説明

吸引ノズル

【課題】製品の量産化と均質化を容易に行え、且つ、スリットの粘着防止用潤滑剤を不要とした逆止弁およびこれを備えた吸引ノズルを提供する。
【解決手段】吸引ポンプ側への流路にスリットの形成により逆止弁を構成する弾性隔壁を設けた吸引ノズルであって、前記弾性隔壁のスリット形成位置をヌスミ溝によって薄膜とした。また、ヌスミ溝は吸引ポンプ側を凹状とした。さらに、薄膜を破断してスリットを形成した。このとき弾性隔壁に治具を突き当て、薄膜を突き破ることにより薄膜を破断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吸引ポンプ側への流路にスリットの形成により逆止弁を構成する弾性隔壁を設けた吸引ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吸引ノズルを弾性的に圧縮可能な吸引ポンプと気密に結合した鼻汁吸引具が開示されている。また、前記吸引ノズルの内部には、流路を閉塞するドーム状の弾性隔壁を吸引方向に突設すると共に、その頭頂部に常態で閉口するスリットを設けて、吸引時の負圧により前記頭頂部を弾性変形させて前記スリットを弾性的に開口可能とした逆止弁が開示されている。この構造によれば、吸引ポンプを圧縮して負圧とした後、吸引ノズルからの吸気により負圧が解消されれば、頭頂部の弾性復元によりスリットが常態に戻って閉口する。これと共に、吸引ポンプの圧縮時など、弾性隔壁に対して吸引と逆向きの圧力が作用してもスリットを閉口状態に維持する逆止機能を有するから、それまでのスポイト式吸引具(例えば、特許文献2〜4)とは異なり、一度吸引した鼻汁が逆流するといった不都合がない。
【0003】
この他、特許文献1の鼻汁吸引具は、ポンプ側に排気弁を設けているため、吸引ポンプの圧縮時に吸引ノズルから排気が起こらず、吸引ノズルを鼻腔に挿入したまま連続吸引が可能であるうえ、吸引ノズルと吸引ポンプの間に急激な圧力変化を緩和するバッファ機構を設けて、吸引力が過剰にならないようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−253666号公報
【特許文献2】実開昭48−021499号公報
【特許文献3】実開昭54−135091号公報
【特許文献4】実開昭60−025632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の鼻汁吸引具において吸引ノズルは、通法のゴム成形によって成形され、当該成形中に弾性隔壁も一体成形される。ただし、ノズル成形時にスリットをも形成しようとすれば、隔膜を打ち抜くようにコア(雄型)とキャビティ(雌型)を密接させるしかないが、そうすると当該密接部分に係る型面が早期に摩耗して、金型の寿命に影響を及ぼすため、従来、弾性隔壁へのスリット形成は、ノズルの成形後、別工程にて行っていた。
【0006】
従って、一般的にはカッターナイフを用いて弾性隔壁を切開することによりスリットを形成しているが、例えば十字状のスリットを形成する場合、図6に示したように、先ず縦に長スリットLSを入れ、この長スリットLSに対して直角に左右それぞれから2本の短スリットSSを水平に入れるという手順を踏んでいた。
【0007】
このように従来は、スリットを吸引ノズルの成形とは別の工程で形成していたうえ、カッターナイフにより十字状のスリットを形成する場合、一気に水平のスリットを入れようとすると、刃先が長スリットLSに引っ掛かってしまうため、合計3工程を必要としていた。従って、製造に非常に手間がかかっていた。特に、これを手作業で行う場合、量産が困難であるばかりか、水平の短スリットSSを正確に一直線状に形成しがたく、図6に示したように、短スリットSSが左右段違いとなったり、短スリットSSが長スリットLSまで切れ込まれていなかったり、片方の短スリットSSが省略されてT字状になるなど、製品の均質化も困難であった。
【0008】
さらに、吸引ノズルは鼻腔を傷つけないようにシリコーンゴムなどの柔軟ゴムを素材とするが、当該ゴムは自己粘着性を有し、特にカッターナイフによる切開面は平滑となって容易に粘着しやすいため、従来はスリットに潤滑剤を塗布していた。しかし、当該潤滑剤はベビーパウダー等の微粉剤を溶液化したものであり、製品の出荷段階で乾燥によって白く粉を吹いたようになるため、見た目に違和感をもたらす他、鼻腔が敏感な粘膜器官であることを考えれば、当該潤滑剤の使用はできるだけ避けることが望ましいものであった。
【0009】
本発明は上述した従来の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、製品の量産化と均質化を容易に行え、且つ、スリットの粘着防止用潤滑剤を不要とした逆止弁およびこれを備えた吸引ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために本発明では、吸引ポンプ側への流路にスリットの形成により逆止弁を構成する弾性隔壁を設けた吸引ノズルであって、前記弾性隔壁のスリット形成位置をヌスミ溝によって薄膜とするという手段を用いた。当該手段において、ヌスミ溝は十文字のスリットを形成する場合は十文字の溝というように、所望するスリットの形状に合わせて設けられ、ヌスミ溝の底壁である薄膜にスリットを形成する。そして、スリットを形成した弾性隔膜が逆止弁として機能することは特許文献1のものと同じである。つまり、上記ヌスミ溝の薄膜に形成されるスリットは、常態で閉口しており、吸引ポンプ側が負圧となったときに弾性隔壁が弾性変形して開口する一方、これと逆向きの圧力が弾性隔壁に作用しても閉口状態を維持して逆流を防止するのである。そして、本発明によれば、スリット形成位置の弾性隔壁の厚みが特許文献1のものよりも薄肉化されるため、閉口状態におけるスリット(切り口)の接触面積も小さくなるから、スリットがゴム等の自己粘着性によって固着する可能性を極めて小さくすることができる。
【0011】
また、本発明では、弾性隔壁の表裏のうち吸引ポンプ側の表面にヌスミ溝を設けるという手段を用いる。この手段によれば、コア側の型面にヌスミ溝を成形する凸型を設ければよく、金型の製作が容易である。ただし、弾性隔膜の吸引ポンプ側とは反対面にヌスミ溝を凹設してもよく、さらには弾性隔膜の表裏双方からヌスミ溝を凹設してもよい。これらの場合、前記ヌスミ溝を凹設するための凸型をキャビティ側、あるいはコア側とキャビティ側の双方に設けることになって、金型の製作上、若干不利であるが、本発明は金型の製作の優位性を第一の目的とするものではないため、適宜選択することができる。
【0012】
さらに、本発明では外力によって薄膜をさらに破断してスリットを形成するという手段を用いる。破断によるスリットの切り口は、カッターナイフで切開したような平滑面にならず、やや荒れた態様となるため、スリットがより粘着しにくくなる。そして、最も簡便な薄膜の破断方法としては、弾性隔壁に治具を突き当て、薄膜を突き破ることを例示できるが、これに限定されない。なお、カッターナイフにより薄膜を切開してスリットを形成することも排除するものではない。
【発明の効果】
【0013】
上述のように本発明によれば、弾性隔壁のスリット形成部分にヌスミ溝を成形しているので、予定通りの形状にスリットを形成でき、製品の均質化を図ることができる。また、スリットはヌスミ溝の底の薄膜に形成され、その切り口は厚みが薄くなるため、弾性隔壁を自己粘着性が高いシリコーンゴム等で成形した場合でも、スリットが粘着しにくく、粘着防止用の潤滑剤を使用する必要がない。特に、薄膜を破断してスリットを形成した場合は、破断面が荒れて、より粘着しにくくなるうえ、単に治具で弾性隔壁を突き破ることでスリットが形成されるため、カッターナイフによる切開よりも簡便にスリットを形成することができる。さらに、ヌスミ溝は、これに応じた凸または凹形状の金型を採用することで通法に従って形成されるため、製造方法や装置を大幅に変更する必要がなく、また、コアとキャビティが密接する部分もないため、金型が摩耗することもない。特に弾性隔膜の吸引ポンプ側にヌスミ溝を成形するようにしたので、その金型はコア側の型面に凸型を設けるだけですむ。従って、製造コストを抑制することができ、仮に前記凸型が摩耗した場合も容易に交換することができる。
【0014】
つまり、本発明の吸引ノズルによれば、容易に製品の量産化および均質化が達成され、しかも、鼻腔を刺激するような潤滑剤の使用も回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は、本発明に係る吸引ノズルNの一実施形態を示し、先端に内部を吸引流路とした吸引管1を備え、その後端に環状シール部2aを周設した円筒状の継手部2を一体的に設けたものであって、例えば図2に示す鼻汁吸引具に使用するものである。即ち、図1の吸引ノズルNは、図2に示した弾性的に圧縮可能な中空たまご型のゴム製吸引ポンプPと気密に結合されるものであり、ここではバッファ機能を有する連結円筒体Bを介し、上記継手部2を連結円筒体Bの一端に気密に嵌着して、吸引ポンプPと一体化した構造としている。なお、吸引ノズルNの継手部2は連結円筒体Bに対して着脱可能である。
【0016】
また、この吸引ノズルNは全体がシリコーンゴム等の柔軟性を有する素材からなり、その成形時に吸引管1の継手部2との接合側内端に、吸引ポンプ側への流路を閉塞するように弾性隔壁3を一体成形している。この弾性隔壁3は吸引方向(ポンプ側)に向かって膨らむカップ状に成形してなり、その頭頂部3aを平坦としているが、頭頂部を円弧状としたドーム形状としてもよい。そして、弾性隔壁3の上記頭頂部3aには後述するように常閉のスリットが形成され、このスリットを吸引ポンプPによる負圧によって弾性的に開口して吸引動作を行うなど、ここまで説明した基本的な構成および開閉動作は特許文献1のものと何ら変わるところはない。
【0017】
そこで、本発明の技術的特徴点を詳述すると、上記弾性隔壁3の頭頂部3aには図1に示すようにヌスミ溝4を十文字に凹設している。この実施形態では弾性隔膜3の吸引ポンプ側表面が凹状となるようにヌスミ溝4を設けている。具体的には、コア側の弾性隔壁3の成形面に図3に示す十文字の凸型Tを設けた金型Kを採用することによって、弾性隔壁3の一体成形時にヌスミ溝4も同時成形するようにしている。このヌスミ溝4は成形段階で流路方向に貫通しておらず、底に薄膜5を残して成形される。即ち、ヌスミ溝4はめくら溝であり、薄膜5はヌスミ溝4の成形段階で意図的に設けたバリということができる。ここで、図1は薄膜5を破断する前の状態を示しており、これは請求項1に対応している。
【0018】
そして、図4に示すように、上記ヌスミ溝4に沿って、その薄膜5にスリット6を形成することで、弾性隔壁3は逆止弁を構成するのであるが、スリット6は弾性隔壁3に棒状の治具を突き当て、薄膜5を破断して形成することができる。この方法によれば、厚みが薄い脆弱な薄膜5にせん断力が集中して、薄膜5のみが引き裂かれることになるから、正確にヌスミ溝4に沿ってスリット6を形成することができる。
【0019】
また、薄膜5の破断によってスリット6を形成した場合、図5に示すように、非直線的なランダムな形状となる。また、破断面もカッターナイフで切開した場合とは異なり、やや荒れる。このため、カッターナイフで切開した場合と比べて、スリットの破断面は粗面となって粘着しにくくなり、粘着防止用剤を使用する必要がない。
【0020】
なお、本発明においてスリットはヌスミ溝に沿って形成されることになるから、ヌスミ溝を予定するスリット形状に成形することはもちろんである。また、ヌスミ溝の形状は、上述した実施形態の十文字に限定されず、その薄膜5にスリットを形成することによって逆止弁を構成するものであれば、3本以上の溝を放射状に形成したアスタリスク状(*)や、その他、従来公知のスリット形状を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の吸引ノズルの実施形態を示した一部裁断斜視図
【図2】同、吸引ノズルを鼻汁吸引具に適用した状態を示す斜視図
【図3】ヌスミ溝の成形面を示した金型の斜視図
【図4】スリットを形成した吸引ノズルの断面図
【図5】薄膜の破断によって形成されたスリットの説明図
【図6】従来のスリット形成方法を示した工程説明図
【符号の説明】
【0022】
1 吸引管
2 継手部
3 弾性隔壁
4 ヌスミ溝
5 薄膜
6 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引ポンプ側への流路にスリットの形成により逆止弁を構成する弾性隔壁を設けた吸引ノズルであって、前記弾性隔壁のスリット形成位置をヌスミ溝によって薄膜としたことを特徴とする吸引ノズル。
【請求項2】
ヌスミ溝は吸引ポンプ側を凹状とした請求項1記載の吸引ノズル。
【請求項3】
薄膜をさらに破断してスリットを形成してなる請求項1または2記載の吸引ノズル。
【請求項4】
弾性隔壁に治具を突き当て、薄膜を突き破ることにより薄膜を破断した請求項3記載の吸引ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−297432(P2009−297432A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158077(P2008−158077)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000107284)ジェクス株式会社 (26)
【Fターム(参考)】