説明

固体電解コンデンサ用素子の製造方法

【課題】弁作用金属ワイヤーと弁作用金属粉末焼結体との接合性、漏れ電流特性は従来例と同等で、静電容量は従来例より高い固体電解コンデンサ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】弁作用金属粉末を加圧成形し、真空中で、第2の焼結温度より低い温度で第1の焼結を行い、仮焼結して得られた仮焼結体素子を800℃以上の温度で、マグネシウムを使用して、熱処理により還元し、弁作用金属ワイヤーを溶接した後、真空中で第2焼結することを特徴とし、
上記の第1の焼結温度が、第2の焼結温度より25〜50℃低温であり、その第1の焼結時間は2〜7分であり、また還元の熱処理温度が第1の焼結温度より低温であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタル、ニオブ等弁作用金属を使用した固体電解コンデンサ用素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体電解コンデンサに用いられるコンデンサ素子は、弁作用金属粉末を加圧成形し、真空中で第1焼結した後、該素子をマグネシウムを使用して熱処理により還元し、次に電極引出し用の弁作用金属ワイヤーを溶接した後、真空中で、第1の焼結温度にほぼ等しい温度で第2焼結するコンデンサ素子の製造方法が開示されている。この方法により、素子の酸素濃度を低減し、漏れ電流を低減することができる(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−147216号公報
【特許文献2】特開平8−8144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、上記したとおり第1および第2の焼結温度をほぼ等しく設定し、第1焼結して仮焼結体素子を得た後、該素子をマグネシウムを使用して第1の焼結温度より低い温度で、熱処理により還元する。その後弁作用金属ワイヤーを溶接し、第2焼結する。しかし近年、弁作用金属粉末の比表面積拡大(粉末の高CV化)が進んでいるため、第1および第2の焼結温度をともに高くすると、コンデンサ素子を陽極酸化した時の静電容量が低下するという問題があった。
【0005】
この静電容量低下を防止するには、第1および第2の焼結温度をともに低温化する方法がある。しかし、焼結温度を低温化すると焼結体強度が低下し、また、溶接した弁作用金属ワイヤーと焼結体との結合力が十分に得られないという問題があった。
また、第1の焼結温度を第2の焼結温度より高くすると、第1焼結は還元前であり、成形体素子内の酸素濃度が高いため、焼結が進行しやすくなり、結果として静電容量が低下するという問題があった。
【0006】
さらに、静電容量低下を防止するには、還元時の熱処理温度を低温にする方法があるが、高CVの弁作用金属粉末は、酸素濃度が高く、熱処理温度を800℃未満とすると、酸素濃度を十分低減できないという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、弁作用金属ワイヤーと弁作用金属粉末焼結体との接合性が良く、漏れ電流特性が良好という従来技術の特性を維持しつつ、従来技術より高い静電容量(高CV)を有する固体電解コンデンサ用素子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明の固体電解コンデンサ用素子の製造方法は、弁作用金属粉末を加圧成形する工程と、真空中で第1の焼結(温度t1[℃])を行って仮焼結体素子とする工程と、該素子を還元物質と共に熱処理する(温度t2[℃])工程と、還元後の仮焼結体素子に電極引出し用の弁作用金属ワイヤーを溶接する工程と、真空中で第2の焼結を行う工程とを有するコンデンサ素子の製造方法であって、上記第1の焼結温度(t1[℃])が、第2の焼結温度(t3[℃])よりも低温で、かつ還元の熱処理温度(t2[℃])より高温であることを特徴とする(t2<t1<t3)コンデンサ素子の製造方法である。
【0009】
また、上記の第1の焼結温度(t1[℃])が、第2の焼結温度(t3[℃])より25〜50℃低温であることを特徴とするコンデンサ素子の製造方法である。
【0010】
さらに、上記の第1の焼結時間は2〜7分であることを特徴とするコンデンサ素子の製造方法である。
【0011】
そして、上記の熱処理温度(t2[℃])が、800℃以上であることを特徴とするコンデンサ素子の製造方法である(800≦t2<t1)。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、第1の焼結温度をt1[℃]、還元の熱処理温度をt2[℃]、第2の焼結温度をt3[℃]としたとき、t2<t1<t3となる関係を持たせ、かつt2≧800℃とする(図1参照)ことにより、ワイヤーと焼結体との接合性、漏れ電流特性は従来例と同等でかつ、静電容量が従来例より高い固体電解コンデンサ用素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。最初に弁作用金属粉末を加圧成形し成形体素子を形成する。この成形体を真空中で、第2の焼結温度より25〜50℃低い温度t1[℃]で第1の焼結を行い、仮焼結体を形成する。
第1の焼結温度t1[℃]が低い方が、高容量のコンデンサ用陽極体素子を得ることができるが、低温にし過ぎると、還元後にワイヤーを溶接するときに、必要な素子強度を得ることが困難になるという問題があるため、第2の焼結温度t3[℃]より、25〜50℃低い温度にすることが望ましい。
また、第1の焼結時間は、時間が長くなるに伴い、焼結が進行し静電容量が低下するため、2〜7分が望ましい。
【0014】
次に、上記仮焼結体素子をマグネシウムを使用し、真空中または不活性ガス中で熱処理することで、素子中の酸素を還元する。図2に示すようにこの熱処理温度t2[℃]が高い方が、素子中の酸素濃度低減効果が大きくなる。
また、還元後の素子は、第2の焼結時に再度酸素を吸着し、酸素濃度が800ppm程度上昇するが、800℃以上の温度で熱処理すれば、還元素子を第2焼結した後の酸素濃度が、還元前の酸素濃度を超えないため、本発明の効果が得られる。
特に、より高CVの弁作用金属粉末は、酸素濃度が高く、焼結時の酸素吸着量が多いため、還元効果の大きい900℃以上の温度で還元することが望ましい。
ただし、熱処理温度t2[℃]が高くなり過ぎるとコンデンサ素子の静電容量が低下するため、熱処理温度は、上記成形体素子の第1の焼結温度t1[℃]より低温にする必要がある。
【0015】
次に、上記還元後の素子に、電極引出し用弁作用金属ワイヤーを不活性ガス雰囲気中で抵抗溶接する。
【0016】
その後、ワイヤーと焼結体との接合性を向上させるため、上記素子を真空中で、温度t3[℃]で第2の焼結を行う。
このようにして得られたコンデンサ素子は、ワイヤーと焼結体との接合性が良く、漏れ電流特性も従来例と同等の特性を有し、かつ従来例に比べ、高い静電容量を有している。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0018】
70000CV/gのタンタル粉末150mgを3.0mmφ×4.5mmの円柱形に加圧成形し、その成形体素子を0.0133Pa以下の真空中で1250〜1300℃(t1)で2〜10分間第1の焼結を行った後、仮焼結体素子重量に対し、2wt%重量のマグネシウムと仮焼結体素子を焼結皿に入れ、0.133Pa以下の真空中、900℃(t2)で60分間熱処理し、素子中の酸素を還元した。
【0019】
その後、還元した素子を硫酸で酸洗浄した後、不活性ガス下でタンタルワイヤーを抵抗溶接し、得られた素子を0.0133Pa以下の真空中、1325℃(t3)で15分間第2の焼結を行った。上記実施例による焼結体素子の素子中酸素濃度と、タンタルワイヤーの引張り強度を測定した。
次にその焼結体素子を陽極酸化し、誘電体酸化皮膜を形成した後、液中漏れ電流と静電容量をEIAJ RC−2361(日本電子機械工業会規格)に示された方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から明らかなように、本発明の実施例4〜7、9〜12は従来例と比較すると、ワイヤー引張強度、液中漏れ電流は同等であるが、酸素濃度が低く、また静電容量が高くなり、改善されていることが分かる。
ここで、第1の焼結温度は、第2の焼結温度より25〜50℃低い温度が適当である。温度差が50℃を超えると仮焼結体の素子強度が低くなり、リード線の溶接が不可となる(実施例1〜3)。また、温度差が25℃未満では、第1の焼結工程で焼結が進行し、静電容量値が低下するため、好ましくない。
さらに、第1の焼結時間は工数と静電容量値との兼ね合いから2〜7分が適当である。7分を超えると静電容量が低下するため、好ましくない(実施例8、13)。
また、還元材料にはマグネシウムを使用したが、水素、アルミニウムを使用しても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例による、第1の焼結、還元、第2の焼結の処理温度の関係を示す図である。
【図2】タンタルまたはニオブ粉末を加圧成形し、第1焼結して得られた仮焼結体素子を還元した後の、還元温度と素子中酸素濃度の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属粉末を加圧成形する工程と、真空中で第1の焼結を行って仮焼結体素子とする工程と、該素子を還元物質とともに熱処理する工程と、還元後の仮焼結体素子に電極引出し用の弁作用金属ワイヤーを溶接する工程と、真空中で第2の焼結を行う工程とを有するコンデンサ素子の製造方法であって、上記第1の焼結温度が、第2の焼結温度より低温で、かつ還元時の熱処理温度より高温であることを特徴とするコンデンサ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の第1の焼結温度が第2の焼結温度より25〜50℃低温であることを特徴とするコンデンサ素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の第1の焼結時間が2〜7分であることを特徴とするコンデンサ素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の熱処理温度が800℃以上であることを特徴とするコンデンサ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−24669(P2006−24669A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200152(P2004−200152)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)