説明

吸着体

【課題】 本発明は、
I.水中に溶存する微量のフッ化物イオン、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンを効率的 に除去することが可能、すなわち、高い吸着性能を長期間維持し、繰り返し使用が でき、
II.取り扱い易く、
III.そして安価な
吸着体を提供する。
【解決手段】 金属含水酸化物からなるイオン交換体であって、金属含水酸化物が、Zr、Tiおよび希土類から選ばれた少なくとも一つの金属の含水酸化物であり、前記イオン交換体が多孔質高分子膜で封入されている吸着体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する微量のフッ化物イオン、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンを選択的に除去する吸着体に関する。特に、本発明は、水道水用の水や工業排水などに溶存しているフッ化物イオンや、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンを効率的に除去することができ、さらに繰り返し使用が可能な吸着体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、公共用水域、地下水などの水質の汚濁に関して、とくに水道水として利用するための水処理技術として、フッ化物イオン、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンの除去が問題となってきている。
フッ化物イオンは、主にメッキの前処理剤および半導体工場での洗浄剤やエッチング剤として利用されている。また、天然の土壌中にも存在している。
フッ化物イオンを除去する方法としては、被処理液中にカルシウム塩を添加して難溶性のフッ化カルシウムの沈殿を生成する方法があるが、フッ化カルシウムは、25℃で16mg/lと溶解度が高いという問題点がある。
【0003】
また、フッ化物イオンの吸着剤として、強塩基性アニオン交換樹脂があるが(例えば、特許文献1参照)、共存イオンがある場合にフッ化物イオンに対する選択性が低く、除去効率が著しく低下するという問題がある。活性アルミナを用いる場合には(例えば、特許文献2参照)、酸性領域において溶解性が高く寿命が短いこと、およびリン酸イオンの存在下では、フッ化物イオンの除去効率が低下するという問題点がある。また、ジルコニウムを陽イオン交換樹脂に捕捉させてZr担持イオン交換樹脂を用いる提案もなされているが(例えば、特許文献3)、吸着容量が小さいことや、繰り返し使用によるジルコニウムの脱離などにより除去効率が低下するという問題点がある。
【0004】
一方、砒酸イオンや亜砒酸イオンは、各種排水中あるいは河川や井戸水などに存在している。また、天然の土壌中にも存在することがあり、水道水として利用する場合に問題となっている。
砒酸イオンや亜砒酸イオンを除去する技術として、凝集沈殿法、吸着法、石灰軟化法、生物濃縮法、逆浸透法や電気浸透法などの方法が提案されている。中でも、鉄塩やアルミニウム塩を使用する凝集沈降および清澄ろ過により砒酸を含む沈殿を分離する方法が広く用いられている。しかし、この方法では、亜砒酸イオンを除去することができないという問題点がある。
吸着法においては、吸着剤として、活性炭、活性アルミナ、陰イオン交換樹脂などが用いられているが、砒酸イオンと亜砒酸イオンの両者を同時に吸着させることが困難であり、かつ低濃度の場合において、平衡吸着量が低い、吸着選択性に劣るという問題点がある。
【0005】
砒酸イオンと亜砒酸イオンの吸着剤として、含水酸化セリウム粉末を高分子担体に担持した構造の吸着体が用いられている。この場合に、微粉末を高分子担体中に固定するため、含水酸化セリウムの有効表面積が減少するので、本来持っている吸着性能を発揮し難いという問題点がある。また、有機溶媒を使うために、造粒コストが高くなるという問題もある。
最近、アルミニウムをシラス−ゼオライト上に担持した構造の吸着剤が、砒酸イオン、フッ化物イオンの吸着剤として提案されている。しかし、この吸着剤は、上記イオンの高濃度領域では良好な吸着性能を有しているが、低濃度領域では所望濃度にまで低減することは困難な場合がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−92187号公報
【特許文献2】特開平5−115777号公報
【特許文献3】特開平8−71415号公報
【非特許文献1】大木、「アルミニウム担持−シラスゼオライトによる砒酸、燐 酸、およびフッ化物イオンの除去」(Removal of Arsenate, Phosphate, and Fluoride Ions by Aluminium-loaded Shirasu-Zeorite)、毒物および環境化学(Tox icological and Environmental Chemistry)、米国、Taylor & Francis、2000 年1月、第76巻、p.111−124
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、
I.水中に溶存する微量のフッ化物イオン、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンを効率的 に除去することが可能、すなわち、高い吸着性能を長期間維持し、繰り返し使用が でき、
II.取り扱い易く、
III.そして安価な
吸着体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、金属含水酸化物からなるイオン交換体を、多孔質高分子膜に封入した構造の吸着体とすることにより、その目的が達成できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)金属含水酸化物からなるイオン交換体であって、金属含水酸化物が、Zr、Tiおよび 希土類から選ばれた少なくとも一つの金属の含水酸化物であり、前記イオン交換体 が多孔質高分子膜で封入されている吸着体。
(2)金属含水酸化物は、粒子状であり、その一次粒子径の平均値が0.005〜 0.1μmであり、かつ凝集粒子径の平均値が1〜10μmである上記(1)記載 の吸着体。
(3)多孔質高分子膜は、平均孔径が0.1〜2μmである上記(1)記載の吸着体。
(4)多孔質高分子膜は、ポリオレフィン系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系樹脂、 ポリスルホン系樹脂またはフッ素系樹脂からなる膜である上記(1)記載の吸着 体。
(5)金属含水酸化物からなるイオン交換体が、袋状、円筒状または中空糸状に成形され た多孔質高分子膜で封入された構造である上記(1)記載の吸着体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着体は、水中に溶存する微量のフッ化物イオン、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンの吸着量が大きく、寿命も長く、また繰り返し使用も可能である。したがって、これらイオンを効率的に除去することができ、公共用水域および地下水などを水道水として利用すること、あるいは排水処理を行って安全に放水することを可能とした。さらに本発明の吸着体は、取り扱い易く、安価である。
本発明の吸着体を利用すれば、水中に溶存するフッ化物イオン、砒酸イオンや亜砒酸イオンの濃度を、共存イオンの存在下でも容易に減少させることが可能である。吸着体の体積当りの金属含水酸化物量は、多孔質高分子膜に封入する方が多孔質高分子中に担持するよりも、実用上で大きくすることができるので、本発明の吸着体では高い吸着性能を保持することが可能となる。
【0010】
さらに、従来は、金属含水酸化物を高分子担体に保持する際には、高分子を有機溶媒に溶解してから固化する方法がとられていたために、吸着体中に有機溶媒が残存するという問題があった。本発明の吸着体では、金属含水酸化物を多孔質高分子膜に封入するために有機溶媒を使う必要もほとんどないので、吸着体とした場合に有機溶媒が残存して処理前の洗浄に時間がかかる、使用中に微量の有機溶媒が溶出するという問題点もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に用いられる金属含水酸化物は、水酸基、結晶水、あるいは構造水を含有する金属酸化物であり、Zr、Tiおよび希土類から選ばれる少なくとも一つの金属の含水酸化物である。希土類とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuである。これらは、それぞれ単独、あるいは2種類以上の混合物として使用することができる。これらは、分離精製して工業的に利用されているが、本発明のイオン交換体として使用する上では、粗精製すれば十分であり、コストを考慮して分離精製の中間体を利用することも好ましい。
【0012】
金属含水酸化物の形態としては、ゲル状、粒子状、多孔質状、塊状などが挙げられる。取り扱い易さ、吸着性能やコストの点において、粒子状であることが好ましい。
本発明のZrやTiあるいは希土類含水酸化物の製造方法としては、これら金属の水溶性化合物を含有する水溶液に、アルカリを添加してpHを調整し、沈殿を生成せしめ、次いでろ過、乾燥を行う方法が挙げられる。金属含水酸化物の粒子径を制御するためには、添加するアルカリの種類、温度、攪拌速度、アルカリ添加速度、あるいはpH条件を変化させればよい。とくに、一次粒子径を制御するために、金属化合物水溶液の濃度を0.1から3mol/lとして、0.1から1mol/lのアルカリ溶液を、ゆっくり添加することが好ましい。ろ過後の乾燥は、40から80℃の条件で混合しながら行う、または凍結減圧で行うことも好ましい。
【0013】
本発明の金属含水酸化物は、一次粒子径の平均値が、0.005〜0.1μm、かつ凝集粒子径の平均値が1〜10μmであることが好ましい。一次粒子径が0.005μm未満では、金属含水酸化物の水溶液への溶解度が大きくなり、吸着体の寿命が短くなる場合がある。0.1μmより大きいと、比表面積が小さくなって、イオン吸着量が低くなることがある。凝集粒子の平均値が1μm未満の場合には、多孔質高分子膜からの漏出が多くなり、吸着体の寿命が短くなる傾向がある。10μmより大きくなると、イオン吸着速度が小さくなる場合がある。
本発明に用いられる金属含水酸化合物の含水率は、2〜20重量%であることが好ましく、比表面積は、30m/g以上であることが、良好なイオン吸着性能を得るうえで好ましい。含水率は、金属含水酸化物を室温から500℃に昇温した時の重量減少率で定義されるが、含水率が2重量%未満ではイオン吸着性能が低くなりやすい。含水率が20重量%より大きいと、水中への溶解度が大きくなり、寿命が短くなる傾向がある。比表面積は30m/g未満になるとイオン吸着性能が小さくなることがある。
【0014】
次に、本発明で用いられる多孔質高分子膜について説明する。
本発明の多孔質高分子膜は、平均孔径が0.1〜2μmであることが好ましい。平均孔径が0.1μm未満では、該膜中の水の透過速度が小さくなるため、イオン吸着速度が低下しやすい。2μmより大きいと、金属含水酸化物の粒子が該膜を通して抜け出てしまう場合がある。また、孔の大きさを膜の厚さ方向で変化させて、極薄の緻密層を有する多孔質高分子膜を用いることも、透水性を保ちながら大きな強度を保持する上で好ましい。
多孔質高分子膜に用いる高分子の例としては、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、尿素樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。
【0015】
疎水性高分子中に親水性の材料を添加したり、高分子を親水化処理することにより親水性を付与することも可能である。
親水性の材料を添加する方法としては、例えば、適切な大きさの親水性の無機化合物粒子を高分子中に分散する方法や親水性の高分子材料を混合する方法がある。親水性の無機化合物の例としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、ケイ酸カルシウム、チタン酸バリウムなどが挙げられる。無機化合物の添加量は、5〜80重量%が好ましい。粒子径としては、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは1μm以下である。親水性の高分子材料としては、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、尿素樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系樹脂などがある。
【0016】
親水化処理としては、電子線照射、ガンマ線照射、コロナ処理のような物理的な方法で高分子表面に親水性を付与したり、親水性を有する有機化合物で高分子表面を処理する方法がある。親水性を付与する有機化合物の存在下で、電子線照射またはガンマ線照射を行うことにより、高分子表面に親水性官能基を形成することも可能である。また、親水性を付与できるモノマーを用い、ラジカル開始剤を添加して反応し、親水性を有するモノマーを高分子表面に修飾して親水性を付与することも可能である。
ポリオレフィン系樹脂やフッ素系樹脂に、上記のような処理を施して親水性を付与した材料は、耐薬品性や耐熱性も良好であり、本発明の多孔質高分子膜としてとくに好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリブテンなどの単独、それらの共重合体、あるいはそれらの混合物を用いることが可能である。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、テトラフロロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体などの単独、それらの共重合体、あるいはそれらの混合物を用いることが可能である。
【0017】
本発明で用いる多孔質高分子膜は、水中に溶存するイオンの拡散速度を大きくするために、連通空孔を有していることが好ましい。
また、本発明における多孔質高分子膜は、水に対する濡れ性が良好なことが好ましく、水に対する接触角が50度以下であることが好ましい。より好ましくは30度以下、さらに好ましくは20度以下である。また、透水率も高い方が好ましく、0.1m3/m/日以上であることが好ましい。
本発明の多孔質高分子膜の空隙率は、25%から90%であることが好ましい。多孔質高分子膜の空隙率とは、多孔質高分子膜の全体積に占める空隙の体積の割合を示すものである。空隙率が25%未満では、水に溶存しているイオンの拡散速度が小さくなるために吸着体の吸着性能が低下する傾向がある。また、空隙率が90%より大きいと、多孔質高分子膜の強度を保持することができなくなる場合がある。
【0018】
本発明の多孔質高分子膜の強度は、引張強度として10kg/cm以上が好ましく、突き刺し強度が20g以上であることが好ましい。
多孔質高分子膜の膜厚は、使用時において強度が保持できれば、できるかぎり薄い方が大きなイオン吸着速度を得る上では好ましい。多孔質高分子膜の膜厚は、強度と透水性を勘案して、必要に応じて選択することができる。
本発明の多孔質高分子膜製造方法の代表的な例について説明する。
融点の異なる2種類以上の熱可塑性高分子を混合加熱し、金型から押出し成形することにより得られるシートを一軸方向に延伸する。次にその延伸方向と直交する方向に延伸することにより、多孔質高分子膜を得ることができる。延伸倍率や延伸温度などを制御することにより、所望の平均孔径と膜厚にすることができる。その際に、熱可塑性高分子に、加工性を向上したり、空隙を形成する目的で、可塑剤をあらかじめ混合しておくことも可能である。さらには、可塑剤を含有する浴中に浸漬させた後に延伸することも、空隙率を制御しやすくなるという点で好ましい。また、弾性率の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂と可塑剤を混合し、一定の温度で延伸することにより多孔質高分子膜を得ることもできる。
【0019】
また、熱可塑性樹脂、可塑剤、および親水性の無機化合物をよく混合し、熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加熱して、膜状、円筒状、あるいは中空糸状に成形した後、可塑剤を有機溶媒で抽出することにより、多孔質高分子膜を得ることもできる。その際に、添加してある無機化合物を、適当な形状に成形後に抽出することにより、空隙率の大きい多孔質高分子膜を得ることも可能である。平均孔径、空隙率は、熱可塑性高分子と熱可塑性高分子と相溶性のある液体状の可塑剤、および/もしくは無機化合物の混合比を変えることによって制御することができる。ポリオレフィン系樹脂やフッ素系樹脂では、上記の方法で良好な多孔質高分子膜を得ることが可能である。
【0020】
本発明における多孔質高分子膜は、多孔質高分子膜に成形した後に、前述と同様の方法により、親水化することができる。
本発明における多孔質高分子膜は、複数の多孔質高分子膜を積層したものでもよく、多孔質高分子膜の機械的強度を増すために、高分子材料からなる不織布、網状、ネットなどと複合化することも好ましい。
本発明の吸着体は、多孔質高分子膜に金属含水酸化物を封入することにより得ることができる。金属含水酸化物を封入する方法は、多孔質高分子膜を袋状や円筒状に成形して、その中に封入する方法が好ましい。袋や円筒の大きさは、用途に応じて変更すればよい。また、多孔質高分子膜を中空糸状に成形して、中空糸内部に金属含水酸化物を充填したり、円筒状のケースに中空糸を設置して、中空糸と該ケースの間の空間に金属含水酸化物を充填する方法も好ましい。また、金属や高分子材料で形成された開口部のあるケースに該金属含水酸化物を充填して、開口部に該多孔質高分子膜を設けることも本発明の中に含まれる。
【0021】
封入する方法は、ヒートシール、高周波シール、接着剤によるシールなど、使用する多孔質高分子膜の種類によって選択することができる。
中空糸状の多孔質高分子膜の内部に金属含水酸化物を充填する方法の例としては、複数の中空糸を束ねて両端を固定し、中空糸の中に金属含水酸化物を充填した後に、例えば本発明で用いるような平膜状の多孔質高分子膜をフィルタとして使い、金属含水酸化物を封入する方法がある。または、中空糸の中に金属含水酸化物を充填した後に、延伸して所望の径の中空糸としてから、複数の延伸した中空糸を束ねて両端を固定し、例えば本発明で用いるような平膜状の多孔質高分子膜をフィルタとして使い、金属含水酸化物を封入する方法がある。
【0022】
本発明の吸着体を使用して、水中に存在する微量のフッ化物イオン、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンを選択的に除去することができる。吸着処理方法としては、上記の平膜状や円筒状に成形された吸着体を、被処理水溶液中に浸漬して攪拌する方法や、固定床や流動のカラムに該吸着体を充填して被処理水溶液を通水する方法がある。とくに、金属含水酸化物を、シート状の多孔質高分子膜により、ティーバッグ状にヒートシールして封入した吸着体は、吸着処理のための装置もほとんど必要がないため、どこでも使用できることが特長である。
また、中空糸内部に該金属含水酸化物を充填して、被処理水溶液を通水して、水中に存在する微小な固体状不純物や細菌などのろ過と、水中に存在する微量のフッ化物イオンあるいは砒酸イオンと亜砒酸イオンの吸着処理を同時に行うことも可能である。
【0023】
水中に微量に存在するフッ化物イオンを吸着処理するためには、被処理水溶液のpHを5以下にして本発明の吸着体と接触させ、再生する際には、pH12以上のアルカリ水溶液と接触させる方法が挙げられる。
水中に微量に存在する砒酸イオンや亜砒酸イオンを吸着処理するためには、被処理水溶液のpHを10以下、好ましくは中性付近にして本発明の吸着体と接触させればよい。再生する際には、1mol/l以上の濃度のアルカリ水溶液を吸着体と接触させればよい。
【実施例】
【0024】
本発明を実施例によって具体的に説明する。
本発明に用いられる測定法は、以下のとおりである。
(1) 金属含水酸化物の一次粒子径は、走査型電子顕微鏡観察で得られる100μm 角の視野の画像における凝集粒子中の一次粒子径の平均値を計算することによ り求める。
(2) 金属含水酸化物の凝集粒子径は、走査型電子顕微鏡観察で得られる100μm 角の視野の画像における凝集粒子径の平均値から求める。
(3) 金属含水酸化物の比表面積は、窒素ガスを用いるBET吸着法により求める。
(4) 多孔質高分子膜の接触角は、水を用いる接触角測定法により測定する。
(5) 多孔質高分子膜の平均孔径は、走査型電子顕微鏡観察で得られる500μm角 の視野の画像における孔径の平均値を計算することにより求める。
(6) 多孔質項分子膜の空隙率は、水銀ポロ氏メーターにより測定する。
(7) 多孔質高分子膜の破断強度は、先端が半球状で1mm直径の針を突き刺した時 の破断応力により求める。
(8) 吸着試験における水溶液中のフッ化物イオン濃度は、イオンクロマト法によ り、砒酸イオンの濃度は、水素化物発生誘導結合プラズマ発光分析法により測 定する。
【0025】
[実施例1]
ポリエチレン30重量%、ポリプロピレン10重量%、ジオクチルフタレート40重量%、およびシリカ20重量%からなる混合物を180℃で加熱混合し、平膜状に成形加工、ついでジメチルホルムアミドに浸漬することにより、膜厚が30μm、平均孔径が0.44μmで空隙率が40%の多孔質高分子膜を得た。多孔質高分子膜の破断強度は35g、水接触角は10度であった。
酸化セリウム72.2重量%、酸化プラセオジウム6.9重量%、および酸化ネオジウム20.9重量%からなる一次粒子径が0.03μmで、凝集粒子径が3μm、含水率が12.5重量%の希土類含水酸化物の混合物1gを、面積(ヒートシールした時の多孔質高分子膜の裏表の面積の合計)が5cmの多孔質高分子膜に封入して、ヒートシールすることにより、1個の吸着体を製造した。
【0026】
吸着体の1個を、50mg/lのフッ化物イオン、および0.1mg/lの砒酸イオンを含有したpH4の水溶液1l中に投入し、塩酸でpHを調整しながら24時間攪拌した。吸着試験後のフッ化物イオン濃度は0.03mg/l、砒酸イオン濃度は0.001mg/l以下であった。
吸着体を取り出し、100mlの1mol/l水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して1時間攪拌し、吸着しているイオンを脱着し、ついで水洗することにより吸着体を再生することができた。
【0027】
[実施例2]
ポリフッ化ビニリデン40重量%、ジオクチルフタレート35重量%、およびシリカ25重量%からなる混合物を250℃で加熱混合し、中空糸状に成形、ついでジメチルホルムアミドに浸漬することにより、膜厚が25μm、平均孔径が0.28μmで空隙率が52%の中空糸状の多孔質高分子膜を得た。多孔質高分子膜の破断強度は45gであった。
酸化セリウム98重量%、他の希土類元素酸化物2重量%からなる一次粒子径が0.03μmで、凝集粒子径が2.8μm、含水率が13重量%の希土類含水酸化物の混合物を、中空糸状の多孔質高分子膜の内部に充填し、希土類含水酸化物の混合物を10g含有した中空糸からなるカラムを作製した。
カラムにおいて、中空糸の外側からフッ化物イオンを50mg/l含有するpH3の水溶液を100ml/hrの速度で通液し、中空糸の内部から処理液を得た。処理液中のフッ化物イオン濃度は、50時間の通水時において0.04mg/lであった。
カラムに1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を50ml通液してフッ化物イオンを脱着せしめて、水洗、ついでpH調整することにより、再生することが可能であった。
[実施例3]
ポリエチレン75重量%とポリプロピレン25重量%からなる混合物を200℃で加熱混合し、平膜状に成形し、ついで延伸することにより、膜厚が30μm、平均孔径が0.36μmで空隙率が40%の多孔質高分子膜とした。この多孔質高分子膜に、ポリオキシエチレン基を有するビニルモノマーと架橋剤の混合液を含浸した後に、ガンマ線照射を行った。
酸化セリウム65.8重量%、酸化プラセオジウム5.5重量%、酸化ネオジウム16.5重量%、および酸化サマリウム12.2重量%からなる一次粒子径が0.025μmで、凝集粒子径が3μm、含水率が11.8重量%の希土類含水酸化物の混合物1gを、有効表面積が5cmの多孔質高分子膜に封入して、ヒートシールすることにより、1個の吸着体を製造した。
吸着体の1個を、50mg/lのフッ化物イオン、および0.1mg/lの砒酸イオンを含有したpH4の水溶液1l中に投入し、塩酸でpHを調整しながら24時間攪拌した。吸着試験後のフッ化物イオン濃度は0.02mg/l、砒酸イオン濃度は0.001mg/l以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、水中に存在する微量のフッ化物イオン、砒酸イオンあるいは亜砒酸イオンを効率よく吸着除去でき、さらに再生して繰り返し使用可能なので、飲料水などの水利用の吸着剤にはとくに好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含水酸化物からなるイオン交換体であって、金属含水酸化物が、Zr、Tiおよび希土類から選ばれた少なくとも一つの金属の含水酸化物であり、前記イオン交換体が多孔質高分子膜で封入されている吸着体。
【請求項2】
金属含水酸化物は、粒子状であり、その一次粒子径の平均値が0.005〜0.1μmであり、かつ凝集粒子径の平均値が1〜10μmである請求項1記載の吸着体。
【請求項3】
多孔質高分子膜は、平均孔径が0.1〜2μmである請求項1記載の吸着体。
【請求項4】
多孔質高分子膜は、ポリオレフィン系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系樹脂、ポリスルホン系樹脂またはフッ素系樹脂からなる膜である請求項1記載の吸着体。
【請求項5】
金属含水酸化物からなるイオン交換体が、袋状、円筒状または中空糸状に成形された多孔質高分子膜で封入された構造である請求項1記載の吸着体。

【公開番号】特開2006−818(P2006−818A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182673(P2004−182673)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】