説明

吸水速乾性織物

【課題】セルロース繊維からなる織物染色品において、吸水速乾性能の洗濯耐久性に優れ、しなやかな風合を保持し、染色堅牢度も高く、色の鮮明性に優れ、着用感に優れた吸水速乾性織物染色布帛およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】セルロース繊維から構成される吸水速乾性織物において、セルロース繊維をセルロース分解酵素にて減量処理することで、セルロース繊維の表面に特定の形状の筋状溝を形成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸水速乾性に優れたセルロース繊維布帛に関するものである。さらに詳しくは、優れた吸水速乾性能の洗濯耐久性に優れ、かつしなやかな風合を有し、色の鮮明性に優れたセルロース繊維の染色布帛製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
綿等のセルロース繊維は、衣服に多く使用されているが、近年、衣服の着用時、特に夏場における着用快適性を満足するため吸水速乾性を有する布帛の開発が求められている。
一般には、吸水性が低く、乾燥速度の速いポリエステル繊維と綿をはじめ吸水性を有する繊維素材との組み合わせにて吸水速乾性を得る布帛開発が多くなされている。
一方、紳士肌着に代表されるように綿等のセルロース繊維のみからなる商品は、肌触り性、ソフト風合、吸水性は良好なものの、汗をかいた時、水分保持能が強いため、吸い取った汗は拡散せず、ベタツキ感があり着用快適性に劣るものである。
【0003】
セルロース繊維のみにて吸水速乾性を付与しようとすると、セルロース繊維の膨潤度を抑制する改質加工が必要となるが、通常の編織した生地への後加工による架橋反応及び樹脂加工処理では、速乾性を高めるために含水率を高度に低下させる目的での改質反応を強化すると非常に風合が硬くなる問題がある。更に、含水率をより低下させたり、疎水性が強すぎる改質加工をすると、セルロース繊維が具備している本来の吸水性を損なう問題があり、その改質の程度のコントロールが困難であり、強力低下を生じる問題もある。また、セルロース繊維を疎水化するために疎水性化学物質を固定化反応させる方法や疎水性高分子化学物質を繊維表面にコーティングする方法でも同様に疎水性の程度をコントロールすることは困難であるという問題があり、セルロース繊維の本来具備している吸水性を阻害せずに、含水率を減少させ速乾性を高める方法は得られていない。
【0004】
また、織成または編成後の精練工程等において、極度に吸水性を向上させ、かつその状態を全ての加工工程にて維持することにより、優れた吸水拡散性を得る方法が特許文献1に開示されている。しかしながらこの方法においては、吸水拡散性能は向上するものの、しなやかな風合と染色性の向上は得られないという問題がある。
また、セルロース分解酵素にてセルロース繊維を減量させる方法が特許文献2、3に開示されている。しかしながらこれらの方法においては、ソフトな風合や緻密なフィブリルを得ることが目的であり、吸水拡散性、速乾性、染色性の向上は得られないという問題がある。
従って、現状ではセルロース繊維からなる織物染色品において、特にセルロース繊維のみからなる織物染色品において、吸水拡散性、吸水速乾性能の洗濯耐久性が優れ、なおかつ、しなやかな風合を有し、染色性に優れた染色製品が得られていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−228199号公報
【特許文献2】特開平10−245773号公報
【特許文献3】特開平11−189974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、セルロース繊維からなる織物において、吸水拡散性、吸水速乾性能の洗濯による耐久性に優れ、しなやかな風合を保持し、色の鮮明性に優れ、着用感に優れた吸水速乾性織物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題について、鋭意検討した所、セルロース繊維からなる織物をセルロース分解酵素にて減量処理することで、セルロース繊維表面の繊維軸方向に沿って特定の大きさからなる筋状溝を形成させることができ、その結果、吸水速乾性能の洗濯耐久性が改良されることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、以下の発明を提供する。
【0008】
(1)セルロース繊維からなる織物であって、該セルロース繊維の表面にセルロース繊維軸方向長さ50μm当たり、幅0.05〜1.0μm、長さ3〜25μmの筋状溝が10個以上存在することを特徴とする吸水速乾性織物。
(2)洗濯50回後の滴下法による水滴消失時間が5秒以下であることを特徴とする上記(1)に記載の吸水速乾性織物。
(3)洗濯50回後の速乾性が40分以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の吸水速乾性織物。
(4)洗濯50回後の吸水拡散面積が、8cm2以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の吸水速乾性織物。
(5)セルロース繊維のみからなる織物を、セルロース分解酵素にて、65℃以下の温度で1.5〜7.5%減量処理した後、染色することを特徴とする吸水速乾性織物染色布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、セルロース繊維から構成される吸水速乾性織物である。セルロース繊維をセルロース分解酵素で減量処理することで、セルロース繊維の表面に特定の大きさの筋状溝が形成され、このことにより、水をすばやく吸い取る力とすばやく拡散させる力の2つの力が相乗効果を発揮し、優れた吸水速乾性能の洗濯耐久性が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、以下に詳細に説明する。
本発明は、セルロース繊維から構成される吸水速乾性織物に関し、セルロース繊維をセルロース分解酵素で減量処理することで、セルロース繊維表面の繊維軸方向に特定の大きさの筋状溝を形成させ、吸水速乾性およびその洗濯耐久性を改良したものである。
【0011】
一般に、衣服の着用時、汗をかいたときでも快く感じるには、布帛が水分を吸い取る力を有することが必要であるが、汗を吸い取るだけでは一ヶ所に水分が保持されるので布帛の乾燥性が悪い場合には、べたつき感が解消されず不快に感じたままである。
このべたつき感を解消するためには、水分をすばやく吸い取る力と吸い取った水分をすばやく拡散させる力が同時に必要であり、この2つの力は、適下法における水滴消失時間と吸水拡散面積で表すことができる。また、スポーツ衣料や肌着衣料のように洗濯回数の多い用途においては、すくなくとも洗濯50回の耐久性が必用であり、耐久性が高いということにより商品としての実用的価値も高くなる。
【0012】
この様に、汗をかいたときの快適性向上のためには、すばやく水分を吸い取る力と、吸い取った水分をすばやく拡散させる2つの機能を同時に発揮させるためには、本発明でいう筋状溝がセルロース繊維表面に一定の繊維軸方向長さあたりに一定数以上の個数存在することが必要である。この筋状溝は、後述するセルロース分解酵素で織物を減量処理することで構成する繊維の表面に形成させることができる。
【0013】
本発明では、セルロース繊維表面に繊維軸方向長さ50μm当たり、幅0.05〜1.0μm、長さ3〜25μmの筋状溝が10個以上存在している。なお、筋状溝は、繊維軸方向に対し、ほぼ平行である必要はなく、45度まで傾いていてもよい。
この筋状溝を有することで、汗をかいたときの快適性向上のために求められる機能である、水分をすばやく吸い取る力と水分を拡散させる力が最大限に発揮され、着用時に汗をかいたときに体に貼り付くことがなく、べたつき感を感じなく、すばやく乾燥することから着心地のよさを感じる。また、風合にしなやか性が強くなり肌ざわり性も良好であり、その効果は、繰り返し洗濯を行っても続くものである。
【0014】
筋状溝において、幅が0.05μm未満で、長さが3μm未満の場合は、水分を吸い取り拡散させる力が弱く、すばやく乾燥させることが十分に発揮できない。一方、幅が1.0μm以上で、長さが25μm以上の場合、保水力が強くなる傾向となり、乾燥速度が悪くなる。また、個数が10個未満では、吸い取った水の拡散作用が弱くなり、乾燥速度が悪くなる。このようなことから、筋状溝を形成させることが重要である。筋状溝の幅は0.2μm以上、0.9μm以下が好ましく、長さは6μm以上、20μm以下が好ましい。筋状溝の個数は、80個以下であることが好ましい。この範囲であれば、特に優れた吸水速乾性およびその洗濯耐久性を発現することができる。
【0015】
このような筋状溝は織物を後述するセルロース分解酵素処理することにより、セルロース繊維重量の1.5〜7.5%を減量することで得られる。
減量率が1.5%未満の場合、筋状溝の幅が0.05μm未満、長さが3μm未満となり、個数も10個未満となり、吸い取った水の輸送力が弱く、拡散性も極めて悪く、吸水速乾性能は悪くなり、しなやかな風合は得られず、色の鮮明性も得られない。
一方、減量率が7.5%を越えた場合、筋状溝の幅が大きくなり、比表面積が増大し、保水力が高まり、吸水した水の拡散性が悪くなるとともに、保水力の高まりが、実用洗濯における洗濯後の脱水において、振り切り脱水率が悪くなり、乾燥速度が遅くなるという問題とセルロース繊維の強力低下が大きくなるという問題がある。
【0016】
セルロース繊維表面の筋状溝をコントロールする手段としては、セルロース分解酵素処理時の酵素(セルラーゼ)濃度、pH、浴比、処理温度、時間があり、処理条件としては、浴比を1:0.5〜1:50程度にし、用いるセルラーゼの活性に最適なpHとなるように、酸性活性セルラーゼの場合、酢酸やクエン酸、中性活性セルラーゼの場合、リン酸ナトリウム、アルカリ活性セルラーゼの場合、アンモニアや炭酸ナトリウム等の緩衝剤を単独で、または併用して使用し調整を行う。セルラーゼの使用濃度は、セルラーゼの有する活性や目指す減量率により異なるが、一般には0.3〜15重量%で、処理温度は40〜65℃で、処理時間は30〜300分が好ましい。
【0017】
本発明で用いるセルロース分解酵素には、エキソグルカナーゼ、エンドグルカナーゼ、セルビアーゼ、β−グルコシダーゼ、セロビアーゼ等のセルラーゼ類が含まれ、それぞれ単独または複数組み合わせて使用すればよい。
セルロース分解酵素による処理に際しては、ロータリドラム染色機、パドル染色機、ウインスリール染色機、ジッガー染色機、液流染色機、気流染色機等の回転式染色装置を使用することができるが、パッド−ロール、パッド−ジッグ染色機のように拡布状で処理できる装置を使用した方が、本発明の筋状溝形成をコントロールし易いのでより好ましい。
処理後は酵素の失活処理を行うが、使用する酵素が失活する温度で処理すればよく、70から100℃で、15分から30分が好ましい。また、処理浴にアルカリ剤を併用することが酵素の脱着を促進するので好ましい。
【0018】
溝状筋の形状が本発明の範囲にあると、優れた吸水速乾性およびその洗濯耐久性を奏する。
本発明の吸水速乾性織物において、洗濯50回後の水滴消失時間は5秒以下が好ましい。より好ましくは、3秒以下である。また、洗濯50回後の乾燥性は40分以内であることが好ましく、より好ましくは38分以下であり、洗濯50回後の吸水拡散面積は8cm2以上であることが好ましく、より好ましくは10cm2以上である。
筋状溝の形状が本発明のいう範囲にあると洗濯耐久性が向上するが、その理由は、洗濯後もその形状が損なわれること無くなく維持されていることから、水の輸送力、吸水拡散効果がほとんど変わらないからであると思われる。
【0019】
本発明においてセルロース繊維とは、綿、麻等の天然セルロース系繊維やレーヨン、ポリノジック等の再生セルロース繊維をいい、再生セルロース繊維が好ましく使用でき、中でもキュプラ(旭化成せんい製ベンベルグ)を用いた場合、本発明の効果が最も顕著に現れる。再生セルロース繊維(長繊維)は筋状溝の幅、長さのコントロールがし易いという面からも好ましい。
また、本発明のセルロース繊維織物中に、再生セルロース繊維が50%以上含まれるのが好ましい。その他、絹、ウール、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリル繊維が50%まで含まれていても良いが、好ましくはセルロース繊維100%である。
【0020】
本発明で用いるセルロース繊維は、特に限定はしないが総繊度が30〜300デシテックスでの繊維が好ましい。さらに、断面形状がL型断面の場合、しなやかな風合が得やすいとともに比表面積が大きくなっていることから、セルラーゼによる減量処理の効率が高まり、凹部周辺に筋状溝が形成されやすく、本発明の効果が十分に達成されるので好ましい。
【0021】
また繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよい。そして、繊維が加工される糸条の形態としては、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸、エアジェット精紡糸等の紡績糸、甘撚糸〜強撚糸、仮撚加工糸、空気噴射加工糸、押し込み加工糸、ニットデニット加工糸等がある。
【0022】
糸条の形態の例としては、混紡(混綿、フリース混紡、スライバー混紡、コアヤーン、サイロスパン、サイロフィル、ホロースピンドル等)、交絡混繊、交撚、意匠撚糸、カバリング(シングル、ダブル)、複合仮撚(同時仮撚、先撚仮撚)、伸度差仮撚、位相差、仮撚加工後に後混繊、2フィード(同時フィードやフィード差)空気噴射加工等による混用形態が挙げられる。
【0023】
織物布帛の形態の例としては、一般的な織物であればいずれでもよく、本発明のセルロース繊維100%から構成されているものが好ましいが、50%以下の量で他の繊維が混用されていても良い。他の繊維との混用方法としては、引き揃えて給糸したり、一方が経糸に他方を緯糸に用いる、経糸及び又は緯糸において両者を1〜3本交互に整経や緯入れにより配置する、さらには起毛織物やパイル織物において一方が地組織を構成し、他方が起毛部、パイル部を構成する、二重織物において表面及び又は裏面を各々構成、又は混用して構成する等がある。またこれら各種の糸段階での複合と機上での複合を組み合わせてもよい。
【0024】
本発明の効果を得るには、セルロース繊維織物を染色に先立ちセルロース分解酵素にて1.5〜7.5%の減量処理が不可欠である。さらに好ましくは2.5〜6.5%に制御することによってセルロース染色布帛に吸水速乾性能の洗濯耐久性、しなやかな風合、色の鮮明性を付与することが可能となる。減量処理は、染色工程の前であれば、精練、リラックスなどの工程の前後やあるいは同時に実施してもかまわない。織物を作成した後、減量処理を行っても良く、減量処理したセルロース繊維を用いて織物を作成しても良く、セルロース繊維からなる編地を減量処理し、これをデニットした糸を用いて織物を作成しても良く、これらを組み合わせても良い。
【0025】
本発明のセルロース繊維織物の染色仕上加工については、セルロース分解酵素処理後に実施するが、その染色、仕上加工法は、通常セルロース繊維が実施されている条件であればいずれでも適用でき、織物の特性に応じ適宜設定すればよい。仕上加工剤には、超分子化アミノ変性シリコーンを用いることが好ましい。
このようにして得られたセルロース繊維からなる染色織物布帛は、色の鮮明性に優れ、しなやかな風合を有し、優れた吸水速乾性能の洗濯耐久性を発揮するとともに、着用快適性にも優れ、かつ堅牢度性能も良好である。具体的には、JIS−L−0848 A法における汗アルカリ堅牢度が3級以上である、商品価値の高い織物染色品を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例などにより更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。尚、本発明で用いられる特性値の測定法を以下に示す。
(1)セルロース繊維表面の筋状溝の状態
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、形式S−3500N)を用いて、サンプル布帛のセルロース繊維表面を1800倍に拡大し、任意に5ヶ所写真撮影し、スケールゲージをもとに、筋状溝の幅、長さを及び数を測定し、繊維長50μmあたりの数(個)を算出して平均値を求めた。
【0027】
(2)洗濯条件
JIS L−0217 103法に従って、50回行った。尚、洗剤は、花王製アタック 1g/Lを用いた。
(3)水滴消失時間
JIS L−1097 滴下法に従って水滴消失時間を評価した。サンプル毎に5回測定を行い、平均水滴消失時間を求めた。尚、このときの水滴1滴の平均量は0.039mlであった。
【0028】
(4)乾燥性
サンプル布帛(10cm角)に水を0.2ml滴下、拡散後、布帛の重量を測定し、水分量を算出し、温度20℃で相対湿度65%の環境下で、布帛の水分量が2%(乾いたと感じる水分量)となるまでの時間(分)を測定した。
【0029】
(5)吸水拡散面積
サンプル布帛を直径15cmの刺繍用用丸枠に取り付け、布帛表面に水溶性青染料溶液(C.I.アシッドブルー62を0.005wt%含有)を0.1ml滴下し、3分後に濡れ拡がった吸水拡散面積を次式より求める。
吸水拡散面積(cm2)=[縦の直径(cm)×横の直径(cm)]×π÷4
サンプル毎に測定を5回行い、平均吸水拡散面積を求めた。
【0030】
(6)風合い評価
検査者(30人)の感触によって染色品の洗濯10回後の布帛を次の基準で相対評価した。
○ : しなやか感がよい
△ : しなやか感はやや劣る
× : しなやか感がない
【0031】
(7)汗アルカリ堅牢度
染色品について、JIS−L−0848−A法に準じて汗アルカリ人工汗液を用いて評価した。試験片の変褪色と添付白布片の汚染の程度をそれぞれ変褪色用グレースケール、汚染用グレースケールと比較して判定した。
【0032】
(8)色の鮮明性(彩度)
染色布帛を分光光度計(グレタグマクベス社製、形式;CE−7000A、D65光源)にて、Lab表色系にて、a、b値を測定し、下記式にて彩度を算出した。この値が大きい程、彩度が高く、色が鮮明であり、値が小さい程、彩度が低く、色がくすんでいることを表す。
彩度=√(a2+b2
【0033】
[実施例1〜3]
撚り係数(K)が1720(S撚り)の84dtex/45fのキュプラ(旭化成せんい製ベンベルグ)を経糸に用い(経糸密度130本/インチ)、撚り係数(K)が1720(SZ撚り)の84dtex/45fのキュプラを緯糸に用い(緯糸密度80本/インチ)、平織物を製織した。
得られた織物をオープンソーパー型連続精練機を用いて、30℃の3.15wt%水酸化ナトリウム水溶液(5°ボーメ水溶液)に浸漬した後、80℃の湯洗及び水洗を繰り返し、脱水した後、120℃のシリンダー乾燥機を用いて乾燥させた。
【0034】
次にこの織物を拡布状で下記に示す酵素溶液に浸漬し、マングルで絞り、シワのでないように拡布状でロールに巻き込んだ後、シートを被せ、ゆっくり回転させながら表1に示す減量率となるように処理時間を調整し、減量処理を行った。
酵素処理条件:
酵素溶液:pH=4.5(酢酸と酢酸ナトリウムにて調整)の水溶液にセルラーゼT(天野エンザイム社製、エンド+エキソ型セルラーゼ)を10%溶解
マングルの絞り率:70%
処理温度:45℃
【0035】
処理後は、80℃で15分間の失活処理を行い、水洗した後、下記条件にて染色し仕上げた。
染料として、反応染料(レマゾール ターコイズ ブルー G:1.3%omf)を用い、水酸化ナトリウム10g/リットルを含む染料溶液に浸漬し、マングルで絞り、コールド・バッチ法にて、25℃で15時間エイジングを行い、次いで、オープンソーパー型連続水洗機を用いて、80℃の湯洗及び水洗を繰り返し、脱水した後、120℃のシリンダー乾燥機を用いて乾燥を行い、ペーパーカレンダー処理して青色の染色布帛を得た。
【0036】
仕上げた染色布帛の水滴消失時間、吸水拡散面積、乾燥性、風合、汗アルカリ堅牢度、色の鮮明性の評価結果を表1に示す。
得られた染色布帛を電子顕微鏡にて1800倍の倍率にて観察したときの、セルロース繊維表面の筋状溝の形状を表1に示す。
【0037】
[比較例1、2]
比較例1として、実施例1の織物をセルロース分解酵素による処理を施さずに、実施例1と同様の条件にて染色し仕上げた。比較例2として、減量率が9.3%となるようにセルロース分解酵素による減量処理を行う以外は、実施例1と全く同様の条件で染色し仕上げた。
得られた染色品の水滴消失時間、吸水拡散面積、乾燥性、風合、汗アルカリ堅牢度、色の鮮明性の評価結果を表1に示す。比較例についても実施例1と同様に電子顕微鏡にて1800倍の倍率にて観察したときの筋状溝の形状を表1に示す。
【0038】
【表1】

表1の結果より、本発明の実施例1〜3で得られた染色布帛は、比較例1および2に比べ、吸水速乾性能の洗濯耐久性に優れておりかつしなやかな風合を有し、色の鮮明性が高く、商品価値の高い染色布帛が得られることがわかる。
【0039】
[実施例4、5]
84dtex/45fのキュプラ(旭化成せんい製ベンベルグ)を経糸に用い(経糸密度153本/インチ)、綿糸40番手を緯糸に用い(緯糸密度80本/インチ)、ツイル織物を製織した(キュプラ糸の混率は50.4%)。
得られた織物を実施例1と同様にオープンソーパー型連続精練機を用いて、30℃の3.15wt%水酸化ナトリウム水溶液(5°ボーメ水溶液)に浸漬した後、80℃の湯洗及び水洗を繰り返し、脱水した後、120℃のシリンダー乾燥機を用いて乾燥させた。
【0040】
得られた織物を実施例1と同様のやり方にて、表2に示す減量率となるように処理時間を調整し、セルロース分解酵素による減量処理を行い、80℃で15分間失活処理を行った後、水洗を行い、実施例1と同様のやり方にて染色仕上を行い、青色の染色布帛を得た。
仕上げた染色布帛の水滴消失時間、乾燥性、吸水拡散面積、風合、汗アルカリ堅牢度、色の鮮明性の評価結果を表2に示す。得られた染色布帛を電子顕微鏡にて1800倍の倍率にて観察したときの、セルロース繊維表面の筋状溝の形状を表2に示す。
【0041】
[比較例3]
比較例3として実施例4の織物をセルロース分解酵素による減量処理を施さずに同様の条件にて染色し仕上げた。仕上げた染色品の水滴消失時間、吸水拡散面積、乾燥性、風合、汗アルカリ堅牢度、色の鮮明性の評価結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

表2の結果より、本発明の実施例4、5で得られた染色布帛は、比較例3に比べ、吸水速乾性の洗濯耐久性に優れておりかつしなやかな風合を有し、色の鮮明性が高く、商品価値の高い染色布帛が得られることがわかる。
【0043】
[実施例6、7]
実施例4と同様の織物を用い、オープンソーパー型連続精練機を用いて、30℃の3.15wt%水酸化ナトリウム水溶液(5°ボーメ水溶液)に浸漬した後、80℃の湯洗及び水洗を繰り返し、脱水した後、120℃のシリンダー乾燥機を用いて乾燥させた。
得られた織物を下記に示す酵素処理条件を用い、表3に示す減量率となるように液流染色機を用い処理時間を調整し、減量処理を行った。
酵素処理条件:
酵素溶液:セルラーゼT(天野エンザイム社製、エンド+エキソ型セルラーゼ)8%omf
pH:4.5(酢酸と酢酸ナトリウムにて調整)
処理温度:45℃
【0044】
処理後は、80℃で15分間の失活処理を行い、水洗した後、下記条件にて染色した。
染色条件:
反応染料:レマゾール ターコイズ ブルー G:1.3%omf)
炭酸ナトリウム:10g/リットル
芒硝:30g/リットル
染色温度、時間:60℃、60分
染色後は、80℃の湯洗及び水洗を繰り返し、脱水した後、120℃のシリンダー乾燥機を用いて乾燥を行い、ペーパーカレンダー処理して青色の染色布帛を得た。
仕上げた染色布帛の水滴消失時間、吸水拡散面積、乾燥性、風合、汗アルカリ堅牢度、色の鮮明性の評価結果を表3に示す。得られた染色布帛を電子顕微鏡にて1800倍の倍率にて観察したときの、セルロース繊維表面の筋状溝の形状を表3に示す。
【0045】
[比較例4]
比較例4として、セルロース分解酵素による減量処理を施さずに、実施例6および7と同様の条件にて染色し仕上げた。仕上げた染色品の水滴消失時間、吸水拡散面積、乾燥性、風合、汗アルカリ堅牢度、色の鮮明性の評価結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

表3の結果より、本発明の実施例6、7で得られた染色布帛は、比較例4に比べ、吸水速乾性の洗濯耐久性に優れておりかつしなやかな風合を有し、色の鮮明性が高く、商品価値の高い染色布帛が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の吸水速乾性織物は特にインナー分野、スポーツ衣料分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維からなる織物であって、該セルロース繊維表面にセルロース繊維軸方向長さ50μm当たり、幅0.05〜1.0μm、長さ3〜25μmの筋状溝が10個以上存在することを特徴とする吸水速乾性織物。
【請求項2】
洗濯50回後の滴下法による水滴消失時間が5秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸水速乾性織物。
【請求項3】
洗濯50回後の速乾性が40分以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸水速乾性織物。
【請求項4】
洗濯50回後の吸水拡散面積が8cm2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸水速乾性織物。
【請求項5】
セルロース繊維のみからなる織物を、セルロース分解酵素にて、65℃以下の温度で1.5〜7.5%減量処理した後、染色することを特徴とする吸水速乾性織物染色布帛の製造方法。

【公開番号】特開2012−46832(P2012−46832A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187232(P2010−187232)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】