説明

回転ガイドブッシュ装置を備えた自動旋盤

【目的】簡易な手段で残り短くなった素材を有効に加工可能とする。
【構成】素材10を把持して回転する主軸5と、主軸5を回転可能に支持し軸線方向に摺動可能な主軸台3と、主軸台3前方に配置されたガイドブッシュ支持台15と、ガイドブッシュ支持台15に回転可能に主軸中心線上に支持された中空の回転軸18と、回転軸18の中空部に嵌挿されその穴径寸法が可変なガイドブッシュ19と、ガイドブッシュ19の前方に配置された工具40とを備えた自動盤において、主軸5に取り付けられ主軸台3の前進によって回転軸18に係合及びガイドブッシュ19の穴径寸法を変化させて素材10を把持可能ならしめるガイドブッシュ連結部材9を有する。
【効果】主軸と回転ガイドブッシュ装置との間にガイドブッシュ連結手段を設け、主軸台が前進することにより回転ガイドブッシュ装置と主軸とを連結し、ガイドブッシュ体によって素材を把持させることができるので、装置の低廉化と駆動の確実化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、回転ガイドブッシュ装置を備え、棒状素材を加工する自動旋盤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ガイドブッシュ装置を備えた自動旋盤において、主軸の前方に配置されたガイドブッシュ装置を回転可能とし、かつ主軸と回転ガイドブッシュ装置とを同期させて回転させるようにした自動旋盤として、例えば特開昭56−119304号公報(以下、公知例1という)、実公昭62−25281号公報(以下、公知例2という)及び特開昭63−251101号公報(以下、公知例3という)に示すもの等が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】公知例1、2は、従来の回転ガイドブッシュ装置の駆動手段が開示されているのみなので、主軸内のコレットチャックが素材を把持できる範囲の長さまでしか加工できない。このため、ガイドブッシュ装置の先端からコレットチャックで把持できる限界の長さ以下の素材は常に残材として残り、この残材の長さだけ無駄になる。特に高価な素材の場合には、その経済的な損失は大きい。
【0004】このため、素材が短くなったときには回転ガイドブッシュ装置で素材を把持して加工することが考えられた。公知例3は、主軸内のコレットチャックで素材が把持できなくなった時に、回転ガイドブッシュ装置が素材を把持できるように、駆動源として油圧シリンダを用い、この油圧シリンダによって作動させられる開閉レバーによって回転ガイドブッシュ装置のガイドブッシュ体を開閉させている。従って、コレットチャックが素材を把持できなくなった場合、その後はガイドブッシュ体で素材を把持させて加工を行うことにより、残材を有効に加工可能である。しかし、公知例3は、油圧シリンダ等の駆動源を必要とするので、装置が高価なものとなり、素材の回転は回転ガイドブッシュ装置の回転手段によるので、回転トルクは小さく、重切削は不可能なものである。
【0005】本発明の目的は、簡易な手段で残材を有効に加工可能で、充分大きな回転トルクが伝達可能な回転ガイドブッシュ装置を備えた自動旋盤を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の構成は、素材を把持して回転する主軸と、この主軸を回転可能に支持し軸線方向に摺動可能な主軸台と、この主軸台前方に配置されたガイドブッシュ支持台と、このガイドブッシュ支持台に回転可能に主軸中心線上に支持された回転ガイドブッシュ装置と、この回転ガイドブッシュ装置の前方に配置された工具とを備えた自動旋盤において、主軸に取り付けられ主軸台の前進によって回転ガイドブッシュ装置に係合して主軸の回転を回転ガイドブッシュ装置に伝達する駆動力伝達手段及び回転ガイドブッシュ装置のガイドブッシュ体を開閉させて素材を把持可能ならしめる把持手段とからなるガイドブッシュ連結手段を有することを特徴とする。
【0007】
【作用】主軸内のコレットチャックが次の製品加工のために素材を把持することができなくなると、回転ガイドブッシュ装置の前方の所定の位置にストッパ部材が配置され、主軸のコレットチャックが開いて素材がストッパ部材に当接するまで押し出され、次に主軸台が前進する。これにより、主軸のキャップナットの延長部によってガイドブッシュ体を開閉するレバーが揺動して、素材はガイドブッシュ体に把持され、キャップナットのクラッチ部とガイドブッシュスリーブのクラッチ部が係合する。このようにして、ガイドブッシュ体で素材を把持させることにより加工を行うことができるので、特別に駆動源を必要とせず、また主軸台を前進及び後退させることによりガイドブッシュ体を開閉させ、付属する材料供給装置で素材を送り出すので、装置が高価になることもなく、駆動力はキャップナットとガイドブッシュスリーブとを直接接続する駆動力伝達手段で伝達するので充分な回転トルクが伝達される。
【0008】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図1により説明する。ベッド1の上面に形成された支持案内路2には、主軸台3が摺動可能に装架されており、主軸台3は図示しない送りねじ等によって支持案内路2に沿って摺動させられる。主軸台3には、軸受4を介して主軸5が回転可能に支持されており、主軸5の前端部には、図示しないチャック開閉手段により軸方向に動作するチャックスリーブ6が嵌挿されている。更にチャックスリーブ6内には、コレットチャック7と該コレットチャック7の戻しスプリング8が挿入されている。また主軸5の前端部にはキャップナット9が主軸5に螺着されている。従って、チャック開閉手段がチャックスリーブ6を前方へ押し出すことで、チャックスリーブ6の内径テーパ面がコレットチャック7の外径テーパ面に摺合してチャックスリーブ6の内径部を内側へ変位させて素材10を把持する。またチャックスリーブ6の前方への押し出し力が解除されると、戻しスプリング8によってチャックスリーブ6が後方へ戻り、同時にコレットチャック7の外径テーパ面が開放されて素材10の把持が解除される。
【0009】主軸台3の前方でベッド1の上面には、ガイドブッシュ支持台15が設けられており、ガイドブッシュ支持台15には、主軸5の中心軸上にガイドブッシュハウジング16が固定されている。ガイドブッシュハウジング16には、軸受17を介して中空のガイドブッシュスリーブ18が回転可能に支持されている。ガイドブッシュスリーブ18の中空部とその前端に形成されたテーパ穴にはガイドブッシュ19体が嵌挿され、このガイドブッシュ体19の後端部には調整ねじ20が螺合しており、通常はガイドブッシュスリーブ10の後端面と調整ねじ20のフランジ部20aとが当接して、素材10とガイドブッシュ体19とが適当なスキマとなるよう調整、締め付けされている。
【0010】前記主軸5の後端部にはタイミングプーリ25が固定され、前記ガイドブッシュスリーブ18の中央部にはタイミングプーリ18bが一体に形成されている。一方、ベッド1内には、主軸5の軸方向と平行に配設されたカウンタ軸26が軸受27、28を介して回転可能に支持されている。そして、カウンタ軸26の後端部に形成されたスプライン部26aに嵌合しかつ主軸台3と共に軸方向に摺動可能にタイミングプーリ29が設けられ、このタイミングプーリ29と前記タイミングプーリ25にタイミングベルト30が掛け渡されている。またカウンタ軸26の前端部にはタイミングプーリ31が設けられ、このタイミングプーリ31と前記タイミングプーリ18bにタイミングベルト32が掛け渡されている。カウンタ軸26には中央部にプーリ33が固定され、ベッド1に支持されたモータ34の出力軸に固定されたプーリ35と前記プーリ33にはベルト36が掛け渡されている。従って、モータ34の駆動によるカウンタ軸26の回転に伴い、主軸5とガイドブッシュスリーブ18は全く同一速度で回転する。また主軸台3は主軸5の回転中にも支持案内路2に沿って自由に摺動することができる。
【0011】以上の構成は公知例3とほぼ同じ構造となっている。しかし、本実施例に示すキャップナット9は、回転ガイドブッシュ装置に向かって延長されており、その先端部はクラッチ部9bとなって、ガイドブッシュスリーブ18のタイミングプリーリ18bの後方に設けられたクラッチ部18cと係脱可能となっている。ガイドブッシュスリーブ18の後端部には、その外周に対向した2つの長溝18aが設けられており、長溝18aにはそれぞれガイドブッシュスリーブ18に植設されたピン21によって揺動可能に支持されたレバー22が設けられている。レバー22は、一端が調整ねじ20のフランジ部20aに当接しており、他端がガイドブッシュスリーブ18の外周より僅かに突出するようになっている。またキャップナット9の延長部9aは主軸台3の前進時(図1)にガイドブッシュスリーブ18の後端部外周面の長溝18aを覆うように延在しており、レバー22の突出部を押圧してガイドブッシュ体19が閉じるように作動させる。
【0012】次にかかる構成よりなる自動旋盤の作用について説明する。通常の加工は、図2に示すように主軸台3が充分に後退しており、キャップナット9のクラッチ部9bとガイドブッシュスリーブ18のクラッチ部18cとが離れた状態となっている。先ず、図2の状態において、主軸台3の後方より主軸5、コレットチャック7を挿通した素材10は、更にガイドブッシュ体19を挿通して加工エリアに突出する。この状態で調整ねじ20を回転させ、ガイドブッシュ体19の内径部と素材10との間に適当なスキマを作り、通常の加工に際し素材10が径方向へ撓むことを抑制し、軸方向には摺動可能となるように調整する。次に素材10の先端を所定の位置に停止させ(通常突切りバイトに押し当てる)、そして、素材10の後端を前進方向に押圧する図示しない材料供給装置をセットし、コレットチャック7を開いて主軸台3を加工しようとする製品の加工長さ分だけ後方に移動させ、ここを切削加工の開始点とする。
【0013】この状態でコレットチャック7によって素材10を把持し、主軸5を回転させるモータ34を起動する。これにより、主軸5が回転して素材10を回転させると共に回転ガイドブッシュ装置のガイドブッシュ体19も回転し、このガイドブッシュ体19の前端部近傍に配置された工具40の径方向運動と、主軸台3の摺動による長手方向運動とによって素材10に所定の切削加工を行う。この切削加工の1サイクルが突切り加工によって終わると、コレットチャック7が開き、主軸台3は前記加工開始点に復帰し、再びコレットチャック7が閉じて次の加工サイクルを開始する。
【0014】前記した加工動作を繰り返して行い、素材10の残り長さが短くなり、主軸台3が次に加工する製品の長さ分だけ後退すると、コレットチャック7では正常に素材10を把持することができなくなると、素材10の後端を押圧する材料供給装置の検出部材の位置によって残り長さが短くなったことが検出され、この検出信号により、図1に示すように、ガイドブッシュ体19に対向して設けられたストッパ部材41がガイドブッシュ体19から製品の長さ分より突切り代だけ長い所定の位置に前進する。そして、突切り工具が後退すると、コレットチャック7が開放した状態にあるので、素材10は図示しない材料供給装置によって押し出されてストッパ部材41に当接する。次にコレットチャック7も開放したまま主軸台3が図1のように前進し、キャップナット9のクラッチ部9bがガイドブッシュスリーブ18のクラッチ部18cに係合する。この時、キャップナット9の延長部9aの内周面によってレバー22が押圧されて揺動し、その結果、調整ねじ20を介してガイドブッシュ体19が後方に(図では右方)に引き込まれる。これにより、ガイドブッシュ体19の前端部のテーパ外周面がガイドブッシュスリーブ18のテーパ内周面に対して摺合し、ガイドブッシュ体19の内径部が内側に変位し素材10を把持する。
【0015】そこで、工具40が径方向及び長手方向に運動して素材10に所定の切削加工を行う。このとき、素材10は回転ガイドブッシュ装置のガイドブッシュ体19で把持され、素材10を切削するための回転力は主軸5のキャップナット9のクラッチ部9bからガイドブッシュスリーブ10のクラッチ部18cを経てガイドブッシュ体19に伝達されるので、回転ガイドブッシュ装置を回転するタイミングベルト32は、格別な負荷を受けることはない。この切削加工の1サイクルが突切り加工によって終わると、主軸台3は後退し、キャップナット9のクラッチ部9bとガイドブッシュスリーブ18のクラッチ部18cとは離れ、また延長部9aがレバー22の押圧を解除し、レバー22は調整ねじ20が前方(図では左方)に摺動する方向に揺動する。これにより、ガイドブッシュ体19は素材10の把持を開放する。そして、ストッパ部材41が前記した所定位置にあるので、素材10は材料供給装置によって押し出されてストッパ部材41に当接し、再び主軸台3が前進してキャップナット9のクラッチ部9bとガイドブッシュスリーブ18のクラッチ部18cとが係合し、レバー22が揺動させられてガイドブッシュ体19は素材10を把持して次の加工サイクルを開始する。素材10をガイドブッシュ体19でも正常に把持できない長さになると、素材10を押圧する材料供給装置の検出部材の位置信号により、材料供給装置によって新しい素材10が挿入されることによって素材10が排出され、通常の加工動作に移る。
【0016】このように、主軸5内のコレットチャック7が次の製品加工のために素材10を把持することができなくなると、主軸台3が前進し、主軸5のキャップナット9の延長部9aによって素材10はガイドブッシュ体19に把持され、駆動はキャップナット9のクラッチ部9bとガイドブッシュスリーブ18のクラッチ部18cを介して駆動されるので、素材10がコレットチャック7に把持できない長さになっても加工を行うことができる。この場合におけるガイドブッシュ体19の開閉及びクラッチ部9b、18cの係脱は主軸台3が前進及び後退することにより行われ、また付属する材料供給装置で素材を送り出すので、特別に駆動源を必要とせず、装置が高価になることもなく、駆動力はキャップナット9とガイドブッシュスリーブ18とを直接接続する駆動力伝達手段で伝達するので充分な回転トルクが伝達される。
【0017】
【発明の効果】本発明によれば、主軸にガイドブッシュ連結手段を設け、主軸台が前進することによりガイドブッシュによって素材を把持させることができるので、装置の低廉化が図れる。また回転ガイドブッシュ装置に充分大きな回転トルクが伝達可能であるので、重切削が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明になるガイドブッシュ装置を備えた自動旋盤の一実施例を示し、残りが短くなった素材を加工する場合の断面図である。
【図2】通常の加工状態の断面図である。
【符号の説明】
3 主軸台
5 主軸
9 キャップナット
9b クラッチ部
10 素材
15 ガイドブッシュ支持台
18 ガイドブッシュスリーブ
18c クラッチ部
19 ガイドブッシュ
20 調整ねじ
22 レバー
40 工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】 素材を把持して回転する主軸と、この主軸を回転可能に支持し軸線方向に摺動可能な主軸台と、この主軸台前方に配置されたガイドブッシュ支持台と、このガイドブッシュ支持台に回転可能に主軸中心線上に支持された回転ガイドブッシュ装置と、この回転ガイドブッシュ装置の前方に配置された工具とを備えた自動旋盤において、主軸に取り付けられ主軸台の前進によって回転ガイドブッシュ装置に係合して主軸の回転を回転ガイドブッシュ装置に伝達する駆動力伝達手段及び回転ガイドブッシュ装置のガイドブッシュ体を開閉させて素材を把持可能ならしめる把持手段とからなるガイドブッシュ連結手段を有することを特徴とする回転ガイドブッシュ装置を備えた自動旋盤。

【図1】
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【図2】
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