説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】カソードと、当該カソードに隣接する層(電解質層等)との間で生じる剥離を抑制して、高性能及び高信頼性を有する固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の固体酸化物燃料電池1は、カソード11と、アノード12と、カソード11とアノード12との間に配置された電解質層13と、を備える。カソード11は、少なくとも、電解質層13側に配置され、且つイオン伝導性を有する第1粉体材料で作製された多孔体によって形成された活性層111と、活性層111上に当該活性層111と接して配置され、且つ電子伝導性を有する第2粉体材料で作製された多孔体によって形成された集電層112と、を含んでいる。第2粉体材料の平均粒径(体積累積が50%に相当する粒径(D50))は、前記第1粉体材料の平均粒径(体積累積が50%に相当する粒径(D50))よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、クリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」と記載する。)は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0003】
SOFCは、基本構造として、カソード(空気極)とアノード(燃料極)との間にセラミックからなる固体電解質層が配置された構造を有する。例えば平型のSOFCは、カソード、固体電解質層及びアノードを重ね合わせたものを単セルとし、この単セルがインターコネクタを挟んで複数積み重ねられることによって高出力を得る。このような平型のSOFCには、電解質を支持体としてセルの強度を維持する電解質支持型セル(ESC)(図3(a)参照)と、アノードを支持体としてセルの強度を維持するアノード支持型セル(ASC)(図3(b)参照)とが含まれる。
【0004】
ESCは、予め電解質層となる電解質シート1001が形成され、当該電解質シート1001の一方の主面上にカソード1002を、他方の主面上にアノード1003をそれぞれ形成する、という方法によって製造される。したがって、電解質シート1001は、セルの強度を維持できる程度の厚さを有している。一方、ASCは、発電性能の向上を目的として電解質層をより薄膜化するために、アノード支持体1011上に、電解質層1012及びカソード1013を形成することによって製造される。なお、アノード支持体1011は、例えばアノード支持基板1014と、この基板1014上に設けられたアノード層1015とによって形成されていてもよい。一般に、ESCは高強度及び高信頼性を実現しやすく、ASCは電解質層をより薄膜化できるので高出力化が実現しやすいといわれている。
【0005】
カソードにおける実質的な電気化学反応に着目した場合、カソードに必要とされる十分な厚さは15μm程度である。しかし、カソード側のシール性を考慮した場合、良好なシール性を得るために、カソードの厚さを15μmよりも厚くすることが望まれる。したがって、高性能及び高信頼性のSOFCを実現するためには、シール性も考慮して、15μmよりも大きい厚さを有するカソードを設けることが望ましい。
【0006】
一般に、カソードは、カソード用のスラリーを用いてグリーン層を形成し、これを焼成することによって製造される。例えばASCの場合、一般的な製造プロセスでは、アノード支持体上に電解質層用のスラリーを用いて電解質層用のグリーン層を形成し、これを焼成して電解質層を作製し、次にこの電解質層上にカソード用のスラリーを用いてカソード用のグリーン層を形成し、これを焼成してカソードを作製する。ESCの場合も、カソードは、電解質シート上にカソード用のスラリーを用いてカソード用のグリーン層を形成し、これを焼成することによって製造される。しかし、このような方法を用いる場合、カソードを厚くしすぎると、焼成後に得られるカソードが、隣接する電解質層(電解質層とカソードとの間に他の層が存在する場合にはその層)から剥離しやすくなるという問題が生じる。
【0007】
ESC及びASCのタイプの違いに関わらず、高性能のSOFCを実現するためには、電極層(カソード及びアノード)と電解質層(電解質層と電極層との間に他の層が存在する場合にはその層)との密着性が重要である。したがって、上記のようなカソードと電解質層との間で剥離が生じると、SOFCの性能が低下してしまう。
【0008】
なお、従来、電極特性の向上と、電流及び燃料である空気の効率的な供給とを考慮して、カソードを複数の層(例えば活性層及び集電層)によって形成する技術も提案されている。例えば特許文献1には、このような複数の層からなるカソードにおいて、カソードを構成している複数の層間で優れた接合性を実現するための技術が開示されている。ただし、特許文献1に開示されている技術は、カソード内における接合性の向上に寄与するものであり、カソードと、当該カソードに隣接する電解質層等との接合性の改善に寄与するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−119178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、カソードと、当該カソードに隣接する層(電解質層等)との間で生じる剥離を抑制して、高性能及び高信頼性を有するSOFCを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カソードと、アノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置された電解質層と、を備えたSOFCであり、
前記カソードは、少なくとも、
前記電解質層側に配置され、且つイオン伝導性を有する第1粉体材料で作製された多孔体によって形成された活性層と、
前記活性層上に当該活性層と接して配置され、且つ電子伝導性を有する第2粉体材料で作製された多孔体によって形成された集電層と、を含んでおり、
前記第2粉体材料の平均粒径(体積累積が50%に相当する粒径(D50))が、前記第1粉体材料の平均粒径(体積累積が50%に相当する粒径(D50))よりも大きい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のSOFCでは、カソードが、電解質層側に配置される活性層と、当該活性層と接する集電層とを含む構成を有している。このような構成において、集電層の形成に用いられる第2粉体材料の平均粒径を、活性層の形成に用いられる第1粉体材料の平均粒径よりも大きくすることにより、カソードと、当該カソードに隣接する層(電解質層等)との間で剥離が生じることが抑制される。したがって、本発明によれば、高性能及び高信頼性を有するSOFCを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のSOFCの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のSOFCの別の実施形態を示す断面図である。
【図3】(a)は従来のESCを示す断面図であり、(b)は従来のASCを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のSOFCの実施の形態について、具体的に説明する。
【0015】
図1に、本実施の形態のSOFCの断面図を示す。本実施の形態SOFC1は、カソード11と、アノード12と、カソード11とアノード12との間に配置された電解質層13と、を備えている。なお、本実施の形態では、ESCを例に挙げて説明する。
【0016】
カソード11は、少なくとも、電解質層13側に配置された活性層111と、活性層111上に活性層111と接して配置された集電層112とを含んでいる。活性層111は、イオン伝導性を有する第1粉体材料で作製された多孔体によって形成されている。集電層112は、電子伝導性を有する第2粉体材料で作製された多孔体によって形成されている。さらに、第2粉体材料の平均粒径が、第1粉体材料の平均粒径よりも大きくなるように、第1粉体材料及び第2粉体材料が選択されている。なお、ここでの第1粉体材料及び第2粉体材料の平均粒径とは、体積累積が50%に相当する粒径(D50)のことである。このような第1粉体材料で形成される活性層111及び第2粉体材料で形成される集電層112によれば、第1粉体材料及び第2粉体材料を焼成してカソード11を製造する際に、カソード11全体としての収縮等に起因して生じる、カソード11と隣接する層(ここでは電解質層13)と間の剥離が抑制される。すなわち、本実施の形態のカソード11によれば、カソード11と電解質層13との良好な接合性を確保できる。その結果、本実施の形態のSOFC1は、高性能及び高信頼性を得ることができる。
【0017】
ここで、第1粉体材料及び第2粉体材料の粒径とは、レーザ回折散乱法に基づいて測定される粒径のことである。
【0018】
まず、カソード11について具体的に説明する。
【0019】
活性層111は、カソード11において、実質的に電気化学反応が行われる層である。活性層111は、イオン伝導性を有する第1粉体材料で作製された多孔体によって形成される。また、活性層111は、イオン伝導性に加えて、さらに電子伝導性も有する材料によって形成されていてもよい。このような材料の例として、La(Sr)Fe(Co)O3及びPr(Sr)Fe(Co)O3等が挙げられる。ペロブスカイト型酸化物は、高温においても比較的安定且つ良好な電子伝導性を示すので、活性層111の材料として好適に用いられる。したがって、第1粉体材料には、ペロブスカイト型酸化物からなる粉体が好適に用いられる。
【0020】
活性層111の形成に用いられる第1粉体材料の粉体サイズは、上記のとおり、第2粉体材料のサイズとの関係において決定される。したがって、第1粉体材料の平均粒径が第2粉体材料の平均粒径よりも小さい限り、第1粉体材料の粉体サイズは特に限定されない。しかし、第1粉体材料の平均粒径は、0.5μm以下とすることが好ましく、0.2〜0.5μmの範囲内とすることがより好ましい。平均粒径を0.5μm以下とすることにより、電極反応場が増えるので発電性能が向上する。また、平均粒径を0.2〜0.5μmの範囲内とすることにより、粒径が小さくなりすぎることによるガス拡散の低下を防止でき、良好な発電性能を維持できる。
【0021】
活性層111の厚さは、特に限定されないが、15μm以下とすることが好ましく、3〜12μmの範囲内とすることがより好ましい。活性層111の厚さを15μm以下とすることにより、活性層111と電解質層13とのより優れた密着性が得やすくなる。さらに、3〜12μmの範囲内とすることにより、活性層111における効率的な電気化学反応と、活性層111と電解質層13との優れた密着性とを、共に実現できる。
【0022】
集電層112は、活性層111に電流及び燃料である空気を効率良く供給するための層である。集電層112は、電子伝導性を有する第2粉体材料で作製された多孔体によって形成される。この第2粉体材料には、ペロブスカイト型酸化物を用いることができる。例えば(La,Sr)MnO3及び(La,Ca)MnO3等は、高温での酸化雰囲気でも良好な導電性を維持できるので、集電層112の材料として好適に用いられる。なお、集電層112は、電子伝導性に加えて、さらにイオン伝導性も有する材料によって形成されていてもよい。このような材料の例として、La(Sr)Fe(Co)O3及びPr(Sr)Fe(Co)O3等が挙げられる。
【0023】
集電層112の形成に用いられる第2粉体材料の粉体サイズは、上記のとおり、第1粉体材料のサイズとの関係において決定される。したがって、第2粉体材料の平均粒径が第1粉体材料の平均粒径よりも大きい限り、第2粉体材料の粉体サイズは特に限定されない。しかし、第2粉体材料の平均粒径は、0.5μmよりも大きいことが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。第2粉体材料の平均粒径をこのような範囲にすることで、焼成時の集電層112自体の収縮がより確実に抑制されるので、集電層112の収縮によって活性層111に電解質層13から離間する方向の力が加えられることが抑制される。その結果、カソード11の剥離をより確実に抑制することができる。一方、粒径が大きくなりすぎると、粒子間の接触部分が少なくなって抵抗が増加するので、第2粉体材料の平均粒径は10μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましい。
【0024】
前記第2粉体材料は、粒径が小さい側からの体積累積が10%に相当する粒径(D10)が0.2μm以上、好ましくは0.5μm以上である粉体によって構成されていることが好ましい。
【0025】
第2粉体材料において、粒径が小さい側からの体積累積が10%に相当する粒径(D10)を平均粒径で除した値(D10/D50)が、0.60以上であることが好ましく、0.65以上であることがより好ましい。D10/D50がより大きいとは、D10がD50により近い値を有すること、すなわち平均粒径よりも小さい粒径を有する粉体における粒度がより揃っており、平均粒径に対して非常に小さい粒径を有する粉体の含有量が少ないということを意味する。したがって、D10/D50がこのような範囲を満たす第2粉体材料を用いることにより、第2粉体材料に含まれる小さい粒径の粉体の割合が低くなるので、焼成時の収縮がより起こりにくくなり、カソード11の剥離がより確実に抑制される。
【0026】
第1粉体材料の平均粒径と第2粉体材料の平均粒径との差は、0.21〜9.5μmの範囲内であることが好ましく、0.25〜6.5μmの範囲内であることがより好ましい。平均粒径の差をこのような範囲内とすることで、カソード11の剥離をより確実に抑制することができる。
【0027】
集電層112の厚さは、特に限定されないが、3〜70μmの範囲内とすることが好ましく、5〜60μmの範囲内とすることがより好ましい。集電層112の厚さをこのような範囲内とすることにより、カソードのガス拡散が良好に保持され、さらにシール性も良好となる。
【0028】
アノード12には、一般的なSOFCのアノードが適用できるので、その材料等は特に限定されない。詳しくは、アノード12は、導電性を与えるための導電成分と、骨格成分となるセラミック質とを、主たる構成材料として含んでいる。
【0029】
前記導電成分は、ニッケル、コバルト、鉄、白金、パラジウム、ルテニウム等の金属;酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄のように燃料電池稼動時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物;あるいはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物、が挙げられる。これらは単独で使用し得るほか、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用できる。これらの中でも、金属ニッケル、金属コバルト、金属鉄又はこれらの酸化物が好ましい。
【0030】
前記骨格成分としては、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、チタニア、窒化アルミニウム、ムライト等の単独もしくは複合物が使用される。これらの中でも最も汎用性の高いのは安定化ジルコニアである。安定化ジルコニアとしては、ジルコニアに、安定化剤としてMgO、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属の酸化物;Y23、La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Er23、Tm23、Yb23等の希土類元素の酸化物;Sc23;Bi23;及びIn23等から選ばれる少なくとも何れか1種の酸化物を固溶させたもの、あるいは更に、これらに分散強化剤としてアルミナ、チタニア、Ta25及びNb25等が添加された分散強化型ジルコニア等が好ましいものとして例示される。また、骨格成分として、CeO2又はBi23に、CaO、SrO、BaO、Y23、La23、Ce23、Pr23、Nb23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dr23、Ho23、Er23、Yb23、PbO、WO3、MoO3、V25、Ta25及びNb25から選ばれる少なくとも何れか1種を添加した、セリア系又はビスマス系セラミックも使用可能である。また、LaGaO3のようなガレート系セラミックも使用可能である。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、骨格成分としては、安定化ジルコニア、セリア系セラミック及びランタンガレートが好ましく、安定化ジルコニアがより好ましく、特に好ましいのは2.5〜12モル%のイットリアで安定化されたジルコニア、3〜15モル%のスカンジアで安定化されたジルコニアである。
【0031】
アノード12の厚さは、特には限定されないが、例えば5〜25μmの範囲内とでき、7〜20μmの範囲内が好ましい。
【0032】
電解質層13には、一般的なSOFCの電解質層が適用できるので、その材料は特に限定されない。詳しくは、電解質層13は、セラミック質を主成分として含む。セラミック質としては、通常、SOFCの電解質層の材料として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウム等で安定化されたジルコニア;イットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア;ランタンガレート、及びランタンガレートのランタン又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物等を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウム等で安定化されたジルコニアが好適である。
【0033】
特に、セラミック質として、3モル%以上10モル%以下の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上15モル%以下の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニア、8〜12モル%の酸化スカンジウムと0.5〜5モル%の酸化セリウムで安定化されたジルコニアを用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニア等を焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0034】
電解質層13の厚さは、一般的なESCの電解質層と同様であり、例えば50〜300μmの範囲内とでき、100〜200μmの範囲内が好ましい。電解質層13の厚さが上記範囲内であれば、ESCの場合に、十分な強度と高い発電性能とを実現できる。
【0035】
なお、本実施の形態のSOFC1は、電解質層13と活性層111とが隣接する構成を有する。しかし、本発明のSOFCはこの構成に限定されず、電解質層13と活性層111との間にさらに別の層を含んでいてもよい。例えば、活性層111に用いられる材料によっては、電解質層13と活性層111との間にバリア層が設けられる場合がある。このバリア層は、SOFC1の作製過程においてカソード11を焼成する際や、SOFC1の運転中に、電解質層13とカソード11とが反応して高抵抗物質層を形成して発電性能低下が起こることを防ぐ役割を担う。
【0036】
次に、本実施の形態のSOFC1の製造方法について説明する。
【0037】
カソード11(活性層111及び集電層112)、アノード12及び電解質層13の各層は、それぞれ、これらを構成する材料の粉体に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーを用いてグリーンシート又はグリーン層を形成し、これを乾燥及び焼成することによって得ることができる。
【0038】
例えばSOFC1のようなESCでは、まず電解質層13が準備される。この場合、電解質層13は、セラミック原料粉末に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーをシート状に成形した後に乾燥させてグリーンシートを作製し、これを焼成することによって得ることができる。
【0039】
電解質層13用のグリーンシートの作製に用いられるバインダーの種類には制限がなく、従来のSOFCの電解質層の製造方法で公知となっている有機バインダーの中から適宜選択できる。また、電解質層13用のグリーンシートの作製に用いられる溶剤の種類には制限がなく、従来のSOFCの電解質層の製造方法で公知となっている溶剤の中から適宜選択できる。必要に応じて用いられる分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤についても、従来のSOFCの電解質層の製造方法で公知となっている分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤を、それぞれ用いることができる。電解質層13用のグリーンシートの焼成方法についても、従来のSOFCの電解質層の製造方法で公知となっている焼成方法を用いることができる。
【0040】
次に、準備された電解質層13の一方の主面上にカソード11が形成され、他方の主面上にアノード12が形成される。
【0041】
カソード11については、まず、電解質層13上の一方の主面上に活性層111用のスラリーを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって、活性層111用のグリーン層が形成される。さらにその活性層111用のグリーン層上に、集電層112用のスラリーを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって、集電層112用のグリーン層が形成される。電解質層13上に積層された活性層111用のグリーン層及び集電層112用のグリーン層を焼成することによって、活性層111及び集電層112で構成されたカソード11が得られる。焼成温度等の焼成条件は、活性層111及び集電層112にそれぞれ用いられる材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。
【0042】
活性層111用の材料(第1粉体材料)及び集電層112用の材料(第2粉体材料)は、上記で説明したとおりである。また、活性層111用のスラリー及び集電層112用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には制限がなく、従来のSOFCのカソードの製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0043】
アノード12については、電解質層13の他方の主面上にアノード12用のスラリーを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによってアノード12用のグリーン層が形成される。そのグリーン層を焼成することによって、アノード12が得られる。焼成温度等の焼成条件は、アノード12に用いられる材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。また、アノード12の材料は、上記で説明したとおりである。また、アノード12用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には制限がなく、従来のSOFCのアノードの製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0044】
なお、本実施の形態では、本発明の特徴部分であるカソードの構成をESCに適用した形態について詳しく説明したが、本発明のカソードの構成がASCのカソードに適用されたSOFC2(図2参照)とすることも可能である。その場合は、図2に示すように、アノード支持体22上に、電解質層23及びカソード11が設けられる。アノード支持体11は、例えば、アノード支持基板221と、アノード支持基板221上に配置されたアノード層222とによって形成される。なお、アノード支持基板221自体がアノードとして十分に作用し得る場合には、アノード層222が設けられない場合もある。アノード支持基板221及びアノード層222には、ASCのアノードに使用可能な公知の材料を用いることができる。基本的には、本実施の形態で説明したESCのアノード12と同様の材料が使用可能である。また、電解質層23は、本実施の形態で説明したESCの電解質層13とは好適な厚さは異なるが、使用可能な材料は同じである。なお、カソード11は、図1に示されたものと同じである。
【0045】
このようなSOFC2は、まずアノード支持基板221が準備され、その上にアノード層222、電解質層23、活性層111及び集電層112がこの順に形成されることによって製造される。
【0046】
アノード支持基板221は、アノード支持基板221を構成する材料の粉末に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーをシート状に成形した後に乾燥させてグリーンシートを作製し、これを焼成することによって得ることができる。焼成温度等の焼成条件は、アノード支持基板221に用いられる材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。また、アノード支持基板221用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には制限がなく、従来のSOFCのアノードの製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0047】
アノード支持基板221の一方の主面上に、アノード層222用のスラリーを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによってアノード層222用のグリーン層が形成される。そのグリーン層を焼成することによって、アノード層222が得られる。焼成温度等の焼成条件は、アノード層222に用いられる材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。また、アノード層222の材料は、上記で説明したとおりである。また、アノード層222用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には制限がなく、従来のSOFCのアノードの製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0048】
アノード層222上に、電解質層23用のスラリーを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって電解質層23用のグリーン層が形成される。そのグリーン層を焼成することによって、電解質層23が得られる。焼成温度等の焼成条件は、電解質層23に用いられる材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。また、電解質層23の材料は、上記で説明したとおりである。また、電解質層23用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には制限がなく、従来のSOFCの電解質層の製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。なお、電解質層23用のグリーン層を、アノード層222用のグリーン層を焼成する前に当該グリーン層上に形成して、アノード層222のグリーン層と電解質層23のグリーン層とを同時に焼成することも可能である。
【0049】
また、次の方法にように、アノード支持基板221のグリーンシート、アノード層222のグリーン層、及び電解質層23のグリーン層を同時に焼成する方法もよく用いられる。すなわち、アノード支持基板221のグリーンシート上にアノード層222用のスラリーを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによってアノード層222用のグリーン層を形成する。その後、アノード層222のグリーン層上に、さらに電解質層23用のスラリーを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させる。こうして、アノード支持基板221のグリーンシート、アノード層222のグリーン層、及び電解質層23のグリーン層からなる三層のグリーン層が形成される。これらを同時に焼成する。焼成温度等の焼成条件は、アノード支持基板221のグリーンシート、アノード層222のグリーン層及び電解質層23のグリーン層に用いられる材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。
【0050】
次に、電解質層23上に、活性層111及び集電層112を形成する。活性層111及び集電層112は、本実施の形態で説明したSOFC1の場合と同じ方法によって製造できる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
<カソード活性層用の粉体材料及びカソード集電層用の粉体材料の調製>
カソード活性層及びカソード集電層の原料となる粉体材料として、ペロブスカイト型酸化物粉末を調製した。ペロブスカイト型酸化物粉末の調製には、市販の純度99.9%のLa23、SrCO3、Fe23及びCo34の粉末を使用した。これらの粉末をLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の組成となるように混合した。得られた混合物にエタノールを加えて、これをビーズミルで1時間粉砕混合した。次いで、得られた混合物を乾燥させてから、800℃で1時間仮焼した。仮焼後の混合物に対し、さらにエタノールを加えてビーズミルで1時間粉砕混合してから、乾燥させた。その後、1100〜1300℃で混合物を5時間固相反応させることによって、粉末を得た。得られた粉末にエタノールを加え、さらにこれをボールミルで10時間粉砕混合してから乾燥させて、ペロブスカイト型酸化物粉末(LSCF)を得た。なお、得られた粉末は、X線回折によって、ペロブスカイトからなる単一相であることが確認された。さらにその後、遊星ボールミルを用い、回転数と回転時間を調整しながら粉砕することによって、表1に示す平均粒径(50体積%径(D50))と10体積%径(D10)とを有する、サンプル1〜9のカソード活性層用の粉体材料(第1粉体材料)及びカソード集電層用の粉体材料(第2粉体材料)を得た。
【0053】
<カソード活性層用のスラリー及びカソード集電層用のスラリーの調製>
上記の方法で調製された第1粉体材料に、バインダーとしてエチルセルロースを3質量%、溶媒としてα−テルピネオールを30質量%の割合となるように加え、これを乳鉢を用いて混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて混練し、カソード活性層用のスラリーを得た。カソード集電層用のスラリーは、第1粉体材料の代わりに第2粉体材料を用い、その他はカソード活性層用のスラリーと同様の方法によって作製された。
【0054】
<カソード活性層及びカソード集電層の形成>
3モル%イットリア安定化ジルコニアからなるセラミックシート(5cm×5cm×厚さ100μm)を準備した。これは、SOFCの電解質層として用いられた。このセラミックシートの片面に、スクリーン印刷により、カソード活性層用のスラリーを3cm×3cmの正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させた(カソード活性層用のグリーン層の形成)。その後、カソード活性層用のグリーン層上に、スクリーン印刷により、カソード集電層用のスラリーを3cm×3cmに正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させた(カソード集電層用のグリーン層の形成)。積層された2層のグリーン層を、1100℃で2時間焼成した。これにより、カソード活性層及びカソード集電層によって構成されたカソードが電解質層であるセラミックシート上に形成された、サンプル1〜9が得られた。
【0055】
<評価>
上記の方法によって形成されたサンプル1〜9それぞれについて、カソードとセラミックシートとの間の剥離の有無を、目視にて観察した。また、カソード表面に生じたヒビ割れは、カソード剥離の前段階と考えられる。そこで剥離の他、カソード表面のヒビ割れにも着目して観察した。その評価結果は、表1に示されている。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のSOFCでは、カソードと当該カソードに隣接する層(電解質層等)との良好な接合性が得られる。したがって、本発明は、SOFCの高性能化及び高信頼性化に寄与できるものである。
【符号の説明】
【0058】
1,2 固体酸化物形燃料電池
11 カソード
12 アノード
13,23 電解質層
22 アノード支持体
111 活性層
112 集電層
221 アノード支持基板
222 アノード層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置された電解質層と、を備えた固体酸化物形燃料電池であって、
前記カソードは、少なくとも、
前記電解質層側に配置され、且つイオン伝導性を有する第1粉体材料で作製された多孔体によって形成された活性層と、
前記活性層上に当該活性層と接して配置され、且つ電子伝導性を有する第2粉体材料で作製された多孔体によって形成された集電層と、を含んでおり、
前記第2粉体材料の平均粒径(体積累積が50%に相当する粒径(D50))が、前記第1粉体材料の平均粒径(体積累積が50%に相当する粒径(D50))よりも大きい、
固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記第2粉体材料において、粒径が小さい側からの体積累積が10%に相当する粒径(D10)を前記平均粒径で除した値(D10/D50)が、0.60以上である、
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記第1粉体材料の前記平均粒径と前記第2粉体材料の前記平均粒径との差が、0.21μm以上9.5μm以下である、
請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−77397(P2013−77397A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215400(P2011−215400)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】