説明

固体電解コンデンサおよびその製造方法

【課題】グラファイト層と導電体層との接触抵抗を低減し、等価直列抵抗が低く、誘電損失の小さい固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】弁作用金属を加圧成形後、焼結して得られた焼結体の表面に誘電体皮膜を形成し、誘電体皮膜上に固体電解質層、グラファイト層を形成した後、導電体層を形成する時、第1導電体層として、50〜300nmの銀、金、銅の導電性粒子を含む導電性ペーストを塗布し、その上に第2導電体層として平均粒径1.0μm以上の導電性粒子を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解コンデンサおよびその製造方法に関するものであり、特に、ESRが低く、誘電損失が小さい固体電解コンデンサおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解コンデンサは、以下のような方法等によって製造されている。まず、タンタル、ニオブ、アルミニウム等の弁作用金属粉末を加圧成形し、焼結して得られた焼結体に、陽極酸化等によって酸化皮膜を形成する。その後、この酸化皮膜上に二酸化マンガンあるいは導電性高分子からなる固体電解質層を形成する。続いて、固体電解質層上にグラファイト層を形成し、さらに、銀、金、銅の金属粒子を含有する導電性ペーストを塗布して導電体層を形成することで、コンデンサ素子を形成する。
【0003】
その後、リード線と陽極端子を接続し、コンデンサ素子を形成する。導電体層と陰極端子とを導電性接着剤で接続し、その後トランスファーモールドを行い、固体電解コンデンサを得る。
【0004】
近年、高周波特性の優れた、等価直列抵抗(ESR)が低く、かつ誘電損失の小さい固体電解コンデンサが要望されている。この要望に応えるべく、固体電解質である二酸化マンガン、あるいは導電性高分子の導電率向上の取組みがなされている。
しかし、固体電解質の導電率を向上させても、ESRの値が推定値まで低下しない問題があり、詳細な検証の結果、ESRは、固体電解コンデンサの充放電電流の導電経路における各部材の抵抗の合計値に比較してはるかに大きいことが判明した。
そして、ESRが推定値より高い原因は、固体電解質層とグラファイト層、または、グラファイト層と導電体層との接触抵抗であることが判明した。この各層間の接触抵抗を低くするために、グラファイト層にカーボンナノチューブを含有させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−86464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラファイト層にカーボンナノチューブを含有させることで、固体電解質層と導電性カーボン層との密着性が改善されるため、固体電解コンデンサの低ESR化が可能であるが、カーボンナノチューブは高価であり、コスト面から多量に使用できないという問題があった。
【0006】
一方、従来の平均粒径1.2μm程度の銀粒子を含有させた導電体層では、グラファイト層の炭素粒子と導電体層の銀粒子の接触面積が小さく、接触抵抗が大きくなるため、固体電解コンデンサのESRが高くなり、誘電損失も大きくなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するもので、弁作用金属を加圧成形し、焼結して得られた焼結体の表面に誘電体皮膜を形成した後、誘電体皮膜上に固体電解質層を形成し、さらにグラファイト層、導電体層を形成する固体電解コンデンサおよびその製造方法において、
グラファイト層形成後、第1導電体層として、ナノ導電性ペーストを塗布した後、第2導電体層として、平均粒径1.0μm以上の導電性粒子を含む導電性ペーストを塗布して導電体層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサおよびその製造方法である。
【0008】
また、上記のナノ導電性粒子は平均粒径50〜300nmの金属粒子であることを特徴とする固体電解コンデンサおよびその製造方法である。
【0009】
さらに、このナノ導電性ペーストの導電性粒子が銀、金、銅であることを特徴とする固体電解コンデンサおよびその製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、導電体層形成時に第1導電体層としてナノ導電性粒子を含むナノ導電性ペーストを塗布し、第2導電体層として平均粒径1.0μm以上の導電性粒子を含む導電性ペーストを塗布することで、グラファイト層と導電体層の接触状態が改善され、接触抵抗が低減されるため、ESRが低く、誘電損失の小さい固体電解コンデンサを提供することができる。
そして、ナノ導電性粒子の平均粒径は、ESRの低減効果、コスト、ペースト中での分散性から50〜300nmの範囲が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施例1]
以下に本発明の実施例を添付図面を参照しながら説明する。まず、弁作用金属粉末としてタンタル粉末を加圧成形し、焼結によりタンタル多孔質焼結体を形成し、陽極酸化を行うことで焼結体表面にタンタル酸化皮膜を形成した。
【0012】
次に、この陽極酸化した焼結体を硝酸マンガン溶液に含浸し、熱分解により二酸化マンガンを析出させた。この含浸−熱分解の操作を10回繰り返して二酸化マンガンの固体電解質層を形成させた。その後、グラファイトの液に浸漬塗布し、熱処理することによりグラファイト層を形成した。
【0013】
さらに、ナノ導電性粒子として平均粒径100nmの銀を80%含むナノ導電性ペーストを浸漬塗布して、200℃で1時間乾燥させ第1層を形成し、その後、平均粒径1.2μmの銀粒子を含む導電性ペーストを塗布し、同様に200℃で1時間乾燥させ、第2層を形成した。図1に実施例1の固体電解コンデンサ素子の縦断面図を示す。
【0014】
[実施例2〜5]
導電体層の第1層の形成に使用するナノ導電性ペースト内の銀ナノ粒子を、平均粒径30nm、50nm、300nm、500nmとし、それ以外は実施例1と同じ作製条件とした。
【0015】
(従来例)
実施例1と同一のタンタル多孔質焼結体を使用し、実施例1と同様の方法で、焼結体の表面にタンタル酸化皮膜層を形成させ、固体電解質層である二酸化マンガン層を形成し、グラファイト層を形成した。その後、従来の1.2μmの平均粒径をもつ導電性粒子を含む導電性ペーストに浸漬塗布して導電体層を形成した。導電体層形成時に第1層の形成を行わないほかは実施例1と同じ作製条件とした。従来例の固体電解コンデンサの縦断面図を図2に示す。
【0016】
(比較例)
導電体層を1層とし、その形成に使用するナノ導電性ペースト内の銀ナノ粒子を、平均粒径100μmとした以外は、実施例1と同じ作製条件とした。
【0017】
実施例1〜5、従来例および比較例によるコンデンサ素子に陽極、陰極端子を取り付け、樹脂モールドにて外装した固体電解質コンデンサの100kHzでのESR[mΩ]と120Hzでの誘電損失[%]を比較した。その結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示すとおり、ナノ導電性ペーストにより第1層の導電体層を形成した実施例1〜5は従来例よりESRが低く、誘電損失も小さくなった。特に、ナノ銀粒子の平均粒径が300nm以下では、ESRが大きく改善した。平均粒径が30nmの実施例2では平均粒径が50nmの実施例3と比較してESRも誘電損失もほぼ同等となり、従来例と比較して改善されている。
ただし、平均粒径が30nm以下のナノ導電性ペーストは高価で、コスト面で問題があり、また平均粒径を500nmとすると、ESRおよび誘電損失の改善効果が少ないため、ナノ導電性ペーストに混合する銀粒子の平均粒径は50〜300nmが望ましい。
また、導電体層をナノ導電性ペーストを浸漬塗布した1層のみにした比較例は、実施例1〜5と比較し、ESRおよび誘電損失が増加傾向にあった。
ナノ導電性ペーストにより生成した導電体層は、1層のみでは厚い層が得にくく、導電経路が薄くなるため改善効果が少ない。よって、コスト面も考慮すると、実施例のような2層構造にする必要がある。
【0020】
図3および図4に実施例1および従来例のグラファイト層と導電体層との接触状態を表した断面概略図を示す。従来例では、図4のように、グラファイト層と導電体層内の導電性粒子の接触面積が小さいが、実施例1では、図3に示すように、グラファイト層とナノ導電性ペーストにより形成した導電体層の接触面積が大きくなっている。
このナノ導電性ペーストにより生成した導電体層は、金属塗膜に近い状態になるため、結果としてグラファイト層との接触面積が大きくなり、接合性が改善される。
【0021】
次に、実施例1と従来例について耐熱試験前後(260℃、10秒 3回リフロー)のESRおよび誘電損失を測定した。実施例1は、従来例よりバラツキ、特性劣化が少なく、優れた効果が得られた。
【0022】
なお、上記実施例では、ナノ導電性粒子を銀としたが、金または銅を用いても同様の効果が得られる。さらに、本実施例では固体電解質に二酸化マンガンを使用したが、導電性高分子でも同等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例による固体電解コンデンサの縦断面図である。
【図2】従来例による固体電解コンデンサの縦断面図である。
【図3】本発明の実施例によるグラファイト層と導電体層の縦断面図である。
【図4】従来例によるグラファイト層と導電体層の縦断面図である。
【図5】本発明による実施例1と従来例における固体電解コンデンサの耐熱試験前後のESR値上昇傾向の比較図である。
【図6】本発明による実施例1と従来例における固体電解コンデンサの耐熱試験前後の誘電損失値上昇傾向の比較図である。
【符号の説明】
【0024】
1 タンタル多孔質焼結体
2 タンタル陽極酸化皮膜
3 固体電解質層
4 グラファイト層
5 導電体層(第2導電体層)
6 第1導電体層(ナノ導電性ペースト)
7 導電性粒子
8 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属粉末を加圧成形し、焼結して得られた焼結体の表面に誘電体皮膜を形成した後、誘電体皮膜上に固体電解質層を形成し、さらにグラファイト層、導電体層を形成する固体電解コンデンサおよびその製造方法において、
グラファイト層形成後、第1導電体層として、ナノ導電性粒子を含む導電性ペーストを塗布した後、第2導電体層として、平均粒径1.0μm以上の導電性粒子を含む導電性ペーストを塗布して導電体層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサおよびその製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のナノ導電性粒子が、平均粒径50〜300nmの金属粒子であることを特徴とする固体電解コンデンサおよびその製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の金属粒子が銀、金、銅であることを特徴とする固体電解コンデンサおよびその製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−13031(P2006−13031A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186020(P2004−186020)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)