説明

固体電解コンデンサとその製造方法

【課題】漏れ電流特性を改善した固体電解コンデンサ、特に導電性高分子型固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】弁作用金属粉末からなる成形体を焼結させてなる焼結体、または、粗面化された弁作用金属箔の表面に、誘電体酸化皮膜を形成して、コンデンサ陽極体を形成後、該誘電体酸化皮膜の表面に固体電解質層、陰極引出層を形成する固体電解コンデンサとその製造方法において、上記誘電体酸化皮膜の形成前、もしくは形成後に上記コンデンサ陽極体における三辺の稜が交わる頂点の一ヶ所以上に、凸部を当該コンデンサ陽極体の各稜線の長さの5〜30%にわたって絶縁性樹脂にて形成することを特徴とし、また該凸部が弾性を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体電解コンデンサは、タンタル、ニオブ、またはアルミニウム等の弁作用金属素子に陽極酸化により誘電体酸化皮膜を形成した後、固体電解質層、陰極引出層を形成する陰極形成工程、樹脂で外装する外装工程を経て製造されるが、誘電体酸化皮膜は非常に薄く、陰極形成工程や外装工程における応力や機械的ストレスにより損傷しやすく、それが原因で漏れ電流特性が悪化することがある。
【0003】
そこで、その対策として様々な手法が提案されている。誘電体酸化皮膜を厚く形成することで、陰極形成工程や外装工程における応力や機械的ストレスが加わっても、酸化皮膜の損傷による漏れ電流特性の低下を防止する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。但し、本手法を用いた場合、静電容量が減少する問題があるため、誘電体酸化皮膜の形成は数十〜数百μm程度となり、漏れ電流悪化の対策には充分ではなかった。
【0004】
また、過去から固体電解質層を形成する二酸化マンガン形成用溶液や、導電性高分子形成用重合液の反応条件をコントロールすることにより、特に機械的ストレスに最も弱いコンデンサ陽極体エッジ部に固体電解質層をより厚く形成することが検討されてきたが、依然として充分とは言えず継続的な課題であった。例えば、固体電解質層に繊維や粘剤を含有させる方法により上記を実現することが検討されているが、固体電解質を厚く形成するため繊維や粘剤を含有させると固体電解質層の導電性が低下し、ESRが悪化する短所があった。また同手法を用いても固体電解質形成材料が基本的に液体であるため、形成時に表面張力が働き、特にコンデンサ陽極体のエッジ部は他の部位と比較し、必ず固体電解質層が薄くなるため、やはり機械的ストレスによる漏れ電流悪化の対策には充分ではなかった(例えば、特許文献2、3参照)。
【0005】
また、固体電解コンデンサ陽極体に誘電体酸化皮膜を形成した後、エッジ部全周に渡り、保護用のレジスト層を形成することで、陰極形成工程や外装工程における応力や機械的ストレスに対応する技術も提案されているが、単純に全周に渡りレジスト層を形成すると、レジスト層で被覆された誘電体酸化皮膜層上への固体電解質層の形成が不十分となるため、当然静電容量が大幅に低下してしまう問題があった。さらに、同特許文献に示されているエポキシ樹脂等の材料を使用すると絶縁性は確保できるが、応力や機械的ストレスを緩衝する効果はなく、やはり漏れ電流悪化の対策には充分ではなかった(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
さらに近年、電子機器のデジタル化にともない、固体電解コンデンサには優れた高周波特性が求められており、固体電解コンデンサに用いられる固体電解質には、低ESR化を目的として二酸化マンガンからより導電率の高い導電性高分子へのシフトが進んでいる。
【0007】
一般に、固体電解コンデンサに使用される導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはそれらの誘導体等があり、その形成方法としては、電解重合および化学酸化重合が用いられている。しかし導電性高分子は二酸化マンガンに対し、導電率が飛躍的に向上する長所を持つ一方で、硬度、機械的強度が低いという短所も併せ持つ。この短所のため、上述した陰極形成工程や外装工程における応力や機械的ストレスに起因する漏れ電流特性の悪化はより顕著なものとなり、さらなる改善が必要とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−190016号公報
【特許文献2】特開2001−126963号公報
【特許文献3】特開2001−250743号公報
【特許文献4】特開平5−304058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の継続的課題である漏れ電流特性を改善する方法を提供するものであり、特に、静電容量の低下を少なくしつつ、漏れ電流特性を改善した導電性高分子型固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る固体電解コンデンサは、弁作用金属粉末からなる成形体を焼結させてなる焼結体、または、粗面化された弁作用金属箔の表面に、誘電体酸化皮膜が形成されたコンデンサ陽極体の、当該誘電体酸化皮膜の表面に、固体電解質層及び陰極引出層が順次形成されてなるものであって、
上記コンデンサ陽極体における三辺の稜が交わる頂点(エッジの頂点部分)の一ヶ所以上に、絶縁性樹脂からなる凸部が、上記コンデンサ陽極体の各陵線の長さの5〜30%にわたって形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、素子において、強度が最も弱いエッジの頂点部分が、絶縁性樹脂で保護されているため、外部からの応力や機械的ストレスが緩衝され、かつエッジ部に固体電解質層が十分形成されているため、漏れ電流の悪化が少なく、静電容量の低下が少ない固体電解コンデンサ、特に導電性高分子型固体電解コンデンサを提供することができる。本発明の固体電解コンデンサにおける凸部は、実質的に小球状や小楕円球状のものが一般的であるが、これに限定されるものではない。
【0011】
また、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサにおいて、上記凸部が弾性を備えていることを特徴とするものでもある。
また、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサにおいて、上記の全ての頂点に上記凸部が形成されていることを特徴とするものでもある。
また、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサにおいて、上記固体電解質層が導電性高分子からなることを特徴とするものでもある。
【0012】
さらに、本発明は、弁作用金属粉末からなる成形体を焼結させてなる焼結体、または、粗面化された弁作用金属箔の表面に、誘電体酸化皮膜を形成して、コンデンサ陽極体を形成後、該誘電体酸化皮膜の表面に固体電解質層、陰極引出層を形成する固体電解コンデンサの製造方法であって、
上記誘電体酸化皮膜の形成前、もしくは形成後に上記コンデンサ陽極体における三辺の稜が交わる頂点の一ヶ所以上に、凸部を当該コンデンサ陽極体の各稜線の長さの5〜30%にわたって絶縁性樹脂にて形成することを特徴とするものである。
また、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサの製造方法において、上記凸部を形成する際、絶縁性樹脂として、弾性を備えた材料を使用することを特徴とするものでもある。
また、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサの製造方法において、上記固体電解質層を形成する際、導電性高分子層形成用の重合液中に上記コンデンサ陽極体を浸漬し、その後、引き上げることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、弾性を持つ絶縁性樹脂によって強度が最も弱いエッジの頂点部分が保護されているために、外部から加わる応力や機械的ストレスが緩衝され、かつエッジ部に固体電解質層が十分形成されているため、静電容量の低下が少なく、かつ漏れ電流特性が改善された固体電解コンデンサ、特に導電性高分子型固体電解コンデンサが実現できる。
さらに、エッジ部の頂点部分だけに、絶縁性樹脂からなる凸部を形成するため、トランスファーモールド等で外装樹脂を形成する際に、樹脂の流れを妨げることがない。よって、組立不良の悪化を起こすこともない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例における弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に絶縁性樹脂による凸部を形成したコンデンサ陽極体の模式図である。
【図2】従来例1、2、3におけるコンデンサ陽極体の模式図である。
【図3】従来例4における弁作用金属素子の稜周辺部分すべてにエポキシ樹脂(絶縁性)を塗布したコンデンサ陽極体の模式図である。
【図4】実施例におけるコンデンサ陽極体を導電性高分子層形成用重合液に浸漬後、引き上げた際の稜部分の液持ち上げ状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の具体的な実施例について添付図面に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
[実施例1]
実施例1に係る詳細な内容について説明する。まず、タンタル粉末に陽極リードを埋設し、所定の形状にプレス成形後、焼結して4.7mm×3.6mm×1.8mmの直方体状の多孔質な弁作用金属素子を作製した。
【0017】
次に前記弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂を吐出口Φ0.2mmのシリンジで、素子の各稜線の長さの約5%の長さに相当する大きさの凸部が形成されるようにして塗布した後、乾燥した(図1)。なお、粘度の測定条件は、液温20℃において回転式粘度計により1分間ローター回転後に測定した。尚、上記フッ素ゴム系絶縁性樹脂により形成された小楕円球状の凸部の大きさは約240μm×180μm×90μmであった。
【0018】
次に0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成し、コンデンサ陽極体を得た。上記の陽極酸化により形成された誘電体酸化皮膜の厚さは約14μmであった。
【0019】
その後、導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程として、3,4−エチレンジオキシチオフェンを含むモノマー溶液とドデシルベンゼンスルホン酸第二鉄を含む酸化剤溶液とを混合し、−5℃に保持した混合溶液に上記コンデンサ陽極体を1秒浸漬した後、引き上げ、25℃で化学酸化重合し導電性高分子層を形成した。その後、形成された導電性高分子の重合残渣を有機溶剤中で洗浄除去後、105℃、30分で乾燥した。
【0020】
上記導電性高分子からなる固体電解質層の形成工程を計10回繰り返すことで導電性高分子からなる固体電解質層を形成した。
【0021】
上記の導電性高分子層の上に、カーボンペースト、銀ペーストを塗布後、乾燥して、カーボン層および銀層を順次形成し、この銀層の上に陰極引き出し端子を、上記陽極体から引き出した陽極リードに陽極端子をそれぞれ接続した後、トランスファーモールドにより外装樹脂を施し、定格2.5V−680μFの固体電解コンデンサを作製した。
【0022】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同様に作製した弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂を吐出口Φ0.2mmのシリンジで、素子の稜線の長さの10%の量を塗布した後、乾燥し凸部を形成し、次に、0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成してコンデンサ陽極体を得た。それ以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0023】
[実施例3]
実施例3では、実施例1と同様に作製した弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂を吐出口Φ0.2mmのシリンジで、素子の稜線の長さの20%の量を塗布した後、乾燥し凸部を形成し、次に、0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成してコンデンサ陽極体を得た。それ以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0024】
[実施例4]
実施例4では、実施例1と同様に作製した弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂を吐出口Φ0.2mmのシリンジで、素子の稜線の長さの30%の量を塗布した後、乾燥し凸部を形成し、次に、0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成してコンデンサ陽極体を得た。それ以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0025】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同様に作製した弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂を吐出口Φ0.2mmのシリンジで、素子の稜線の長さの3%の量を塗布した後、乾燥し凸部を形成し、次に、0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成してコンデンサ陽極体を得た。それ以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0026】
[比較例2]
比較例2では、実施例1と同様に作製した弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂を吐出口Φ0.2mmのシリンジで、素子の稜線の長さの35%の量を塗布した後、乾燥し凸部を形成し、次に、0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成してコンデンサ陽極体を得た。それ以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0027】
[実施例5]
実施例5では、実施例1と同様に作製した弁作用金属素子を0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成した後、弁作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂を吐出口Φ0.2mmのシリンジで、素子の稜線の長さの20%の量を塗布した後、乾燥し凸部を形成してコンデンサ陽極体を得た。それ以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0028】
[従来例1]
従来例1では、弁作用金属素子の頂点にフッ素ゴム系絶縁性樹脂を塗布しないこと(図2)以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0029】
[従来例2]
従来例2では、弁作用金属素子の頂点にフッ素ゴム系絶縁性樹脂を塗布しないこと、またリン酸水溶液中において陽極酸化を行う前に1.0wt%ホウ酸アンモニウム水溶液中において陽極酸化を行いコンデンサ陽極体の外周部周辺の誘電体酸化皮膜を厚く形成した、以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。上記の陽極酸化により形成された誘電体酸化皮膜の厚さは約90μmであった。
【0030】
[従来例3]
従来例3では、弁作用金属素子の頂点にフッ素ゴム系絶縁性樹脂を塗布しないこと、また導電性高分子層形成工程の途中にコンデンサ陽極体をパルプ2wt%、合成糊0.05wt%の懸濁液に浸漬することでパルプ繊維を付着させたこと、以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0031】
[従来例4]
従来例4では、弁作用金属素子を0.1wt%リン酸水溶液中において、印加電圧8Vで120分間陽極酸化を行い、弁作用金属素子全体に誘電体酸化皮膜を形成した後、弁作用金属素子の稜周辺部分すべてに粘度300mPa・sのエポキシ樹脂(絶縁性)を吐出口Φ0.2mmのシリンジで塗布した後、乾燥し図3のようなコンデンサ陽極体を得た。それ以外は実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0032】
上記の実施例1〜5、比較例1,2、従来例1〜4で作製した固体電解コンデンサ各100個における静電容量(120Hz)、ESR(100kHz)、漏れ電流(定格電圧印加時の1分値)を測定した平均値を表1に示す。また、形成された導電性高分子層の厚さ(平面の中心部、及び稜の中心部)についても電子顕微鏡で測定した20箇所の平均値を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より明らかなように、実施例は従来例1と比較して、静電容量の低下が少なく、かつ漏れ電流が良好な値を示した。
【0035】
これは、従来例1では外部からのストレスに弱いコンデンサ素子の稜周辺部の導電性高分子層厚さが充分でないことにより、トランスファーモールド等の後工程における外部機械ストレスで誘電体酸化皮膜が損傷を受け漏れ電流が悪化したのに対し、実施例では外部機械ストレスを最も受けやすい三辺の稜が交わる頂点に弾性を持つ絶縁性樹脂で凸部を形成したことにより外部機械ストレスから保護でき、漏れ電流悪化を防止できたものである。また、エッジ部に形成した絶縁樹脂部が凸状であることから、導電性高分子層形成用重合液に浸漬後持ち上げた重合液が表面張力により稜部に厚く保持され(図4)、導電性高分子層が厚く形成されたため、外部機械ストレスから保護でき、より一層漏れ電流悪化を防止できたものである。
【0036】
ここで、コンデンサ素子における三辺の稜が交わる頂点の一ヶ所以上に絶縁性樹脂にて形成される凸部は、頂点を構成する三つの稜線それぞれの長さの5〜30%にわたって形成することが好ましく、特に5〜20%とすることがより好ましい。
また、表1より明らかなように、実施例は従来例2と比較して、漏れ電流が良好で静電容量も高いことがわかる。
【0037】
これは、従来例2による誘電体酸化皮膜の厚みアップだけでは、特にエッジ部が外部からのストレスに充分対応できておらず、実施例の方が漏れ電流が良好になったものである。また外周部周辺の誘電体酸化皮膜を厚く形成したため、その分静電容量が大きく減少するデメリットも表われている。
【0038】
また、表1より明らかなように、実施例は従来例3と比較して、漏れ電流が良好でESRも低いことがわかる。
【0039】
これは、従来例3の場合、繊維や粘剤を添加すると固体電解質層の導電性が低下しESRが悪化したものである。また同手法を用いても固体電解質形成材料が基本的に液体であるため、形成時に表面張力の影響でコンデンサ陽極体のエッジ部は他の部位と比較し、必ず固体電解質層が薄くなるため、やはり機械的ストレスによる漏れ電流悪化の対策には充分ではなかったものである。
【0040】
また、表1より明らかなように、実施例は従来例4と比較して、漏れ電流が良好で静電容量が高く、ESRも低減されたことがわかる。
【0041】
これは、従来例4の場合、コンデンサ陽極体のエッジ部全周に渡り、エポキシ樹脂等で保護用のレジスト層を形成することで、機械的ストレスにある程度対応できるが、単純に全周に渡りレジスト層を形成すると、レジスト層で被覆された誘電体酸化皮膜層上への固体電解質層の形成が不十分となるため、当然静電容量が大幅に低下し、さらにはESRも悪化してしまうことを示している。またエポキシ樹脂等の材料を使用すると絶縁性は確保できるが、応力や機械的ストレスを緩衝する効果はなく、やはり漏れ電流悪化の対策には充分でないことがわかる。
【0042】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0043】
(1)上記実施例では、作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点すべて(計8個の頂点)に粘度3000mPa・sのフッ素ゴム系絶縁性樹脂をシリンジにより塗布した後、乾燥し凸部を形成したが、頂点すべてが必ず必要ではなく、改善効果は小さくなるが少なくとも一ヶ所以上に絶縁性樹脂による凸部を形成すれば効果が得られる。また粘度もこれに限定するものではなく、乾燥後に凸部が形成できれば同様の効果が得られ、この凸部の大きさは、特に限定されるものではなく、コンデンサ陽極体の大きさや、加わる機械的ストレスの大きさに応じて適宜選択することができるが、一般的には陽極体の体積の1000分の1〜50分の1程度の小球状や小楕円球状の凸部が好ましい。また絶縁性樹脂はフッ素ゴム系に限るものではなく、弾性を備える材料ならば同様の効果が得られる。また塗布方法もシリンジに限るものではなく、粘度の高い材料を塗布できる方法であれば良い。また塗布以外の方法であっても、作用金属素子の三辺の稜が交わる頂点に絶縁性樹脂による凸部を形成できれば同様の効果が得られる。
【0044】
(2)上記実施例では、コンデンサ陽極体をモノマーと酸化剤を混合した溶液に浸漬し、化学酸化重合する方法で導電性高分子層を形成したが、導電性高分子層の形成条件についてはこれに限るものではなく、公知の導電性高分子層形成方法であれば同様の効果が得られる。また、上記実施例では、固体電解質層を形成させるための導電性高分子として、3,4−エチレンジオキシチオフェンを使用したが、これに限定されるものではなく、固体電解コンデンサに使用される導電性高分子として一般に知られているポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはそれらの誘導体等がいずれも使用できる。
【0045】
(3)コンデンサ陽極材料としてタンタル焼結体を用いたが、ニオブやアルミニウムのような弁作用金属焼結体や粗面化された箔状弁作用金属を用いても同様の効果が得られる。粗面化された箔状弁作用金属を用いる場合、厚さ0.1mmのアルミニウム箔の表面を電気化学的にエッチングしたものがより望ましい。
【0046】
その他、本明細書に添付の特許請求の範囲内での種々の設計変更および修正を加え得ることは勿論可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 陽極リード
2 弁作用金属素子(コンデンサ陽極体)
3 三辺の稜が交わる頂点に形成した凸状の絶縁性樹脂
4 稜周辺部分すべてに形成したエポキシ樹脂(絶縁性)
5 導電性高分子層形成用の重合液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属粉末からなる成形体を焼結させてなる焼結体、または、粗面化された弁作用金属箔の表面に、誘電体酸化皮膜が形成されたコンデンサ陽極体の、当該誘電体酸化皮膜の表面に、固体電解質層及び陰極引出層が順次形成されてなる固体電解コンデンサであって、
上記コンデンサ陽極体における三辺の稜が交わる頂点の一ヶ所以上に、絶縁性樹脂からなる凸部が、上記コンデンサ陽極体の各稜線の長さの5〜30%にわたって形成されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
上記凸部が弾性を有することを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
上記の全ての頂点に上記凸部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
上記固体電解質層が導電性高分子からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
弁作用金属粉末からなる成形体を焼結させてなる焼結体、または、粗面化された弁作用金属箔の表面に、誘電体酸化皮膜を形成して、コンデンサ陽極体を形成後、該誘電体酸化皮膜の表面に固体電解質層、陰極引出層を形成する固体電解コンデンサの製造方法において、
上記誘電体酸化皮膜の形成前、もしくは形成後に上記コンデンサ陽極体における三辺の稜が交わる頂点の一ヶ所以上に、凸部を当該コンデンサ陽極体の各稜線の長さの5〜30%にわたって絶縁性樹脂にて形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
上記凸部を形成する際、絶縁性樹脂として、弾性を有する材料を使用することを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
上記固体電解質層を形成する際、導電性高分子層形成用の重合液中に上記コンデンサ陽極体を浸漬し、その後、引き上げることを特徴とする請求項5または6に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−49276(P2011−49276A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195271(P2009−195271)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)