説明

周波数検出装置

【課題】不平衡成分や高調波成分の影響を受けることなく電力系統の周波数を高い精度で検出する。
【解決手段】周波数検出装置1Aは複素係数BPFを含む外乱除去部2Aで電力系統の三相交流電圧vu,vv,vwに含まれる不平衡成分及び高調波成分を除去し、周波数検出部3Aで三相交流電圧の基本波成分のみを用いて電力系統の周波数fsを検出する。周波数検出部3Aは、外乱除去部2Aから出力される互いに直交する二相電圧(cos(2πfs・t),sin(2πfs・t))を、通過帯域での位相差特性がf=p・ψ+qの関係を有する複素係数BPFからなる第2複素係数フィルタ部14に入力し、その出力信号(cos 2πfs・t+ψ),sin(2πfs・t+ψ))と入力信号との位相差ψを位相差算出部15で算出する。周波数算出部16でその位相差ψに対する位相特性の関係式を演算することにより電力系統の周波数fsを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の交流信号の周波数を検出する周波数検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統の交流信号の周波数を検出する方法として、電力系統の交流電圧を検出し、その交流電圧がゼロレベルを交差する点間のパルスをカウントし、そのカウント値の逆数を取って周波数を求める方法(以下、「ゼロクロス点間カウント法」という。)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電力系統の交流電圧の瞬時値を電圧検出器で検出し、その検出値を所定の周期でサンプリングし、そのサンプリング値をゼロレベルと比較することにより交流電圧がゼロレベルを交差する点(ゼロクロス点)を検出する。そして、ゼロクロス点の検出信号を用いて、隣り合うゼロクロス点間の時間Tを、例えばクロックのパルス数をカウントすることで計測し、その計測値Tを用いて1/(2T)を演算することにより電力系統の周波数fs(以下、「系統周波数」という。)を検出する方法が記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、乗算式PLL(Phase Locked Loop)方式により電力系統の交流電圧の位相を検出する位相検出装置が記載され、その位相検出装置に内蔵される積分器の分子を2πとすることにより積分器の入力を周波数と見なして周波数を検出したり、積分器に入力される角周波数を2πで割って周波数を求めたりする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2006−25550号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「電力系統事故時の異常電圧に対処したPLLおよび周波数検出方式」 電学論B,118巻9号,平成10年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電力系統の交流信号には系統周波数fsの基本波正相成分(以下、単に「基本波成分」という。)の他に基本波逆相成分(以下、「不平衡成分」という。)や低次の高調波成分(例えば、5次,7次,11次の高調波成分。以下、単に「高調波成分」という。)が含まれることが多い。従来のゼロクロス点間カウント法による周波数検出方法では、これらの成分が検出電圧に含まれていると、検出電圧の波形が正確に基本波成分の波形にならず(波形歪が生じ)、基本波成分の波形のゼロクロス点を正確に検出できないので、十分な系統周波数fsの検出精度を得ることができないという問題がある。
【0008】
乗算式PLL法を用いた位相検出装置内の角周波数を利用して周波数を検出する方法でも同様の問題がある。特に、乗算式PLL法を用いた位相検出装置は、装置内で位相を生成し、その位相と入力される交流信号の位相との位相差を算出し、その位相差がゼロとなるように生成位相を制御することによって入力される交流信号の位相を検出するから、位相差が生じた場合は、位相検出装置内で生成される位相が検出対象の位相からずれることになる。従って、位相検出装置内で生成される位相から周波数を算出する方法では、電力系統の交流信号の周波数が変動した場合の検出精度や応答速度の点で問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、不平衡成分や高調波成分の影響を受けることなく高い精度で交流信号の周波数を検出することができる周波数検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の周波数検出装置は、電力系統の交流信号の周波数を検出する周波数検出装置であって、前記交流信号に含まれる不平衡成分と高調波成分を除去する複素係数フィルタからなるフィルタ手段と、前記フィルタ手段から出力される交流信号を用いて前記電力系統の交流信号の基本波成分の周波数を検出する周波数検出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の周波数検出装置において、前記フィルタ手段は、中心周波数が前記電力系統の交流信号の周波数に設定された帯域通過型の複素係数フィルタであるとよい(請求項2)。また、前記周波数検出手段は、中心周波数が前記電力系統の交流信号の周波数に設定され、通過帯域で位相差が直線的に変化する位相特性を有する通過帯域型の複数係数フィルタからなる第2のフィルタ手段と、前記第2のフィルタ手段に入力される入力信号と前記第2のフィルタ手段から出力される出力信号との位相差を算出する位相差算出手段と、前記第2のフィルタ手段の前記位相特性を用いて前記位相差算出手段で算出された位相差から前記交流信号の基本波成分の周波数を算出する周波数算出手段と、を含む構成にするとよい(請求項3)。
【0012】
また、前記周波数算出手段は、前記位相特性に基づき前記通過帯域における位相差から周波数を求めるための所定の関係式が設定されており、前記位相差算出手段で算出された算出値に対して前記関係式の演算処理をすることにより前記交流信号の基本波成分の周波数を算出するとよい(請求項4)。例えば、前記関係式は、周波数fが位相差ψに対してf=p・ψ+q(p:係数、q:定数)で表わされる関係式である(請求項5)。また、前記周波数算出手段は、前記位相特性に基づき前記通過帯域における位相差と周波数との関係を示す所定のテーブルが設定されており、そのテーブルから前記位相差算出手段で算出された算出値に対応する周波数を読み出すことにより前記交流信号の基本波成分の周波数を求めるとよい(請求項6)。
【0013】
また、請求項1又は2に記載の周波数検出装置において、前記周波数検出手段は、位相差が中心周波数では零で、当該中心周波数より大きい周波数領域では負になり、小さい周波数領域では正になる位相特性を有し、かつ、前記中心周波数が変更可能な通過帯域型の複数係数フィルタからなる第2のフィルタ手段と、前記第2のフィルタ手段に入力される入力信号と前記第2のフィルタ手段から出力される出力信号との位相差を算出する位相差算出手段と、前記位相差算出手段で算出される位相差が正の場合は、その位相差が零になるまで前記第2のフィルタ手段の中心周波数を所定の変化量で低下させ、前記位相差算出手段で算出される位相差が負の場合は、その位相差が零になるまで前記第2のフィルタ手段の中心周波数を前記変化量で上昇させ、変化後の中心周波数を周波数の検出値として出力する中心周波数制御手段と、を含む構成にするとよい(請求項7)。
【0014】
請求項7に記載の周波数検出装置において、前記フィルタ手段は、阻止周波数が前記電力系統の交流信号の周波数の不平衡成分と所定の次数の高調波成分とに設定され、当該阻止周波数が変更可能な通過阻止型の複数係数フィルタであり、前記中心周波数制御手段から出力される中心周波数に基づいて、当該中心周波数に対して不平衡成分と所定次数の高調波成分となるように前記フィルタ手段の阻止周波数を制御する阻止周波数制御手段を更に備えるとよい(請求項8)。
【0015】
この場合、前記フィルタ手段の前記阻止周波数制御手段には、更に中心周波数が前記電力系統の交流信号の周波数に設定された帯域通過型の複素係数フィルタが組み合わされているとよい(請求項9)。
【0016】
また、請求項1又は2に記載の周波数検出装置において、前記周波数検出手段は、前記フィルタ手段から出力される交流信号のレベルがゼロレベルを交差するゼロクロスタイミングを検出する検出手段と、前記検出手段により検出される前記ゼロクロスタイミングを用いて前記ゼロクロスタイミング間における所定のクロックパルスのパルス数をカウントし、そのカウント値を用いて前記電力系統の交流信号の基本波成分の周波数を算出する周波数算出手段と、を含む構成にするとよい(請求項10)。
【発明の効果】
【0017】
請求項1又は2に記載の周波数検出装置によれば、周波数検出手段の前段に交流信号に含まれる不平衡成分と高調波成分を除去する複数係数フィルタからなるフィルタ手段を設けているので、入力される電力系統の交流信号に含まれている不平衡成分と高調波成分を複数係数フィルタによって好適に除去することができる。従って、高速かつ高精度で電力系統の周波数を検出することができる。
【0018】
また、請求項3乃至6に記載の周波数検出装置によれば、電力系統の交流信号は、所定のサンプリング周期で、通過帯域で位相差が直線的に変化する位相特性(位相差ψと周波数fとがf=p・ψ+qの関係を有する特性。p,qは定数)を有する複素係数バンドパスフィルタに入力され、その入力信号と出力信号とから位相差ψが算出される。そして、その位相差ψに対してf=p・ψ+qの関係式を演算して周波数fが算出され、その算出値が周波数検出値として出力される。
【0019】
複素係数バンドパスフィルタに電力系統の交流信号の基本波成分のみを入力し、その入力信号と出力信号とから位相差ψを算出し、その位相差ψを用いてリニアな位相特性から周波数fを算出するので、電力系統の交流信号の入力に対して高い精度で周波数を連続的に検出することができる。
【0020】
また、請求項7に記載の周波数検出装置によれば、複素係数バンドパスフィルタの入力信号と出力信号とから算出された位相差ψがψ>0であれば、複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を低下させ、ψ<0であれば、複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を上昇させて、位相差ψがゼロとなるように複素係数バンドパスフィルタの中心周波数が制御される。複素係数バンドパスフィルタの中心周波数がψ=0となる周波数に制御されると、複素係数バンドパスフィルタの中心周波数は入力信号の周波数と一致するから、その制御値が周波数検出値として出力される。
【0021】
複素係数バンドパスフィルタに電力系統の交流信号を入力し、その入力信号と出力信号とから位相差ψを算出し、その位相差ψに基づき複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を電力系統の交流信号の基本波成分の周波数に一致させるように制御し、その制御値を周波数検出値として出力するので、電力系統の交流信号の入力に対して高い精度で周波数を連続的に検出することができる。
【0022】
また、請求項8又は9に記載の周波数検出装置によれば、第2のフィルタ手段を複素係数ノッチフィルタとし、位相差ψに基づく複素係数バンドパスフィルタの中心周波数の制御に連動して複素係数ノッチフィルタの阻止周波数を制御するので、不平衡成分や高調波成分を好適に除去することができる。
【0023】
また、請求項10に記載の周波数検出装置によれば、複素係数フィルタにより基本波成分のみが抽出された交流信号を用いてゼロクロス点間カウント法により当該交流信号の周波数を検出するので、従来のゼロクロス点間カウント法による周波数検出装置よりも高速かつ高精度で周波数を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る周波数検出装置の第1実施形態のブロック構成の一例を示す図である。
【図2】三相二相変換部の演算回路を示すブロック図である。
【図3】複素係数バンドパスフィルタを用いた第1複素係数フィルタ部の周波数特性を示す図である。
【図4】三相交流電圧の基本波成分と不平衡成分を説明するための図である。
【図5】複素係数バンドパスフィルタを用いた第1複素係数フィルタ部の演算処理を示すブロック図である。
【図6】複素係数バンドパスフィルタを用いた第1複素係数フィルタ部の複素演算処理を行う回路構成を示す図である。
【図7】不平衡成分と5次、7次、11次の高調波成分を含む三相交流電圧の波形を示す図である。
【図8】図7に示す三相交流電圧を複素係数フィルタ部でフィルタリングした三相交流電圧の波形を示す図である。
【図9】第2複素係数フィルタ部の通過帯域における位相特性の一例を示す図である。
【図10】位相差算出部の演算処理を行う回路構成を示す図である。
【図11】周波数算出部の演算処理を行う回路構成を示す図である。
【図12】第1実施形態に係る周波数検出装置の応答特性をシミュレーションした結果を示す図である。
【図13】図12に示すシミュレーション結果のシミュレーション開始から0.3秒後に周波数検出装置から出力される周波数の変動状態を拡大した図である。
【図14】本発明に係る周波数検出装置の第2実施形態のブロック構成の一例を示す図である。
【図15】第2実施形態の周波数検出装置における第2複素係数フィルタ部の複素演算処理を行う回路構成を示す図である。
【図16】本発明に係る周波数検出装置の第3実施形態のブロック構成を示す図である。
【図17】第3実施形態の周波数検出装置における第1複素係数フィルタ部に設けられる複素係数ノッチフィルタの多段構成を示す図である。
【図18】複素係数ノッチフィルタを用いた第1複素係数フィルタ部の周波数特性を示す図である。
【図19】複素係数ノッチフィルタを用いた第1複素係数フィルタ部の演算処理を示すブロック図である。
【図20】複素係数ノッチフィルタを用いた第1複素係数フィルタ部の複素演算処理を行う回路構成を示す図である。
【図21】第3実施形態に係る周波数検出装置の応答特性をシミュレーションした結果を示す図である。
【図22】図21に示すシミュレーション結果のシミュレーション開始から0.3秒後に周波数検出装置から出力される周波数の変動状態を拡大した図である。
【図23】本発明に係る周波数検出装置の第4実施形態のブロック構成を示す図である。
【図24】二相三相変換部の演算回路を示すブロック図である。
【図25】第4実施形態に係る周波数算出部の演算処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る周波数検出装置の第1実施形態のブロック構成を示す図である。
【0027】
図1に示す周波数検出装置1Aは、電力系統の三相交流電圧(U,V,Wの各相の相電圧)vu,vv,vwを検出した電圧に含まれる不平衡成分や高調波成分など(周波数検出処理で外乱となる成分)を除去する外乱除去部2Aと、帯域通過型の複素係数フィルタ(複素係数バンドパスフィルタ)の位相特性を用いて外乱除去部2Aから出力される交流信号(電力系統の三相交流の基本波成分)の周波数を算出する周波数検出部3Aで構成されている。
【0028】
外乱除去部2Aは、電力系統に設けられた電圧検出器から入力される三相交流電圧vu,vv,vw(所定のサンプリング周期で入力される瞬時値)を互いに直交する二相交流電圧vα,vβに変換する三相/二相変換部11と、三相/二相変換部11から出力される二相交流電圧vα,vβに含まれる不平衡成分(周波数−fsの成分)と所定次数の高調波成分(主として5次高調波成分(−5fs)、7次高調波成分(+7fs)、11次高調波成分(−11fs)などの高調波成分)を除去する複素係数フィルタを用いた第1複素係数フィルタ部12と、第1複素係数フィルタ部12から出力される不平衡成分及び高調波成分を含まない二相交流電圧vr,vjを正規化する正規化部13と、を含む。なお、第1複素係数フィルタ部12のゲインを調整することにより正規化部13を省略することができる。
【0029】
三相/二相変換部11は、電圧検出器から入力される三相交流電圧vu,vv,vwを二相交流電圧vα,vβに変換する。対称三相交流電圧vu,vv,vwは、図4(a)に示すように、u軸を位相θの基準軸とし、u軸に対して±2π/3の角度で開いた方向にv軸とw軸を反時計回りに配置したuvw座標系において、角速度ωで反時計回りに回転する電圧ベクトルVのu軸成分、v軸成分及びw軸成分と考えることができる。また、二相交流電圧vα,vβは、同図(a)に示すように、uvw座標系にu軸に沿うα軸とそのα軸に直交するβ軸とによるαβ座標系を設定した場合の電圧ベクトルVのα軸成分とβ軸成分と考えることができる。従って、三相二相変換処理は、三相交流電圧vu,vv,vwを二相交流電圧vα,vβに変換する処理である。
【0030】
三相交流電圧vu,vv,vwを二相交流電圧vα,vβに変換する変換式は、
【数1】

である。
【0031】
従って、三相/二相変換部11は、(1)式,(2)式の演算を行うことにより、電圧検出器から入力される三相交流電圧vu,vv,vwを二相交流電圧vα,vβに変換する。
【0032】
図2は、三相二相変換部11の演算回路を示すブロック図である。同図に示すように、三相二相変換部11は、5個の乗算器11a〜11eと2個の加算器11f,11gで構成される。乗算器11a,11b,11dは、それぞれ(1)式の各項を演算する演算器であり、乗算器11c,11eは、それぞれ(2)式の各項を演算する演算器である。また、加算器11fは(1)式の各項を加算する演算器であり、加算器11gは(2)式の各項を加算する演算器である。
【0033】
電圧検出器で検出される電力系統の三相交流電圧vu,vv,vwは、一般に、基本波成分以外に不平衡成分や3次、5次、7次、11次などの奇数次の高調波成分(図3の周波数成分参照)が含まれる非対称三相交流電圧である。従って、三相二相変換部11からはこれらの成分についても三相二相変換した成分を含む二相交流電圧vα’,vβ’が出力される。
【0034】
三相交流電圧vu,vv,vwの基本波成分vsu,vsv,vswは、基本波の電圧ベクトルVsのuvw座標系におけるu、v、wの各軸方向の成分として定義されるものである。一方、三相交流電圧vu,vv,vwの不平衡成分vsu’,vsv’,vsw’は、図4(b)に示すように、uvw座標系に対してu軸、v軸及びw軸の配列順が逆になっているuwv座標系において、各不平衡成分vsu’,vsv’,vsw’が基本波の電圧ベクトルVsのu、v、wの各軸方向の成分として定義されるものである。
【0035】
従って、基本波成分vsu,vsv,vswを、
su=As・cos(ω・t) …(3A)
sv=As・cos(ω・t-2π/3) …(3B)
sw=As・cos(ω・t-4π/3) …(3B)
但し、As;基本波成分の振幅
とすると、不平衡成分vsu’,vsv’,vsw’は、
su’=As’・cos(ω・t) …(4A)
sv’=As’・cos(ω・t-4π/3) …(4B)
sw’=As’・cos(ω・t-2π/3) …(4C)
但し、As’;不平衡成分の振幅
で表わされる。
【0036】
(3A)式〜(3C)式を(1)式と(2)式に代入すると、三相/二相変換部11から出力される基本波成分の二相交流電圧vsα,vsβは、
sα=√(3/2)・As・cos(ωs・t) …(5)
sβ=√(3/2)・As・sin(ωs・t) …(6)
となる。また、(4A)式〜(4C)式を(1)式と(2)式に代入すると、三相/二相変換部11から出力される不平衡成分の二相交流電圧vsα’,vsβ’は、
sα’=√(3/2)・As’・cos(ωs・t) …(7)
sβ’=−√(3/2)・As’・sin(ωs・t) …(8)
となる。
【0037】
cos(ωs・t)=cos(−ωs・t)、−sin(ωs・t)=sin(−ωs・t)であるから、これらを(7)式、(8)式に代入すると、
sα’=√(3/2)・As’・cos(−ωs・t) …(7’)
sβ’=√(3/2)・As’・sin(−ωs・t) …(8’)
となる。
【0038】
(7’)式及び(8’)式と(5)式及び(6)式を比較すると、基本波成分の角周波数は「ωs」であるのに対し、不平衡成分の角周波数は「−ωs」である点が相違する。角周波数ωsを「正の周波数」とすると、不平衡成分の角周波数−ωsは「負の周波数」となるから、不平衡成分vsu’,vsv’,vsw’を三相二相変換して得られる二相交流電圧vsα’,vsβ’は負の周波数を有する電圧ということができる。二相交流電圧vsα,vsβを成分とする電圧ベクトルVsをVs=As・exp(j・ωs・t)で表わすと、二相交流電圧vsα’,vsβ’を成分とする電圧ベクトルVs’はVs’=As’・exp(-j・ωs・t)で表わされる。
【0039】
図3において、基本波成分を正の周波数領域の周波数「fs」の位置に表示し、不平衡成分の周波数を「−fs」として不平衡成分を負の周波数領域の周波数「−fs」の位置に表示しているのは上記の周波数の関係を示している。なお、図3には、周波数検出に影響のある5次、7次、11次の高調波成分のみを描いている。3の整数倍の高調波成分は線間電圧には表れず、相電圧でもΔ結線のトランスで除去され、11次よりも大きい奇数次の高調波成分はレベルが小さく、無視し得るから、図3には記載していない。
【0040】
不平衡成分が負の周波数になるのは、不平衡成分の相順(uvwが時計回りの順)が基本波成分の相順(uvwが反時計回りの順)に対して逆になるからである。従って、基本波成分の周波数fsをn倍(n:2以上の整数)したn次高調波成分を三相二相変換した二相交流電圧vnα,vnβ(添え字のnは次数。以下、同じ)の角周波数ωnが基本波成分の二相交流電圧vsα,vsβと同じの符号になる場合は、そのn次高調波成分の周波数fnは正の周波数となり、n次高調波成分vnu,vnv,vnwの相順は基本波成分vsu,vsv,vswの相順と同一になる。逆に、二相交流電圧vnα,vnβの角周波数ωnが基本波成分の二相交流電圧vsα,vsβと逆の符号になる場合は、そのn次高調波成分の周波数fnは負の周波数となり、n次高調波成分vnu,vnv,vnwの相順は基本波成分vsu,vsv,vswの相順と逆になる。
【0041】
5次、7次、11次の高調波成分は、U,V,Wの各相の電圧ベクトルをVnu,Vnv,Vnwと表記し、電圧ベクトルVnをVn=An・exp(j・n・ωs・t)(An:n次高調波成分の振幅)とすると、
nu=An・cos(n・ωs・t) …(9)
nv=An・cos(n・ωs・t-n・2π/3) …(10)
nw=An・cos(n・ωs・t-n・4π/3) …(11)
但し、n=5,7,11
で表わされる。
【0042】
(9)式〜(11)式を(1)式、(2)式に代入して5次,7次,11次の高調波成分の二相交流電圧(V5α,V5β),(V7α,V7β),(V11α,V11β)を算出すると、
5α=√(3/2)・A5・cos(−5ωs・t) …(12)
5β=√(3/2)・A5・sin(−5ωs・t) …(13)
7α=√(3/2)・A7・cos(7ωs・t) …(14)
7β=√(3/2)・A7・sin(7ωs・t) …(15)
11α=√(3/2)・A11・cos(−11ωs・t) …(16)
11β=√(3/2)・A11・sin(−11ωs・t) …(17)
となる。
【0043】
(12)式〜(17)式より、5次,11次の高調波成分は負の周波数を有し、7次の高調波成分は正の周波数を有するから、図3では、5次高調波成分と11次高調波成分は、負の周波数領域の周波数「−5fs」と「−11fs」の位置にそれぞれ表示され、7次高調波成分は正の周波数領域の周波数「7fs」の位置に表示されている。
【0044】
従って、三相/二相変換部11から複素係数フィルタ部12には、(5)式、(6)式、(7’)式、(8’)式、(12)式〜(17)式で表わされる基本波成分、不平衡成分及び5次、7次、11次の高調波成分の二相交流電圧(vsα,vsβ),(vsα’,vsβ’),(vnα,vnβ)(n=5,7,11)を含む二相交流電圧vα’,vβ’が出力される。
【0045】
三相交流電圧vu,vv,vwに、不平衡成分や5次,7次,11次の高調波成分が含まれている場合、加算器11fからは(5)式,(7’)式,(12)式,(14)式,(16)式の演算結果の合成値が出力され、加算器11gからは(6)式,(8’)式,(13)式,(15)式,(17)式の演算結果の合成値が出力される。
【0046】
第1複素係数フィルタ部12は、z変換表現による伝達関数H(z)が下記の(18)式で表される1次のIIRフィルタからなる複素係数バンドパスフィルタ(BPF)で構成される。(18)式において、複素係数a1におけるfd[Hz]は、通過帯域の中心周波数f0をサンプリング周波数で正規化した正規化周波数である。また、Ωd[rad/s]は、正規化角周波数である。例えば、サンプリング周波数を「fsr」とし、中心周波数f0を系統周波数fsに設定すると、fdはfs/fsr、Ωdは2π・fd=2π・(fs/fsr)となる。なお、正規化した角周波数Ωdは、−π<Ωd<πである。また、rは、通過帯域の帯域幅を決めるパラメータ(0<r<1)である。
【0047】
【数2】

【0048】
図5は、上記(18)式の演算処理を行う処理回路を示すブロック図である。同図に示すように、第1複素係数フィルタ部12は、(18)式の分母の演算処理がフィードバック回路で構成され、そのフィードバック回路の出力に分子の係数b0を乗算する回路によって構成される。
【0049】
図5に示すブロック図において、u[k](k:離散時間を表すインデックス番号)は入力データ、x[k]は第1複素係数フィルタ部12の状態データ、y[k]は第1複素係数フィルタ部12の出力データである。入力データu[k]、状態データx[k]及び出力データy[k]の間には、
x[k]=r・exp(j・Ωd)・x[k-1]+u[k] …(19)
y[k]=(1−r)・x[k] …(20)
が成立する。
【0050】
第1複素係数フィルタ部12は複素係数バンドパスフィルタで構成されるので、入力データu[k]が複素データか実データ(複素データの虚数部が「0」のデータ)かに関わらず、状態データx[k]及び出力データu[k]が複素信号のデータとなる。従って、入力データu[k]、状態データx[k]及び出力データy[k]をそれぞれu[k]=ur[k]+j・uj[k]、x[k]=xr[k]+j・xj[k]、y[k]=yr[k]+j・yj[k]の複素データ、複素係数a1をa1=r・exp(j・Ωd)=ar+j・aj=r・cos(Ωd)+j・r・sin(Ωd)として(19)式と(20)式に代入し、実数部と虚数部の関係式に分けると、
r[k]=r・cos(Ωd)・xr[k-1]−r・sin(Ωd)・xj[k-1]+ur[k] …(21)
j[k]=r・cos(Ωd)・xj[k-1]+r・sin(Ωd)・xr[k-1]+uj[k] …(22)
r[k]=(1−r)・xr[k] …(23)
j[k]=(1−r)・xj[k] …(24)
となる。
【0051】
図6は、(21)式〜(24)式に基づき第1複素係数フィルタ部12の複素演算処理を行う回路構成を示す図である。同図において、係数arと係数ajはそれぞれ複素係数a1=r・exp(j・Ωd)の実数部と虚数部であり、ar=r・cos(Ωd)、aj=r・sin(Ωd)である。
【0052】
同図に示すように、第1複素係数フィルタ部12は、6個の乗算器12a〜12fと、2個の加算器12g,12hと、2個の遅延回路12i,12jで構成される。遅延回路12iは、状態データの実数部xr[k-1]を生成する回路であり、遅延回路12jは、状態データの虚数部xj[k-1]を生成する回路である。乗算器12a,12bはそれぞれ(21)式の第1項と第2項(負の符号を含む)を演算する演算器であり、加算器12gは(21)式の第1項と第2項と第3項を加算する演算器である。従って、加算器12gから(21)式で示す状態データの実数部xr[k]が出力される。
【0053】
一方、乗算器12c,12dはそれぞれ(22)式の第1項と第2項を演算する演算器であり、加算器12hは(22)式の第1項と第2項と第3項を加算する演算器である。従って、加算器12hから(22)式で示す状態データの虚数部xj[k]が出力される。また、乗算器12e,12fはそれぞれ(23)式と(24)式を演算する演算器である。
【0054】
本実施形態では、三相二相変換部11を設け、三相交流電圧vu,vv,vwを互いに直交する二相交流電圧vα,vβに変換しているが、二相交流電圧vα,vβは、それぞれ複素データur+j・ujの実数部と虚数部に対応させることができるので、二相交流電圧vαのサンプリングデータを入力データの実数部ur[k]として加算器12gに入力し、二相交流電圧vβのサンプリングデータを入力データの虚数部uj[k]として加算器12hに入力している。
【0055】
二相交流電圧vαのサンプリングデータが第1複素係数フィルタ部12に入力される毎に、遅延回路12i、乗算器12a,12b,12e及び加算器12gで(21)式及び(23)式の演算処理が繰り返され、これにより、乗算器12eからは(5)式で示される基本波成分を三相二相変換した二相交流電圧vsαのみの出力データyr[k]が出力される。また、二相交流電圧vβのサンプリングデータが第1複素係数フィルタ部12に入力される毎に、遅延回路12j、乗算器12c,12d,12f及び加算器12hで(22)式及び(24)式の演算処理が繰り返され、これにより、乗算器12fからは(9)式で示される基本波成を三相二相変換した二相交流電圧vsβのみの出力データyj[k]が出力される。
【0056】
バンドパスフィルタを実係数の2次IIRフィルタで構成した場合、その2次IIRフィルタの伝達関数H(z)(z=exp(j・ω))は、
H(z)=(1-r2+2(r-1)・r・cos(Ωd)・z-1)/(1-2r・cos(Ωd)・z-1+ r2・z-2)
で表わされる。この伝達関数H(z)の振幅特性M(ω)を求めると、(1-2r・cos(Ωd±ω)+r2)=0を満たすωで極が表れるから、2次IIRフィルタはその極の周波数を通過させる特性を有する。r≒1とすると、cos(Ωd±ω)≒1より、2次IIRフィルタを通過させる正規化周波数fdはfd=±Ωd/2πとなるから、正規化角周波数Ωdを基本波成分の角周波数に設定した実係数の2次IIRフィルタでは、不平衡成分(fd=−Ωd/2πの成分)も通過させることになる。
【0057】
(18)式に示す伝達関数H(z)の振幅特性M(ω)求めると、M(ω)=(1−r)/√{1−2r・cos(Ωd−ω)+r2}となり、(1−2r・cos(Ωd−ω)+r2)=0を満たすωだけに極が表れるから、正規化角周波数Ωdを基本波成分の角周波数(ω=Ωd)に設定した複素係数の1次IIRフィルタでは、基本波成分(fd=Ωd/2πの成分)だけを通過させ、不平衡成分や高調波成分を通過させることはない。
【0058】
図7は、不平衡成分と5次、7次、11次の高調波成分を5%含む三相交流電圧vu,vv,vwの波形を示す図である。図8は、図7に示す三相交流電圧vu,vv,vwを三相二相変換部11及び中心周波数f0を系統周波数fs(60[Hz])に設定した第1複素係数フィルタ部12によってフィルタリング処理をした後、二相交流電圧を三相交流電圧に逆変換して得た三相交流電圧vu’,vv’,vw’をシミュレートした波形を示す図である。
【0059】
中心周波数f0を系統周波数fsに設定した第1複素係数フィルタ部12は、図3に示す周波数特性を有するから、図8に示されるように、三相交流電圧vu,vv,vwに含まれる不平衡成分と5次、7次、11次の高調波成分を第1複素係数フィルタ部12によりを好適に除去できることが分かる。
【0060】
なお、図1では、第1複素係数フィルタ部12から出力データyr[k],yj[k]によって出力される二相交流電圧を、二相交流電圧vα,vβと区別するため、それぞれ「vr」,「vj」と表記している。
【0061】
第1複素係数フィルタ部12から出力される、(5)式,(6)式で表わされる二相交流電圧vr,vjは、U相の電圧vuの位相角φを「0」とした場合であるが、電圧系統9のU相の電圧vuの位相がずれ、位相角φ≠0の場合は、第1複素係数フィルタ部12から出力される二相交流電圧vr,vjは、vr=As・cos(ωs・t+φ)、vj=As・sin(ωs・t+φ)となる。
【0062】
正規化部13は、第1複素係数フィルタ部12から出力される二相交流電圧vr,vjのレベルを「1」に正規化する演算処理を行う。第1複素係数フィルタ部12から出力される二相交流電圧vr,vjは振幅が同一の正弦波と余弦波で、√(vr2+vj2)を演算することにより振幅が求められるから、正規化部13では、出力データyr[k],yj[k]に対してそれぞれyr[k]/√(yr[k]2+yj[k]2)とyj[k]/√(yr[k]2+yj[k]2)の演算処理を行って二相交流電圧vr,vjの正規化処理が行われる。従って、正規化部13からは、vr’=cos(ωs・t)とvj’=sin(ωs・t)で表わされる信号のデータが出力される。
【0063】
周波数検出部3Aは、通過帯域における位相特性がリニアな複素係数バンドパスフィルタからなる第2複素係数フィルタ部14と、この第2複素係数フィルタ部14に入力される電圧ベクトルVin=exp(j・ωs・t)とこの第2複素係数フィルタ部14から出力される電圧ベクトルVout=exp(j・ωs・t+ψ)を用いて両電圧ベクトルの位相差ψを算出する位相差算出部15と、位相差算出部15で算出される位相差ψを所定の演算式を用いて電圧ベクトルVinの周波数f(=(ωs/2π)を算出する周波数算出部16とを含む。
【0064】
第2複素係数フィルタ部14に用いられる複素係数バンドパスフィルタは、第1複素係数フィルタ部12に用いられる複素係数バンドパスフィルタと同一の中心周波数f0を有する。また、複素係数バンドパスフィルタは、その通過帯域における位相特性(周波数に対する位相の特性)が直線近似で表わされる特性を有している。
【0065】
図9は、第2複素係数フィルタ部14に用いられる複素係数バンドパスフィルタの通過帯域における位相特性の一例を示す図である。同図は、中心周波数f0を系統周波数fs=60[Hz]に設定した場合のf0±5[Hz]における位相ψ[deg]の変化を示している。
【0066】
図9によれば、周波数fに対する位相ψの変化は直線的に変化し、位相ψと周波数fとの間にはf=p・ψ+qの関係式が成立する。f=60[Hz]でψ=0[deg]、f=57.25[Hz]でψ=0.2[deg]であるから、60=q、57.25=0.2・p+qよりp≒−13.75となり、図9の例では、位相特性と位相ψから周波数fを求める演算式は、f=−13.75・f+60となる。
【0067】
本実施形態では、第2複素係数フィルタ部14に用いられる複素係数バンドパスフィルタは、第1複素係数フィルタ部12に用いられる複素係数バンドパスフィルタと同一である。従って、その具体的な演算回路は、図6に示した回路と同じであるので、ここではその部分の詳細な説明は省略する。
【0068】
位相差算出部15は、第2複素係数フィルタ部14に入力される電圧ベクトルVinと第2複素係数フィルタ部14から出力される電圧ベクトルVoutを用いて位相差ψを算出する。電圧ベクトルVin=exp(j・ω・t)の共役な電圧ベクトルVin*は、Vin*=exp(−j・ω・t)であり、この電圧ベクトルVin*と出力電圧ベクトルVout=exp[j・(ω・t+ψ)]との乗算を行うと、Vin*・Vout=exp(−j・ω・t+j・ω・t+j・ψ)=exp(j・ψ)より位相差ψのベクトルが得られる。電圧ベクトルVin*=exp(−j・ω・t)=Rin−j・Xin、電圧ベクトルVout=exp[j・(ω・t+ψ)]=Rout+j・Xoutとすると、Vin*・Vout=(Rin・Rout+Xin・Xout)+j(Rin・Xout−Xin・Rout)=cos(ψ)+jsin(ψ)であるから、sin(ψ)=(Rin・Xout−Xin・Rout)より、位相差算出部15は、sin-1(Rin・Xout−Xin・Rout)の演算処理をすることにより位相差ψを算出する。
【0069】
なお、cos(ψ)=(Rin・Rout+Xin・Xout)より、cos-1(Rin・Rout+Xin・Xout)の演算処理をすることにより位相差ψを算出してもよく、tan(ψ)=(Rin・Xout−Xin・Rout)/(Rin・Rout+Xin・Xout)より、tan-1[(Rin・Xout−Xin・Rout)/(Rin・Rout+Xin・Xout)]の演算処理をすることにより位相差ψを算出してもよい。
【0070】
図10は、位相差算出部15の演算処理を行う回路構成を示す図である。
【0071】
位相差算出部15には第2複素係数フィルタ部14に入力される電圧ベクトルVinの実数部Rinと虚数部Xin、第2複素係数フィルタ部14から出力される電圧ベクトルVoutの実数部Routと虚数部Xoutの2つのデータが入力される。電圧ベクトルVinの実数部Rinは、正規化部13から出力される電圧vr’=cos(ωs・t)のデータであり、虚数部Xinは、正規化部13から出力される電圧vj’=sin(ωs・t)のデータである。一方、電圧ベクトルVoutの実数部Routは第2複素係数フィルタ部14から出力される電圧yr=cos(ωs・t+ψ)のデータであり、虚数部Xoutは第2複素係数フィルタ部14から出力される電圧yj=sin(ωs・t+ψ)のデータである。従って、位相差ψの演算式は、vr’・yj−vj’・yr=Ψとすると、
ψ=sin-1(Ψ) …(25)
となる。
【0072】
位相差算出部15は、2つの乗算器15a,15bと1つの加算器15cと逆正弦値演算器15dで構成されている。乗算器15aは、Ψの中のvr’・yjの乗算を行い、乗算器15bは、Ψの中のvj’・yrの乗算を行う。また、加算器15cは、乗算器15aの乗算結果から乗算器15bの乗算結果を減算して逆三角関数の引数Ψを算出する。そして、逆正弦値演算器15dは、加算器15cから出力される引数Ψに対してsin-1(Ψ)の演算を行い、位相差ψを算出する。
【0073】
周波数算出部16は、位相差演算部15から入力される位相差ψに対して、第2複素係数フィルタ部14の位相特性に基づく周波数fを求めるための所定の演算式f=p・ψ+q(図9の例では、P=−13.5、q=60)を実行することにより周波数fを算出する。従って、周波数算出部16は、図11に示すように乗算器16aと加算器16bとによって構成される。乗算器16aは位相差演算部15から入力される位相差ψに係数pを乗算し、加算器16bはその乗算結果に係数qを加算して位相差ψを出力する。
【0074】
なお、所定の周波数fの範囲についてf=p・ψ+qの関係を満たす周波数fと位相差ψのテーブルを記憶しておき、そのテーブルを用いて位相差演算部15から出力される位相差ψに対応する周波数fを求めるようにしてもよい。
【0075】
図12は、第1実施形態に係る周波数検出装置1Aで検出される周波数fの応答特性をシミュレーションした結果である。具体的には、電力系統の三相交流電圧の周波数が系統周波数fs=60[Hz]が安定している状態でシミュレーションを開始し、シミュレーション開始から0.2秒後に周波数fsを瞬時的に60.3[Hz]に変化させた場合の周波数検出装置1Aの応答特性を示している。また、図13は、シミュレーション開始から0.3秒後に周波数検出装置1Aから出力される周波数fの変動状態を拡大した図である。入力される三相交流電圧vu,vv,vwに含まれる不平衡成分と5次、7次、11次の高調波成分の含有条件をそれぞれ5%とし、サンプリング周波数を系統周波数fsの数百倍の高周波としている。また、第1複素係数フィルタ部12の通過帯域の中心周波数f0は系統周波数fs=60[Hz]に設定している。
【0076】
図12に示すように、シミュレーション開始から0.2秒後に電力系統の周波数fsを瞬時的に60.0[Hz]から60.3[Hz]に上昇させると、周波数検出装置1Aから出力される周波数fは、電力系統の周波数fsの急変に追従しようとしてパルス状に急変するが、周波数急変時(時刻0.2秒)から凡そ0.05秒後には60.3[Hz]付近に収束することが分かる。また、周波数急変時から0.1秒経過した時(時刻0.3秒)には、図13に示すように、周波数検出装置1Aから出力される周波数fのリップルが±0.01[Hz]程度(変化後の電力系統の周波数fs=60.3[Hz]に対して変動幅は約0.016%)となるので、周波数検出装置1Aから出力される周波数fは、周波数急変時(時刻0.2秒)から0.1秒以内には電力系統の変化後の周波数fsに整定するということができる。
【0077】
図14は、本発明に係る周波数検出装置の第2実施形態のブロック構成を示す図である。
【0078】
第1実施形態は、第2複素係数フィルタ部14の複素係数バンドパスフィルタの通過帯域における位相特性の線形性を利用して、当該複素係数バンドパスフィルタの入力信号と出力信号の位相差ψから入力信号の周波数fを求める方法である。これに対し、第2実施形態は、第2複素係数フィルタ部の複素係数バンドパスフィルタの複素係数a1を変換可能にし、当該複素係数バンドパスフィルタの入力信号と出力信号の位相差ψに基づいて当該複素係数バンドパスフィルタの中心周波数f0を入力信号の周波数fに一致させるように変化させる制御を行うことで、複素係数バンドパスフィルタの中心周波数f0から入力信号の周波数fを求める方法である。
【0079】
複素係数バンドパスフィルタを用いた第2複素係数フィルタ部14は、図9に示すように、中心周波数f0では位相差ψがゼロで、中心周波数f0よりも高い周波数領域では位相差ψが負になり、中心周波数f0よりも低い周波数領域では位相差ψが正になるように直線的に変化する特性を有している。従って、位相差ψの正負の符号を見れば、第2複素係数フィルタ部12に入力される信号の周波数fが中心周波数f0に対して高い周波数領域にあるのか低い周波数領域にあるのかが分かる。位相特性は直線的に変化するから、ψ<0であれば、位相差ψを監視しながら中心周波数f0を減少させ、ψ>0であれば、中心周波数f0を増加させ、ψ=0であれば、中心周波数f0を変化させないように複素係数a1を制御することで中心周波数f0をψ=0となる周波数f0’に設定することができる。
【0080】
図14に示す周波数検出装置1Bは、図1に示す周波数検出装置1Aに対して外乱除去部2Aは共通であるので、周波数検出装置1Bの外乱除去部2Aについての説明は省略し、周波数検出部3Bについて説明する。
【0081】
周波数検出部3Bは、中心周波数f0を決定する複素係数a1が外部から変更可能になされた複素係数バンドパスフィルタからなる第2係数フィルタ部14’と、この第2複素係数フィルタ部14’に入力される電圧ベクトルVin=exp(j・ω・t)とこの第2複素係数フィルタ部14から出力される電圧ベクトルVout=exp(j・ω・t+ψ)を用いて両電圧ベクトルの位相差ψを算出する位相差算出部15と、位相差算出部15で算出される位相差ψに基づいて中心周波数f0を変更する中心周波数制御部17とを含む。位相差算出部15は、第1実施形態の位相差算出部15と同一の構成である。従って、ここでは、第2係数フィルタ部14’と中心周波数制御部17の構成及び演算処理について説明する。
【0082】
第2係数フィルタ部14’に設けられる複素係数バンドパスフィルタは、第1実施形態の第2係数フィルタ部14に設けられる複素係数バンドパスフィルタに対して複素係数a1が中心周波数制御部17からフィードバックされる正規化角周波数Ωd’(=2π・fd’/fsr)を用いて変更可能になされている点が異なる。すなわち、第1実施形態では、図6に示す複素係数バンドパスフィルタの演算回路において、乗算器12a,12dに入力される係数ar(複素係数a1の実数部)と乗算器12b,12cに入力される係数aj(複素係数a1の虚数部)が固定であったが、第2実施形態では、乗算器12a,12dに入力される係数arと乗算器12b,12cに入力される係数ajが中心周波数制御部17によって変更設定される正規化角周波数Ωd’によって制御される。
【0083】
図15は、第2複素係数フィルタ部14’における複素演算処理の回路を示す図であるが、同図は、図6に示す第2複素係数フィルタ部14の複素演算処理の回路に対して、複素係数a1の実数部の係数arを演算する係数実数部演算回路12lと虚数部の係数ajを演算する係数虚数部演算回路12kが追加されている点が異なる。従って、係数実数部演算回路12l及び係数虚数部演算回路12k以外の部分の演算処理は、図6に示した回路と同じであるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0084】
係数実数部演算回路12lでは、中心周波数制御部17からフィードバックされる正規化角周波数Ωd’を用いて、
r=r・cos(Ωd’) …(26)
の演算式により複素係数a1の実数部の係数arが算出される。係数実数部演算回路12lで算出された係数arは乗算器12aと乗算器12dに入力される。また、係数虚数部演算回路12kでは、中心周波数制御部17からフィードバックされる正規化角周波数Ωd’を用いて、
j=r・sin(Ωd’) …(27)
の演算式により複素係数a1の虚数部の係数ajが算出される。係数虚数部演算回路12kで算出された係数ajは乗算器12bと乗算器12cに入力される。
【0085】
中心周波数制御部17は、位相差算出部15から入力される位相差ψを「0」と比較し、ψ>0、ψ<0及びψ=0のいずれかの比較結果に応じて第2複素係数フィルタ部14’の正規化角周波数Ωd’を変化させる。Ωd’=2π・fd’/fsrで、fd’は第2複素係数フィルタ部14’の中心周波数f0に相当するから、正規化角周波数Ωd’を変化させることにより第2複素係数フィルタ部14’の中心周波数f0が変化することになる。従って、中心周波数制御部17は、正規化角周波数Ωd’を制御することにより実質的に第2複素係数フィルタ部14’の中心周波数f0を制御している。
【0086】
ψ>0であれば、図9の位相特性より第2係数フィルタ部14’に入力される電圧ベクトルVinの周波数fは現在の第2係数フィルタ部14’の中心周波数f0より低い周波数領域にあり、ψ<0であれば、電圧ベクトルVinの周波数fは中心周波数f0より高い周波数領域にあり、ψ=0であれば、電圧ベクトルVinの周波数fは中心周波数f0と同一であることを示すから、ψ>0、ψ<0、ψ=0の各比較結果は、それぞれ「低い周波数領域」、「高い周波数領域」、「中心周波数と同一」の判別結果に対応する。
【0087】
中心周波数制御部17は、位相差算出部15から出力される位相差ψを用いて所定の正規化角周波数Ωd0に対する変化量ΔΩdを算出し、その変化量ΔΩdを正規化角周波数Ωd0に加算又は減算して正規化角周波数Ωdの変化値Ωd’を算出する。所定の正規化角周波数Ωd0は、例えば、fd=60[Hz](系統周波数)に設定したときの値である。
【0088】
具体的には、中心周波数制御部17は、位相差算出部15から出力される位相差ψ[rad]に対して、ψ×180/πの演算を行って角度の単位の位相差ψ’[deg]に変換した後、(−K×ψ’/fsr)(K:0〜1の所定のゲイン。例えば、K=0.1、fsr:サンプリング周波数。)の演算を行って変化量ΔΩdを算出し、その変化量ΔΩdをΩd0=2π・(f0/fsr)に加算する処理を行う。位相差ψには、(25)式の演算処理でψ<0又は0≦ψに応じて正負の符号が付されるので、変化量ΔΩdのΩd0への加算処理で、ψ<0の場合には変化量ΔΩdをΩd0から減算し、0≦ψの場合には変化量ΔΩdをΩd0に加算する処理が行われることになる。
【0089】
なお、上記の正規化角周波数Ωdを変化させるための演算処理は一例であり、他の演算方法により位相差ψの符号に応じて正規化角周波数Ωdを増加又は減少させてもよい。
【0090】
周波数検出装置1Bでは、中心周波数制御部17で変更設定された正規化角周波数Ωd’が第2複素係数フィルタ部14’にフィードバックされるとともに、正規化角周波数Ωd’に対して(Ωd’×fsr/2π)の演算処理を行って周波数の変化値fd’が算出され、その変化値fd’が周波数検出値f0’として出力される。中心周波数制御部17は、位相差算出部15から入力される位相差ψが「0」でなければ、位相差ψが「0」となる方向に第2複素係数フィルタ部14’の中心周波数を変化させ、位相差ψが「0」になると、その時の中心周波数を保持するように制御するから、第2複素係数フィルタ部14’の中心周波数は、当該第2複素係数フィルタ部14’の入力信号の周波数fに一致するように制御される。
【0091】
従って、中心周波数制御部17から出力される周波数検出値f0’は、周波数検出装置1Bに入力される三相交流電圧vu,vv,vwの周波数fが安定していれば、その周波数fを示し、周波数fが変動すれば、その変動に追従するように変化し、入力される三相交流電圧vu,vv,vwの周波数fを示すものとなる。
【0092】
図16は、本発明に係る周波数検出装置の第3実施形態のブロック構成を示す図である。
【0093】
第3実施形態に係る周波数検出装置1Cは、第2実施形態に係る周波数検出装置1Bにおいて、第1複素係数フィルタ部12を帯域阻止型の複素係数フィルタ(複素係数ノッチフィルタ)に変更したものである。なお、複素係数ノッチフィルタを用いた場合、入力信号の基本波成分の周波数がずれると、それに伴い不平衡成分と高調波成分の周波数もずれるため、複素係数ノッチフィルタの阻止周波数をずらす必要がある。このため、第3実施形態では、中心周波数制御部17から出力される正規化角周波数Ωd’を外乱除去部2B内の第1複素係数フィルタ部12’にもフィードバックし、複素係数ノッチフィルタの阻止周波数を決定する複素係数を変更するようにしている。
【0094】
図3に示すように、電力系統の交流信号には基本波成分(+fs)以外に不平衡成分(−fs)や5次、7次、11次の高調波成分(−5fs,+7fs,−11fs)が含まれることが分かっているので、図16に示す周波数検出装置1Cの第1複素係数フィルタ部12’は、それらの周波数毎にz変換表現による伝達関数H(z)が下記の(28)式で表される複素係数ノッチフィルタを設け、それらを多段に接続することによって図18に示す周波数特性を有する複素係数ノッチフィルタを構成している。
【0095】
【数3】

【0096】
なお、Ωdは、Ωd=2π・(n・fs/fsr)であり、n=−1に設定すると、不平衡成分(−fs)を阻止周波数とする複素係数ノッチフィルタとなる。また、n=−5、n=+7、n=−11に設定すると、それぞれ5次、7次、11次の高調波成分を阻止周波数とする複素係数ノッチフィルタとなる。従って、第1複素係数フィルタ部12’は、図17に示すように、−fs、−5fs、+7fs、−11fsを阻止周波数とする複素係数ノッチフィルタ121,122,123,124を縦続接続した構成となっている。
【0097】
また、上記(28)式の演算処理を行う処理回路のブロック図は、図19に示す構成となり、複素係数ノッチフィルタ(NF)を用いた複素係数フィルタ部12の複素演算処理を行う回路は、図20に示す構成となる。
【0098】
図19は、図5に示すブロック図に対して、入力データu[k]から状態データy[k]を減算し、その減算値を出力データe[k]として出力する回路を追加したものである。また、図20は、図15に示すブロック図に対して、係数実数部演算回路12lと係数虚数部演算回路12kを不平衡成分又は高調波成分の周波数を中心周波数とする係数arを演算する係数実数部演算回路12l’と係数ajを演算する係数虚数部演算回路12k’に変更している。そして、実数部の乗算器12eの後段に加算器12nを追加し、当該加算器12nで入力データの実数部ur[k]から状態データy[k]の実数部yr[k]を減算して出力データの実数部er[k]を出力する構成としている。また、虚数部の乗算器12fの後段に加算器12oを追加し、当該加算器12oで入力データの虚数部uj[k]から状態データy[k]の虚数部yj[k]を減算して出力データの虚数部ej[k]を出力する構成としている。
【0099】
係数実数部演算回路12l’では、中心周波数制御部17からフィードバックされる正規化角周波数Ωd’を用いて、
r=r・cos(n・Ωd’) …(29)
の演算式により複素係数a1の実数部の係数arが算出される。また、係数虚数部演算回路12k’では、中心周波数制御部17からフィードバックされる正規化角周波数Ωd’を用いて、
j=r・sin(n・Ωd’) …(30)
の演算式により複素係数a1の虚数部の係数ajが算出される。
【0100】
なお、nは、阻止周波数の次数を示し、図17に示された複素係数ノッチフィルタ121ではn=−1、複素係数ノッチフィルタ122,123,124ではそれぞれn=−5,+7,−11となる。係数実数部演算回路12l’で算出された係数arは乗算器12aと乗算器12dに入力され、係数虚数部演算回路12k’で算出された係数ajは乗算器12bと乗算器12cに入力される。
【0101】
図20に示す回路は、図15に示す回路に対して、上述した係数実数部演算回路12l’及び係数虚数部演算回路12k’の演算内容の他は、加算器12n,12oでの減算処理が追加された点が異なるだけであるから、図20に示す回路の演算処理の詳細説明は省略する。
【0102】
第3実施形態に係る周波数検出装置1Cでは、複素係数ノッチフィルタ121〜124によって不平衡成分(−fsの成分)や高調波成分(−5fs,+7fs,−11fsの成分)のレベルがそれぞれ抑制されるので、これらの成分が周波数検出部3Bに入力されることを好適に阻止することができる。従って、第3実施形態に係る周波数検出装置1Cでは安定かつ高い精度で電力系統の電圧信号の周波数fを検出することができる。
【0103】
図21は、第3実施形態に係る周波数検出装置1Cで検出される周波数fの応答特性をシミュレーションした結果である。また、図22は、シミュレーション開始から0.3秒後に周波数検出装置1Cから出力される周波数fの変動状態を拡大した図である。シミュレーションの条件は、図12,図13に示すシミュレーション結果と同じである。
【0104】
図21に示すように、第3実施形態の場合もシミュレーション開始から0.2秒後に電力系統の周波数fsを瞬時的に60.0[Hz]から60.3[Hz]に上昇させると、周波数検出装置1Cから出力される周波数fはパルス状に急変するが、周波数急変時(時刻0.2秒)から凡そ0.05秒後にはほぼ60.3[Hz]に収束することが分かる。また、第3実施形態では、周波数急変時から0.1秒経過した時(時刻0.3秒)には、図22に示すように、周波数検出装置1Cから出力される周波数fのリップルはなく、第1実施形態よりも高速かつ高精度に電力系統の電圧信号の周波数fsを検出することができることが分かる。
【0105】
図23は、本発明に係る周波数検出装置の第4実施形態のブロック構成を示す図である。
【0106】
第4実施形態に係る周波数検出装置1Dは、周波数検出部3Cをゼロクロス点間カウント法により系統周波数fsを検出する構成としたものである。周波数検出部3Cには電圧検出器で検出された三相交流電圧vu,vv,vwから複素係数バンドパスフィルタによって不平衡成分と高調波成分を除去した基本波成分の三相交流電圧vsu,vsv,vswを入力するため、周波数検出装置1Dの外乱除去部2Cは、第1,第2実施形態に係る周波数検出装置1A,1Bの外乱除去部2Aに対し正規化部13に代えて二相交流電圧vr,vjを三相交流電圧vsu,vsv,vswに変換する二相三相変換部18が設けられている。
【0107】
第1複素係数フィルタ部12から出力される二相交流電圧vr,vjを三相交流電圧vu,vv,vwに変換する変換式は、
【数4】

である。
【0108】
従って、二相/三相変換部18は、(31)式〜(33)式の演算を行うことにより、第1複素係数フィルタ部12から入力される二相交流電圧vr,vjを三相交流電圧vsu,vsv,vswに変換する。
【0109】
図24は、二相三相変換部18の演算回路を示すブロック図である。同図に示すように、二相三相変換部18は、4個の乗算器18a〜18dと2個の加算器18e,18fで構成される。乗算器18aは(31)式を演算する演算器であり、乗算器18bは(32)式,(33)式の第1項を演算する演算器であり、乗算器18c,18dはそれぞれ(32)式,(33)式の第2項を演算する演算器である。また、加算器18eは(32)式の各項を加算する演算器であり、加算器18fは(33)式の各項を加算する演算器である。
【0110】
周波数検出部3Cは、二相/三相変換部18から入力される三相交流電圧vsu,vsv,vswのレベルをそれぞれ基準レベル(0v)を比較するレベル比較部19と、レベル比較部19の比較結果に基づいて各三相交流電圧vsu,vsv,vswが基準レベル(0v)を交差するタイミング(ゼロクロスタイミング)を検出するゼロクロス検出部20と、系統周波数fsよりも高周波のクロックパルスを発生するパルス発生部21と、ゼロクロス検出部20から出力されるゼロクロスタイミングによってパルス発生部21から出力されるクロックパルスのカウントを制御することより各三相交流電圧vsu,vsv,vswの半周期若しくは1周期の時間を計測し、その時間を用いて系統周波数fsを算出する周波数算出部22と、を含む。
【0111】
レベル比較部19は、所定のサンプリング周期で入力される三相交流電圧vsuの電圧レベルを基準レベル(ゼロレベル)と比較する。ゼロクロス検出部20は、レベル比較部19の比較結果に基づいて、電圧レベルがゼロレベルを超えると、ハイレベルになり、電圧レベルがゼロレベル以下になると、ローレベルになるパルスPuを周波数算出部22に出力する。レベル比較部19は、三相交流電圧vsv,vswについても同様の処理を行い、それぞれパルスPvとパルスPwを周波数算出部22に出力する。
【0112】
図25に示すように、パルスPuの立上がりタイミングは、三相交流電圧vsuが負レベルから正レベルにゼロレベルをクロスする点tu+に対応し、パルスPuの立下がりタイミングは、三相交流電圧vsuが正レベルから負レベルにゼロレベルをクロスする点tu-に対応する。同様に、パルスPvの立上がりタイミングと立下がりタイミングは、三相交流電圧vsvが負レベルから正レベルにゼロレベルをクロスする点tv+と三相交流電圧vsvが正レベルから負レベルにゼロレベルをクロスする点tv-とに対応し、パルスPwの立上がりタイミングと立下がりタイミングは、三相交流電圧vswが負レベルから正レベルにゼロレベルをクロスする点tw+と三相交流電圧vswが正レベルから負レベルにゼロレベルをクロスする点tw-とに対応する。
【0113】
周波数算出部22にはパルス発生部21から系統周波数fsの数百倍〜千数百倍の周波数を有するクロックパルスCKが入力されている。図8に示したように、二相/三相変換部18から入力される三相交流電圧vsu,vsv,vswは電力系統の三相交流電圧の基本波成分(対称三相交流)であるので、周波数算出部22で算出される三相交流電圧vsu,vsv,vswの周波数fsu,fsv,fswは同一になる。従って、周波数算出部22にはレベル比較部19から三相交流電圧vsu,vsv,vswのゼロクロスタイミングの検出信号が電力系統の交流信号の周期の1/6の周期で入力される。
【0114】
従って、周波数算出部22は、図25に示すように、ゼロクロス検出部20から入力されるパルスPuの立上がりタイミングtu+でクロックパルスCKのカウントを開始し、その立上がりタイミングtu+に続くパルスPwの立下がりタイミングtw-でクロックパルスCKのカウントを停止し、そのカウント値Nを一時保存する。周波数算出部22は、カウント値NにクロックパルスCKの周期τ[sec]を乗じてゼロクロス点tu+−tw-間の時間T=τ・N[sec]を算出し、そのゼロクロス点間の時間Tの6倍の時間の逆数を演算して電力系統の交流信号の周波数fs=1/(6T)=1/(6・τ・N)を算出し、その算出結果を周波数検出値として出力する。
【0115】
また、周波数算出部22は、ゼロクロス検出部20から入力されるパルスPwの立下がりタイミングtw-でクロックパルスCKのカウントを開始し、その立下がりタイミングtw-に続くパルスPvの立上がりタイミングtv+でクロックパルスCKのカウントを停止し、そのカウント値NについてもクロックパルスCKの周期τ[sec]を乗じてゼロクロス点tw-−tv+間の時間T[sec]を算出する。以下、周波数算出部22は、パルスPv,Pu,Pwの立上がりタイミングと立下りタイミングが順番に検出される毎にゼロクロス点tv+−tu-間,tu-−tw+間,tw+−tv-間,tv-−tu+間,tu+−tw-間,…の各時間T[sec]を算出し、各ゼロクロス点間の時間Tの6倍の時間の逆数を演算して電力系統の交流信号の周波数fsを算出し、その算出結果を周波数検出値として出力する。すなわち、周波数検出部22は、レベル比較部19からゼロクロスタイミングの検出信号が入力される毎に電力系統の交流信号の周波数fsを算出する。
【0116】
なお、ゼロクロス検出部20から入力されるパルスPuの立上がりタイミングtu+と立下がりタイミングtu-との間のクロックパルスCKのパルス数3Nをカウントし、そのカウント値3NにクロックパルスCKの周期τ[sec]を乗じてパルスPuのハイレベル期間Tu[sec]を算出し、そのハイレベル期間Tuの2倍の期間の逆数を演算して電力系統の交流信号の周波数fs=1/(2Tu)=1/(6N・τ)を算出するようにしてもよい。ゼロクロス検出部20から入力されるパルスPv,Pwについても同様である。
【0117】
また、例えば、パルスPuの立上がりタイミングtu+から次の立上がりタイミングtu+までクロックパルスCKをカウントし、そのカウント値Nu=6NにクロックパルスCKの周期τ[sec]を乗じて電力系統の交流信号の周期2T[sec]を算出し、その算出値の逆数1/(6N・τ)を演算して電力系統の交流信号の周波数fsを算出するようにしてもよい。パルスPv,Pwについても同様である。
【0118】
ゼロクロス点間カウント法は、三相交流電圧vu,vv,vwのレベルを所定の周期でサンプリングするため、サンプリング周期の間にゼロクロス点が入る場合は線形補間などによってそのゼロクロス点を検出する必要がある。また、三相交流電圧vu,vv,vwに不平衡成分や高調波成分が含まれる場合は電圧波形の歪みによりゼロクロス点の周期が正確に系統周波数fsに対応する周期にはならないので、周波数fsを数周期分にわたって算出し、それらの算出結果の平均値を取るなどして不平衡成分や高調波成分の悪影響を抑制する必要がある。
【0119】
第4実施形態に係るに係る周波数検出装置1Dでは、周波数算出部3Cに入力される三相交流電圧が基本波成分の三相交流電圧vsu,vsv,vswであるので、ゼロクロス点の周期は正確に系統周波数fsに対応する周期の6倍となっている。従って、第4実施形態に係るに係る周波数検出装置1Dによれば、ゼロクロス点とサンプリング点との誤差を無視し得る程度にサンプリング周波数を高くすることにより、従来のゼロクロス点間カウント法よりも高速かつ高精度で周波数fsを検出することができる。
【0120】
以上より、本発明に係る周波数検出装置1A,1B,1Cによれば、電力系統の電圧信号の周波数fsが急峻に変動した場合でも0.05秒以内にその変動に追従し、高速かつ高精度で電力系統の三相交流電圧の周波数fsを連続的に検出することができるという優れた効果を奏する。また、本発明に係る周波数検出装置1Dは、三相交流電圧のゼロクロス点間(系統周波数fsに対応する周期の1/6)の時間を要するので、従来の従来のゼロクロス点間カウント法による周波数検出装置に比べて高速かつ高精度で三相交流電圧の周波数fsを検出することかできるという優れた効果を奏する。
【0121】
なお、第1複素係数フィルタ部12には複素係数バンドパスフィルタ又は複素係数ノッチフィルタのいずれを用いてもよいが、好ましくは複素係数バンドパスフィルタよりも複素係数ノッチフィルタを用いたほうが高速かつ高精度の位相検出特性を得ることができる。また、複素係数ノッチフィルタと複素係数バンドパスフィルタとを組み合わせれば、両者の特性の相乗効果を期待することができ、より高速かつ高精度の位相検出特性を得ることができる。
【0122】
また、周知のように、複素係数ノッチフィルタ及び複素係数バンドパスフィルタを多段構成とすれば、急峻なフィルタ特性とすることができるとともに、不平衡成分や高調波成分の除去特性と応答性を容易に調整できるので、実装する場合は適当な段数の多段構成にするとよい。例えば、系統連系インバータを連系させる電力系統が2次の高調波成分を多く含む系統の場合は、2次高調波を除去する複素係数ノッチフィルタと複素係数バンドパスフィルタを組み合わせればよく、不平衡成分や高調波成分をあまり多く含まない電力系統であれば、応答速度の速いフィルタ構成にすればよい。
【0123】
第1実施形態に係る周波数検出装置1Aでは、第1複素係数フィルタ部12を複素係数バンドパスフィルタで構成する場合について説明したが、第3実施形態のように第1複素係数フィルタ部12を複素係数ノッチフィルタで構成してもよい。但し、この場合は、第3実施形態で説明したように、複素係数ノッチフィルタの阻止周波数を周波数算出部16で算出される周波数fに対して−f,−5f,7f,−11fの周波数に制御する必要がある。従って、この場合は、位相差算出部15の後段に正規角周波数の変化値Ωd’を算出する演算処理部を設け、その演算処理部で算出した正規角周波数の変化値Ωd’を複素係数ノッチフィルタで構成した第1複素係数フィルタ部12’にフィードバックさせるようにするとよい。
【0124】
また、第1実施形態の第1複素係数フィルタ部12を複素係数ノッチフィルタで構成する場合にはその複素係数ノッチフィルタに複素係数バンドパスフィルタを組み合わせた構成にして不平衡成分や高調波成分の除去効果を高めるようにしてもよい。この場合は、複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を固定にしてもよいが、複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を可変にし、複素係数ノッチフィルタの周波数を制御する機構(例えば、上記の正規角周波数の変化値Ωd’を算出する演算処理部)を利用して複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を制御するようにしてもよい。
【0125】
また、第1実施形態の第1複素係数フィルタ部12を中心周波数が可変の複素係数バンドパスフィルタだけにしてもよい。この場合は、系統の周波数の変化に応じて複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を変化させる構成を設ける必要がある。
【0126】
また、第2実施形態では、第1複素係数フィルタ部12の複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を固定としたが、第2実施形態でも複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を可変にし、電力系統の周波数の変化に応じて複素係数バンドパスフィルタの中心周波数を変化させる構成としてもよく、その複素係数バンドパスフィルタに第3実施形態の複素係数ノッチフィルタを組み合わせた構成としてもよい。これらの場合は、第2複素係数フィルタ部14’の中心周波数を制御する構成を利用して複素係数バンドパスフィルタの中心周波数や複素係数ノッチフィルタの阻止周波数を制御するようにすればよい。もちろん、中心周波数固定の複素係数バンドパスフィルタに複素係数ノッチフィルタを組み合わせた構成としてもよい。
【0127】
なお、第3実施形態で、第1複素係数フィルタ部12’を中心周波数固定の複素係数バンドパスフィルタで構成したり、中心周波数可変の複素係数バンドパスフィルタで構成したり、これらの複素係数バンドパスフィルタを複素係数ノッチフィルタに組み合わせた構成したりすることは、実質的に上述した第2実施形態の第1複素係数フィルタ部12の変形例と等価な構成となる。
【0128】
また、上記の説明では入力信号として三相交流電圧vu,vv,vwが入力される場合について説明したが、本発明に係る周波数検出装置1A〜1Dは、単相交流電圧vが入力される場合にも適用することができる。この場合は、図1、図14、図16、図23に示すブロック図において、三相/二相変換部11、二相/三相変換部18を除いた構成にすればよい。
【0129】
単相の場合は、単相交流電圧vが1つしかないので、その単相交流電圧vのサンプリングデータが入力データの実数部ur[k]として第1複素係数フィルタ部12に入力され、入力データの虚数部uj[k]には「0」が入力される。なお、図1、図14、図16、図23に示す周波数検出装置1A〜1Dにおいて、三相/二相変換部11と二相/三相変換部18を除去し、U,V,Wのいずれかの相の交流電圧vのサンプリングデータを入力データの実数部ur[k]として第1複素係数フィルタ部12に入力し、入力データの虚数部uj[k]には「0」を入力するようにしてもよい。
【0130】
複素係数フィルタを用いた第1複素係数フィルタ部12では、単相交流電圧が入力された場合でも三相交流電圧の場合と同様に互いに直交する二相交流電圧vr,vj(正弦波と余弦波の信号)が出力されるので、複素係数フィルタ部12,正規化部13及び周波数算出部1A,1B,1C,1Dは、図1、図14、図16、図23に示す三相用の周波数検出装置1A〜1Dと同様の構成で実現することができる。
【0131】
従って、本発明は、簡単な構成で種々の系統連系インバータの周波数検出装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1A,1B,1C,1D 周波数検出装置
2A,2B 外乱除去部
3A,3B,3C 周波数検出部
11 三相/二相変換部
11a〜11e 乗算器
11f,11g 加算器
12,12’ 第1複素係数フィルタ部
12a〜12f 乗算器
12g,12h,12n,12o 加算器
12i,12j 遅延回路
12k,12k’ 係数虚数部演算回路
12l,12l’ 係数実数部演算回路
121〜123 複素係数ノッチフィルタ
13 正規化部
14,14’ 第2複素係数フィルタ部
15 位相差算出部
15a,15b 乗算器
15c 加算器
15d 逆正弦値演算器
16 周波数算出部
16a 乗算器
16b 加算器
17 中心周波数制御部
18 二相三相変換部
19 レベル比較部
20 ゼロクロス検出部
21 パルス発生部
22 周波数算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の交流信号の周波数を検出する周波数検出装置であって、
前記交流信号に含まれる不平衡成分と高調波成分を除去する複素係数フィルタからなるフィルタ手段と、
前記フィルタ手段から出力される交流信号を用いて前記電力系統の交流信号の基本波成分の周波数を検出する周波数検出手段と、
を備えたことを特徴とする周波数検出装置。
【請求項2】
前記フィルタ手段は、中心周波数が前記電力系統の交流信号の周波数に設定された帯域通過型の複素係数フィルタである、請求項1に記載の周波数検出装置。
【請求項3】
前記周波数検出手段は、
中心周波数が前記電力系統の交流信号の周波数に設定され、通過帯域で位相差が直線的に変化する位相特性を有する通過帯域型の複数係数フィルタからなる第2のフィルタ手段と、
前記第2のフィルタ手段に入力される入力信号と前記第2のフィルタ手段から出力される出力信号との位相差を算出する位相差算出手段と、
前記第2のフィルタ手段の前記位相特性を用いて前記位相差算出手段で算出された位相差から前記交流信号の基本波成分の周波数を算出する周波数算出手段と、
を含む、請求項1又は2に記載の周波数検出装置。
【請求項4】
前記周波数算出手段は、前記位相特性に基づき前記通過帯域における位相差から周波数を求めるための所定の関係式が設定されており、前記位相差算出手段で算出された算出値に対して前記関係式の演算処理をすることにより前記交流信号の基本波成分の周波数を算出する、請求項3に記載の周波数検出装置。
【請求項5】
前記関係式は、周波数fが位相差ψに対してf=p・ψ+q(p:係数、q:定数)で表わされる関係式である、請求項4に記載の周波数検出装置。
【請求項6】
前記周波数算出手段は、前記位相特性に基づき前記通過帯域における位相差と周波数との関係を示す所定のテーブルが設定されており、そのテーブルから前記位相差算出手段で算出された算出値に対応する周波数を読み出すことにより前記交流信号の基本波成分の周波数を求める、請求項1又は2に記載の周波数検出装置。
【請求項7】
前記周波数検出手段は、
位相差が中心周波数では零で、当該中心周波数より大きい周波数領域では負になり、小さい周波数領域では正になる位相特性を有し、かつ、前記中心周波数が変更可能な通過帯域型の複数係数フィルタからなる第2のフィルタ手段と、
前記第2のフィルタ手段に入力される入力信号と前記第2のフィルタ手段から出力される出力信号との位相差を算出する位相差算出手段と、
前記位相差算出手段で算出される位相差が正の場合は、その位相差が零になるまで前記第2のフィルタ手段の中心周波数を所定の変化量で低下させ、前記位相差算出手段で算出される位相差が負の場合は、その位相差が零になるまで前記第2のフィルタ手段の中心周波数を前記変化量で上昇させ、変化後の中心周波数を周波数の検出値として出力する中心周波数制御手段と、
を含む、請求項1又は2に記載の周波数検出装置。
【請求項8】
前記フィルタ手段は、阻止周波数が前記電力系統の交流信号の周波数の不平衡成分と所定の次数の高調波成分とに設定され、当該阻止周波数が変更可能な通過阻止型の複数係数フィルタであり、
前記中心周波数制御手段から出力される中心周波数に基づいて、当該中心周波数に対して不平衡成分と所定次数の高調波成分となるように前記フィルタ手段の阻止周波数を制御する阻止周波数制御手段を更に備える、請求項7に記載の周波数検出装置。
【請求項9】
前記フィルタ手段の前記阻止周波数制御手段には、更に中心周波数が前記電力系統の系統周波数に設定された帯域通過型の複素係数フィルタが組み合わされている、請求項8に記載の周波数検出装置。
【請求項10】
前記周波数検出手段は、
前記フィルタ手段から出力される交流信号のレベルがゼロレベルを交差するゼロクロスタイミングを検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される前記ゼロクロスタイミングを用いて前記ゼロクロスタイミング間における所定のクロックパルスのパルス数をカウントし、そのカウント値を用いて前記電力系統の交流信号の基本波成分の周波数を算出する周波数算出手段と、
を含む、請求項1又は2に記載の周波数検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図7】
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【図8】
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