説明

回転式掘削機、掘削撹拌工法

【課題】周囲の住環境を損ねることなく、また、排土の発生を抑えつつ回転式掘削機の掘削効率を向上する。
【解決手段】地下水を含む地盤を掘削撹拌するための回転式掘削機100は、掘削機本体と、掘削機本体110の下部に取り付けられたカッタードラム120と、掘削機本体110に対して振動がほとんど伝わらないように、掘削機本体110に取り付けられたバイブレータ130A,130Bと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント地中壁を構築する際に地盤に掘削溝を形成するための回転式掘削機及びこの回転式掘削機を用いた掘削撹拌工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地中構造物を構築するための土留壁としてソイルセメント地中壁が用いられている。このようなソイルセメント地中壁の構築方法として、掘削機本体の下部に複数のカッタードラムを備えた回転式掘削機を用いて地盤を掘削し、地盤を掘削することで発生した掘削土にセメントミルク等の混入液を混合撹拌してソイルセメントを製造し、このソイルセメントに芯材を埋設する方法が知られている。
【0003】
このような回転式掘削機の掘削効率を向上する方法として、例えば、特許文献1には、掘削機本体を振動させる振動装置を備えた回転式掘削機が記載されている。かかる回転式掘削機によれば、地盤を掘削する際に掘削機本体を振動させることにより、カッタードラムが振動するため、掘削する際にカッタードラムに作用する掘削反力が軽減され、掘削効率を向上することができる。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、カッタードラムにより地盤を掘削する際に、掘削水を高圧で噴射することにより、掘削により発生した土砂に流動性を与える方法が記載されている。かかる方法によれば、掘削した土砂が順次上方に押しやられることで、掘削の進行を妨げることを防止できるため、掘削効率を向上することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2004―251057号公報
【特許文献2】特開平9−273150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の回転式掘削機では、掘削機本体を大きく振動させなければ、上記の効果が充分に得られない。しかしながら、掘削機本体を大きく振動させると、この振動が地盤を伝わり、幅広い範囲に広がってしまい、周辺住民の住環境を損ねてしまう。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法では、地盤を掘削することで発生した掘削土に掘削水を混入させるため、掘削により発生した土砂の容積が増加してしまい、排土が増加してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、周囲の住環境を損ねることなく、また、排土の発生を抑えつつ回転式掘削機の掘削効率を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の回転式掘削機は、地下水を含む地盤を掘削撹拌するための回転式掘削機であって、掘削機本体と、前記掘削機本体の下部に取り付けられたカッタードラムと、発生した振動が前記掘削機本体に伝達されないように前記掘削機本体に取り付けられた振動体と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記の回転式掘削機において、前記掘削機本体には、前記振動体を取り付けるための環状の取付部を備え、前記振動体は、振動を発生する振動体本体と、前記振動体本体から延び、前記取付部の内側を、その内面と隙間をもって通過する棒状部と、前記棒状部に固定され、前記棒状部が、前記環状部の内側から抜け落ちるのを防止する係止部とを備えてもよい。
【0011】
また、前記振動体は、前記掘削機本体に可撓性部材により吊り下げられていてもよい。
また、前記振動体は、前記掘削機本体の下部に取り付けられていてもよい。さらに、前記振動体は、前記掘削機本体の上部にも取り付けられていてもよい。
また、前記掘削機本体には凹部が形成されており、前記振動体は前記凹部の内部に取り付けられていてもよい。
【0012】
また、本発明の地盤の掘削撹拌工法は、上記の回転式掘削機を用いた地盤の掘削撹拌工法であって、前記カッタードラムを回転させるとともに、前記掘削機本体の下部に設けられた振動手段を振動させながら、前記掘削機本体を下降させて地盤を掘削撹拌し、前記掘削機本体の上部に設けられた振動体を振動させながら、前記掘削機本体を上昇させて地上まで引き上げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、掘削機本体はほとんど振動することなく、掘削機周囲の地盤の地下水に対してのみ振動を加えることができる。これにより、地盤の地下水の間隙水圧が上昇し、有効応力が低下するため、地盤のせん断抵抗(すなわち強度)が低下する。このため、周囲に振動を伝播させることなく、掘削機の掘削効率を向上することができる。また、掘削の際に地盤に含まれる地下水を利用することにより掘削水が不要となるため、排土の増加を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の回転式掘削機の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の回転式掘削機100により地盤を掘削している様子を示す壁延長方向の鉛直断面図である。また、図2は、本実施形態の回転式掘削機100の構成を示し、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は側面図である。本実施形態の回転式掘削機100は、ソイルセメント地中壁を構築する際に、地盤10を掘削するとともに、原位置において地盤10を掘削して発生した土砂及びセメントミルク等の混入液を撹拌するためのものである。図1に示すように、回転式掘削機100は、クローラ等の揚重機200により揚重されて用いられる。また、回転式掘削機100には、地上の供給設備210より混入液を供給するホース220が接続されている。
【0015】
図2に示すように、回転式掘削機100は、掘削機本体110と、掘削機本体110の下部に設けられた一対のカッタードラム120と、掘削機本体110の上部及び下部に設けられたバイブレータ130A,130Bと、を備える。また、掘削機本体100には、その内部を上下方向に貫通するように混入液供給管140が設けられている。この混入液供給管140の上端に地上の供給設備210から延びるホース220を接続し、供給設備210からホース220に混入液を供給することにより、掘削機本体110の下部に設けられた排出口140Aから土砂に混入液を供給することができる。
【0016】
掘削機本体110は、直方体の枠状に鋼材が組まれ、その外周面に鋼板が取り付けられて構成される。掘削機本体110の正面及び裏面(地盤掘削時における壁厚方向両面)の上部及び下部には、水平方向に間隔を空けて、夫々複数の縦長状の凹部110A,110Bが形成されている。また、掘削機本体110の側面の上部及び下部の両側部にも凹部110A,110Bが形成されている。そして、これら凹部110A,110B内にバイブレータ130A,130Bが設置されている。このようにバイブレータ130A、130Bは、凹部110A,110B内に収容されているため、後述する地盤10を掘削する際に回転式掘削機100を降下させる工程や、回転式掘削機100を地上まで引き上げる工程において、バイブレータ130A、130Bが掘削溝の内周面と干渉することを防止できる。
【0017】
図3は、掘削機本体110の凹部110A、110B内に取り付けられたバイブレータ130A,130Bを示す図である。同図に示すように、バイブレータ130A、130Bは、バイブレータ本体(特許請求の範囲における振動体本体に相当)131と、バイブレータ本体131の上下面から突出する芯棒(特許請求の範囲における棒状部に相当)132と、芯棒132の先端に接続された皿状部材(特許請求の範囲における係止部に相当)133とから構成される。バイブレータ本体131の内部には偏心した錘が接続されたモータ(不図示)が内蔵されており、このモータにより錘が回転させられることにより振動が発生し、発生した振動は芯棒132及び皿状部材133に伝達される。
【0018】
バイブレータ130A、130Bは、芯棒132を凹部110A、110B内に固設された支持リング134(特許請求の範囲における環状の取付部に相当)に挿通させることにより、凹部110A、110B内に保持されている。また、皿状部材133が、支持リング134の内径に比べて大きな外径に形成されているため、バイブレータ130A、130Bの脱落が防止されている。支持リング134の内径は芯棒132の外径に比べて大きく、芯棒132はその一部しか支持リング134に当接していないため、バイブレータ130A、130Bの振動はほとんど掘削機本体110に伝達されない。
【0019】
なお、これらバイブレータ130A、130Bとしては、後述する地盤10を掘削撹拌する際には、掘削機本体110の下方の地盤10に含まれる地下水のみに振動を加えることができればよく、また、回転式掘削機100を引き上げる際には、掘削機本体110の上部の掘削土に含まれる地下水のみに振動を加えることができればよいので、小型のものを用いることができる。
【0020】
以下、本実施形態の回転式掘削機100により地盤10を掘削撹拌し、ソイルセメントを製造する方法を説明する。なお、本実施形態の回転式掘削機100による掘削撹拌の対象となる地盤10は地下水を含む地盤である。
【0021】
図4は、回転式掘削機100により地盤10を掘削撹拌する様子を示す図である。同図に示すように、地盤10を掘削撹拌する際には、カッタードラム120を回転させるとともに、掘削機本体110の下部に取り付けられたバイブレータ130Bを振動させる。
【0022】
バイブレータ130Bを振動させると、その振動は掘削機本体110の下方の地盤10に含まれる地下水に伝わる。砂を多く含む砂質土は、土砂の粒子同士のせん断抵抗による摩擦によって安定を保っているが、上記のように、バイブレータ130Bにより地盤10に含まれる地下水に振動が加えられると、地下水の間隙水圧が上昇し、有効応力が減少する。これに伴い、砂の粒子同士のせん断抵抗が低下し、地盤10の強度が低下する、いわゆる液状化現象が発生し、その結果、地盤10が軟弱になり掘削作業の効率が向上される。また、このように地盤10が液状化することにより、カッタードラム120に地盤を掘削することにより生じた土砂(以下、掘削土という)が付着することを防止できるので、さらに掘削作業の効率を向上することができる。
【0023】
しかも、上記のように、バイブレータ130Bの振動は掘削機本体110に伝達されず、さらに、バイブレータ130Bとして小型のものが用いられているため、バイブレータ130Bの振動が周囲の地盤10に伝達されるのを抑止することができる。
このようにして地盤10を掘削しながら、揚重機により回転式掘削機100を下降させて、地中壁の底部にあたる深さまで地盤を掘削撹拌する。
【0024】
上記のようにして回転式掘削機100により地中壁の底部にあたる深さまで地盤10を掘削撹拌した後、揚重機により回転式掘削機100を地上まで引き上げる。
図5は、回転式掘削機100を引き上げる様子を示す図である。同図に示すように、回転掘削機100を引き上げる際には、掘削機本体110の上部に取り付けられたバイブレータ130Aを振動させる。これにより、地盤10を掘削撹拌する場合と同様に、掘削機本体110の上部に位置する掘削土に含まれる地下水に振動が加えられ、掘削土が流動化して抵抗が小さくなるため、容易に回転式掘削機100を地上まで引き上げることができる。
【0025】
上記のように回転式掘削機100を引き上げるとともに、地上から供給された混入液を掘削機本体110の下部に設けられた排出口140Aから掘削土に供給する。供給された混入液はカッタードラム120が回転することにより掘削土と撹拌され、原位置においてソイルセメント20を製造することができる。
【0026】
このようにしてソイルセメント20を製造した後、芯材となるH型鋼をソイルセメント20内に建て込み、ソイルセメント20が硬化することでソイルセメント地中壁が構築される。
【0027】
本実施形態によれば、掘削機本体110の下部に取り付けられたバイブレータ130Bを振動させることにより、地下水を含む地盤10が液状化し、地盤10の耐力が低下するため、掘削効率を向上することができる。さらに、地盤10が液状化することにより、掘削した土砂がカッタードラム120に付着することを防止できるため、掘削効率をより向上することができる。
【0028】
また、バイブレータ130A、130Bが掘削機本体110に振動が伝わらない状態で保持されており、さらに、バイブレータ130A,130Bとして小型のものが用いられているため、これらバイブレータ130A,130Bを振動させても掘削機本体110がほとんど振動することはない。このため、周囲の地盤10への振動の伝播を抑えることができ、周囲の地盤や近隣住民に対する影響を抑えることができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、掘削の際に地下水を利用しており、掘削水を供給する必要がないため、掘削土の容積が増大することがなく、排土量を削減することができる。
【0030】
また、掘削機本体110の上部にもバイブレータ130Aを設けることにより、回転式掘削機100の引き上げ時の掘削土の抵抗を抑えることができるため、大型の揚重機を用いることなく、地盤10の掘削撹拌作業を行うことができる。
【0031】
なお、本実施形態では、地盤10を掘削撹拌する際には、掘削機本体110の下部に取り付けられたバイブレータ130Bのみを振動させ、また、回転式掘削機110を地上まで引き上げる際には、掘削機本体110の上部に取り付けられたバイブレータ130Aのみを振動させるものとしたが、これに限らず、掘削機本体110の上部及び下部に取り付けられたバイブレータ130A,130Bを振動させることとしてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、回転式掘削機100により地下水を含む砂質土からなる地盤10を掘削撹拌する場合について説明したが、本発明の回転式掘削機100による掘削の対象となる地盤はこれに限らず、地下水を含みバイブレータ130Bの振動により間隙水圧の上昇が望める地盤であれば、その他の土質の土砂からなる地盤であっても適用することができる。
【0033】
また、本実施形態では、バイブレータ130A,130Bの芯棒132をリング状部材134に挿通させることにより、バイブレータ130A、130Bを掘削機本体110に振動が伝達されない状態で保持するものとしたが、これに限らず、バイブレータ130A、130Bをワイヤ等の可撓性部材により吊り下げることにより保持してもよく、要するに掘削機本体110に振動が伝達されないように保持できればその方法は問わない。
【0034】
また、本実施形態では、まず、地盤10の掘削撹拌作業を行い、回転式掘削機100を引き上げる際に、カッタードラム120を回転させながら、掘削土に混入液を供給することで、ソイルセメントを製造することとしたが、これに限らず、地盤10を掘削撹拌するとともに掘削土に混入液を供給し、掘削土と混入液とを撹拌してソイルセメントを製造してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の回転式掘削機により地盤を掘削している様子を示す壁延長方向の鉛直断面図である。
【図2】本実施形態の回転式掘削機の構成を示し、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図3】掘削機本体の凹部内に取り付けられたバイブレータを示す図である。
【図4】回転式掘削機により地盤を掘削撹拌する様子を示す図である。
【図5】回転式掘削機を引き上げる様子を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 地盤
20 ソイルセメント
100 回転式掘削機
110 掘削機本体
110A、110B 凹部
120 カッタードラム
130A,130B バイブレータ
131 バイブレータ本体
132 芯棒
133 皿状部材
134 リング部材
140 混入液供給管
140A 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を含む地盤を掘削撹拌するための回転式掘削機であって、
掘削機本体と、
前記掘削機本体の下部に取り付けられたカッタードラムと、
発生した振動が前記掘削機本体に伝達されないように前記掘削機本体に取り付けられた振動体と、を備えることを特徴とする回転式掘削機。
【請求項2】
前記掘削機本体には、前記振動体を取り付けるための環状の取付部を備え、
前記振動体は、
振動を発生する振動体本体と、
前記振動体本体から延び、前記取付部の内側を、その内面と隙間をもって通過する棒状部と、
前記棒状部に固定され、前記棒状部が、前記環状部の内側から抜け落ちるのを防止する係止部とを備えることを特徴とする請求項1記載の回転式掘削機。
【請求項3】
前記振動体は、前記掘削機本体に可撓性部材により吊り下げられていることを特徴とする請求項1記載の回転式掘削機。
【請求項4】
前記振動体は、前記掘削機本体の下部に取り付けられていることを特徴とする請求項1から3のうち何れかに記載の回転式掘削機。
【請求項5】
前記振動体は、前記掘削機本体の上部にも取り付けられていることを特徴とする請求項4記載の回転式掘削機。
【請求項6】
前記掘削機本体には凹部が形成されており、前記振動体は前記凹部の内部に取り付けられていることを特徴とする請求項1から5のうち何れかに記載の回転式掘削機。
【請求項7】
請求項5記載の回転式掘削機を用いた地盤の掘削撹拌工法であって、
前記カッタードラムを回転させるとともに、前記掘削機本体の下部に設けられた振動体を振動させながら、前記掘削機本体を下降させて地盤を掘削撹拌し、
前記掘削機本体の上部に設けられた振動体を振動させながら、前記掘削機本体を上昇させて地上まで引き上げることを特徴とする掘削撹拌工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−191464(P2009−191464A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30775(P2008−30775)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)