説明

回転切削工具

【課題】複合ハニカム部材にザグリ加工を施す場合でも、切り残しやバリのない良好な切削状態が得られる回転切削工具の提供。
【解決手段】工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう第一の切り屑排出溝2が形成され、工具本体1の第一の切り屑排出溝2以外の外周部に、第一の切り屑排出溝2に交差するように工具先端から基端側に向かう螺旋に沿って設けられる第二の切り屑排出溝3が複数条形成され、第二の切り屑排出溝3の工具回転方向を向くすくい面と工具本体1の外周面若しくは外周逃げ面との交差稜線部に基端側外周刃4が形成された回転切削工具において、工具本体1の先端部に底刃5を設け、第一の切り屑排出溝2の先端部のすくい面と工具本体1の先端部の外周面若しくは外周逃げ面18との交差稜線部に先端側外周刃6を形成し、基端側外周刃4は先端側外周刃6より工具基端側に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複合ハニカム部材(ハニカムサンドイッチパネル)等のハニカムコアを含む被削材を切削加工する回転切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合ハニカム部材は、中空柱状のセルの平面的集合体であるハニカムコアの上下面に、繊維強化プラスチック体が積層され、更に、表面に樹脂フィルム等の表面材が設けられて成るものであり、軽量で優れた強度を有するものである。
【0003】
ところで、このような複合ハニカム部材を所定形状に加工する際には、例えば特許文献1に開示されるようなエンドミルが用いられている。
【0004】
しかしながら、特に基材の一方の面から切削加工を施して所定の深さの凹部(凹溝)を形成する所謂ザグリ加工を行う場合、ハニカムコア、繊維強化プラスチック体及び表面材全てで切り残しやバリのない良好な切削状態を得ることは、極めて難しく、そのため、切り残し部分の除去処理や、バリ取り処理などの追加処理が必要となっているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−18629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような現状に鑑み、種々の繰り返しの実験の結果、上記ザグリ加工を施す際、ハニカムコア、繊維強化プラスチック体及び表面材全てを良好に切削し得る構成を見出し完成したもので、複合ハニカム部材にザグリ加工を施す場合でも、ハニカムコア、繊維強化プラスチック体及び表面材全てで切り残しやバリのない良好な切削状態を得ることができる極めて実用性に秀れた回転切削工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう第一の切り屑排出溝2が形成され、この工具本体1の第一の切り屑排出溝2以外の外周部に、この第一の切り屑排出溝2に交差するように工具先端から基端側に向かう螺旋に沿って設けられる第二の切り屑排出溝3が複数条形成され、この第二の切り屑排出溝3の工具回転方向を向くすくい面と前記工具本体1の外周面若しくは前記工具本体1の外周に形成された外周逃げ面との交差稜線部に基端側外周刃4が形成された回転切削工具であって、前記工具本体1の先端部には底刃5が設けられ、前記第一の切り屑排出溝2の先端部のすくい面と前記工具本体1の先端部の外周面若しくは前記工具本体1の先端部の外周に形成された外周逃げ面18との交差稜線部に先端側外周刃6が形成され、前記基端側外周刃4は前記先端側外周刃6より工具基端側に設けられていることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0009】
また、請求項1記載の回転切削工具において、前記第一の切り屑排出溝2は工具先端から基端側に向かう直線状若しくはねじれ角が「第二の切り屑排出溝3のねじれ角−10°」未満に設定された左ねじれの螺旋状に設けられており、また、前記第二の切り屑排出溝3は左ねじれの螺旋状に設けられており、前記第二の切り屑排出溝3のねじれ角は50°以上かつ90°未満に設定されていることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0010】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記基端側外周刃4及び前記先端側外周刃6は先端から基端まで略同一径であることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0011】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記先端側外周刃6の軸方向長さは、0.01mm以上「工具直径の3倍」以下の長さに設定されていることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0012】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記第一の切り屑排出溝2の工具軸直角断面視における占有角度は、15°以上「360/第二の切り屑排出溝3の条数」°未満であることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0013】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記底刃5と前記先端側外周刃6とは同数ずつ設けられ、且つ、この底刃5と先端側外周刃6とは夫々連設されていることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0014】
また、請求項6記載の回転切削工具において、前記第一の切り屑排出溝2は、前記底刃5及び前記先端側外周刃6と連設されていることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記基端側外周刃4は、工具軸方向の任意の点でその有効刃数が「第二の切り屑排出溝3の条数−第一の切り屑排出溝2の条数」未満とならないように設けられていることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記基端側外周刃4の数は、前記先端側外周刃6の条数より多くなるように構成されていることを特徴とする回転切削工具に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、複合ハニカム部材にザグリ加工を施す場合でも、ハニカムコア、繊維強化プラスチック体及び表面材全てで切り残しやバリのない良好な切削状態を得ることができる極めて実用性に秀れた回転切削工具となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施例の概略説明側面図である。
【図2】本実施例の先端部の概略説明斜視図である。
【図3】本実施例の使用態様説明図である。
【図4】図1のa−a断面における矢印方向(工具軸方向)の投影図である。
【図5】切り屑排出溝のすくい面と外周面または外周逃げ面についての別例の説明図である。
【図6】実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0020】
例えばハニカムコアの上下面に、繊維強化プラスチック体が積層され、更に、表面に樹脂フィルム等の表面材が設けられて成る複合ハニカム部材にザグリ加工を施す際、工具先端に設けた底刃5及び先端側外周刃6により、ハニカムコアのセルを良好に切削することができると共に、第一の切り屑排出溝2に交差するように工具先端から基端側に向かう(大きなねじれ角の)螺旋に沿って密に設けられた基端側外周刃4により、繊維強化プラスチック体及び表面材を良好に切削することができ、よって、ハニカムコア、繊維強化プラスチック体及び表面材全てで切り残しやバリのない良好な切削状態を得ることができる。
【実施例】
【0021】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0022】
本実施例は、工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう第一の切り屑排出溝2が形成され、この工具本体1の第一の切り屑排出溝2以外の外周部に、この第一の切り屑排出溝2に交差するように工具先端から基端側に向かう螺旋に沿って設けられる第二の切り屑排出溝3が複数条形成され、この第二の切り屑排出溝3の工具回転方向を向くすくい面と前記工具本体1の外周面若しくは前記工具本体1の外周に形成された外周逃げ面との交差稜線部に基端側外周刃4が形成された回転切削工具であって、前記工具本体1の先端部には底刃5が設けられ、前記第一の切り屑排出溝2の先端部のすくい面と前記工具本体1の先端部の外周面若しくは前記工具本体1の先端部の外周に形成された外周逃げ面18との交差稜線部に先端側外周刃6が形成され、前記基端側外周刃4は前記先端側外周刃6より工具基端側に設けられているものである。なお、「外周面」と「外周に形成された外周逃げ面」の違いについては後述する。
【0023】
具体的には、本実施例は、図3に図示したように、刃部Aとシャンク部Bと両者を連結するテーパ部Cとから成るものであり、中空柱状(中空六角柱状)のセル7の平面的集合体である紙製のハニカムコア8の上下面に、炭素繊維強化プラスチック体(CFRP9)が積層され、更に、表面に表面材としての樹脂フィルム10が設けられて成る複合ハニカム部材に、主に所謂ザグリ加工を施す際に用いられるエンドミルである。
【0024】
即ち、上記複合ハニカム部材のザグリ加工時には、刃部Aの先端側は主にセル7を、基端側は主に繊維強化プラスチック体及び表面材を切削することになるが、本実施例は全ての素材を良好に切削すべく各構成要件を設定している。以下、刃部Aに関し更に具体的に説明する。
【0025】
図1及び図2に図示したように、工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう螺旋状の第一の切り屑排出溝2が2条所定間隔で形成され、この工具本体1の外周にして第一の切り屑排出溝2同士の間の外周部に、この第一の切り屑排出溝2よりも大きなねじれ角の螺旋に沿って設けられる第二の切り屑排出溝3が4条形成され、この第二の切り屑排出溝3の工具回転方向を向くすくい面と前記工具本体1の外周に形成された外周逃げ面との交差稜線部に基端側外周刃4が形成されている。
【0026】
2条の第一の切り屑排出溝2のすくい面11及び工具先端側に設けたギャッシュ面12と工具本体1の第一の先端逃げ面13との交差稜線部に、夫々切れ刃を有する底刃5を設けている。図中、符号14は第二の先端逃げ面、15はギャッシュ面12と連設するギャッシュ連設面、16は第一の切り屑排出溝2の第一の底面、17は第一の切り屑排出溝2の第二の底面である。なお、第一の切り屑排出溝2は直線状に設けても良く、また1条若しくは3条以上設ける構成としても良い。
【0027】
また、本実施例においては、第一の切り屑排出溝2の先端部のすくい面と工具本体1の先端部の外周に形成された外周逃げ面18との交差稜線部に夫々先端側外周刃6を設けている。なお、外周逃げ面18を設けずに外周面と前記すくい面との交差稜線部に先端側外周刃6を設ける構成としても良いし、また、ギャッシュ面12を工具外周まで延設し、このギャッシュ面12と工具本体1の外周面若しくは外周逃げ面18との交差稜線部に先端側外周刃6の先端側の一部を設ける構成としても良い。
【0028】
この先端側外周刃6により、ザグリ加工時のセル7の途中部の中空六角柱状の側面を良好に切断でき、また、底刃5によりセル7の途中部の中空六角柱状の断面の切削面粗さが良好となる。
【0029】
また、底刃5と先端側外周刃6は、同数ずつ(本実施例においては2つ)設けられている。この底刃5と先端外周刃6とは連設され、同位相に設けられている。また、第一の切り屑排出溝2は、底刃5及び先端側外周刃6と連設され、これらと同位相に設けられている。従って、底刃5と先端側外周刃6とでコーナーを同時切削できるため、紙製のハニカムコア8の切削性が良好となり、また、これらに切削された切り屑を、第一の切り屑排出溝2からスムーズに排出することができる。
【0030】
また、各第一の切り屑排出溝2の工具軸直角断面視における占有角度(除去占有角)は、15°以上「360/第二の切り屑排出溝3の条数」°未満に設定されている。具体的には、除去占有角は、図4に図示したように、工具本体1の工具軸直角断面視において(工具軸直角断面における工具軸方向の投影図において)、第一の切り屑排出溝2の両端部における最も手前(工具先端側)に位置する基端側外周刃4(図4中点E)同士が成す角(工具中心と点Eとを通る直線が成す角)のことである。本実施例では85°に設定している。第一の切り屑排出溝2の除去占有角が所定角度確保されないと、先端側外周刃6及び基端側外周刃4で切削した切り屑がスムーズに排出されず、切り屑の噛み込みにより被削材の切り残しやバリが発生する。また、除去占有角が大きすぎると、基端側外周刃4の有効刃数が減少し、1刃当たりの仕事量が増加することで、繊維強化プラスチック体や表面材の切削性が悪化し、バリが発生し易くなる。なお、本明細書における「基端側外周刃4の有効刃数」とは、任意の工具軸直角断面に存在する基端側外周刃4の数を指す。本実施例では基端側外周刃4を形成する第二の切り屑排出溝3が4条形成されていることから、第一の切り屑排出溝2が存在しない場合(工具軸直角断面視における占有角度(除去占有角)が0°の場合)は、任意の工具軸直角断面に存在する基端側外周刃4の数は4つである。第一の切り屑排出溝2が存在することで工具軸直角断面視における所定の占有角度(除去占有角)分だけ基端側外周刃4の一部を除去することになる。図4においては基端側外周刃4の有効刃数は符号Pで示す2つである。
【0031】
ここで図4を用いて、基端側外周刃4の形成について説明した「外周面」と「外周に形成された外周逃げ面」の違いについて説明する。図4に図示した実施例は、工具本体の外周に外周面(円筒面)を設けないように外周逃げ面が形成され、第二の切り屑排出溝3の工具回転方向を向くすくい面との交差稜線部に基端側外周刃4が形成されているものであり、図4には前記すくい面と前記外周逃げ面との交差する点が基端側外周刃4として符号Pで図示されている。なお、前記すくい面及び前記外周逃げ面の領域は、それらの交点(外周刃)を始端とするが、すくい面及び外周逃げ面の夫々の終端は必ずしも定まるものではなく、外周刃近傍を指すのみである。これら、すくい面及び外周逃げ面のおおよその領域を分かりやすくするため図4に傍線を図示する。具体的にはすくい面部分を破線で図示し、外周逃げ面部分を二点鎖線で図示する。
【0032】
切り屑排出溝のすくい面と外周面または外周逃げ面についての別例を図5に図示する。図5(a)は切り屑排出溝のすくい面(破線部分)と外周逃げ面(二点鎖線部分)との交差稜線部に外周刃が形成されている例であり、1つの切り屑排出溝の一方側がすくい面の役割を担い、他方側が外周逃げ面の役割を担うものである(外周逃げ面を切り屑排出溝と別個に形成するのではなく、1つの切り屑排出溝の他方側を外周逃げ面として利用する。)。図5(b)は切り屑排出溝のすくい面と外周逃げ面との交差稜線部に外周刃が形成されている例であり、切り屑排出溝とは別個に外周逃げ面を形成するものである。図5(c)は切り屑排出溝のすくい面と外周面(円筒面)との交差稜線部に外周刃が形成されている例である。
【0033】
先端側外周刃6の形成にかかる「外周面」と「外周に形成された外周逃げ面」についても同様である。
【0034】
また、先端側外周刃6の軸方向長さは、0.01mm以上「工具直径の3倍」以下の長さに設定されている。本実施例では1.2mmに設定している。先端側外周刃6の工具軸方向長さは、「被削材への切り込み深さ−(一面側の繊維強化プラスチック体厚さ+一面側の表面材厚さ)」であれば良く、ザグリ加工時のセル7の途中部の中空六角柱状の側面の切削性を良好に保つために、ザグリの側面加工時に繊維強化プラスチック体および表面材に接しない長さに設定する。この先端側外周刃6は、後述する通り左ねじれのねじれ角が比較的小さいため、繊維が板材の平面方向に配置されている繊維強化プラスチック体自体の加工は良好に行えるが、硬さの低い表面材の加工時にバリが発生する。繊維強化プラスチック体は(ハニカムコアとは反対面側に設けられ、繊維強化プラスチック体の厚さに比べて十分に薄い)表面材と略隙間なく密着しているため、この両部材は同時に切削することが望ましく、先端側外周刃6ではなく、基端側外周刃4で切削することが望ましい。この点を考慮して先端側外周刃6の軸方向長さを設定する必要がある。
【0035】
そして、この先端側外周刃6の基端側にして第一の切り屑排出溝2間の外周部には、第二の切り屑排出溝3及び基端側外周刃4が設けられている。従って、基端側外周刃4を底刃近傍まで存在させないことで、底面へ切削した切り屑を誘導しないですむため、切り屑の噛み込みによる底面での切削性の低下を防ぐことができる(底刃近傍まで基端側外周刃4を設けると左ねじれのねじれ角が大きいため、底面方向へ切り屑が案内され、ハニカムコア8の切り残しが発生したり、加工面が粗くなってしまう。)。
【0036】
第一の切り屑排出溝2は工具先端から基端側に向かう直線状(所謂、ねじれ角(図1中α)が0°)若しくはねじれ角(図1中α)が「第二の切り屑排出溝3のねじれ角−10°」未満に設定された左ねじれの螺旋状に設けられており、また、第二の切り屑排出溝3は、左ねじれの螺旋状に設けられており、前記第二の切り屑排出溝3のねじれ角(図1中β)は50°以上90°未満に設定されている。左ねじれとは、工具回転軸に対し、工具先端から基端側に向かう反時計回りの方向を指す。本実施例においては、第一の切り屑排出溝2のねじれ角は10°、第二の切り屑排出溝3のねじれ角は75°に設定している。第一の切り屑排出溝2のねじれ角は、ハニカムコア8(紙材)の切削性並びにハニカムコア8、繊維強化プラスチック体及び表面材の切り屑排出性に影響し、第二の切り屑排出溝3のねじれ角は、表面材の上方向のバリ防止に影響する。特に第二の切り屑排出溝3のねじれ角が50°未満であると、表面材の上方向のバリが生じやすくなり、好ましくない。なお、これらの角度範囲は後述する実験例等の結果から経験的に見出されたものである。
【0037】
なお、第二の切り屑排出溝3は、第一の切り屑排出溝2により分断されるため、連続的に設けられる訳ではないが、所定の螺旋軌跡(砥石を用いた研削加工時の螺旋軌跡)に沿って(夫々円弧状に)設けられることから、所定の螺旋軌跡に沿って断続的に設けられる第二の切り屑排出溝3全体を1条と数え、他の螺旋軌跡に沿って断続的に設けられる第二の切り屑排出溝3と区別する。即ち、本実施例においては、4つの(始点が)異なる螺旋軌跡に沿って夫々第二の切り屑排出溝3が並設されており、計4条の第二の切り屑排出溝3が設けられていることになる。また、この第二の切り屑排出溝3の工具回転方向を向くすくい面と工具本体1の外周面(若しくは外周逃げ面)との交差稜線部に設けられる基端側外周刃4についても同様に、所定の螺旋軌跡に沿って断続的に設けられる基端側外周刃4全体を1条と数える。
【0038】
また、基端側外周刃4の刃数(条数)は、先端側外周刃6の刃数より多くなるように構成されている。先端側外周刃6の役割は主にハニカムコア8(紙材)の切削であり、被削材が柔らかいため刃数が少なくても良好な切削性を得やすく、刃先の損耗が抑えやすい。一方、基端側外周刃4は主に繊維強化プラスチック体及び表面材を切削するため、刃数が少ないと1刃当たりの仕事量が増すため損耗が大きくなり、繊維の切り残しや表面材のバリが発生しやすくなるため、多くの刃数(条数)を確保するのが望ましい。
【0039】
本実施例においては基端側外周刃4を4つ(第二の切り屑排出溝3を4条)設けている。従って、図1,2に図示したように、基端側外周刃4は工具軸方向に密に設けられ、有効刃数を確保しやすくなる。具体的には、基端側外周刃4は、工具軸方向の任意の点でその有効刃数が「第二の切り屑排出溝3の条数−第一の切り屑排出溝2の条数」未満(本実施例においては2未満)とならないように設けられている(有効刃数が「第二の切り屑排出溝3の条数−第一の切り屑排出溝2の条数」未満であると、繊維強化プラスチック体の切削性が低下する。)。
【0040】
また、基端側外周刃4と先端側の外周刃6は先端から基端まで略同一径となるように構成されている。穴明け加工時の同一穴径加工への対応のためと、側面加工時に同一断面形状を得るためである。
【0041】
本実施例は上述のように構成したから、ハニカムコア8の上下面に、CFRP9が積層され、更に、表面に硬さの低い表面材10が設けられて成る複合ハニカム部材にザグリ加工を施す際、工具先端に設けた底刃5及び先端側外周刃6により、凹部底面のハニカムコア8のセル7を良好に切削することができると共に、第一の切り屑排出溝2より大きなねじれ角の螺旋に沿って密に設けられた基端側外周刃4により、凹部側面(CFRP9及び表面材10)を良好に切削することができる。
【0042】
よって、本実施例は、複合ハニカム部材にザグリ加工を施す場合でも、ハニカムコア、繊維強化プラスチック体及び表面材全てで切り残しやバリのない良好な切削状態を得ることができる極めて実用性に秀れたものとなる。
【0043】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0044】
具体的には、図6に示す各工具を用い、中空六角柱状のセル7の平面的集合体である紙製のハニカムコア8の上下面に、CFRP9が積層され、更に、その表面に表面材10が設けられて成る複合ハニカム部材に、所謂ザグリ加工を施し、各素材の切削後の状態を評価した。
【0045】
この結果より、第一の切り屑排出溝2を設けない比較例1,2では、表面材の切削性に難があることが確認できる。また、比較例3のような基端側外周刃の最適化のみではCFRP及び表面材の切削性の改善に留まり、ハニカムコアの切削性を最適化することはできず、先端側外周刃6を備えることにより、ハニカムコアを含む全ての素材の切削性を最適化できることが確認できた。また、第一の切り屑排出溝のねじれ方向を右ねじれとした場合には、表面材の切削性が悪くなることが確認できた。
【0046】
以上から、上記構成を具備する本実施例により、全ての素材で切り残しやバリのない良好な切削状態を得ることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0047】
1 工具本体
2 第一の切り屑排出溝
3 第二の切り屑排出溝
4 基端側外周刃
5 底刃
6 先端側外周刃
18 外周逃げ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう第一の切り屑排出溝が形成され、この工具本体の第一の切り屑排出溝以外の外周部に、この第一の切り屑排出溝に交差するように工具先端から基端側に向かう螺旋に沿って設けられる第二の切り屑排出溝が複数条形成され、この第二の切り屑排出溝の工具回転方向を向くすくい面と前記工具本体の外周面若しくは前記工具本体の外周に形成された外周逃げ面との交差稜線部に基端側外周刃が形成された回転切削工具であって、前記工具本体の先端部には底刃が設けられ、前記第一の切り屑排出溝の先端部のすくい面と前記工具本体の先端部の外周面若しくは前記工具本体の先端部の外周に形成された外周逃げ面との交差稜線部に先端側外周刃が形成され、前記基端側外周刃は前記先端側外周刃より工具基端側に設けられていることを特徴とする回転切削工具。
【請求項2】
請求項1記載の回転切削工具において、前記第一の切り屑排出溝は工具先端から基端側に向かう直線状若しくはねじれ角が「第二の切り屑排出溝のねじれ角−10°」未満に設定された左ねじれの螺旋状に設けられており、また、前記第二の切り屑排出溝は左ねじれの螺旋状に設けられており、前記第二の切り屑排出溝のねじれ角は50°以上90°未満に設定されていることを特徴とする回転切削工具。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記基端側外周刃及び前記先端側外周刃は先端から基端まで略同一径であることを特徴とする回転切削工具。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記先端側外周刃の軸方向長さは、0.01mm以上「工具直径の3倍」以下の長さに設定されていることを特徴とする回転切削工具。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記第一の切り屑排出溝の工具軸直角断面視における占有角度は、15°以上「360/第二の切り屑排出溝の条数」°未満であることを特徴とする回転切削工具。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記底刃と前記先端側外周刃とは同数ずつ設けられ、且つ、この底刃と先端側外周刃とは夫々連設されていることを特徴とする回転切削工具。
【請求項7】
請求項6記載の回転切削工具において、前記第一の切り屑排出溝は、前記底刃及び前記先端側外周刃と連設されていることを特徴とする回転切削工具。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記基端側外周刃は、工具軸方向の任意の点でその有効刃数が「第二の切り屑排出溝の条数−第一の切り屑排出溝の条数」未満とならないように設けられていることを特徴とする回転切削工具。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の回転切削工具において、前記基端側外周刃の数は、前記先端側外周刃の条数より多くなるように構成されていることを特徴とする回転切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−111706(P2013−111706A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260295(P2011−260295)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000115120)ユニオンツール株式会社 (44)
【Fターム(参考)】