み出しが特に良好に防止されることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、本発明の吸収性物品の一実施形態としての生理用ナプキンを示す平面図である。
【図2】図2は、図1のX−X線断面を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、液保持固定化率及び液戻り量の測定に用いたアクリル板を示す(a) 側面図及び(b) 平面図である。
【図4】図4は、液保持固定化率及び液戻り量の測定方法を説明するための説明図である。
【図5】図5は、モレ防止性能(モレ発生数)の測定方法を説明するための説明図である。
【図6】図6は、濡れ張力の測定方法を説明するための説明図である。
【図7】図7は、染み出しにくさの評価方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0095】
1 生理用ナプキン(吸収性物品)
2 トップシート(表面層)
3 バックシート(防漏層)
4 吸収体(吸収層)
4a 肉厚部
4b 周辺部
5 ホットメルト粘着剤
6 防漏シート
7 粘着剤
8 剥離シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性の表面層、液不透過性の防漏層及び液保持性の吸収層を有する吸収性物品において、
前記吸収層は、水で膨潤しない親水性繊維若しくは親水性発泡体、又は水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量が0.7g/g以下である親水性繊維若しくは親水性発泡体と、高吸水性ポリマーとからなり、
前記吸収性物品に生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率が90%以上であることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記吸収層は、厚みが2.5mm以下であり、該吸収層の占有容積V0 (cm3 )と、該吸収層を生理食塩水で膨潤させた後に遠心脱水したときの生理食塩水保持量V1 (g)との比(V1 /V0 )が1g/cm3 以上である請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記防漏層は、水蒸気透過性である請求項1又は2記載の吸収性物品。
【請求項4】
水で膨潤しない前記親水性繊維若しくは前記親水性発泡体、又は水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量が0.7g/g以下である前記親水性繊維若しくは前記親水性発泡体の前記吸収層中における含有率が30〜70%であり、前記高吸水性ポリマーの前記吸収層中における含有率が30〜70%であり、且つ前記高吸水性ポリマーが、前記親水性繊維の集合体又は前記親水性発泡体中に3次元的に分散している請求項1〜3の何れかに記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記吸収層は、排泄部に配される部分に肉厚部を有し、該肉厚部における厚みが1.5〜2.5mmであり、該肉厚部の周辺部における厚みが0.5〜2.0mmである請求項1〜4の何れかに記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記吸収層は、該吸収層の表面層側の表面を形成する表面繊維層と、該表面繊維層の裏面側に積層され且つ高吸水性ポリマーを含有するか又は高吸水性ポリマーに接触させてある内部繊維層とを有し、該表面繊維層のクレム吸水度が該内部繊維層のクレム吸水度よりも小さい請求項1〜5の何れかに記載の吸収性物品。
【請求項7】
液透過性の表面層、液不透過性の防漏層及び液保持性の吸収層を有する吸収性物品において、
前記防漏層は、水蒸気透過性であり、
前記吸収性物品に生理食塩水を10g吸収させ、5分後に遠心脱水したときの該生理食塩水の固定化率が90%以上であることを特徴とする吸収性物品。
【請求項8】
前記防漏層は、その濡れ張力が37mN/m以下である請求項7記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記吸収層は、水で膨潤しない親水性繊維若しくは親水性発泡体、又は水で膨潤させた後に遠心脱水したときの水保持量が0.7g/g以下である親水性繊維若しくは親水性発泡体と、高吸水性ポリマーとからなる請求項7又は8記載の吸収性物品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−6964(P2006−6964A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218641(P2005−218641)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【分割の表示】特願2001−34407(P2001−34407)の分割
【原出願日】平成13年2月9日(2001.2.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】