説明

固体ロケットの安全化装置

【課題】打ち上げ後のロケットに異常が発生した際に、保安装置によりロケットを落下させると、落下したロケットには未作動の固体ロケットや未燃焼の固体推進薬が存在している場合があり、これらの固体推進薬には依然として着火の可能性が残るので、さらなる安全性を図るうえでの改善が必要であった。
【解決手段】固体ロケットである上段側ロケットURのモータケース3に穴を開けるための破壊用火工品5と、破壊用火工品5の起爆用電源である海水電池6を備えた固体ロケットの安全化装置としたことにより、例えば、打ち上げ後の異常発生により海上に落下させた場合や、故障により海上に落下した場合に、固体ロケットの不測の作動を未然に阻止して、安全性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ロケット若しくは固体ロケットを含む多段式ロケットにおいて、打ち上げ後の異常発生により落下させた際に、固体ロケットの機能を失わせるのに用いられる固体ロケットの安全化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、この種の安全化装置としては、例えば非特許文献1に記載されている保安装置がある。非特許文献1に記載の保安装置は、打ち上げ後のロケットに異常が発生し、そのままでは地上に危害を与える可能性がある場合に、地上からロケットにコマンド信号を送信して、ロケットの燃焼停止や破壊を行うものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】『第2版・航空宇宙工学便覧』丸善株式会社、平成4年9月30日発行、p.892
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したような保安装置によってロケットを落下させる場合、日本では海上に落下させる。しかしながら、ロケットの構造にもよるが、落下したロケットには未作動の固体ロケットや未燃焼の固体推進薬が存在している場合があり、これらの固体推進薬には依然として着火の可能性が残るので、さらなる安全性を図るうえでの改善が必要であった。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、例えば、打ち上げ後の異常発生により海上に落下させた場合や、故障により海上に落下した場合に、固体ロケットの不測の作動を未然に阻止して、安全性を確保することができる固体ロケットの安全化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固体ロケットの安全化装置は、固体ロケットのモータケースに穴を開けるための破壊用火工品と、破壊用火工品の起爆用電源である海水電池を備えた構成とし、また、より好ましい実施形態として、前記海水電池が、外界に開放された海水導入部を備えている構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固体ロケットの安全化装置は、上記構成を採用したことにより、海上に落下した固体ロケットの不測の作動を未然に阻止して、安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る固体ロケットの安全化装置の一実施形態を説明する断面説明図である。
【図2】本発明に係る固体ロケットの安全化装置の他の実施形態を説明する断面説明図である。
【図3】本発明に係る固体ロケットの安全化装置のさらに他の実施形態を説明する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示すロケットRは、多段式ロケットであって、下段側ロケットLRと、固体ロケットである上段側ロケットURと、ペイロード搭載用の頭部Nを備えている。
【0010】
上段側ロケットURは、モータケース3と、その尾部に連結したロケットノズル4を備え、モータケース3には、所定形状の固体推進薬が装填してある。そして、この上段側ロケットURに安全化装置を備えている。
【0011】
安全化装置は、上段側ロケットURのモータケース3に穴を開けるための破壊用火工品5と、破壊用火工品5の起爆用電源である海水電池6を備えている。破壊用火工品5は、モータケース3の外面に相対向する成形爆薬を含むと共に、図示例のものは長尺状を成しており、モータケース3の胴部に対して、その機軸方向に沿って配置してある。
【0012】
海水電池6は、例えば、負極にマグネシウムを用いると共に、正極に塩化鉛や塩化銀を用い、海水を電解質として発電を行う従来既知の電池であって、ケーブル7により破壊用火工品5に電気的に接続してある。この海水電池6は、図中の拡大図に示すように、外界すなわちロケットRの外面に開放された海水導入部8を備えている。海水導入部8は、ロケットRが海上に落下した際に、海中に没する位置に設けることがより望ましい。
【0013】
上記構成を備えたロケットRは、打ち上げ後に異常が発生し、そのままでは地上に危害を与える虞がある場合、地上からのコマンド信号により下段側ロケットLRの破壊あるいは推力停止を行う。これにより、ロケットRは、推進力を失って海上に落下する。このとき、上段側ロケットURは未作動である。
【0014】
上段側ロケットURの安全化装置は、ロケットRが海上に落下すると、海水電池6の海水導入部8から海水を導入して放電(発電)を開始し、破壊用火工品5を起爆する。破壊用火工品5は、成形爆薬により爆発エネルギーを集中させてモータケース3にスリット状の穴を空ける。これにより、上段側ロケットURは、モータケース3が圧力容器としての機能を失う。
【0015】
このようにして、安全化装置は、海上に落下したロケットRのうちの上段側ロケットURの不測の作動(爆発など)を未然に阻止することができ、安全性を確保することができる。また、海水電池6は海水が導入されるまで作動しないので、空中で誤作動をする可能性が殆ど無いという利点がある。
【0016】
さらに、上記の安全化装置は、外界に開放された海水導入部8を備えた海水電池6としたことから、海上への落下とともに海水電池6内に海水を速やかに導入することができ、早期に破壊用火工品5を起爆させることができる。
【0017】
図2は、本発明に係る固体ロケットの安全化装置の他の実施形態を説明する図である。なお、以下の実施形態において、先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0018】
図示例のロケットRは、上段側ロケットURに対して、受信機、飛行停止装置11、アンテナ12及び図外のバッテリを備えており、これらを電気的に接続している。つまり、この実施形態では、破壊用火工品5、海水電池6、及び飛行停止装置11により、地上からのコマンドによる破壊用火工品5の起爆、海水電池6による破壊用加工品5の起爆という二重の起爆経路を構成している。
【0019】
上記のロケットRは、下段側ロケットLRの燃焼中に異常が発生した場合には、地上からのコマンド信号により下段側ロケットLRの破壊あるいは推進力停止を行う。また、上段側ロケットURは、同じくコマンド信号を受信して点火シーケンスを中止する。
【0020】
したがって、上段側ロケットURは、そのまま海上に落下する。そして、海上に落下すると、海水電池6が放電を開始して破壊用火工品5を起爆し、モータケース3に穴を空けて、上段側ロケットURの不測の作動を未然に阻止する。このように、海上への落下後、自動で安全化処理を行えることから、安全に対する信頼性をより一層高めることができる。
【0021】
なお、上段側ロケットURの燃焼中に異常が起きた場合は、地上からのコマンドを受け、飛行停止装置11によって破壊用火工品5を起爆させ、安全化を図る。
【0022】
図3は、本発明に係る固体ロケットの安全化装置のさらに他の実施形態を説明する図である。
図示例のロケットRは、固体ロケットである下段側ロケットLRと、上段側ロケットURと、頭部Nを備えており、空中から発射される。
【0023】
上記のロケットRは、海上の空中において、図外の航空機から投下され、その後、懸吊索1により連結したパラシュート2を用いて、落下速度の減速と発射姿勢の確立を行っている。そして、ロケットRは、所定の姿勢、速度及び高度になった時点でパラシュート2を切り離し、下段側ロケットLRの点火を行うが、何らかの不具合で下段側ロケットLRの点火が行われなかった場合は、そのまま海上に落下する。
【0024】
このとき、ロケットRは、下段側ロケットLRの安全化処理は行われていないが、海上に落下すると、海水電池6が放電を開始して破壊用火工品5を起爆し、モータケース3に穴を空けて、下段側ロケットLRの不測の作動を未然に阻止する。また、図示は省略したが、上段側ロケットURにも、同様の安全化装置が備わっており、上段側ロケットURの安全化処理も行われる。このように、海上に落下後、自動で安全化処理を行えることから、ロケットRの安全に対する信頼性をより一層高めることができる。
【0025】
なお、下段側ロケットLRの燃焼中、及び上段側ロケットURの燃焼中は、図1及び図2を用いて説明した先の実施形態と同様である。
【0026】
本発明に係る固体ロケットの安全化装置は、その構成が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において構成の細部を適宜変更することが可能である。また、上記の実施形態では、固体ロケットを含む多段式ロケットを例示したが、本発明の安全化装置は、単体の固体ロケットにも適用することが可能であり、意図的に落下させた場合だけでなく、故障により海上に落下して固体推進薬が残存するような事態が生じた場合においても、同様の作用及び効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0027】
3 モータケース
5 破壊用火工品
6 海水電池
8 海水導入部
LR 下段側ロケット(固体ロケット)
UR 上段側ロケット(固体ロケット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体ロケットのモータケースに穴を開けるための破壊用火工品と、破壊用火工品の起爆用電源である海水電池を備えたことを特徴とする固体ロケットの安全化装置。
【請求項2】
前記海水電池が、外界に開放された海水導入部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の固体ロケットの安全化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−68117(P2013−68117A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205941(P2011−205941)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)