説明

固体酸化物型燃料電池セル

【課題】支持基板とステンレス鋼との接続領域におけるクラックの発生を抑制可能な固体電解質型燃料電池セルを提供する。
【解決手段】固体酸化物型燃料電池セルは、燃料ガス流路を内部に有し、少なくともMgOとY23とを含む主組成物を含有する支持基板と、支持基板上に形成され、燃料極と空気極と燃料極と空気極との間に配置される固体電解質層とを有する発電部と、を備える。主組成物は、64.56モル%以上97.70モル%以下のMgOと、2.30モル%以上4.50モル%以下のY23と、0.00モル%以上30.94モル%以下のNiOと、によって構成される。支持基板が還元された場合に主組成物の固相の全体積に対するNiの体積割合は18.0体積%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持基板を備える固体酸化物型燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっており、燃料電池の材料及び構造について種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1では、NiO、Y23及びMgOを含む支持基板と、支持基板上に形成される発電部と、を備える固体酸化物型燃料電池セルが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、支持基板に燃料を供給するための流路を有し、支持基板に接続されるマニホールドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−095566号公報
【特許文献2】特開2006−310005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体酸化物型燃料電池セルでは、発電時にマニホールド自体も高温にさらされるので、マニホールドは高温における耐酸化性に優れたステンレス鋼(例えば、高クロム含有フェライト系ステンレスなど)によって構成されていることが好ましい。このようなステンレス鋼の熱膨張係数は、一般的に12.0〜14.0ppm/K程度である。
【0007】
ここで、ステンレス鋼と支持基板との熱膨張係数の差が大きければ、発電が繰り返されるたびにステンレス鋼と支持基板との接続部分に負荷がかかることによって接続部分にクラックが発生してしまうおそれがある。そのため、支持基板の熱膨張係数は、ステンレス鋼の熱膨張係数に近いことが好ましい。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、支持基板とステンレス鋼との接続領域におけるクラックの発生を抑制可能な固体電解質型燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに開示される固体酸化物型燃料電池セルは、燃料ガス流路を内部に有し、少なくともMgOとY23とを含む主組成物を含有する支持基板と、支持基板上に形成され、燃料極と空気極と燃料極と空気極との間に配置される固体電解質層とを有する発電部と、を備える。主組成物は、64.56モル%以上97.70モル%以下のMgOと、2.30モル%以上4.50モル%以下のY23と、0.00モル%以上30.94モル%以下のNiOと、によって構成される。支持基板が還元された場合に主組成物の固相の全体積に対するNiの体積割合は18.0体積%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、支持基板とステンレス鋼との接続領域におけるクラックの発生を抑制可能な固体電解質型燃料電池セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】横縞型燃料電池セルの構成を示す斜視図
【図2】横縞型燃料電池セルの構成を示す断面図
【図3】支持基板に含まれる主組成物のMgO-Y23-NiOの3成分系組成図である。
【図4】実施例に係る支持基板のMgO-Y23-NiOの3成分系組成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
固体酸化物型燃料電池セル(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)の一例として、横縞型燃料電池セル100について説明する。
【0013】
1.横縞型燃料電池セル100の構成
図1は、横縞型燃料電池セル(以下、単に「セル」と略称する)100の概要を示す斜視図である。図2は、図1のI−I断面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、セル100は、支持基板10と、複数の発電部20と、複数のインターコネクタ30と、集電部40と、セル間接続部材45と、マニホールド50と、を備える。なお、図1では、説明の便宜上、集電部40が省略されている。
【0015】
1−1.支持基板10
支持基板10は、扁平かつ一方向(以下、「長手方向」という)に延びる板状部材である。支持基板10は、非晶質ガラス系接合材、結晶化ガラス系接合材、或いはセラミック系接合材を介してマニホールド50に接続されている。支持基板10は、絶縁性を有する多孔質体によって構成されている。支持基板10の内部には、支持基板10の長手方向に沿って延びる流路10aが形成されている。発電時には、この流路10aに水素などを含む燃料ガスを流すことによって、支持基板10を介して複数の発電部20に燃料ガスが供給される。この際、支持基板10自体は、還元雰囲気に曝される。
【0016】
支持基板10は、少なくともMgOとY23とを含む主組成物を含有する。また、支持基板10は、Fe23、SiO2、B23、Al23のうち少なくとも一つを副組成物として含有していてもよい。
【0017】
支持基板10が含有する主組成物は、64.56モル%以上97.70モル%以下のMgOと、2.30モル%以上4.50モル%以下のY23と、0.00モル%以上30.94モル%以下のNiOと、によって構成されている。換言すると、主組成物では、大部分がMgO及びNiOによって占められる一方で、2.30モル%以上4.50モル%以下のY23が添加されている。これによって、支持基板10の主組成物とセル間接続部材45およびマニホールド50との整合性が図られている。具体的には、MgOの熱膨張係数は13.0〜14.0ppm/Kであり、NiOの熱膨張係数は12.5〜13.5ppm/Kであるのに対して、Y23の熱膨張係数は8.5〜9.5ppm/Kである。このように熱膨張係数が相対的に低いY23を適量添加することによって、主組成物の熱膨張係数が12.0 ppm/K以上14.0ppm/K以下の範囲内に調整されている。これによって、主組成物の熱膨張係数は、セル間接続部材45およびマニホールド50それぞれを構成するステンレス鋼の熱膨張係数(12.0 ppm/K以上14.0ppm/K以下)に近似されている。
なお、本実施形態では、熱膨張係数の値として、常温から900℃までの昇温過程における測定値に基づいて算出された値が採用されている。
【0018】
一方で、主組成物におけるNiOの含有量は、支持基板10が還元された場合に主組成物の固相に含有されるNiの体積割合が主組成物の固相の全体積に対して18.0体積%以下となるように調整されている。このNiの上限値は、MgOに固溶しているNiOが還元されることによって支持基板10内に析出するNi量を考慮して設定されている。すなわち、Niの含有量が上述の上限値以下に調整することによって、支持基板10が還元された場合にも支持基板10の絶縁性を確保することができる。なお、MgOに固溶しているNiOの還元によるNiの析出については、「Journal of the Ceramic Society of Japan_117_(2)_2009_p166-170」に記載されているとおりである。
【0019】
ここで、図3は、主組成物のMgO-Y23-NiOの3成分系組成図である。図3に示すように、本実施形態にかかる主組成物は、MgOがxモル%、Y23がyモル%、NiOがzモル%である点を(x、y、z)とするときに、(97.70、2.30、0.00)、(68.55、2.30、29.15)、(64.56、4.50、30.94)及び(95.50、4.50、0.00)を頂点とする四角形で囲まれた領域X内の組成を有している。
【0020】
このような領域Xは、2.30モル%のY23を示す第1ラインL1と、4.50モル%のY23を示す第2ラインL2と、第3ラインL3と、MgOの軸と、によって囲まれた領域である。第3ラインL3は、上述の通り、主組成物の固相に含有されるNiの体積割合が主組成物の固相の全体積に対して18.0体積%となるラインである。このような第3ラインL3は、MgO-Y23-NiOの3成分系組成図において、第1ポイントP1(40.00、18.03、41.97)と第2ポイントP2(72.72、0.00、27.28)とを結ぶことによって得られる。
【0021】
1−2.発電部20
発電部20は、図2に示すように、支持基板10上に形成されている。発電部20は、燃料極21と、固体電解質層22と、反応防止層23と、空気極24と、を有する。
【0022】
燃料極21は、支持基板10上に形成され、アノードとして機能する。燃料極21の材料としては、公知の燃料電池セルの燃料極を形成するための材料を用いることができ、例えば、NiO‐YSZ(酸化ニッケル‐イットリア安定化ジルコニア)及び/又はNiO‐Y23(酸化ニッケル‐イットリア)が挙げられる。燃料極21は、これらの材料のほか、Fe23やSiO2を含有していてもよい。燃料極21の厚みは、50μm〜500μmであればよい。なお、燃料極21に含まれるNiOの含有量は、支持基板10に含まれるNiOの含有量に基づいて設定することができるが、燃料極21のうち還元後に気孔部分を除いた全体積に対するNiの体積割合は、35体積%〜65体積%であることが好ましい。
【0023】
また、燃料極21は、微粒のNiOとYSZからなる緻密な燃料極活性層と、ガス透過性に優れる多孔の燃料極集電層の2層に分かれていても良い。燃料極活性層は、固体電解質層22と燃料極集電層の間に設けられる。燃料極活性層は、燃料極21側での電極反応を促進させ、電極反応抵抗を低く抑える機能を有する。燃料極活性層の厚みは、5μm〜30μmが好ましい。
【0024】
固体電解質層22は、燃料極21と空気極24との間に配置されており、その一部は、2つの発電部20の燃料極21間において支持基板10上に形成されている。固体電解質層22はジルコニア(ZrO2)を主成分として含むことができる。固体電解質層22は、ジルコニアの他に、Y23及び/又はSc23等の添加剤を含むことができる。これらの添加剤は、安定剤として機能する。固体電解質層22における添加剤の添加量は、3〜20mol%程度である。すなわち、固体電解質層22の材料としては、3YSZ、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニア;並びにScSZ(スカンジア安定化ジルコニア);等のジルコニア系材料が挙げられる。固体電解質層22の厚みは、3μm以上、50μm以下が好適である。
【0025】
反応防止層23は、固体電解質層22上に形成される。反応防止層23は、セリア(酸化セリウム)を主成分として含んでもよい。具体的に、反応防止層23の材料としては、セリア及びセリアに固溶した希土類元素酸化物を含むセリア系材料が挙げられる。セリア系材料としては、GDC((Ce,Gd)O2:ガドリニウムドープセリア)、SDC((Ce, Sm)O2:サマリウムドープセリア)等が挙げられる。反応防止層23の厚みは、3μm以上、50μm以下が好適である。
【0026】
空気極24は、反応防止層23上において反応防止層23の外縁を越えないように配置される。空気極24は、カソードとして機能する。空気極24は、例えば、ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物によって構成されていてもよい。ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物としては、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、ランタンマンガナイト、ランタンコバルタイト、ランタンフェライトなどが挙げられる。また、ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物には、ストロンチウム、カルシウム、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等がドープされていてもよい。空気極24の厚みは、10μm以上、100μm以下が好適である。
【0027】
1−3.インターコネクタ30
インターコネクタ30は、燃料極21上に形成される。インターコネクタ30は、1つ目の発電部20から延長している集電部40と、2つ目の発電部20の燃料極21に接続されており、これによって2つの発電部20が電気的に直列接続されている。インターコネクタ30は、ペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有する。特に、インターコネクタ30に用いられるペロブスカイト型複合酸化物としては、ランタンクロマイト(LaCrO3)などのクロマイト系材料、SrTiO3などのチタネート系材料が挙げられる。インターコネクタ30の厚みは、10μm以上、100μm以下が好適である。
【0028】
また、インターコネクタ30と集電層40の間に両材料間の接続を確実なものにするための層を設けても良い。同じく、インターコネクタ30と燃料極21の間に両材料間の接続を確実なものにするための層を設けても良い。
【0029】
1−4.集電部40
集電部40は、空気極24から、その空気極24を備える発電部20に隣接する発電部20上のインターコネクタ30までを覆うように形成され、インターコネクタ30と発電部20とを電気的に接続している。集電部40は、導電性を有すればよく、例えばインターコネクタ30や空気極24と同様の材料で構成することができる。集電部40の厚みは、50μm以上、500μm以下が好適である。
【0030】
1−5.セル間接続部材45
セル間接続部材45は、図1に示すように、2つのセル100それぞれの発電部20を電気的に接続する。具体的に、セル間接続部材45は、一方のセル100の集電部40と、他方のセル100のインターコネクタ30とに接続されている。セル間接続部材45は、導電性を有すればよいが、高温における耐酸化性に優れたステンレス鋼(例えば、高クロム含有フェライト系ステンレス鋼など)を主成分として含むことが好ましい。このようなステンレス鋼の熱膨張係数は、12.0〜14.0ppm/K程度である。セル間接続部材45の厚みは、100μm以上、2000μm以下が好適である。
なお、セル間接続部材45は、発電部20に接続される「接続部材」の一例である。
【0031】
1−6.マニホールド50
マニホールド50は、非晶質ガラス系接合材、結晶化ガラス系材料、或いはセラミック系接合材を介して支持基板10に接続されている。マニホールド50は、支持基板10の流路10aに繋がる燃料ガス供給路50aを有している。マニホールド50は、接続部材45と同様、高温における耐酸化性に優れたステンレス鋼を主成分として含むことが好ましい。なお、マニホールド50は、支持基板10に代えて、固体電解質層22に接続されてもよい。
【0032】
2.セル100の製造方法
2−1.支持基板10の形成
支持基板10は、圧粉成形によって形成可能である。すなわち、支持基板10は、支持基板10の材料が混合された粉末を型に入れ、圧縮することで圧粉体を成形する工程を含む。
【0033】
支持基板10の材料は、上述のとおり、64.56モル%以上97.70モル%以下のMgOと、2.30モル%以上4.50モル%以下のY23と、0.00モル%以上30.94モル%以下のNiOと、によって構成される主組成物を含有する。また、この材料におけるNiOの含有量は、支持基板10が還元された場合に主組成物の固相の全体積に対するNiの体積割合が18.0体積%以下となるように調整されている。このような材料には、Fe23、SiO2、B23、Al23などが副成分として含まれていてもよい。圧粉成形時に粉末にかけられる圧力は、支持基板10が充分な剛性を有するように設定されればよい。
【0034】
また、ガス流路10aは、焼成によって消失するセルロースシートなどを粉体の内部に埋設した状態で圧粉成形を行い、その後に焼成を行うことによって形成される。
【0035】
2−2.燃料極21の形成
燃料極21は、圧粉成形によって形成可能である。すなわち、燃料極21は、燃料極21の材料が混合された粉末を型に入れ、圧縮して、圧粉体を成形することを含んでもよい。また、燃料極21は印刷法により形成可能である。すなわち、燃料極21の材料を含むペーストを用い、支持基板10の上へスクリーン印刷法で燃料極21を形成しても良い。
【0036】
燃料極21の材料としては、上述のとおり、例えば、酸化ニッケル、ジルコニア、及び必要に応じて造孔材が用いられる。造孔材とは、燃料極中に空孔を設けるための添加剤である。造孔材としては、後の工程で消失する材料が用いられる。このような材料として、例えばセルロース粉末が挙げられる。
【0037】
2−3.固体電解質層22の形成
固体電解質層22は、例えば、CIP(cold isostatic pressing)、熱圧着、又はスラリーディップ法によって形成可能である。固体電解質層22の材料は、上述のとおり、3YSZ、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニア;並びにScSZ(スカンジア安定化ジルコニア);等のジルコニア系材料が挙げられる。なお、CIP法におけるシートの圧着時の圧力は、好ましくは50〜300MPaである。
【0038】
2−4.反応防止層23の形成
反応防止層23は、スラリーディップ法などによって形成可能である。反応防止層23の材料としては、GDC((Ce,Gd)O2:ガドリニウムドープセリア)、SDC((Ce, Sm)O2:サマリウムドープセリア)等が挙げられる。
【0039】
2−5.焼成
圧粉成形された支持基板10、燃料極21、固体電解質層22及び反応防止層23の共焼成(共焼結)を含む。焼成の温度及び時間は、セルの材料等に応じて設定される。
【0040】
2−6.空気極24の形成
空気極24は、例えば、燃料極21、電解質層22、及び反応防止層23の積層体(焼成体)上に、圧粉形成、印刷法等によって空気極24の材料の層を形成した後、焼成することで形成される。以上によって、発電部20が形成される。
【0041】
2−7.集電部40の形成
集電部40は、例えば、燃料極21、電解質層22、及び反応防止層23の積層体(焼成体)上に、印刷法、スラリーディップ法によって集電部40の材料の層を形成した後、焼成することで形成される。なお、空気極24と集電層40とは、個別に焼成することによって形成しても良いが、順次積層して一括で焼成することによって形成しても良い。
【0042】
2−8.セル間接続部材45及びマニホールド50の接続
2つのセル100それぞれの発電部20をセル間接続部材45によって互いに接続する。
続いて、燃料ガス供給路50aが内部に形成されたマニホールド50を準備して、非晶質ガラス系接合材、結晶化ガラス系接合材、或いはセラミック系接合材を用いて支持基板10に接続する。
【0043】
3.作用及び効果
本実施形態に係るセル100において、支持基板10が含有する主組成物は、2.30モル%以上4.50モル%以下のY23と、それ以外を占めるMgO及びNiOと、によって構成されている。
これによって、主組成物の熱膨張係数は、マニホールド50を構成するステンレス鋼の熱膨張係数である12.0ppm/K以上14.0ppm/K以下の範囲に収まるように調整されている。そのため、発電が繰り返されるたびに支持基板10とマニホールド50との接続部分にかかる負荷を低減できるので、接続部分にクラックが発生することを抑制することができる。
さらに、本実施形態では、セル間接続部材45が、マニホールド50と同様に、12.0ppm/K以上14.0ppm/K以下の熱膨張係数を有するステンレス鋼によって構成されている。一方で、支持基板10はセル100の大部分を占めているので、セル100全体の熱膨張の度合いは支持基板10の熱膨張係数に概ね従うことになる。そのため、主組成物の熱膨張係数がセル間接続部材45を構成するステンレス鋼の熱膨張係数の範囲に収まるように調整されているので、セル100とセル間接続部材45との接続部分にクラックが発生することも抑制することができる。
【0044】
また、支持基板10が還元された場合に主組成物の固相に含有されるNiの体積割合が、主組成物の固相の全体積に対して18.0体積%以下となるように、主組成物におけるNiOの含有量が調整されている。そのため、MgOに固溶しているNiOが還元されることによって支持基板10内に析出するNi量を抑えることができるので、還元時においても支持基板10の絶縁性を確保することができる。
【実施例】
【0045】
1.実験例No.1〜No.16の作製
以下のようにして、支持基板と支持基板に接合されたステンレスとを備える実験例No.1〜No.16に係るサンプルを作製した。
【0046】
まず、下表1に記載の割合で実験例No.1〜No.16ごとに材料を秤量し、ポットミルで5時間混合した。その後、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加してさらに1時間混合することによってスラリーを作製した。なお、図4は、実験例No.1〜No.16のMgO-Y23-NiOの3成分系組成図である。
【0047】
次に、スラリーを乾燥機で乾燥させた後、目開き150μmの篩を通して造粒した。
【0048】
次に、造粒された粉末をラバープレス(成形圧:3.0tf/cm2)によって圧縮することによって、縦横20mm×20mm・厚さ3mmの板状圧粉体(支持基板)を成形した。
【0049】
次に、支持基板の外縁エッジ部にR加工を施した。
【0050】
次に、8YSZのスラリーを支持基板上にディップコートすることによって、縦横15mm×15mm・厚さ20μmの電解質層を形成した。これによって、支持基板と電解質層との積層体が形成された。
【0051】
次に、積層体を800℃で5hr脱脂した後、1500℃で2hrの本焼工程を経て支持基板と電解質層との共焼成体を得た。
【0052】
次に、13.0ppm/Kの熱膨張係数を有する高クロム含有フェライト系ステンレス(市販品)を準備して、縦横30mm×30mm・厚さ2.0mmのステンレス片を形成した。
【0053】
次に、マグネシアベースのセラミックボンドを用いて、共焼成体とステンレス片とを接合することによって、実験例No.1〜No.16に係る接合体を作製した。
【0054】
2.熱サイクル試験の実施
実験例No.1〜No.16に係る接合体を用いて、室温〜800℃を300℃/hrで往復させることを1サイクルとして10サイクルを繰り返す熱サイクル試験を行った。
【0055】
熱サイクル試験後の実験例No.1〜No.16に係る接合体について、支持基板の抵抗値を計測した。具体的には、支持基板部分のみを幅5mm、長さ40mm、厚さ2mmに切り出し、800℃の還元雰囲気(30℃加湿H2)において直流4端子法を用いて支持基板部分の抵抗値を測定した。計測結果を下表1に示す。
【0056】
また、熱サイクル試験後の実験例No.1〜No.16に係る接合体を樹脂で埋めて研磨することによって、共焼成体/セラミックボンド/ステンレスの断面を露出させた。そして、この断面を光学顕微鏡で観察することによって、共焼成体またはセラミックボンドにおけるクラックの有無を確認した。確認結果を下表1に示す。
なお、下表1に示す通り、実験例No.1〜No.16に係る接合体を作製した時点では、共焼成体またはセラミックボンドにおいてクラックは確認されなかった。
【0057】
【表1】

【0058】
3.結果
上表1に示すように、熱サイクル試験後、実験例No.9〜No.14では共焼成体またはセラミックボンドにおけるクラックが確認された。これは、Y23が少なすぎた或いは多すぎたために、支持基板とステンレスとの熱膨張率の差が大きくなったためである。従って、支持基板10が含有する主組成物が2.30モル%以上4.50モル%以下のY23を含むことが好ましいことが確認された。
【0059】
また、上表1に示すように、実験例No.15〜No.16において、支持基板の絶縁性を確保することができなかった。従って、実験例No.4〜No.5が通る第3ラインL3によって示されるように、支持基板10が還元された場合に主組成物の固相の全体積に対するNiの体積割合が18.0体積%以下となるようにNiOの含有量は調整されることが好ましいことが確認された。なお、図4に示す第3ラインL3は、Niが18.0体積%となるラインである。
【0060】
以上より、図4に示すように、支持基板の材料の組成が、MgO-Y23-NiOの3成分系組成図上において、MgOがxモル%、Y23がyモル%、NiOがzモル%である点を(x、y、z)とするときに、(97.70、2.30、0.00)、(68.55、2.30、29.15)、(64.56、4.50、30.94)及び(95.50、4.50、0.00)を頂点とする四角形によって囲まれた領域内に入っていればよいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
ここに開示される固体酸化物型燃料電池セルによれば、支持基板と燃料極との界面における剥離の発生を抑制できるので、燃料電池分野において有用である。
【符号の説明】
【0062】
100 横縞型燃料電池セル
10 支持基板
20 発電部
21 燃料極
22 固体電解質層
23 反応防止層
24 空気極
30 インターコネクタ
40 集電部
45 セル間接続部材
50 マニホールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス流路を内部に有し、少なくともMgOとY23とを含む主組成物を含有する支持基板と、
前記支持基板上に形成され、燃料極と空気極と前記燃料極と前記空気極との間に配置される固体電解質層とを有する発電部と、
を備え、
前記主組成物は、
64.56モル%以上97.70モル%以下のMgOと、
2.30モル%以上4.50モル%以下のY23と、
0.00モル%以上30.94モル%以下のNiOと、
によって構成され、
前記支持基板が還元された場合に前記主組成物の固相の全体積に対するNiの体積割合は18.0体積%以下である、
固体酸化物型燃料電池セル。
【請求項2】
前記主組成物の熱膨張係数は、12.5ppm/K以上13.5ppm/K以下である、
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池セル。
【請求項3】
前記支持基板に接続され、ステンレス鋼を含むマニホールドを備える
請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池セル。
【請求項4】
前記マニホールドの熱膨張係数は、12.0ppm/K以上14.0ppm/K以下である、
請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池セル。
【請求項5】
前記発電部に接続され、ステンレス鋼を含む接続部材を備える
請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池セル。
【請求項6】
前記接続部材の熱膨張係数は、12.0ppm/K以上14.0ppm/K以下である、
請求項5に記載の固体酸化物型燃料電池セル。
【請求項7】
前記支持基板材料は、Fe23、SiO2、B23、Al23のうち少なくとも一つを副組成物として含有する、
請求項1乃至6のいずれかに記載の固体酸化物型燃料電池セル。
【請求項8】
燃料ガス流路を内部に有し、少なくともMgOとY23とを含む主組成物を含有する支持基板と、
前記支持基板上に形成され、燃料極と空気極と前記燃料極と前記空気極との間に配置される固体電解質層とを有する発電部と、
を備え、
前記主組成物は、MgO-Y23-NiOの3成分系組成図上において、MgOがxモル%、Y23がyモル%、NiOがzモル%である点を(x、y、z)とするときに、(97.70、2.30、0.00)、(68.55、2.30、29.15)、(64.56、4.50、30.94)及び(95.50、4.50、0.00)を頂点とする四角形によって囲まれた領域内の組成を有する、
固体酸化物型燃料電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−48070(P2013−48070A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186559(P2011−186559)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【特許番号】特許第4864170号(P4864170)
【特許公報発行日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】