説明

回転電機および回転電機のステータ

【課題】保持リングからの面圧によるコアの損傷を低減する回転電機および回転電機のステータの提供。
【解決手段】電動モータのステータは、複数のコア体が保持される円筒状のステータリング15を備えている。ステータリング15を形成する円筒部151の軸方向の両端部には、それぞれ所定の軸方向の幅を有する端部領域ETが設けられている。また、円筒部151上の端部領域ET同士の間には、端部領域ETよりも幅広の中央領域CTが設けられている。外周フランジ152が接続された側の端部領域ETには、ステータリング15の内外を連通する複数の矩形スリット155が貫通しており、中央領域CTにはステータリング15を貫く貫通孔は形成されていない。矩形スリット155の形成により端部領域ETが円周方向に伸長し、ステータリング15の軸方向端部は半径方向に拡張可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアに通電することによりロータを駆動する回転電機および回転電機のステータに関する。
【背景技術】
【0002】
保持リングの内周面に、それぞれコイルが巻回された複数のコアが円環状に保持されて形成されたステータと、ステータと半径方向に対向するように形成されたロータとを備えた回転電機に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。これは、主にハイブリッド車両の車輪駆動用のモータとして使用されるもので、複数のコアを円環状に並べた状態で保持リングに固定し、その後、保持リングをモータハウジング内に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3666727号公報
【特許文献2】特開2008―86172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に開示された回転電機においては、複数のコアが保持リングの内周面に圧入固定されている。したがって、保持リング上にコアを移動不能に保持するため、複数のコアが円環状に並んだコア列の外径と、保持リングの内径との間には、所定の締め代(コア列の外径−保持リングの内径)を必要としていた。
しかしながら、回転電機の各々の部材には寸法上のばらつきがあり、このばらつきによって上述した締め代も変動する。寸法上のばらつきを考慮して、最悪の場合でも上述した所定の締め代が維持されるように各部材の寸法を設定すると、締め代が多めになった場合、保持リングの内周面からコア列の外周面に加えられる面圧が増大する。各々のコアは、構成要素として多数の薄い電磁鋼板が積層されて形成されており、外周面に加えられた面圧によって座屈しやすい。
【0005】
また、コア列を保持リングに固定する方法として、上述した常温による圧入以外に焼き嵌めがある。これは、保持リングを加熱して、その内径を拡張させた状態でコア列を嵌め込み、その後、保持リングを冷却して内径を収縮させることにより、保持リングにコア列を固定する方法である。
しかしながら、この方法によっても、冷却後の保持リングとコア列との間の締め代が大きい場合には、外周面に加えられた面圧によって電磁鋼板が座屈しやすい点については、圧入による場合と同様であった。
【0006】
こういった、コアの構成要素の座屈を低減するための従来技術として、保持リングの円筒部に複数の貫通孔を形成するものがあった(例えば、上述した特許文献2参照)。これは、保持リングに形成された貫通孔により、保持リングが半径方向に拡張可能となり、保持リングからコアに加えられる面圧を低減することができるものである。
しかしながら、その反面、貫通孔が形成されることにより保持リングは、その強度が低下する。すなわち、保持リングの強度は、形成される貫通孔の数に応じて低下し、コアが保持リングから受ける面圧を低減することと、保持リングの強度を維持することとは相反する課題であった。
【0007】
また、保持リングから受ける面圧によって発生するダメージは、コア上の各部位において一様ではなかった。すなわち、本願発明者の調査研究により、コアの回転軸方向の端面においては、印加された面圧を少数の電磁鋼板で受け止めるため、コアの軸方向の中央部位に比較して、電磁鋼板の座屈が発生しやすくなることが分かった。
さらに、保持リングの軸方向端部において、コア列の保持リング内への挿入を容易にするためのフランジ部が全周に形成されている場合、当該フランジ部がリインフォースメントの働きをして、保持リングの軸方向端部の剛性が過大となる。このため、コアの端面に位置する電磁鋼板の座屈は、いっそう著しくなる。
【0008】
このように、コアの損傷を防ぐことを目的として、保持リングからの面圧を低減するためには、保持リング上の各部位の特性も考慮する必要があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、保持リングからの面圧によるコアの損傷を低減する回転電機および回転電機のステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る回転電機の発明の構成上の特徴は、ハウジングに取り付けられたステータと、ステータと半径方向に対向して設けられ、ステータに対し回転可能なロータとを備え、ステータは、円筒部を有する保持リングと、各々コイルが巻回されるとともに、円環状に並んだ状態で円筒部の内周面に圧入または焼き嵌めにより取り付けられた複数のコアとにより形成された回転電機において、円筒部の軸方向の両端部には、それぞれ所定の幅を有する円環状の端部領域が形成され、円筒部上の端部領域同士の間には中央領域が設けられており、端部領域のうちの少なくとも一方には、保持リングの内外を連通する複数のスリットが形成されるとともに、中央領域には保持リングを貫く貫通孔が形成されておらず、端部領域はスリットが設けられたことにより円周方向に伸長し、半径方向に拡張可能にしたことである。
【0010】
ここで、上述した端部領域および中央領域は、円筒部を部位の違いにより概念的に区分けするために定義したものである。
また、上述した端部領域の所定の幅は、保持リングの各部位の剛性、保持リングとコアとの間の締め代、保持リングに対するコアの位置等を考慮して、適宜、適正な値に決定されるものであり、特定の値に限定されるべきものではない。
また、上述した貫通孔には、円筒部を貫くスリット、穴等の、中央領域の強度を低下させるあらゆる孔を含んでいる。
【0011】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1の回転電機において、円筒部の軸方向の一側の端部には、半径方向外方に延びるフランジ部が接続されており、スリットはフランジ部が接続された側の端部領域に設けられたことである。
【0012】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または2の回転電機において、複数のスリットは、端部領域において、円筒部の軸方向の端部から同一距離にある円周上に均等間隔に設けられ、各々のスリットは、円筒部の軸方向の端部から、中央領域に向かって軸方向に延びる一対の縦スリット部と、縦スリット部の中央領域側にある端点同士を繋ぎ、円筒部の円周上に延びる横スリット部とを有しており、各々のスリットが貫通することにより、円筒部上には中央領域側が自由端である複数の係止片が形成され、それぞれの自由端は、円筒部の軸方向の端部から同一距離にある円周上に位置しており、コアを円筒部に取り付ける場合、コアの軸方向の両端面のうち、スリットが形成された側の端面を係止片よりも中央領域側に位置させることにより、端面が自由端と係合することである。
【0013】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または2の回転電機において、複数のスリットは、すべて同一形状に形成されるとともに、端部領域において、円筒部の軸方向の端部から同一距離にある円周上に均等間隔に設けられ、各々のスリットは、円筒部上を、軸心に対する斜め方向に直線状に延びており、隣接したスリットのいずれの端部同士も、同じ所定間隔を有して軸方向に重なりあっていることである。
【0014】
請求項5に係る回転電機のステータの発明の構成上の特徴は、円筒部を有する保持リングと、各々コイルが巻回されるとともに、円環状に並んだ状態で円筒部の内周面に圧入または焼き嵌めにより取り付けられた複数のコアとを備えた回転電機のステータにおいて、円筒部の軸方向の両端部には、それぞれ所定の幅を有する円環状の端部領域が形成され、円筒部上の端部領域同士の間には中央領域が設けられており、端部領域のうちの少なくとも一方には、保持リングの内外を連通するスリットが形成されるとともに、中央領域には、保持リングを貫く貫通孔が形成されておらず、端部領域はスリットが設けられたことにより円周方向に伸長し、半径方向に拡張可能にしたことである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る回転電機によれば、端部領域のうちの少なくとも一方には、保持リングの内外を連通する複数のスリットが形成されるとともに、中央領域には保持リングを貫く貫通孔が形成されておらず、端部領域はスリットが設けられたことにより円周方向に伸長し、半径方向に拡張可能に形成されている。
これにより、保持リングとコアとの間の締め代が大きい場合でも、円筒部の軸方向端部からコアに加わる面圧を低減でき、コア端面の座屈を防止することができる。
【0016】
また、端部領域に形成されたスリットは、貫通孔ほどは保持リングの強度を低下させることはなく、円筒部の軸方向端部の強度の維持とコアに対する面圧の低減を両立させることができる。
また、中央領域に貫通孔が形成されていないため、いっそう円筒部の強度を維持することができる。
【0017】
請求項2に係る回転電機によれば、スリットはフランジ部が接続された側の端部領域に設けられたことにより、保持リングの軸方向端部のうち、フランジ部の形成により剛性が増大された側の面圧を低減することができる。
【0018】
請求項3に係る回転電機によれば、各々のスリットが貫通することにより、円筒部上には中央領域側が自由端である複数の係止片が形成され、それぞれの自由端は、円筒部の軸方向の端部から同一距離にある円周上に位置しており、コアを円筒部に取り付ける場合、スリットが形成された側のコアの端面を係止片よりも中央領域側に位置させていることにより、コアの端面が自由端と係合する。
【0019】
これにより、係止片の自由端と係合したコアが保持リングから抜け出ることが防止され、保持リングによってコアを安定して保持することができる。
また、端部領域に形成された横スリット部により、円筒部のコアと係合している部位と軸方向端部との連続性を断つことができる。したがって、円筒部の軸方向端部の剛性が高くても、コアへの面圧の影響を最小限にすることができる。
【0020】
請求項4に係る回転電機によれば、各々のスリットは、円周上に均等間隔に設けられるとともに、円筒部上を軸心に対する斜め方向に直線状に延びており、隣接したスリットのいずれの端部同士も、同じ所定間隔を有して軸方向に重なりあっている。
これにより、端部領域の円周上において、均等間隔を有する位置に形成されたスリットの形状、数、大きさ等が同一となるため、保持リングの円周上における面圧を均等にして、コアをバランスよく安定して保持することができる。
【0021】
請求項5に係る回転電機のステータによれば、端部領域のうちの少なくとも一方には、保持リングの内外を連通する複数のスリットが形成されるとともに、中央領域には保持リングを貫く貫通孔が形成されておらず、端部領域はスリットが設けられたことにより円周方向に伸長し、半径方向に拡張可能に形成されている。
【0022】
これにより、保持リングとコアとの間の締め代が大きい場合でも、円筒部の軸方向端部からコアに加わる面圧を低減でき、コア端面の座屈を防止することができる。
また、端部領域に形成されたスリットは、貫通孔ほどは保持リングの強度を低下させることはなく、円筒部の軸方向端部の強度の維持とコアに対する面圧の低減を両立させることができる。
また、中央領域に貫通孔が形成されていないため、いっそう円筒部の強度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態1による電動モータの車両に搭載された状態を示した断面図
【図2】図1に示した電動モータのステータリングの斜視図
【図3】図2に示したステータリングにコアが保持された状態を示した部分斜視図
【図4】図3の平面図
【図5】図2に示したステータリングに対し、コアを円環状に並べて保持させる状態を示した斜視図
【図6】ステータリングにコアが保持された状態を誇張して示した断面図
【図7】コア体の端面がストッパ片に係合した状態を誇張して示した断面図
【図8】実施形態2によるステータリングの斜視図
【図9】図8に示したステータリングにおいて、ニードルスリットが形成された部位を示した拡大正面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態1>
図1乃至図7に基づき、本発明の実施形態1による電動モータ1について説明する。電動モータ1(本発明の回転電機に該当する)は、ハイブリッド車両の車輪駆動用の同期モータである。しかしながら、本発明はこれに限定されるべきものではなく、家庭用電器に設けられるモータあるいは一般的な産業用機械を駆動するモータといった、あらゆる電動モータに適用することが可能である。
【0025】
尚、説明中において回転軸方向または軸方向という場合、特に断らなければ、電動モータ1の回転軸Cに沿った方向、すなわち図1における左右方向を意味する。また、図1において、左方を電動モータ1およびクラッチ装置3の前方といい、右方を後方ということがあるが、実際の車両上における方向とは無関係である。また、図3乃至図7において、コア体16のボビン162、163およびコイル164は省略されている。
【0026】
図1に示すように、モータハウジング11(本発明のハウジングに該当する)は、ロータ13およびステータ14を内蔵した状態で、前方をモータカバー12により封止されている。モータカバー12の前方には、図示しない車両のエンジンが取り付けられ、モータハウジング11の後方にはトランスミッション(図示せず)が配設されている。
また、電動モータ1を構成するロータ13とエンジンとの間には、湿式多板クラッチであるノーマリクローズタイプのクラッチ装置3が介装されている。さらに、電動モータ1は、トランスミッションを介して図示しない車両の駆動輪と接続されており、電動モータ1による駆動力が駆動輪に入力される。
【0027】
図1に示した電動モータ1が搭載された車両は、エンジンにより走行する場合、エンジンがトランスミッションを介して駆動輪を回転させる。また、電動モータ1により走行する場合、電動モータ1がトランスミッションを介して駆動輪を回転させる。この時、クラッチ装置3をレリーズさせて、エンジンと電動モータ1との間の接続を解除している。さらに、電動モータ1は、クラッチ装置3を介してエンジンにより駆動され、発電機としても機能する。
【0028】
モータカバー12の内周端には、軸受31を介してクラッチ装置3のインプットシャフト32が、回転軸Cを中心に回転可能に取り付けられている。回転軸Cは、エンジン、電動モータ1およびトランスミッションのタービンシャフト2の回転軸でもある。インプットシャフト32は、エンジンのクランクシャフトと接続されている。
また、インプットシャフト32は、クラッチ装置3の係合部33を介して、クラッチアウタ34と接続されている。係合部33が係脱することにより、インプットシャフト32とクラッチアウタ34との間が断続される。
【0029】
クラッチアウタ34は、電動モータ1のロータ13に連結されるとともに、半径方向内方へと延びて、内端においてタービンシャフト2とスプライン嵌合している。また、クラッチアウタ34とモータハウジング11の固定壁111との間には、双方の間の相対回転が可能なように、ベアリング装置35が介装されている。
【0030】
電動モータ1のロータ13は、クラッチアウタ34を介して、モータハウジング11に回転可能に取り付けられている。ロータ13は、積層された複数の電磁鋼板131を一対の保持プレート132a、132bにより挟み、これに固定部材133を貫通させて端部をかしめることにより形成されている。また、ロータ13の円周上には、図示しない複数の界磁極用マグネットが設けられている。一方の保持プレート132bは、クラッチアウタ34に取り付けられ、これにより、ロータ13はクラッチアウタ34と連結されている。
【0031】
また、モータハウジング11の内周面には、ロータ13と半径方向に対向するように、電動モータ1のステータ14が取り付けられている。ステータ14は、ステータリング15(本発明の保持リングに該当する)の円筒部151の内周面に、回転磁界発生用の複数のコア体16(本発明のコアに該当する)が円環状に並ぶように取り付けられて形成されている(図3示)。
【0032】
各々のコア体16は、およそT字状を呈した複数のケイ素鋼板(電磁鋼板)が積層されることにより形成されたティース161を備えている(図4示)。それぞれのティース161の外周縁には、各々円周方向に延びる一対のバックヨーク部161aが形成されている。
図3および図4に示すように、円筒部151の内周面と対向する各々のティース161の外周面には凹部161bが形成されている。凹部161bは、コイル164に通電することにより発生する磁束が、ティース161外に漏れることを防止するために設けられている。
【0033】
ティース161には一対のボビン162、163が装着され、ボビン162、163は、ティース161の外周面を囲むように互いに嵌合している。さらに、ボビン162、163の回りには、回転磁界を発生させるためのコイル164が巻回されている(図1示)。コア体16の周囲に巻回されたコイル164は、図示しないバスリングを介して外部のインバータと接続される。
上述した構成を備えた電動モータ1において、コイル164に例えば三相の交流電流が供給されることによりステータ14において回転磁界が発生し、回転磁界に起因する吸引力または反発力によって、ステータ14に対しロータ13が回転される。
【0034】
ステータリング15は鋼板をプレス成形して形成されており、図2に示すように、リング状の円筒部151と、円筒部151の軸方向の一側の端部に接続され、全周に亘って半径方向外方に延びる外周フランジ152(本発明のフランジ部に該当する)を有している。
また、外周フランジ152の円周上の3箇所には、それぞれ半径方向外方にさらに延びた取付フランジ153が形成されている。取付フランジ153は、ステータ14をモータハウジング11に取り付けるために形成されており、それぞれ一個あるいは一対の取付穴154が貫通している。ステータリング15において、円筒部151と外周フランジ152および取付フランジ153とが接続された部位は、全周に亘って、所定の大きさの曲率を有する曲面に形成されている。
【0035】
図2に示すように、円筒部151の軸方向の両端部には、それぞれ端部領域ETが設けられている。各々の端部領域ETは、所定の軸方向の幅を有する円環状に形成されており、これに限定されるべきものではないが、本実施形態においては双方の端部領域ETの幅は等しく形成されている。また、円筒部151上の軸方向において端部領域ET同士の間には、端部領域ETよりも幅広の中央領域CTが設けられている。
【0036】
ここで、本実施形態による端部領域ETの軸方向の幅は、ステータリング15の各部位の剛性、ステータリング15とコア体16との間の締め代、ステータリング15に対するコア体16の位置等を考慮して、適宜、適正な値に決定されるものであり、特定の値に限定されるべきものではない。
【0037】
一対の端部領域ETのうち、外周フランジ152が接続された側には、ステータリング15の内外を連通する複数の矩形スリット155(本発明のスリットに該当する)が貫通している。一方、ステータリング15の中央領域CTには、矩形スリット155を含めてステータリング15を貫く貫通孔は一切形成されていない。
複数の矩形スリット155は全て同一の形状、大きさで、端部領域ETにおいて、円筒部151の軸方向の端部から同一距離にある位置に形成され、円筒部151の円周上に均等間隔に設けられている。
【0038】
各々の矩形スリット155は、円筒部151の端部から中央領域CTに向けて、軸方向に互いに平行に延びる一対の縦スリット部155aと、縦スリット部155aの中央領域CT側にある端点同士を繋ぎ、円筒部151の円周上に直線状に延びる横スリット部155bとを有している。これにより、矩形スリット155は、図2に示したように、上方が開口した略コの字状を呈している。
【0039】
各々の矩形スリット155が貫通することにより、円筒部151上には複数の舌片156(本発明の係止片に該当する)が形成されている。舌片156は、外周フランジ152側において円筒部151に接続されており、中央領域CT側が平坦な自由端156aとなっている。複数の舌片156は、円筒部151の同じ軸方向位置に円周上において均等間隔に配置されている。したがって、すべての舌片156の自由端156aは、円筒部151の軸方向の端部から同一距離にある円周上に位置している。
【0040】
矩形スリット155が設けられたことにより、端部領域ETは円周方向に伸長可能に形成されており、これにより、円筒部151の外周フランジ152が設けられた側の軸方向端部は、半径方向に拡張可能となっている。
したがって、コア体16を円環状に並べたコア列CR(図5示)を、焼き嵌め等によってステータリング15に取り付けた場合に、コア列CRとステータリング15との間の締め代(コア列CRの外径−ステータリング15の円筒部151の内径)が大きくても、円筒部151からコア体16の回転軸方向の端部に加えられる面圧を低減することができる。
尚、後述するように、取付フランジ153は、取付穴154においてモータハウジング11に固定されているが、ステータリング15自体が弾性力を有しているため、取付穴154の固定により円筒部151が拡張することが妨げられることはない。
【0041】
上述したように、複数のコア体16は、円筒部151の内周面に焼き嵌めにより取り付けられる。完成したステータリング15は所定温度に加熱されて、その内径が拡張される。加熱された円筒部151に対し、ティース161のバックヨーク部161aを互いに当接させて、複数のコア体16を円環状に並べてコア列CRにした状態で挿入していく(図5示)。
コア列CRが円筒部151内に挿入された後、ステータリング15は冷却されて収縮し、各々のコア体16を強固に保持することができる。
また、コア体16をステータリング15内に取り付ける方法として、常温における圧入を適用してもよい。さらに、圧入によりコア体16をステータリング15内に保持させる場合、コア体16と円筒部151との間に接着剤を介在させ、その保持力を増大させてもよい。
【0042】
図6に示すように、コア体16が円筒部151の内周面に取り付けられた状態において、円筒部151の軸方向の両端部を除いた部位は、所定の面圧を発生させながらコア体16のティース161と係合している。この時、ティース161が取り付けられた外周フランジ152側の端部領域ETは、矩形スリット155によって半径方向に拡張されている。
一方、円筒部151の軸方向の両端部は、コア体16のティース161と当接していないため半径方向内方へと撓んでいる。
【0043】
図7に示すように、ティース161の外周フランジ152側の端面161cが、舌片156よりも中央領域CT側に位置するようにコア体16を円筒部151に取り付けると、ティース161の端面161cが舌片156の自由端156aと係合する。これにより舌片156を、コア体16が円筒部151に対して軸方向に移動することを防止するストッパ部材として機能させることができる。
尚、図6および図7において、円筒部151の半径方向内方への撓み量は誇張して示されている。
【0044】
図1に示すように、コア体16が取り付けられたステータリング15は、モータハウジング11に固定される。取付フランジ153をモータハウジング11のボス部112に当接させた後、取付ボルト17を取付穴154に挿通し、ボス部112に螺合させることにより、取付フランジ153はモータハウジング11に取り付けられる。
【0045】
本実施形態によれば、一方の端部領域ETにステータリング15の内外を連通する複数の矩形スリット155が形成されるとともに、中央領域CTにはステータリング15を貫く貫通孔が形成されておらず、端部領域ETは矩形スリット155が設けられたことにより円周方向に伸長し、半径方向に拡張可能に形成されている。
これにより、ステータリング15とコア体16との間の締め代が大きい場合でも、円筒部151の軸方向端部からコア体16に加わる面圧を低減でき、コア体16の端面161cの座屈を防止することができる。
【0046】
また、端部領域ETに形成された矩形スリット155は、貫通孔ほどはステータリング15の強度を低下させることはなく、円筒部151の軸方向端部の強度の維持とコア体16に対する面圧の低減を両立させることができる。
また、中央領域CTに貫通孔が形成されていないため、いっそう円筒部151の強度を維持することができる。
また、矩形スリット155は外周フランジ152が接続された側の端部領域ETに設けられたことにより、ステータリング15の軸方向端部のうち、外周フランジ152の形成により剛性が増大された側の面圧を低減することができる。
【0047】
また、各々の矩形スリット155が貫通することにより、円筒部151上には中央領域CT側が自由端156aである複数の舌片156が形成され、それぞれの自由端156aは、円筒部151の軸方向の端部から同一距離にある円周上に位置しており、コア体16を円筒部151に取り付ける場合、コア体16の外周フランジ152側の端面161cを舌片156よりも中央領域CT側に位置させることにより、コア体16の端面161cが自由端156aと係合する。
【0048】
これにより、舌片156の自由端156aと係合したコア体16が、軸方向に移動してステータリング15から抜け出ることが防止され、ステータリング15によってコア体16を安定して保持することができる。
また、端部領域ETに形成された横スリット部155bにより、円筒部151のコア体16と係合している部位と軸方向端部との連続性を断つことができる。したがって、外周フランジ152の存在により、円筒部151の軸方向端部の剛性が高くても、コア体16への面圧の影響を最小限にすることができる。
【0049】
<実施形態2>
次に、図8および図9に基づき、実施形態2によるステータリング15Aについて説明する。本実施形態によるステータリング15Aの円筒部151には、実施形態1による場合と同様に、端部領域ETおよび中央領域CTが設けられている。
また、図8に示すように、外周フランジ152側の端部領域ETには、複数のニードルスリット157(本発明のスリットに該当する)が円筒部151を貫通している。一方、実施形態1のものと同様に、中央領域CTには、ステータリング15Aを貫く貫通孔は一切形成されていない。複数のニードルスリット157はすべて同一の形状、大きさで、円筒部151の軸方向の端部から同一距離にある位置に形成され、円筒部151の円周上に均等間隔に設けられている。
【0050】
各々のニードルスリット157は、円筒部151上を、軸心(回転軸C)に対する斜め方向に直線状に延びており、隣り合ったニードルスリット157のどの端部同士も、所定の間隔を有して軸方向に重なりあっている。
円筒部151に形成されたニードルスリット157は、円周方向に伸長可能に形成されており、これにより、円筒部151は半径方向に拡張可能となっている。したがって、コア体16を円環状に並べたコア列CRを、焼き嵌め等によってステータリング15Aに取り付けた場合に、コア列CRとステータリング15Aとの間の締め代が大きくても、円筒部151からコア体16に加えられる面圧を低減することができる。
【0051】
図9に示すように、円筒部151の円周上において、均等な間隔S毎にニードルスリット157の形成状態を見てみると、円筒部151の端部(外周フランジ152)から最も近いニードルスリット157までは、いずれも等しい所定距離P1に設定されている。
また、当該円周上の位置において、軸方向に隣接したニードルスリット157のどの端部同士も軸方向に重なりあっており、これらの重なり合った端部同士は、いずれも同じ所定間隔P2を有している。
【0052】
本実施形態によれば、各々のニードルスリット157は、円周上に均等間隔に設けられるとともに、円筒部151上を軸心に対する斜め方向に直線状に延びており、隣接したニードルスリット157のいずれの端部同士も、同じ所定間隔を有して軸方向に重なりあっている。
これにより、端部領域ETの円周上において、均等間隔を有する位置に形成されたニードルスリット157の形状、数、大きさ等が同一となるため、ステータリング15の円周上における面圧を均等にして、コア体16をバランスよく安定して保持することができる。
【0053】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
矩形スリット155あるいはニードルスリット157は、円筒部151に形成された双方の端部領域ETに設けられてもよいし、外周フランジ152が形成されていない側の端部領域ETのみに設けられてもよい。
矩形スリット155およびニードルスリット157の形成個数は、ステータリング15の円筒部151上において必要な拡張量を考慮して、適宜決めればよい。
【0054】
端部領域ETにおいて、円弧形状のスリット、波形のスリット等、あらゆる形状のスリットが形成可能である。
また、本発明による電動モータ1は、同期モータ、誘導モータ、直流モータあるいはそれ以外のあらゆる回転電機に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
図面中、1は電動モータ(回転電機)、11はモータハウジング(ハウジング)、13はロータ、14はステータ、15,15Aはステータリング(保持リング)、16はコア体(コア)、151は円筒部、152は外周フランジ(フランジ部)、155は矩形スリット(スリット)、155aは縦スリット部、155bは横スリット部、156は舌片(係止片)、156aは自由端、157はニードルスリット(スリット)、161cはコア体の外周フランジ側の端面、164はコイル、Cは回転軸、CTは中央領域、ETは端部領域を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに取り付けられたステータと、
前記ステータと半径方向に対向して設けられ、前記ステータに対し回転可能なロータと、
を備え、
前記ステータは、
円筒部を有する保持リングと、
各々コイルが巻回されるとともに、円環状に並んだ状態で前記円筒部の内周面に圧入または焼き嵌めにより取り付けられた複数のコアと、
により形成された回転電機において、
前記円筒部の軸方向の両端部には、それぞれ所定の幅を有する円環状の端部領域が形成され、
前記円筒部上の前記端部領域同士の間には、中央領域が設けられており、
前記端部領域のうちの少なくとも一方には、前記保持リングの内外を連通する複数のスリットが形成されるとともに、前記中央領域には、前記保持リングを貫く貫通孔が形成されておらず、
前記端部領域は、
前記スリットが設けられたことにより円周方向に伸長し、半径方向に拡張可能であることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記円筒部の軸方向の一側の端部には、半径方向外方に延びるフランジ部が接続されており、
前記スリットは、
前記フランジ部が接続された側の前記端部領域に設けられたことを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項3】
複数の前記スリットは、
前記端部領域において、前記円筒部の軸方向の端部から同一距離にある円周上に均等間隔に設けられ、
各々の前記スリットは、
前記円筒部の軸方向の端部から、前記中央領域に向かって軸方向に延びる一対の縦スリット部と、
前記縦スリット部の前記中央領域側にある端点同士を繋ぎ、前記円筒部の円周上に延びる横スリット部と、
を有しており、
各々の前記スリットが貫通することにより、前記円筒部上には前記中央領域側が自由端である複数の係止片が形成され、
それぞれの前記自由端は、前記円筒部の軸方向の端部から同一距離にある円周上に位置しており、
前記コアを前記円筒部に取り付ける場合、前記コアの軸方向の両端面のうち、前記スリットが形成された側の端面を前記係止片よりも前記中央領域側に位置させることにより、前記端面が前記自由端と係合することを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
複数の前記スリットは、
すべて同一形状に形成されるとともに、前記端部領域において、前記円筒部の軸方向の端部から同一距離にある円周上に均等間隔に設けられ、
各々の前記スリットは、
前記円筒部上を、軸心に対する斜め方向に直線状に延びており、
隣接した前記スリットのいずれの端部同士も、同じ所定間隔を有して軸方向に重なりあっていることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項5】
円筒部を有する保持リングと、
各々コイルが巻回されるとともに、円環状に並んだ状態で前記円筒部の内周面に圧入または焼き嵌めにより取り付けられた複数のコアと、
を備えた回転電機のステータにおいて、
前記円筒部の軸方向の両端部には、それぞれ所定の幅を有する円環状の端部領域が形成され、
前記円筒部上の前記端部領域同士の間には、中央領域が設けられており、
前記端部領域のうちの少なくとも一方には、前記保持リングの内外を連通するスリットが形成されるとともに、前記中央領域には、前記保持リングを貫く貫通孔が形成されておらず、
前記端部領域は、
前記スリットが設けられたことにより円周方向に伸長し、半径方向に拡張可能であることを特徴とする回転電機のステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−250631(P2011−250631A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122893(P2010−122893)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】